シナリオ詳細
<果ての迷宮>Corgi kiss
オープニング
●いざ、ゆかん
果ての迷宮、それは、レガドイルシオン国王フォンデルマンが代々使命として託された不思議な迷宮であり、数々の冒険者が挑み、命を落としてきた危険な場所である。だが、驚くことに、総隊長ペリカ・ロジィーアンとローレットのイレギュラーズ達によって今もなお、探索が続けられているのだ。
「ああ、今度は上手く行くだろうか?」
「さぁ、どうだろうねぇ。でも、今回は上手くいってもらわないとねぇ……」
貴族達が囁きあう中、彼らが辿り着く先はいったい何処なのだろう。
●カエルとわんわんわん
十三層に足を踏み入れた『総隊長』ペリカ・ロジィーアンとイレギュラーズ達はただっぴろい草原を見た。
「ん? 此処は草原だろねい」
目を擦り、改めて迷宮を見るが、やはり草原に間違いない。
(今回の迷宮は草原だわさ?)
ペリカは屈み、草に触れると触った感じは植物。触れる風は青臭い。ペリカは立ち上がり、「とりあえず、散策するだわさ」とイレギュラーズ達に声をかけ、歩きだそうとした。だが、それは突然の声に阻まれてしまう。
「きさまらは何者だ!!」
美しいバリトン。一同は一瞬、身を硬直させたが、そこは総隊長とイレギュラーズ。すぐに声する方に身を捻る。
「……ッ!?」
目を丸くするペリカ。そこには一体の金色のアーマーを着た雨蛙。両手両足を地にぴたりとつけているが、かなり、大きい。
(……カエルだわさ? 人間で言えば160cmほどの)
小首を可愛らしく傾げながら武器を構えるペリカ。
「武器を置き答えろ! 何故、此処に立つ?」
叫ぶ雨蛙。彼なのか彼女なのかわからない雨蛙は真っ赤な眼球を一同に向け、返事を待たずに飛び上がった。かなりの跳躍、一同を蹴散らそうと飛び込んだのだろう。びりびりとした殺気。
「くっ! あんた達、避けるだわさ!」
ペリカの声にイレギュラーズは即座に反応し、雨蛙の攻撃を見事に避けたのだ。
「……やるな」
雨蛙は、とんと着地し口角を上げる。眼球は心臓のようで、ペリカはどきりとするが、
「……あたし達はこの草原を抜け、次の階層に進むんだろねい! 邪魔をするのは止めてくれだわさ!」
雨蛙をペリカは睨み付ける。うんうんと頷くイレギュラーズ達。
「階層? 俺には何のことか解らないが、その真剣な顔、気に入った。特別に教えてやろう。此処から脱出するためには……」
ふっと笑う雨蛙。
「何だねい?」
「全てのCorgi kiss(コーギーキッス)のお尻にキスするんだ」
沈黙。そうだろう、誰もが沈黙する。だって、意味が分からないもの。
「……え、はい?」
「仕方ないんだ、これが運命というものだ」
雨蛙はペリカの肩をトンと叩いた。労いだろうか、いや、それよりも──
「何だねい、それは!」
ペリカの言葉に雨蛙は驚きながら、ゆっくり説明し始めたのだ。
そして、雨蛙の説明を聞けば、草原にはCorgi kiss(コーギーキッス)という生き物が20匹いる。所謂、犬のコーギーがこの階層では、Corgi kiss(コーギーキッス)と呼ばれているようだと、イレギュラーズとペリカは理解する。彼らは何処にいるか解らないが、わんわん鳴きながら草原を駆け回る。見つけるのは容易いが、足がとても速く追い付くのは至難の技らしい。
「今、声がしないだわさ?」
「ああ、今は寝ている時間だからな。だが、そろそろ、起きてくる頃だろう」
「そう……でも、何故、キスだわさ」
「さぁ? 知らないね。誰かさんの趣味だろう。悪いがそういうものだと諦めてくれ。ちなみに俺は君達の妨害をする役目を担っていて……」
ふぅと息を吐き、雨蛙は「聞きたくないと思うが、君達の尻を舐めるんだ」と呟き、粘着いた長い舌を見せる。ああ、立派なものである。
「うえっ……」
蒼ざめるペリカとイレギュラーズ。雨蛙は一瞬、背筋を伸ばした。そろそろ、鬼ごっこが始まるようだ。
- <果ての迷宮>Corgi kiss完了
- GM名青砥文佳
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年01月31日 22時20分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●ファーストヒップは誰のもの
跳躍するアーマー蛙。地上にはイレギュラーズ。
「さぁ、見せてもらおう! お前達のキッス(覚悟)を!」
アーマー蛙はぷくりと頬を膨らませ、ロケットランチャーの如く、何だか美味しそうな方向に舌を発射させる。
「さぁ、俺にしゃぶらせろ!」
「え?」
不穏なワードにぽかんとする『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)。しゃぶ? え? しゃぶ? なに、しゃぶって?
「そ、そんなの、俺は嫌だ!」
カイトは反対側に飛び上がる。だが、アーマー蛙の方向転換も負けてはいない。身を捻り、まるで最初から舌をカイトに向けていたかのような動きを見せる。上空での攻防。
「なんつーか、随分と旋律が騒がしい所ね。まぁ……かつてこの迷宮で傷付いた心を癒すにはちょうどいい空間か。え? 何のことかって? 知らねぇよ! ビデオレターなんて知らねぇよ! あたしに記憶はねぇ!」
爆発したかのように飛び出したのは『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937) 。正直、誰も何も言っていないし聞いてもいない。
「ええと……あれぞ、被食者の逆襲です?」
リアの背を見送った桐神 きり(p3p007718)が尻を押さえながら、『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)に訊ねる。ちなみにメリーは尻を隠さず覇者のように仁王立ちをしている。
「さぁね。でも、あの執着は凄いわね」
解説者のような口調。
「ふん! あのカエル! 案外、やりおるのじゃ」
冷笑しながら、ぶんぶんと好戦的に尻を振る 『妖刀の魂を従えし者』綺羅々 殺(p3p007786) 。ちなみに手には恐ろしいものが握られている。
「あの……お尻を振ってるけど大丈夫だよね?」
心配そうに言うのは、『ハム子』主人=公(p3p000578) 。
「なっ!? 尾じゃ! セツは尾を振っておるのじゃ!」
顔を赤くしぷんすかする殺だったが、高速で揺れる九尾の勢いによって、やっぱり尻を振っているように見えた。
「えひひひ、熱烈なアプローチに妬けてしまわぬうちに私はいち早く、チャオしちゃいますよ!」
『こそどろ』エマ(p3p000257)は上空で羽を散らし逃げまくるカイトに合掌を捧げ、アーマー蛙から静かに逃げていく。
(あの勢いでお尻を舐められたら、お尻がえぐれそうですし!)
息を吐くエマ。
「まぁ、今はコーギーちゃんに集中しましょうかね、えひひ」
エマはしゃがみ、ゆっくりと歩き始める。
「ぎぃえええええ!!」
汚い高音で叫ぶカイト。吹き出す涎のミスト。飛び出す雑食性に逃げまどう。
「さぁ、俺の胃の腑に収まれ! むむ? あれは……」
アーマー蛙は地上で奇妙なものを見つけ、眉を顰める。その瞬間、叫ぶ『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)。ヨハナは四つん這いで尻を突き出している。
「ふはははははははっ、ようやく気が付きましたねっ! ヨハナのこの美尻に!」
尻を振り、アーマー蛙を誘うヨハナ。目を見開き、震えるアーマー蛙。
(尻が俺を……呼ぶ……)
「くっ!」
三回転ジャンプを決め、吸い込まれるようにヨハナに向かっていく。
「驚きの性癖だ、な」
DNAに刻まれているのだろうか。いや、深く考えてはいけない。『金剛童子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787) が金色の髪を僅かにぴんとさせながら呟き、泣きべそのカイトを追うように離れていく。
「あ、ボクも行くよ! それとお願いなんだけど、なるべくコーギーもカエルも傷つけて欲しくないんだ。ほかの人にもボクから伝えておくから! 約束だよ!」
公が叫び、駆けていく。
徐々に人が減っていくフィールド。テンションを上げるヨハナ。ぱんぱんと手を叩く。
「さぁさぁ、来なさいっ!! 美味しいお尻を舐める権利がアーマーガエルさんにはあるのですよっ!」
ヨハナのクソデカボイス。
(はっ! 今だわさ、注意が尻に向いている内に移動するだわさ!)
その隙に抜き足差し足で離れていくペリカ。脱出するまで静かな場所に隠れていたい。
「あ、あ、くそっ!!!」
尻馬に乗るアーマー蛙。尻が呼んでいる。ならば、全力で答えねばならない。
「お前が誘うなら、俺はお前の尻をいただこう!!」
跳躍し、正確無比なスナイパーのようにヨハナの尻に舌を伸ばす。
「はっ!」
舌の動きに合わせ、尻を突き出すヨハナ。本人は至って真面目に足止めしているつもりである。
(あの蛙、本当にお尻に目がないのね)
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が感心したような、呆れたような、冷たい視線を向ける。周りに圧倒され、出遅れてしまった。
(平和すぎて逆に怖いわね……というか、変態すぎて反応に困るフロア)
ヨハナのことも含め、レジーナは困惑気味だ。今までの迷宮とは毛色が違う。
(ただ、ヨハナのあの作戦は……)
アーマー蛙を憐れむレジーナ。ヨハナは常人には考えつかぬ恐ろしい作戦を考え、実行したのだ。
「ひやっ!!」
「ぐわっ!?」
同時に聞こえる叫び。
「こ、この勢い、やりますねっ! 一瞬、お尻がなくなったかと思いましたっ!」
濡れた尻を押さえるヨハナ。
「ぐぬぬ……き、貴様、尻に何を塗った……?」
茹で上がったような顔をするアーマー蛙。舌は痺れ、真っ赤に腫れ始める。
(やっぱり、効いているようね)
レジーナは目を細める。隣には生み出したダミー。
「……」
ダミーをちらりと見るレジーナ。そう、ダミーの尻から香るハバネロ臭。
(ダミーとは言え、我のお尻にハバネロソースをつける日がくるなんてね)
まぁ、出来れば舐められずに終わりたい。
「ふふん、ヨハナ特製ハバネロソースなのですっ!」
えいやと尻にじゃぶじゃぶとソースをかけるヨハナ。
「なっ!? そ、それは尻に塗るものではない。まさか……お前の尻はピザなのか?」
真面目な顔で叫ぶ、アーマー蛙。
「え? ヨハナのお尻はピザなのですっ!?」
驚くヨハナ。だから、こんなにもちもちで……?
「ちょっと待って。それは違うでしょう?」
すかさずツッコむレジーナ。え、今、どういうやり取りなの?
「そうよ! ピザじゃないわ、わたしはパスタ派よ!」
メリーが胸を張る。
「なんと!」
ヨハナがメリーを見た。
「そうなのか」
アーマー蛙が呟く。呆然とするレジーナ。え、何の話? 我だけが置き去りにされている?
「ねぇ……」
すがるように残った殺を見るが、はっとする。しまった、この人、武器を持ってるんだった。黙るレジーナ。
「ああ……不埒者は死あるのみぞ!」
低く唸り、踏み込む殺。躊躇う様子すらなく、黒炎弾を発動させる。宙に浮かんだ六つの呪符が六芒星を結ぶ。その中央に注がれる妖力。
「~~~~!?」
結構、本格的な攻撃にひっくり返りそうになるレジーナ。公の話は何処へ? この人、話を忘れちゃったの? 口をぱくぱくさせるレジーナ。その間、漆黒の炎が収束し、敵に呪われた火球が放たれてしまう。
「はっ、貴様! 生より死を好む者、か!」
強者の笑みを浮かべるアーマー蛙。意外にノリノリである。
「それがどうしたと言うのじゃ!」
叫び、舌を打ち鳴らす殺。強烈な回避をアーマー蛙は見せつける。
「ヒヤリとしたが俺は蛙だ! 貴様が俺の命を狙うのならば俺はお前の尻を狙う! その覚悟はちゃんとあるのだろうな!!」
アーマー蛙は身を隠し、殺の尻をすくい舐める。
「んっ!?」
びくんとする殺。
「──ッ!? 今度は唐辛子か!」
顔をしかめるアーマー蛙。ぴりりと痺れる舌。そして、口の中には殺の体毛が入っている。
「……ふん、好きだと聞いておるからのぅ、尻。ならば調味料をかけておいてやるのが悪い妖狐の心じゃろうて? さぁ、その両脚を落としてやるかのぅ!」
殺気を放つ殺。正直、尻が濡れて気持ちが悪い。
「やってみろ! 俺はいつだって尻を舐めるまでだ!」
アーマー蛙の選択肢はいつも一つ!
「あの、質問いいわよね?」
挙手をするメリー。そそくさとアーマー蛙に近づく。
「……なんだ。分かる範囲なら答えてやれるぞ」
ぴたりと攻撃を止めるアーマー蛙。
「ありがとう。ね、コーギーに攻撃してもいいの?」
「……個人的には止めてほしいが攻撃は可能だ」
「そう。なら、コーギーは死体でも構わない?」
メリーの言葉に殺が冷笑する。感じるシンパシー。ヨハナが煽るように無言で尻を振り、ツッコミ過ぎてちょっと老けるレジーナ(体感)
「……」
でも、実際にはそんなに経っていない。純粋に密度が高いだけなのだ。
「どうだろうな、それは俺には分からない。此処に来たのはお前達が初めてでこのゲームも初めてだからな」
「ふぅん? まずはありがとう! なら、ペリカを探して早く聞かなくちゃ!」
移動するメリー。アーマー蛙の存在が意味不明なゆえ、手は出さないでおく。
(その辺に居るただの蛙ならブチ殺してやるところだけど、あの蛙は仕方ないわね!)
「……我もコーギーキッスに挑戦させるのだわ」
レジーナが伏せ、よろよろと移動し始める。心なしか透けてるような気がする。そして、残ったのはヨハナと殺。
「あなたが「参った」というまでお相手願いましょうっ!」
ヨハナが四つん這いで尻踊りを披露する。
「さぁ、セツだけを見ておくれ、儂と死合おうぞ!!! 貴様にとっては至極、幸せなことじゃろう!!!」
殺がサディスティックに笑う。アーマー蛙は楽しそうに笑い、舌を構え、後方に跳躍する。
「!!」
「悪いが、いったん、自由にさせてもらうぞ!」
彗星のように消えるアーマー蛙。
●わんわん声を追って
何も知らないCorgi kissは鳴きながら草原を駆け、時折、立ち止まり、両耳をピクピクさせ、くわりと大きな欠伸をしたり、お気に入りの場所を短い前肢で掘りまくったり、マーキングをしたりと大忙しだ。
「ふひひ、いましたね。これはもう、目と鼻の先ってやつですよ」
盗賊としての本領を発揮するエマ。Corgi kissが四匹、わんわん言いながら戯れている。なんとまぁ、微笑ましい光景。
「可愛いですね。尻を舐める蛙とは大違いです。では、近づいたコーギーを捕まえてキスしてあげま……ん?」
エマはハッとする。四匹のCorgi kissがエマに駆けてくる。
「!?」
大ジャンプするCorgi kiss。咄嗟に飛びのくエマ。
「嗅覚を舐めちゃあいけませんね。ただ、こんな攻撃、ちょちょいのちょいですよ! って、あれぇッ!?」
腹部に衝撃。強引に吹き飛ばされるエマ。
「フ、フェイントとは流石、コーギーちゃんですね! あっ!?」
立ち上がろうとしたエマの顔を熱心に舐めるCorgi kiss。
「あぶぶぶぶぶ!!!! え、あ、ちょ、ちょっと、ああああ!!!」
舐められ、べろんべろんになるエマ。特に額をよく舐めるCorgi kiss。
「よだ、涎がしゅごいいいいいぃ! あっ、あっ、でも、可愛いですね……ふひひ」
昇天しかけるエマ。Corgi kissの愛情表現が半端ない。短い尾はヘリコプター。
「ただ、私もキスしなきゃいけませんからね!」
バックする正気。そいやっ!とエマは身を捻り、Corgi kissの愛を避け、急接近。
「えひひひ、おしりはいただきました! まずは一匹ですよ! んっ!」
一匹のCorgi kissのお尻にキスをするエマ。唇にふわりと触れた体毛は優しい匂いがした。
「えひひひ」
弛緩しそうになる表情筋をどうにか固定し、エマは文房具を取り出す。現れる、羽ペンとインク。崩壊する緊張感。吠えながら興味津々でエマの傍に寄って来るCorgi kiss。キスしたCorgi kissはお座りをキメている。
「えひひひ、これは羽ペンとインクで文字を書くためにあるんですよ。例えば、こんな風に……あ、立ってくださいね。よいっしょ、ああ、いい子です。このまま、おしりにちょいちょいとマル印を書きますね」
目立つマル印。エマは屈んだまま、満足そうに眼を細める。一方でマル印のCorgi kissはきょとんとしている。
「ええと、大丈夫ですよ? あ、なんと……」
呆然とするエマ。Corgi kissが身体を丸め、尻を熱心に舐めている。
(匂いが強くなって、いる)
エクスマリアは低い姿勢を保ち、Corgi kissを追跡する。髪は多脚状。Corgi kissの捕獲に備えているようだ。
(広い、ドッグランに、いるようだ、な)
多方向で聞こえるCorgi kissの声。
(迷宮の中に、空があるだけでも、驚愕だが。まさか、犬の尻に、口付けしろ、とは、な。星官僚とやらの趣味は、図り難い、な)
見上げた空には雲が浮かび、鳥のような生き物が飛んでいる。暖かく眠たくなりそうだ。
「いた、な。穴を掘って、いる」
見えるキュートなお尻。Corgi kissは短い前肢で砂を四方八方に飛ばしながら地面を掘り続けている。何故、犬は地面に穴を掘るのだろう。
(まぁ、いい。コーギーにキス、しよう)
無表情のまま、尻に向かって飛び出す。穴を掘りながらCorgi kissは興奮気味に唸っている。気が付いていない。
「……」
伸ばした髪をムカデのごとく動かし、無音かつ素早い移動。ただ、絵面としてはかなり怖い。しゅるり。Corgi kissの腹部に髪を通し、巻き付く。
「きゃうん!?」
驚くCorgi kiss。
「捕獲」
エクスマリアは目を細める。Corgi kissがあぐあぐと涎を流しながら、金色の髪を噛み千切ろうとする。
「乱暴には、しない。だから、あまり暴れるな」
「きゃううううんんんっ!!」
「うまく、伝わら、ない」
「ぎゅあああん!!」
大暴れのCorgi kiss。
「悪いが、キスする」
エクスマリアは落ち着かせることを諦め、時間をかけ、尻にキスをする。その方が負担にならないような気がしたのだ。
「次は、リボン、だ」
エクスマリアは巻く場所を一瞬、悩み、
「首に、巻くことに、する」
くるりと首にリボンを巻き、苦しくないようにリボン結びをした後、ぱっとCorgi kissを離す。これ以上の拘束は出来ない。駆け、見えなくなっていくCorgi kiss。ぞわりとする背中。
「嫌な、気配。来た、な」
同時にぷんとするスパイシーな香り。エクスマリアは右を見た。やっぱり、降ってくるアーマー蛙。
「何故、此処に、いる」
「何故? はっ、お前の尻がそこにあるからだろう!」
アーマー蛙は腫れた舌をぐいんとエクスマリアに落とす。
「理由に、なっていない」
「そうか? そうなのか!」
かみ合わない会話。エクスマリアは跳躍し、舌をぐるんと避ける。
「香辛料の香りで、舌の動きは、それなりに、読める」
くんくんするエクスマリア。アーマー蛙は笑い、強敵に心を躍らせる。
一方、草原をぐるぐるするメリー。
「ああ、此処はどこ! もう、完全迷子よ!」
完全犯罪のように叫ぶメリー。
「んー、干し肉でも置くべき? まっ、置けばペリカも来るかもしれないしね」
スーパーポジティヴ。というか、ペリカを肉食獣か何かと思っているのだろうか。
「うん、この辺なら奇麗そうね」
メリーは干し肉を置こうとしてあっと気が付く。そうだ、ファミリアーがあった。この異様な空間で忘れていた。
「良かった、カラスにすればすぐね!」
空を舞うカラス。
「あ」
秒で見つかった。
(なんだ、意外に近いじゃない!)
メリーはペリカに接近する。
「ペリカ!」
視線の先には筋トレをするペリカ。
「うはっ!?」
腕立て伏せのまま、ペリカは目を丸くする。
「見つけたわ!」
鼻先に干し肉を突き付けるメリー。
「なんだわさ」
「あのね、コーギーに攻撃しても大丈夫? キスは死体でも有効?」
「駄目だわさ」
即答し、ペリカは干し肉にかじりつく。
「どうして?」
「アーマー蛙が言ったのはすべてのCorgi kissにキスすることだけだわさ」
「ん~、言及されていないからこそ、死体ではいけない?」
「それもあるだろねい。そして、一番の理由としては殺さないと達成できない条件じゃないからこそ、殺してはいけないだわさ」
立ち上がり、干し肉をもぐもぐするペリカ。
「……そうね、分かったわ」
メリーはペリカから干し肉を強引に取り戻し、草原にぽいと投げ捨てる。奇麗な直置き。
「このまま、待つわよ」
伏せるメリー。ふと、その横をヨハナと殺が香辛料を滴らせ、凄まじい勢いで通り過ぎていく。
「ソースの匂いが嫌いかもしれないので犬に近づかないようにですよっ!」
悲壮感を滲ませるヨハナ。
「ああ、セツの願いはあのカエルだけじゃのぅ!!」
Corgi kissに興味がない殺をちらりとヨハナが羨ましそうに見つめる。
「無意識に蛙から離れたしあたしもやりましょ! さっさと捕獲して尻に顔を埋めなきゃね!」
クールダウンしたリア。瞬く間にギフトを発動させたが、すぐに眉をひそめる。楽しい旋律に混じる禍々しい旋律。遠くではあるけれど、正直、キツイ。
「こんな雰囲気の中で殺気?」
何故なのかと考えつつ、考えてもさっぱり解らない。リアはすぐに諦め、楽しい旋律に意識を集中させる。
「びびっときてるわね! こっちよ!」
リアはジグザグに移動しながら、ふと立ち止まる。聞こえるわんわん声が即興演奏のように響いている。
(いたわ、しかも、大量に! それにしても、個体によって声の質が異なるものなのね)
動き回るCorgi kissを見据え、リアは静かに魔力の込められた銀の長剣を取り出す。瞬く間にリアの力を感知し手元に顕現させる、魔力で編まれたヴァイオリン。青白く光っている。
(もっと楽しくさせてあげましょ!)
長剣を弓代わりにリアはCorgi kissの楽しそうな旋律を忠実に奏で始める。Corgi kissは遠吠えをしたり、真横に飛んだり、後方に飛び上がったりと激しく動き回る。Corgi kissに癒されるリア。太陽の光は暖かく、優しい風が吹いている。
(ずっと、此処にいたくなるわ)
目を細め、ハッとする。駄目だ、此処にいるわけにはいかない。だって、此処にあの人はいな……
(止まるな、あたし! 次のステップに行きましょ!)
楽しそうに遊ぶCorgi kissの幻をリアは生み出し、笑う。きっと、Corgi kissは幻を本物だと思うことだろう。
「ほーら、あたし達はお仲間よー、一緒に遊びましょう」
リアの声とともに幻のCorgi kissがふわりと飛び、Corgi kissの前でお辞儀のポーズをし、遊びに誘い、それに応じるCorgi kiss。
「遊びながらどんどん、キスしちゃうわよ!」
叫ぶリア。
「暖かい、此処はずっとこの天気かもしれない」
公は鳴き声を頼りに草原を這う。ぽかぽか陽気。ふと、肩に真っ青な蝶が止まる。
(奇麗な蝶だね。う~ん、ずいぶんとほのぼのした試練だ、でも油断しないようにしないと……)
肩からふわりと蝶が飛び、公は微笑みながら以前のゲームフロアを思い出し、気を引き締める。
(このフロアがそうなだけで向こうはこちらをすぐに失格(死)にできるのかもしれないんだから……)
ポケットのリボンに触れ、公は何度もイメトレを行う。
(一回、一回をきちんとこなせば、体力を温存できるし彼らの負担も減る。だから、頑張らないとね! あ、あった)
公は地面を見つめる。掘って埋めたような跡。
「きっと此処には」
両手で掘り起こし、公はすぐにお目当ての品を見つけ出す。
「わぁ、これは鳥の骨みたいだね。よし、これを使ってっと」
顔を上げた瞬間──
「わん!」
クソデカボイス。
「わわっ!?」
破れそうになる鼓膜。隣には目をキラキラさせるCorgi kissが一匹。舌を揺らし、公を見つめる。浅い息遣い。ぷるぷる動く尾。
「驚いたよ。もしかして、これ、キミの骨? あ、違うね。キミのだったら怒るもんね。え、撫でてほしいって言ってるんだね」
前肢で公の手をちょいちょいしおねだりするCorgi kiss。おねだり上手だ。
「ああ、ふわふわだ! 気持ちいい」
わしゃわしゃとCorgi kissの頭を撫でながら、ゆっくり、移動する公。背中、お腹、腰、尻尾の付け根を撫でながら尻に狙いを定める。
(いけるかもしれない!)
一気に攻める公。だが、此処で予想外の動きをCorgi kissはみせた。
「あれ?」
そう、回転。頭を撫でて欲しくなったCorgi kissは正面を向く。遠ざかる尻。触れる口。Corgi kissは嬉しそうにはっはっはと息を吐き、今度は骨を見つめる。
「……ごめん、口じゃ駄目なんだよね。あ、これはキミの話じゃなくボクの話だね」
公は呟き、「……ほら、取ってこい!」
骨をフリスビーのように投げる。
「!!」
俊敏に走り出すCorgi kiss。
(警戒を解いたらキスさせてもらうね)
公は微笑む。
「視界が悪いですし、何だかどきどきしてしまいますね」
きりは奇襲に備え、一応、尻を押さえながら大雑把に位置を探る。勿論、丸見えにならないよう姿勢を低くし、確実に音のする方に進んでいく。
(蛙の方はハバネロ決死隊が頑張ってくれるみたいなんで、私は犬と戯れる方向でいきます。きっとあの辛さなら蛙は悶絶していることでしょう)
うんうんと頷くきり。
「ん、あっちから音が聞こえます。行ってみましょう」
こっそり、接近し立ち止まる。
「うーん」
目視ではまだ見えない。ただ、鳴き声から複数いる可能性が高い。
「焦りは禁物です。見えるまで近づいて……おっと」
草が揺れ、何度か見える黒い鼻先。
(可愛い鼻が見えました! いましたね)
呼吸すら気を付け、きりは近づく。
「く、くぅ~ん!!!」
ぱっと散るCorgi kiss。わんわん言いながら駆けている。楽しそうな声。警戒心はないように思える。だが、捕まえなければ話にならない。
「くっ! 直前でバレましたか。ならば、飛びますよ!」
飛び上がり、低空から三匹のCorgi kissを追いかけるきり。
「飛行能力ですぐに追いついちゃいますから!」
華麗なる飛行。慌てるCorgi kiss。逃げまどいながら、くるりと方向転換をする。
「わわっ、わわわわぁん!!」
「おっ、元いた方向に逃げて私を翻弄するつもりですか。やりますね」
高速回転でCorgi kissを視界に捉え続ける。逃がさないという強靭な意思。
「はっ!」
急降下するきり。上手い具合にCorgi kissの正面に飛び降りる。
「きゃううううんんんっ──!?」
「ふふ、チェックメイトです! え、あれ!?」
慌てるきり。捕まえたと思った瞬間、Corgi kissはイリュージョン。
「あれれれ」
土をぐっと踏み、咄嗟の判断できりの股下を咄嗟に潜るCorgi kiss。唖然とするきり。
「え、今のは凄すぎません? 何かのドッグイベントに出場できるレヴェルでは……」
気が付けば、Corgi kissを見失っている。ただ、Corgi kissはわんわんと煩い。
「うーん。あのコーギーを追うか、それとも此処で別のコーギー達を待つか、どうしましょうか」
きりは屈み、耳を澄ませる。時間はまだまだある。
(冷静に判断しましょう!)
きりはふぅと息を吐く。
「ちょ……ちょっと、待って!! だぁっ!? 今度はフェイントぉ!?」
草原に響くリアの喘ぎ。わんわんしまくるCorgi kiss。リアが構ってくれるのが相当、嬉しいようで──
「あがっ!」
さっきからずっとフェイントをかましてくる。捕まえられそうだと思った瞬間に加速を繰り返すCorgi kiss。リアは既にへとへとである。が、しかし!!
リアは咄嗟に片手を伸ばし、Corgi kissの腰を軽く掴む。
「よっしゃあああっ、捕まえた!」
髪を振り乱し、コーギーの豊満な尻に顔を埋める。
(……あー、もふもふ、温かい。ずっとこうしてたいわ……)
最高の癒し。きっと、マイナスイオンも出ている。スーハーするリア。止まらない。
(駄目よ、あたし。はやく……捕まえなくちゃいけないのに……)
スーハーが止まらない。思い過ごしだろうか、クッキーのような甘い香りがする。尻に顔を埋めたまま、器用に左後肢にリボンを巻く。駄目だ、この尻から離れたくない。そんな中、別のCorgi kissがリアが巻いたリボンを楽しそうにほどき、リボンを咥えたまま跳び跳ねていく。
「うう、酷い目にあったぞ! 俺は酷い目にあったんだ!」
低空飛行。カイトはアーマー蛙の執着を思い出している。あの目は本気で俺を丸呑みしようとしていたんだ。危うく、コーギーを探す前にアーマー蛙の胃のなかに収まるところだった。
「くっ! ちゃんと俺も皆と一緒に脱出するんだからな! 誰がチキンだ! 蛙にも犬にも俺は負けないぞ!」
携帯品の燻製肉が揺れる。
「む?」
瞳に映るキュートなお尻。Corgi kissの群れだ。
「おっ!! いた、コーギーだ! おーい! わんころー、散歩の時間だぞー?」
バサバサと羽根を散らす。囮としての役目を存分に果たすぞ。
「!!」
目を見開き、ぱっと上を見るCorgi kiss。
「は? え?」
目をぱちくりするカイト。Corgi kissの白い歯が凄まじい速度で向かってくる。ガチンッ。
「うはっ!?」
自慢の回避をもって、カイトはワニを……いや、Corgi kissをどうにか避ける。ヒヤリとする。こわ。てか、Corgi kissの歯茎がすげえ。
「だ、大丈夫だ、犬に負ける俺じゃねえ! 猛禽舐めんなよ!? ぐっ、また、涎がああっ!?」
Corgi kissが涎を流しながら、飛びかかる。
「わん、わわわわわんっ!!」
吠えまくるCorgi kiss。
「な、なんか言ってるぞ!」
たじろぐチキン。いや、カイト。Corgi kissは獲物を見つめるような瞳をしている。垂れた舌先には涎の泡。さっきから良い匂いがぷんぷんしているのだ。隠れていたCorgi kissすら、出てきてしまう始末。カイトは異様な雰囲気になってきたのを感じ取りながら、Corgi kissを見据えた。そこには、死闘を繰り返してきた男がいる。
「数が多くなってきたけど……ほーれ、遊んでやらァ!!」
咆哮。飛び込んできた一体をカイトはモーションを小さくしながらギリギリに避け、真横から噛みついてくる一体を半回転で避け、間合いを取る。唸るCorgi kiss。そして、地に落ちたカイトの羽根をモシャモシャとサラダのように食べているCorgi kiss。
「ひえっ」
ちょっと引く。あれが俺の最期? かぶりを左右に振るカイト。助けを乞うように周りをみるが、Corgi kissしかいない。
(だ、大丈夫かな、俺)
不安しかない。骨までしゃぶられる気がする。目の前にいるの、犬だし。
「……」
意志疎通の出来るアーマー蛙の方がまだ、マシな気がしてきた。
「Wooo~!!」
鳴き声に息を呑むカイト。短い尾をぶんぶんと振り、躊躇うことなく、一斉に飛びかかかる。瞳にはCorgi kissだけが映る。ガチン!
「いでっ!? いでええええええっ~!!!」
両足首に食らいつくスッポン。いや、Corgi kiss。
「アギャッ!?」
一気に墜落させられ、がぶがぶと全身に噛み付く。にゃんことは違う、ごりごり。にゃんこの歯がアイスピックなら、わんこは骨を噛み砕くような重い痛み。
「いた……いた……死、死ぬッ!!! いた、あ、手首! いでええええええッ~!!!!」
仰向けで大暴れしながら、徐々に眠くなっていくカイト。
(ん、あれ? そういえば、想像を絶する痛みだと防衛反応で眠くなってくるんだっけな……?)
ぞっとする。いや、解らん。解らん。間違いかもしれぬ。大丈夫。大丈夫だ。追い込まれてからが勝負だ。そう、死ぬことはない、はず。
「誰かぁー!! 俺が噛まれているうちに尻を狙えぇ!!!!」
こだまする声。食い散らかされるのは時間の問題かもしれない。
「ん?」
不意に振り返るレジーナ。レジーナは伏せたまま、ずいずいと進んでいる。真上にはファミリアーの鳩がくるっぽくるっぽと言いながら、Corgi kissを探している。
「……近くにいないわね」
レジーナは温度視覚をもって、冷静に判断していく。隣にはスパイスが香るダミー。
「こんなに香るのにヨハナは大丈夫なのかしら」
心配になるレジーナ。尻が火を噴くかもしれない。
「……それに、カイト辺り囮にかって出ていたけれども大丈夫かしら?」
心配することが多い。
「でも、ま。きっと上手く立ち回ってることでしょ……今回は命がかかっているわけでもなし、何だか随分と拍子抜け……いや、迷宮がこの程度なわけないわね。何か落とし穴があるはず。気を付けなきゃね」
その為の勝負下着(セキガハラ)。
「あら」
肩に止まる鳩。嘴を左に突いている。
「……あっちなのね、我にも見えたわ」
共有した視覚をもとに進み、途端に目を丸くする。捉えたのは集合体のような赤。草むらにどーんと横たわり、うごめく。
「なに、あれ……コーギーとアーマー蛙だけじゃなかったわけ?」
いや、あれはCorgi kissの鳴き声。重なっている? どうして? それに、くぐもった聞き覚えのある声。ハッとする。死極の剣を両手で握り締め、レジーナは駆け抜ける。
「カイト! うっ……!」
口を押えるレジーナ。投げ出された四肢、紛れもなくカイト。レジーナに気が付いた数匹のCorgi kissの口元には赤い何か。見れば、肉片のようなものが散らばっている。数匹のCorgi kissは正気を取り戻したかのようにダミーから距離を置く。香辛料がキツイのだろう。それでも、大多数のCorgi kissはハイエナのようにカイトから離れない。時折、ぎらぎらした目でレジーナを威嚇する。
「ううううううううううっ」
「か、勘違いしていたのかもしれないわね……」
レジーナは呟き、ダミーは拝むようなポーズをしたのち、カイトに夢中になっているCorgi kissの尻にそぉっと近づく。Corgi kissはただのコーギーではなかったのだ。我達がコーギーという幻想を作り出したのかもしれない。
(ということはあの尻舐め蛙も尻舐め蛙ではなかった?)
色んなことを考えるレジーナ。カイトはCorgi kissに埋まったままだ。
「……」
迷宮初の死者。カイト・シャルラハ、汝の生きざまは忘れないわ。レジーナは涙を拭う。その間にダミーはせっせと無防備な尻にキスをする。ルージュのキスマークが何だか色っぽいし、こんな時にキスだなんてかなり、狂っている。それでも、やらねばならないのはここから脱出するためである。
「……我は尻尾にリボンを結びましょう」
キスマーク付きのCorgi kissの尾にリボンを結ぶレジーナ。
「あら、可愛い可愛い」
「ぎゃああああああッ!!!」
息を吹き返し、起き上がるカイト。
「あ、生きていたのね」
「も、勿論だぞ!」
涙目でカイトは復活し、腕に咬みついたままのCorgi kissを豪快に引きはがし、咬みつくようなキス。なんだかセクシーではある。
「へへ、くちばしのキスは初めてだろ! さぁ、巻くぞ! 見ろ! 俺の好きな緋色のリボンだ、格好いいだろ! いてててて……」
すごく痛い。パンドラで復活するけど痛いものは痛い。見たくないがきっと全身、穴だらけだ。これ、絶対、お湯が滲みるやつ。
「服を脱ぐのが恐い……」
無意識に呟いてしまう。
「カイト、手伝うわね」
レジーナがCorgi kissをなだめるように抱き締める。ダミーは順調にキスを重ねていく。
「おう、ありがとう!」
顔を歪ませながらカイトはどうにかリボンを巻き、ぎょっとする。
「ん~~~~~~!?」
何故か、Corgi kissに首根っこを捕まれ、何処かに拉致されたのだ。
●散らばるリボンとアーマー蛙の逆襲
絶望のキスとはこの事を指すのだろうか。各々の方法でCorgi kissの尻にキスをするイレギュラーズだったが、Corgi kissは結んだリボンや印をいとも容易く、消してしまう。どんなに固く結んだとしてもCorgi kissはリボンを歯で引きちぎったり、穴を掘って宝物にしてしまう。印については気になって他のCorgi kissや自らが舐めてしまう。生き物ゆえ、行動が読みづらく、キスしてからがどうやら本番だったらしい。
「……この子、もしかしてキスし終わった子でしょうか」
インクで尻に円印を描いたエマが呟く。Corgi kissはモシャモシャとリボンを口に含んでいる。
「お腹に詰まっちゃいますよ……ふひひひ」
エマはリボンをCorgi kissの口の端から強引に引っ張り、ぼろぼろになったリボンをすぐに回収する。
「うーん、困りましたね」
隠密によってCorgi kissにキスすることは出来る。ただ、どの子にキスしたのかが分からない。エマはさっきから捕まえてはキス→印の手順を十回以上繰り返している。
「お天気なので舐めたお尻もすぐ乾いちゃうんですよね」
言いながら気が付くエマ。天才かもしれない。
「そうですよ! 乾いたと言えどもお尻に唾液の痕跡が存在するはず! ええ、それを意識すれば攻略出来ます! ふひひ、そうと分かれば!」
エマは飛び出し、Corgi kissの尻に意識を集中させ続ける。
(おっと! このお尻は怪しいですね! はい、次! 次ですよ!)
びゅんびゅんと移動するエマ。もうすぐ、尻ソムリエになれるかもしれない。
エマが知恵を絞る中、エクスマリアは未だにアーマー蛙からの粘着を受けている。
「しつこい、な」
無表情ながら髪が炎のようにゆらめく。アーマー蛙は執拗に攻めてくるのだ。
「ふっ、そうかもしれない。だが、それは貴様が俺の前にいるからだ!」
伸びる舌。間合いを取るエクスマリア。舌の射程距離を見極め、真横に飛ぶ。
「良い動きだ。だが、遅い!」
アーマー蛙の叫び。エクスマリアはいきなり、直角に曲がった舌を知る。
「嘘、だ」
呟く。気がつけば尻が濡れている。
「はっ! 舐められてもその表情! 動じないとは流石だ!」
アーマー蛙は笑う。ショックではあるが、エクスマリアは表情が変化しないため平然としているように見えたのだ。
「辛くない尻は極上のご馳走! 最高だ!」
エクスマリアの尻を味わい、ご機嫌なアーマー蛙は気がついていない。エクスマリアの髪は岩のりのようにヘナっとしていることに。風が吹く度に尻がスースーする。
「筆舌に、尽くし難い、気分、だ」
エクスマリアは髪で尻を隠し、アーマー蛙からゆっくりと離れ、近寄ってきたCorgi kissの尻にがっちりとキスをする。
「うん、賢い子だね」
公は人懐っこいCorgi kissをもりもりと撫でている。Corgi kissは嬉しそうに尾を振り、公の顔をべろべろと舐めている。取ってこいの意味を理解し、公に懐くCorgi kiss。ただ、リボンの違和感にCorgi kissはすぐにリボンを取ってしまう。
(うーん、どうしよう。でも、巻くしかないし……)
公は悩みながら、キスとリボンを繰り返していると、元気な声が聞こえる。
「さぁさぁ、捕まってちょうだい! タダで肉が食べれるなんて大間違いなんだからね!」
メリーだ。干し肉を咥えたCorgi kiss、その周りには何も咥えていないCorgi kissが全力疾走をしている。
「ボクも手伝うよ!」
お手製の捕獲機を持ち、公が待機する。木の棒の先にワイヤーでわっかを作り、手元で引っ張ると輪が閉まる構造だ。
「メリーさん、公さん! 私もお手伝いします!」
合流したきりが上空から叫ぶ。
「公、きり! ありがとう! さ、攻撃できないのなら全力で立ち向かうまでだわ!」
草をかき分け、チェイスの読みあい。
「此処よ、此処! はぁっ!!」
先手必勝。強引に回り込むメリー。
「えいやっ!」
メリーが干し肉を咥えたCorgi kissを抱き抱えた。そして、他のCorgi kissは目を丸くし、パッと飛び退く。だが、そこには、捕獲機。驚く暇もなく、布を巻いたワイヤーが締まる。
「きゃう!?」
鳴くCorgi kiss。
「捕まえたよ!」
公は叫ぶ。
「ほら、ごめんね。大丈夫だよ、痛いことはしないからね」
公は優しく、Corgi kissを撫でる。
「わっふ!」
すぐに落ち着くCorgi kiss。
「うん、良い子だね!」
にこにこする公。
「私も捕まえました!」
弧を描き、三匹のCorgi kissを抱き抱えるきり。Corgi kissは突然、抱き抱えられ、ぽかんとしている。
「さ、お尻にぐぐっといっちゃいましょう。まぁ、見た目可愛いから絵的にはそんな悪くない……はず」
きりの言葉に「そうね!」とメリーは力強く言い、捕まえたCorgi kissの尻にキスをし、「出来ればほどかれないようにしっかり巻いた方がいいかな」
公のアドバイスのもと、リボンをしっかりと巻いていく。解放されたCorgi kissはわちゃわちゃときり、メリー、公の周りを動き回る。
「か、可愛いですね」
撫で撫でしたり、Corgi kissの脇腹に顔を埋めるきり。なにこれ、柔らかくて幸福の香りがする。
(今のところ、カエルには出会わないね)
公は安堵する。アーマー蛙対策班をお陰だろうか。ただ、噂をすれば影がさす。
「ふはははははは!!」
突然、アーマー蛙がどんと立っている。え、ホラーかな。ぎょっとし目が飛び出る公。
「きゃぁーっ!」
それでも、公は衝術を放ち、一瞬でアーマー蛙を嵐のように吹き飛ばしてしまう。
(ふむ、やるな)
うんうんと頷くアーマー蛙。飛ばされつつ、舐められたくはないという意思を感じている。
「む! ようやく、見つけましたよ!」
流星のように飛んでいくアーマー蛙をヨハナは殺とともに見た。
「ふふ、ようやく、セツのものになるのじゃ!」
冷笑する殺。ただ、アーマー蛙が辿り着いた先には先客(リア)がいた。丁度、Corgi kissと戯れているところだった。
「はっ! 無防備とはこのことを言うんだな! 好都合!」
アーマー蛙は笑い、舌を伸ばした。
「え? な、ひゃあああああああああ!!!!! なっ! なななななな……!! ………………」
赤面するリア。尻がぐっちょりと濡れ、ぽたぽたと唾液を溢している。びっくりするほど気持ち悪い。また、悲しいことにCorgi kissはいなくなっている。
「良い尻だったぞ!」
「……こ、この野郎……嫁入り前の尻を舐めるなんて……」
震えるリア。
「はっ! これ以上の被害は出させませんよ!」
尻を向け、アーマー蛙の口に飛び込むヨハナ。尻込みすらしない。
「うっ!?」
ぺぺぺっと、アーマー蛙はヨハナを吐き出す。辛さに悶絶するアーマー蛙。
「セツの愛を受け取っておくれ、これが儂の愛の形じゃ!!!!!」
入れ替わるように殺が飛びかかる。手には包丁、抉るように突き出す。
「危ないな!」
アーマー蛙は驚き、大きく跳躍する。ヨハナは尻にハバネロソースをドバドバかけていると、般若顔のリア。
「!!」
びくりとし、後退するヨハナ。
「おい、ヨハナ、逃げるんじゃねぇ。そのハバネロソース寄越せ、いいから寄越せ」
凄むリア。無言でハバネロソースを手渡すヨハナ。
急なテロップ。
『復讐鬼、リア・クォーツが現れました』
「おらっ! こっちを見ろ!」
ハバネロソースを片手に低く唸るリア。アーマー蛙は構える。
「何故、そんなに怒っている?」
「……は? カエルてめぇ! ぶち殺してやる!! このソースを直接ぶち込んで殺してやる!!」
リアは尻を冷たくしながらヨハナ、殺とアーマー蛙を追いかけ回す。
「喰らえ!! くそカエル!! ちっ! 上手く避けやがって!! ああ、次はどうだ!! へっ、入った!」
リアはアーマー蛙の口にハバネロソースを噴射しまくる。
「此処! 此処が良いんじゃろ!」
殺は物理的にアーマー蛙を殺そうとする。
「ふふ、美味そうなナリをしおって、パサパサの唐揚げにどれすちぇんじはいかがかの?? じっくり遺体を料理し尽くしてやるぞ」
包丁がアーマー蛙のアーマーに大きな傷をつけ、よろりと体勢を崩したアーマー蛙の口にヨハナがどんと尻を押し込む。
「うっ!!」
吐き出し、バタバタとうごめくアーマー蛙にヨハナが冷水を手渡す。
「ありが……くっ!?」
「ふふ、引っ掛かりましたね! 飲むと却って辛いんですっ!」
胸を、多分、胸を張りながらブロックするヨハナ。笑いながら、アーマー蛙を突き刺す殺。何だろう、悪鬼が三体いる。
「ほらよ、一滴残らず飲みやがれ!!」
リアがアーマー蛙の口に大量のハバネロソースをぶちまける。のたうち回るアーマー蛙。顔色がかなり悪い。それでも、尻への執着を見せ、また、リアの尻をぺろり。
「うっひゃあああ!?」
叫びながらハバネロソースを噴射するリア。アーマー蛙に包丁を突き刺し続ける殺。
「オラァ!!!! 去ねなのじゃ!!!!!! くくく、良い声で鳴くではないか、流石、蛙の造形をしてるだけあるのぅ!!!!!! ふあっ!? また、セツを舐めるとは懲りぬ変態だのぅ!!」
アーマー蛙はぼろぼろになりながら逃げ惑い、尻を果敢に狙う。
(なっ……お、恐ろしい光景だわさ……)
通りかかったペリカはぞっとしながらそっとUターンする。
「ふぅ……平和ね」
レジーナはボロボロの縄の結び目やボール、フリスビーを使い、Corgi kissの気を引いている。幸運なことにアーマー蛙に会わない。ただ、想像より長引いているのは気のせいだろうか。少し暗くなってきた。
(……逃げるにせよ、コーギーはたったの二十匹なのよね。かなりの数のコーギーにキスしたと思うけど)
レジーナは疑問を抱きながら、集まっていくCorgi kissの尻にダミーがキスし続ける。やれることをするしかない。
「はは、逝きそうなのかぇ?? 貫かれて昇天しても良いのじゃぞ!!!!!!! カエル怨霊として死の先を楽しむが良いわ!!!!!!!」
目をギラギラさせる殺。アーマー蛙ははぁはぁと息を荒げる。もう、可哀そうなレヴェル。
「いい顔をしておるわ! さ、最期の時間じゃ!!」
技を放とうとする殺の前でばたんとヨハナが倒れる。
「ヨハナ!」
叫ぶリアと殺。
「どうしたのじゃ!」
殺が覗き込む。抱き抱えるリア。
「……お、おひりが……いたひ……」
「!!」
困惑するリアと殺。なんと、此処で尻の限界を迎えるヨハナ。青ざめ、ぷるぷると震えている。
「大丈夫、か」
草が大きく揺れ、現れたのはエクスマリア。
「ヨハナを水場まで運、ぶ」
あっという間にヨハナを横抱きし、消えていく。
じゃぶじゃぶ音が聞こえた後、ひいひいと悲鳴が聞こえる。
「何の音ですか?」
水場にきりが目を凝らすとヨハナの尻を真顔でエクスマリアが洗っている。
「……」
目を反らし、見なかったことにする。
(まぁ、そういう日もありますよね。大丈夫です、今日も良い日になります)
ふふと誤魔化すように笑い、旋回するきり。Corgi kissを探そうと視線を下にした瞬間、白目を剥いたカイトが地面に埋まっている。
「!?」
慌てて急降下し、顔だけ見えるカイトをどうにか引っ張り出そうとし、きりは尻餅をつく。なんてこったい!
「……ちょ、ちょっと人を呼んできますね!」
きりは飛び、たまたま会ったエマに声をかける。
「えひひひ、もう、死んでるかと思いましたよ」
きりはエマとともにカイトをどうにか引っ張り出す。
そんな中、上空から神々しい螺旋階段がぱぁぁっと伸びていく。どうやら、全てのCorgi kissの尻にキスし終えたらしい。そして、おさぼりしていたペリカをレジーナが捕まえ、イレギュラーズは階段をゆっくりと登っていく。皆、疲労困憊だ。カイトとヨハナに至ってはかなりの身体的ダメージを受けている。名残惜しそうにCorgi kissを見る公、きり、リア。エクスマリアはちらちらと地上のアーマー蛙を警戒し、殺は悔しそうにアーマー蛙を見下ろす。メリーは誰よりも先に階段を駆け上っている。
「!!」
ハッとする一同。餞別のように舌が伸びてくる。
「ふひひ、この期に及んで尻を舐めようとするとはいけないカエルです!」
エマが尻を押さえながら、『燃える石』のお弁当をアーマー蛙の口に放り投げ、「まったく! 往生際が悪いんだから!」とリアがハバネロソースを容器ごとぶん投げ、「念のため、遠くに飛ばしておくね!」と公が失神したアーマー蛙を吹き飛ばす。息を吐き、ようやく、安堵するイレギュラーズ。これで何もかも終わった。尻を脅かす存在は消えたのだ。ふっと地上を見つめ、目を細める一同。
「わふん!! わわわわん!!」
Corgi kissの声。そう、二十匹全員が集まり、お利口さんにイレギュラーズを見送っている。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした~。MVPは尻を犠牲にした貴女に!!
GMコメント
ごきげんよう、ギャグ青砥です! アーマー雨蛙の妨害に屈せず、全てのCorgi kiss(コーギーキッス)のキュートなお尻にキスしましょ!
●目的
アーマー雨蛙の妨害に打ち勝ち、20匹のCorgi kiss(コーギーキッス)のキュートなお尻にキスをし、迷宮から脱出する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●迷宮の特徴
晴天で、ただっぴろい草原。Corgi kiss(コーギーキッス)がぎりぎり隠れる程度で、皆さんやアーマー雨蛙は遠くなければ互いの位置を確認出来ます。ただし、皆さんがしゃがんだり四つん這いになった場合は見えません。隠れます。
●Corgi kiss(コーギーキッス)20体
見た目は普通のコーギー犬。キュートなお尻に誰もがメロメロになる。逃げ足は速いが、わんわん鳴きながら走ってるのですぐ居場所が分かる。体毛はふわふわ。太陽の香りがする。個体差はないので同じ、Corgi kissにキスしないように気を付けましょう!
●アーマー雨蛙
冷静かつ俊敏な雨蛙。アーマーを着ているので打撃には強い。ネバネバした長い舌で皆さんの尻を舐める役目。舐められても不快なだけでなんの影響もありません。戦うよりも何らかの方法で雨蛙を妨害したほうがいいかもしれません。
●<果ての迷宮>独自ルール
『セーブについて』
幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。
●名代
プレイヤーキャラクターは『フォルデルマン』『レイガルテ』『リーゼロッテ』『ガブリエル』他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかを決めることが出来ます。
誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形でされます。展開等が変わる可能性があります。
●同行NPC
ペリカ・ロジィーアン
タフな物理系トータルファイターです。お願いすれば、Corgi kiss(コーギーキッス)を追ったり、アーマー雨蛙に攻撃を仕掛けますが、正直、アーマー雨蛙に尻を舐められたくないし、Corgi kiss(コーギーキッス)のお尻にキスもしたくない。
ギャグですので、宜しくお願い致します!
Tweet