PandoraPartyProject

シナリオ詳細

月に映る涙

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その月は雫滴り
 闇が広がる無限の空。そこにゆらりと浮かぶのは青に光る半月。深い森の下からふと見上げれば、吸い込まれるような錯覚に陥り……

「ここは……?」
 月を見てしまった女性は次に瞬きをした時には、彼女自身知りえない場所へ飛ばされていた。
「目の前にあるのは……もしかして海? それじゃあここは海辺……? いえ、そんな……この世界には海なんて御伽噺でしか知らないはずなのに……」
 この世界には森と月だけが揺らめく世界。だから──海なんて存在するはずがない。女性は砂浜を夜の暗い海へ向かってゆっくりと歩みを進めた。
「もう……砂って歩きにくいわね!?」
 彼女はその間も足を取られて……もう面倒だ! と履いていた靴を脱ぎ捨てた。
「……波の音しか聞こえない……不思議な場所ね……」
 引き波の時に不意に自分も攫われてしまわないか彼女は不安になる。そんな事、気をつけていればあるはずが……
「え……?」
 彼女は突然気づいた。先程まで誰の影もなかった海に誰かがいる。潜っていて浮き上がって来たのだろうか? そんなふうに思いかけたが、彼女はもう一つ気づく。
「ねぇ……あなた、シュウ?」
「…………」
「……ねぇ、なんで……泣いてるの……?」
「…………」
 細身で優しそうな人相の彼は、どうやら彼女の知り合いのようだった。けれど和やかな再会とはいかないようだ。
「シュウ……?」
「君が泣かないから、泣いてるんだ」
「え?」
「だって君は! ……君は……夫である僕を早くに亡くして、それからも気丈で周りに心配されないようにって振舞っているじゃないか!」
「だって、それは……っ!」
 あなたと約束したもの、あなたの好きな笑顔を絶やすことなくと。けれど彼に似た何かの涙に戸惑いを隠せずに。
「君は……もう泣いていいんだ。泣かないなら……僕が変わりに泣くから……」
「そ、そんなのずるい! あなたが居なくなって……ずっとずっと寂しかったのは私なのに……!」
「うん……寂しい思いをさせてごめん。でとね、もう泣いていいよ。……君はとっても頑張ったんだから……」 
「っ……うん……」
 彼は彼女を優しく抱きしめて、彼女もその温もりが本物のように感じて……その頬にひと光りの雫が零れた。


 ここは複数の月がある世界『常世の月』。
 無限に広がる闇の空と森。けれども色も形も様々な月がそれぞれぼんやりと浮かんでいる。
 その中でも『泣き月』は見つめた瞬間別空間に飛ばされるらしい。そして月を見た者は口々に

「今度は大切な人が泣いてるんですねぇ?」
 相も変わらず他人事のようにのんびりとした口調でこの世界を担当する境界案内人リュンヌはくすくすと笑う。

「まぁ大切な人の涙と言うものは弱い方は弱いですし、もう泣かせたくないと奮起する方もいましょうね? ふふふ。まぁまぁ一先ず今回もご調査お願い致しますねぇ」
 今回もこのリュンヌはおかしそうにあなた達にそう告げた。

NMコメント

月熾です。
今回はシリアスで心情を強めになりますが
どうぞよろしくお願い致します。

●依頼内容
『泣き月』の光の調査
成功条件は泣き月の光による大切な人の涙を拭う。

●詳細
この月を見つめた瞬間別空間に飛ばされ
そんなあなたの前に現れるのは涙を流す大切な人。
それはちょっとした理由でも、重い理由も可能です。

書いて頂きたい事は
・時間と場所等
・誰が泣いてるか
・どんな事で泣いてるか
・それに対してのあなたはどんな対応を示すか
※大切な人が参加外PCの場合は名前を出さずそれっぽく描写します。

を、最低限書いてください。

●世界観
夜しかない空に様々な月が浮かぶ闇の世界
地上では無限とも呼ばれる森が広がっています。
『泣き月』の他にも様々な月があるようです。

●サンプルプレイング
いつどこ】夜の海辺
誰】死別した夫
理由】
寂しくても泣かない気丈な妻を見て
代わりに泣いてあげようと
対応】
あなたに泣いて欲しいから泣かなかった訳ではなかったのに……!
うぅ……なんであなたが悲しそうなの
私の方が……私の方があなたが居なくなって寂しかったのに……!
泣いてるあなたを抱きしめたい、もうもう泣かないで
私はたまに泣くようにするから
だから私の為に泣かないで、あなたの笑顔だって私は好きなんだから……!

それではご参加、お待ちしております。

  • 月に映る涙完了
  • NM名月熾
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月25日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
レナード・バニングス(p3p004694)
 
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ヘルツ・ハイマート(p3p007571)

リプレイ

●月の涙はぽつりと
 常世の月の森を四人の影が揺れている。

「大切な人が泣いてる……かぁ……一体誰が泣いてるんだろう?」
『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は空をぼんやりと見上げながら歩みを進めていて。
「どんな奴だっていいさ、泣いてる奴がいたら俺が慰めてやらねぇとな!」
 どんな事にも気合十分な『バーニング・レオ』レナード・バニングス(p3p004694)は熱く拳をギュッと握る。
「まぁ誰が泣いていても俺が慰めてやればいいだろう」
『俺は泣いてる奴を慰めるのは少し苦手だけどよ……』
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は一人芝居のように言葉を重ねながら自身と不安を合わせ零す。
「確か月を覗けば大切な誰かに逢えると……少し失くした記憶についての期待をしています……」
 泣いて全てが抜け落ちてしまっていた『新たな可能性』ヘルツ・ハイマート(p3p007571)はそう不安そうにボソリと呟いていて。
 そんなそれぞれ思いを抱きながら別行動へ移る。月はゆらりと静かに揺らめいていた。




 ユーリエが暫く歩いて見えたのは『泣き月』。それをじっと見つめれば……もうここは見覚えのある場所。
「あ、あれ?! ここは……」
 ユーリエの自宅兼店舗内にある私室。そんな場所への突然の移動にユーリエは驚いたが、次第に啜り泣く声が聞こえてくる。一体誰が泣いているのだろうと彼女はその泣き声の方へ振り返ってみると……一人の少女がそこに座り込んでいた。
「え、えっ?!」
 そこに居たのは見たことがあるも何も、自分の実の妹。
「お姉ちゃん……ぐすっ……」
 いつも明るい笑顔を見せる妹が泣いている……。ユーリエは慌てて駆け寄った。
「ど、どうしたの?! 誰かに何か……っ?!」
「違う……違うよ……」
 話を聞けば、様々な事件を経て姉妹が再会できたことは嬉しいし、お姉ちゃんと同じ吸血鬼となり、お外でいっぱい遊べるようになって……とっても嬉しい。
 でも、このままでいいのかな? この幸せは幻想なのかな? いまだ私は、あの終焉の中にいるのかな? 彼女はそう不安を零して涙を流していた。
「大丈夫、大丈夫だよ。もう、ずーっとずーっとお姉ちゃんと一緒」
 エミーリエは元の世界にいるものだと思っていたから。私はその為に、今まで戦ってきた。元の世界に帰る為に。
 でも、そうじゃなかった。私が気づけなかっただけで。あなたはずっと戦っていたんだよね。ユーリエは彼女の背を優しく摩った。

 この幸せは偽物かもしれない。でも、現実なんだよ。ここには、あの世界で苦しめていた病気やあなたの体を蝕むものはない。こんなに世界はキラキラしているんだから。今幸せと感じている日々は嘘じゃないから
 また、彼女を攫った別の魔種が攫いに来るかもしれない。もう、あんな闇の中に妹を引き戻させない。私がいる限り。
「だから、あなたは笑って。その笑顔が皆を、私を。救ってくれるんだからね」
「っ……うん!」
 ユーリエの懸命な言葉に彼女は泣きやみ笑顔を見せた。
「さ、明日は新しいアイテムを作るから……あなたも、一緒に手伝ってくれる?」
「うん! 勿論!」

 この姉妹ならきっとこの先も涙を拭い合えるだろう。




「ここは……俺ん家?」
 そこには見覚えがある。
 夜、小さな田舎にある一階がパン屋、二階が自宅と言った二階建ての店舗。どうやらレナードの自宅によく似た場所のようだった。
「……じゃ、ねぇよな。元の世界に帰る方法はまだ見つかってねぇって話だし。幻か、それか夢みてぇなもんか。おぉ、すげぇ再現度じゃん。俺の部屋まで完璧に──うおっ?!」
 突然背後に衝撃が訪れ反射で振り返る。
「誰だよいきなり背中にタックル食らわせてくる奴は!……って、は?」
 そこにいたのは見覚えのある少女。
「もしかしてお前……? けどなんでガキの頃の姿に? いや、まさかマジでガキの頃のお前なのか?」
 その少女はどうやらレナードの義理の妹のようだった。レナードの口ぶりから少女となっている様子の彼女の目からは、大粒の涙が溢れて止まらなくて。
「っひく、怖い夢を見たの……」
「あ? 怖い夢、だって? そういやこの頃のお前は怖がりだったな……。ったく、しょうがねぇ奴だな。ほら、添い寝してやるからこっちに来いよ」
 そう言ってレナードが布団へ誘う素振りを見せれば、涙でいっぱいの少女はそのままそこへ入り込んだ。
「うぅっ、ひくっ……お兄ちゃんはいなくなったりしない?」
「あぁ。どこにも行かねぇよ。せめて「お前が寝るまでは」、な」
 レナードは安心させる様に、少女の背中をポンポンと叩く。こんな事をしたのは何年ぶりの事だろうか。

 義理の妹は今年で二十歳。もうガキじゃないし、一人でも大丈夫。あいつにはそれだけの強さがあると信じてる。
「……「信じてる」、か」
 そう言うと聞こえは良いけれど。けど俺はアイツが本当は寂しがり屋な事を知っていて。何より、俺はあいつのたった一人の家族だって言うのに……妹をほったらかしにするなんて兄貴失格だぜ。
「俺もそろそろ本気を出さねぇとな。世界を救う! そして家(うち)に帰る! よっしゃあ! やってやるぜ!」

 義妹の涙を見たレナードはそう決意を新たに熱く燃え上がる。



『なんだよここ、ここは……知ってるも何も……』
 月を見て移動したこの場所に『虚』はギョッと驚く。ここは元の世界での『虚』の実家の染物屋だ。
 そしてふと気づく人の気配。いやでも覚えているその男性。
『……親父』
 ポツリとそう『虚』は呟く。彼は『虚』の父親のようだった。その父親は仏壇に向かって俯いている。飾られている写真は女性のものと……この少年は『虚』だろうか。

 俯く彼は思い吹ける。
 空樹麻資郎が死んだ。実の息子が誰かに殺された。息子はあの日、夜遅くに家を飛び出した。「役者になるな、染物屋を継げ」と進路のことで口出ししたのが気に食わなかったんだろうな。喧嘩してそれっきりになっちまった。
「なぁ、あいつの最後の言葉を聞いたか? 「俺は腹上死なんてしたくねぇ」だとさ。馬鹿馬鹿しい……」
 命がけで倅を産んで死んでいった妻が頭に思い浮かび、俺は、引き止めりゃ良かったのに……最後に野郎の顔をぶん殴った。
 遺影が二つ並んでいる。愛する妻と、馬鹿息子だ。その笑顔が眩しくて、気づけば涙が溢れていた。

 『虚』は深く深くため息を吐く。親父のこれは日課みたいなもので、俺がちょっとでも帰りが遅くなったりすると、すぐ仏壇の母ちゃんに報告しに行くんだ。全く、嫌な野郎だぜ。
『何で死んだって? 俺の方が知りてぇよ』
 親父はあの日のことを後悔しているみたいだけど、止めて欲しい。アンタの言うことはいつだって正しかった。俺が素直に頷けなかっただけだ。全部俺が悪いんだ。育ててくれた恩を返せないまま別れることになってしまって、本当に申し訳なく思う。
 伝えたいことは山程あれど、今はやるべき事を優先する。親父の涙を拭く。どうせ泣かせるなら結婚式とかが良かったなぁ。
『今までありがとう』

 大概全部終わった後にそんなことに気づいちまうもんだ。『虚』はそう居心地が悪そうに自分の頭をかいていた。

 親父の涙なんざ見ても、気持ちのいいものじゃねぇんだよ。全く。




「……見覚えの……ない、場所ですね……」
 そこは夜の砦。ヘルツの知らない場所。
 と言っても彼は記憶喪失。知らなくても無理もないが、ヘルツは辺りをキョロキョロと見渡す。
「ああ……アレは誰でしょう。さっぱり思い出せませんが……」
 見渡して見つけたのは同じ装いの男性。歳はそれほど老けていない印象……若い男性だろうか? ヘルツはその者に近づくと、ふとその頬をつたうものに気がついた。
「貴方は誰ですか? どうして泣いているのですか?」
「……あなたの……代償を払った今のあなたを思って……」
「代償…どういう事でしょうか。私は何を得ようと何を支払ったのですか? 貴方はご存知なのですね?」
 泣かないで下さい。貴方に泣かれるととても心が締め付けられる。貴方が誰か分からないくとも、どうして泣いているのか心当たりを思い出せなくとも、貴方には泣いていてほしくないのです。
 理由のわからない感覚にヘルツまで泣きそうになってくる。どうして彼が泣いていると悲しくなってくるのだろう、彼が誰かもわからないというのに。
「貴方の名を呼べない事に不甲斐なさを感じます。ですが、お願いします、お願いします……」
 どうかどうか、泣かないでください。
 涙を流す男性にヘルツも苦しげに彼にそう願う。どうして私は彼を忘れているのですか? 代償とはそれはなんなのでしょうか? わからない事ばかりがヘルツの思考を巡って、着地点がわからずにフワフワと宙ぶらりんになっているようだ。
 きっとこんなに涙を流しているのだ、余程の人物なのだろう事は察することが出来る。けれど真実へ辿り着けない歯がゆさに、ヘルツは気持ちの悪さを感じた。

「ああ、何故。ああ、何故!」
 記憶を失った自分がこんなにももどかしいと、ヘルツはまだ項垂れる事しか出来なくて。




 それぞれ思いを胸に四人は境界案内人リュンヌの元へ戻る。
「おや、お帰りなさいませ皆様。……あら、その様子ですと大切な方にはお会い出来たようですね?」
 境界案内人はくすくすと笑いながら四人を迎えた。
「まぁ一先ずは心を休めてくださいな。その後に報告書を纏めて頂けたらと……皆様お疲れ様でした」
 リュンヌはいつものようにそう丁寧に労いの言葉をかけ、礼儀正しく深々とあなた達に一礼をした。

 『泣き月』は今日もぽつりと浮かぶ。それはきっとあなた達の大切な人達のように、けれど優しすぎて言葉をかき消してしまったように。溜め込んで、溜め込んで。



 ──月の涙はぽつりと
あなたの胸の中であなたの代わりに泣いている──

成否

成功

状態異常

なし

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