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シナリオ詳細

月に墜ちる獣王

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 少年は夜を歩く。ふと見上げれば中天にかかる少し欠けた丸い月。
 今日はやけに月が大きく見える。そう思った瞬間にドクンと体が跳ねる。原始の呼び聲。己が体の奥底からの希求。立っていることもままならなく、歪む視界の端に映った巨木に手をかければ、まるでスポンジケーキのように幹が削れる。
 手を見れば黒い異形の手。鋭い鉤爪がみるみるうちに伸びていく。脳が感知する視界が増えた。後頭部に出現した赤い目がギョロリと周囲を見渡す。
 バサリと背中で皮膜のついた羽が広がる。新しい部品だというのにその使い方はわかる。ばさりばさりとはためかせればゆっくりと空中に浮かんだ。
 目についたのは村の光。なぜだろう。それが妙に苛立たしく感じる。むちゃくちゃにしてやりたいと暴力的な衝動が湧き上がる。だから近づいた。
 すうと息を吸い込んだ。新鮮な酸素を得、自分の喉奥でぱちぱちと燃え盛る何かを感じ、心地よくなる。
 そして吐息は焔となった。

 ぱちぱちと急速な加熱で生木が内側から水蒸気爆発で破裂する音が聞こえる。なんだか頭が茫洋としている。何があったのだろうか。焦げ臭い匂いがやけに鼻を刺激する。
 逃げ惑う人々の叫び声。「獣王がきた、獣王がきた」と。
 少年はそこで故郷が燃えていることに気づき、母の安否を確かめに自宅に急いだ。
「無事だったのね!」
 少年の母親が震えながら少年を抱きしめた。母親の顔は煤で黒く汚れている。幸いなことに怪我がないことにほっとする。
「獣王がきたのよ」
 ビクリと少年は震える。なんて恐ろしい。
 村に伝わる伝承。月に墜ちる獣王。獣王の呪い。月が満ちる三日間のうちに獣王が来たりて村を焼く。発祥するタイミングはバラバラではあるが3日の間。村に現れ暴虐の限りを尽くすバケモノ。
 それが現れたのだ。
「にげないと」
 母親が言う。逃げて、難を逃れても、また獣王の呪いはいつ来るかもわからないのだ。今回は愛する母親は無事だった。しかし次は? その次は?
 少年は思い立つ。獣王を倒せば、この村は平和になるのではと。
「母さん、俺、行ってくる!」
 少年は駆け出す。王都に向かって。
「何処にいくの!? だめ! 一人にしないで!」
 母親の鳴き声が聞こえる。だけど、だけど、もうそんな顔はさせないから!


「イレギュラーズの人! 助けて! 獣王を倒して!」
 少年は貴方達を見ると、必死の形相で声をかけてきた。
「今日の晩も獣王がくる! 満月の夜だからきっと凶暴化してる!」
 話の意図はつかみにくい。だが、その逼迫した様相だけは伝わってくる。
「俺は、母さんをまもりたいんだ! だから! お願い! イレギュラーズ!」
 少年はあなたの裾を掴んで離さない。頷くまでてこでも動かないというつもりだろう。
「お礼は、こんなのしかないけれど……」
 手に持っていたキラキラと光る小さな赤い石。獣王のナミダ石と呼ばれる魔石だ。売ればちょっとした金額になるマジックアイテムの一つだ。きっと少年の宝物だったのだろうそれを君たちに押し付ける。
「村の大人は怖がるだけで倒そうとはしてくれない。だから!」
 助けてよ。と少年は涙を流しながら訴えるのだった。

GMコメント

 鉄瓶ぬめぬめです。 獣王というのは便宜上つけられた現象の名前です。

 成功条件は異形『獣王』の討伐。

 ロケーション
 とある村落です。昔から獣王の呪いという現象に定期的に襲われています。
 獣王の呪いとは、村の民が突如異形に変異して、3日の間暴れるという状況を指します。前回は15年ほど前でした。
 誰が獣王の呪いを受けるかはわかりませんが今回は件の少年でした。少年は自分が獣王だと気づいていません。
 15年前の獣王は少年の父親でしたが少年には知らされていません。母親も少年が獣王であることはまだ気づいていません。

 現状は数十件の家屋が焼け落ち、煤にまみれています。
 村民は半数は退避していますが、残っている人もいます。獣王の暴れたあとには獣王のナミダと呼ばれる魔法道具に加工できる物質が落ちているのでそれを回収するつもりなのでしょう。
(PCの皆様をこれを得ることは出来ません)
 残った村民の生死は結果には関わりません。
 獣王となった村民は3日間暴れたあと、生命力を吸われて獣王のナミダとなって、砕けます。
 つまりどちらにせよ少年は放置しても死んでしまいます。

 この村の歴史については、能力のある方が調べれば概要はわかります。
 調べた情報をどのように扱うかは皆様次第です。

 現地の村には2日目の満月の日の夕刻に到着し、夜を待って討伐をしていただきます。
 なお、少年は獣王の討伐を見届けたいと皆様とご一緒するつもりです。
 少年の母親は少年が飛び出していったので逃げることもできずに村に残っています。

 またメタになりますが、PCの皆様は少年が獣王になることは村に向かった時点ではわかりませんし、現地で知ることになりますので、獣王になる前に少年を殺すというアクションは不可能になります。

 獣王
 肥大化した両腕、3対の瞳、背には翼の異形です。飛行もします。(戦闘における飛行ルールは適用されません)
 サイズは4~5メートルほどまで巨大化します。
 タメのあと高範囲に及ぶ高火力の炎を吐きます。またその炎には火傷効果もあります。
 通常攻撃には毒が付与されます。また炎を広範囲ではなく直線状に吐くことにより貫通効果もあります。
 体力、火力ともそれなり以上になりますのでご注意ください。
 遠距離攻撃はダメージが半減します。
 

 以上面倒な依頼になりますがよろしくおねがいします。心情面でも何らかが描写できるといいなと思います。

  • 月に墜ちる獣王Lv:2以上完了
  • GM名鉄瓶ぬめぬめ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年03月10日 21時25分
  • 参加人数10/10人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ロアン・カーディナー(p3p000070)
賊上がり
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
モルフェウス・エベノス(p3p001170)
堕眠
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
シルヴァーナ・バルタン(p3p004614)
宇宙忍者

リプレイ

●むかしばなし
――昔昔、とある集落に傷ついた獣の王が現れた。村人はその大きな獣人に怯え恐れ、助けを求める獣人を殺害した。獣人は呪った。今際の際に助けてくれなかった村人達を。獣人の呪いはその集落に影を落とす。
 まるで復讐するかのように何度も、何度も満月の夜村人を獣の王に変え、村人の体を使い暴虐の限りを尽くすという呪い。最初は毎年だった。村人を無作為に襲う呪い。誰がその生贄になるのかはわからない。その暴虐に怯え逃げだす村人も現れたが、三日以上この村を離れると必ず悲運――死が訪れる。獣王は呪わしき村人を許さなかった。だが、やがて時が経ち、毎年起きていた獣王の呪いが薄まってきたのか発生する頻度は落ちていった。いつかはこの呪いが完全に薄まってなくなるまで。そう思って村人たちは自らが犯した罪を鎮魂するために、暴虐を受け入れるようになった。
 それになにより、住み慣れた場所を離れるというのは存外難しいことなのだ。幸い……とはいえないが、獣王となった村人は大きな結晶となり、村の復興資金となる。
 少年の父親が獣王になったのは15年前。その前は7年前。随分と間があくようになった。今回が最後かもしれない。そうであるといい。
 「これは、わしらの罪滅ぼしなのじゃよ」村の村長はそう言い、話を終えた。
 

「小さな村ですから書庫といえるものはありませんでしたけど、村長さんからこんなお話を聞きました」
 『ねこだまりシスター』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が、落ち合うと決めた場所に集まった仲間たちに伝える。
「前回の獣王のナミダはまるごと売却して、村の復興資金につかったようだね。まあ、ずるい村人が小さな欠片をネコババしちゃってるのはあるかもとは言ってたけど」
 同行した『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)もそう付け加えた。
「こっちも、同じさ。みんなあっけないほど普通に答えてくれたよ。むしろ今は危ないから夜までに帰ったほうがいいとまで言われた。これは追い出されるってよりは心配かな? 多少なりとも獣王のナミダ(おたから)に余所者が近づくことがいやなんだろうってとこか。誰が今回の獣王かはわかんないってさ。」
 ロアン・カーディナー(p3p000070)も情報収集の結果を皆に伝える。
「獣王が出るのに残る人がいるのはきな臭いとは思っていましたが。ステルスで様子をみていましたが、残った村人は瓦礫を撤去したりバリケードつくったり。まあネコババもそういう作業の見返りってことで容認されてるみたいですね」
 『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)も村を一周してきた感想を伝える。
「ああ、子供と女性は先に近くの洞窟に逃しているようです。其処までは獣王は来ないだろうということで」
「聞き込んだ話は村人達の間で齟齬はない。まあ、冒険者が介入することなんて今までなかったからな。多少は困惑していたが、事情を離したら、少年の行動に苦笑していた。倒せるものであるならなんとかしてほしいとはいっていた」
 『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)も得てきた情報を全員に開示する。
「あの子に聞いたのだが、獣王のナミダはお母さんからお父さんの形見だともらったらしい。それを手放してまで獣王の討伐を願うなんて……お母さんを守ってあげたいんだな」
 『聡慧のラピスラズリ』ヨルムンガンド(p3p002370)が『輝煌枝』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)と『宇宙忍者』シルヴァーナ・バルタン(p3p004614)と遊ぶ少年を見て長い睫毛を伏せた。
「すっげー、お姉ちゃんの宇宙手品すっげーー!」
 はしゃぐ少年は道中に彼らに伝えていた。
『大人はみんな臆病だ。獣王を倒そうとしないんだ。しかたない、ばっかりで』
 話を聞いた今ならわかる。少年にはまだ村人が起こした罪とそして贖罪は伝えられていなかったのだ。だから少年は、少年らしい正義感で悪の獣王を討たんとローレットに助けを求めた。それだけの話だ。
「君は頑張ったのだな」
 『堕眠』モルフェウス・エベノス(p3p001170)はそんないじらしさに少年を胸に抱き頭を撫でる。
「うわっ、お姉ちゃん苦しい、離してよ! 俺、子供じゃねえし!」
 思春期の少年にはモルフェウスの豊満な胸は刺激が強いのだろう、バタバタと暴れながら顔を赤くしている。
「埋まるなら厚い胸板がいいよね」
 本気か冗談かムスティスラーフがあごひげを撫でながらうんうんと頷いた。
(そうか、お母さんを――家族をたすけたいんだね。私は所詮小娘で。イレギュラーズである覚悟すらまだないけれど。それでも、あなたの願いは叶えてあげたい)
 『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は少年をみて決意を強くする。彼女は気づいていない。その思いこそが、イレギュラーズである覚悟。彼女は自分では気づかないうちに、運命の特異点である覚悟はできているのだ。
「今までは、獣王の怒りが落ち着くまでは放置していました。ですが、今は二日目。誰が獣王であろうとその間に討伐が果たせれば人に戻れる可能性はないのでしょうか?」
 いつの間にか近づいてきていた村人の飼い猫であろう白い猫を撫でながらクラリーチェは一人ごちる。その願いに答えることができるものはいない。
「獣王のナミダに近い魔法石の伝承が私の居た世界にもあるでござったが、関係はないようでござった」
 シルヴァーナはやれやれと首を振る。原材料が人。まことしやかに囁かれるは赤きティンクトラ。確かに共通点はある。だが、獣王のナミダは獣王の呪いの結晶体。呪いの結果が村人を救うとはなんとも皮肉ではあるが、魔力を溜め込みやすいというだけの高価な宝石でしかない。大きな結晶は好事家に売れるといういうだけだ。
「そういえば、少年。君の名前は何ていうのかな? 僕達は仲間だものね。僕はムスティスラーフ」
「仲間かあ。そうだ! そうだね! 俺はライドっていうんだ。ねえ、獣王をたおしたら俺も皆と一緒に旅ができるかなあ?」


 夜が来る。
 村長から、獣王討伐についての許可は得た。だが、報酬は支払えないし協力もできない。獣王のナミダには触れるな。そう条件付けられた。それは彼らにとって、村の贖罪に介入されるという状況への落とし所なのだろう。村人の存在は建物の影などに感じる。そっちも怪我をしてくれるなよと思うのだが、お互い不干渉が条件だ。
「報酬は、もう坊主からもらってるしな」
 苦笑するロアンはライドの頭を撫でる。もちろん、ライド少年の同行については彼の母親から断固反対された。しかしムスティスラーフが守ると約束することで、渋々許された状態だ。
「かーちゃんを守んなきゃだから、俺は男だから。とーちゃんの変わりに」
「母親を守ろうとするその気持ち……確かに受け取った。必ず獣王を倒し母親も守ってみせよう、約束だ。でも心配をかけすぎるな…君が想う様に、母親も君を大事に想うものだ。危ないときは逃げるのだぞ」
 ヨルムンガンドが少年を撫でる。
「俺は、お姉ちゃんたちの『仲間』なんだからな! 子供扱いすんな!」
 ざわり。
 空気が、変わる。
「す、すすす。すんな、仲間、アァ、あ、子供、あ、あぁ、憎らしい。にくい。俺を、殺した、お前たち」
 ライド少年の様子が一変した。腕が膨らみ、ぎょろりと目が裏返る。バキバキと音を立て、背中から異形の羽が生え、体がどんどん肥大して5m程度の怪物になる。まるで内側から獣王の呪いが溢れ出すように。変わり果てたその姿はかつて村人に殺された獣。
「離れろ!」
 ヨルムンガンドの直感が根源的な危機を告げる。得体のしれぬバケモノ。ただただプリミティブなその恐怖は彼女の直感に警鐘を打ち鳴らす。そして気づく。
 彼を救う方法はないということに。だから彼女は告げない。
「まじかよ? 坊主が『アタリ』だったってわけか」
「これは随分と意地悪な御伽噺だ、反吐がでる」
「可能性としてはないとはいえないはなしだけどね、それにしても」
 ロアン、エクスマリアが距離をとり、メートフェンが最初のブロック役としてライドの側に近づく。防御姿勢でなにがあっても耐えることができるように構えた。
「……!!」
 アンナは息をのむ。この悲劇に。倒すべき『バケモノ』が決まった。『私は彼を殺さなくてはいけない』という事実。
「……」
 世界は輝いていた。見るもの全てが新たな発見だった。それなのに。運命は残酷であることをムスティスラーフは知った。
「僕は嘘つきになってしまうかもしれない」
「……母を守ってと涙ながらに訴えた少年を討つ事で、村が守られるとは……」
 なんという皮肉。なんという悪夢。醒めない夢こそが現実。できることなんてたかがしれている。分かってはいてもモルフェウスは思う。これが覚める夢であればいいのにと。
「全く、やってられないでござるな。獣王はよっぽど性格がわるいのでござろう。親子二代に渡ってなどと」
 シルヴァーナは後ろに下がりながら舌打ちする。前回の『獣王』が少年の父親であったことは聞いた。だからこそやるせない。ランダムに降りかかる呪い。なんて運の悪い家族なのだと。放つは死霊の矢。周囲の怨念が収束して獣王を撃ち穿つ。それはここで殺された村人のものか。……それとも。
「それでも、やることは決まっています。母を守り、獣王を倒す。『それは』果たして見せるのですよ」
 ヘイゼルは旅人である。彼女の本質は■■である。今回の件は彼女の■■を強く刺激した。だから今、彼女は■■■■。それが彼女の■■■。<<その情報はあなたのセキュリティ・クリアランスには開示されていません>>
 ガキンとメートフェンの腕に獣王の爪が食い込んだ。じわりじわりと染み込む呪いの毒。
「くっ」
 獣王の名は伊達ではない。防御に集中しているというのにたった一撃で失われる体力。
「大丈夫です、まだいける! 弾幕を!」
 メートフェンの指示に、中衛、後衛陣からの魔弾が次々に獣王の体に突き刺さる。しかしレンジ2以上の遠距離攻撃は獣王の持つ障壁で威力が半減されている。
 
 オオオオオオオオオオオォ!
 
 獣王の慟哭が村中に響き渡った。ビリビリと鼓膜を震わすその声は呪いの響きを全員に伝える。
 身のすくむような威圧感。それでもアンナは獣王から目を離さない。
 「……貴方の大事なものは、私達が守ってみせるわ」
 彼らの戦いは後の先を取る形。すう、と喉元が膨らむ。彼らはそれをブレスの前兆だとすぐに察し、彼らは散開する。
 獣王は己のブレスの範囲に一人しかいないことに気き後ろに下がるように空中に浮き上がると、喉奥に溜めた炎を周囲の建物や木々に向かって放ち、再度地上に降り立つ。周囲が燃え上がり、炎の壁として彼らの退路を、自由に動くことのできる範囲を狭める。
「いやらしい攻撃して来やがるぜ! 逃がすつもりはないってことか」
 ロアンが一気に距離を詰め、鋭い踏み込みからの剣戟で獣王を斬りつける。移動範囲は狭まった。相手は逃がすつもりはない。とはいえ、今までの鉄火場に比べればまだましな方だ。ちょうどいい、肝が据わった。
「随分■■くなってきたじゃないですか」
 ヘイゼルは自分の口角が上がっていることに気づいているだろうか。優等生然としたその裏側の■■の本性。
「メートフェン、一旦下がって毒をなおすんだ。私がブロックを交代する。毒の耐性はあるから」
 メートフェンに変わりヨルムンガンドが星屑を映す瑠璃の両腕を構える。星空の盾は反撃を齎す流星群。
「ヨル、無理は禁物だ」
 もう一つの金の流星は撓る髪を縦横無尽に矛として。神話殺しの小躯は肥大化した腕を穿つ。
 獣王は再度息を吸い込む。この動きは見た。然し先程とは少し違う吸い込み方。月に向かい咆哮する獣のようなそれ。
「私に気にせず攻撃を続けてくれ。どうせ逃げ場はない」
 ヨルムンガンドは全力でもって護りの姿勢を整える。予想されるブレスは先程の広範囲のものではないだろう。だったら散開する無駄な時間を前衛の有効打に当てたい。
「前衛の方が身を挺して獣王をとどめてくださっています。私の役目は、最大火力を持ってそれに報いること。倒れるまでに一撃でも多く放つこと」
 クラリーチェの攻撃は半減されるとはいえ、彼らの中でも最大の火力を誇る。だからこそ撃ち続ける。それが自分のやるべきこと。
「わたしだって負けてはいられないな。」
 幻想種の少女だけには任せてはいられないとモルフェウスもまた魔力を放出する。
「母君が平和に暮らせるように、そうしたいのでござろう?」
 死霊の矢が獣王に向かう。
 その直後、真っ直ぐに炎が夜闇を分断した。巻き込まれたのはヨルムンガンドとムスティスラーフ。ギリギリで膝をつきそうになったムスティスラーフは叫ぶ。
「ライド君! 獣王に負けるな! 自分の意思をしっかり持って! 僕達は仲間だから、君も助けてあげる!」
 ビクリと獣王の異形化した耳が動いたような気がした。

 状況は進行していく。度重なるブレスと怒号。一進一退の戦いが続く。退路を絶たれたことで肝の据わった彼らは怪我をすることも厭わずに攻撃を続けていく。膝を継いたものも何人もいる。己がパンドラに祈り、立ち上がったものもいる。
 何度ヒールを使っただろう。考えるのももう馬鹿らしくなったシルヴァーナは千切れたマフラーを払い捨てる。ヘイゼルの治癒符も最後の一枚を先程使い切ったところだ。
 然し、彼らの粘りは光明を見せる。獣王の翼はもうない。ブレスを吐く喉も傷つき、吸い込む息は漏れ、炎をためることもできない。
「ライド君」
「あ、あ、あ……」
 返事をしているのだろうか。声はくもぐり意味を為していない。それでも彼はムスティスラーフを見ている。
「僕達は仲間だよ」
 ああ、そうだ。この人は、この人達は獣王を倒したら、一緒に冒険に出てくれるといった。獣王? なんだそれは。どうして俺はボロボロのこの人たちの前で立っている? もうなにも見えない、何もわからない。けれど呼ばれた気がする。名を。
「……」
 クラリーチェが両手を組み、悲しげな瞳で見つめる。そんな彼女にライドは手をのばす。その手は今や紅く結晶化が始まっている。
 そうだ。彼らは獣王との戦いに勝利した。
「3日暴れて結晶となる。ならば結晶になる前にその動きを止めれば……そうおもったのですが」
 でもだけど。神様は微笑まなかった。せめて、その魂が安らぎへと導かれるようにと祈る。
「犠牲の上で成り立つ物にロクな物は無ェよ」
 月明かりに浮かぶ結晶は美しく。まさに犠牲の産物。そんな糞みたいな現実にロアンはつばを吐いた。
「君の生きた証はわたしが届けるよ」
 モルフェウスは少年の頭を撫で、ボロボロになった衣服の布を手にする。
「コレが結末……」
 アンナが呟く。魔獣の御伽噺を殺した語り手、エクスマリアもこの物語を母親に伝えるためにライドの最後を藍方石の瞳におさめる。
「みんな、諦めるのは早いよ」
 ムスティスラーフが膝をついた姿勢で、ボロボロでありながらも強い目線でライドを見つめる。
「ライド君はまだ死んでいない」
 握りしめた拳。ムスティスラーフは祈る。少年のために。約束をしたのだ。嘘にはしない。だから戻ってこいと。
 ――パンドラパーティプロジェクト。パンドラの箱が開かれる。飛び出す不幸は自分が受け入れよう。だから箱の底の希望を彼に。願え。帰ってこいと願え。絶対にまだ間に合うはずだから。
 
 ふと。
 ふと、結晶化した体がゆっくりとヒトのものに帰っていく。それは奇跡。甕の底に最後に残った希望。プロメテウスがヒトに残した願い。
「うそ……」
 そうつぶやいたのは誰だったか。ゆっくりとムスティスラーフが倒れる。奇跡の代償は大きい。災厄が彼に降りかかる。
「ちょっ、ライド殿、傷だらけでござる! 回復を! ムスティスラーフ殿にも! 村の医者を呼んで!」
 いち早く状況に我に返ったシルヴァーナが叫ぶ。
 

「獣王はもう、呪ってないって言ってた」
 ベッドに眠るライドが、目をさまして最初にそう言った。薄れる意識の中少年は獣王と出会った。そして告げられたのだ。呪いの系譜はもう終わったのだと。母親はそんなライドを涙を流しながら抱きしめる。
 隣に眠るムスティスラーフはまだ目を覚まさない。しかし命には別状はないとの診断は下っている。ライドは早く目をさましてほしいな。一緒に冒険にいくんだ、と呟くとまた意識を手放した。
 
 小さな村の獣王の呪いはなくなった。村人たちは口々にお礼の言葉をイレギュラーズに伝え、今後は復興に努めると彼らに告げた。

成否

大成功

MVP

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
皆様のご尽力により、この村の脅威は消えさりました。ライド少年も大怪我は負いましたが生存です。
今後は村は復興の方向に動くことになります。

今回はPPPなしでも成功をしていましたが、髭の彼の約束の強い想いが運命を引き寄せ、少年を救いました。
想定されていたエンディングのなかでも最高のものを引き寄せたと思います。その成功に大成功の祝福を。

MVPは1割の運命を引き寄せた髭の彼へ。
PPP消費のダイスを振る時手が震えました。重症でもPPPでの消費量は倍に跳ね上がります。おおよそ半分の確立で彼の死亡が確定するのです。結果は20。倍加で40の消費に収まりました。
とてもドキドキしました。無事でよかったです。

それでは、この物語が心に残ると嬉しく思います。

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