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シナリオ詳細

四面の魔神

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●奇景の前で
 空気は湿り気を帯びていて肌に纏わりつく感じがした。
 見回せば靄がかった熱帯雨林の中に何故か佇んでいて、これまた何故かどこかへ向かって自然に足が動き出した。
 
 当然考えた。
 ここは何処だろう。夢にしては妙な現実感があるが、現実にしては最後の記憶からの連続性が欠如している。
 頭を悩ます間もなく、答えはすぐに目の前に現れた。

 樹々が途切れ、開けた空間に出ると、そこには巨大な頭部だけの石像らしきものが鎮座していたのだ。
 大きさといえばちょっとした城の城門くらいはあるだろう。海の果ての異民族風の額冠を付けた人らしき顔が前後左右四面あり、それぞれ大袈裟に表情を作っている。
 おそらくはどこかの国の言葉で言う「喜怒哀楽」をそれそれの顔が表しているのではないか。

 眼球がぎょろりと動き、こちらを見たが、然程驚くでもなく「どうすればいいか」が頭に浮かんでいた。

「で? 自分は何を話せばいい?」


●話をしてみよう
 神? 悪魔? ――それとも魔神?
 そんなのは人間の主観に過ぎないのよ。
 暴風の神が転じて農業神だったり、破壊神が救国の軍神だったり。
 あなた達の目の前の――まぁそうね、仮に魔神として――魔神も、扱い辛いけど上手く宥めすかして付き合えばどっかの世界の知らない誰かの助けになるはずよ。
 
 どうすればいいかって?
 あなた達の頭に浮かんだ通り。魔神の四面はそれぞれ喜怒哀楽を表してる。その感情が溜まりに溜まって暴走すると大きな災いをもたらすと言われているの。
 そこで! ひとつひとつの感情を鎮めて昇華させるべく、あなた達にそれぞれの顔に話を聞かせてあげて欲しいの。体験談じゃなくてもいい。聞いた話でも。あるいはぱっと思い付いたものでもいいわ。

 え、そんなまどろっこしいやり方より腕ずくで何とかすればいい?
 そうね。あなた達なら魔神を倒せるかもしれないけど、まぁ止めた方がいいわ。向こうはそれこそ聞く耳持ってくれてるわけだし、ね。

NMコメント

 みなさん、はじめまして。かそ犬(けん)と申します。
 ライブノベル初投稿となります。よろしくお願いいたします。

 さて今回みなさんにしていただきたいのは魔神に話を聞かせる事。それだけです。超兵器、大魔法や究極奥義でぶちのめす必要はありません。簡単でしょう?
 魔神には喜怒哀楽を表した4つの面があるので、それぞれの感情に対応した話をしてあげて下さい。

 喜の面を昇華させるのは楽しい話。
 怒の面を昇華させるのは哀しい話。
 哀の面を昇華させるのは喜べる話。
 楽の面を昇華させるのは怒れる話。
 
 喜びと楽しいの違いがよく分からない? 喜びは達成の結果ですね。例えば試験の合格とか。楽しいは合格後の満ち足りた生活の幸福感とでもいいましょうか。
 別に話にオチをつける必要はないですが、あんまりにも短過ぎると状況が混乱する可能性が高くなります。
 注意点は仲間と相談して誰が何の話をするかしっかり決める事。べつに早い者勝ちで選んじゃってもいいですけども。全員が怒れる話! とかならないように、ですね!
 失敗はありませんので気軽に挑戦してみて下さい。

  • 四面の魔神完了
  • NM名かそ犬
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月17日 22時45分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
庚(p3p007370)
宙狐
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い

リプレイ

●此処は何処? 
 召喚された4人の語り部は魔神の前に立ち、はてと思案した。まず此の魔神の存在や空間について考えたのは自然な反応である。

 実は4人とも五感においては互いの存在を認識しておらず、しかし見知った者が近くにいる、と何となく理解はしていた。仲間がいないものか、魔神の周りをぐるりと1周してみても、やはり誰も見つけられない。空間だの時間だのが歪んでいるとか、そうとでも考えるしかないようだ。この場はといえば結界という程の拘束感はなく、かといって魔神の側を離れ延々と此処から移動すれば人里に辿り着けるとはとても思えない。話さねば此処から帰さぬというような強迫感もなくて、いやお前に話す事など何もないと思えば、今すぐ目が覚めそうな気さえする。

 無理強いされれば反発もしただろうが、選択権があったからこそ好奇心がうずいた。4人とも少なからず、そうだったのかもしれない。

●楽しい話
「感情を鎮めるために、顔と違う話をするなんて…なんだか、ややこしいですの!」
 するりと喜の面の前に滑り出たのは『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(P3P000062)である。

「ではまずわたしがかつて海の中で見た、楽しい話をしてみますの」
ノリアは歌うように言い、楽しげに宙をくるくると泳いで回った。
「わたしが生まれそだった場所は、深い、深い海でしたの
 でも……まったく浅いところへ行かなかったわけではなくて、ある夜には水面の傍ま
で浮かんで、満月の夜に照らされる珊瑚礁まで、出かけたことが、ありましたの

 それは……幻想的な、光景でしたの
 どうやらその日は、珊瑚の産卵日だったらしくて、遠目から見ても、珊瑚礁全体が、煙ったようになっているのがわかりましたの
 その頃、わたしはそれが何かを知らなくて、そっと近づいていってみたら……そう、地上の方が解るように言えば、雪のような光景に、びっくりさせられた憶えがありますの」

 目を閉じたノリアは在りし日の情景を懐かしむように、ぱたぱたと尾を動かしている。
「でも……珊瑚の産卵は、地上の雪の日とは違って、静けさとは対極の一夜なんですの
 手のひらを広げれば簡単に捕まりそうな卵――正確には、卵子と精子の入った「バンドル」ですの――は、魚たちにとっては、労せず食事にありつけるチャンス
 いろんな魚がそれを狙って駆けまわり、さらにその魚を目当てに、もっと大きい魚もやって来る…それは、魚たちのお祭りのようでしたの

 しばらく光景に圧倒されていると、急に、声が、かけられましたの
 驚いてふり返ると、そこには、人魚たち
 こんな日は、もちろん皆様も漁の日だったらしいですの……彼らの放つ熱気を遠巻きに見て、なんだか楽しくなりましたの」

●怒れる話
「ふむ、喜怒哀楽……人の心という物か。
 この魔神の存在にも興味はあるが仕事は果たすとしよう」

『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(P3P004095)は、ふうと吐き出した紫煙が宙に溶け去るのを待ってから、指に挟んでいた煙草を投げ捨てた。
「私が担当するのは楽の面……怒れる話か」
 何故かは分からぬが、相談した訳でもないのに他の3人と被らない選択ができている確信がある。学者と言って信じてもらうにはやや鋭過ぎる目で、ラルフは魔神の動かぬ瞳を改めて覗き込んだ。

「聞いた話だ。
 ある農家の男は畑に尽くしてきた
 土を耕し、日を愛し、家族を愛し大地と隣人と共に生きる美しい人間であった。
 しかし突然戦火が村を襲い、大切にした畑は焼け、家は破壊され
 美しい妻と娘は兵共の慰み者にされた……
 ああ、美しく生きていた男は嘆いたよ、何が悪い? 人が悪い? 力もない自分が悪いのかと
 そして君はどう考える?
 壊れた物は戻らない。取り返せない。
 ああそれまで質素と堅実に生きていたというのに下らない欲望に巻き込まれたばかりにね
 誰が許す? 何故許す?
 それを許す事が優しさと云うなら私は否と答えよう
 そう、全てを許すな、悲劇を招いた合切全てを燃やし尽くし
 そして消滅させるのだ。

●哀しい話
 『宙狐』庚(P3P007370)は眉を逆立てた怒りの面の前に佇んでいた。
「ふむ、満面朱を濺ぐ烈火の怒りを慰めるは昏い水底のように深く沈む悲しみであると。
 どんな話がお好みでしょうか。
 精霊種ゆえに肉親というものが無く、道行く親子が仲良くアイスなど食べていらっしゃるのを見ると耳がしおれるとかそういったものとは違うのですか? カノエの事を慰めてくださってもよろしゅうございますよ? どうぞ、ええ存分に!」

独りで盛り上がってしまったが、当然ながら魔神に反応はない。カノエは佇まいを改めると、それでは、と口を開いた。
「……先の大きな戦いでの、遣る瀬無い話を。
 消耗戦においては敵を殺してしまうよりも生かして帰し、救護や治療のコストを相手にかけさせることが効果的です。
 ですので超兵器、大魔法や究極奥義ではなく、決定力に欠ける攻撃が多いのです。

 カノエのおりました野外病院に運ばれてきたのは全身が黒く焦げた人間大の塊。
 生焼けの臭気は吐き気を催させ、当然ピクリとも動きませぬ。

 運んできた方も「これはダメだろうけど」と仰っており、周囲も異口同音に「これは……」「ひどいね」と目を背け。
 医師や癒し手の方も手を施しても無駄と切り捨て、一瞥だにしません。

 それでも運ばれてきたからには対応が必要ですので、カノエは優先度の低い者が集められる床に彼を運び、個人を識別するタグなど残っておりませんか、胸の当たりを探ったのです。

 その時、唇が動いて。
「狐さん、そんなに俺はひどいんですか」と。

 半刻も経たないうちに彼の生命反応は消えましたけれども、ええ。
 最初から彼は見えてらっしゃいましたし、聞こえておりましたのですよね」

●喜べる話
「難儀な話やねぇ」
『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(P3P007611)は頬に手をやりながら、そう独りごちた。
 実際それほど困っていた訳でもないのだが、これから語るのは自分の身の上話であるから、満足してもらえるものか不安はある。

「この世界に召喚される前の私は
 一族の呪いの影響で不治の病で寝たきりでねぇ
 歩く事すらままならんかったんよねぇ
 その時からずっと
『自分の足で色んな所を歩いて、唄を歌い続けたい』って言うのが目標でねぇ

 少しずつやけど姉様に支えてもらいながら
 ゆっくり歩ける様になったり唄も歌える様になってきてねぇ
 1人でもできるように頑張ってきたんよねぇ」

 亡き姉との思い出が脳裏に浮かんだ。
 二人三脚のリハビリの日々。できれば姉様が死ぬ前に、今の私を見て欲しかった。

「姉様が亡くなってから姉様の妖刀の
 姉妹刀に触れる機会があってねぇ
 その時から身体がしっかりと動かせる様になったんよねぇ
 まるで姉様が今でもずっと支えてくれてる気がしてねぇ」
 それからこの混沌世界へ召喚されたのだ。思えば随分昔のような気がする。

「今では私自身の足で歩ける、翼で飛ぶ事もできるし
 思いっきり歌う事もできる様になったんやわぁ
 ずっと憧れてた色んな所を歩いて歌う事ができるようになったし
 幻影とはいえ姉様にも逢う事もできたんよねぇ
 この喜びを忘れずにずっと持ち続けていくわぁ」

●四面の魔神
 話し終えた紫月は自分が少しだけすっきりしたような気になっている事に気付いて可笑しくなってしまった。魔神の感情を昇華させるつもりが、語り手の自分まである意味救われたらしい。

言葉にすること。
伝えること。
そのちから。

「言霊、というものか。さて、どうなる?」
「4人目も……終わったような気がしますの」
 それぞれ自分の分の話を終えて待っていたラルフやノリアにも全員の語りが終わった事は伝わっていた。互いの姿は見えぬ、声も聞こえぬ。だが何故か分からないがそう思った。
 「ご満足いただけましたでしょうか?それとも、カノエの話をもっとお聞きになりたい?ではもう一席……」
 カノエがやや大袈裟な身振りと共に再び話し出そうとしたところで、魔神に突然変化が起きた。

 それぞれの面の表情が大きく歪んだ。顔全体が伸びたり膨らんだり縮んだりを繰り返しながら、表情も喜怒哀楽をころころと一瞬で変えてゆく。失敗か、と思ったが、特に攻撃性は感じられない。もっとも全員が(程度の差はあれ)油断なく身構えてはいて――そこで刹那、地面が消失したかのように宙へ投げ出された。

 驚きはしたが、恐怖は感じなかった。ああ、帰るのだなと思っただけだ。
 遠ざかる魔神の向こうで空間が歪み、幾つもの風景や場面が見えた。
 渇いた農地に降り注ぐ雨。漂流する男を船が見つけ、片や生まれたばかりの我が子を感涙にむせびながら女性が抱いている。停戦協定を結んで握手する軍人も見えた。

 どうやら自分達は役目を果たし、魔神は何処かの世界の知らない誰かを気まぐれに助ける気になったらしい。
 さよなら、機嫌のいい魔神さん。
 そんな台詞が心に浮かぶと、魔神は四面全てに穏やかな笑みを湛えてこちらへ振り返った。

 「その表情の方がずっと素敵だと思いますの」
 ノリアが語り部達の思いを代表するように、そう呟いた。

成否

成功

状態異常

なし

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