PandoraPartyProject

シナリオ詳細

海賊討伐 ~ジャッカルの喉を裂け~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ジャッカル海賊団
 大海原を進む船。
 飢えた犬のごときどくろを船首に掲げたそれを見たとき、人々は様々な名を口にする。
 『死体あさり』『卑野犴』『デッドエンド』『嘘つき海賊』――しかし最も多く呼ばれる名が『ジャッカル』である。
 それすなわち船長の通り名であり、彼らが商船だろうが観光船だろうが構わず襲いかかり食い物にするさまをさす蔑称でもあった。
 一度出会えばしつこく食いつき勝っても負けても不幸を呼ぶさまにもまた相応しい。
 偵察に飛ばした鳥は見た。
 真っ赤な髪をした犬獣種の船長がギザギザした歯をむき出しにして笑うさまを。
 ドクロの描かれた帆を。
 剣や銃を手に叫ぶものたちを。
 奴隷にされた男たちが鞭打たれ人力車を押しているさまを。
 そして船長がその笑顔のまま、鳥を見事に撃ち落とすその瞬間を。

「ジャッカル海賊団の被害は今までで何件にも上る。
 家族を奪われた者。財産を奪われた者。家を焼かれた者。極悪非道の海賊だ。
 諸君らに依頼するのは、このクソッタレどもの討伐さ。
 報酬は、この通り」
 赤服の貴族はパイプをくわえたまま懐に手を入れ、机の上に布袋を放り投げた。
 机に落ちるドンという音と金属のこすれる音に、中に入ったコインの数が知れる。
 視線を引けば、テーブルへいくつも置かれた金属カップと中で泡立つ麦酒と、ソーセージやチーズが山と積まれた皿。
 周囲でカップ片手に歌う男たちと踊る女、ギターの音色。
 ここは幻想南西バルツァーレク領の港にあるという大衆酒場である。
 赤服の貴族はだらんと下がったままの左腕を庇うように抱くと、忌々しげにパイプを噛んだ。
「我が家名に誓って罪科は問われない。報酬に加え、今回使える船をかそう。
 だから――」
 ばきん、とパイプが噛み砕かれる。
「奴らを地獄にたたき落としてくれ。一人たりとも、生かしちゃおけないからね」

GMコメント

 いらっしゃいませ、こちらは港の大衆酒場『アルパアノル』。
 安酒に肉にチーズ。ジプシーたちにはお触りにならないように。
 さて、ご注文をどうぞ?

【依頼内容】
 『ジャッカル海賊団』の全滅。
 依頼人の貴族ベンジャミン氏いわく、「奴らの死体が陸に上がることすら許容できない」だそうです。
 全身全霊の滅殺を望んでいます。

【交戦まで】
 ジャッカル海賊団の活動海域は判明しています。
 そこまで船で移動し、海上(船上)で戦うことになるでしょう。
 頑丈な船が1隻貸し出されますので、これを用いることになります。
 運転が得意な方が居ればきわめてクールですが、いなくても一応の運転はできるものとして判定します。

【交戦開始から】
 敵はこちらを攻撃可能射程にとらえた段階から銃撃を開始ししながら船を寄せ、跳躍やフックつきロープなどを用いてこちらの船に乗り付けてくるでしょう。
 敵船長は敵船に残りますので、こちらも相手の船に乗り込んで戦わねばなりません。
 そのため戦闘では『自船防衛』『敵船襲撃』の二班に分かれて戦うことになります。

・『自船防衛』
 自らの船が占領されるとそのまま逃げられてしまう恐れがあります。
 乗り込んだ敵海賊を撃退し、なんなら海に落としてしまいましょう。
 最重要で守るべきは舵と操舵手です。

・『敵船襲撃』
 A.敵のリーダーであるジャッカル船長との戦い。
 B.船に残った海賊たちとの戦い。
 C.奴隷にされている人々をよけたり逃がしたりする戦い。
 これらを同時にこなす必要があります。最悪Cを省略して後回しにしにも出来ますが、その分安全が保証されません。
 敵海賊は船長のもとへ行かせまいと立ちはだかるので、これら海賊を受け持つ担当と船長と戦う担当に分けるとよいでしょう。

【ジャッカル海賊団】
 敵のデータはあまり詳しく分かっては居ません。
 超遠距離レンジの攻撃が可能であること。
 至近格闘が可能であること。
 メインの戦闘ができる人数が7~10人程度であること。
 (非戦闘員の海賊もいるということ)
 船長は頭一つ抜けて強いこと。
 ここまでが分かっています。
 ※戦闘によるかなりのダメージが予想されます。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 海賊討伐 ~ジャッカルの喉を裂け~完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月16日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)
緋色の鉄槌
メアリ・ル・クレール(p3p000477)
ご当地海賊船長
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
オクト・クラケーン(p3p000658)
三賊【蛸髭】
ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)
冒険者
ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女
カルマリーゼ・セフィラ(p3p003135)
黒き森の賢者
すてーき(p3p004293)
触手マイスター

リプレイ

●帆をはり、錨をあげよ
 遠くから聞こえる笛。行き交う人々と金槌の音。
 港には船が並び、海鳥が縁に並んでいる。
 海風に深呼吸をして、『黒き森の賢者』カルマリーゼ・セフィラ(p3p003135)は両手を大きく広げてみた。
「はぁ~、海! 大海原! 楽しみで御座います~」
 時折強く吹いた風がカルマリーゼの長いプラチナブロンドを靡かせていく。
 そばに置かれた真っ赤な宝箱……が、くぱりと勝手に開いた。
 一見するとすごいお宝の入っていそうな宝箱だが、縁にはずらりと牙が並び、暗黒のごとき内部からは怪しく両目が光っていた。
 『宝箱型触手モンスター』すてーき(p3p004293)である。
 箱からでろんと出た触手で地を這うようにして船へと移動していく。
「あんたらが噂の何でも屋かい。ジャッカルをぶっ殺してくれるんだって?」
「頼むぜ。あいつにゃ何度も酷い目にあわされてんだ」
「海賊にしたってタチが悪ぃ。いつかこうなると思ってたんだよ」
 木箱を椅子代わりにして昼間から飲んだくれている船乗りたちが、ジョッキを翳して呼びかけてくる。
 船の縁から身を乗り出していた『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)は手を振って応え、小さく嘆息した。
「極悪非道の限りを尽くす、海の無法者。ジャッカルとはよく言ったものね」
「相当嫌われてるらしいな。市場でもされたな、その話。アンタも嫌いか?」
 航海用の細かい物資を運び込んだ『装紅者』マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)が、木箱を甲板に下ろした。
 くるりと身体ごと振り返るミスティカ。
「個人的な恨みはないけど、ああいう輩は好みじゃないの」
「オレもだ。正義気取りじゃねえが、放っておけねえ外道さだ」
 いつのまにか甲板に上がっていた『芸術家』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が奇妙にゆらめいた。
「賊を殺すのは賊。ならば賊を綴るのは何か。我等『物語』で在る。偶には暴力的な最終稿も悪くない。否。悪い方が好いのか」
「かかっ――」
 『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)は蛸足のような髭を揺らすようにして笑うと、手入れしていたカトラスを両腰の鞘に力強く差し込んだ。
「ジャッカルってのは救いようのねぇ最低野郎らしいぜ。素晴らしく俺好みだ。最高に大好きだ。最高に最高に大好きだ! だから――」
 巻き取り機のレバーを蹴っ飛ばすと、ロープがひかれて船に帆がかかった。
 出発前に描いたシンボルマークが風にはためき、見物に集まった船乗りたちがざわめく。
 タコとウサギを掛け合わせたドクロのマーク。
「ぶっ殺そうぜ」
 錨があがり、船が滑り出す。
 最大人数に達した見物人たちが港で手を振るのを眺め、『冒険者』ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)はバニラシガレットを咥えた。
「しかし、なんだね。コチラもコチラで随分な海賊船になったな」
 気づけば、ヴィンスたちの乗っている船は恐ろしい幽霊船に化けていた。
 オクトのギフト能力で幽霊船の幻影をかぶせているのだ。
 周りには濃い霧がかかり、雰囲気もバッチリである。
「海賊狩りの幽霊海賊ってところか、なあ、『キャプテン』オクト&メアリ?」「そんなところね」
 舵を握り、ニッと笑う『ご当地海賊船長』メアリ・ル・クレール(p3p000477)。
 マスケット銃を腰に下げ、ウサギの耳が突き出た帽子を押さえて舵をきった。
「さぁ、海賊のお時間よ!」

●海賊VS海賊
 ジャッカル海賊団は海賊の例に漏れず、船が単独で航行しそうなエリアに張って襲撃をしかけ略奪するというおきまりのスタイルをとっていた。
 とはいえ広い海で待ちぼうけをしてもいけないので、商船の航海スケジュールを盗み見て先回りするなんてパターンが多いのだが、今回はそれを逆手にとって貴族観光船の偽装航海スケジュールをわざと横流しさせたそうだ。
 霧の向こうに飢えた犬のごときドクロの船首像が見える。
「へい、キャプテン! 奴らの船が見えてきたぞ?」
「あっちからも見えてる筈だ。さて、仕掛けるかね」
「我等『物語』は廃れて狂った賊『物語』に真の半端性=娯楽的恐怖を晒して魅せよう」
 ギラリと笑うオクトとオラボナ。
 一方でカルマリーゼはファミリアーを用いて鳥を飛ばした。
 霧を抜けた鳥の視点から、まずは見てみよう。
 俯瞰した海。こちらに接近するルートをとっていたジャッカル海賊団と、やや軸をずらしつつ横付けを狙う幽霊船。
 距離200mをきる段階から、ジャッカル海賊団の船員たちは異変に気づき始めていた。
 甲板を掃除していた船員が顔をしかめ、目をこする。
「ありゃあなんだ。船に霧がかかってる」
「貴族の催し物かなんかだろう。いや、いや、なんだ、違うぞ」
 襲撃に備えていた戦闘員たちがカトラスやマスケット銃を手に、それぞれ船の端に寄った。
 柱を上り、高所から眺めるジャッカル。
 その全員が、異様な光景に目をも開いた。
 霧を纏って近づくのは、なんとも恐ろしい幽霊船だ。そこに娯楽的恐怖が加わり、世にも恐ろしい物体となって近づいてくるではないか。
「ありゃあ、噂に聞く蛸髭か? にしちゃあ豪勢な――あ、オイ!」
 舵をとっていた船員が呆けて操作を怠っていた。
 大事な接触を前にして操作を怠れば、相手に主導権を譲ることとなる。
 さあ、視点を『こちら』に戻そう。
「叩き付けるわ。つかまって!」
 船を急速にカーブさせ、ジャッカル海賊団の船に叩き付けるメアリ。
 舵の維持をオラボナに任せると、メアリは甲板を走った。
 衝突の激しい揺れ。船と船がこすれ、軋むような恐ろしい音が足下から響いてくる。
 それを無視してジャンプ。船の手すりに飛び乗り、更にジャンプ。
 メアリは片目を閉じて狙いを定めると、慌ててカトラスを抜いた海賊たちにマスケット銃の狙いを定めた。
 追ってジャッカル海賊団の船に着地するオクト。
 両手にカトラスを握り、両足からズドンと着地。斬りかかる戦闘員の斬撃を打ち払うと、とてつもなく鋭い斬撃でカウンターした。
 手元からカトラスが飛んでいき、自分の手とオクトを交互に見る戦闘員。
「かかっ――」
 慌てて取り出したナイフに自分のカトラスを当てて軌道を制限すると、ぐいっと顔を近づけた。ギラリと光るオクトの目。
 そして気づいた頃には腹にカトラスが突き刺さっている。
「死にな」
 オクトは刺したカトラスで相手を持ち上げると、そのまま船の外へと投げ捨てた。

 派手に衝突したメアリたち。
 しかしその反対側からはマグナによる奇襲が行なわれていた。
 途中から船を下り、海を直接泳いで回り込み、船内に侵入して非戦闘船員を薙ぎ払いながら甲板へと躍り出る。
 当初は単独で攻め込んで混乱させるつもりだったが、全速力で突っ込む船より速く回り込むのが難しかったり集中攻撃を受けたら流石にひとたまりもなかったりしたので、派手な突入に紛れ込む形での回り込み作戦にシフトした次第である。
 さておき。
 巨大なロブスターとなったマグナは自身を真っ赤に輝かせ、戦闘員の後頭部をクラブハンドで掴み上げた。
「近術解放、『スティンガー』!!」
 挟んだ頭がはじけ飛び、マグナの腕が更に赤く染まった。
「殺しに来たぜ、ジャッカルと雑魚ども」
 こうして引っかき回されたジャッカル海賊団は当然のように混乱に堕ちた。
 心の弱い者は異様な幽霊船が近づいた時点でおびえすくみ、戦闘ができない者は先を争って逃げ惑う。
 船内からマグナが現われたことで逃げ場を失って狂乱し、船から飛び降りる者まで現われた。
 そんな中、時期を見計らっていたカルマリーゼが杖にちょこんと腰掛ける形で甲板上の奴隷たちの元へとやってくる。
「御機嫌よう、わたくしはカルマリーゼ」
 人力車(全員でぐるぐる回すタイプの人力動力装置)にくくりつけられていた奴隷たちがぽかんと見上げる中、カルマリーゼは独特の空気を纏ってにっこり笑った。
「頼れる賢者のマリーちゃんとお呼びくださいませ」
 カルマリーゼが指で空中に蝶の模様を描いていけば、生まれた魔術の蝶が奴隷たちの手枷や鎖をピンポイントで破壊していく。
 こうして奴隷たちを引き連れると、『あとはよろしくお願いします』とばかりに手を振った。
 お願いされたのはミスティカである。
 船から下がったロープを掴んでジャッカルの船へと飛び込むと。彼女を狙って銃を構える相手めがけて死霊弓を連射。
 ロープを放して宙を舞うと、帽子を押さえながら着地。甲板を走りながら魔術を練り上げていく。
「これは海で命を散らした者達の、その怨念。貴方達もすぐに仲間入りさせてあげるわよ」
 額の宝石がきらりと光り、ミスティカは広げた手を甲板の板に叩き付けた。
 伝うように伸びた赤い亀裂が相手の足下で爆ぜ、槍のように身体を貫いていく。

 一方、すれ違ったジャッカル海賊団とイレギュラーズたちの船はそれぞれが背を向ける形でゆっくりとターンを開始していた。
 舵をきって操作しているのはオラボナである。
 衝突の際勇敢にも船に乗り込んできた少数の海賊を、敵船に『戻さない』ためだ。
「ル=リエーの館にて、死せるクトゥルー。夢見るままに待ち至り」
 不思議な言葉をのべる旅に仲間たちに付与効果が発生していく。
 仲間たちというのが誰かと言えば、ネコの耳がついた美少女と宝箱である。
 海賊の習性なのか個人的な趣味なのか、宝箱をちらりと開けてみる海賊。
 なんだか真っ黒い闇のようなものがあり、闇の中でふたつの目がまばたきをした。
 首を傾げて瞬きをする海賊――にしゅるしゅると触手が飛び出した。
 慌てて逃げだそうとする海賊の足首に巻き付き、そのまま宝箱の中に引きずりこんでいく。
「ひどいトラップだ」
 『ああはなるまい』という顔で見ていたヴィンスは、銃撃の乱射に対応すべく木箱の裏に身を沈めた。
 一度腕と銃だけ出して乱射。弾を撃ち尽くすとリボルバー弾倉を開いて空薬莢を足下にばらまいた。
 ポケットから取り出すスピードローダー。
 弾込め、装填。弾倉を景気よく回転させると、木箱から身を乗り出した。
「さぁ、鉛玉抱えて海に沈みたい奴からかかってきな」
 海賊たちの狙いは主に舵りだ。
 ヴィンスたちを倒すのも重要だが、船の操作を奪って主導権をとるつもりらしい。
 ヴィンスは髪飾りを押さえると、木箱を乗り越えて飛び出した。
 相手の銃撃に対して右へ左へジグザグに跳ねながら接近。
 マスケット銃より内側の間合いへ潜り込むと、銃のグリップで殴り倒した。
 そんなヴィンスを狙ってさらなる銃撃。
 『あぶねえ』とばかりに飛び退いて、再び木箱の裏へと飛び込んだ。
 ……と思ったら、木箱ではなく宝箱(すてーき)の裏だった。
 くぱりと箱が開き、中から『感度三千倍』と書かれた小瓶が出てきた。
「ただの毒ポーションでやんす」
「……」
「投げるでやんすよ」
 尚投げてみたら本当にただの毒ポーションだった模様である。

 無数の弾丸が飛来する。
 マグナはクラブハンマーを交差させるようにして構えると、赤いオーラをわき上がらせた。
「テメェら全員、地獄に送ってやらぁ!」
 ガードを解き、振り上げるハンマー。
「遠術展開、『ヘルファイア』!!」
 地面を殴ると同時に炎の波にも似た魔力が海賊を飲み込んでいく。
「運が良かったわね、貴方達。海賊として海の上で死ねるなら、本望なんじゃないかしら」
 ミスティカもまた赤い光をゆらゆらとわき上がらせながら、海賊たちの間をすり抜けていく。
 撫でるように手を払えば、海賊たちはたちまちのうちに生命力を失ってぼろぼろと肉体を崩れさせていった。
 戦闘員も非戦闘員も構わず皆殺しにされようという中で……。
「とりあえず、落ち着いてお茶にでもしましょうか?」
 奴隷たちを船の端に一旦押し込めたカルマリーゼがきわめておっとりと述べた。
 自分たちの船がターンして戻ってくるまでまだ暫くある。戻ってきてもまだ戦闘の真っ最中だったら困るので、どのみち戦闘が終わるまではこのままだ。
 カルマリーゼへ背後から斬りかかろうとする海賊。
 奴隷たちがあわあわと、振り上げられたカトラスを指さす。
 しかしカルマリーゼは表情をあまり変えぬまま、指をパチンとだけ慣らした。
「黒き森の叡智、ご覧下さいませ」
 海賊の鼻先で蝶がはじけ、海賊はばたんと倒れた。

 甲板を走るジャッカル。
 併走するメアリ。
 二人はたがいにマスケット銃を向け、打てる限りの銃弾を叩き込みあった。
「海賊としてはアナタの行為を否定はしないわ。だけど、海賊なら略奪される覚悟があるから略奪してるのよね?」
「ショー海賊がぬかしやがる……!」
 互いの肩に、互いの腹に、銃弾が次々と撃ち込まれていく。
 銃撃戦を制したのはメアリの方だ。ジャッカルの手からマスケット銃が撥ね飛ばされ、船の外へと回転しながら飛んでいく。
「腕は本物かよ。チッ――」
 ジャッカルはギザギザの歯を見せて笑うと、そばにぶら下がったロープを掴んでジャンプした。船の帆を支える中央の柱に飛びつき、そのまま器用に駆け上がっていく。
 一方で、オクトは帆を操作するためのロープの一本を切ってその反動で急上昇。ジャッカルに追いつくと、メインマストの最上段トップゲルンヤードへと着地した。
 いわば丸太一本を足場にした一騎打ちだ。
「蛸髭、いつからこんな海に戻ってきた」
「気安く呼ぶんじゃねえや、ジャッカル」
 かかっ、と髭を揺らして笑うオクト。
 ロープを掴んで走る両者。ジャッカルとオクトのカトラスが正面から打ち合った。
 剣による防衛ラインが重なった瞬間だ。防衛をやめればあと半歩踏み込まれて身体をやられる。首でも足でも片腕でも、どこをやられてもおしまいな状況だ。
「ジャッカル、最低最悪な馬鹿野郎! 最ッ高だ、好きだ、大好きだ! だからよぉ――」
 連続で打ち込むオクトの斬撃。
 対抗して繰り出されるジャッカルの斬撃。
 オクトの目が光る。
 たった一瞬の隙を突き、ジャッカルの剣を跳ね上げ、踏み込み、心臓部を深々と剣で貫いたのだ。
「奪い合おうぜ、ジャッカル」
 オクトはジャッカルのさげていたドッグタグを強引に引きちぎると、甲板へと蹴落とした。

●盛者必衰
 燃えさかる船を背に、船はゆく。
 マグナたちは捕らえられていた奴隷たちを自分の船に移すと、残ったジャッカル海賊団の非戦闘員たちを片っ端から叩き殺した。
 戦う力の無い者を一方的に殺すのは、抵抗が無いわけではない。だが、一人たりとも生かしてはおけない。それがオーダーである。
「物語は幕を閉じた。残ったのは冗長な我等『特異点』のみ。依頼の成否で浮かべる貌を変化させるべき。成功ならば哄笑を。失敗ならば自嘲を。何方で在れ、我等『物語』は悦に浸る」
 オラボナは語り、カルマリーゼやすてーきは平和そのものだ。
 オクトは握っていた二枚のドッグタグを見下ろし、その一枚をメアリへ投げた。
 見もせずにキャッチするメアリ。言いそびれていたことを、言っておくことにした。
「海賊らしく、頂いてくわ」
 ミスティカとヴィンスは一度振り返り、そして足下の帆布を見た。
 ジャッカル海賊団の船を燃やすにあたって、帆布の一部だけを奪ってきたのだ。
 飢えた犬のようなドクロが描かれた布である。
「海賊旗は海賊の魂だとも言うそうだけど。海賊団が壊滅したのなら、もう旗印を掲げる意味もないわよね」
「これにて一件落着。かな」

 この日、混沌の海から一つの海賊が消えた。
 『死体あさり』『卑野犴』『デッドエンド』『嘘つき海賊』――ジャッカル海賊団と言った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 今回の活躍により、皆さんはジャッカル海賊団の帆布やジャッカルのドッグタグ(非装フレーバーアイテム)を持ち帰りました。オーダー通り一人残さず海に沈めたこともあって、依頼主も持ち帰ることを許可したようです。
 ご自宅やギルドに飾ってみたり特殊化処理をして装備してみたり自由にご利用くださいませ。

PAGETOPPAGEBOTTOM