PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<妖幻惑蒐記>赤の深度

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Sweet Strawberry.
 堅く閉ざされた木の扉。きりりと厳し気な門番に通行証代わりの銀のペンダントを見せて、幾つかの項目が書かれた誓約書にサインを。軽い身体検査の後、扉を潜る事が叶ったならば。其処から先は、宝石の街『エルディタ』である。
 『遺産』の名を冠するその街は、永い歴史を持つ。広大な土地で住民一丸となっての門外不出の宝石魔術の研鑽と、其れに伴う技術の発展で代々を築き上げた来たが故に、今の風景が或るのだと云う。
 冬の深、と冷たい夜闇の中でも石は瞬いて。そして、寝惚け眼の春告鳥が暢気に鳴けば、穏やかな春の先触れ。夢見るジュエリー達が目を醒ますのだ。
 炎の術式を施し、昼夜問わず常に温度と光度の調整が成されたビニールハウスは優しく暖かい揺り籠。大切に守られ育てられているのは、美しく、愛らしく、きらきらしている。今が旬の苺水晶。
 一つの株に幾重もの茎を伸ばし、ゆらりゆらりと揺れる濁り無いペンデロークは華やかで艶やかなピンク。此のハウスの中だけでも幾つかの種類が有るが、他のものより赤みが濃いスーパーセブンと云う品種が食べ頃であった。
 特に、内包する繊細な赤いインクルージョンが雪の結晶を思わせる形を為している物は絶品で、市場には出回らない。贈り物か、この農園に直接訪れての苺狩りでしかお目に掛かれない代物だ。
 何故其の様な、と云うと屹度、水晶は遠い遠い昔、何処かの神様が創造した氷だなんて考えられて居たからに由来するのだろう。
 嗚呼、美味しそうだからって急いで引っ張ってはいけないよ! 実った果実を傷付けず、母体である株を痛める事なく、収穫するのには少しコツが要るものだ。人差し指と中指で蔓を挟んで、ヘタの所から折る様にくるっと捻るのが良い。実を掴んでしまったり、押してしまうと、彼女達の柔肌には直ぐに痕がついてしまう。恥じらう乙女に触れる様に優しく繊細な扱いがお約束。
 そうして採れた果実を一度口に入れてしまえば、君はたちまち其の味に病み付きになるだろうさ。
 甘く、甘く、しゃきりと、まるで本当に苺を齧っている様な食べ心地。じゅわりと滲み出る果汁には甘さの中に程良い酸味があって、其れがもう丁度良い塩梅、此の一言に尽きる。
 其の儘食べても勿論美味しいし、味に変化が付けたかったら、この街でオススメなのは曹達石を砕いたものにちょんちょんと! ぱちぱち弾けるポップロックキャンディが、甘酸っぱい苺水晶と混ざり合い、口内に爽快感のある刺激を与えてくれるのだ。
 此の街では、遺産――夫々の宝石達が持つ意味や言葉を重んじる。例えば、苺水晶であれば美と希望を象徴する石であるとか。疲労を和らげ、活力を与えてくれるだなんてのは成る程、食べてみれば其の甘美でエネルギッシュな潤いに頬も自然と緩む云うもの。

 だが、些細な喜びを分かち合うにも、技術の流出や悪用を恐れ、街は長らく余所者を受け付けず、人の出入りが無い。
 然し、果実が赤らんだ此の季節に、次世代を支える事となる若い者達が客人を招く事を提唱した。街役場での審議の結果『一度に少数ずつ客人の招き入れであれば』と決まりはしたが、如何せん今迄閉鎖的な場所だったのだ、広報やアピールの決め手に欠けていて困ってしまう。
 さてはて、どうしたものか。『一層、悪い人で無い少人数の団体が向こうから来てくれれば』等と云う、何とも弱気な悩みに応えたのが――。

●Eat?
「ねえ、宝石って食べた事は有る?」
 境界図書館。『ホライゾンシーカー』の片割れ、ポルックス・ジェミニが事も無げに何とも奇妙な事を言ってのける。無論、其の様な経験は無い者が過半数を締めるだろう。意表を突かれ目を丸くするイレギュラーズに、『そうでしょう、そうでしょう』とご満悦な様で、得意満面に胸を張った。
「わたしが宝石関連の書棚を整理している時に此の本が落ちて来てね! あなた達を呼んでいるのよ、多分だけれど」
 曰く、其の世界では宝石は人々の生活に密接に結び付いている物であり、街の至る所、暮らしを彩っていて。食用の宝石も多々有るのだと云う。そして今は苺水晶が食べ頃を迎えて居るのだと。
「まあ、想像も付かないでしょうけど、その辺は百聞は一見にしかず! じゃあないかしら? 唯ね、」
 唯、随分と長い間外の人間を受け入れなかった為に、街に入るには幾つかの条件を了承する必要が有るの、と彼女は本に仕込まれた窪みを押し開けると、4つのペンダントを取り出して翳して見せる。
「此れが通行許可証になるわ。ひとり一つずつしかないから呉々も無くさない様に気をつけて頂戴」
 そうしてポルックスが其れを配り終えると、本を片手に指を折り約束事を読み上げた。
「えぇっと何々? 一つ、爆発物や発火物などの持ち込みは禁止。二つ、ハウス内は暑い可能性があるので調節出来る動き易い服装が好ましい。三つ、外部への持ち出し不可の為、お残しはご遠慮下さい。備考、苺水晶を使った変わり種レシピを募集しています……っと」
 成る程ね、としたり顔で頷いた彼女は、イレギュラーズに本を押し付けるとくるっとスカートを靡かせ廻ってピースサイン。
「要するに、ちょっと変わってる街だけど普通に『苺狩り』を楽しみましょうって事よ!」
 さあさ、準備が出来たなら。宝石の街に旅立とう。ぽってり赤に色付いた可愛い子達が、あなたを待っている。

NMコメント

 お初にお目に掛かります、しらね葵(――・あおい)です。
 この度は当ノベルのオープニングを読んで下さり、有難う御座います。
 今作が初めて出すライブノベルなのでドキドキしておりますが、皆様の広い世界の片隅を少しでも彩る事が叶いましたら幸いです、何卒、宜しくお願い致します。

●依頼内容
 苺狩りを楽しむ。
 摘むのは食べ切れる分だけ。お持ち帰りはご遠慮下さい。
 また、農園でお出し出来る範囲の簡単な創作レシピを提案して頂けましたら、街の人々は喜びます。

●世界観
 宝石の街『エルディタ』。
 宝石に寄り添い、宝石と共に生きる街です。
 珈琲のお供のシロップ一つとっても宝石の様な所。
 独自の魔術体系が古より基盤となっており、その特異さ故に今まで人を招くのを拒んでおりました。
 ですが街の人々自身が排他的と云う訳では無いのです。寧ろ外部の方の物珍しさに見物客が多く訪れてしまう可能性が有りますが、声を掛けるも良し、我関せずと気にしないで楽しむも良しです。

●注意事項
 今回の苺狩りが成功すれば、街の人々も様々な催しを此れから考えて行こう! と良い方向に事が進みますが、何かしらのトラブルが起きてしまった場合、若者衆の声は取下げられてしまうでしょう。
 基本はオープニングでポルックスが説明した通りで、ガチガチな訳では有りませんので、プレイングを書く際の参考にして頂ければ大丈夫です。
 緩く、楽しく! 肩の力を抜いて、一足早い春の味をご満喫下さい。


 以上です。皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。

  • <妖幻惑蒐記>赤の深度完了
  • NM名しらね葵
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月24日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ミィ・アンミニィ(p3p008009)
祈捧の冒険者

リプレイ

●"Spring and All"
「よ、よ、ようこそいらっしゃいませ、皆々様! 本日はっ、……わたくし共のお願いを聞き入れて下さり有難う御座います」
 堅く閉ざされた木の扉を潜りやって来た特異運命座標の四名を、エルディタの街の若人達が緊張を滲ませ、早口で口々に捲し上げる様に出迎えた。
 やや屁っ放り腰乍らも、一歩前に進み出た青年は案内人の大役を任されたのだと云う。普段は町役場で働いて居るらしい彼は最初の挨拶から走り気味だった事に照れ臭そうに頬を掻くと、人懐っこい笑みを浮かべ『立ち話も何ですから』と一行を引き連れて歩き出す。
 北の門から緩やかな坂を登って街の東へ。程なくして見えて来たのは、日当たりの良さそうな開けた土地に様々な農作物と植物。そして、辺りでは一等大きいビニールハウスが今日の舞台となる訳だ。
「この街に初めて立ち入る者として、街を興したいと云う方々の為にも、粗相の無い様にしませんとですね」
「まあ、まあ、楽しくやって、序でに街が盛り上がるなら幸いって事で行きましょ」
 巨人族の乙女――ミィ・アンミニィ(p3p008009)が意気込めば、ゼファー(p3p007625)が何処吹く風といった様に飄々と笑う。
「はぇー、食べられちゃう宝石なんてすごいのですよ! メイの好奇心はワクワクなのですよー」
 其の横で、『シティーガール!』メイ=ルゥ(p3p007582) がまだかまだかと跳ねれば、『確かに』と、『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983) も逸る気持ちを抑えられないと云った様子で肯いた。御年五十二歳、メンバーを見返せば黒一点ではあるが、甘いものともふもふした生き物をこよなく愛でる事に於いては女性にも引けを取らぬ。
「今回の企画、是非とも成功させたい所だな」
「勿論。私達の手に掛かれば、頭の固いお年寄りも絆されちゃうわ」
「はいですー! お任せあれですよ!」
「説明を聞いたときは緊張しましたが、楽しいものにしたいですね……!」
 えいえいおう。皆が拳をコツンと合わせれば、青年が炎の術式の描かれた扉を開けた。いざ、美食の赤との御対面!

●"My sweet old etcetera"
 柔く麗かな日差しを浴びて、煌々と。春に恋焦がれる少女の様に色付いた其の姿は、いじらしく。
 確かに、其処には『宝石が実って居た』。まるで、幼い頃にきらりと光る唯の色硝子を無心で集めたお菓子の箱をうんと大きくしたみたいな。――宝箱、と云うのが相応しい光景に、誰かがごくり、と息を飲んだ音が一際大きく、やけに鮮明に聴こえる。
 単に苺水晶と云っても様々な品種が有るのだろう、ハウスの中だけでも土耕や高設といった具合に栽培方法が違い、見渡せば色合いや形にも差の有る所は宛ら本物の苺の様であった。
 息を止めて、何れ位経っただろうか。此れ程の絶景、様々な国や文化、物語に触れる者でも中々お目に掛かれないものだ。静寂を破ったのは一つの手を叩く音。発生源はゼファーだった。
「はーい、ということで今日は集団行動ね! みんなで楽しく苺狩りをしましょう!」
「此れ、ほんとに食べられるだけ食べてもいいのですか? メイはいっぱい食べちゃうのですよ?」
 ふたりが先行し、其の後にミィが小さく軀を縮こめて続く。歩幅を合わせて、中に入れば――嗚呼、なんて、美しい。
「夢の様な機会を下さって、改めて感謝します」
 彼女が案内人の彼にそう言えば、其の背後に恐る恐ると云った感じで佇んでいた農園の長も『たんと食べて行って下さいな』、と破顔する。
「良い宣伝になる様に努めよう」
 最後のゲオルグも恭しく挨拶をすれば、礼儀正しい彼等に皆が嬉しそうに笑うものだから、少しこそばゆくて期待の視線を感じ乍らハウスの中へ、甘く香る苺水晶に吸い込まれる様に扉を潜って行った。

 ――とは言え、見た目は宝石、手に取っても宝石にしか見えない此れが果たして本当に苺の味がするのか、一行には未知数である。ひょっとしたら此処までが綿密に仕込まれた盛大などっきりで、齧ったらとても硬くて痛い思いをするのでは、そう云う疑念すら浮かぶ様な。
 然し百聞は一見にしかず。先ずは一個手に取って、いっせーのせ、で口に含めば。一番外側は薄くパリッとした飴細工の様な食感。其れに続いてじゅわりと広がる果汁はもう。驚きの余り思わず皆の点の様になった瞳が交錯して、考えて居る事は皆同じと識る。
「……嗚呼、此れは苺だわ。完全に苺だわ」
「驚いた、……美味いな」
 咀嚼すればする程に、口内でふわっと苺其の物の香りがふわっと。そして、つぶつぶ感に、脳がリフレッシュされる酸味と、ジューシーな甘味が口の中で溶け分解されていく。ヘタの部分までムラなく味が濃く、本物の苺でも中々味わえぬ逸品にほっぺたがどこかに行ってしまいそうな思いで、つい誰からともなく二個目に手が伸びた。
 触れれば壊れてしまいそうな、未だ小さい仔は避けて。蔓の部分を丁寧に摘み、力は余り入れずに。『こう見えて、細かい事は得意なんです』と笑うのは、深く濃く色付いた苺色の髪の乙女。艶めく甘い宝石を、最初は見た目を楽しんで。其れから実を少し齧って。滴り落ちそうな果汁を舐めとる様に、次は一粒まるっと頬張って!
「ああ、いつまでもここにいたいと思う程に、至福です……!」
「ミィさん、とてもおいしそーに食べられるのですねえ。メイもお腹いっぱい食べるのですよー」
「私では本当に食べ尽くしかねないですから、節度を守って……ま、守れますよ……?」
「お持ち帰り出来ないのが残念だわあ、屹度あの子も気に入ったでしょうに。其れは其れとして私はいーっぱい食べまーす!」
 そうして女性陣がきゃらきゃらと聲を擧げて居るのを見る傍で、ふと外に目線をやれば。いつの間にやって来たのだろうか、興味津々とばかりに見守る顔、顔、顔。若い衆は元より、幼子を抱えた母親や、メイの様な年頃の子供、エプロンとバンダナをして居るのは農家だろうか。様々な人が見てると気付き、無精髭を擦るゲオルグに沸いたのは茶目っ気たっぷりのサービス精神だ。
「ミィ、ちょっと口を開けてくれないだろうか」
「はひっ、私ですか? えぇっと、はい……」
 『あーん』、と笑う男に対して、まるで苺水晶に負けじと頬を染める彼女が苺を咥えれば。『きゃあ』と叫んだおませな女の子と男の子が指の間から此方を見遣っていたり、若いカップルの女性が男性の肘を突く等している姿が見え、そういった層へのアピールは一躍大成功の様に思えた、が。
「ヒュウ、見せつけてくれるわね。じゃあゲオルグ、私のも遠慮なさらず受け取ってくださいなー?」
「メイもしたいのですよ! はい! どうぞ! あーんなのですよ!」
「では、お返しのあーんを……?」
「えっ、いやいや。此れは参った」
 その後の光景には『不埒よ!』だなんて非難の聲が飛んで来るものだから、おかしくて皆でくふくふ笑って。穏やかな昼下がりは過ぎて行く。

●"There was a little girl"
「で、だ。件のレシピの事なんだが」
 皆がたっぷりと苺狩りを堪能し、腹もそこそこに膨れて来た頃。忘れてはいけないもう一つの任務をゲオルグが切り出した。その頃には外で見て居るだけだった人々ともすっかり打ち解けて、暖かいハウスの温度がぐんと上がる程の人入り。
「私からは……やはり、王道の苺水晶パフェを提唱したい」
 その、具材なんかも宝石だったりするのか、と何となく訊けば、家にも寄る様だが、歯応え重視で薄く焼いたドロマイトを砕いたり、ミルキークォーツの粉末を溶いて泡立てたクリーム等がこの街では一般的だと云う。
 『母さん、家に今あったかな』『取って来るわ』と人々が動き出し、他の案は、とイレギュラーズの面々を見つめる瞳には様々な煌めき。
「割と定番、変わり種とは言い難いところだけれど……私としては、この苺を贅沢たっぷり使ったタルトなんて、良さそうかなって」
 特にゼファーの案に目を光らせたのは、甘い物には目のない少女達。『甘いものは多ければ多いほど良い! これは女の子の真理ですわ?』なんて彼女の説にうっとりとした表情を見せた。
「フルーツサンドなどは、如何でしょうか?」
 ミィの案には、食べ盛りの子供が居る奥さん方に特に受けた。しっとりと柔らかなパンに、甘さを控えたホイップクリーム。苺水晶を主役にした其れは、手軽且つ量を多く作れるし、シンプル乍ら見た目も良いものだ。
 一番街人に驚きを齎らしたのはメイだろうか。彼女の提案した3つのレシピには、良い歳をした大人達が熱く議論を交わし始める。老いも若きも研究家肌気質の人々に取って、分量であるとか隠し味と云う言葉に惹かれたに違いない。
「ふふふふー、これはついにメイのお料理の評価される時が来てしまった様ですね」
「後はそうだな、ケーキとか……」
「けーき!」
 一巡して、ゲオルグが言い掛けた其れにメイが食い気味で乗り出して。並々ならぬ執心っぷりに『どうしたの?』とゼファーが顔を覗きながら問うと。
「あのですねぇ、ええっと、メイ、メイ……実はですねー、今日が……今日が誕生日なのですよ」
 両手の人差し指をくるくる回しながら、もじもじと彼女が打ち明ければ、『そりゃめでたい!』と人々が沸く。
「……ふむ、そうとなると矢張り、」
「お誕生日のお約束と云えば、苺の――」
「――ショートケーキ、よねえ?」
 『違いないな』と皆で肯いて。其処から先は、街一丸となっての食えや騒げやの祝宴が催された。中にも、外にも。此れでもかと云う程に苺水晶を載せた苺のショートケーキには、小さな少女と、街の発展を祝う蝋燭が十一本。
 未だ冬の寒さの余韻が残る中、戯けた気の良い春告鳥がうんと大きく『ホーホケキョ』と鳴いて。きらきら眩い宝石の様な、明るい未来の兆しを謳っていた。

成否

成功

状態異常

なし

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