PandoraPartyProject

シナリオ詳細

灰薔薇の地下庭園

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 深き森に神聖なる大樹ファルカウは存在した。
 そのファルカウの巫女ことリュミエ・フル・フォーレはラサでの一件――実妹であるカノン・フル・フォーレが多いに関り、自身らの『個人的事情』が理由のひとつだったのもあるだろう――で特異運命座標に大きな恩義を感じていたのは確かだろう。
 それはさておき、そのリュミエが頭を痛ませる存在が大樹ファルカウの麓に或るアンテローゼ大聖堂にあった。
 アンテローゼ大聖堂。ファルカウの麓にあり、ファルカウを信仰する者たちが祈りを捧げる場所として広く深緑でも解放されている場だ。
 その大聖堂の司教――元は幻想貴族の出でありながら出奔し長耳を持たずして聖堂で祈ることを赦された一人の魔女――フランツェル・ロア・ヘクセンハウスは大層な『おてんば』であった。
「――という訳で、面白いから『情報屋』になるわね」
 どういう訳だ、とリュミエは頭を痛ませた。ヘクセンハウス司教は好奇心でローレットの情報屋紛いをするというのか。
「……いえ、構わないのですが。貴女がそうしたいというならば……」
「手始めにローレットを呼んだわ。アンテローゼ大聖堂にも『開かずの間』があるでしょう?
 これってとっても面白くないかしら? 勿論、事前に調査はしておいたし、門番のゴーレムは動く様にしておいたわ」
 ゴーレム『は』……――ああ、また頭が痛い。


 フランツェルは自身のテリトリーでもある深緑の『アンテローゼ大聖堂』に特異運命座標を招きたいと言った。
「ああ、まずはザントマンの一件でお世話になったわ。私も、勿論、リュミエも感謝してる。
 深緑とラサの交友が続く事は喜ばしいし、『彼女』にとっても一つの救いが与えられたと、私は思って居るもの」
 にんまりと笑みを浮かべた淑女は深緑各地には様々な霊樹が存在しており、その対処などを特異運命座標に依頼するかもしれないと言い含めた。
「私は幻想種じゃないけれど、そこそこ深緑には長くいるわ。『彼女』の事も――まあ、知っていたから……あなた達には本当に感謝してるの。
 だから、恩返し(おもしろそうだから)。お手伝いするわね。情報屋として」
 ――本音が隠せていないがつまりはそういう事だそうだ。
 アンテローゼ大聖堂の司教である彼女は聖堂の中にある『開かずの間』の調査を特異運命座標にお願いしたいのだそうだ。
 曰く、開かずの間に存在する霊樹に『悪いモノ』が蓄積していっているのだそうだ。
「な、の、で、ローレットの皆には霊樹の悪いものを浄化してきて欲しいの。
 私がその浄化のための術具は用意しておいたから、皆は門番のゴーレムを蹴散らして――あ、間違えた――ささっと行って浄化してきて欲しいの」
 門番のゴーレム。
「何もないわ」
 にんまりと微笑んだフランツェル・ロア・ヘクセンハウス。
 実の所、アンテローゼ大聖堂に彼女がいる以上は門番のゴーレムは必要ないらしいのだが……今回はアトラクションでしょ! と彼女が起動させたとアンテローゼ大聖堂のシスターが困った調子で言っていた。
「さあ、霊樹を救いに行きましょう! さあ、さあ! さささ! ゴーゴー!」
 ……不安しかないのは、気のせいだろうか。

GMコメント

 夏あかねです。フランツェルさんのことも仲良くよろしくしてあげてください。

●アンテローゼ大聖堂
 ファルカウの麓にある信仰の場。神聖なる場所ですが司教の明るさがそれを打ち消しているようにも思える。
 魔力を込められた灰色の薔薇が年中咲き誇り続け、ファルカウに否定的なものの侵入を拒む魔力の蔓が蠢く場所だそうです。
 そのアンテローゼ大聖堂の地下。開かずの間と呼ばれる『灰薔薇の庭園』に霊樹が生えています。

●霊樹
 悪しき気配を吸い込み続けていますがファルカウより力を分けられた存在だそうです。
 アンテローゼ大聖堂で管理された霊樹です(深緑内にはさまざなな霊樹が存在しています)
 普段はフランツェルが対処するそうですが、今回は是非特異運命座標に任せたいのだとか。

●開かずの間
 アンテローゼ大聖堂の地下。灰薔薇の咲く美しい地下庭園です。
 護り手として門番のゴーレムが存在し、霊樹を守り続けています。

●門番のゴーレム×2
 灰薔薇より力が供給される深緑の古代遺跡より発掘されたゴーレム。
 胸のコアを壊すか一定以上のダメージで停止します。
 近接技を使用します。耐久力が非常に強い存在です。

●灰薔薇の霞
 開かずの間に堪えず舞う灰薔薇の花びらと霞。美しいながら、それそものが侵入者を拒む刃として吹き荒れます。
 ゴーレムを無力化することで止まります。(その他は避ける事が出来ない為毎ターンごとにスリップダメージを与えます)

●フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
 アンテローゼ大聖堂の司教にして深緑の大魔女。元は名のある幻想貴族。
 面白がってローレットの情報屋紛いをしていますが、今回は彼女の所為です。
 戦闘には参加しません。るんるんでついていきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 よろしくお願いします。

  • 灰薔薇の地下庭園完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年11月26日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ヴァカラ(p3p007800)
黒薔薇の君

リプレイ


「御機嫌よう! それから、いらっしゃいませ、アンテローゼ大聖堂へ」
 明るい声音でそう告げたのは深緑はアンテローゼ大聖堂の司教にして大魔女と呼ばれるフランツェル・ロア・ヘクセンハウスであった。
「司教様は相変わらず元気いっぱいだね。全然変わらないな」
 故郷でその名を聞く事もある『未知の語り部』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)はトラブルメイカーと名高い大魔女の姿に目を細めて笑う。金の長髪を揺らし、中へどうぞと勧めてくるフランツェルに『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)はくすりと笑った。
「うふふ、フランツェルさんは相変わらずのご様子で何よりです!
 同胞を狙ったザントマンの一件、一先ず収束へと向かっているようで、安心致しました。……しかし、アンテローゼ大聖堂で問題発生なのです?」
「問題発生なのです」
 ドラマの言葉を鸚鵡のように繰り返してフランツェルは頷く。
「ここはフランツェルさんのテリトリですし……このゴーレムの管理って…………いえ、そんなコトを聞くのは野暮なのでしょうか……」
 にんまりとした儘のフランツェルに「フランツェルちゃんったら困ったものねぇ~」と『遠足ガイドさん』レスト・リゾート(p3p003959)は微笑まし気にそう言った。そう、大魔導リュミエも手を焼くのがこのアンテローゼ大聖堂の主なのだ。
「霊樹の守護者とも言える門番を俺達が倒さねばならなくなるとは……今後が心配になってしまうな」
 溜息を交らせる『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)に「深緑出身者の雰囲気見ればイタズラっぽいし、そこまで心配なさそうかな?」と『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)がリゲルを覗き込み笑う。そう、これは悪戯なのだろう――ゴーレムはウィリアムが自動修復か若しくは壊しても心配ない細工が施されている可能性が高いうえに、フランツェルが同行する以上はレクリエーションに近しい依頼だ。
「もー、おてんばな女の子は……嫌いじゃないぞ☆」
「ふふ。ありがとう。ウィズィさん。ええっと、……あなたはリゲルさん、だったかしら? そう構えないで。
 霊樹の民より浄化の依頼は舞い込むかもしれないけど、少なくてもアンテローゼは――私がお仕事さぼってるだけともいう――心配ないから!」
 何か聞こえた気はするがリゲルは咳払いで終わらせた。もしも、この司教が故郷天義に居たならば問題なのだろうか。良くも悪くも穏やかなる深緑らしい司教である。
「……これは所謂、出来レース……? いえ、なんと言いましょう、全ては計画通りにという事でしょうか……?」
 にんまり顔のフランツェルを見遣りながらヴァカラ(p3p007800)は「どうでも良いですけれど……」と呟いた。アンテローゼ大聖堂の中に飾られた灰薔薇は美しく咲き誇るがヴァカラは彩の抜け落ちた風貌のその花でも愛されるのかと「妬ましい」と呟いた。
「司教、『情報屋ごっこ』をするのだったかな? 情報提供、恩返しとしてはもっと特ダネだったら嬉しかったのだけれどもなあ。フハッ! まあ言わぬが華だ」
「うふ。これでも大魔女ですからね。今後に乞うご期待です」
『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887) は灰薔薇はあまり好かないとゆっくりと開かずの間へ続く階段を下りる。振り仰げば美しいステンドグラス越しに大樹をも照らす陽の光が差し込んでいる。『滅牙』シエラ・バレスティ(p3p000604)は「神秘的な場所だね」と周囲を見回した。
「ゴーレムとやらは私達にお任せあれ……! 毎回入る度に壊されて直さなくちゃいけないなんて直す人も大変だな~~!」
 ちらっとフランツェルを見遣ったシエラ。にんまり顔の大魔女は「ゴーレムは任せたわ!」と押せ押せである。
「私は只管縛る! 突く! 縛る! 突く! 縛る! あれ……なんか私ドSっぽい?」
 ――ゴーレムさん、ある意味で大ピンチだ。


 古びた扉を開けば、其処に広がるのは色素の抜け落ちたかのような灰薔薇の庭園であった。
 内部構造をすべて把握しているフランツェルがにこやかについてくるのを振り返りウィリアムは不思議なものだなあと小さく呟いた。
(……それにしても、小さい頃は遠くから眺めているだけだった偉い人から……仕事を依頼されるようになるとは人生分からないものだね。折角のご縁、面白いものになりますように)
 司教様は面白おかしくリュミエ様に怒られている人だ、という印象が強いというのも悲しい話だが何はともあれウィリアムは年齢不詳の魔女の笑みを眺めながら「まずはゴーレム退治でしたね」と声をかけた。
「ええ」
「フランツェルさんの事をあまり知らないんですけど、あと、女の子がお転婆なのはすっごい良い事! だけど――深緑出身組が言う様にリュミエ様によく怒られてたんですか?」
 ゴーレムの方へと歩みながらウィズィはフランツェルに問いかける。「ぅえ」と慌てた声を出した彼女に小さく笑ったドラマは「リュミエ様も呆れていらっしゃるでしょう?」と冗談めかす。
「あはは。リュミエ様は大人びてるから、フランツェルさんとは対照的かも」
「私だって大人ですよー?」
 ねえ、と相槌を求める様に傍に寄るフランツェルにシエラは「んー?」とわざとらしく首を傾げる。そうしていれば同年代の少女のようにしか見えなくてリゲルとグリムペインは『大魔女』という称号を持つ存在には見えないなと顔を見合わせた。
「さて、ね。魔女様。こう吹き荒れる灰薔薇は雪のようで舞台としては上々だ。
 好みを言えば赤の方が美しいだろうけれどね、なぁに、茨姫の城に忍び込むよりは容易かろうよ」
 舞い散る花弁を追い掛けて、パラソル・ステッキに積もった灰色を雪のようだわとレストは楽し気に目を細める。
「フランツェルちゃんの『いたずら』のおかげで庭園に入れたんだもの、素敵な景色を楽しんじゃうわよ~。……これで大丈夫だわ、綺麗な庭園が荒れるのは見たくないものね~」
 保護結界を展開し、美しい灰薔薇の庭園を傷つけぬようにと気を配ったレストに「やさしい!」とシエラは瞳を輝かせた。本日は少しサディスティックなシエラが出来る事と言えば――眼前のゴーレムを兎に角、殴る、殴る、殴る、である。
 フランツェルに戦闘範囲に入らぬようにと告げたウィズィはゴーフォアライ、突き進めと己を掻き立てる。
「さあ、Step on it!! しっかり見てて下さいね、さっさと倒しちゃいますから!」
 駆動音を立て土塊よりゴーレムを形作ったそれは冴えた瞳で見遣るウィズィ。戦い事は誰かの為なのだと歩む足を止めることはない。
「ゴーレムに呪いは利くのでしょうか……? 霊樹を護るゴーレム……わたしも欲しいわ! わたしを愛して護ってちょうだい」
 憧憬の瞳を向けようとゴーレムは霊樹が為の防衛機構としての役割しかない。答えがないことは愛せないから、黒薔薇だからとヴァカラは歯噛みした。
 その呪詛の様な声音を聞きながら己に巡る魔力を感じドラマは世界彩る糧をその身に宿す。
「レストさんのおかげで少々派手にやっても大丈夫ですね!」
「うふふ、けれど、怪我には気を付けてね~」
 柔らかに笑みを浮かべるレストの声音を聞きながらその瞳はコアを探す。猛き暴威の力を記憶が漁り所の力を顕現させる。
「……中々固いですね?」
「ああ、流石は『アンテローゼ大聖堂の守護者』だろうか」
 落ち着いた声音でゴーレムを抑えるリゲルは聖十字を揺らし、刃を振るい込む。静かなる断罪の斬撃はアークライト家当主の証左を手にしたからこそ放てる一撃か。
 踏み込むその両脚に力を込める。ゴーレムの拳は、成程、これほどまでに重いものか。
 ウィリアムは母直伝の雷魔法を以てゴーレムの胸へと一撃放った。コアを守胸部の装甲の固さは『守護者』としてリゲルが認める程という事か。
「司教様、ゴーレムのコアは相当厳重に守られてますけれど……」
「お好きにやっちゃっていいわ! 『事後処理はきちんとできるから』!」
 ――だから、怒られるだけで済むのだろうなとウィリアムは小さく笑った。
 主従恋人の首輪を揺らしシエラは青白い妖気揺らしゴーレムへと一気に接近する。死角を奪う様に、放ったのはバレスティ流剣術・破の型。『気』を操りゴーレムのコアへとその力流し込むよう意識を強く固めていく。長い髪を揺らしたシエラが振り仰げばグリムペインが小さく呻く声が響いた。
「ッ、大丈夫――!?」
「ああ。こんなにも素晴らしい舞台だ。『装置』にだって見せ場を遣らねばならないだろう?
 さあ。舞台は上々、ホールは盛況、残りページも余りある。次は此方の番さ――次のシーンに移るまで。私と一曲踊って頂けませんか? il Cavaliere」
 ダンスのエスコートをする様にゴーレムを一人相手取ったグリムペインは霊樹を護るナイトではなく、脚を絡ませるように進むゴーレムを犬と称した。
「美しい花弁の中、踊るのもオツなものだろう?」
 舞い散る花にその身を切られる感覚にウィズィが僅かに目を細める。シエラが「まるで刃物みたい!」と声を上げれば、「は~い、お手当てしましょうね~」とレストの柔らかな声音が響く。
「嗚呼、忌々しい事! わたしに傷を付けるというの? その色で、刃を振り回しながら、みんなから愛されるというの? ……全て枯らしてやりたいのに、みんなあなた達の味方をするの」
 ヴァカラの髪先が意思を持つように揺らめいた。歯噛みする。カースド・ジュエルを胸先に揺らして憤慨した様にアンデッドのなり損ないを前へ前へと押しやった。
「あなた達を護る結界を張るのですって! 嫌だわ! 嫌だわ! 消えてしまえばいいのに!」
 美しい花が嫌いだとヴァカラは言った。黒薔薇の君――フランツェルは綺麗ねと囁けど、ヴァカラの心に渦巻く闇は一言では晴やしない。
「ぶっ……壊れろぉお!!!」
 薔薇の中、リゲルが抑えたそのゴーレムへと飛び込んだウィズィがハーロヴィットを振り上げる。その言葉に合わせる様に飛び込むは蒼剣の弟子として剣魔自在に動くドラマ。
 落ちる雷撃の気配に魔力をびりりと体に感じ、ドラマが「今です!」と響かす声にシエラは気合を込めて一撃を飛び込ませた。
「よぉし! もう一体行きますよ!」
「おっけー! グリムさんお待たせ……! リゲルさん、大丈夫だった!?」
 気遣うシエラにリゲルは大きく頷いた。がくんと土塊と化すゴーレムの向こう側、レストが癒しを送り支えるグリムペインがゴーレムと共にダンスを踊る。激しさを幾許か緩めた花弁の中、痛みにヴァカラの表情が歪んだ其れをドラマは見逃さない。
「もう少しです。本当に嫌になる程に頑丈ですね……!」
 ドラマは書物より全て齎す闇を放った。食い散らかす様に広まる其れに灰薔薇の花びらが混ざり込む。
 美しい景色なのだとリゲルは其れを認識し、一気呵成、銀剣を煌めかせた。
 ごうん、と音を立て稼働を停止したゴーレムにリゲルはゆっくりと銀の剣を降ろす。どうやら、周辺に被害をもたらすことなくゴーレムの対処は済んだのか花弁はどこかへと消え失せる。
 フランツェルが「ほら、あれがアンテローゼ大聖堂の霊樹よ」と指さすその先を見遣りドラマはぱちりと瞬いた。
 金の葉をもった其れは灰色ばかりのその空間には美しいものに見える。綺麗と囁くシエラの声に頷いてウィズィは「フランツェルさんが護ってる大切な樹なんだね……」と呟いた。
「ええ。さ、浄化へ行きましょうか。それと――皆さん、私の事は司教様だとかフランツェル様なんて呼ばなくて結構よ。フランと呼んで頂戴な?」
 むず痒くって仕方ないものと笑い祭具を手にしたフランツェルの背をシエラは追い掛けた。
「ごめんなさいねグリムペインちゃん、痛かったでしょう~?」
 気遣う様なレストの声に「大丈夫さ。ああして眠っているならば灰薔薇が似合うとでもいうのだろうかな」とグリムペインは肩を竦め土塊となったゴーレムを只見遣るだけだった。


「ふう!」
 そう声を上げたのは後ろで見ていただけのフランツェルであった。
「……しかしフランツェル様は、興味本位で情報屋とは危険が多い仕事なのですよ。あまり無茶をされませぬよう」
「ええ! これでも魔女だもの。分かっているわ。それに皆さん、守ってくださるでしょ?」
 リゲルの忠告にあっけらかんとした調子で返すフランツェル。おてんばさんだなあとウィズィがフランツェルに笑い掛ければ幼い少女の様な顔をしてフランツェルはにいと笑う。
「ゴーレムを片付けたら……今更ですが本当に片付けてしまっても大丈夫だったのでしょうか?」
 不安げに振り仰いだドラマの言葉にリゲルは大きく頷く。聖堂も霊樹も守りたい以上、フランツェルの『悪戯』は看過できるものではない。
「……門番を起動し、壊してしまうなんて……。
 有事の際の護り手が不在となり、この場を危険に晒してしまう可能性も生じます」
 真剣な表情をしたリゲルにフランツェルはにんまりと笑い「だいじょうぶよ」といつも通りの明るい声音でゴーレムをとんとんと叩く。先程迄大暴れしていたその土塊にはまたも生気が宿り通常の姿を見せた。
「私って、魔女だもの。心配性さん。嫌いじゃないわ! ほらほら、ふふん! どうかしら!」
 ――元から何かの絡繰りがあったのだろうが、それを見てどうにも食えない相手だとリゲルは舌を巻いた。ドラマは「本当に『いつもの通り』なのですね」と可笑しくなった様に悪戯好きの司教にくすくすと笑うだけだった。
「さて! 浄化だよね? フランツェルちゃん、ねぇねぇ、私の心の浄化方法とか無いかな?」
「心を? シエラさん穢れてらっしゃるの!?」
「無い? じゃあカビたパンの浄化方法でいいから!」
 きょとりとした調子のフランツェルにシエラはくすくすと笑いながら告げる。ちょっぴりサディスティックな一面が覗いてしまったけれどフランツェルにはどうしようもないとのことだ。
「それで浄化とは、どんな事をするのです?」
「色々やり方はあるけれどね、えっと、ヴァカラさん、それからウィズィさんはその祭具を持ってあちらに」
 フランツェルの指示を受け、ヴァカラとウィズが祭具を手に指示位置へと歩いてゆく。司教様と声をかけるウィリアムは灰薔薇を見詰めながらよく手入れされ美しく咲いているものだと感心した。
「ねぇねぇ、どうしてこうなったの~? 大丈夫なの~?」
 霊樹を見守るレストにフランツェルは「大丈夫」と大きく頷く。霊樹も生き物だ。手入れがそれなりに必要という事なのだろう――ここ、アンテローゼ大聖堂では、の事だそうだが。
「しかし改めて見ても色合い故に殺風景だね。赤薔薇を混ぜたらいいのに。首でも撥ねられるのかな?」
 冗談めかしたグリムペイン。美しく咲く赤薔薇も青薔薇もないけれど、灰薔薇の咲き誇るその場所に吹くのは純なる風であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 少しおてんば魔女ですがこれからはローレットでも皆さんとお話しさせていただければと思います。
 どうぞ、よろしくお願いしますね!

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