PandoraPartyProject

シナリオ詳細

サイレントワールドのカウントダウン

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ミウトの宴
 しんしんと降り積もる雪に、全ての音が吸い込まれたような世界だった。
 白銀の海に朝日が反射する時刻になっても、雄鶏の鳴き声は聞こえない。
 井戸端会議に集まるご婦人方の間に飛び交う声は無く。挨拶はひらりと手のひらを交わすのみ。
 こんなに静かな雪合戦があっていいのだろうか。子供達の遊び場でも笑い声ひとつしない。
 それでもそこに、笑顔はあるのだ。無いのは『音』――ただ、それだけ。
 誰の声も聞こえない。拍手をしても手が合わさるのみ。皿を割っても静かに形を崩して散らばるだけ。
 けれども、音の無い世界で暮らす住民は、ある意味とても『おしゃべり』だ。
 言の葉の代わりに使うのは身振り手振り。ひらひらちゃっちゃと常に踊っているようで。
 また、彼等の表情はとても豊かだ。目も口もよく動くし、目は口ほどにものを言う。
 それが、この世界で生まれた住民にとっての、何て事も無い日常の風景なのだ。

 しかし、今宵は特別な催し物があるそうだ。本日は年の暮れ、一年の終わりと始まりを祝う宴が開かれる。
 『ミウト』と呼ばれるこの村と、隣村の『クワエト』。
 ふたつの村は、毎年この時期になると、それぞれの名産品を交換するのが習わしだ。
 ミウトの七面鳥の肉と葡萄酒を馬そりで運び、代わりにクワエトからケーキと丸い玉を貰ってくる。
 丸い玉とは何なのか。それは年が明けるカウントダウンの時に分かるらしい。
 宴を心待ちにしている住民達だが、実は今年はある懸念を抱いている。
 隣村は馬そりなら数刻で行き来可能な近隣なのだが、その間で最近野犬のモンスターが出没するらしいのだ。
 もしも襲われてしまったら、馬も乗る人も危険だし、荷物も駄目になってしまうかもしれない。
 夜の宴に間に合うようにそろそろ出発したいところなのだが。
 ああ、どこかに護衛をしてくれる勇敢な者がいてくれたら安心出来るのに。
 声なき願いは今、世界を越えて――誰かの元へと届いたようだ。

●宴の準備を手伝いに
「静かな願いを見つけたんだ。聞いてくれるかな?」
 朝雪のように眩しい銀髪の少年、カストルは真っ白な表紙の本を手にイレギュラーズへ問いかけた。
 このライブノベルは音の無い世界、サイレントワールドへと繋がっている。
「今回はこの村の人達の宴の準備を手伝いに行ってもらいたいんだ。仕事内容は簡単な護衛だよ」
 イレギュラーズには、馬そりに共に乗って荷物運搬の護衛を行ってもらいたい。
 敵は四匹の野犬モンスターの群れだ。恐らく一撃で沈められる程度の強さなのだが……。
「気を付けてもらいたい事がひとつ。それはここが『音の無い世界』だという事。野犬の足音に聞き耳を立てて襲撃のタイミングを予測する、という手は打てないからね」
 この世界に入れば、誰でも音を失ってしまうのだ。当然仲間同士での会話も出来なくなるので、予め合図を決めたり筆談をしたりと対策を練っておくと良いだろう。
「無事に護衛を終えたら、君達も宴に交ぜてもらうといい。珍しいものが見られると思うよ」
 何が見られるかは内緒だ、と。カストルは人差し指を自分の口元に当てて微笑んだ。
『よろしくおねがいします』
 サイレントワールドの人々を真似て、手のひらで語りながらカストルは皆を送り出したのだった。

NMコメント

 はじめまして。この度NMに就任させていただいたハザクラと申します。
 こちらが初シナリオとなります。
 クリスマスと大晦日が一緒にやってきたような夜の宴が待っています。
 楽しい思い出の一頁となりますように。どうぞ宜しくお願い致します。

●世界
 音の無い世界『サイレントワールド』が舞台となります。
 イレギュラーズの皆様も、一時的に声を含む音を全て失います。
 無音の世界でどう動くのか、お考えになっていらして下さい。

●依頼内容
 『ミウト』村と『クワエト』村を、馬そりで行き来して運搬の護衛をして下さい。
 出発はミウト村です。夜の宴までに十分間に合う時間はあるので、特別急ぐ必要はありません。
 道中は平坦な道が続きますが、両脇は常に木々で囲われています。
 護衛任務ですが、敵は弱いです。
 音が聞こえないという点だけ注意していただければ、簡単に倒せます。
 後は宴を楽しんで下さい。

●敵モンスター
 四匹の野犬の群れです。
 村を行き来する道のどこかで襲撃してきます。
 攻撃方法は、噛み付く・ひっかく、のみの通常攻撃です。

●宴
 年越しを祝う夜通しの宴が開かれます。
 キャンプファイヤーで温まりながら、ご馳走を頂いて下さい。
 ダンスやショーもあるらしいので、飛び入り参加をしてもよいでしょう。
 静かに過ごしたいのでしたら、輪の中から外れて見学していても構いません。
 皆様のお好きなように過ごして下さい。

●持ち物
 季節は冬、とても寒いです。防寒グッズがあるとよいでしょう。
 食べ物や飲み物を持ち込んでも住民達に喜ばれると思います。
 筆談用の筆記用具はお任せ致します。
 音が出るものを持ち込んでも、音はなりません。

●サンプルプレイング
 もこもこの上着を着こんで手伝いにいくね。
「僕達が護衛するから安心して!」と紙に書いて村の人に伝えるよ。
 道中はソリから周りをよく見ておくよ。
 木の間に野犬が隠れてないか常にチェック。
 見つけたら大声で知らせる!……は出来ないから、
 仲間の肩を叩いて、敵を指さして知らせるよ。
 野犬に向かって飛び出す皆を、後ろから援護しよう。
 マジックフラワーを発射「みんな焼け焦げちゃえ!」
 後でまた狙われたら面倒だ、一匹も残さずに全部倒しちゃおう。
 帰り道の馬車はケーキの甘い匂いに包まれるね。つまみ食いしたいけど我慢我慢。
 それにしても丸い玉ってなんなんだろう。……何が待ってるのか楽しみだね。

  • サイレントワールドのカウントダウン完了
  • NM名ハザクラ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月05日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
ポムグラニット(p3p007218)
慈愛のアティック・ローズ
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

リプレイ


(あー、あー。ほんとうに、なんにもきこえないのね)
(アウローラちゃんが歌っても音が響かないんだね……なんか……怖いなー)
 ここは、無音の世界『サイレントワールド』。
 ポムグラニット(p3p007218)が零す呟きも、アウローラ=エレットローネ(p3p007207)の不安げな声も、全て世界に飲み込まれてしまう。
(大丈夫、わたしが『ハイテレパス』でみんなの『声』を伝えるわ)
(それは心強いですね! 五感の一つが使えないというのは不安ですが! 気を引き締めてお仕事を終わらせて、この不思議な世界の冒険を良き思い出にしましょう!)
 メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が仲間全員を視界に入れながらハイテレパスを使用すると、皆の頭の中で『声』が伝わった。これで会話や連携が大分楽になる、とヨハン=レーム(p3p001117)はメリーに礼を告げた。
 一同は真っ白な雪道を踏み締めて、まずはミウト村へと向かった。

(手伝い、大変感謝します。こちらが、クワエト村へ届ける物資と馬そりです)
 宴の準備の真っ最中であるミウト村へ訪れて護衛を請け負うと申し出ると、一同は村中から歓迎を受けた。村長が掌をひらひら動かしながら説明を行ってくれたので、ポムグラニットもジェスチャーで『わたしたちにまかせて』と伝える。
(それにしても、そちらのお二人は寒くないですか? 宜しければ防寒具をお貸し出来ますが)
 村の人々が気になっていたのは、ヨハンとアウローラの服装だ。メリーは白いコート、ポムグラニットは黒いケープを既に着込んでいる。特に寒さに弱いポムグラニットは、頭部の薔薇も守るようにふわふわのキャスケットも被って完璧な防寒装備だ。対して、いつも通りの格好で雪国を歩く二人は見るからに寒そうなのだ。
(僕はへっちゃらです! 僕が生まれた鉄帝国も寒いとこなのです! ふふん)
(アウローラちゃんは電子の身体だからね、大丈夫!)
 薄着の二人の自信に満ちた表情を見て安心した村長は、優しい笑顔で丁寧に頭を下げて、一同を送り出す。
(頼もしい方々ですね。宜しくお願い致します。どうかお気を付けて)

 キラキラ。光の音が聞こえてきそうな白銀の道を馬そりが駆けて行く。
 馬の乗り手である村人と、護衛が四人。そして七面鳥の肉と葡萄酒が乗せられている。かなりの重量だが、雪国の馬達は大変力強いようで一定の速度を難なく保っている。また、護衛の一同も順調に己の役割をこなしていた。
(今の所、目視で確認出来る異常はありません!)
(しょくぶつもしずかだよ)
(温度視覚の探知も異常なーし!)
(エネミーサーチもファミリアーで召喚した鳥からの情報も、異常はないわ。引き続き警戒を続けましょう)
 各自の能力による索敵情報をハイテレパスの念話で繋げれば、それは幾重にも重ねた警戒網となる。馬そりと荷物を、今宵の宴を、村で待つ人々の楽しみを守る為、一同は警戒の糸を緩めずに索敵を続けるのだった。

 延々と続く雪道に、雪帽子を被って並ぶ木々。同じ景色の連続に、ついつい欠伸を噛み殺す。
 野犬の群れなんていないじゃないか。このまま無事に運搬を終えられ――。
 ざ わ ―― 。
 馬そりの乗り手は、背後の護衛達から走った突然の緊張感に息を飲んだ。彼等の間では高速の念話が飛び交っている。
(複数体の獣の温度感知!)(前方二匹、後方二匹に分かれているわ)(僕は前に行きますね、襲撃カウントダウンをお願いします!)
 三、二、一、GO! その瞬間、木の陰から飛び出す黒い影。
 襲撃に合わせて、青白の激しい雷光が前方を照らした。ヨハンの『セントエルモの火』の目潰しに遭った二匹の野犬は思わず足を止める。
 後方では、野犬が飛び出すよりも早くポムグラニットの『魔砲』が発射され、一匹仕留めていた。怒りの牙を剥いて同じ木陰から跳びかかる一匹も、メリーが魔弾の連射でその胴体を撃ち抜いていく。
(おとがわからなくても、みためがはでなら、すぐにわかるかとおもって)
(ええ、お蔭ですぐに狙いを定められたわ。後方は退治完了よ)
 早急な対応を行った二人は、続けて前方の支援へと向かう。
 そこには、七面鳥の肉と村人を乗せた馬そりを野犬から守る為に、ヴァンガード・ウォーシールドを構えてかばうヨハンの姿があった。
(やっぱり馬そりが狙われましたか。誰の怪我も被害も無いように、全て守ります!)
(よろしく、攻撃はアウローラちゃんが行くよ!)
 初手の目潰しで動きが鈍くなった野犬の前へ、瞬時にアウローラが跳んだ。両手で握るブラックサン・レプリカによる『ダストトゥダスト』。黒い太陽の圧倒的な魔力に焼かれて、野犬は塵と化したのだった。
 後一匹! 狙いを移したアウローラの前には、既に魔砲と魔弾に撃ち抜かれた野犬が雪の上に転がっていた。

 早々に野犬退治を終えた一同は、乗り手に何度も感謝を重ねられながら、クワエト村に到着した。荷物を入れ替えれば、会話もそこそこに今来た道を引き返していく。どちらの村も今宵の宴の準備で大忙しなのだ。
 帰り道は大きなケーキの箱を運ぶ事になる。一同は箱をしっかり固定して先を急いだ。
(まぁるいまぁるい それはなぁに?)
(ケーキも楽しみですけれど、この丸い玉も気になります! プレゼントとか中に入ってたりするのかなぁ?)
 ポムグラニットとヨハンが足元の丸い玉の山を興味津々で覗き込んでいると、『ある意味、村全体へのプレゼントですね』と乗り手は笑っていた。何度聞いても、ないしょだと指を唇に当てる動作を返される。客人には驚いてもらいたいから、中身は秘密なのだそうだ。
 その答えも、もうすぐ分かる。
 暗くなり始めた雪道の先で、宴の灯が温かく出迎えてくれていた。

 祭囃子も人の声も聞こえない。だが、宴は非常に『賑わっている』と言えるだろう。
 巨大なキャンプファイヤーを囲うように豪勢な料理が並べられている。
 この村の七面鳥のローストは程よく脂がのった身が詰まっていて、他の村でも人気だそうだ。加えて今回は他の鶏肉料理も多く並んでいる。どうやらメリーが材料を提供してくれたらしい。クワエト村から運んだショートケーキも小皿に切り分けられて、ヨハンにも手渡された。
(ありがとうございます。宜しければこちらもどうぞ! 宴ということで、僕もお弁当をたくさん作ってきました!)
 お返しにとヨハンが広げた大量のお弁当に、村の人々は大喜びで群がった。元の世界と食材に大差はないようだ。特に食べられない物はないようで、みるみるうちに完食されていく。中でも雪だるま型のおにぎりや、動物を象ったおかずの数々大好評だった。この世界でデコレーション弁当のブームが来るかもしれない。

 一方で、こちらは催し物会場。
 色とりどりの布を華麗になびかせて踊る人々。
 大道芸を行うピエロに、顔の表情と身振り手振りで行う漫才。
 観衆が手を叩いて喜ぶ中、次の演者だと紹介されたのは飛び入り参加のメリーだった。
 箒に乗った空からの登場に目を丸くする観衆を横切りながら手を振って、舞台に降り立てばハンカチから鳥を出すマジックを披露する。こちらの鳥は食材にされる事なく、闇夜へと放たれた。
 そして最後に、この世界で大活躍したテレパスを、目の前の村人全員に向けて繋げる。
(楽しんでくれた? みんな、よいお年をー!)
 頭に直接響いた『音』に、驚いて顔を見合わせる村人達。今まで音の無い世界で暮らしていた人々は、『声』を理解出来たのだろうか。
 はじめて火を見た動物のように、声という音は彼等にとっては未知の魔法のようだ。
 よく分からないけれど、すごい体験をした。村人達は可愛い魔法使いに向かって、音の鳴らない拍手を送り続けた。

 催し物を見物していたポムグラニットは、ぱちぱち鳴らない拍手を不思議そうに見つめていた。
 ひと通りの出し物が終わったようなので、温かいキャンプファイヤーの広場へと戻っていく。
(もうすぐ、年越しカウントダウンが始まりますよ。この辺りは『特等席』だから、どうぞ)
 途中で村人達に声をかけられたポムグラニットは、案内された席に座った。なんとなく参加してなんとなく楽しもうと思っていたから、どこにいても構わないのだ。でも、
(かうんとだうん? としこし? ごめんなさいね。わたし、せいれいだから。きせつはわかるけれど、そういったもよおしはよくわからなくて)
 そうジェスチャーで伝えても。大丈夫、空を見ていて、と。上空を指さされた。
 見上げた視界には、まだ真っ黒な夜空が広がるばかり。一体何がはじまるのだろうか。

(いつもならアウローラちゃんは歌うんだけどなー)
 人々の輪から少し離れた場所で、アウローラは静かに宴の灯を見守っていた。
 暫くして、宴を満喫している村人達は、突然自分の掌を夜空にかざした。
 はじめは十本。次は九本。一秒ごとに指の本数が減らされていく。
 これはおそらく、年明けまでのカウントダウンなのだろう。

 三、二、一。全ての指が役目を終えた時。
 ――。――。胸に響く深い振動と共に、夜空で大輪の花が咲いた。

 次々と鮮やかな花火が重なり合って空を埋め尽くしていく。
 おめでとう。村人達は嬉しそうに葡萄酒の杯を交わしていた。
 音は無くても、花咲くごとに胸の奥を叩かれる。
 皆が内緒にしていた丸い玉は、花火玉だったのだ。
 他の世界で見られるものよりも、より一層華やかにリズムよく、この世界を彩っていく。
 五感のひとつがなくても、世界はこんなにも美しい――。
 アウローラの唇は自然と歌を紡いでいた。
 いつも通り浮かべていたはずの笑顔も、もっと花開くように綻んでいく。
 声は響かなくても、想いは届くかもしれない。
 この美しい世界に出逢えた感謝を込めて。
 花火に寄り添う声なき歌が、サイレントワールドの新年をあたたかく祝福していた。

成否

成功

状態異常

なし

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