PandoraPartyProject

シナリオ詳細

チェンジリングダブルクロス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夢妖精のみせた夢は、妖精の見る夢にあらずや
 虹色に消えゆく羽根をぱたぱたとやって、和服姿のちいさなちいさな妖精が振り向いた。
「ねえ、あなた。現実が夢じゃないって、どうして言える?」
 妖精が石の棺を動かしたときの、ことである。

●森露芝浜
 深緑の支部へとひとりの妖精が訪ねてきたのが、ことの始まりであった。
 身長にして30センチ程度の、遊女めいた格好をした和服姿の妖精である。
「もしもし。あなた、ローレットの方かしら」
 ハキハキしているのにどこか影のある、不思議とひきつけられるような声で彼女はいった。
「妖精たちの間で評判よ。門を守ってくださるって。
 それで、私からも依頼をしていいかしら。とても困ってるのよ」
 首にかかった髪をゆびではらって、妖精は涼やかに笑った。

 妖精郷アルヴィオンからやってきた花の妖精ストレリチアとの交友をもって以来、ローレットにはアルヴィオンの妖精からの依頼を受けることが増え始めた。
 これもその一件であり、やはりというべきか妖精郷の門(アーカンシェル)がらみの問題であるらしかった。
「私が出入りをしてる門にモンスターがいついちゃって。それだけでも困るんだけれど、『門の夢』がだいぶ壊されちゃったのよ」
 とても困ったわ。と頬に手を当ててかしげる妖精。
「私は一日中眠らないから、夢の補給ができないのよね。もう何十年も補給せずにいられたから、油断していたわ……まさか夢が喰われてしまうなんて、ねえ」

 イレギュラーズが依頼された仕事はおもに二つ。
 ひとつは門の夢を喰ってしまった魔物を倒すこと。
 もうひとつは、門に夢を補給させることである。
 それぞれ趣旨が大きく異なるので、わけて説明することにしよう。

●ピンク色のバク
 門に補充されていた夢を食べてしまったというのが、バク型のモンスターである。
 10匹ほどが集まり、いまも夢を食べている最中だという。
 門の周りには石でできた遺跡が建てられ、箱状の建物になっているそうだ。
 内部には八つの石棺と虹色の柱ひとつが立っており、柱から漏れる光によって部屋は照らされている。
 バクは扉を破壊して内部へ侵入し、室内に浮遊する『夢の果実』なるものを次々と食べてしまうことで、門のエネルギーを奪おうとしているらしい。
 これらは敵対者が現れた際には悪夢を形にして攻撃するという習性をもち、こちらの弱点をついてくるというハナシだった。

 そして重要なのはもう一つの依頼。夢の補給である。
 方法自体は簡単。
 棺に入って眠るだけだ。棺自体にひとを眠らせる効果があるので、睡眠がもともと必要ない人物や睡眠を知らない人物でも任意に眠ることができるだろう。
 だが厄介なのは、中でみる夢のほうだ。
「棺で見る夢では、全く異なる可能性の自分を追体験することになるわね。
 夢から帰ってこられないなんてことにならないように、注意するのね」

●妖精の見る夢は、夢妖精のみせた夢にあらずや
 雨に混じって感じる、スマートフォンの振動。通話ボタンをタップすると、なじみあるの文字が表示された。
『おはよう。よく眠れた? 昨日テレビで見たんだけど、シャムザが結婚したんだってね。芸能人の結婚多くない? ところで明日の宿題なんだけど……』
 窓をうつ雨音。
 部屋でスマートフォンを耳に当てる、あなた。

GMコメント

■オーダー
・成功条件A:バクの討伐
・成功条件B:夢の補給

■バクの討伐
 遺跡内部にてモンスターと戦闘をし、これを討伐します。
 室内戦闘ですのでフィールドの広さが限られています。20m四方の屋内を想定して戦闘プランを立ててください。
・バク×10体
 悪夢を形にして攻撃する習性をもつ魔物。悪夢がいかなるものかはそれをうけた対象にしか観測できない。攻撃には【弱点】がつく。
 それ以外かわった特徴はないので、それぞれ得意分野で戦ってよいはずとのこと。

■夢の補給
 あなたは夢をみます。
 それは令和日本世界でごく普通に暮らすあなたの姿です。
 もしあなたが同種の世界からやってきたのだとしても、別の可能性のあなたとしてその世界で別の人生を歩んでいることでしょう。
 あなたはその世界で、どんな立場で、どんなことを思って、どう暮らしているのでしょうか。
 尚、夢は門に補給されるため、内容のほとんど(もしくは全部)が記憶に残らず消えてしまうでしょう。

※PCの知らないメタ情報
 PCたちの夢にはある違和感が表れることがあります。

  • チェンジリングダブルクロス完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月19日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ

リプレイ

●夢はだれがため
 和服姿の妖精が、こう言った。
 『ねえ、あなた。現実が夢じゃないって、どうして言える?』
 当たり前のことすぎて、なんとも言い返せないようなことを、彼女はどこか眠たそうに言っていた。
 それが意味するところを、ゼファー(p3p007625)はよく知らない。
 分かっているのは彼女たちあの妖精が依頼人であり、このところこうした妖精からの依頼が増えつつあるということだった。
 完治して傷跡ものこらない腕をそっとなでて、ゼファーは息をつく。
「いつの間にやら、妖精さん達の間で口コミ広まっちゃってんのね?
 まあ。可愛いお客さんが増えるのは面白いけど……このテの事件も増えるのは、ちょっと気掛かりねぇ」
「そう、ね……」
 『「国の」盾を説く者』エト・ケトラ(p3p000814)はそんな風に返事をしてから、口元に手を当てて黙った。
 妖精の言葉に、なにか深い意味があるような気がして……だろうか。
 『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)も同じような調子で、腕組みをしたままぼうっと遠くを見ている。
 『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)もまた、夢に関する話を思い出しているようだった。
 『棺で見る夢では、全く異なる可能性の自分を追体験することになるわね。
 夢から帰ってこられないなんてことにならないように、注意するのね』
 妖精は、そんな風に語っていた。
「今のわたしと違うわたしというのは、気になります、が……まずは、戦いです、ね」
「あ、ああ。そうだな。考えるのはその後でいいか」
 グレンも苦笑して、槍と盾をそれぞれ装備しなおした。
「ところで、聞いたかい? 『ピンク色のバク』」
 『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は楽しそうに仲間に話しかけた。
「夢を食べる魔物も、夢を力に変える魔法も、初めてだ。
 世界は広いと知っていたけれど、まさか故郷にも未知が眠っているとは思わなかった。
 本当にこの世は面白いね。どんな仕組みなのだろう。戦いはしっかりするけど、早く調べてみたいな!」
 混沌は広く、そして複雑だ。多くの世界がそうであるように、視野を広げて歩き回ればいろんなものに出会うことができる。
 ローレットという環境は、そうした新鮮な発見をよくもたらしてくれた。
 『夜の涙』築柴 雨月(p3p008143)は彼の話に相づちをうちつつ、どう戦うかを頭の中で考えていた。
「悪夢を攻撃にしてくるなんてちょっと厄介だけど、大丈夫。なんとかなるさ」
 できること、手持ちのカードは限られている。しかしそのカードのきりかた次第で未来は無限に変わっていく。いまできるベストを、雨月は尽くそうとしていた。
「めぇめぇ。そうだめぇ。今日は悪いバクを倒しに来たんだめぇ。
 大事な夢を守るために、みんなと一緒に戦うめぇ〜」
 『すやすやひつじの夢歩き』メーコ・メープル(p3p008206)も雨月の気概に共感し、めぇめぇと声を上げた。
「オーッホッホッホッ! 話はわかりましたわ!」
 『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)は指をパチンと鳴らして掲げると――。
「人様の夢を食べるなどという悪い子はこのわたくし――」
   \きらめけ!/
   \ぼくらの!/
 \\\タント様!///
「――が!えぐれめぐれにしてやりますわよー!」
 そのままぐるんぐるんねじれるポーズをとってその反動で回転をはじめるタント。
 そんな様子に、イレギュラーズたちはどこか微笑ましく、リラックスした様子で森林迷宮内にひっそりとたたずむ遺跡へとたどり着いた。

●ピンク色のバク
 鉄筋コンクリートめいた壁と床。
 定規ではかったかのようにきっちりとしたサイコロ状の遺跡内部で、ピンク色の影がうごうごとしていた。
 まんまるとした身体につぶらな瞳。宙に浮かぶ『夢の果実』にむけてぴょんぴょんとはねては、なんとか届いた果実をくわえてかじり始める。
 食べるにもそれなりの労力がいるのか、バクはどうにも苦労しながら果実を咀嚼、嚥下しているようだった。
「うーん……だいぶ憎めないキャラしてますけど……放っておいたらダメよね」
 ゼファーは室内へと飛び込むと、足音で気づいたバクたちがこちらに対応するよりも早く突撃。助走をつけた跳び蹴りでまず一体を『夢の果実』から遠ざけ、壁に叩きつけた。
「むぐぐ!」
 バクは壁にバウンドしてゴムボールのようにはずむと、つぶらな瞳からゼファーにしか観測できない悪夢を投影、発射した。
 一瞬ひるんだものの、これが悪夢の顕現だとしっているならこらえられる。
 ゼファーはダメージ覚悟で更に踏み込み、槍で悪夢を振り払った。
「意外とエグい攻撃をしてくれるじゃないの? 油断は大敵ってことね」
「覚めない夢は、ないのです……」
 フェリシアは『調和の呪杖』を強く握りしめ、祈りを込めて『フロストチェイン』を放った。
 氷の鎖がバクの身体に巻き付き、動きを大きく鈍らせる。
 フェリシアの展開した英雄作成と神子饗宴の効果を受け、メーコがパワードレジストで更に自らを強化。
 鎖によってよろめいたバクめがけて急接近をかけると、ずんとバクの喉を押しつぶした。
「めぇ……メーコだけじゃなくて、みんなもいるから。きっとメーコでも頑張れるめぇ」
「その意気だ。回復は仲間に任せて飛び込んでいいよ。周りの敵はまかせて」
 ウィリアムはパチンとウィンクすると魔方陣をアンロック。
 連動して無数の魔方陣が四方八方へ次々と開き、そのすべてが歯車仕掛けの機械のごとくガチャリと連動した。
「出し惜しみはなしだ。大盤振る舞いでいくよ」
 ウィリアムの放った雷神の魔術は仲間だけを器用によけ、バクだけを的確に打ち抜いていく。
「待たせたな。ここからの引きつけは任せろ!」
 メーコやフェリシアたちを守るように飛び出したグレンが、バクたちにぎらりとにらみをきかせた。
 一斉に飛びかかってくるバクたち。
 否。バクの放った悪夢がグレンへと襲いかかる。
 『奪って手に入れたもの』『奪って失わせたもの』。
 その全てが罪悪となってグレンへとしがみついてくる……が。
「……ったく、ご丁寧に人の弱点突いてくれやがって。
 奪う為じゃなく、護る為に戦える今が、夢みたいに幸福な時なんでな!
 その悪夢(過去)も糧にして、前に進んでやるぜ」
 槍で悪夢を振り払い、グレンはバクに向かって吠えた。

 コンクリートの壁が四方を囲み、まるで板型にくりぬいたような入り口がひとつきり。
 中央には円系の柱が通り、八方を囲むように棺が並んでいる。
 アーカンシェルのある部屋はそんな場所だった。
 部屋のあちこちに浮かんでいる『夢の果実』を喰っていたバクは今や優先すべき脅威として現れたイレギュラーズへ対抗し、無数の悪夢を形にしては襲いかかってくる。
(狭い部屋でどこまで逃げられるかは分からないけどね。でも一番は回復して、敵も倒せて、皆さんの役に立てることだから気を引き締めていこう!)
 雨月は形なき悪夢を纏って殴りかかってきたバクを至近距離から放つ聖光によって打ち払うと、スマートシリンジ式の精神治癒剤をとりだし、逆手に突き立てるような動作で素早く注入。傷を精神に蓄積したダメージを除去すると、同じ注射器を新たに取り出してエトの元へ。
 同様のダメージを受けていたエトの治癒を行うと、背中をトンと叩いてやった。
 『ありがとう』と小さく述べて、立ち上がるエト。
 異界神聖術『フォルトゥーナ』を打ち込んで近くのバクから魔素を吸い上げると、回復した魔力を異能の火花によって解き放った。
「裁きの雷を受けなさい、光に焼かれなさい。
 今なら天の御園への幸いなる旅路を祈ってあげるわ」
 バクが火花によって肉体を崩壊させ、日に当てられた雪のように溶けていく。
 打ち込まれた悪夢を思い出しているのだろうか、額を抑え、エトは深くため息をついた。
「わたくし、売られた喧嘩を買わない可愛げは生憎持ち合わせていないのよ」
 さらなる攻撃を仕掛けようと魔力を練り上げるエト。
 そんなエトの行動を阻もうと一斉に襲いかかるバクたち。
 が、タントは両腕を広げて乱入。
 バクたちの作り出した『悪夢のつるぎ』がタントの身体へ次々と突き刺さっていく。
 彼らの攻撃は肉体を傷つけない。その代わり、精神を直接汚染し人間性を破壊していくのだ。
 たとえば非業。何をやっても上手くいかないに決まっているという思い込み。
 たとえば絶望。苦しみや悲しみによって未来がみえなくなってしまう痛み。
 もしかしたら訪れるかもしれない最悪のシナリオ。
 まるで悪意の虫がつきつけるような、意地悪な可能性が思考を支配しはじめる。
 ……が。
「っっっしゃらくさいですわッ!!」
 タントは自らの精神力だけで悪夢のつるぎをへし折ってみせた。
「『そうならないために』! 今頑張っているのですわー!!
 誰一人絶対お怪我はさせません! わたくしは全力で! 皆様を癒しますわよ!」
 タントの精神力によって放たれた放射状のエネルギーレイが、仲間達をむしばむ精神の痛みを取り払っていく。
 そして……。

●夢は現、現は夢、あなたの身体はどこにある?
 人生は積み重ねであるらしい。
 昔テレビで見たひとはそう言っていた。
 二十歳を超えた今となっては、それがどこかの脚本家が書いた美辞麗句のひとつであると理解ができる。
 変身ヒーローなんてこの世にいないし、仮に居たとしてビルを壊したり児童を大勢攫ったりする事件が本当にあって欲しいなんて思わない。
 けれど。
「本当にいるとしたら、どんなふうに生きてるんですかね」
 アルバイト終わり、先輩に勧められたタバコを断りつつ、グレンはつぶやいた。
 いまやさびれかけた遊園地の片隅。古いステージから両足を投げ出すように座って、ごてごてと装飾されたフルフェイスヘルメットを胸に抱える。
 振り向けば、地元密着型のヒーローショーをしめす幕がかかり、清掃員がステージ上に掃除機をかけている。
「なんだお前、ヒーローなんて本当にいると思ってるのか?」
 顔をゆがめ、雑にたばこを吸う劇団サークルの先輩。
「悪人捕まえたいなら警察官になれ。人に尽くしたかったら自衛隊か介護職だ。勝手に犯罪者を殴りつけるやつは、タダの犯罪者なんだぜ?」
「そんなことは……」
 分かってる。
 と言いかけて、グレンはやめた。
 社会というシステムは自分が思っているより複雑で巨大だ。両腕を振り回したところで……。
「けど、俺……」

 終わったヒーローショーのチラシが風にふかれて飛んでいく。
 フェリシアはそんな光景を振り返って、『きっと誰か拾うだろう』と前をむき直した。
 やるべきコトは山ほどあるのだ。今日も明日も明後日も、スマホのスケジュールアプリには予定がいっぱい書いてある。レポート提出の課題は期日が迫り、バイトの予定も刻んでいた。
「こうして予定に追われるのも嫌なものですね。忘れることができたらいいのに」
「忘れたらいいじゃないか。一日くらい、何もせずに過ごすのもいいものだよ」
 長い髪を後ろで縛ったウィリアムが、歩きながら軽くいじっていたスマホをポケットへとしまった。
「一日休めても、次の日の予定で頭がいっぱいになりませんか? 家賃の支払いとか、公共料金とか……」
「生きるためだからね。仕方ないさ」
「平民の皆様はかわったことで悩んでらっしゃいますのね?」
 タントは日傘をくるくるとまわしながら明後日のほうへと目をやった。
「そんなことより『タピる』というのをはやくしましょう。楽しみですわ」
「タントって絵に描いたような御嬢様してるよね。この前だってハンバーガーに感動したじゃないか」
「その前はカップ麺でした、ね」
「感動しない方がどうかしてますわ! あれだけの低価格であの喜びを提供できるのは職人の奇跡ですのよ!」
 日傘の意味が無くなるくらいに振りかざし、並木道の真ん中へと躍り出るタント。
 地球は方っておいても回ってくれるようで、社会は寝ていても動いてくれるようで、今日も当たり前に日々が過ぎていく。
 風の噂では地球のどっかで飲み水ひとつで生きるか死ぬかの問題が巻き起こり分単位で人が死ぬらしい。おなじ国内でも万単位で自殺者が出てそれ以上の数で事故や病気で人が死ぬらしい。
 確率でいえばたいした割合のはずなのに、皆当たり前のように生きている。
 来年死ぬ予定の数万人は、今日コンビニで買った弁当に割り箸がついていたかいないかでモメ、ティッシュボックスが数円安いかどうかで頭を悩ますらしい。
「さあはやく『たぴ』りましょう! はやく!」
「…………」
 フェリシアは苦笑して、そして側頭部にはしるずきりとした痛みに頭をおさえた。
「なぜでしょう……わたし、こんなことをしているべきでは……」

 高校生は自由だと大人は言った。
 未来は無限に広がっていて、なりたいものになれるのだそうだ。
 そうは、言うけれど。
「めぇ……」
 ミルクティーをくるくるとやりながら、メーコはカウンター席と強化ガラスを挟んだ向こう側にひろがるスクランブル交差点を眺めていた。
 ミルクティの熱で溶けていく綿状のざらめ。
 そのずっと向こうでピントのぼけた雑踏。
 彼らは誰になりたくて、誰になったのだろう。
 なるべくしてなったのだろうか。
 ブラック企業に務めたことをことさら主張するサラリーマン。
 いらっしゃいませを雑に発音するコンビニ店員。
 社会的不道徳を卒業アルバムまでたどられる芸能人。
 自分の明日に一切関係ないような他称不祥事でやめるやめないと騒ぐ政治家。
 汚いところばかりを見せられて、一体なにを選択せよと。
「将来はなにになりたい……?」
「医者、かなあ」
 タピオカを吸い尽くしたミルクティを傾けて、雨月はぼんやりと述べた。
「なんで? 儲かるから? ギスギスしてるってドラマで見たよ」
「ドラマの話でしょ。どんな仕事をしたってきっとギスギスするよ」
「そうかな」
「そうだよ。だったら、なりたいものになったほうがいいじゃない」
 と、言ったものの。本当にそうかは確証がもてなかった。
 だってオトナはみんなそういうから、好きなことをすればいいと言うから。大学を出て好きなことをして好きな人と結婚すれば幸せらしいから。
 けれど……好きなことを仕事にしたせいで不幸になった人の話だって、スマホの向こうに山ほど流れてくる。
「なんで、なりたかったんだっけ……」

 同じカフェのテーブルで、小学校の友達と一緒にケーキをつつくエト。
 昨日見たテレビの話。先生がいった噂話。学校のクラスメイトが誰を好きだという話。
 エトは未来も世界も関係ないようにからころ笑って、そしてふと、不思議になった。
「……どうして、こんな気持ちになるんだろう」
「どうしてだと思う?」
 カフェの店員だろうか。
 店名の入ったサンバイザーを被った、エプロン姿の女性が……ゼファーが問いかけてきた。
 ひとつ違うのは、ゼファーの『色』がすっかりあせて灰色になっていたことだった。
「私たちは平和に暮らしていてよかったはずよね。
 怪我をしたり、知り合いや友達が死んだり、見たくもないものを見せられたりしなくてよかったはずじゃない?
 もっと雑なことに悩んで、他人の罪について勝手に考えて、画面の向こうの問題を分かったつもりなっていれば、良かったはずよね。けど――」
 ゼファーはテーブルの端に足をかけると、勢いよくテーブルを蹴倒した。
「こんな『楽しくて平和で暖かい毎日』なんて、望んじゃいないのよ」

●おはよう
「柄にもなく、夢に溺れちゃったって感じかしら」
「そう」
 開いた棺の縁に腰掛けた妖精が、けだるげに言った。
「まだ夢のなかじゃないって、言える?」
「ええ……わたしがそう望むなら」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――good morning

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