シナリオ詳細
星見のシンデレラ
オープニング
●星の夢
くるくる、頭上に星が回る。
きらきら、頭上で月が笑う。
私は星々の娘、誰よりも美しい。
私は星と愛の娘、誰よりも踊れる。
だから、女神様。私を見て。
「だからこんなの、どうってことはないわ」
涙ながらに呟く少女の胸には、無惨に切り裂かれた衣装がありました。
少女には生まれ持った美貌はありませんでしたが、美しい脚がありました。
少女は誰よりも真剣で、誰よりも努力していました。
貧しいなかでも、星の女神《エトワール》を目指してきました。
夢が見えてきたのは先月、街のお祭りに通っているバレエ学校の出演が決まりました。
そして、その舞台のプリマドンナに選ばれたのです。
小さいですが、大事なチャンスです。
これが上手く行けば自信に、何よりもプロの目に止まりやすくなります。
……それなのに…………
●涙はまだ早い
「それでね、その衣装をみんなに直して欲しいの」
いつものように本を掲げてから、ラプンツェルが説明した。……彼女のあれは儀式か何かだろうか。
話は夢を追う少女が、妬みから衣装を破かれてしまったのだ。
彼女は貧しく、学校が用意した衣装を弁償して買い直す余裕がない。
「みんなで協力して、デザインを考える係と縫う係をお願いしたいの」
あと必要なものを買い足す係だね、とラプンツェルが言う。
あなた方の中から質問が飛ぶ。演目を知らないと衣装は作れないから。
「ええと、『コッペリア』。脚が綺麗な人にはピッタリね!」
さあ、行こうとラプンツェルがあなた方の腕を取る。どうやら一緒に来るつもりだ。
- 星見のシンデレラ完了
- NM名桜蝶 京嵐
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年01月30日 22時50分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●Reverence
「やほやほっ、シンディちゃんだっけ、かーいいねー。お人形さんみたーい! あーしは春宮一族の日向ってんの、以後よろしくぅ!」
ラプンツェルに連れられて特異運命座標の四人は、件の少女、シンディと学校長に謁見を終えたところだった。
衣装が壊されしまった事件と犯人の少女たちに関しては、学校長がキツくお仕置きをすることで決まり、衣装の作り直しも許可された。
いまだ緊急気味なシンディに声をかけたのは『桜花壮絶』春宮・日向(p3p007910) だ。
続いて 『蒼天修羅』夏宮・千尋(p3p007911)が風呂敷に包まれた水筒を差し出す。
「これは差し入れだ。落ち込んだ時は腹に物を入れて体を温めるのが良い。ローカロリーで腹持ちもいいぞ」
シンディはそこでようやく、朝から何も食べていなかったことを思い出したのだろう。照れたように頬を染めた。
「安心して。私たちはあなたの味方だから、ね? 」
『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)がシンディの肩に手を置き、そっと励ます。
「本番の直前に衣装がないのは辛いよね。でも折角の舞台だから一生懸命頑張って欲しいな」
『……ま、今回だけは邪魔しないさ』
『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)が背中を押すように擦ってはじめて、シンディは安心したように微笑んだのだった。かすかに聞こえた神様の声は足音に溶けた。
●Tomber
「まずは買うものを決めないとね。裁縫道具はあるのかな?」
ユーリエがツインテールの銀髪を後ろへ払いながら、ラプンツェルとシンディに問う。
「はい、足踏みのミシンが三台。ああでも、糸が少ないかもしれません」
「みんな、なんだかんだで衣装の手直しが多いんだね」
広い部屋に案内したシンディが部屋の隅で、出番を待ち望むミシンを振り返って状態の確認をする。それにラプンツェルが相槌を重ねる。
何よりも衣装はズタズタなので、初めから作る気持ちじゃないと務まらないだろう。
学校長たちが図書館から資料や今回の台本を持ってきてくれたので、デザインを考える準備が手早く終わっていたのが幸いだ。
「スワニルダ役だよな。性格は元気で明るい活動的な村娘の」
足が美しいならば膝丈のロマンチックチュチュがよかろう、と千尋が言えば、すかさずユーリエがチュールをふんだんに使えそうねと同意した。
「上半身はパフスリーブと花の刺繍が入った黒地のベストをモチーフに、下半身は白のエプロン、緑のチュールを幾重にも使ったスカートなどどうだ?」
こういったことを考えるのは好きなのか、はたまた性分か。猛烈な勢いで千尋は衣装デザインの案を出していく。
それを受けてユーリエが使えそうな生地や飾りの材料を紙に書き出す。
そこへ、はい、と控えめにティアが手を挙げる。
「色味がシンプルなので、頭飾りや小物で鮮やかにするのはどうでしょうか?」
そのくらいなら作れますしと、言い添えられた案は採用されて、採寸や細かいデザインを考えるグループと必要なものを買い物するグループで別れることになった。
●Pas Couru
買い物のメンバーに選ばれたのは、手芸用品のお店のメモと地図を持つラプンツェルと目利きに自信のあるユーリエ。それから荷物持ちを申し出たティアだ。
活気ある街を地図を便りに歩き、時には通行人に聞いたりしてたどり着いた手芸用品のお店はそれなりに大きく、店内地図をこまめに確認しないと迷子になりそうだ。
「まずは生地を見ましょうか。一階奥のフロアーですね」
店内地図で確認してからティアを先頭に、生地を探す。緑のチュールと一言に言っても色の濃度や彩度によって印象が変わる。
「明るい緑だと浮くよね?」
「でも柔らか過ぎても映えませんね」
ユーリエとティアが並んだチュールを手に取りながら、慎重に吟味する。
柔らか過ぎても地味だが、明るい色も合わない。難しく楽しい仕事だった。
議論の末に深みのある緑とソフトライトの緑、その中間の緑に決まった。
贅沢に三色のグラデーションで作ろうという話になったからだ。
続いてパフスリーブとエプロンの生地を見る。
ここは同じ生地の方が映えるだろうと店員とも相談して決まったのだ。
「光沢のある生地はどうでしょうか? ポリエステルツイルやシルクなどがおすすめです」
店員が生地の見本帳を持ってきて、ポリエステルツイルとシルクの生地を見せてもらう。
「私の好みはポリエステルツイルですね……。伸びますから動き易いと思います」
「そうね。それにこの光沢なら映えるわ」
生地を決めて店員に売り場へ案内してもらって、色味を決める。
白は一目見て、サンプルの純白で決まったが黒が決まらない。
シンディの艶やかなラズベリーブラウンの髪とヘーゼルの瞳を思う。あの可憐な娘に合う黒。
「……あの黒…………」
ティアが頭の上にある黒のポリエステルツイルを見つめて呟く。釣られてユーリエも見上げる。
それはほんのり温もりを感じる、美しい黒だった。
三人が見つめ合い、手を握って見つけた喜びを分かち合う。
●Pirouette
さて、買い物チームが理想の材料を調達していた頃。裁縫チームはシンディの採寸をしていた。
「足だけじゃなく体もキレイに見えるようにしてあげるっ!」
採寸の結果から型紙を割り出しながら、日向がニコニコと楽しそうに語る。
衣装の細かいデザインを画用紙に書き込んでいた千尋も「もちろんだ」と同意を示す。
「貴殿がここまでこれたのもひとえに研鑽を積んだからだ。努力は貴殿を裏切らない。なら我々も裏切ることは出来ない」
そう筆を止めたところで買い物チームが学校の作業室へ帰ってくる。三人分のただいまが朗らかに響く。
まずティアが空いている作業台に黒と白のポリエステルツイルを置き、次に作業室に入ったユーリエが三色のチュールを置く。
最後に小物の為に買い揃えたリボンや接着芯、フローラテープなどが入った袋を持ったラプンツェルが作業台に置いた。
「一応、少し余分に買ってみたよ。足りないといけないから」
受け取った日向と千尋が確認の為に少しだけ広げて、シンディの肌に当ててみる。
「いーじゃん、いーじゃん! 発色キレイだし丈夫で伸びるし、あーしはOK!」
チュールを手に取って確認をしていた千尋も重ねて見たり、離れて見て頷いていた。
「うん、良いな。確かに三色でグラデーションを作れば舞台上の見映えはより良いものになる」
小物の資材が入った袋も確認を終えて裁断と裁縫が始まった。
まず日向は型紙に沿わせつつ大きめのサイズで裁断、それを手縫いで軽く縫い合わせてからシンディの体に宛がう。
バレエ衣装の基本は体のラインを美しく出すので、とてもタイトだ。
しかしタイト過ぎると大きく動いたときに支障が出て、突っ張りや擦れの原因となるので細かな確認と調整が必要となる。
その為、仮縫いだけは手縫いすることになってしまう。
「どう? 平気?」
「脇の下をもう少し……ああ、良い感じです」
この仮縫い作業を何度か繰り返してシンディにフィットするラインにするのだが、女の子ばかりだからか、下着姿で脱ぎ着を繰り返す光景に抵抗を覚えるものはいなかった。
ラインが決まったところでちゃんとした縫い合わせをすべく、日向が足踏みミシンへ向かう。
その間にティアとユーリエ、そして千尋の三人で髪飾りと小物、それから衣装に張り合わせる刺繍を製作する。
一切の妥協もなく作業を進め、特異運命座標の四人が休んだのは学校長とラプンツェルが夕食と宿の用意に呼んでくれたときだった。
●Arabesque
「で、できたーーー!」
二日めの夕方。足踏みミシンの板を踏み込むガタンという音が止むのと日向の叫び。果たしてどちらが早かったか。
とはいえ、最終確認がまだなのでシンディに出来上がった衣装を着せて、動きに支障がないかを確認してもらう。
「……うん、大丈夫です。ありがとうございました!」
そう言って頭を下げたシンディに四人はようやく、歓声をあげてハイタッチをかわす。
ーー三日後、五人はシンディの楽屋でメイクとヘアセットを担当していた。せっかくだからと頼まれたのだ。
「持って生まれたボディラインだけは神様のギフトじゃん。だから自信持って舞台へ飛び出すだけでいーの! 応援してるよん」
ファンデーションとチークでソバカスを消した日向が頬を押し上げる。
「あなたは他の誰よりも素敵な女の子。だから大丈夫です」
ティアがアイシャドウと口紅をひいて顔をあげさせる。
「舞台では一人きりだ。誰も助けてはくれん。だから貴殿はただひたむきに踊るが良い。健闘を祈る」
へアセットをまとめた千尋が手を差し伸べて立たせる。
「さあ、いってらっしゃい。可憐で美しい私たちのお姫様」
最後に衣装のコルセットを締めたユーリエが背中を軽く押す。
見送られて、堂々と舞台にあがるシンディ。
優雅に、楽しそうに踊る姿は美しい。
パフスリーブと花の刺繍が入った黒地のベストが清楚に煌めいて、白のエプロンが小さく舞う。
そして三色の緑を使って惚れ惚れするグラデーションを作ったチュールのスカートが美しい脚を彩った。
まさしくシンディこそが、星の天使《リトルエトワール》に相応しい娘。
終幕、会場から、否。舞台袖からも、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
ブラボー! すてき! 君こそ未来のエトワールだ!
など、たくさんの声があがる。それを聞いて笑い合う。
「妬みは怖い、けれど」
「ええ。努力しない理由にはなりません」
「ブラボー!」
「これで一件落着。めでたしめでたし、だな」
こうして見事、衣装を作り上げて未来の星の女神《エトワール》を救ったのだった。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
明けましておめでとうございます、桜蝶 京嵐です。
今年もよろしくお願いいたします。
今回はエトワールを夢みる少女を助ける物語となっています。
ラプンツェルはたぶん買い物に付き合います。
なので、デザインを考える係と裁縫担当がいらっしゃれば何とかなるかと思います。
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