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シナリオ詳細

<物語の娘>コーカスレースの落とし穴

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ビジネスチャンスは突然に
 《涙の海》は寄せては返す。
 濡れた身体を乾かそうとアレコレ試す鳥たちを見て、ドードー鳥はぶるっと震えた。
 自分も濡れてはいるけれど、凍えて震えているわけじゃない。これは――そう。武者震いというやつだ。

 誰もが‟身体を乾かす手段を求めている”この状況、ビッグビジネスの香りがするよ!
 クライアントのニーズを100%満たせたら、明日から僕は『ワンダーランド』で一番イケてるビジネスマンとして再注目されるに違いない。
 そうと気づけば善は急げだ! 今日のトレンドが明日のトレンドとは限らないからね。

「やぁ。ちょっと聞いて欲しいんだけどさ……身体が乾くとっておきの方法、試してみない?
 大丈夫。まわりの鳥も君に言わないだけで、実はみーんなやってるから!
 しかも始めるのは簡単! レースに参加する。これだけでいいんだよ」

 ろくろをまわしながらビジネススマイルを振りまくドードー鳥に、
 最初は誰もが胡散臭そうなものを見るような目を向けていた。
――それでも、三歩あるけば危機すら忘れる鳥頭。
「騙されたと思って始めてごらん。《コーカスレース》っていうんだけど」
 彼が勧めるレースの参加に、片翼を挙げて参加するものがまた一羽……。

 参加者は口コミも増えて、面白いくらいに増えていったよ。
 今じゃもう《涙の海》で僕の名前を知らない奴はいない。
 高揚したさ! 最っっ高に気分がよかった!
……あの問題に気づくまではね。 

●リスクヘッジはちゃんとしよう!
「お前らさァ、《コーカスレース》って知ってる?」
 集まったイレギュラーズ達に話す際、『境界案内人』新郷 赤斗(しんごう あかと)は人差し指を眉間に当てて、なんとも頭が痛そうな表情をしていた。
「テキトーに円を描いて、その周りにテキトーな位置について、スタートの合図もなくテキトーに走ってテキトーに終わる」
 つまりスタートの合図もなければゴールの基準もない。
 全部適当。ただ気分で走るだけの‟レース”とは言い難い代物だ。
「それを主催したドードー鳥って奴、参加者に優勝者は誰だーって詰め寄られちまって、
 思わず‟全員が優勝だ!”……って返事しちまったらしい」

 優劣をつける基準がないのだから、そう判定せざるをえなかったのだろう。
……結果、参加者全員に優勝賞品を配る約束をさせられてしまった。

「ドードー鳥は何の賞品の準備もしてねェが、参加者は楽しみにして待ってる状態だァ。
 これじゃレースはいつまでたっても終われない。ポンコツなビジネスマンの代わりに、優勝賞品を参加者全員に提供してやってくれェ。
 向かう先は『ワンダーランド』。館長がより深く調査せよとお達しの、あの異世界だ。協力してくれるよな?」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 負債を抱えたビジネスマンをワンダーランドで助けてあげましょう!

●目的
 《コーカスレース》の表彰式で優勝者全員に賞品を与える。

●場所
 世界の名前は『黄金色の昼下がり』。住民たちは『ワンダーランド』と呼んでいます。
 まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、カラフルでメルヘンな世界です。

 今回訪問するのは、この世界の中にある『涙の海』と呼ばれる場所です。
 《アリス》が流した涙によって出来た海だと言い伝えられています。

●登場人物
 ドードー鳥
  《涙の海》に住むビジネスマンの青年。見た目はドードー鳥という鳥そのものです。
  ふわっふわの尾羽がチャームポイント。翼が退化しているため空は飛べません。
 《コーカスレース》を主催したものの、レースの内容がガバガバだったため参加者全員に優勝賞品を配るはめになってしまいました。
  横文字が大好きでやたらビジネス用語を使いたがります。

 レースの参加者×40羽
  《涙の海》に住む鳥達。アヒルやオウム、うみねこ等、いろんな種類がいます。
  しょっちゅう波で海水をかぶり、びしょ濡れになっているようです。

 『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
  赤と緑のオッドアイで、赤い右眼が光っている男性。同じ境界案内人の神郷 蒼矢(しんごう あおや)と似ています。
  実はイレギュラーズを招集したのは今回が初めてなのですが、
  聞かれなければ自身の事は語らないタイプのようです。
  イレギュラーズのサポーターとして、備品を頼まれれば手配してくれます。

●その他
 あげる賞品はこだわりぬいた料理や手作り品などの「物」でもいいですし、
 歌やダンスなどの「エンターテインメント」もOKです。
 喜ばれるかはイレギュラーズの気持ち次第。心がこもっていれば、レースの参加者達も満足するでしょう。

 それでは、よろしくお願い致します。

  • <物語の娘>コーカスレースの落とし穴完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月18日 22時25分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ
デビット(p3p007637)

リプレイ


『海の家』の東側、ドードー鳥の屋敷の周囲はどこを見回しても鳥、鳥、鳥。
 誰もが思い思いの横断幕やプラカードを持って抗議の声を上げている。
「ドードー鳥を出せー。優勝賞品を出せー」
「親御さんが泣いてるぞー」
 喧騒を屋敷の窓から覗き見た『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は、デモの盛り上がりっぷりに目をぱちくりさせた。
「立てこもり強盗気分ですの!」
「皆、お祭り騒ぎが好きだからね。こんな事態は前代未聞だ。
 果ては『シャルル=アメリアのショタ本新刊お譲りください』とか『寿司のワサビは全て抜け』とか、レースと関係ないクレームまで飛び交う始末……。だから貴方がたとアライアンスを組んだのです」
 抗議された当人、ドードー鳥は客室のソファーの上で重苦しい溜息をついている。その横に座るデビット(p3p007637)は対照的に落ち着き払ってレースの企画書を確認していた。
「ふむ、着眼点は悪くありません、40羽も集めきる手腕も中々……ですが、少々詰めが甘いようですね。
 しかし、良い教訓となったでしょう。リスクヘッジはしっかりと、主催者としてコミットした事項は完璧にこなしてみせてこそ、出来るビジネスマンというものです」
 ぐぅの音も出ない正論である。反論を諦めたドードー鳥は、ふと今の状況にひとつの疑問を覚えた。
「エビデンスを取った特異運命座標は4人のはず。ノリアさんとデビットさん。後の2人は……」
「お外を見ればきっと分かるの!」
 そういえば、あれほど騒がしかった文句の声が聞こえない。
 ノリアに促されるままにドードー鳥が見た光景は、大歓声とステージに立つ一人の女性の姿だった。


「優勝、おめでとーーう!!」
 屋敷に併設されたコーカスレースの表彰台。ステージの上から参加者達へ元気を振りまいているのは、『猫のワルツ』スー・リソライト(p3p006924)だ。
「身体を乾かしたい? それなら、よってらっしゃいみてらっしゃい!」
 視線を惹きつけるように始めの方はゆっくりと、流れるようなステップで。
 鳥達が壇上を見るために近づいて来れば、両手を広げて笑顔を見せる。
「私から贈る賞品は、素敵なダンス!
 だって濡れた身体だって飛んだり跳ねたり回ったり、風を浴びればすぐに乾くし!
 こんなに楽しい事だもの、一度でダメなら何度でも!」
――一緒に、踊って踊って踊り狂いましょっ?
 誘う一言にわっと歓声があがる。ワンダーランドの住民は大騒ぎするのが大好きだ。
 誰も彼もが抗議のタスキやプラカードを投げ捨てて、ステージの周囲はたちまち鳥だかりが出来ていた。
「ここからは降り付けのレクチャータイム! 初めてでも大丈夫。一緒に楽しむ気持ちが大事だよ!
 まずは右翼を上に掲げて、大きく振ろう。1、2……」
 誰でも踊れるように、誰でも参加できるように、そして誰でも覚えられるように!
 鳥達は指の細かな動きが表現できない。それを念頭に置いてスーが考えたダンスは、参加者達に好評だ。ギャラリーが降り付けに慣れるとテンポを上げて、熱狂の渦を広げていく。
 終わる頃には『涙の海』一帯に響くような歓声と拍手が彼女に向き、レース以上の盛り上がりを見せていた。

「コーカスレース! この計画性のないガバガバなイベントのために、
 ひとまずやっとかっと賞品をかき集めてきましたよ!」
 躍り疲れた鳥達へ、今度は美味しそうな弁当と飲み物が差し入れられる。『ラド・バウD級闘士』ヨハン=レーム(p3p001117)の手作り弁当だ。
 ふふん! と自慢げに胸を逸らす彼へ鳥達の注目が集まった。
「ドードー鳥このやろうドードー鳥このやろうって愛情を込めながら大量に仕込んできました!
 流石に鳥肉はブラックすぎるので野菜やパンが中心ですが、お友達とぜひ召し上がって下さいね!
 楽しいお食事会にしましょう!」
「愛情がブラックすぎるのでは!?」
 ツッコミの声をあげたのは、無論うわさのドードー鳥だ。そんな彼へ手渡されたのは、一枚の請求書。最初は少し眉間に皺を寄せるくらいの反応だったが、金額を目で追うほど尻羽が驚きで反り返っていく。
「ちょっと待ってください。この『ねこ屋謹製手作り弁当』が1個100Gなのはいいとして、
 飲料代の『異世界のおいしい水』と『名酒オアシスの雫』がべらぼうに高いんですが」
「闇市で良さそうなのが出るまで探したので、経費はドードー鳥さんに払ってもらおうと思いまして! 払えオラアァァ」
「ピイイィィ!?」
 絞め殺されたような悲鳴も、ほろ酔いの大人鳥には酒の肴になっていた。
「いいぞもっとやれー、ショタ本のショタの子!」
「何でワンダーランドまであの本が知られてるんですか!?」
 ショタ萌えに世界間のボーダーラインはないのである。

 誰もかれもが今日のレースについて語り合い、美味しい弁当に舌鼓。宴会ムードになりつつある中、次の賞品を用意した特異運命座標の2人が表彰式のステージへ上がっていった。
「ノリア様、ずぶ濡れですがどうしたのですか?」
「さっき『涙の海』で泳いできましたの!」
 そして閃きましたの! とノリアはやる気満々だ。ならばとデビットは観衆に向けて声を張り上げる。
「ご歓談中の皆様、どうぞお食事を召し上がりながら、こちらのプロジェクターをご覧ください」
 ステージにはいつの間にか、プロジェクターでスライド資料が投影されていた。注目をひく事に成功すると、彼はそのまま語りはじめる。
「賞品として喜ばれるのはやはり、身体を乾かしたいというニーズに答えた物になるかと思われます。
 しかし、機械類などあまり高度なものは持ち込めませんし、コスト面でも控えたい所。
 そこで私からは、このような物をご用意させて戴きました」
 映し出される立派な建造物の設計図。回し車とプロペラの付いた人力の送風機だ。
 おぉ、と鳥達の間でざわつきが起こる。
「これならば走る側も、風を受ける側も身体を乾かすことが可能です。
 単純な構造かつ、塗装も周囲に合わせたものにしておりますので、景観を損ねて地価の低下を招くこともありません。
 皆さんには、今回の賞品としてこの公共物の優先的な使用権をお贈り致しましょう!」
 拍手喝采を浴びるデビット。その横をノリアが泳いで現れる。

「さらに今回は、『もうひとつ』賞品をおまけしますの!」

 人は誰しも、「もうひとつオマケするよ」と言われると、なんだか、とってもうれしい気持ちになるものだ。彼女は買い物した時に、その真実に気づいていた。鳥達も共感したようで、何だ何だとテンション高めに食いついてくる。
「レースの優勝賞品は、うれしいものでなくてはならないと、思いますの……ですのでわたし、1羽1羽聞き取りを行いましたの。そうしたら皆様、見事に意見がバラバラでしたの!」
 他の特異運命座標が賞品を贈る中、案が出ず悩んでいたノリア。
 気分転換のために『涙の海』をひと泳ぎして、彼女が閃いた答えとは――。
「『もう』ひとつ、というくらいですから、すでに、最低でもひとつ、
 優勝者の皆様に、さしあげたことのあるものでなくてはいけませんの。
 ですから……わたしが思いついたのは、『次回レースの招待参加権』ですの!」
『涙の海』に響き渡る大歓声。今日この踊り明かした感動が、興奮が。また味わえるというのなら、これほどうれしい事はない!
「あれですね、コーカスレースは鳥たちの親睦を深めることが目的、配られた物は楽しい時間という事にしときましょう!
 特にルールもなくガバガバだったけど、楽しかったでしょう? 僕もお手伝いできて良かったですよ」
 ヨハンの問いに応えるように4人の特異運命座標は大喝采を浴び続け、レースは無事に閉幕した。


「驚きましたよ、特異運命座標。まさか次のコーカスレースを開催する事になるとはね。
 僕一人で用意出来るでしょうか……あれほどの賞品を」
 騒ぎの後、特異運命座標を見送るドードー鳥の表情は少し心細そうだった。
 その心配を拭うように、スーはその場で軽やかなステップを踏み、次へと挑むエールを贈る。
「皆で一緒に踊れば大丈夫! こんなに楽しい事だもの、いーっぱい踊って大騒ぎしちゃえば、きっとまた盛り上がれるよ!」
「『コーカスレース』そのものは悪い反応ではないようですから、続けるために私からはこちらを」
 デビットから手渡されたのは、プレゼンの中で出てきたあの送風機の設計書だ。
「せっかくですので、組み立てキットという形で準備をして、現地の皆様にも手を貸していただける物にしました。
 工作の楽しみを提供しつつ、こちらは労働力を得られるWin-Winの関係にございます」
 レースを楽しみ、皆の手で作り上げる施設へ期待を膨らませていく。
 その中で、きっと協力者が増えるだろうというデビットなりの気遣いだ。
「僕のお弁当は神郷さんに連絡してくれれば、お取り寄せ出来るようにしておきますよ!」
「弁当配りを手伝わされたからなァ。入手ルートは覚えたぜ」
「えーっ! あなた来てたの?!」
 ヨハンの手伝いに境界案内人が駆り出されていた事実に、スーが驚きの声をあげる。
 会話に入ってきた神郷 赤斗は、特異運命座標とは少し離れた場所からヒラリと片手だけ挙げた。
「ただ、次はドードー鳥さんがちゃんと計画しないと唐揚げにしますからね!
 レモンかけて食べちゃいますよ!」
「手厳しいなぁヨハンさん。でも……ノリアさんが繋げてくれたビッグチャンス、
 このまま終わる訳にはいきませんね」
 不思議なものだ、とドードー鳥は思う。彼らと話すたびに未来の不安はなくなって、またやり直せると気づけば勇気がわいてくる。
「これからも頑張ってくださいですの! 応援してるですのっ!」

 コーカスレースは終わらない。
 特異運命座標がもたらした元気と希望がある限り、ワンダーランドで永遠に――。

成否

成功

状態異常

なし

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