シナリオ詳細
生気喰らいは笑う
オープニング
●生気喰らい(ライフ・イーター)
――その日、一つの村が焼け落ちた。
されど、その直中にあって一つの焼死体もそこには存在しなかった。
村人は、皆、衰弱し、失血し、死んでいた。
「あはっ、ほーんと虫けらね」
場違いな声が死体を嗤った。
嗤ったのは、蒼白の少女――人ではない何かだ。
「た、たすけ……たすけて……」
「ちょっと、虫があたしの後ろに立たないでくれる?」
過敏に反応し背中を庇うようにしてすぐに振り返る少女は、助けを求める男を蹴り飛ばし踏みつける。
「あはっ、今にも死にそうな顔してる」
「かふ……ごふ……」
死にゆく男を嗤いながら少女は男の頭を蹴り飛ばした。
「ふん、あんた達人間が悪いのよ。森の恩恵も忘れて開拓なんて始めるから……」
蒼白の髪を掬い靡かせる少女は、つまらなそうに呟くと魔力弾を放ち家屋を吹き飛ばしながら歩みを進める。
「残ってるのは……三人か……あはっ、らくしょーね」
邪悪な笑みを浮かべる少女を止めるものは、なにもない。
――生気喰らい(ライフ・イーター)――。
人から少しの生気を奪い、自然へと還元する自然機構。
その歯車が、狂い落ちていった。
あはっ、あはははははははっ
可憐な笑い声が空虚に響いた。
●
「生気喰らい?」
突拍子もない言葉を前にイレギュラーズは頭を捻っていた。
「そうなのです。人からちょびっとの生気をもらって、森を元気にする精霊さんとか妖精さんの類いなのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は差して問題のないような事を言う。
「それが、どうしたって?」
訊ねるイレギュラーズにユリーカは一つ頷くと事態の説明を始めた。
「五日前、バルツァーレク領とフィッツバルディ領の間にあるある開拓村が一夜にして全滅したのです。たまたま通りかかった行商人が言うには、微かに息のあった村人が最後に『生気喰らい』の名を残していったそうなのです」
「でも、生気喰らいは、ちょびっとの生気をもってくだけなんだろう?」
「はい、なのです。ですから気になって調べていたところ、同様の事件がすぐ傍の開拓村でも起きたのです」
ユリーカが言うには、同じように村は壊滅したものの、命からがら逃げ出せた村に住まう隠者がいたらしい。
「そのお爺さんが言うには、開拓によって森を守る精霊達を怒らせてしまった。森を守る精霊達は生気喰らいとなって、人々の生気を奪い尽くすだろう、と――」
つまり、そうなる前に退治なり、なんなりをしなければ行けないという訳だ。
「村を壊滅させてからの生気食いは、新たに森に侵入する者を容赦なく襲っているだけのようで、別の村や町を襲うといったことはなさそうなのです」
戦うとなれば、森の中。相手のテリトリーということになる。
「危険度は高。緊急性を要しながら、達成難度も高いのです」
それは重傷のみならず死者がでてもおかしくない事を告げていた。
「そうそう、そんな危険な相手と言いながら、実に可愛らしい外見らしいですよ?」
「は?」
「元が精霊とか妖精の類いですからね。魅了されたりしないように注意が必要なのです」
のほほんと言うユリーカの言葉を鵜呑みにする事無くイレギュラーズは腕を組む。
何にしても放っておけばどれだけの被害がでるかもわからない。
難しい依頼だが、挑戦する価値はあるだろう。
テーブルに置かれた依頼書を前に、イレギュラーズはしばし選択に頭を悩ませるのだった。
- 生気喰らいは笑うLv:2以上完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年03月23日 21時30分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●森と人の間に生きるモノ
――その少女は森と人の間に立ち、生命を循環させる役割を担っていた。
森に寄り添いながら、人とふれあい、よく笑う、そんな少女だった――。
葉擦れの音が響く森の中を、イレギュラーズ達は行進していた。
仲間達から先行して往くのは 『静寂望む蒼の牙』ブローディア(p3p004657)だ。盾を構え、いつ生気喰らいと遭遇しても良いように、警戒しながら進む。
「行き過ぎた開拓への反動としての過剰な生気喰らいか……因果応報と言えば簡単だが、無責任にすぎるか」
誰に言うでもなく出た呟きに、『ブローディアの繰り手』であるサラが言葉を返した。
「自然の中に生きる子達だって辛い思いをしてるってことだよね。だけどさ、それを知った上でもこれ以上沢山の人を殺させるわけにはいかないかな。お仕事でもあるしね」
「そうだな……なんにしても放っておくわけにはいくまいよ」
ブローディアはサラの言葉を肯定する。
徐々に深く暗くなる周囲。僅かな木漏れ日が目に眩しい。
先頭を進むブローディアから二十メートル離れた後方を残りのイレギュラーズ達が警戒しながら追従していた。
「自然破壊による暴走か……いやはや、科学の徒としては耳が痛い問題だね」
警戒索敵を行いながら『ガスライト』ジェームズ・バーンド・ワイズマン(p3p000523)が言葉を漏らす。
「しかし、人間から吸い上げた生気で森に恵みを与える存在が、人間を排除してしまったらその存在意義はどうなってしまうんだろうね?」
「精霊の言い分にも一理ありますが……そんなことをすれば待っているのは自滅――冷静に考えればわからないはずはないと思うのですが」
ジェームズの疑問に『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)が答える。
森に恵みをもたらす自然機構の暴走。人から生気を奪い尽くして――循環の途切れた先は、考えるまでもなかった。
「今回の発端は多分、人間が悪いんだと思います。生気喰らいはやりすぎだとは思いますが、少し、気が進みませんね」
「でもま、配慮も酌量も余裕のあるもんの特権。悪いけど、あっしらにそない余裕はないよって」
「ええ、そうですね――最善は尽くしたいです」
『赤備』ノブマサ・サナダ(p3p004279)が自然機構への理解を示せば、『風前の塵』艶蕗(p3p002832)が自分達の懐事情を勘定する。
「自然は私達に恵みを与えてくれるけど、同時に天災となって私達を脅かすこともある――恩恵も怖さも、よく分かるよ」
『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)が自然への畏怖の念を零す。イリスに同意するように『科戸の風』タチカゼ(p3p004756)が一つ頷いた。
「ただの天災であれば過ぎるのを待つのを一考できよう。されど意志持つ天災とならば話は別。誰かが止めねばなるまい」
タチカゼの言葉に、皆がこくりと頷く。
(見た目は良くて平気な顔で人から奪う……嫌な人を思い出すわね。……個人的に、とても倒したい気分)
後方を警戒しながら『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は過去を思い出し心の中で愚痴る。
それぞれ依頼を受けた理由は様々だが、生気喰らいを止める――その目的については統一をとれていた。
「木々を伐採した人、人を殺した森の精。何も悪いことはないわ。森の恵みを、生気の糧を、互いに忘れただけだもの」
「失うまで気づけないのは――本当に愚かしく、悲しくなりますね」
『混紡』シーヴァ・ケララ(p3p001557)の呟きにオフェリア目を伏せ嘆いた。
――イレギュラーズの行進は続く。
森の木々を傷つけておびき寄せるという方法の提案はあったものの、やはり森を傷つけるのは本意ではないという結論に至り、その方法は取らない事となった。
警戒しながらの進行は集中力を擦り減らし、疲労を感じるものであった。
そして一刻ほどの時間を経て、森の深部へと至る。
「――来たであります」
透視技能を用い、遠距離偵察を行っていた『鉄帝軍人』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)がハンドサインと小声で合図を送る。
ハイデマリーの視界に映る光の靄。徐々に靄は人の形をなし、深緑のドレスを来た一人の少女象を映し出す。
少女――生気喰らいがハイデマリーの方を向いてニコリと笑った。
「――! 気づかれてるであります!」
もはや小声で、などと言ってる場合ではない。全員にわかるように声を上げると、イレギュラーズ達はこの日のために考え抜いた陣形を組み上げる。
「あはっ、愚かな人間がこの森に入ってくるなんて、死ぬ準備はできているのかしら」
どこか冷たい、残虐さを感じさせる笑みを浮かべながら生気喰らいが笑う。
一人先行するブローディアが盾を構え足に力をいれる。ここから先は生気喰らいのテリトリーだ。覚悟を決める。
「生憎と死ぬ気はさらさらない――いくぞ」
ブローディアが駆け一足飛びに彼我の距離を詰める。
「あはっ! いいわ、せめてその生気、森へと還元なさい! あははははっ!」
森を守護する自然機構、生気喰らいとの戦いが始まった――。
●生気喰らいは笑う
――なぎ倒される木々。自然の怨嗟は少女を変貌させる。
よく笑う少女は、何時しか自然の恨みを晴らすだけの存在へと至った――。
ブローディアは感じる。自分の身体から何か――生気――が奪われていくことを。
距離を詰めると同時に感じる脱力感は、確かに生命の源を奪われていると感じる。真綿で首を絞めるとはこのことか、と感じた。
シーヴァが森を保護する保護結界を展開するのと同時――誰よりも最初に動いたのはノブマサだ。
(嫌な気持ちは消えない。でも今は)
「倒させて貰います!」
集中し、正確な狙いで放たれた極太の矢はしかし生気喰らいの腕を掠めるに留まる。鮮血が滲み、蒼白の肌が朱に染まる。
「ブローディアさん、状態は――」
「なにか奪われてる感じがあるな――ッ」
「それならば」
オフェリアがブローディアに状態を確認すると、すぐさま、破魔の力もつ聖なる光を放つ。光に包まれたブローディアの血色が良くなっていくのがわかる。
「守護する力――? あはっ、けど無駄よすぐに奪い尽くしてあげるわ!」
一時的に防がれた生気吸収に驚くも、しかし邪悪な笑みを浮かべる生気喰らい。
様子を伺うタチカゼと共に立つ艶蕗が死霊の弓を引き構える。
「背中を狙いたいとこでやんすが――木を背にしてるでやんすね」
艶蕗の言うように、生気喰らいは木を背負い決して背中を見せようとはしていなかった。ならばと、生気喰らいが動くように死者の怨念を一条に束ねて放つが、肩の肉を削ぎ落とされながら後退し別の木を背負うように動く。
その動きに、やはり背にコアと思われるものが有るとイレギュラーズ達に思わせるが、狙うことは難しいと同時に思わせた。
迅速な動きでもって、艶蕗の二連射が続く。放たれた二条の矢。その一矢は必中の輝きを持って生気喰らいに突き刺さる。
「くっ……あはっ、あははは!」
苦痛に顔を歪めながらも、嗤い続ける生気喰らい。
そんな生気喰らいを超遠距離から睨めつけ、側面に回り込みながら狙撃体勢に映る者がいた。ハイデマリーだ。
背面は木が邪魔で狙えない。狙えるのならば背面を狙いたいが――今は無理だろう。その為側面へと位置取り狙撃する。
一際大きな銃声がなり、生気喰らいの肉が爆ぜる。重ねるように放たれたシーヴァの弾丸が、生気喰らいの右足を朱に染める。
彼我の距離を詰め、生気喰らいの行動を抑制するブローディア。年端もいかない少女を目の前にして、その邪悪でありながら神聖の微笑みに目を奪われる。
頭を振るう。自分の役目を思い出せ。自分を見失わないように強く武器を握り直し、盾を構える。裂帛の気合いを籠め生気喰らいに食らいついていく。
「ブローディア君はまだ大丈夫そうだね。ならば――」
ジェームズがオーラの縄を生み出し、生気喰らいに向け放つ。放たれた縄が意志もつように動き生気喰らいを捕縛しようと試みるが、紙一重で回避されてしまう。
「あはっ、面白い技を使うのね。でも残念。はずれだわ」
体勢を整えた生気喰らいの瞳が輝く。一瞬にして膨れあがる殺気が、イレギュラーズ達に危機を知らせる。
「あはっ、それじゃ行くわよ。すぐに死んじゃダメなんだから――!!」
身体を捻ると同時、ブローディアが蹴り飛ばされる。有無を言わさぬ怒りがこみ上げてくるが、それと同時に圧倒的なまでの『死』が迫り来る。
生気喰らいより放たれる魔力弾が、盾を構えるブローディアに襲いかかる。その数、四。一弾を紙一重で回避するものの、二弾、三弾と為す術無く直撃する。必中の輝き纏う四弾目に至っては、抗う術を持ち得なかった。
「ぐぅ――ッ!」
「あはははっ、すごいすごい。まだ立ってられるなんて!」
耐えきる事はできたものの、そのダメージ量は計り知れない。次同じ攻撃をもらえば無事では済まないだろう。それは生気吸収の範囲外にいるイレギュラーズ達にも伝わったはずだ。ブローディアがハンドサインを送る。交替の合図だ。
「ブローディアさん、下がって!」
イリスが待機していたポジションから飛び出し、生気喰らいの前に立ちはだかる。その隙にブローディアは後方へと下がった。
「あはっ、交替? いいわよ、一人ずつ痛めつけて虫けらのように殺してあげるわ! あはははっ! は――」
笑う生気喰らいの身体を『飛ぶ斬撃』が襲う。切り裂かれ噴き出る血に深緑のドレスが染まる。飛翔する斬撃を放ったのはアンナだ。
「……虫だって森の命でしょう。貴女がそんな言動して良いのかしら」
「あはっ、虫は虫でも害虫よ。森に仇なす者は皆殺してあげる――!」
血に染まりながらも生気くらいは変わらぬ態度で嗤い続ける。狂気に満ちた笑いが森に響いた。
――事前に得られた情報から組み立てられた作戦は、十全に機能していたと言って良いだろう。
一人が生気喰らいに接近し行動を抑制する。残りのメンバーは射程外からの遠距離攻撃。
接近した一人が倒れる前に、次のブロック役と交替し、攻撃を継続する。理にかなった戦術を前に、最初こそ余裕を持てあましていた生気喰らいも、苛立ちを隠さないようになっていた。
だが、イレギュラーズ達もまた、積み重なるダメージを前に血と汗を拭う。
生気喰らいの放つ蹴りが、魔力弾が、そして魅了する微笑みがイレギュラーズ達を襲う。生気吸収もその効果を維持したままだ。キュアイービルを持って一時的に打ち消す事は可能なれど、数秒後にはまた吸収が始まる。失血を伴う吸収はジワジワとイレギュラーズ達を死へと呼び込もうとしていた。
「魅了は受けない、何故なら、私の方が美少女だから!」
「あはっ、どうかしらね。ふふふ、あはははっ」
生気喰らいの前に立つのが二度目となったイリスの戯れ言を、楽しそうに笑う生気喰らい。その微笑みがイリスを睨めつける。クラリと頭が揺れた。
「イリスさん、今の余裕はざっくり何割位や!?」
艶蕗の声に、イリスが「四割くらい!」と声を上げる。
「ノブマサさん! すぐ交替や!」「任せて!」
最後の死霊弓を放ちながら艶蕗は仲間の様子を伺う。戦況は芳しくない。回復が追いついていないのだ。万全とはいえない状態で交替を続けている。そう遠くない未来に崩れる事も予想された。
ノブマサが蹴り飛ばしからの魔力弾によって吹き飛ばされる。すぐにアンナが飛び込みブロックを継続する。
「……その笑みは苛つくわね。むしろ怒りそうだわ」
微笑み浮かべる生気喰らいの魅了を受けながら、アンナが怒りを吐露するが、生気喰らいは煽るように笑みを零し続けた。
――戦いは一進一退の攻防が続く。
血に塗れる生気喰らいは笑うことをやめず、目の前に現れるイレギュラーズを何度となく蹴り飛ばす。
「この一太刀、防げぬ物と知れ――!」
怒りに我を忘れながら、タチカゼが瞬刻の一閃を薙ぐ。すぐにシーヴァが入れ替わり、タチカゼを下がらせると、オフェリアとジェームズが手分けしながら回復と、破邪の力を持って怒りを収めていく。
「まだ喰らい足りないかしら? ……勿体ない。栄養を取り過ぎると腐ってしまうわよ。森も、貴女も」
「あはっ、まだよ! 人が森にした過ちはこんなものじゃ済まされない! もっと、もっと生気を寄越しなさい!」
繰り返す、繰り返す。血に塗れた輪舞曲。
幾度となく繰り返したその先で、ついに均衡が打ち破られる。
「ぐぅぅ――ッ!」
「あはっ、あはははっ! 死ね! 死んでしまえ! 森を殺したお前らは、森の為にその命を差し出せ!」
多大な傷を負いながら狂ったように叫ぶ生気喰らい。
誰よりも前に立ち、誰よりも傷を負ったブローディアが、夥しい量の魔力弾の乱打を受け膝を付く。荒い息をつきながらも生気喰らいは勝ち誇るように笑う。その口から鮮血が零れた。
互いに致死を目の前に迎えた戦いは、終局へと向かう――。
●その結末は
――森は悲しんでいた。よく笑う少女が変わってしまったことを。
ただ、ただ嘆き悲しんで、もう取り返しが付かないのだと、悲しく葉擦れの音を響かせていた――。
フラフラと血に塗れた少女が口元を拭いながら笑う。
「あはっ、よくここまでやれたものだわ。褒めてあげる。でももうお終いよ。一人ずつ生気を奪ってあげる」
「まだだ……!」
イレギュラーズ達を襲おうとした生気喰らいを、瀕死の身で有りながら立ち上がったブローディアが止める。――まだだ、まだ終われない。
パンドラへと願いを捧げ、可能性を掴み引き寄せる。
「なにっ? 生気が溢れて――くっ」
傷が癒やされ、今一度立ち上がる力が沸き上がる。それを見て艶蕗が叫ぶ。
「ブローディアさんは未だキツい! 先にイリスさんブロックお願いや!」
その声にすぐさま反応する仲間達、ここが正念場なのだと理解していた。
「あはっ――あはははっ! この、死に損ない――!」
生み出される魔力弾が、次々とイレギュラーズを襲う。しかし、一人、又一人と膝を折るたびに、パンドラへと祈りを捧げ再起の一打を放っていく。
だが、それでも生気喰らいは倒れない。
「出し惜しみは――なしです……!」
手にした戦鎌を構えオフェリアもブロック役として生気喰らいに肉薄する。
「こ、の。邪魔をするな――!」
生気吸収と共に放たれる魔力弾の直撃を受け地面に転がるオフェリアもまたパンドラへと祈りを捧げる。
「また、この光――!」
オフェリアに代わるようにジェームズもまた生気喰らいへと飛び込んだ。すぐにオフェリア同様地面に転がるが、仲間が回復する時間は稼いだ。パンドラへの祈りはジェームズをも立ち上がらせる。
――切り札は切った。
イレギュラーズ達は覚悟を決める。後は残す体力でどこまで生気喰らいを追い詰められるかだ。
一人、また一人と、生気喰らいに飛び込み窮鼠の一撃を放つ。我武者羅に、懸命に、生気喰らいの命を削りとる。
イレギュラーズ達の気迫が、必死の一撃が、生気喰らいの余裕を奪う。ただ殺されない為に、生気喰らいが大きく身体を動かした。
――その時を、待ち続けていた。
仲間が傷つき倒れているのを見ながら、奥歯を噛み締め耐え続けていた。虎視眈々とライフルを構え、この瞬間がくるのを祈りながら待ち続けていたのだ。
ハイデマリー。生気喰らいのその背を狙い続けた狙撃手が、必中の輝きを持って、発砲する。
放たれた弾丸は吸い込まれるように、木々を擦り抜け、そうして仲間達の決死の攻撃で晒す事になった生気喰らいの背中へと吸い込まれていった。
「あっ――ああぁぁぁっ!」
大きく体勢を崩す生気喰らいは――しかし、踏みとどまって、勝ちを確信したイレギュラーズ達へと魔力弾を放った。吹き飛ばされるイレギュラーズは、ハイデマリーを除いて、全員地に伏した。
「――あはっ、すごいのね。私をここまで追い詰めるなんて……はぁ――、コアに傷を付けられたのは、想定外よ……」
倒れるイレギュラーズ達を賞賛しながら、血に塗れた身体を木々に寄り添わせる生気喰らい。その身体が蒼白の光に包まれている。
「続きをやりたいところだけど、私も限界みたい。悔しいけど、貴方達の勝ち。――安心なさい。コアが傷ついたもの、しばらくは何も出来ないわ」
うっすらと、その姿が光に包まれ消えていく。
「あはっ、覚えておきなさい。いずれまた私は現出するわ。森が命失わないかぎりね。それと――」
倒れたシーヴァへと目を向ける生気喰らい。
「森を戦いに巻き込まないようにしてくれて、ありがと。それじゃぁね――あはっ、あはははっ」
それだけいうと、小さく笑いながら、生気喰らいは消滅していく。
静かな森に葉擦れの音が響く。
一拍の間をもって、イレギュラーズ達は大きく息をはいた。
勝ったのか――あるいは見逃してもらえたのか。どちらにしても、生気喰らいの活動を阻止する目的は果たされた――だと思う。
イレギュラーズ達は、自然が奏でるメロディーを聴き入りながら、安堵の溜息をもらす。
戦いは終わった。完勝とは言い難い無様な勝利ではあるが、勝ちは勝ちだ。
動かぬ身体を見て、どこかで見ている無邪気な少女の笑い声が聞こえた気がした――。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
澤見夜行です。
ご参加頂きありがとうございました。
詳細はリプレイをご覧下さい。
勝因は作戦とチーム一丸となったプレイング、そして奇蹟の一打にありました。
どれが欠けても勝利とは繋がらなかったでしょう。
見事とは言い難く多大な犠牲の上での勝利ですが、よく勝利を引き寄せたと賞賛したいと思います。
MVPは最後の最後でクリティカルを引き寄せたあなたへ。
あなたの一撃がなければ全滅していました。
同時に仲間の献身があればこそ、クリティカルを引き寄せられたのだと思います。
なにはともあれ依頼達成おめでとうございます!
よく笑う少女のことを、記憶の片隅に置いて頂ければ幸いです。
ゆっくりと身体を休め、英気を養ってください。
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
強くて、怖くて、可愛い。そんな生気喰らいとの戦いです。
●依頼達成条件
・生気喰らいの討伐または行動阻止。
●生気喰らい
本来は人から生気を分けて貰い、森に恵みをもたらす自然機構の一つ。
人々から分けて貰った生気を身体のどこかにあるコアを通して森へと還元していた。
森の開拓により自然界に負のエネルギーが溜まったことで、その機構が狂いだした。
蒼白の少女は、嗤いながら人から生気を奪い尽くす存在に変貌しました。
生気を吸われたものは皆、衰弱し、失血し、死に至ります。
攻撃力は低く動きも遅いものの、索敵能力、EXA値が高く手数に圧倒されることでしょう。また生気吸収により一分以上彼女の周囲に居る事は困難だと思われます。
以下攻撃能力を参考までに。
・生気吸収(生気喰らいを中心に中距離圏内全域に毎ターン失血状態を付与)
・魔力弾(神中単・大威力)
・蹴り飛ばし(物至単・怒り・低威力)
・神聖の微笑み(神近域・魅了)
●戦闘地域
街道からはずれた広い森の中です。人通りは少なく、一般人が巻き込まれる心配はありません。
木々が生えており戦闘に活用することは可能です。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
難易度HARDの為、困難が待ち構えておりますが、良ければご参加下さい。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
Tweet