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シナリオ詳細

<Gear Basilica>Molybdenum struggle High

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●スネグラーチカ・クーロン
 黒衣の集団がスチームバイクにまたがって走ってくる。
 その後ろには大量の軍団が列を成し、モリブデンへと迫っている。
「ひでえ祭りだ……」
「それでも、女たちは守る」
「家族たちも、な」
 決して多くはない三色のギャングチームが、迎え撃つように荒野とかしたモリブデンに集合した。
 古代兵器『歯車大聖堂』の起動によって地面ごとひっくり返され、あらゆるものが失われたスラム街モリブデン。
 それでも残ったかけがえのない命たちを狙って、兵隊たちが迫っている。
「奴らの狙いはあの抗争から避難した子供や女たちだ。浚って炉にくべることであのクソでかい大聖堂のガソリン代わりになるんだとよ」
「やらせねえよ。なあ?」
 ヒューグがくわえていたキセルを振って、『あなた』へと振り返る。
「アタマのいかれた連中ごときに、この街をくれてやるかってんだよな?」
 いま、大抗争が始まろうとしている。

●境界線の崩壊
「俺たちがモリブデンで独立する際、クーロン会との衝突はさけられなかった」
 派手に崩壊した鉄帝スラム『モリブデン』の一角。
 かろうじて残ったバーにイレギュラーズたちは集められていた。
 風俗街のケツ持ちを担当していたギャングチーム『クアッドコア』のリーダー、ロックは丸いサングラスを外してため息をつく。
「俺たちのポリシーは一貫してひとつ。『女は宝』。傷つけるヤツは誰であろうと許さねえ」
「けど、アタシたちのポリシーをねじ曲げてでも商売をしたい連中がいた。それがBLACK JACKALSよ」
 くにゃりと柔軟な姿勢をとる男。白いジャケットを羽織り直し、当時を思い出すように赤いジャケットの男へと振り返った。
「そうよねヒューグ。アナタも、あの抗争には無関係じゃなかったんじゃない?」
「ハッ……」
 キセルをくわえ、苦々しく笑い飛ばすヒューグ。モリブデンでの商売やイベントの利権を管理しているヒューグ一家のリーダーである。
「最初は、そうだなァ……俺が倫愚刑務所から出た頃か。ラサから来たっつー商人の野郎があちこちのチームにちょっかいをかけ始めた」

 その『商人』はモリブデン及び隣接する都市で活動するギャングチームを次々と買収し、結託したマフィアであるクーロン会(旧クーロンヘッズ)へと吸収していった。
「風俗街を仕切るBLACK JACKALS、商店からミカジメをとる零極連合、難民を兵隊に教育すするラッキーウェスタン、倫愚刑務所で最大勢力だったプリズンキングダム、母校ごと買収された軍学のミスフィッツ男子高校……それでも元のポリシーを守ろうとした連中はモリブデンに残ったがな」
「ま、殆どクーロン会に行っちまったんだわ」
 恰幅のいいヒューグ一家の男が悪態をついてつぶやいた。
 そこへ、グリーンのジャケットとバンダナをした男が扉を開け、ライオン獣種やウサギ獣種の男たちをつれて入ってきた。
「俺たちの家族も、な」
「元々よその村を追われた難民だったしな。家と仕事を提供されるつって連れて行かれちまったワケよ」
 彼は? というイレギュラーズの視線に、ロックが『ポリシーを守った方のラッキーウェスタンだ』と教えた。
「スモークだ。お前らがクーロン会を足止めしてくれたおかげで、スラム街の『家族』たちを全員逃がすことができた。今度は俺たちが力になる番だ」
 兵隊は揃った。
 そうつぶやいて、ヒューグは立ち上がった。ライオン獣種の男が吠える。
「今から攻めてくるのは例の『歯車大聖堂』に取り込まれて洗脳されたクーロン会の兵隊どもだ。
 金儲けすら忘れて略奪と暴力しかアタマに残ってねえ。
 全部喰らって鉄帝を真っ平らにしちまうつもりだぜ」
 だからよ、と。彼らはイレギュラーズへと向き直った。
「一緒に来い。こいつは依頼料だ」
 土に汚れた金貨を取り出し、あなたへと投げた。

●瑠璃雄、外伝
「待て、お前には別の話がある」
 『お兄ちゃんを信じなさい!』とか言いながらバイクに飛び乗ろうとする伊達 千尋(p3p007569)の肩を、スモークが掴んだ。
「瑠璃雄さんのことだ」

 瑠璃雄というウォーカーの話に、少しだけ付き合って欲しい。
 彼は異世界にてバイクチーム『悠久-UQ-』の総長をつとめていたが、最近になって混沌へと召喚されたという経歴があった。
「あの人は、数年前に召喚された親友の行方を探してた」
「チームのことでモメてた最中だったらしくてな。目の前で消えちまったもんだから大混乱だったんだとよ。けど、同じくこの世界に来てることがわかった……んだ、け、ど」
「召喚されてすぐ、身を寄せていた村が鉄帝軍の略奪にあった。抵抗したらしいが、相手が相手だったから、な。そこで命を落としたらしい」
「瑠璃雄センパイはそれを知ってから復讐の鬼になっちまった。あの人は鉄帝を潰す気だ」
「クーロン会の裏にもあやしい商人が絡んでるらしいが、俺たちの調べじゃヤツは他国からの工作員だ。鉄帝で内戦を起こさせてダメージを与えるのが目的の、な」
「そいつと組んで、いま瑠璃雄センパイは歯車大聖堂でスネグラーチカ・クーロンを率いてる。モリブデン略奪部隊の指揮も、あの人だろう」
「俺たちは瑠璃雄さんを倒すつもりだ。けど、お前は……」
 悲しい目をして、スモークは千尋から手を離した。
 そして魔道バイクの鍵を握らせる。
「これは例の村から回収した鍵だ。どう使うかは任せる。
 お前の思うように飛べ。思うさま、高く」

GMコメント

■オーダー
・成功条件:スネグラーチカ・クーロンの撃退
・オプションA:瑠璃男と魂の拳を交えて正気に戻す
・オプションB:キリングを正気に戻す
・オプションC:エグザムを正気に戻す
・オプションD:スカーレットを正気に戻す
・オプションE:ティーガーを正気に戻す
・オプションF:クロウを正気に戻す
・オプションG:スイッチを正気に戻す

 ほぼ荒野と化したモリブデンへ攻め入り、かろうじて生き残った女子供を浚っていこうとする元ギャングチームの軍団『スネグラーチカ・クーロン』を撃退します。
 数では圧倒的に負けていますが、ある方法を用いることで逆転を狙うことができるでしょう。方法については後述します。

■エモーショナル判定
 当シナリオの特別ルールです。
 エモいムーブや絡みなどをすることで、当人の判定にCTボーナスが与えられます。
 これにより圧倒的な数の差をひっくり返すことが可能です。

■要注意人物
 スネグラーチカ・クーロンの中でも特に強力なメンバーです。
 彼らは歯車大聖堂に取り込まれた際に洗脳を受けており、物言わぬ兵隊となってしまいました。

・瑠璃雄(はぐれ者)
 千尋と同じ世界からやってきたウォーカーで、バイクチーム『悠久-UQ-』元総長。
 嵐のように猛烈な戦い方と強さが特徴。FBとCTが極端。
 憎しみや怒りの感情を押し出し獣のように荒れ狂う。
 特技はバイク運転。専用の魔道バイクがある。
 ギフト能力:魂の拳
 エモく拳をかわした相手に自分の夢や感情を伝えることができる。
 過去に『親友と再会し混沌世界を旅する』ことが夢であることがわかりました。
 そしてそれが永遠にかなわない悲しみも、また。

・キリング(元クーロンヘッズ代表)
 クーロン会を束ねるだけの個人戦闘力を持つ男。実質的なリーダー。
 蹴り技が得意で、【反】能力や高い反応速度、それに依存した高威力攻撃をもつ。

・エグザム(旧BLACK JACKALS代表)
 跳躍力とアクロバット運動を生かしたテクニカルな戦いが得意。
 ステータスバランスが全体的によく、【防無】攻撃もあわせて基本的に隙が無い。

・スカーレット(旧零極連合代表)
 氷と炎の魔法を使い分けるマジックアタッカー。
 魔法を帯びた手刀から繰り出す攻撃は命中精度が高く、【業炎】や【氷結】をはじめ呪縛などの厄介なBSを的確に打ち込んでくる。

・ティーガー(旧ラッキーウェスタン代表)
 指弾の名手で地下闘技場ではスナイプハンドの異名で知られた。
 高威力一撃必殺系の攻撃を得意とし、並の敵であれば瞬殺できてしまう。

・クロウ(旧プリズンキングダム獄長)
 高いEXFと底地力系のパッシブスキルにより恐ろしい踏ん張りの強さを見せるゾンビファイター。
 何度殴られても立ち上がるガッツの強さでのし上がったタイプ。メンタルの強さはほぼ無敵。

・スイッチ(旧ミスフィッツ男子高校番長)
 高い知能と格闘能力を併せ持ち、戦い続けるほど力を増す加速系ファイター。
 序盤は高威力高コストな魔力射撃を連発しながら部下に自分をかばわせ、部下やエネルギーが尽きてきたら増強されたパワーで直接殴りかかるという戦闘スタイルが特徴。
 本気を出すと周囲の風景を変えたりエフェクトを出したりできるギフト持ち。

  • <Gear Basilica>Molybdenum struggle High完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!

リプレイ

●奪われたくなければ力をつけるしかない
 暴風を心でうけて、なびく後ろ髪をリボンで結んだ。
 増加装甲を閉じ、槍すらも収納し、『展開式増加装甲』レイリ―=シュタイン(p3p007270)は『ただの拳』をがつんと左右で打ち合わせた。
「クーロン……あのときは、お互い譲れぬもののため、誇りのために戦った。
 あの日の決着は、まだついていない」
 閉じた目を開けば、黒い波が押し寄せる。
 誇りも魂も失い、巨大な移動要塞の働き蟻として機械的に展開した黒衣の兵団『スネグラーチカ・クーロン』
 その先頭を走るバイクの列に、レイリーは拳を突き出した。
 同じように拳を突き出してみせる『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)。
「真面目くさったサラリーマンみたいな目をしよって。ナマイキなのじゃ。ここはひとつ壊れたテレビみたいに叩いて直してやるのじゃ!」
 クククと笑うデイジーに、クロスで眼鏡の汚れを拭っていた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が苦々しい顔で笑った。
「仲間を自分の強さのために使い潰す戦い方では、いずれ貴方には誰も付いてこなくなる。そう教えたはずですが……洗脳されたついでに、大事なものまで失いましたか」
 眼鏡をかけ直し、『再教育といきましょう』とつぶやく新田。
 同じく眼鏡をかけなおした『凡才』回言 世界(p3p007315)は、両手をポケットに入れてため息をついた。
「二度あることは三度あるとはいうが……またえらく奇妙な縁ができちまったな」
 敵の数は絶望的。
 味方の数はごくわずか。
 まともにぶつかれば、きっと勝機はないだろう。
 だがそれでも彼らモリブデン・ギャングが立ち退かないのは、その後ろにかけがえのない命を背負っているからだ。
 いや。
「意地……って、言うんですかね」
 なびくコートを脱ぎ捨てて、『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はシャツのボタンをひとつだけ外した。
 オレンジがかったの茶髪をがしがしとかいて、そして拳を握り直す。
「ま、皇帝との約束ですしね」
「そうだな。約束は、守らねぇといけねえ」
 『蛸髭 Jr.』プラック・クラケーン(p3p006804)は赤いコートをなびかせたまま、リーゼントヘアをくしで整える。
 胸ポケットには汚れたコイン。
 ハートは熱く。
 脳はクールに。
「ローレットは受けた依頼は成功させる。
 UQは仲間を見捨てねぇ。
 ってなったら……『蛸髭』はやりてぇままにやるって所か」
 踏み出す足は仲間と共に。
「一丁、ド派手に行かせて貰うぜ!」
「「おうっ!」」
 杖でゴンと床をつく『繋ぐ命』フラン・ヴィラネル(p3p006816)。
「これ以上の悪さは許さないんだから! 特に……」
 視線の先。
 スネグラーチカ・クーロンの先頭を走るバイクの男に、注目した。
「瑠璃雄さん……あの話が本当なら、きっと悪い人じゃないんだと思う。
 理由を聞くことも、声をかけることもできる。
 けど、そのために」
「まずは道を開かねえとな」
 『Punch Rapper』伊達 千尋(p3p007569)はバイクのキーをポケットに突っ込んだ後、ヒューグ、スモーク、ロックたちへ振り返り、そして横転した馬車の上に立って大きく息を吸い込んだ。
「行くぞテメーーーーーーーーーーらァ!!!」
 そして男達は走り出す。
 後に『モリブデン連合』と呼ばれるギャングたちの、それは雄々しき背中であった。


「ライコン! レフコン! しっかりやれよオイ! 特にライコン! パクられんじゃねぇぞ!」
「あ゛ぁ!?」
「あとロック! 今だけは女だけじゃなくて男の子も護ってやってくれや! 頼むぜ!」
「今更だな。任せろ!」
「飛べよ! 高く! 何なら踏み台にしてくれてもいいからよ!」
「ああ……」
 千尋はバイクにまたがると、アクセルを力強くひねった。
「よっしゃ行くぜ! フランちゃん、こいつ等のことは任せた」
「まかされたー!」
 フランはステッキをフルスイングしてバイクで突っ込んできた敵のヘルメットをかちわると、くるりと回して天高く掲げた。
「いーい皆!? ローレットに喧嘩を売ったってことは、ローレットイレギュラーズ全員に喧嘩を売ったってこと。それが――」
「「ローレット協定じゃー!」」
「あっそれあたし言おうとした奴!」
 ライコンたちに台詞をとられつつも、フランは声を上げてスネグラーチカ・クーロンへと突撃。
 黒い波を勇敢なギャングたちがかき分けていく。
 その中を――。
「一番槍はもらったー!」
 スネグラーチカ・クーロンを次々と殴り倒しながらレイリーが駆け抜けていく。
 鎖を武器にしたスネグラーチカ・クーロンが左右から同時に飛びかかるも、レイリーはその両方をわざと己の腕に巻き付けてスイング。攻撃した側が逆に振り回される形で吹き飛び、後続のギャングたちを跳ね飛ばしていく。
「貴様らに要はない。目指すは一人! 勝負だ元ラッキーウェスタン代表、ティーガー!」

 鉄パイプを振りかざし一斉に飛びかかるギャングたち。
 寛治は冷静にステッキ傘をマシンガンモードにして構えると、迫るギャングたちへ冷静に掃射しはじめた。
「スイッチ、相変わらずのやり方ですか。では、こちらは一手変化を入れましょう」
 射撃をやめ、反転させた傘の柄でギャングの足をひっかけて転倒させる……と、新田はあえて傘を放り投げた。
「一対一なら、おそらく貴方のほうが強い、ですが前回貴方は私に敗れ、そしてまた今回も敗れる。その理由が分かりますか?」
 そんな彼めがけて跳び蹴りを繰り出してくるスイッチ。
 新田は小さく笑い。『簡単です』とささやいた。

 一方で。
「モリブデンの祭りじゃー!」
 片輪装甲した馬車のボンネット(?)に腰掛け、デイジーは続くギャングたちに呼びかけた。
「こやつらを倒しておなごと子供を守る。バカどもをぶん殴ってお家に連れて帰る。ようはやることはこれだけじゃろ。
 お主らも変に頭を使うことは無い、心と体を燃やして突っ込むのじゃ!」
 湧き上がるヒューグ一家のベイビーズ。猛烈に走る馬車たちを引き連れて、デイジーはスネグラーチカ・クーロンの軍団へと真正面から飛び込んでいった。
「エグザムぅ! クラーク商会の異端児がお主の首を取りに来たのじゃ!」
 そんな波に乗るようにして突撃していく世界とベーク。
「モリブデンの危機とあらば、依頼を受けますが……どこかで見た顔ですねぇ、ぞろぞろと。
 正気でないとあらば。今回は、殴って起こした方が早そうですね?」
 両腕をクロスして飛び込むベーク。
 顔面や腹や背中に鉄パイプが叩きつけられるが、ベークはそれらを気合いで耐えた。
「この程度の傷は、慣れてるんですよ!!」
 両手を突き出しギャングの首を二人分つかみ取り、強引に押し込んで群れを文字通り『押し返し』ていく。
 そんな彼の肩を踏み台にして、世界は群れの真上へとジャンプした。
「相も変わらず敵が多いが、頭数を揃えれば何とかなるというものでもないだろう。その数を覆せる程の力が俺にあるなんて自惚れたりはしないが……」
 振り上げる拳。
 集まる視線。
「今更尻尾を巻いて逃げるなんて真似はできないんでな!」
 拳に込めた白蛇のオーラ。着地と同時に叩きつけた波動が放射状に広がり、ギャングたちをまとめてなぎ倒していく。
 と、そこへ。
 猛烈な速度で突っ込んでくるキリング。
 そして手刀に炎と氷のオーラを纏わせて斬りかかるスカーレット。
 世界とベークはそれぞれの担当に向けて踏み出すと、己の拳で迎え撃った。

 爆音を放ち突き進む真っ赤なバイク。
 プラックはそのハンドルを強く握りしめ、そして前だけをにらんでいた。
 彼一人が走ってくるように見えるだろうか? 否。その後ろより左右に分かれた仲間のバイクが。更に分かれた無数のバイクが、プラックに続いて加速した。
「ライオン! フランの援護に回ってくれ。あそこの傾いてる貯水タンクをぶっ倒す。マッハ! お前は爆破できそうなもんがあったら火ぃつけてまわれ」
「派手ね、いいわよ。それだアンタは?」
「クロウとケリをつけてくる!」
 プラックはウィリー状態になるとギャング達をかきわけ、そしてクロウへ一直線に突っ込んだ。
「……」
 バイクに自ら体当たりすることで強制停止させるクロウ。
 衝撃でプラックは吹き飛ぶが、空中で回転して拳と両足でガツンと着地した。
「白黒ハッキリさせっぞ、アンタが強いか……俺が強いかをなぁ!」
 コートを脱ぎ捨てたプラックに、クロウは振り返る。
 プライドも欲望も、すべてギアバジリカに奪い取られたぬけがらのクロウ。
 いや、彼だけではない。
 キリング、エグザム、スカーレット、ティーガー、スイッチ……彼らは皆、『奪われた』者たちだ。
 そしてきっと。
「――瑠璃雄さんッ!」
 千尋の声が、戦場にこだました。

●間違ってるけど、間違ってない
 貯水槽に結びつけたロープを引っ張って走るフラン。
 スネグラーチカ・クーロンたちの間をジグザグに走り抜けてからぐいと引っ張り、スモークたちに目で合図をした。
 ロープとあちこちの板や箱を駆使してよじ登り、劣化した柱をひとつ破壊することで貯水槽を押し倒すロックたち。
「女の子だからってバカにしないでよね!」
 スプラッシュを背にして、フランは口元の血をぬぐう。
 そして杖を大地に突き立てると、彼女を中心としてモリブデンギャングたちが豪快に飛びかかっていった。

 圧倒的な戦力差があると思われたモリブデンギャングVSスネグラーチカ・クーロン。
 しかし勇敢にぶつかり、そして知恵と仲間への信頼を武器に戦ったモリブデンギャングたちはその戦力差を覆しつつあった。
 ほぼ互角に渡り合う群衆のなか。
「さぁ、キリング。あの日の彼ら、彼女らではありませんが――此度は僕一人でお相手しましょう。ここを通れるとは思わないでください」
 ベークはキリングへと挑みかかっていた。
「……」
 目を赤く光らせたキリングは鋭く助走をつけて跳び蹴りを繰り出し、腕を交差して防御するベークへとたたき込む。
 キリングの強力な攻撃をカットしきるにはベークの防御性能は完璧ではない。
「それは前回似たようなのをもらいましたよ! 何度も通じるとは思わないでください!」
 ベークは拳を握り込み、反撃のパンチを繰り出していく。
 ――のと、同時に。
 世界とスカーレットの拳が交差し違いの頬へと直撃。
 のけぞった世界は血を吐き捨て、同じくのけぞったスカーレットは鋭く世界をにらみつける。
「どうせなら一度でいいから俺を本気にさせてみろよ」
「……」
 両手に纏わせた炎と氷を練り上げ、呪縛のオーラに変えてたたき込んでくる。
 世界はそれを腕でガードし、反撃の拳を打ち込んだ。
 殴り飛ばしたスカーレットが半壊した民家の扉を突き破って転がっていく。一方の世界も身体にかかる強い負荷によって片膝をついた。
 スカーレットの得意戦法に対してメタを張れる彼といえど、一方的にたたきのめせるほど決定的な戦力差があるわけではないようだ。
 そんな世界やベークへ、旧零極連合や元クーロンヘッズのギャングたちが襲いかかっていく。

 善戦しているが、楽勝というほどでもない。ところによっては窮地に追いやられつつある。
 そんな状況のなかで、デイジーは腕組みをしてエグザムと対立していた。
「総員、他は任せたのじゃ。妾はエグザムをやる」
 両手の拳に月の魔力を込めると、デイジーは激しい跳躍によるフリーフォールキックを繰り出すエグザムめがけて飛び上がりのパンチで応戦した。
 空中で衝突。
 もつれ合って墜落。
 起き上がりざまに繰り出した両者のパンチが、両者をそれぞれ吹き飛ばした。
「今日の妾はあまり難しいことを考える気分では無い。
 たとえばお主は元々心根の優しい奴で、クーロン会へ身売りをしたのも理由があってのことかもしれが……そんなこと妾は興味が無い。
 重要なのは、今じゃ」
「……」
 呼びかけてくるデイジーに、エグザムは首をかしげた。
「女子供を浚って燃やして機械を動かす? そんな奴が良い奴のわけがないじゃろ、いい加減目を覚ませ!」
 強い踏み込みから、ガード姿勢のエグザムに黄金の左をたたき込むデイジー。
 月の爆発がおき、エグザムは激しく吹き飛ばされ、そして横転していた馬車に激突。粉砕させた。

 ヒューグ一家と共に走るフラン。
 スイッチ率いるミスフィッツ男子高校の生徒達へ、赤いジャケットを着た男達が組み付いて襲いかかる。
「新田さん!」
「そう……いい状況です」
 寛治はステッキ傘のモードをチェンジし、激しく混在する敵味方の中でミスフィッツ男子高校の生徒だけを狙って射撃していった。
 それをやめさせるべく、背後に回り込んだスイッチがハイキックを繰り出すも、寛治はそれを反転させた傘の柄で防御。
 相手の足をとるとくるりと投げ落とした。
 仰向けに倒れた所で懐より拳銃を抜き発砲。
 しかしスイッチは強引に身体をひねって回避し、その勢いと反動で新田の拘束を抜けた。
「貴方は仲間を使い潰した。私は仲間を信じた。
 仲間が共に戦っているから、我々は奮い立つ。仲間の支援があるから、私はまだ立ち上がれる。
 元番長なら、貴方についてくる仲間を顧みなさい。仲間を信じ、共に戦いなさい」
 立ち上がるスイッチ。
 いまだ戦う生徒達へ振り返り、ハァと強く息をついた。
 そして、作った拳で自分の頬をトントンと叩いた。
「うっせ……俺は馬鹿だからそういうリクツわっかんねーんだよ」
 助走をつけて殴りかかるスイッチに、新田は……それを見ていたフランもまた、苦々しくも笑った。

「護んだよっ! 女も! 子供も! 仲間も!
 そして、拳を交わし合ったお前も!
 洗脳された人形じゃねぇ! 本当のお前と喧嘩する為に!」
 プラックの拳が、もう何度目になるか分からないクロウの顔面へとたたき込まれた。
 吹き飛ばされ転がり、しかしゆらりと起き上がるクロウ。
「この、拳……知っている? 俺、が?」
「寝ぼけんな!」
 再びのパンチ――が、手のひらで止められる。
 クロウは目を見開き、プラックの顔面に拳を打ち込んだ。
 今度は自分が吹き飛ばされて転がるプラック。
 が、彼もまた根性で立ち上がり、にらみ合う。
 二人はずかずかと歩み寄り、リーゼントが潰れるほど額をごつんとぶつけあうと……。
「神である私に説教か」
「聖堂に飲み込まれて洗脳されてた奴がよく言うぜ」
「フン……」
 にやりと笑い、そしてクロウは自らの部下達へと振り返った。
「手ぇ貸せよ獄長。タフさが売りなんだろ?」
「それはこっちの台詞だ蛸髭ェ。連中の目を覚まさせるぞ」

 一方。レイリーの拳がティーガーに直撃し、吹き飛んだティーガーが半壊し蒸気機関車の車両へと突っ込んでいった。
 車両内に横たわり、ゆっくりと起き上がるティーガー。
「今の意志なき攻撃など私の愛馬も鎧も穿てはしない」
「意志なき攻撃、だと……?」
「さぁ、思い出せ! ティーガー!」
 起き上がりざまの肩をつかみ、レイリーは一度のけぞると……。
「戦う理由と信念を……そして、その指弾に込めた誇りを!」
 ティーガーの額めがけて激しい頭突きを打ち込んだ。
「……レイ……リー……?」
 今まで自分は何を? そんな顔をして、ティーガーはその場にどすんと崩れ落ちた。

 幾度となく拳がかわされていた。
 千尋の身体は傷だらけであり、顔はもはやぼこぼこだった。
「これはダメだろ! ……これはやっちゃあダメな事だろ瑠璃雄さん!」
「うるせえ!」
 千尋を掴み、放り投げる瑠璃雄。
 半壊した民家へ突っ込み、屋内を転がった千尋へ追撃のように窓を突き破って突入してくる。
「俺には悲しみを受けきる事はできねえ!
 でも、分かち合う事はできる!
 そのための仲間だろ!
 仲間の絆は『悠久』なんだろ!
 アンタが言ったんだぞ!」
 襟首をつかみ殴り倒そうとする瑠璃雄に対し、千尋は同じく襟首を掴んで叫んだ。
「アンタはいつでも、俺の頼れる兄貴分なんだ!
 また一緒に笑って、ケンカして、カップラーメン食いましょうよ!
 バイクで疾走(はし)りましょうよ!」
 感情と共に繰り出した拳が、奇跡のように瑠璃雄の頬をうち、そして野外へと放り出していく。
 動揺したように目を泳がせる瑠璃雄。
 千尋は彼の前に膝をつき、そして、ポケットから一本のキーを取りだした。
「だから、帰ってきて下さいよ瑠璃雄さん!」

 この日、ひとりの男が友のために泣いた。
 思えばそれが、あまりにも一方的に見えた戦いが決定的にひっくり返った瞬間……だったのかもしれない。

●行方
 大勢力であったスネグラーチカ・クーロンは戦闘中に洗脳が解け、モリブデンギャングへ加わる者たちが続出した。
 そのことにより戦力差が逆転。わずかな数となったスネグラーチカ・クーロンは全滅し、モリブデンは再び守られたのだった。

成否

成功

MVP

伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!

状態異常

回言 世界(p3p007315)[重傷]
狂言回し
伊達 千尋(p3p007569)[重傷]
Go To HeLL!

あとがき

 そして戦いはギアバジリカへ――

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