PandoraPartyProject

シナリオ詳細

穴持たずのラルベア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 子供たちが、本来なら遭遇するはずのないそれに遭遇してしまったのは、肌寒い森の中で、子供たちが遊んでいた時の事だ。
 それと遭遇した時に、はしゃいでいた子供たちは一瞬にして言葉を失った。
 悲鳴も泣き声も、上げることは無かった。
 本能的なストップが、かけられたからである。
 声をあげれば殺される。
 それが、子供たちにも理解できたからである。
 ――ラルベアという魔物がいる。魔物ではあるが、ベア、つまり野生の熊に近い生態を持つそれは、本来はさほど、人とは関わらない。
 それに熊とほぼ同様の生態を持つそれは、この時期は冬眠に入っており、外を出歩くことは無い。ないはずである。
 子供たちの前に現れたのは、ラルベアであった。平常時であれば何処か愛嬌のある所を感じさせるその表情は、今明確な怒りと、飢えに染まっていた。その気は、子供たちですら容易に感知できるほどで、仮に近づけば、即座に暴れ出すことは分り切っていた。
「ゆっくり」
 子供たちのリーダである少年が言った。
「ゆっくり、後ずさるんだ」
 少年の父は猟師であった。獰猛な動物にあった時の対処法を、幸いにも教え込まれていた。
 目を外さず。
 ゆっくりと後ずさる。
 慌てて逃げれば、獲物だと思われ、追われる。
 故に、視線を外さずに、ゆっくりと逃げる必要があるのだ。
 ――どれほど怖かろうとも。
 目をそらしてはならない。
 それは子供たちにとっては拷問に近いものであったが、如実に感じさせる命の危機が実行させた。
 ゆっくりと、後ずさる。
 ラルベアはその様子を、怒気のこもった眼で見つめている。
 その眼を見つめながら、後ずさった。
 やがて木立がラルベアの姿を隠し、木々がその視線を遮っても。
 ゆっくりと、後ずさり続けた。
 恐怖が、そうさせていた。
 子供たちが大声上げて逃げだしたのは、小一時間ほどかけて後ずさり逃げた直後の事である――。


「はっきり言って、穴持たずから逃げられたのは奇跡に近いですねー」
 と、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)が言った。その表情には、明確に安堵の色が見て取れる。
 穴持たず。一部の猟師たちの間で、『冬眠できなかった熊』をそう呼ぶのだという。穴――つまり、ねぐらを持てなかった熊、というわけだ。
 冬眠できなかった熊は、冬場の餌の少なさから空腹状態に陥っているほか、生活環境のあまりの激変から、非常に気が立っているのだという。出会って即座に襲われる可能性もあり、子供たちが無事に逃げ出せたのは、その判断力もなせることであったが、まさに奇跡的。
「穴持たずは駆除する必要があります。凶暴なのもそうですし、『食料』を求めて人里まで降りてくる可能性が非常に高いからです」
 食料。其れには人間の食べ物はもちろん、人間自身も含まれている。
 穴持たずのラルベアとは、非常に危険な存在であるのだ。
 通常の熊であっても猟師が駆除のために総動員で駆り出されるところであるが、相手はラルベア――魔物種の熊。一般的な猟師では太刀打ち出来まい。
 となれば、荒事の専門家。イレギュラーズの出番だ。
「……悪意で暴れているわけではないのでかわいそうな気もしますが、しかし相手も立派な魔物。人に被害が出てからでは遅いわけでして。そう言うわけで、皆さん、お仕事頑張ってくださいな!」
 そう言って、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出したのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 冬眠できなかったラルベアという熊型の魔物が現れました。
 討伐をお願いいたします。

●成功条件
 穴持たずのラルベアの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 深緑にある人里近い森の中を、冬眠できなかったラルベアが徘徊しているようです。
 イレギュラーズの皆さんには、この森へと赴き、穴持たずのラルベアを撃退してもらいます。
 作戦の決行時刻は昼。周囲は森であるため、若干、足場が悪くなっているようです。戦闘場所によっては、移動や回避判定に、少々不利が発生するかもしれません。

●エネミーデータ
 穴持たずのラルベア ×1
 特徴
  冬眠できなかったラルベアという熊型の魔物です。
  2m近い巨体と鋭い爪を持ち、生命力と攻撃力に秀でています。
  至近~中距離をカバーする物理攻撃を行います。
  至近攻撃には稀に必殺のBSが、近距離攻撃には出血のBSが、それぞれ付与されます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 穴持たずのラルベア完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月06日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
エリス(p3p007830)
呪い師

リプレイ

●深緑の森の中に
 猟師たちは言う。有り得ないものを見たら、それには決して近づいてはならない。
 それは恐ろしい、魔のものに違いないのだから。
 この時期に決して遭遇するはずのない存在。冬眠しているはずの、熊の姿。
 決して近づいてはならない。
 それはとてもとても、恐ろしい存在なのだから。
 ――森の奥から、そんな恐ろしい存在の吠え声が、聞こえるような気がする。
 イレギュラーズ達は意を決して、森の中へと足を踏み入れる。
「余計なお世話かもしれないが――」
 背中からかけられる、猟師の男の言葉。
「くれぐれも、気を付けてください」
「任せてください」
 『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)はにっこりと笑って、そう言ってみせる。
 内心には少しばかりの恐怖はあったが、しかし依頼を受けた以上、それを殺すくらいの胆力は持っていた。
 しばし森を行く。冬の森は少しばかり寂しく、静かであったが、それでも荘厳な美しさを、アルティオ=エルムの森は持っている。だが今は、その美しさの中に、何か恐ろしいものが潜んでいるような気がして、冷たい緊張感が、イレギュラーズ達の背筋を伝っていた。
「最高にイラついてるでしょうし、あちこちに八つ当たりしてくれてる気がすんのよねぇ」
 と、ゼファー(p3p007625)は言う。八つ当たりの跡――それはほどなくして、イレギュラーズ達の前に姿を現すことになる。
 一本の巨大な大樹。その表皮に刻まれた、深い深い傷跡。
 何度も殴り付け、何度も切り裂かれたようなそれは、ナワバリを示す印であると同時に、少しでも飢えをしのごうと、樹皮を齧り取った後でもある。
「……予想以上にイラついてる感じねぇ」
 ゼファーが肩をすくめる。これが、遭遇してしまった人間であったなら……と脳裏に浮かんで、すぐに打ち消した。あまりグロテスクな想像はしたくはない。
「猟師の人の話だと、普段はこの辺が縄張りみたい」
 そう言う蛍の言葉に応えたのは、『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)だ。
「植物たちも……そうだと伝えてくれていますね。……これは、痛かっただろうな……」
 深く抉り取られた大樹の幹に、ラクリマは手をかざす。その傷跡はあまりにも痛々しい。
「ここから注意深く進みましょう。相手も徘徊しているようですし、いつ遭遇してもおかしくはありません」
「そうね。魔熊ラルベア、ただでさえ厄介だもの。それが狂暴化してるならば、なおさら気をつけなきゃ」
 ラクリマの言葉に、『かつての隠者』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)が頷く。アルメリアもまた、植物たちと対話し、ラルベアの情報を探っていた。断片的ながら伝えられる、そのイメージ。荒ぶる魔の熊の姿に、アルメリアは思わず身震いをする。
「穴持たず……冬眠できなかったなんて、お互い不運よね」
 ラルベアとて、悪意を持って暴れているわけではないだろう。飢えと寒さによる本能的な怒りに支配されているだけだ。だが、だからと言って、仕方ないですね、と放っておくわけにはいかない。凶暴化したラルベアは、森の生態、そしてやがて人里へと悪影響を及ぼす。不運とはいえ、狩らなければならない。
「はい……実り豊かな森とはいえ、やはりどうしても、そう言った不運は起きてしまうのですね……」
 『殴り系幻想種』ハンナ・シャロン(p3p007137)は頷いた。冬には冬の実りがあるものだが、それだけで熊の生活を支えることは出来ないという事だろう。
「子供たちが逃げ切れたこと、それだけは間違いなく幸運でしたね」
「あの子の判断は見事でした。敬意を表したく思います」
 ハンナ・シャロンの言葉に、『司令官』桜咲 珠緒(p3p004426)は感心した様に微笑んだ。
「きっとよい猟師となることでしょう。そのためにも、『らるべあ』を仕留めなければなりません」
 珠緒の言葉に、仲間達は頷く。このままラルベアを放置していては、付近に人里に被害が出るかもしれず、今度こそ、子供たちも助からないかもしれないのだから。
 イレギュラーズ達はゆっくりと、辺りを警戒しながら、森林を進行する。見通しの悪い森の中は、さらなる緊張感の発現を、イレギュラーズ達に強いた。風によって揺れる草木の音が、熊の痕跡にも思えてしまう。聞こえるはずのない熊の吐息が、間近で聞こえるような気もした。
 ラクリマやアルメリアは植物から都度情報を聞き出し、同時に足場の安定した、歩きやすいルートの割り出しも行っていた。森の奥深くは、人間が歩くことを考慮してはくれない。少しでも動きやすい道を進んだ方が、突発的に戦闘に入った場合でも、多少の不利は打ち消してくれるだろう。
「森の中って、移動するだけでも大変だな……!」
 緊張を和らげるためか、少しばかり苦笑するように、『刺天の輝虹子』湖宝 卵丸(p3p006737)は言った。湖賊……巨大な湖の上での海賊として暮らしていた卵丸には、あるいは昼なお暗き森の中というフィールドは、まだ不慣れなものだったかもしれない。
「ふふっ、そうですね……でも、その分、森の中は食べ物の宝庫なんですよねぇ……」
 『呪い師』エリス(p3p007830)はほほに手をやりつつ、そう答えた。美味しい食べ物とお酒が好きなエリスである。森には、冬には冬の実りがあるわけで、そう言ったものに思いをはせてみるのだ。
「戻ったら、ご飯を頂きましょう。産地の名物があると良いなぁ」
「そうだなっ」
 にこりと笑う、卵丸。警戒を怠ることは無く、しかし多少は緊張感もほぐれた――そう思った瞬間である。
「――ストップ」
 ゼファーが声をあげた。その瞬間、再び緊張がピンと張りつめる。
 前方へと視線をやれば、そこには巨大な黒い巨体がガサゴソと何かをあさっているのが見えた。よく見れば、それは青い体毛をした巨大な熊のような生き物であった。
 がふ、がふ、と鼻息荒く息を吐きながら、熊があさっているのは小さな植物の類だ。普段は見向きもしないような食料を、熊は今、必死の形相でかじりついている。
「ビンゴね。さて、どうする?」
 ゼファーの言葉に、
「可能ならば、足場が安定している此方側へひきつけたい所ですが……」
 珠緒の言葉に、声をあげたのはアルメリアだ。
「その必要もないみたい……気づかれたわよ!」
 その言葉通り、此方の気配に気づいたのだろう。ラルベアはその巨大な眼を、此方へと向けていた。
 イレギュラーズたちも、その木のうろのような真っ暗な瞳と目が合ったかもしれない。それだけでも分かる。相手が正気を失っていること。此方に気づいた事。そして――。
「新鮮なお肉が八個も、って感じで見てる……!」
 蛍が顔をしかめながらつぶやいた。ラルベアの表情は、現れた獲物に対する執着の色に染まっていた。
「蛍さんを……いいえ、珠緒たちをお肉扱いとは、許せないのです」
 珠緒が憮然とした様子で答えるが、ラルベアに抗議の声が通じるはずもない。
「そうです。食べるのは好きですが、食べられるのはちょっと」
 エリスがそうぼやいて、
「完全にロックオンされたか……気をつけろ、来ますよ!」
 ラクリマの言葉に応じるように、イレギュラーズ達は身構えた。途端、ラルベアは雄たけびを上げて、此方へと突っ込んできた!
「負けないぞ、ラルベア!」
 卵丸が声をあげ、
「申し訳ありませんが、此処で狩らせていただきます!」
 ハンナ・シャロンが魔剣『FOR』を構えた。
「それじゃ、楽しくやるとしましょうか。短い付き合いになるでしょうけど?」
 ゼファーが笑みを浮かべ、『run like a fool』、手にした槍を振るった。空気を震わす槍の音が開幕ベルの代わりとなって、戦いの幕が上がるのであった。

●魔熊、ラルベア
 ラルベアが突撃してくる。それはまるで、巨大な岩が転がり落ちてくるかのような光景である。
「さ、さぁ! ボ、ボクを食べられるものなら、食べてみなさいよ!」
 勇敢にもその前に立ちはだかったのは、蛍である。しかし獰猛な怪物を前に、その声には震えがあった。かざした『国語の教科書』がパラパラとページを分離させ、瞬間的に白き手甲へと姿を変える。
 勢いよく転がり迫るラルベア。その鋭い爪が、蛍へと襲い掛かった。かざした手甲が白き魔力シールドを展開し、蛍はそのシールドで爪撃を受け止めた――鋭い衝撃が、鈍い痛みとなって身体を走り抜ける。
「きゃ……っ!」
 たまらず悲鳴を上げる。眼前には、よだれを垂らした熊が、今にも噛みつかんばかりに蛍へと迫っていた。
「蛍、助けるぞっ! さぁ、お前の相手はこっちなんだからなっ!」
 叫び、卵丸は虹色の斬撃を撃ち放った。森林にかかかる華やかな虹が、青い巨体の熊へと突き刺さる。ラルベアは吠えた。それは痛み故か。しかし、卵丸の表情は険しい。決して致命打とはなりえなかったことを、斬撃の主本人が理解していた。
 ラルベアは卵丸を一瞬、見据えた。お前は後で食う。そのような意図を、卵丸は感じた。相手はもはや、此方を食料としか見ていない――それほどまでに飢え、追い詰められているのか。
「蛍さんっ!」
 珠緒はたまらず叫んだ。急ピッチで回復術式を編み上げた。その賦活の力に反応するように、珠緒の周囲に舞う桜の花弁――『花霞』がほのかな明かりをともす。解き放たれた賦活の力は、蛍を包み込み、身体を巡る痛みを幾分かやわらげた。
「大丈夫、珠緒さん……まだまだっ」
 大切なものの応援を受け、勇気を振り絞って蛍はラルベアへと対峙する。
「此方ですよ、ラルベア!」
 一方、ハンナ・シャロンはその刃を手に、ラルベアの眼前へと迫る。
 振りぬかれる刃は、さながら神聖なる舞のごとく。斬撃がラルベアの肉体を傷つけるたびに、その血が舞を彩る様に散った。
 痛みに、ラルベアが吠える――ハンナ・シャロンを振り払うように放たれた爪の一撃を、後方に跳躍して回避。行き場を失った爪が地を抉り、大きな穴を作り上げた。
「無理はなさらないでください……!」
 ハンナ・シャロンは蛍へと声をかけた。このような攻撃、とても一人でいつまでも抑えきれたものではないだろう。蛍が完全に倒れてしまう前に、自分が前に出る用意と覚悟を、ハンナ・シャロンは持っていた。
「呪縛で縛ります!」
 エリスは叫び、呪(まじな)いを唱える。大樹ファルカウのまじないはラルベアの身体をからめとり、その動きを刹那、止めた。
「今ですっ!」
「了解っ! ガツンと行かせて貰いましょうね?」
 エリスのまじないによる隙をつき、飛び出したのはゼファーだ。その闘気を炎へと変え、手にした槍にまとわりつかせ、力強く放つ斬撃。
 焔の斬撃がラルベアの肉体を裂き、じゅう、と焦げた臭いがあたりに立ち込めた。ラルベアはその毛皮を焔で焼き、肉体を切り裂かれてなお――飢えに苦しむ怒気をはらんだ瞳で、ゼファーを睨みつけた。
 呪縛を解き放ち、放たれる爪の一撃。ゼファーは槍をかざして受け止め、衝撃を殺すように後方へと跳躍。地を擦りながら着地。
「っとぉっ! お腹ペコペコの割には、随分とタフね!」
 苦笑を浮かべるゼファー。イレギュラーズ達の攻撃を受けてなお、未だにラルベアが倒れる様子はない。
「もともと生命力の高い魔物だけど……追い詰められて色々と吹っ切っちゃったのね!」
 アルメリアが些か焦る様子で、魔導書を開く。母によって書かれたという『ウニヴェルズム』が、ページをめくるたびに淡い魔力の光を放つ。
 一方、ラルベアはその身体で、大砲のごとく突撃を仕掛けてくる。一直線に放たれた攻撃を、イレギュラーズ達は何とか回避。
「やっぱりあいつをフリーにさせたら危険ね……足を止めるわ!」
 アルメリアが放つ絶対冷気の魔術が、ラルベアを包み込む。真冬の森に咲いた冷気の嵐が、ラルベアの足元を著しく凍り付かせた。
「足を止めているうちに、一気に仕留めましょう!」
 その冷気を纏うように、周囲に雪が降った――いや、これは冷気ゆえのものではない。ラクリマの紡いだ、幻想の雪だ。その雪は仲間たちの下へと降り注ぎ、傷を癒す。攻撃への後押しとして、ラクリマの編んだ回復術式だった。
「喰らえ音速の一撃……零距離銛打ち術だっ!!」
 卵丸は一気に接敵し、音速のパイルバンカーを叩きつけた。どん、と杭がさく裂する音が響き、ラルベアが激しくたじろぐ。
「まだ……抑えられるっ! 皆、頑張って!」
 蛍はラルベアの動きを抑えながら、仲間達にこぶの一声をはなった。その勇敢な立ち振る舞いに、仲間達は士気を向上させ、ラルベアへと迫る。
「いつも珠緒の前で身を挺して下さる蛍さんを、倒れさせはしません……もちろん、他の皆さんだって」
 珠緒が回復の術式を編み上げる。減りつつあった体力を回復させ、あと一歩を踏みとどまらせる。
 ラルベアがその拳を振り上げ、イレギュラーズ達を迎撃しようとしたところへ、再びの冷気の渦が襲い掛かった。
「アンタは動かさないって、言ったわっ!」
 その前髪に隠れた眼をまっすぐにラルベアへと向け、アルメリアが術式を放ちラルベアを凍り付かせる。ラルベアはバランスを崩し、転倒。
「そのまま……立たせませんっ!」
 叫ぶラクリマの放つ、白い薔薇の鞭が、ラルベアの凍り付いた右腕を斬り飛ばした。これにはさすがのラルベアも、激痛による悲鳴を上げる。
「一気に決着を……!」
「つけるわよっ!」
 ハンナ・シャロン、そしてゼファーがラルベアへと追撃をお見舞いする。振るわれる紫電の斬撃、そして焔の斬撃。二つの斬撃がラルベアを切り裂き――凍り付いた片足を粉砕する。
 ラルベアはそれでもなお、立ち上がろうとした。もはや飢えの本能のみが、ラルベアを動かしているかのようだった。
「このままじゃ、苦しむだけですよね……!」
 痛みに、そして飢えに。終わる事のない苦痛にさらされたその生命を、あるいはこれは救ってやる最後の手段なのかもしれなかった。
 エリスの放った黒いチューブがラルベアを包み込み、黒い呪詛が注入されるとその内部でため込まれた呪詛が爆発するかのように爆ぜた。
 一瞬の苦痛――断末魔の叫び声をあげたラルベアが、ついにその身体を地に横たえる。
 やがて、その怒気がすっかりと収まった時、戦いの決着はついたのであった。

●静かな森に
 桜が咲いていた。
 冬に咲く、幻影の桜。
 それは蛍の生み出したものだ。
「幻でも……貴方の待ち望んでいた、春の桜よ。……偽善かもしれないけど、でも」
「いいえ……蛍さんは、優しいのですから」
 珠緒は微笑んで、頷いた。
「強敵だった……けど、それだけ追い詰められた、って事なのかな」
 卵丸が言った。イレギュラーズ達ですら舌を巻くほどの凶暴さは、飢えという苦しみからもたらされたモノだろう。ラルベアもまた、長らく苦しんでいたのだ。
 もちろん、それを放っては置けなかったわけだから――これは、誰が悪いという訳ではないのだが。
「まぁ、運がなかったとはいえ……別にこいつに悪意があったわけじゃないものね」
 ゼファーの言葉に、答えたのはハンナ・シャロンだった。
「同じく、森に生きる者同士ですから……祈りを捧げる位は、してあげたいです」
 ゆっくりと手を組んで、ハンナ・シャロンは祈りを捧げた。
「そうですね……ラルベアもまた、苦しんだのですから」
 ラクリマも目をつむり、祈りを捧げる。イレギュラーズ達もささやかながら、祈りを捧げた。
「……ようやく、静かに眠れた……という事なのでしょうか」
 エリスの言葉に、アルメリアは頷いた。
「そうね……きっと、そう」
 ラルベアは今は静かに眠り。
 その身体は、人や獣によって利用される。
 そうして命は繋がっていくのだろう。
 暖かい春へ向けて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、穴持たずのラルベアは討伐されました。
 付近の村の住民たちは、皆さんに心から感謝しているようです。

PAGETOPPAGEBOTTOM