PandoraPartyProject

シナリオ詳細

天国に結ぶ恋

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「ああ、愛! 愛!」
 肉付きの良い体型の境界案内人がうっとりと恍惚の笑みを浮かべながら、古風な装丁の本を胸に抱いて身体をくねらせる。
「愛ってステキよねェ。ステキで不思議で恐ろしい感情。愛の為なら命さえ惜しく無い、なーんて思っちゃったり。そうかと思えば、愛しいあまりに殺したいほど憎くなったり」
 大きな口が三日月を形作る。
「この物語……世界のとある恋人たちはねェ、互いが愛しくって仕方がないの。引き離されるなんてことがあったら、心臓が張り裂けて死んでしまうと心の底から信じているのよォ。若いのねェ。ステキ!」

 境界案内人曰く、恋人たちは良家の産まれの若い男女だ。幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあり、成長するうちに互いを異性として意識し愛を育むようになったと。そして、いつか必ず結ばれて、祝福された幸せな人生を共に歩むと思っていたと。
 その認識は決して間違ったものではなかった。互いの家は経済的に恵まれていて、両家の仲も良好だ。ゆくゆくは……と二人の両親も思っていたことだろう。ある時までは。
 女の家は貿易商であった。その嫡男である女の兄が、任された貿易船と共に海の藻屑と化したのだ。残されたのは年老いた両親と妹である女。そこで浮上するのは後継者問題だ。妹を後継にする道もあったが、父親は他所から婿を取る道を選択した。そして後継とするならば、当然優秀な者でなければならぬと考えた。

「つまりィ、男には商いの才が無かったの。努力はしたし、熱意もあった。女の家も……主に母親がね、色々手を貸しはたんだけど……ねェ?家の存続がかかってるから、やっぱ」
 それまでに互いの両親に当然抗議はしたのだろう。ふたりの未来のために何度も、何度も。だが、駄目だった。そういう事なのだろう。
 三日月が真一文字に結ばれる。境界案内人は眼を細め、値踏みでもするかのようにあなたの顔をじっと見据えた。
「この本の中ではね、今まさに恋人たちが互いの親が雇った男達に追われてるのよォ。ふたりで毒を飲んで心中しようとした所を見つかっちゃったのねェ。色々思い悩んで、今生で結ばれる見込みがないならいっそ……なーんて煮詰まっちゃって」
 あなたの反応を見るために一拍置いてから、境界案内人は「そこで質問なんだけど」と指を二本立てた。
「ふたりを死なせてでも恋を成就させたい? それとも、ふたりを引き離してでも生かしたい?」
 歪んだ三日月に獰猛な獣の牙が覗いた。

NMコメント

 ゴブリンです。心中沙汰です。よろしくお願いします。

 とある世界の港町にて、恋人たちが黒服の男達に追われています。恋は盲目。追い詰められ視野が狭くなった若いふたりは結ばれないならいっそ、と死を選ぶことにしたようです。
 心情重視のリプレイになる予定です。あなたはふたりを引き離してもいいし、引き離さなくてもいい。言いたいことがあるなら言ってもいい。しかし、どうあってもふたりが今生で結ばれる道はありません。

 今回の目標は選択制となっています。相談で示し合わせて同じ目標に目指して行動しても良いし、単独行動で我が道をゆくスタイルでも構いません。
 後者の場合はプレイング内容を加味(+1〜2ポイント程度です)しつつ6面サイコロを振ります。出目の合計が大きい方で決まります。恨みっこナシです。

●目標
【1】黒服を邪魔して恋人たちの心中を達成させる。
 or
【2】黒服に協力して恋人たちを家に連れ帰る。

プレイングの一行目に【1】あるいは【2】と記入して下さい。

●状況
 19世期の欧州風の世界の港町。時刻は深夜です。雲がまばらな明るい満月の夜です。月の光が届く範囲は照明がなくても行動に支障は出ません。
 服毒自殺を阻止された恋人たちは相引き場所となっていた隠れ家を飛び出して埠頭を目指してひた走り、それを4人の黒服の男達が追っています。
 埠頭までは大きな通りを真っ直ぐ歩けば15分で着く程度の距離です。しかし脇道に逸れると入り組んだ狭い路地になっています。恋人たちは黒服を巻く為にそれを利用するでしょう。
 恋人たちがイレギュラーズの目の前を通り過ぎた時点からスタートになります。

ふたりで海に飛び込むつもりのようです。潮の流れの関係で、一度飛び込めば一気に海底まで引き込まれてしまいます。助けようと飛び込めばその者の命も危うくなるでしょう。(イレギュラーズはこの世界では死ませんが、海に入ると2ターン経過後に強制的に本の外へ弾き出されます。)
 ふたりを追っているのはそれぞれの親が雇った黒服の男達です。2人+2人の4人で全員拳銃で武装しています。ふたりを引き離し、生きたまま家に連れ帰るのが彼らの目的です。視野が狭くお互いしか見えていないふたりに介入するよりは黒服に介入した方がスムーズに事が運ぶでしょう。

●恋人たち
 良家の産まれの若い男女。愛する人の事しか見えていません。
 男の名はルドルフ。いくつかの本を出版し、この世界では名の知れた小説作家です。無能ではありませんが商才はありませんでした。
 女の名はマリー。父譲りの商才がありますが性別を理由に後継としては認められませんでした。

●境界案内人
・【貪欲】ムズミ
 ブルーブラッドのような姿をした境界案内人です。(他人の)色恋沙汰が大好きです。ハッピーエンドよりメリーバットエンド派らしいです。
 事前に彼女に言えばだいたいの物は用意できます。便利に使ってください。

  • 天国に結ぶ恋完了
  • NM名ゴブリン
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月08日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
ファルム(p3p007966)
主無き人形

リプレイ

●愛から死への論理によって
「はぁっ……はぁっ……」
 足が重い。息が苦しい。視界が狭まってゆく。
 しかしとて、立ち止まるわけにはいかない。石畳にぶつかるレザーソールの小気味良い足音。何度も、何度も自分達の名を呼ぶ声。どちらもどこか遠い出来事のように響いていた。ただ、繋いだ愛する人の手だけは確かにそこにあるのだという実感が得られた。
 今生で結ばれないならば、いっそ。
 最初にそう言い始めたのはどちらだったか。どちらにせよ、ふたりは躊躇うことなく同じ道を選んだ。
 互いの頭の中で漠然と漂っていた思考が共通の、言葉という形を得たのだ。そうして標がふたりの荒野に打ち立てられ、纏わり付く倫理も道徳も置き去りにしてただ、進む。

●5 3 3 6
 頁を捲った『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)の目の前に月光に照らされた石造りの街が現れた……否、ジュルナットがこの『世界』に現れたのだ。
 さてターゲットは何処だろう。視線を流したその時、ジュルナットのすぐ横を影が走り抜けた。金色の短髪。大柄でしっかりとした背中。 いの一番に動いたのは、ただ一人黒服に手を貸す事を選んだ『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709) 。
 その背中を追って見てみれば、通りの先に逃げる二人と追う四人の男の影が見えた。
「あなた達はどうか知らないけど、わたしは不殺とか考えないで皆殺しを狙うわよ」
 グレンの背中とその先の影を睨みつけていた『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440) が口を開いた。しかしメリーは返事を待つことも、視線を合わせることもなく、小さな足音を響かせて駆け出していった。
 モグラの『モグタン』を抱いた可憐な少女の姿とは掛け離れた――或いは、子供故か――残酷な面を持つメリーらしい言葉であった。
「好き、なら。どうして黒服とグレンはそれを邪魔する? 邪魔することが許される?」
 一方、 『主無き人形』ファルム(p3p007966)はジュルナットを見上げて小首を傾げる。儚く美しい少年人形の愛らしい仕草は誰もが魅力的に思うだろう。しかし同時に、見つめる深紅の瞳からは要となるものがポッカリと欠落した内面が垣間見える。そんな、印象を受けた。
 小さくため息を吐き、ジュルナットは頭を掻いた。おじいちゃんと自ら言うがその身姿は若々しい。しかし彼はハーモニアだ。実際、他の種族ならそう呼ばれてもおかしくはない程度には生き、そして、様々な事を見聞きしてきた。
 吹きそよぐ風が長耳に囁き伝える。愛するふたり、黒服、そしてグレンとメリーが進む路地裏のことを。

●この世の恋の儚さよ
 逃げるふたり……ルドルフとメリーは崩れかけた壁の陰に身を潜めていた。ふたりは良家の生まれだが、愛するのにも人目を忍ばざるを得ない状況になってからはこのような裏路地にも出入りするようになっていた。隠れるのに容易く、見つけるには難い。引き離されて尚愛し合う二人にはとっては今や庭のようなものだ。
 そうは言っても黒服達も素人ではない。逃げても、隠れても、彼らは犬のように追ってくる。オマケに隠れ家にしていた廃屋に踏み込んだその時、そのうちの一人が正確な射撃でキャビネットに置いた毒薬の瓶を真っ先に撃ち抜いたのだ。
 その狙いがどちらかのの心臓であったら、『生きて連れ帰る』という制約さえ無ければ、ふたりの愛の逃走劇は終わりを告げていただろう。
「すまない、マリー。君を苦しめたくなかったのに……僕のせいで」
「いいのよ、ルドルフ。貴方と最期を迎えられるならどんな死に方でもいい」
 ペンだこが出来たルドルフの大きな右手をマリーの華奢な両手が包み込む。
 しかし、睦み合うふたりの穏やかなひと時は長くは続かなかった。
「全く、手こずらせてくれますね」
 静かな、しかし隠し切れない苛立ちが含まれた声。見ずとも分かる。追跡者が破滅と共にやって来た。
「……見逃しては貰えないか。僕にも幾らかの貯えはある。それで……」
「しつこいですね。こっちは受けた仕事は必ずやり遂げるってんで評判取ってるんですよ。……信用は金で買えねえんです。見逃してやる訳がねえでしょ。世間知らずのボンボンがよォ!」
 マリーを庇うように立つルドルフに向かって怒声を浴びせる黒服。最初は穏やかに、しかし、途中で苛立ちを抑え切れなくなったようだ。
 怒声を聞きつけ他の黒服もやってくるだろう。マリーは焦り、逃げ道を探して辺りを見回した。と、その時。彼女はあり得ないものを見た。
 黒服の背後の路地のその先で、小さな人影が立っていた。
「どうして」
 こんな時間、こんな場所に子供が。
 マリーが思わず疑念を口に出したその刹那。人影の手元で何かが光った。

 輝く魔弾。それは声をかける間も無く放たれて、背後からまっすぐに黒服の左肩を貫いた。

「あっ……あ、あああぁ……っ!?」
 悲鳴が響く。痛みには慣れていると思っていた。銃弾の雨だって潜り抜けた。だが、ちぎれ飛び、路肩に転がる己の腕を見るのは初めてだった。
「親の都合で子供に我慢させようってのが気に入らないわ。親は子供の奴隷であるべきよ」
「ぐ、う……クソッ!」
 流した血に滑りながら何とか立ち上がろうとする黒服に歩み寄りながら、メリーは右手を真っ直ぐ突き出す。思い出すのは力で屈服させて来た弱者達のこと。メリーに屈さず殺された愚かな身の程知らず達のこと。そして、とるに足らない存在でありながらメリーを殺した者のこと。
 それからだ。混沌に喚ばれてからメリーは絶対的な強者ではなくなってしまった。何もかも思い通りにならなくなった。今、目の前のにいる弱者を殺せばそんな不満も少しは紛れるだろう。
 浮かぶ魔法陣が輝きながら回転し、力が収束する。輝きに照らされたメリーの顔には愛らしく、しかし残酷な笑みが浮かんでいた。ーーが、その時、
「アンタらも人の恋路を邪魔する憎まれ役、ご苦労なこった。……悪いな、嬢ちゃん。やらせはしねえよ!」
 キザな笑みを浮かべたグレンがメリーと黒服の間に立ち塞がる。黒服は痛みも忘れて呆然とその背中を見上げた。

「おい!見つけ……って、何だお前らは!」
 ルドルフとマリーを見つけるために散って居たのだろう。間も無く、怒声と悲鳴を聞きつけてやって来た残りの黒服達も現れた。そして、予想だにしていなかったイレギュラーズの介入に困惑の声を上げた。
「ただのお節介なおじいちゃんサ」
 困惑する黒服達の背後で大弓をかまえて飄々と笑うのはジュルナット。その傍から、ファルムが軽やかにステップを踏んで躍り出る。
 かつては主人に捧げ、喜ばせたその舞は黒服達の目をも奪った。我に返ったその時には既に、麗しき破滅の魔性が鋭い棘を伸ばして。
 一瞬遅れて弾丸が放たれた。しかしそれはファルムをかすめる事すら出来なかった。華麗な回避は髪の毛一本傷つけることも許さない。
「痛いは気持ちいい、そう主に教わった。気持ちいい?」
「があぁ……!」
苦痛の呻きを漏らし、拳銃を取り落とした黒服の肉体を茨が縛り、食い込み、血を流させる。
 ファルムは主と、主といた部屋、そして主が齎す『愛』しか知らなかった。だから問う。
「どうして望みの邪魔をする?」
 ファルムは死を理解出来ない。しかし、会えなくなることだということは理解した。
 もし、主人がファルム以外の人形を愛したとしたら。もし、ファルムが主以外のものに愛されるとしたら。

 ファルムはその人形も、ものも、壊す。

「どうして、ルドルフでもマリーでもないものが、望みを止める? 死がその望みなら、最上で最高でそれ以外の結末など、ない」

 敵か味方か、突然現れたイレギュラーズをルドルフとマリーははかりかねていた。ただ、逃亡の絶好のチャンスであることはわかった。
「逃がすか……ぐわっ!」
 立ち塞がる黒服の一人の脚をジュルナットの矢が射抜く。狙いは決して獲物を逃さず、しかし大出血を引き起こしかねない太い血管は傷付けることなく巧みに避けていた。
 長年、森の中で狩りを続けて養われた狩人の感覚、そしてジュルナットの人柄があればこそせる技である。
「誰かは知らないが、助けてくれてありがとう!」
 ジュルナットはマリーの手を引き走り去るルドルフに無言で頷いた。
 遠ざかるふたりの背中を見、そして、ふたりが逃走したことに気が付き走り出すグレンの気配を感じながらジュルナットは小さく呟いた。
「やレ、末路の決まった悲しい道の手助けはあまり好きじゃないのだけれどネ……。多く語りかける事もあるまいサ」

●恋の幻想は独占される
 潮の香りが強くなる。あとひとつ曲がり角を過ぎれば、ほら、月夜に照らされた海が見えてきた。
 波はふたりを誘うように輝く。一見、穏やかに見えるが水面下では人の身では抗える筈も無い流れがうねっている。身を捧げれば一直線に静寂の海底へ誘ってくれるだろう。
「最後にひとつ、問わせて欲しい」
 アア、しかし、立ち塞がる人影がひとつ。味方ではないが、敵とも言えない。ついさっきまで知らなかった青年の青く澄んだ瞳がふたりを真っ直ぐに見据えていた。
 貧民街で育ち、一時は未来を諦め投げやりに生きていたグレン。そんな彼だからこそ、ふたりの『現在』が最悪でも折り合いをつけて『未来』に繋げて欲しかった。せめて、愛で彩った自分の心の奥底を今一度見つめ直して欲しかった。
「共に命を絶とうとあの世で結ばれる訳じゃねえ。不幸も幸福もひっくるめて未来を断つことだ。最愛の人をその手で殺す。その覚悟はあるか?」

 ルドルフも、マリーも、静かにグレンを見つめ、そして頷いた。怒りも、悲しみも無かった。それはグレンの真心が伝わったからこそだ。
 運命は賽子のように転がるもので、何かが及ばなかった訳ではない。

 今宵、ひとつの愛が海に消えた。

成否

成功

状態異常

なし

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