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シナリオ詳細

The Toxic Chocolate ~ロベリアのグラオ・クローネ2020~

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誰がためにカカオは溶ける

 嗚咽が聞こえる。

 慟哭に包まれた部屋の中心で、女は右手に持った聖典を振り下ろした。
 ダゴンッ! ダンッ! ドンドンドンッ!!
 声にならない悲鳴が部屋一帯を支配する中、
 対象に向けて機械的な動作で何度も、何度も、何度も、何度も。

 やがてブツリと中途半端な所で悲鳴が途切れ、砕かれた命の終わりが生々しく示されると、彼女は聖典を抱えながら短く嘆息した。
「はぁ。やっとチョコは砕き終えましたわね。次は……」
「ちょっと待ったーーーー!!!」

 ツッコミの主は『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)だ。
 無理もない。自室でくつろごうとした矢先、お隣の部屋から"猟奇殺人なう"と言わんばかりのヤバい不協和音が漏れてきたのだから。
「ノックもせずに乙女の部屋を覗くなんて、失礼極まりないと思いません?」
「わりィな、緊急事態だったんだよ! っつうか何やってんだァ、ロベリーー」
『ギャアアアアアーーーッ!!!』
 赤斗の問いを掻き消すように再び悲鳴が響き渡る。
 今度は何だと彼が恐る恐る声の方へ視線を落とすと――。

 そこにあったのは料理用のボウルだった。
 中に入っているのはどう見ても溶けかけのチョコレート。それ以上でもそれ以下でもないのだが。

「見ての通り、グラオ・クローネでお配りするチョコレートの準備ですわ」
 当人の口から堂々と告げられると余計に信じ難さが加速する。
『ギッ! ギェ……ギャアアアア!!』
「俺の知ってるチョコレートは砕いても湯せんにかけても悲鳴なんてあげねェんだけどなァーー!?」
「まぁ。赤斗ったら可哀想! 生きてきた中で"活きのいいチョコレート"を食べた事がないなんて」
 持っていたチョコベラであやすように悲鳴チョコ(仮)をかき交ぜつつ、事の発端の女――『境界案内人』ロベリア・カーネイジは肩をすくめる。


「正直に申し上げて、このグラオ・クローネという文化は境界図書館に来てはじめて知った文化なのですが……。
 つまるところ、毒(あいじょう)のこもったチョコレートを渡して意中の相手を永遠に手に入れる日なのでしょう?
 赤斗にも日頃の感謝がありますから、特異運命座標に配る予定のチョコレートの余りを差し上げますわ。……義理で」

●毒(あい)食らわば皿まで
「――という経緯があってだなァ。俺はあと数時間後、ロベリアに毒殺される。……義理で」
 赤斗は知っていた。やると言った事は必ずやってのけるのがロベリア・カーネイジという女だと。
「お前達だって他人事じゃないぞォ、特異運命座標。ロベリアはお前達のためにチョコレートをこさえてるんだからなァ。
 捨てても食べるフリしても彼女は絶対に気づく。だからこうして緊急招集したんだよ」

 特異運命座標と赤斗に残された選択肢はひとつ。ロベリアのチョコレートを解毒して美味しく食べきる事だ。
 そのためにと、赤斗は一冊の本を集まった四人に提示した。

「この異世界は、愛や甘い空気が清めの力を持つらしい。
 チョコレートを受け取った後、ロベリアに愛の言葉を囁いたり、いい感じに甘い雰囲気にする事が出来れば……毒入りチョコが浄化されて、口に入れる頃には無毒に変わってるって寸法だ。

 俺はこれから時間を稼いだ後、彼女をこの異世界に連れて来る。
 お前さんらはその前に、チョコレートを受け取る準備もといプロポーズの用意をしておいてくれ」

 毒殺程度で特異運命座標が死ぬとは思えないが、死よりも質の悪いナニカが降って来ないとも限らない。

――絶対に生き残ろう。特異運命座標と赤斗は互いの検討を称えながら各々の持ち場に散っていったのだった。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
『ロベリアのグラオ・クローネ2020』開催です。愛をもって毒を制する!

●目的
 ロベリアから渡されるチョコレート(有毒)を食べきる。

●場所
<愛浄ノ世界>と呼ばれる異世界です。
 文明レベルは混沌に近く、いろんなデートスポットがあります。
 ロベリアと行きたい場所を探してみてください。

【A】華やかな邸宅:
 大きくて立派なお屋敷です。赤斗が手をまわして自由に使える事になっています。
 ロングソファのあるリビングや広いバルコニー、ダブルベッドのある客室など。日常の愛を演出するのに適しているかもしれません。

【B】カフェ&バー『雪兎』:
 文字通り雪兎が目印の看板がたっている飲食店です。深い雪の中にありますが、テラスには保護結界が張られており、寒さを感じずに雪景色を楽しめるのだとか。
 昼は紅茶やケーキの美味しいカフェタイム、夜はお酒や料理が楽しめるバータイムとなっているようです。

【C】冬の砂浜:
 真っ白な砂が印象的な砂浜です。冷たい潮風が吹きつけますが、広がる景観はまさに絶景。綺麗な海や潮の満ち引きの音が癒してくれる事でしょう。

【D】その他:
 その他、貴方の好きな場所で。

 この異世界全体に特殊な力が漂っていて、
 愛の言葉(プロポーズ)を囁いたり、甘い雰囲気をそれとなく漂わせると
 周りの物が浄化され、邪気を祓い毒を解毒する事が出来るのだとか。

●その他
 依頼ではありますが、グラオ・クローネを楽しんでいただければ幸いです。
 ロベリアと面識のない特異運命座標の方も、ぜひぜひご参加ください。スイーツ好きも大歓迎!

 それでは、よいグラオ・クローネをお過ごしください!

  • The Toxic Chocolate ~ロベリアのグラオ・クローネ2020~完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月27日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨

リプレイ

●Sweet&Spicy
「ロベリア、みんなの迷惑だからもう二度とお菓子作りとかしないでね」
『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が開口一番に告げたのは、なんともスパイシーな言葉だった。
 しかし彼女が意地悪な訳ではない。目の前で目を見開いている『境界案内人』ロベリア・カーネイジ。その手にしている小箱の中身が、華やかなグラオ・クローネに咲く悪辣なる花なのだ。
「こんなの人間が食べるものじゃないわよ。違うっていうなら、あなたが食べてみなさいよ。
 毒だって分かって人にあげるなら、自分が義理で毒入りチョコ貰ってもちゃんと食べて死ぬのよね?
 どっちにしても、まずあなたが一つ食べて見せてよね」

――言ってやったわ!

 そう。メリーは直接文句が言いたいがために、わざわざ毒を食らうリスクを侵してこの場へやって来たのだ。

(これはロベリアに不快な思いをさせても自分がスッキリしたいっていう自分自身への”愛の言葉”よ。
 わたしって自分に”甘い”女なの!)

 流石に返す言葉もないか……と黙りっぱなしのロベリアの方へちらと視線を向けた瞬間。
「ぷっ……!」
「ちょっと、何で笑ってるの?」
 身体をくの字に曲げて笑い出すロベリアに、まるで悪戯が上手くいかなかった子供のようにㇺッとするメリー。ようやく息を整えた諸悪の根源は、目元に滲む涙を指で拭いながら口元を緩ませた。
「ごめんなさいね。とっても嬉しくて」
――嗚呼、今までにこんなに素直な気持ちを伝えてくれる子がいたかしら!
「私の故郷では死とは"解放"。聖なる救いよ。……でも、貴方達もそうだとは限らないでしょう?」
「文化の違いの一言でほいほい殺されたら、こっちとしてはたまらないのだけど」
 呆れたようにメリーは呟いたが、さてと気持ちを切り替える。
「言いたい事は言ったし、依頼を受けた以上、ちゃんと完食しないとね」
「あら、大丈夫なの?」
「まあ毒耐性があるから平気でしょ」
 心配なのは毒より味。細かく砕いて、オブラートに包んで……。
「面白い食べ方をするのね。私にもくださる?」
 食べろと言われたのだから、2人で一緒に。異世界のおいしい水で乾杯して、頬張るオブラートの塊。口の中でじっくり溶けて――。
「ちょっと、なんで作ったロベリアが倒れてるのよ!!」

●願いの花
「――なんて事があって。遅れてごめんなさいね」
『えっ、あぁ。気にすんなよ』
 遅刻された事実に気づかないほど 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734) の虚は動揺していた。
 甘い言葉を紡げば毒が浄化される世界。逃げ場は見つかったけれど、肝心の甘い台詞がさっぱり思いつかないし、体のためとはいえ、嘘を言って彼女を笑顔にさせるのは気分が良くない。
 こんな時に同じ身体を共有している稔が参考になればいいのだが、

「愛の言葉? プロポーズ? 必要ない。美しいものはただそこに在るだけで良い」

……言う。稔なら絶対そう言う。
「どうしたの?」
 何でもないと諸々の悩みを振り切って、向かった先は冬の砂浜だ。冷たい潮風に震える彼女の手を取って、他愛もない話をしながら歩く。
「演劇ってミサ(礼拝)の時に、教えを広めるための物だと思ってたわ」
『宗教劇以外も色々あるぜ。例えば俺が騎士を演じる事になった時は――』
 演劇の事なら話題は絶えない。それでも小箱が差し出されれば、本題を思い出して疑念がよぎってしまうのだ。
『(俺なんかが受け取っちゃって良いのかなぁ……)』
 自分のような特に功績を上げた訳でもない下っ端が、これを受け取るのは何だか不相応な気がする。
「もしかして、甘い物は苦手?」
『そうじゃないんだ。ありがとう』
 ただ、言葉の整理がつかなくて。焦る虚に、ゆっくりでいいわとロベリアが笑う。
 水平線に落ちた夕日がライトのように横顔を照らす中、虚は唇を開いた。
『元いた世界で演劇を見て、それにマジ感動してさ、人生で初めて【ああ、生まれてきて良かった】って思えた。
 未来にどんな絶望が待っていても、あの時のことを思い出すだけで何でも乗り越えられそうな気がするんだ』

『だから俺は、混沌世界に住んでる人達にもそういう瞬間が訪れることを願ってる。
 勿論、ロベリアさんにも』

 他人が聞けば、ささやかな願いかもしれない。それでも――。
『いつまでも貴女の幸せを祈っているよ』

 チョコのお礼にと差し出された栞を受け取り、ロベリアは花のように笑う。
「私も見てみたいわ。心を揺さぶる演劇を、虚が演出した舞台で。
 その時はこの栞にサインをもらいに行ってもいいかしら?」
 夕日色に染まったプラリネのチョコレートは、優しい甘さをもって虚の口に広がった。

●甘い(物理)終活
 プリンアラモードにいちごのパルフェ。ミルクレープに抹茶ガナッシュ。
 テーブルを埋め尽くすほどの甘味に囲まれ、ロベリアは目を瞬いた。
 ここは異世界のカフェなのだが、店の名物である雪兎のオブジェよりも、注文された甘味が多い。
「これ、全部食べるの?」
「まぁ、なんだ……色々考えて、この状況だ。気になる物があったら食っていいぞ」
 チョコをもらえるのは嬉しい。だがそれで苦痛を味わうというのは嫌だ。
『凡才の付与術師』回言 世界(p3p007315)は困った末に、潔く諦めて毒を食らう準備をしたのだった。死ぬ前に美味い物をたらふく食いたい――というのは至極真っ当な願望である。
 雪兎を模したムースが皿の上でぷるぷる揺れる。この店の看板メニューらしい。
(黙って待たせるってのも申し訳ないし、適当に話すか……)
「前から気になってたんだが、何故そんな服装してるんだ?」
 一見すると聖職者の装いではあるものの、神聖とは程遠い黒染めの衣に戒められた足。ロベリアの服は疑問が多い。
「故郷で聖職者をしていたの。黒染めは他の何色にも染まらない意志を示しているのよ」
「へぇ。何だか俺の元居た世界にもあったな、そういうの」
 裁判官の法衣だっけ? とスプーンを咥えながら考え込む世界のまわりには、空になった皿がすでに6枚。
「あっという間に平らげたわね」
「これでも味わって食べている方だが」
「本当に甘い物が好きなのね。前に依頼で贈ってくれた鳥籠も飴細工だったじゃない?」
……まあそうやって話が弾もうとそうでなかろうと、いつかは机の上のスイーツも消えるわけで。
「えっと、やっぱり食べないという選択肢は……無いですかそうですか」
 皿の上にロベリアが笑顔でチョコレートの箱を置いてくる。この圧からは逃げられない!
 なに、毒耐性なら持ってるし、そこまでひどい事にはならないだろう。というより、ならないと信じたい。願いながら包みを解いて取り出したのはピンク色の大きな一粒。
「いちごチョコ……なのか?」
「ルビーチョコよ。混沌で流行ってるって聞いたの。世界は甘味通だから、普通じゃ満足できないでしょう?」
 どうやら毒の類で怪しい色になってる訳ではないようだ。覚悟を決めて頬張れば、ベリーのような甘酸っぱい香りとミルクのような甘みが舌の上でとろけていく。しかし何より衝撃なのが、
「毒と思しきソースが一番美味い……だと」
「ふふ。危険な毒ほど甘いものよ」
 命をとるか、もっと危険で美味しい一粒をいただくか。
 悩む世界を楽しそうに眺めながら、ロベリアはお返しの菓子折りを齧ったのだった。

●幸福の花束
 銀の月が浜の白砂を照らし、きらきらと輝かせる。
 波音だけが聞こえる静かな場所に2人の細い影が落ちた。
「よぉ、ロべリアちゃん悪いな、こんな寒い所まで来てもらって。何でもここがこの世界でも一番の絶景らしくてな! 二人で一緒に見たかった訳よ」
「構わないわ。綺麗な物は好き。何より、ボーンに渡したい物があって」
 差し出されたのはリボンで包まれた小箱。噂のグラオ・クローネの贈り物だ。
「ありがとうな、ロべリアちゃん……嬉しいぜ!」
 経緯や思惑はどうであれ、誰かの為に感謝の心を込めて贈り物を贈るのは素晴らしく"美しい"行動であると『嗤う陽気な骨』ボーン・リッチモンド(p3p007860) は考える。
 たとえそれが毒だとしても、効果不幸か生前に元妻の愛情たっぷりポイズンクッキングを食べ続けた猛者には些細な障害――と思いきや。
 口にしてみると味は素直に美味い方ではあるものの、死霊術で蘇った身体に聖典の加護が降りたチョコレートは骨身に染みる痛みを帯びる。それでも目の前で「お口に合うといいのだけど」と見つめてくる女性(ひと)の前で、男気を見せぬ訳にはいかないのだ。その場で全て食べきって、
「カッカッカ! 中々刺激的な味で良かったぜ!」
 とポーカーフェイスで笑ってのける。そうしてお返しだと取り出したのは、白薔薇と赤薔薇を5本束ねた花束だ。
 薔薇の花は束ねる数で意味が変わる。"あなたに出会えた事の心からの喜び"――その意味を知っているからこそ、ロベリアは驚いていた。故郷の世界から追われた望まれない聖女。その掌に優雅に口づけを落とし、愛を囁く者がいるのだ。
「……それが今の俺の気持ちさ、愛してるぜ、ロべリア・カーネイジ。
 あの日……この世界に来て初めて関われた女がアンタで良かったぜ」
「ありがとう、ボーン。貴方の気持ち、嬉しいわ」
 だからこそ、と聖女は微笑む。
「貴方の旅路は始まったばかり。これからもっと綺麗な物に出会って、そのうちに他に愛する人が出来るかもしれないわ。その時は迷わず幸せを掴んで頂戴。私はゴールで待ってるから」
 その言葉がボーンにどう響いたかは、白骨の顔からは伺い知れない。ただ、少しの間の後に窪んだ目の奥の炎が揺らめいて、
「カッカッカ! そうかい。ありがとなロベリアちゃん」
 と普段の調子に戻ったのだった。
「さて、折角だしまた俺の演奏を聞いてくれよ」
 響き渡る旋律は、どんなチョコレートよりも甘い。

成否

成功

状態異常

なし

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