シナリオ詳細
怪盗は今日も元気です
オープニング
●とある夜
「いたぞ! 回り込め!」
夜も更け、月の淡い光が照らす街。空は静かであるというのに、地上は騒がしさに溢れていた。
人工の光が大きな屋敷を中心に当て、また幾重にも空に伸びては周囲を明るく照らしている。しかし、光の筋が捉えたいのは屋敷でも、夜の空でもない。たった一人の男だ。
その男が、屋敷の屋根に立っていた。その背中には、何か板のようなものを包んでいる風呂敷を背負っている。
何十人という警護兵の視線を浴びている屋根の男は、自分を見ろと両の手を大きく広げる。
「私はリィィィィップ、リィィィッング!」
夜の空を背にして、男は高らかに名乗りを上げた。同時に、男の足元から無数の薔薇の花びらが舞い上がる。花びらは不自然な風に乗っては男を中心に渦を巻き、その姿を隠してしまう。
「確保しろぉ!」
やっとの思いで屋根まで登った三人の警護兵が、主の命令を受けると同時に薔薇の渦に飛び込む。
だが、彼らが掴んだのはただの空。辺りに薔薇の花びらだけが散らばっただけである。
「ふははははっ! 私と彼女は結ばれているのだよ!」
リープリングと名乗った男の姿は、消えていた。
その場には彼の笑い声だけが残り、夜の闇に木霊となって響き渡っていく。
●次の花嫁
幻想の都の一角にある貴族邸。そこにある手紙が届いた。だが、配達員が届けたものでもない。窓と窓の隙間に差し込まれていたのだ。まるで、恥ずかしがり屋が出したラブレターのように。
そして、手紙の内容もラブレターそのものであった。そこには差出人の甘酸っぱい想いがこれでもかと書かれている。君はとても美しい。君の事ばかり考えてしまっている。君の傍に居たい。そんな言葉がつらつらと並んでいる。
しかし、読んでいる方は愛されているとも嬉しいとも、そう言った気持ちは一切沸いてこない。
沸いてくるのは、恐怖、焦り、殺意。黒い感情だ。
この手紙の宛て名は『朱の海』。差出人は怪盗リープリング。
「……ぐぐぅ……舐めおってぇぇっ!」
この館の主である男――ジョルジュは、ラブレターを怒りの余りに握りつぶしてしまう。
朱の海というのはジョルジュが大金をはたいて入手した自慢の宝石だ。専用の台座とケースを用意し、家宝と扱いながらも居間に飾られている。朱の海は、ルビーのような美しい赤色の宝石であるが、覗き見ると差し込む光の加減で石の中に海があるように見える不思議な石であった。
その宝石に恋をしてしまったのが、ラブレターの差出人である怪盗リープリングである。リープリングは少し前から姿を現した怪盗である。縦半分の金属で出来た仮面と黒のマントを付けた男。体格は細く、動きもかなり軽快で屋根から屋根へと軽々と飛び移る事ができる身体能力を有している。どんなに分厚い警護を付けたとしても、あざ笑うかのように警護の隙を突いて盗みを成功させてきた実力のある怪盗であった。
つまり、このラブレターは予告状なのだ。挑戦的な内容で、犯行時刻まで書かれている。
以前にもリープリングは、別の貴族の館に保管されていた美術価値が高い一枚の絵画を鮮やかな盗みを成功させている。
「私兵を集めろ! それギルドにも依頼を出せ! 朱の海を絶対に守り通すのだ!」
怒りの感情に包まれたジョルジュは長年雇っている付き人に、悪趣味な怪盗から宝石を守り通せとの指示を出した。
●ギルドへ
「というわけで、怪盗の確保なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、ギルドへ出された依頼書と資料を机に広げた。
その資料には怪盗リープリングの事が書かれた新聞も混じっている。その記事によれば、リープリングは芸術品、美術品を盗み出す怪盗だと前置きしつつ、直接取材に成功した際には『美しい物は美しい者に恋をする。彼女達が言うんだよ。私を傍に置いて、と』と語っていたと書かれている。何はともあれ、身勝手な犯行理由であった。
「依頼主さんであるジョルジュさんは私兵も使ってくれても良いとおっしゃってくれているので、皆さんと協力して守って欲しいのです。あ、これは屋敷の見取り図なのです」
ユリーカが現場となるジョルジュ邸の見取り図を集まった冒険者たちに手渡していく。
ギルドと怪盗。ある意味で似たもの同士ともいえる戦いが、始まった。
- 怪盗は今日も元気です完了
- GM名橘 遊輪
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月19日 21時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●警備
警戒態勢が敷かれたたジョルジュの屋敷。怪盗リープリングの盗みに備えて、イレギュラーズ8名と警備員10名が宝石『朱の海』の防衛体勢が整えられている。
「美しい物は美しい者に恋をする? ようわからんが確かに『濃い』言葉じゃな」
その屋敷の屋根に『飛行する樹』世界樹(p3p000634)が待機しており、その隣では『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、その屋根に蝋を塗っていた。
「ゼッタイに高いところに登ろうとすると思うんだ。ナルシストだろうしね」
イグナートはそう世界樹と話しながら、ついでに屋根に妙な仕掛けがないか確認をしていた。
その屋根から見える中庭には、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が2名の警護兵と今夜の打ち合わせをしている。
「通常は巡回警備で。それと居間には絶対に入んなよ」
その注意に、警護兵はこくりと頷く。
「お、やってんな?」
そこに『いっぴきおおかみ』クテイ・ヴォーガーク(p3p004437)が二人の警護兵を引き連れて顔を見せた。屋敷を一通り巡回し終えた後のようだ。
「ちゃんと見とけよ、超重要だぜ?」
互いに連れている警護兵と面合わせをさせると、クテイは自分が連れてきた二人の警備に小声で伝える。顔を覚えさせることで、リープリングの変装を見破る確率を少しでも上げる効果が期待されている。
一方、『朱の海』が置かれている居間は張り詰めた空気に包まれていた。中は依頼を受けたイレギュラーズのみ。外側の扉には警護兵2名が見張っている。
「…………」
居間の唯一の出入り口である扉の横には、『緋鞘の剣士』レオンハルト(p3p004744)が静かに腰を下ろして、周囲に異変は起きていないかと耳を澄ませている。
“みにゃー”
そんな緊張に満ちたこの部屋に、相応しくない声が響く。猫の鳴き声だ。
「何か変なのでもありましたか?」
その猫の相手をしているのは、『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)である。この猫は彼がこの屋敷の前で拾って来たものであった。簡単な意思疎通も出来る牛王は、まさに猫の手を借りてリープリングの対策を行っていた。この猫には既に警備員やイレギュラーズの匂いを覚えさせている。何かあれば知らせてくれるだろうし、もしもの時は動いてくれるだろう。
「頼むぞ」
愛くるしい猫の頭を撫でているのは、銀髪の少女。
『ギ……ギギ……』
その少女の傍には3メートルはある鉄の巨人、『狂気の磔台』忌名 ベイン(p3p002514)が立ち、金属が軋む鳴き声を上げている。銀髪の少女はベインの分身であり、基本的な会話は彼女が行っているのだ。
居間は三人のイレギュラーズによう厳戒態勢。並みの強盗ならば裸足で逃げ出すだろう。
また、遊戯室には『ドブネズミ行進曲』パティ・ポップ(p3p001367)が二人の警護兵を連れて探りをいれている。
「んー、何も変な所はないでちね」
この小さな身体でも、リープリングを止める力は秘めているのでイレギュラーズの存在は大きい。
屋敷の外も中も、イレギュラーズと警護兵によって強固な砦にもなっているように見えていた。
●予告時間
夜も更け、リープリングが犯行予告で指定された時間が迫っていた。あと5分足らずで、日付が変わる時間だ。屋敷全体が、昼間以上に張り詰めた空気に包まれる。
『朱の海』がある居間には、ベイン、レオンハルト、牛王、そして遊戯室から移動したパティの4名。応接室には屋敷の主であり、『朱の海』が入っているケースの鍵を唯一持っているジョルジュを護衛するイグナートがいる。屋外には世界樹とジェイクがリープリングを待ち構え、さらに屋敷全体を巡回するクテイもいる。
どこから、どんな手段で来るのか。既に潜入しているのか。誰かに変装しているのか。隣にいるのは、本当に仲間なのか。そんな疑心暗鬼が、時が進むにつれて肥大していく。
そして、時計は日付が変わる時刻を示した。
「っ! 上だ!」
聞き耳を立てていたレオンハルトが何かを察知し、叫ぶ。
瞬間、居間の天井の一部が巨大な爆発音と共に四散した。
「なんでちかっ!」
パティが叫ぶ。
天井が崩れた部分から白い煙が落ちては居間を満たし、ツンと刺激のある匂いをまき散らしている。毒ガスの部類ではなく、単純に爆発物による煙のようだ。
「おぉ、『朱の海』よ。迎えに参りました」
2階の寝室から居間へと、強引に爆破して降り立ったのは、縦半分に割れた仮面に黒のマントを装備した男、怪盗リープリングであった。
「いつの間に潜入を……っ!」
「最初からさ。あぁ、彼女と近いようで遠いこの距離で、この時間まで待ち続けるのは苦痛であったよ……」
牛王の問いに、リープリングは己に酔いしれつつ素直に話す。彼は、イレギュラーズが来るよりもずっと前から、今の真上にある寝室に隠れていたのだ。物音一つすら立てず、気配も消して……。
「ギ……ギギギ……っ!」
姿を現したリープリングに、ベインが前へと出て蹴りを放つ。
「おっ……っとっと」
嵐のようなベインの連続の蹴りは、何とかギリギリでリープリングに躱されてしまう。
「おぉ……やはり、お前達はただ者ではないな。だが、私と彼女の運命の糸を千切らせるわけにはいかない!」
食らえばただではすまない。そう理解したリープリングの中に、初めて焦りが生まれるが、すぐに『朱の海』の事を考えて、自らを鼓舞する。
「おっと」
「取らせませんよ?」
だが牛王が放つボウガンの矢は、リープリングの精神に休める暇を与えない。何とか察知して回避をしたリープリングだが、そこらの警護兵とは違うプレッシャーに押されてしまう。
「近づけちせないでちよ! 叩きのめちゅでち!」
「彼女はお前の物になりたくないそうだ。怪盗」
その『朱の海』が収まっているケースの前にはパティが、リープリングを近づけさせないと威嚇する。さらに、レオンハルトもケース前でリープリングを待ち構えている
ベインの蹴戦に、牛王のボウガン。さらにケースを守護するパティとレオンハルト。これを強引に突破するのは、無理があるだろう。
「ならば、彼女から来てもらうまで!」
すると、リープリングは服の袖から一本のワイヤーを撃ち放つ。そのワイヤーの先には吸盤が装着されており、『朱の海』が入ったケースとリープリングが一本のロープで繋がる。
リープリングが腕を引っ張ると服袖から伸びたワイヤーが自動で巻かれていく。ワイヤーの吸着力は強く、なんとケースごと『朱の海』を手元まで呼び寄せた。
「そんなのありでちか!」
「させるか」
レオンハルトが、『朱の海』が入ったケースを入手したリープリングに迫る。抜いた剣を振り上げて、一気に叩き斬る。
「彼女バリアァァァッ!」
「ちっ!」
それは誰もが予想していない防ぎ方であった。リープリングはあろう事か、『朱の海』が入ったケースを盾にしたのだ。
直撃しかけないと咄嗟に剣の軌跡を変えたレオンハルト。振るった剣はケースを破壊し、中の『朱の海』は無傷のまま宙に投げ出される。
「もらいました!」
それをキャッチしようとしたリープリング。だが、それよりも素早く動いた者がいた。
“にゃあ”
牛王が連れて来た猫であった。その柔らかい肉球で、投げ出された『朱の海』をキャッチする。しかも、貴重な物であるという事が分かってか、爪も仕舞われていた。
流石にこれは予想もしていなかったリープリングは、思わず呆気に取られてしまう。
「貰った!」
これを好機とみて、イレギュラーズが一斉に攻撃を仕掛ける。
パティ、ベイン、レオンハルトの三人による格闘術は、身軽なリープリングに受け流されてしまうが、それでも何発かはダメージを与えることに成功している。
「くっ……これでは……この私が……彼女を目の前に一度引く事になるとは……」
状況は不利。そう結論付けたリープリングは、初めての敗北を認める。
「ですが、私はまた再び現れよう! さらば!」
敗北宣言をしたのと同時に、リープリングは開いた天井に向けてワイヤーを射出させ、巻き取らせてはその身を上昇させた。さらに靡くマントから、ボトボトと複数の球が居間へと落としていった。
その球は閃光、煙幕、衝撃を放つ、かく乱手段のオンパレードであった。それが一斉に起動し、居間を光と煙と音のパレード会場にさせた。
「っ!」
地獄となった居間であったが時が経つにつれて、それらは晴れていく。この場にいる全員、閃光などのかく乱には対策していた為、そう混乱は起きてはいない。
「手ごたえはありましたね」
自分のボウガンを見つつ、牛王は呟く。光と煙と衝撃の中、牛王は、二階へと上昇していくリープリングに向けて矢を放っていたのだ。その矢の軌跡は、確かに命中したと確信するものである。その証拠に、床には数滴の血痕が残されていた。
「あとは外の皆に任せよう」
ベインの分身体が、猫から『朱の海』を回収しつつ呟く。目標の防衛には成功した。あとはその身柄の確保だけである。
●外での攻防
「逃がさない! 死ねぇぇぇぇッ!」
屋敷の屋根の上で、リープリングとイグナートが対峙していた。
リープリングは2階に行った後、屋根の方へ登っていたのだ。そこから逃げ出すつもりであったのだが、そこにはイグナートがまるで先読みしたかのように待機していたのだ。本人曰く、直感でここに来ると思っていた、と。
イグナートは既に依頼人の安全は確保していた。屋敷内で起きた爆発音を聞いたのと同時にその役目は完了し、あとはリープリングの確保に向かうのが最適であると判断していた。
「むぅ……しつこいですね」
イグナートの剛拳がリープリングを追い詰めていく。リープリングの右腕は赤く濡れており、動きが鈍い。牛王が撃ったボウガンによる傷のようだ。その傷のせいか、イグナートの拳は受け流す事は出来ず、大きく避けなければならないでいる。徐々に後退していくリープリング。
だが、その逃げ道ですらも塞ぐ者がいた。
「わりぃが料金分は働かせてもらうぜ」
ジェイクである。中庭から、マスケット銃で屋根にいるリープリングをしっかりと狙っていた。リープリングが後退する先を射撃し、それ以上は引き下がれない戦況を作り出す。
「もらったぜぇ!」
さらにリープリングを追い詰める援軍が現れる。クテイだ。大きく助走をつけてから飛び上がり、両の手を組み合わせた拳を勢いに乗せてリープリングの頭部に叩き付けた。
「おげふっ!」
衝撃と痛みで、屋根の上を転がり回るリープリング。頭に重たい一撃を頂いた為か、視界が定まっておらず、立ち上がりはすれど、ふらついていた。
「うぐぐ……貴方達、私でなければ本当に死んでいたかも知れませんよ!」
「うわっ、こいつ自分で言いやがった」
「大丈夫オールドワンジョークさ。死なないテイドに殴るのがオレの本職だからね!」
クテイとイグナートが意外にも丈夫なリープリングを見る。まだまだ拘束するには弱らせる必要がありそうな様子だ。
そして、二人は同時にリープリングに攻撃を仕掛ける。
「どんどん行くよ」
「何のぉ! 彼女の事を思えばこそぉぉぉっ!」
イグナートは得意の拳をリープリングに振るっていく。だが、『朱の海』に対する愛が為している事なのか、リープリングはふらつく身体を気合のみで正常に戻し、イグナートの拳に対応していく。
しかし、元よりイグナートも当てるつもりはない。狙いはリープリングが後退する先にあった。
じりじりと引き下がるリープリングの背後には、クテイが既に回り込んでいた。
そして、その距離が近づくとクテイが瞬時にリープリングに組み付く。
「おらぁっ!」
「あばばばばばっ!」
気合の入った声と共に、クテイはリープリングを勢いよく投げ飛ばす。投げたリープリンの身体は屋根の上では寝転がり、最後には出窓部分に衝突した。
これだけ痛めつけたというのに、リープリングはまだ起き上がる。
「くっ……だが……彼女の愛に応えなければ、私は……うぐっ!」
よろよろになりながらも立ち上がるリープリングに膝を付けさせたのは、中庭に居るジェイクの狙撃であった。左脚部に狙いを付け、見事にそれを撃ち抜いたのだ。
「次はお前の頭を撃ち抜くぜ!」
ジェイクのマスケット銃は、まだリープリングに向けられている。
右腕、左足は傷を負い、身体も打ち身でボロボロだ。もはや、『朱の海』への愛で、どうこうと出来る負傷ではない。
「さぁ、お縄について……何っ!」
クテイがリープリングを拘束しようと近づいた時に、それは起こる。
リープリングの足元から不自然な風の渦と無数の薔薇の花びらが吹き荒れた、舞い上がったのだ。薔薇の花びらが彼の姿を覆い隠し、風が止むと同時にひらひらと屋根の上に落ちていく。
先ほどまで居たリープリングの姿は消えていた。
「あっちだ!」
その行き先は、ジェイクが見つけていた。丁度、先ほどまで居た屋根とは正反対の位置に、リープリングは立っていた。
「ふははははっ! 今宵は私の負けを認めよう!」
両の手を広げ、マントを靡かせ、ボロボロの身体に走る痛みに堪えながらも恰好を付ける為に胸を張っていた。
「だが、忘れるな! 我こそはこの世の美を愛し、美に愛され、全てを愛する超越者! その胸に刻めっ! 我が名は、リィぃっぷぇっ!?」
そんな彼に、空から水がプレゼントされた。リープリングの言葉を最後まで言わせないと頭上から降った水は、まさに冷や水である。
その水を落としたのは、ずっと空で待機をしていた世界樹であった。
あまりにも唐突に起きた出来事に、場の空気は凍る。
「みんな一生懸命、下で警備しとるんじゃぞ! 何故空気読んでちゃんと下で捕まらんのじゃ!!」
「えぇい、何をする! 人が決めている時に邪魔をするな!」
「うるさいのじゃ!」
「あいたぁっ!」
さらに世界樹は空となったバケツをリープリングに投げ捨てて、ぶつけていく。
あれほど緊迫していた空気は、既に消え失せていた。この場に居た誰もがこう思った。あぁ、リープリングはバカなんだ、と。
「ぐぬぬ……とにかく! 私は諦めない! また傷を癒したら、彼女を救いに、あっ」
気を取り直したリープリングは叫びながら、この場から逃げ出そうと屋根の端に足を踏み出した瞬間に、それが起きた。
「あ」
4人のイレギュラーズは、そんな間の抜けた声を、つい出してしまった。
リープリングが、屋根から滑って中庭へと落下したのだ。
「あ、そういえば蝋を塗っておいたんだった」
イグナートが昼間にしていた事を思い出す。まさかこんな形で効果が表れるとは思ってもおらず、本人も先ほどまで気の抜けない攻防をしていた為にすっかりと忘れてしまっていたようだ。
濡れた体が余計に蝋の滑りを加速した結果、屋根から見事に滑って落ちてしまったリープリングは……。
「…………」
打ちどころか悪かったのか、気を失っていた。
「えーと……所詮は怪盗も重力に魂が縛られている存在じゃった、みたいな?」
テヘっ☆ と、世界樹はわざとらしい笑顔を作って、謎の誤魔化しを行う。それなりに今までの空気を壊してしまった自覚はあるらしい。
「怪盗はどうなりまちた……か……?」
今からでも援護ぐらいは出来ないかと、パティを始めとする居間に居た仲間達が中庭に入って来たのだが、大の字になって倒れているリープリングの姿を見て、気を抜いてしまう。
ギ……ギギ……。
「……とりあえず、縛ろう」
ベインの分身体がそう呟く。
気を失ったリープリングの装備を外し、逃げるどころか指一本すら動かせないようにロープで簀巻きにしていった。
こうして、怪盗リープリングの物語は終わった。
●後日談
「いやぁ、本当に皆さんにはお世話になりましたよ」
今回の依頼主であるジョルジュが、満面の笑みで『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)に事後報告をしていた。あの後、リープリングが美術品を保管しているアジトの場所を吐きださせ、今までに盗まれた美術品を元の持ち主に戻したのである。
その持ち主達も戻って来た事を喜んでいた。
わざわざギルドにまで足を運んで礼を述べに来た所、『朱の海』を守れた事を真に感謝しているのだと分かる。
ケースが壊れこそはしたが『朱の海』を無傷で防衛しただけではなく、怪盗リープリングの身柄も確保出来た事は、十分な結果であると言える。
「それではまた何か困りごとがあれば、是非頼って欲しいのですよ」
ユリーカもまた笑顔を浮かべた。
怪盗リープリングとイレギュラーズの対決は、イレギュラーズの勝利で幕引きとなった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様、おつかれさまでした。
ナルシスト怪盗を見事、逮捕まで至りました。
このリプレイが皆様に気に入っていただければ幸いです。
またの機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
GMコメント
橘 遊輪です。よろしくお願い致します。
今回は定番とも言える怪盗モノです。とはいっても皆さまは盗む側ではなく、捕まえる側でございます。小賢しく逃げる怪盗リープリングを楽しんで捕まえて頂きたいです。
【成功条件】
・宝石『朱の海』の防衛
怪盗リープリングの手から守ってください。宝石が盗まれる又は傷がついた場合は失敗となってしまいますのでご注意下さい。
また、彼には今までの盗品の隠し場所を吐かせる必要がありますので、可能ならば怪盗の身柄を生かして捕らえる様にと依頼主が要望しております。
【現場状況】
宝石『朱の海』は居間にあります。宝石は頑丈に出来ている一辺50センチ程度の立方体のケースに入れられております。その頑丈さはハンマーで叩いた程度ではビクともしません。ですが、イレギュラーズの攻撃に耐えられる程ではありません。
ケースの開け閉めは、依頼主だけが持っている鍵が必要になります。
現場の指揮権は依頼を受けた皆様にあります。
依頼主が直接雇っている警護兵10名に指示を出す事が出来ます。また、必要なものがあれば常識の範囲内で用意して貰えます(例えば警護兵に行き渡らせる笛など。絶対に壊れない開かない金庫とかは無理です)
屋敷は凹型の2階建ての構造です。1階は玄関ホール、応接室、居間、書斎、遊戯室、食堂、厨房、中庭とあります。2階はプライベートフロアで全て寝室や客室となっております。
玄関ホールからは1階の全ての部屋から直接繋がっており、1階から2階への階段も玄関ホールに左右に2つあります。また、食堂と厨房は繋がっております。
1階の各部屋の上に、2階の寝室や客室があります。
【イメージ見取り図】
遊戯室=遊、書斎=書、応接室=応、玄関ホール=玄関、居間=居、食堂=食、厨房=厨
廊下=□
【厨】□中庭□【遊】
【食】□中庭□【書】
【居】□□□□【応】
【玄関】
【敵情報】
・怪盗リープリング
今までの盗みの現場では、全て単独でいる所を目撃されております。
彼の身体能力は身軽さという点では人間(的生物)離れをしており、並みの人間では到底捕まえることは出来ないでしょう。
今までの手口としては、何らかの仕掛けを使って現場を混乱させて、どさくさに紛れて目標を奪っていく方法を取っています。
また、能力にはあまり関係はありませんが、独特な思考な持ち主です。ナルシストです。
・予告状には日付の変更時間と同時に朱の海を頂戴するという旨が書かれて下ります。夜が舞台になるでしょう。
皆様はその日の朝から屋敷に入り、警備体制を引く事が出来ます。
【その他】
アドリブの可否を添えて頂くことや、キャラクターの口調をわかりやすく書いていただけると、私が大変助かります。
また、このコメント欄にあらかじめ記載しておいてほしい情報などがあれば、ファンレターで知らせて頂ければ幸いです。今後の参考に致します。(お返事は出来ませんので、あらかじめご了承ください)
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