シナリオ詳細
宝石の樹に花を咲かせて
オープニング
●宝石の樹
軽い音をたてて震える木の葉は赤く色づき、青空から元気いっぱい滑り降りる風は木々の間をすり抜けて、光が燦燦と秋の森を照らしている。
やんちゃな風がさらに奥へ奥へと吹いていけば、聖域の名のもとにひとの侵入を拒む結界がぐるり張り巡らされて森の秘密を隠している。
結界をものともせずに風は舞い、ひゅうひゅうひゅるり、森の奥へとまっしぐら! 見つけた秘密を教えてあげよう。森の奥に隠されていたのは七色の光を淡く纏った水晶の木肌持ち、極光めいた葉を茂らせて、色とりどりの宝石の花を咲かせる不思議な樹。
樹精は只人の目には映らぬ麗しき女性の姿で風に教えてくれるのだった。
昔、昔。
思い描いたままに宝石の花を咲かせる樹がありました。樹を見つけた人々は、心の清らかな人々でした。
毎日人々は樹に近寄ってきて綺麗な花を咲かせ、その花を恋人や家族に贈り合い、とても嬉しそうな顔を見せてくれました。樹精は人々に存在を知られていませんでしたが、やがて人々の顔や名前を覚え、ある者が病気になれば心配し、ある者が悲しんでいれば心が痛み、ある者が子を得れば自分のように喜び。自分の言葉が聞こえない人々に愛情たっぷりに声をかけ、言葉が届いていないのを少し寂しく思いました。一方的な愛情ではあるものの、樹精は日常を共に過ごす人々を家族のようにそれはそれは愛しく大切に思っていたものでした。
しかし、その生活にも変化が起こります。
「この樹はとても素晴らしい樹だけれど、人の近くにあれば悪人を呼び寄せ、善良な人をもいつしか悪に転じてしまうかもしれない」
人々は心が清らかで、宝石の樹を悪いことに利用しようとする者はいませんでした。そして人々は自分たちの正しい心が必ずしも完全なものではなく、ひょんなことから惑い、道を踏み外してしまうことを知っていました。
そして、人々は宝石の樹のある森の深部を「足を踏み入れてはいけない聖域」と定め、そこに何があるのかを口にしないように決めました。何世代か経て、今では宝石の樹がここにあることを知る人はもう、いないのです。
●境界図書館
「少し寂しいお話だよね」
ポルックス・ジェミニがそう呟いた。艶やかな金髪がさらりと流れ、いつも前向きな目が信頼の色を浮かべてあなたを見ている。
「それに、宝石の花って素敵じゃない? あなたなら、どんな花を咲かせるかな?」
ポルックスはそう言って本の世界へと誘ってくれる。
「花は、持ち帰ってもいいからね。自分用でもいいし、誰かへの贈り物でもいいし。せっかくだから、あなただけの花、咲かせてみてね」
- 宝石の樹に花を咲かせて完了
- NM名remo
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年12月03日 22時30分
- 参加人数4/4人
- 相談3日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
風が踊る中、樹精が謡っている。
今日は、久しぶりにヒトが遊びにきてくれたの……、
●桜
(宝石の花を咲かせるなんて素敵な樹ですね)
日車・迅(p3p007500)は艶の良い狼耳をぴょこりと揺らして樹に純朴な笑顔を見せる。
「訪れる者がいなくなってしまって樹精殿には寂しい話だと思いますが、貴女を傷つけまいと離れた人達は真っすぐで素晴らしい心の持ち主であったと思います」
軍人らしさのあるきびきびとした声に木肌が煌めいて――彼女は確かにいるのだと迅は思った。
「その人達のように綺麗に咲くかは分かりませんが、精一杯頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!!」
姿勢をピンとさせて敬礼ひとつすればサワサワと葉が揺れて、迅は金色の瞳をにこりとさせた。笑っているように思えたから。
ひとつ、枝に咲くのは愛らしい桜の花。春がそこだけ戻ってきたような彩に迅はふわふわの尻尾を嬉しそうに振る。
戦争ばかりの鳳圏で、短い季節にぱっと咲き、さっと散る。その在り様やまるで。
――祖国の為に。
「美しいですね」
迅はそっと枝に手を伸ばした。この花は、宝石なので散ることがない。儚く散る美しさもあれど、想いが朽ちずに傍らにあるというのも良いかな、と呟けば枝が応えるように震えて揺れる。
小さな桜水晶を大切に掌に収めて迅は礼儀正しく深々と樹にお辞儀をした。
「ありがとうございます、樹精殿。大切に致します」
樹精はきっと何かを言っているだろう。迅はそう思う。
その姿も声も、迅にはわからない。それはちょっと残念だった。
樹に心があるのだと思って言葉をかけた人は過去にはいなかっただろう――それはちょっと、残念だった。
「わかりますよ」
だからそう言った。
かさり、かさり。
葉が嬉しそうに笑った。迅にはそう感じられるのだ。心を籠めて頭を下げて、迅も笑う。
「皆さんの花はどんな姿なのでしょうか」
視線を巡らせれば、皆が個性豊かな花を咲かせて。それもすぐに思い出となる――、
「永遠に朽ちぬものはなく、人の命や尚短し、ならばさぁさ、吾ら祖国のために命燃やしてさぁ征かん」
呟く歌は子供のように楽し気に。
手には世界でただ一つの迅の花がある。
ほんとうは儚いはずの春の花。傷だらけの手のひらでキラキラとピュアな輝きを放ち、愛らしい宝石は迅が咲かせたのだ。
●青
宝石の花が咲く、そう聞いたシルフィナ(p3p007508)が思い出したのは空を仰いで群れ咲く瑠璃の花絨毯。
(いつ……見たのかは思い出せないけど)
清潔なメイド服のドレスがひらりと揺れる。銀糸の髪があどけなさの残る頬にかかり、可憐な薄紅の唇がほうと吐息を零し。他の仲間達の後ろからしずしずと付き従い、控えめにしていた少女は、大きな瞳に年相応の少女らしさを滲ませた。
確りとした教育を受けているシルフィナは幼いといっていい年頃ながらメイドとしての意識を強く持っている。どんな時も、誰に対しても。けれど。
小さな手を胸の前できゅっと握る。目蓋を閉ざせば思い出せる。心の中に残っている丘一面に青くて小さな花が咲く景色。
「あの光景をもう一度、見てみたい!」
小さく呟く声は純粋な想いに揺れて、目を開けば――今、花が咲く。
透明な水晶枝から水が湧くように玉が生まれ、ふわり花弁を開かせて、徐々に青みを澄ませて。
「ぁ……」
陽光を受けて多彩な色味を見せるゆかしい宝石――貴族に仕えるメイドとして教えられた知識にそれはある。
「インディゴライトトルマリン、でしょうか」
小さく可憐な宝石花を両手で受け取り、シルフィナはぱちりぱちりと目を瞬かせた。
「とても、」
あの時もそう思って、そう言ったような気がする。可憐な瞳は遠いいつかと今の狭間を束の間、彷徨って柔らかに綻んだ。
空がどこまでも広く、青くて。
地上では青い絨毯が広がっていて、その中に自分がいたのだ。
そんな時間が、あったのだ。
「素敵です」
返ったら自室に飾ろう、とシルフィナは花を優しく撫でて考える。自分の部屋は、少し殺風景だから。
――部屋は、過ごしやすい雰囲気にするものです。
シルフィナにメイドとしての考え方を教えてくれた人がそう言っていた。短時間しか帰らない時があっても落ち着く場所というのは人にとって大切なものなのだ。
仲間達もひとりひとりの花を咲かせている。シルフィナは邪魔をしないよう様子を見守り、メイドドレスの裾をちょこんとつまみ、礼儀正しくお辞儀をした。
「おつかれさまでございました」
シルフィナは世界を去る間際、樹を振り返る。
聖域に佇む樹は、人を愛していたのだという。人が喜ぶ様子を見守っていたのだという。
――次に人が来るのは、いつでしょう。
ほんの少し、小鳥のように首を傾け。
「大切にします」
シルフィナは恭しく一礼したのだった。
●金
「この木が宝石の花を咲かせるんですね~」
ペルレ=ガリュー(p3p007180)が満月の瞳をまんまるにして樹を見上げた。宝石が欲しい気持ちもあれど、気になるのはその樹の不思議。
「あ……」
ペルレが小さく声を零した。誘うように揺れる細い梢にくるみ大の宝石がついているのを見つけて。
「あれがお花のもとでしょうか~?」
蕾がふるりと震える。花びらを開くように周りに青色の宝石を広げて。
「宝石……?」
花びらには朝露のように小さく透明な宝石がついていた。コロリとして小さいその花。宝石はそれよりも育つことはなく透明に耀いた。表面が薄くなったせいなのか、中が視えるようでペルレはつま先立ちするようにして目を凝らす。
「っ」
風がふわりと吹いて葉を揺らし、宝石を隠してしまうようで。ペルレはそっと背の翼を羽搏かせて梢に寄った。ちらりと覗いた金色をもう一度しっかり観たいと思ったから。
夜が広がるように髪が舞い、満月が瞬いた。
(あ……)
透明な中で金色の液体が蕩けるように揺蕩い、気泡が真珠めいて浮かんで、コロコロ遊ぶように転がっている不思議。
(……なんかこれ、あの人の髪飾りににてる……)
かさ、かさと音紡ぐ葉。葉の天蓋の隙間から穏やかな陽光が注いで、こんな風にあの人の髪で煌いていた。
その声を思い出し、ペルレの心にあたたかな灯が宿る。手を思い出す。村人が歌っていた歌が遠く響く中、旅の途中のあの人はペルレに鍵のお話をしてくれた。
小さな指をそっと見る。
――自分の手で触れてみたい、開けてみたいと思った日。
あの人の髪飾りの花びらは金属で、真ん中は赤い宝石だったけれど。ペルレはそっと、憧れの人と同じ位置に花の宝石をあてた。
ふわ、と風が頬から耳に吹き抜けていく。
自分もその人の様になれたような気がして。なれるような気がして。
誰も見たことない何かを開ける自分を想像して、ペルレは花が綻ぶように微笑んだ。
「ありがとう、宝石の木さん」
ペルレはお礼と別れを告げる。
こうして触れることができなくなっても。
「時々、この本を読みに来たいです~。そうできたら嬉しいです~」
大好きな物語。何度も読んで。心が隔たれても。
「お友達、です~」
優しい声に梢が幽かに揺れて応えるようだった。それは、風に揺れただけかもしれないけれど、ペルレにはそこに心があるのだとわかって。だから、もう一度嬉しそうに微笑んだのだった。
●赤
「宝石の樹…寂しいお話、なのですね。ボクも、そう思います」
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)が木肌にそっと機械の掌を這わせて隈の浮かぶ眼を伏せた。
「人が来ないまま、なにもないまま、眠り続けるのは――寂しい、」
ぽつりと呟く声は憂愁に揺れていた。
樹はひんやりとした硬い感触をヴィクトールに伝えて現実の存在だと教えていた。
「聖域に足を踏み入れることは些か躊躇するのですが……」
「それでも、誰も来ないままの場所で、なにもないと、いつか自分自身のことさえきっと忘れてしまう……のです」
ヴィクトールが憂愁の瞳をそっと上向きにする。その瞳に空と葉が映して。
「……何もないのは、寂しいのです。ボクは、知ってますから」
葉の隙間から視える青い空が、時間と共に彩を変え、また戻る。鉄帝国の空の下、人の温度に忘れられて失われた技術が多く眠っている。
ヴィクトールは長く眠っていた。忘れてしまったと気付いたものが幾つかあった。忘れたと気付いていないものもあるだろう。
「今だって、ボクは、空っぽです」
声は青空に吸い込まれるように消えていく。
ぺたりと頬を木につければ、冷えていた。冷えていることにすら、こうしてみなければわからない。頬を付けたまま前方で揺れる枝を見つめていると、誘われるようだった。
「そうですね」
ヴィクトールは空虚な瞳を宙に彷徨わせる。
――ものは、記憶と違って消えないかもしれないですから。
御守りがわりに、と唇が幽かに柔らかな弧を描く。
(誰もいなくなっても、一人きりだとしても)
ブローチにでもしよう、思う間に花が咲く。
――絶対に忘れないような、
あざやかな赤色が目を惹き付ける。樹から頬を放し、ヴィクトールは枝に近づいた。
揺れる枝に優しく手を寄せて。
(自分が確かにここに居た証……とでもいえばいいのですかね)
「ぁ、……あたたかい」
手に取った赤い花は、触れると不思議とあたたかい。そっと握ると機械の掌にとくんと伝わる小さな鼓動。
「わ、」
とくん、とくん。
まるで心臓のよう。煌めく赤色は確かな温もりと脈動をヴィクトールに伝えて、その日――生まれたのだった。
「……おはよう」
こっそり、ひっそり、壊れないように。大事に。ずっと。
「大切に、しますね」
囁くようにして微笑む青年の髪が風に揺れ、赤と金の彩が黒の中で踊る。
●
――さよなら。
くるり、葉を舞い上がらせて風が去る。
無人の聖域に宝石の樹が、ぽつり。
大切な思い出と一緒に 時間が過ぎて…――、
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
舞台は宝石の樹の近く。現地到着直後から宝石の樹の近くにいます。
宝石の花を咲かせて、持ち帰ることができます。アイテムの発行はありませんが、「持ち帰った宝石の花」という設定でご自身でアイテムを作るのは可能です。
宝石の花作成例:
1、用途
「いつもお世話になっている人にプレゼントしたいなって思って、その人に似合いそうな宝石を考えます」
「自分の武器飾りにしようかな」
2、色や形、宝石の種類など
「ローズクォーツで桜の花」みたいに実在の宝石名と花名でもよし、
「掌にちんまりおさまるサイズ、光の加減で色合いが変わる不思議な花、宝石だけど触ったらくにゃっとして気持ちいい柔らかさ」みたいに夢いっぱいでもよし、です。
キャラクター様の個性やプレイヤー様の自由な発想を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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