PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ホワイト・クリア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●この国の冬
 季節は真冬へと至っていた。
 鉄帝国のスラム。一段と寒さが冷え込むあばら家の一角にて。
「――なぁ爺さん。そろそろ諦め時じゃねぇか?」
 柄の悪い男達が住民に迫っていた。
 迫られている側は老人だ。着ている服は薄着、かつ小さな毛布に包まっている程度で。
「ま、待ってくれ……せめて春まで。この冬を超えるまでは……この家に……!」
 奥歯を鳴らして寒さに耐えている次第だ。
 鉄帝の民は過酷なる地への耐性を持つ者が多く、故に軽装でも『生きてしまえる』のであるが。
「待てねぇな。これは国家様の事業なんだからよぉ? お上に従おうや爺さん、なぁ?」
「そ、そんな事は知らんよ……! 移り住む場所も無いというのに……!!」
 それでも限度はある。ボロ家であろうと最低限、風を凌げるなら生きていける。
 しかしそこから追い出されれば待つのは死だ。耐えようがない。
 どうか、どうかと縋って頼む。このスラムの『再開発計画』など私達に知った事では――
「ケッ。物分かりが悪いなら……仕方ねぇな」
 されど老人を強引に追い出そうとする男達は顔を見合わせ、武器を手に取る。
 彼らにとってみれば老人の都合こそ知った事ではないのだ。
 己らの仕事を成す為。この地域の退去を強引にでも成す為。
「この国にいながら、身を護る力がねぇ事を恨むんだなジジィ。
 この国はな、力を持っているヤツこそが絶対的に正しいんだよ――ッ!」
 せせら笑いを見せながら、武器を振り下ろした。

「……下衆が。ボクの前でそんな言葉を使わないでほしいですね」

 直後。家の扉が乱暴に開かれ、男達を影が襲う。
 それは白き服。白き翼、白き手袋を携えた――飛行種の男性。
「な、なんだテメェは……!?」
「貴方達の様な輩に名乗る名はありませんね」
 握り締めた拳。血管が浮き出る程に込めた力は全霊の証で。
 轟閃が、老人を襲おうとしていた地上げ屋達の身に――叩き込まれた。

●ニュータウン開発計画
 鉄帝の貧富をご存じだろうか。
 貧富の差の問題は大なり小なりどこにも付いて回る問題であるが、経済的脆弱性と北方故の極寒環境を携えている鉄帝では――その問題の深度が些か深い面を持つ。
 過酷なる環境は経済の未来を先細りにし。
 先細った経済から実る果実は、小さく少ないモノとなる。
 余地がないのだこの国には。どう足掻いても経済成長の可能性の限度が他国よりも低い。
 無いものは無い。
 分け合うパイも、独り占めするだけのパイも元から無い。
 貧富を根本的に解消するだけの可能性が――無い。
「故に南へ『出稼ぎ』へ往くか、戸棚の奥にまだ『無い』かと手探る事を幾度と行っている訳だが」
 己が執務室にて。鉄帝国の軍人レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルグは語る。
 出稼ぎとは何度と行った幻想への南進作戦の事である。鉄帝よりも温かな気候を持ち、経済的にも可能性のある土地を獲る――解決手段を『外』に向けた方針。その行いの成果は良くも悪くも鉄帝が鉄帝であるが故にこそ成せておらず……
 しかし対外政策だけが全てではない。
 『内』を見据えた解決手段……戸棚の奥にまだ見つけられていないパイが無いかと探す行為。つまり内政を重視した可能性の模索もまた当然として行われているのだ。先述したように厳しい環境こそが鉄帝であり、その可能性を見つける事は至難であるが。
「無理な話ではない。そもそも鉄帝は気質として……それらを疎かにしてしまう面もあるのでな。その辺りを見直し、掘り出せば幾つかまだ経済の伸びしろが見つかる事もある」
「――それで?」
「あぁ『それで』だがね、昨今進められているニュータウン開発計画というのを、知っているかね?」
 レオンハルトが語るのは鉄帝の一部で進められている都市部の再建設計画だ。
 区画整理と言っていいかもしれない。大雑把に説明すると、無造作に立ち並び交通の便を悪くしている建物を一度取り壊し、再度整えて建設する事によって『綺麗』にする。それ自体が公共事業として経済の循環をも生む訳である。
 しかし。
「この計画自体は鉄帝の為になる事業だが……些かな『臭う』のだ」
 それは不正の疑い。汚職の温床。
 聞けば再開発計画の為に、立ち退き交渉も並行して行われている様なのだが――その一部にて少しばかり『強引』な手法も見られるという。『柄の悪い面々』が『お話』に来るそうだ。
 それはマフィアであったりチンピラであったり、ラドバウを追放された闘士だったり……
「つまり……金になりそうな話に群がっている連中がいる、と?」
「もしくはその手先になっている者、と言った所か。ニュータウン開発計画は軍も関わっている事業だ。あまり不埒な輩共が近寄って来るのを、私は良いと思わない」
 それで、だ。
「諸君らの力を借りたい。無作法を働く愚か者達を排除してもらいたいのだ」
 普通に軍なり警察が取り締まれば良いのではないか――?
 そう思う者も当然いるだろう。しかし強引な立ち退き行動がみられる問題の地は、実は只の住宅街ではなく『スラム』の地であるのだ。
 不法滞在者、何がしか後ろ暗き事情を持つ者、表を歩けぬ者……様々な事情持ちも住んでいる地であり、鉄帝という『国』に対して協力的な住民ばかりとは限らない。そんな場所で軍と地上げ屋の争いなど起こってしまえば、余計に話がこじれる可能性もある。
 だからローレットだ。
 外部のローレットに不法な地上げ屋を排除してもらい、後に改めて国が介入する。
 これがスムーズな形だ。何事も直情的に解決すれば良いという訳ではないから。
「地上げ屋共だが、当然話は通じまいよ。確実に戦闘になる事は想定されるが、そうなった時の彼らの生死は問わない。排除方法は諸君らに任せる……が。一つだけ気を付けておいてもらいたい事がある」
 レオンハルトが続けて語るのは地上げ屋共の情報――ではなく。
 むしろその逆。『スラム』側の話だ。
「これは当初完全に別件だったのだが、最近スラムにて指名手配犯の存在が確認されている」
「指名手配犯……?」
「スラムの構造や、そこに住まう住人の情報は国も万全に管理出来ている訳ではないからな……いやむしろそういう地であるからこそのニュータウン計画なのだが、ともあれ」
 立ち退き作業が進めば、狙った訳でなくとも潜んでいた犯罪者は炙り出される。
 そしてレオンハルトが調査していた指名手配犯の潜伏先候補が――今回の付近にあるようで。
「もしかすれば予想外の戦力が出てくるかもしれないのだ。今回依頼したいのはあくまでも地上げ屋共の排除であるので、スラム側から現れた者がいてもそちらの排除は重視しないが」
「成程……だけど『指名手配犯』なんて言うからには」
「ああ無論。名前や顔は分かっている人物だ」
 言うレオンハルトがイレギュラーズに見せたのは、一つの書類。
 簡易的に記載されたプロフィール。そして、顔の映りし箇所に『WANTED』の赤文字が刻まれていて。

「名を、ミハイロ・アウロフ。
 かつて鉄帝の要人を暗殺した疑いで――指名手配されている男だとも」

GMコメント

■依頼達成条件
 地上げ屋達(後述の敵戦力)の全排除。生死は不問。

■戦場
 鉄帝スラム街。時刻は昼。
 ごちゃごちゃとした構造になっており、あまり幅広く数は展開出来ない。
 戦闘の際はスラム街の街中か、あるいは適当な民家の中になると想定される。

 シナリオ開始時はミハイロとマフィアの男3名がある民家の中で戦闘中。
 騒ぎを聞きつけ、他のマフィア勢も民家に駆けつける事態が想定される。

 イレギュラーズには気付かれていないようなのでタイミングを選んで奇襲は可能。
 ただし時間をかけすぎるとどのように事態が進むかは不明である。

■敵戦力
・柄の悪い男×12名
 恐らくマフィアか何かではないかと思われる集団。
 強引な立ち退き行動を強行しており、場合によっては暴力も辞さない。
 武器は様々。腕っぷしには自信があるようで、猟犬と共に戦闘を行うだろう。

 ただしリーダー格の様な、突出して強いという人物はいない模様。

・猟犬×8匹
 特別に訓練されている猟犬で、それなり程度の戦闘力を持つ。
 特に機動力が高く、鼻や目・耳に関連した非戦スキルを携えている。
 基本的には主人への忠誠心も高いが、極端にHPが低くなると生命を重視した行動(逃亡)を取る場合も存在する。なんらかのギフトやスキルでこの発生確率が上昇する場合もある。

■ミハイロ・アウロフ
 鉄帝で、要人暗殺の指名手配されている人物。
 要人暗殺の原因は恋人の仇討ち。
 しかしその後も出頭はせず、追手からの逃走を続けている。

 その一環でスラム地帯へ身を隠していた。元来は優しく真面目な性質を持つが、反面不条理を許せぬ面を持ち、地上げ屋達と敵対。『力こそ全て』を歪んだ形で実行する彼らの行動をこそが許せなかった。
 戦闘スタイルは徒手空拳。若いながら才覚に溢れている模様。
 イレギュラーズの出現に対し、どのように行動するかは完全に不明である。

■レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルグ(味方NPC)
 鉄帝の軍人。今回は依頼者の立場として戦場に介入する予定はない……のだが、指名手配犯のミハイロが出現する可能性を鑑みて、付近で待機中。部下のファミリアー(鳩)で空から事態を調査している模様。
 民家の中の事態は把握していない。

 場合によってはミハイロを逮捕するつもりだが、地上げ勢力の打倒こそが最優先と考えているので基本的には介入は控えたい考えである。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ホワイト・クリア完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月23日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

リプレイ


 鉄帝の冬は特に寒い――息が白く吐かれ、身を震わせる程に。
 このような環境に身一つで放り出されれれば如何に鉄帝の民と言えど凍えようと『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は思考して。
「スラムの再開発計画、か……そういう計画が出てくる事自体は理解出来るけど、こんな強引な手段を使ってまで急ぐ理由があるのかな? 特にこんな極寒の季節に」
 何か妙な『臭い』を感じると彼女は言う。
 勿論今は依頼を果たすのが優先ではあるが、と彼女がまず紡ぎ上げるはファミリアーの魔術だ。召喚せしは鳥のソレで、上空より見渡す周囲の確認。ごちゃごちゃとした構造になっている故全周囲を見渡せる、とはいかないが。
「……また厄介な案件ですね……スラムの問題、介入するマフィア……」
 『幻灯グレイ』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)もまたファミリアー達を飛ばせば相当な領域の偵察は可能だ。特にクローネは超視力をも併用して、視界の隅まで逃さぬなれば。
「……まぁ、私はこなせと言われた仕事を完遂するのみですが……」
 吐息一つ。偵察をこなしてまずは有利を取らんとする。
 イレギュラーズの行動はまず敵らの位置の確認である。確実なのは今民家の中で暴れている者らのみ――その他のマフィア勢力はどこに、どれだけ分散しているか分からない。ともすれば四方八方から押し寄せるという事も考えられる故。
「――不当な行為は見過ごせぬ。そこに正義はなく、恐らく私欲の為しか存在してないならば」
 万全を持って敵を討つのだと『背を護りたい者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)は言う。彼女が探るは周囲の壁――の更に奥。壁すら透かして見るその目と、確かなる捜索の技術は奴らの痕跡が欠片でもあれば見逃さぬ。
 天と地。それらの目が走り『分からぬ』場所を潰して……されば時間は掛け過ぎぬ。
 如何にこちらが奇襲する側であるとはいえ『事態』は既に進んでいるのだから。
「さて……お金が欲しいって言うなら『出稼ぎ』で誇示するのが鉄帝マインド。
 内向きな弱い物イジメに向かう根性は叩き直してやろうかね」
 『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)は往く。
 下衆な根性を持ちし者達に容赦はいらぬと。これは鉄帝の矜持ではないと。
 狙うは民家。既に暴れている者達のいるそこへ――
「ぬ、ぬぉ!? だ、誰だテメェら!!」
「――『誰』でもいいでしょう? 一言で言うなら、貴方達の『敵』です」
 踏み込んだ。彼らの背後に当たる形で前衛を担う者達が距離を詰め――同時、それを援護する形で『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)の詩が紡がれる。それは活力の充填を促す魔神の黙示録。より深き戦いを、より長き戦いに備える詩は十全に。
「『力こそ全て』ってのは悪くない言葉だな……ああ。
 力を持っていても、色々なしがらみで結局振るえないってのは最悪だ」
 宝の持ち腐れってやつだぜと『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)は援護を受けながら呟き。
「だからシンプルに行こうぜ――『強い方の言うことを聞く』だ」
 彼らを抑えながら叩き込むは、己が意思を力とした技術。レジストクラッシュだ。
 一気の制圧。まだ数が揃っていない間の撃破を狙う。さすれば――

「ミハイロ……ヤッパリ生きてたんだな」
「――イグナート」

 先んじてマフィア共と交戦していた――指名手配犯ミハイロ・アウロフがフリーとなる。
 言葉を紡いだのは彼の知古……『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)だ。民家への突入を果たし、ガラの悪い男を乱撃にて殴り倒し道を開けば。
「スナオに嬉しいよ。でも、ナゼ逃げ回っているんだ? 昔のお前とは変わっちゃったのか? ――指名手配犯として追われているなんて、さ」
「……そんな事はどうでもいい事だよ。それよりもなんだ僕を――捕まえに来たのか」
「場合によってはそうなるでありますね」
 と、ミハイロの言動にすかさず反応したのは『マム』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)である。イレギュラーズでもあり――鉄帝の軍人として行動する彼女には、軍人としての矜持があり。
「こちらの任務は強硬な地上げを行う者達の排除……で、あり。貴殿の逮捕では非ず。しかしこちらの妨害、もしくは抵抗を見せるのならばその限りではありませんが」
 事情はともあれ指名手配犯なのは事実。友好的な対応は彼女にとっては不可能で、それに父も。

『――奴めは犯罪者だ。例えば背景に如何なる事情があろうとも『では法を犯して良し』などという理屈はどこの国にも存在しない。私の目に映ったのならば、地上げ屋共もミハイロも、対処目標として変わりない』

 こっそりと意を尋ねた際に、かの様に言っていた。
 要はミハイロの態度次第と言う訳である。こちらを敵視し好戦的ならば排除や逮捕も辞さず、しかし優先度の問題故にこっそりとしている程度ならば『目』零しても問題ないと。まぁそれはレオンハルトにとって本当にミハイロがここにいるか、いないかまだ彼の視点で確定していないからでもあるが。
「……成程、軍か。あるいは軍の依頼かのどちらかですか」
「――オレ達はローレットだよミハイロ。
 地上げ屋共に手こずってるみたいなら、手を貸そうか? 安くしとくよ」
「こんの緊急時だからネ。抜け出すにしろ切り抜けるにしろ共闘した方が安心安全なんじゃないかなぁ、らららっらー♪」
「不要だよ、と言いたい所だけれども……敵をわざわざ増やす意味もないね」
 イグナートの言に、続いた鈴音の陽気な歌声の様な提案。
 彼らの立場を理解したミハイロは己が手袋を締め直して。
「協力はしないけど、敵対もしませんよ。不条理な力を振るう者達を排除する――それまでです」
「やれやれ。気難しそうな奴だな……ま、敵対しないのなら気が楽ではある」
「――皆。どうやら騒ぎを完全に察知されたみたいだ。他の地上げ屋共がこっちに来る」
 消極的ではあるが『敵対しない』という味方的立場にミハイロはなった訳だ。
 『ゴロツキを優先』するその構えにグレンは、注意は解かないがひとまずは安心してもよいかもしれないと吐息を一つ吐き、そしてファミリアーで周囲を警戒していたメートヒェンが更なる敵の襲来を察知する。
 ここに住まうは様々な事情を持った者。或いはここに居るしか出来ぬ者。
 強引な力は振るいやすく。故に――悪もまた跋扈するのである。


 民家に接近する地上げ屋達。その脳天を、衝撃が襲った。
 ハイデマリーの射撃である。聖銃ナーゲルリング――友人の少女より贈られた、新たな魔法騎士の誕生を祝う狙撃銃――あ、違うでありますよ? 魔法少女とか知らないです、かんけいないですちちうえ、ハイ。
「ともあれ数だけは多い輩共であります」
 リロード。狙い、射撃。近付いて来ようとする輩を片っ端から狙っていれば。
 急速に接近してきた影がある。地上げ屋共の狩っている猟犬達だ。
 優れた機動性から一気に距離を詰める様にハイデマリーの射撃を排除せんと近寄って。
「……犬……嫌いなんッスよねぇ……キャンキャン吼えるし噛み付くし……」
 そこへ。あまりいい思い出が無い、とクローネは呟きながら想起の果てに紡ぐはとある獣性。狼の遠吠えが如き、畏怖の対象の存在には人も獣も身を震わせる。精神に恐怖の呪いをと叩き付けられて。
 それでも抜けるモノはいる。数の多さで包む様に、さすれば。
「私の名は――レイリー=シュタイン!」
 盾を地に。防御の構えを見せるのは名乗りを上げたレイリーで。
「この地を虐げる者を討ちに来た。悪を成そうとする輩共よ――覚悟するがいい!」
 受け止める。敵の衝撃を、攻撃を。鎧と盾を駆使してその身を留まらせるのだ。
 倒れる訳にも屈する訳にもいかない。
 不当な行為から護りたいモノを護る為に培ってきた力を、ここに発揮。後ろには通さぬと。
「やれ、一人で担わせる訳にはいかないね。私達も向かおうか」
「ハッ――こんな程度かよ、弱者に振るうしか能がないのかお前らは……!」
 そしてメートヒェンにグレンもまた敵の抑えに前衛を担う。
 メートヒェンもレイリーと同様に敵の注意を引きつけて、『られた』相手に放つは拳。
 後の先の一撃だ。防御していた筈が攻勢に転じ、凄まじい衝撃を敵のその身へと確かに打ち込めば。
 グレンは聳え立つ巨壁の如く。敵の数は上で、押し寄せてくる波は確かにあるがここは最初に突入した民家のすぐ前――狭い路地だ。地形を利用し、小さく展開すれば敵を『団子』の状態にするのも不可能ではない。さすれば数の優劣もある程度は潰せて。
 後に激突。先行した猟犬に続いて地上げ屋達も戦列へ来れば戦闘が本格化して。
「んん~これは気合入れていかないといけないねぇ」
 しかしグレン達以外にも備えてはいた。鈴音である。
 彼女の軍師としての才覚が周囲の者達の能力を向上させる。そして神子の饗宴が更なる力の源となっていれば尚更に――そして英雄を称える詩を。屈さぬ英雄の詩が、皆の体力を奮い立たせて。
「――あれからどうしてたんだ? 今回もお前のことを軍人さんが大騒ぎして探してたぞ。いらんほどユウメイ人になりやがって。シンブンにでも載りたかったのか?」
 乱戦に備えられたその活力を身に宿しながら、イグナートは猟犬を一体乱撃にて弾き飛ばす。民家の窓を突き破って侵入を果たす者もいる。四方から攻め立てて、こちらの陣形を乱そうという訳か。
 敵の攻勢に注意しながら、しかしイグナートはミハイロへと言葉を。
「どうなんだよミハイロ。お前は今――ドウしてるんだ?」
 いつもよりも些か、ほんの少し荒っぽい言動の節々。
 思い起こすはかつて共に、いや『三人』で過ごした日々で――
 しかし。
「……答える『義理』はない」
 ミハイロは突き放す。目を閉じ、眉間に皺を寄せた様子ながら。
 『義理』はないと。共に過ごした日々はかつての過去だとでもばかりに。
 侵入してきたゴロツキのナイフを弾いて足を払い。投げ飛ばす仕草には『かつて』の面影が確かにあるのだが。
 そんな様子をラクリマは横目で捉えながら、やはり警戒は怠らない。
 一応消極的な味方ではあるがそれでも指名手配犯だ。彼の対応は知古のイグナートに主に任せる事に異議はないし、むしろそうするべきであるとは思うが。危険な人物でもしあるのならば万一が存在する。
「……仲間の安全こそが、全てにおいて優先ですよ」
 注意を幾分かやはり裂きつつ、ラクリマが紡ぐは白く優しく舞い散る――幻の雪。
 鉄帝の冬の空に紛れて零れるその雫は、味方の身を確かに癒して。
「まぁどうなるにせよ――俺はただ仕事をこなすだけですから」
 故にラクリマは前を見据える。淡々と、警戒は向けど情は向けずに戦場の総てを見渡すのだ。
 ミハイロが仮に安心できる味方だったとしても。
 それでもこの依頼、数の上でこちらが不利なのは――まだ変わっていないのだから。


 地上げ屋達は完全に虚を突かれた形である。
 民家にいた三名はイレギュラーズ達の強襲とミハイロにより早期に撃破された。ただ突入前に少しだけ周囲の調査に時間を掛けたが故か、民家内の戦力撃破後にどこか別の所に陣取る時間は無かった訳だが。
 それでも上手く戦っている。数の不利は決して感じさせない。
「ふむ……やはりイレギュラーズ、中々やるものだ……」
 その様子は部下のファミリアー越しであるが――レオンハルトにも情報として届いていた。娘も混じっているが故の贔屓目、などではない。純粋たる賛辞であり、己も鉄帝の者として立場さえなければ己も『競って』みたいと思う程度には――いやそんな機会などそうはないだろうが――とにかく。
「どうした――相変わらず圧が弱いな……! 手加減しなくていいんだぜ!?」
 特に前衛を担っている者達の奮闘は眼を見張るモノがあっただろう。グレンは挑発を重ね、後ろに通さぬ様に務めながら隙があれば撃を打ち込んでいた。
 その防御たるや鉄壁の如く。男たちの攻撃が重ねられても尚に倒れず。
「くそがぁ……一か所でもいいから突破しろ! 舐められんな!!」
「全く。威勢がいいのは結構だけれども、そちらは自分達の状況を考えた方が良い」
 一人の男の罵声が飛ぶが、メートヒェンは吐息一つ。
「――依頼主からは『生死不問』と言われているんだ。
 あんまり強く抵抗するなら、こちらとしても取れる選択肢に幅はなくなる」
 場合によっては殺害も止む無しと。いや、むしろ猟犬に関しては半端に逃げられるぐらいだったら始末した方がいいのかもしれない。逃げられ、スラムに住みつかれてはまた別の被害者が出る事もあろう。
 放つ拳。くの字に曲がる男の身体。降伏するなら今の内だとばかりに。
 しかし向こうも、倫理観はともかく力には自慢のある荒くれ者ばかりである。
 数で圧してブロックをなんとか突破すればその拳が後衛にも届く。
 狙いは特に、範囲攻撃を持ち厄介な威力を持つクローネで。猟犬の牙が――
「……っ、と……! これだから……犬達は……!」
 腕に噛みつきが。払い、死霊の矢を束ねて直後に一閃。
 その身を穿たんとする痛みが今度は犬を襲い――それでもまだ屈さぬ勢いを彼女へ向ける、が。
「おっと、そうはいきませんよ」
 しかし追撃の痛みをラクリマの癒しが妨げる。急速に、白き雪が辺りを舞って。
 そして気力に余裕がなくなってくれば魔力で編まれた鞭を振るうのだ。相手より気力を奪い、同時に苦痛を与えて。白薔薇の紡ぐ絶望と未来は――甘くなく。
 地上げ屋達はこの陣を突破できない。
 前衛達は地形をも利用して突破を極力抑え、後衛は癒しで場を安定させ強力な攻撃を紡ぐ。地上げ屋達の攻勢も全く通じていない訳ではなく、イレギュラーズ達にも確かな傷はあるのだが――
「力を振るうのには慣れていても、力を振るわれるのには慣れていないか?」
 決して倒れぬレイリーは向かってきた敵にカウンターを放ちながら、言葉を紡ぐ。
 お前達は今まで好き放題力を振るってきたのだろう、が。
「それも今日までだ」
 私にとっての正義が、お前達を必ず阻む。
 確かなる視線が地上げ屋達を射抜けば――猟犬達が次第に怯えて。
「このままでは命ありませんよ~ありのままの自分になるの~明日の朝日が見えるかな~」
 コミカルな口調の鈴音……だが、そのコミカルな口調がかえって恐怖を煽っていた。
 人間達はまだしも、基本として本能に生きる犬達は恐怖を抱けば後は増幅するのみ。
 困難からは逃げるのが普通だ。立ち向かうとかいう非合理的な事は人間しかしない。
 陣形を崩そうと付与した負の遺産も彼女の超分析によって払われる――ならば。
「あ、こ、こら! テメェらどこにいきやがる!!」
 ついに逃げ出す個体が出始めた。男が叫ぶが、もはや手遅れ。
 こうなってしまえば趨勢は決したようなものだが。
「では駄目押しが必要でありましょう」
 ハイデマリーだ。軍人として、最後の最後まで油断はしない。窮鼠猫を噛むともいう。
 故に穿つは冷静、かつ冷徹な一撃。己に反動あれど、魔法の如く地を貫く一撃。
 ――ヴァイス・ヘクセンナハト。
 爆風が舞う。爆音が生じる。塵と埃の満ちる地であるからか、よく吹雪いて。
「――これで終わりですか」
「ああ終わりだな――だからさっさと逃げろ。
 オレはお前のタメに軍人の前にニオウ立ちなんてのはゴメンだからな」
 さすれば戦いの終わりを感じたミハイロが、暗き路地裏へと視線を向け。それをまた一人、男を雷撃が如く一閃で打ち倒したイグナートが素早く察した。
 だがその行為を止めるつもりはない。むしろ逃げるなら今、だ。
 既にミハイロの存在はバレているだろう。ハイデマリーが軍務として彼の存在は既に友軍のファミリアーにハンドシグナルで伝えているし、それ以前にファミリアーの視界に収まっている可能性も高い。
 レオンハルトが直に出て来ればミハイロはもう逃げられまい――依頼主が出て来れば明確にイグナートもミハイロの敵となるしかなく。
「今までの事、これからの事。話してくれないならそれでもいい。
 次にお前が何か罪を犯そうとするならオレが止めるよ。もうここには居ない……」
 カノジョの為にも、という言葉は喉の奥に仕舞いこんで。
 ミハイロの行動原理――そして彼の『核』は間違いなくソレだ。
 昔も今も、きっとそれはこれからも。
「――今まで勝てなかった癖に、よく言う」
「二割は勝てたさ」
「一話弱だろ?」
 稽古の勝率の話。ただそれだけをして、だけど。どこか。
 『義理が無い』と突き放した先程よりも――言葉の節々は柔らかかった気がした。
 往く。不条理な力を振るう輩達は排除された、だから。
「……捕まえて欲しければ、匿って欲しいのならば……新しいご依頼で……」
 ふと、そんなミハイロへと言葉を紡いだのはクローネだ。
 どういう依頼にしろローレットは選ばない。
 善も悪も成す――あそこはそういう場所でしょう?

「……ではまた、縁があれば……」

 お会いすることもあるでしょう。
 闇の中に消えようと、純白な雪の中に埋もれようと。
 ――人の縁はきっと切れる事はないのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼、お疲れさまでした。茶零四です。
不当に力を振るう地上げ屋達は排除されました。
ニュータウン計画に蔓延る闇……? この辺りの詳細はまたその内、となるでしょう。

レオンハルトさんは依頼の主目的であった排除が完遂し満足しております。
ミハイロ君はやはり逮捕の手から逃れてどこぞへと……またいずれ現れる事でしょう。

ご参加どうもありがとうございました!

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