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シナリオ詳細

神郷さん家の猫事情

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異世界越しの無機疎通
「とびっきりヤバい依頼が来た」
 開口一番、『境界案内人』新郷 蒼矢(しんごう あおや)は特異運命座標達へ神妙な面持ちで語りかけた。普段はのんべんだらりと適当やってる怠惰な男が、これほど真面目に告げるのだ。ただごとではないのだろうと場に緊張した空気が満ちる。
 説明をうながされると、彼はジャケットの裏から一冊の本を取り出した。片手におさまる文庫本。
 その表紙を飾るのは、一件の日本家屋の写真と――ふわふわぬくぬく、にくきゅうマーク。

……にくきゅう?

「今回救いを求めてるのは、この表紙の一軒家だ。名前はない。
……ほら、家ってさ。大抵は入居者の苗字で呼ばれるだろ? けれどこの家は、入居予定のヤツが住めなくなっちまってさ。今は空家になってるんだ」

 もともと先代の家主が亡くなってから、空家としてひとりぼっちの時間を過ごしていた身だ。孤独に慣れてきたつもりではいた。
 しかし入居予定だった人間が内見に来たあの日。連れてこられた猫達や、猫とじゃれる人間のやり取りにすっかり心を奪われてしまったのだ。
 たった一日だけでいい――猫と人が仲良く暮らす、幸せな一軒家の気分を味わいたい!

「そんな訳で、今回の異世界に飛ぶにあたって俺達は猫になる」

 猫になる。
 もっちりしたまぁるいピンクのにくきゅうも、
 ふーかふかの柔らかい毛並みも、
 高所を自在に飛び降りられるしなやかな肉体も。

――全てはこの日、この世界の中で全部ぜーんぶ君たちのものだ。
 おまけにどんなイタズラも猫らしければ許される。文字通りの自由気ままな猫暮らし。

「いやぁ、おじさん毎日"猫になってのんびり過ごしたいなー"なぁんて言ってたけど……まさかこんなに早くそのチャンスがまわって来るなんて!」
 なってよかったなぁ、境界案内人――と神郷は興奮に頬をほんのりと赤く染めていた。
 どんな毛並みの猫ちゃんになろう?
 家のどこでごろごろしよう?
 想像の翼は広がるばかりで留まる事を知らず、特異運命座標達に声をかけられてようやく彼は平常心を取り戻した。

「という訳で、今回の依頼はおじさんも同行しますよっと。皆、いーい一日過ごして空家くんを満足させてあげようね。じゃあ、行くよ?」

●ニャン生は難しい
「冷静に思い返してみれば、おかしかったんだよね」
 縁側でぽつん、膝を抱えて座る人影。図書館で一生分のテンションを使いきる勢いではしゃいでいたはずの蒼矢だ。
「空家くんが求めてるのは猫と人との暮らしだから、不足してる人の部分も補わなきゃいけない訳で……でも、だって……俺だけ猫になれないなんて、あんまりだーーー!!!」

 これは、猫になった四匹の特異運命座標と家主の蒼矢の物語。

「こうなりゃヤケだ。おじさんと遊んでチョーダイ特異運命座標!」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 毛のないにゃんこのスフィンクスも結構好きです。

●目標
 猫になって一日好きなように過ごしましょう。

 同行している『境界案内人』新郷 蒼矢が暇そうにしていますが、構ってあげてもそうでなくても問題ありません。なにせ猫は気まぐれですから。

●異世界について
 現代日本に近い世界です。古風な日本家屋ですが、電気も水道もガスもあります。

 蒼矢が備品手配に力を入れていたので、家電はもちろんキャットタワーなどのペット用品や、幻想でなじみ深いマジックアイテムまで、色々な物が用意できます。

●登場人物
 新郷 蒼矢(しんごう あおや)
 怠惰な境界案内人。猫の姿になっての自由な暮らしに憧れていたのに、いざ異世界に着いたら自分だけ人間のままだった。猫になりそびれ事に文句を言いながらも、休日を過ごす家主らしく振舞うつもりのようです。

●プレイングのコツ
【猫の姿をイメージしよう】
 どんな姿の猫になるか書いておくと、それっぽくなります。
 毛並みの色や尻尾のかたち、ヒゲの曲がり方。子猫でも大人の猫でも、ここでは貴方の望むままです。家猫なのでおしゃれなアクセサリーなんかを着けても素敵ですね。

【猫になってすごそう】
 思いつく限りの最高の猫ライフを満喫しましょう。
・庭に来るスズメを追いかける
・縁側で丸くなってのんびり昼寝をする
・掃除機の音にびっくり! 猫ぱんちで応戦する
・屋根の上に野良ネコを集めて井戸端会議
・キャットフード実食に挑戦してみる
・いじけてる蒼矢にちょっかい出してあげる

……などなど、複数試してみるといいかもしれません。
 それでは皆様、よき猫ライフを。

  • 神郷さん家の猫事情完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月17日 22時25分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
リナリナ(p3p006258)
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
シェルマ・ラインアーク(p3p007734)
金獅子

リプレイ

●神郷さん家の気まぐれ4匹
 お日さまと畳の匂いが包む穏やかな日和。
 縁側近くの和室で4匹は小さな額をつき合わせ、車座になっていた。
「目線が低くてビックリしたろ? ようこそ特異運命座標。彼も君たちを祝福してるよ」
 コンコン。日本家屋の柱を手の甲でノックして、同行した『境界案内人』神郷 蒼矢は歓迎の気持ちを代弁する。
 依頼主はこの趣のある日本家屋。秋も深まるこの時期は庭の木々も赤や黄色に染まり、縁側の横に置かれたフウセンカズラも橙色に色づいて、ゆらゆらと遊んで欲しげに揺れている。猫が部屋で丸くなっているだけで絵になりそうな、そんな場所だ。
「依頼ではあるが、肩ひじはってやるようなモンでもない。今日は楽しむつもりで……って、おーい。特異運命座標?」
 助言する蒼矢の眼下にはすでに誰もいなかった。なにせ猫は気まぐれなのだ。

 やれやれと彼が視線を逸らすと、畳の部屋の中央。一番日当たりのよさそうな場所に、デン! とリクライニングソファが鎮座している。
「あれっ、こんなの用意してたっけ」
 戸惑うのも無理はない。それは事前に準備されたものではなく、たった今そこに現れたのだ。
 クッションの上で丸くなっている、大きなふわふわのギフトによって。

"ジェントルジャイアント(穏やかな巨人)"
 メインクーンという品種の猫は、大きさと穏やかな性格のギャップからそんな愛称がついているらしい。獅子のブルーブラッドである『金獅子』シェルマ・ラインアーク(p3p007734) は、そこに貴族の威厳を足したような立派な大猫になっていた。
 手を出しづらい近づき難さは確かにある。だが、それを差し引いても触りたくなる長毛だ。淡い金毛はお日さまの光を吸ったように柔らかで、毛先の淡いエメラルドグリーンが蠱惑的に蒼矢を誘う。
――これ、絶対気持ちいいやつだ!
 魅惑の身体に触れようと伸ばされた掌を、シェルマはぬるっと滑らな動きでかいくぐった。
 なるほど、猫は液体になるなどと言われるが、あながち嘘ではないなと蒼矢は思った。
 逃げられた方へ振り返ると、また別の所で【王の休日】――シェルマのギフトで新たなソファが姿を現す。
 もっと居心地のいい場所を。もっと眠れる穏やかな場所を。それが彼のニャン生だった。

 ねこ、キャットフードにまっしぐら!
 その頃、『おにくにくにく』リナリナ(p3p006258) は台所へ一直線に向かっていた。
 流し台の上に目当ての袋を見つけると、まずは前足を持ち上げる。それだけでは勿論、台の上へは届かない。
 ならばと彼女は見回して、椅子を伝いテーブルの上へ。移動する道すがら、
 ガシャン! パリーン!
……と何か割った音がした気もするが、物音よりもご飯なのだ。最後は卓上から流し台へぴょーんと飛び、足りない距離は――背中につけたジェットパック!
「にゃーーー!」
 勢いのまま、キャットフードへ突っ込んだ!

(台所の方で何かすげぇ音がしたな……)
 屋敷の外壁、ブロック塀の上で『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)が振り返る。
 彼は猫としての自分を冷静に分析し、さっそく高い場所に登れるコツを体得していた。やはり凹凸のある場所は爪を立てれば上手く登れるようだ。普段の動きはノロノロしていても、駆けあがる時の脚力と身軽さは、他の猫に劣らない。
「にゃ!」
「ぅニャア」
 ふと、木の上へ飛び移ったところで背後から知らない鳴き声がした。最初に見た顔ぶれとはまた違う、恐らくこの近所に住んでいる猫達なのだろう。なるほど猫の言葉も今は分かるが、
"兄ちゃん、見た事ないブチ猫がいるよ!"
"おい、変な奴に話しかけるなよ"
……という事らしい。
(なんとなく分かってはいたが……確かに俺は可愛さという物がないな)
白と黒の毛並みはぼさぼさ。やる気なさげで、ふてぶてしいって言葉が似あう。そんな姿だ。
「ンナ~ォ……」
"変かどうかは、話して決めたらどうなんだ?"
 世界が語る言葉のひとつひとつは、どれを取っても目から鱗。声をかけた猫の兄妹は猫目をまぁるく見開くばかりで、あっという間に彼の話の虜になった。
「ナァン?」
――さぁ、俺の事は語ったぞ? 次はお前達の番だ。
「にゃあ! にゃ、にゃーっ!」
 ついて来いと誘われるがままに、世界は一歩踏み出した。
 普段は知る事のできない、猫達の楽しい生活へ――。

(おぉ……! これが、猫になった私の姿!)
 化粧台の鏡の前で『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)が右へ左へうろうろするたび、白い毛並みの間からコバルトブルーの首輪が覗く。その上に散りばめられた”ノースポール”の花飾りは、本当にそこで咲いているような華やかさを帯びていた。
 大切に育てられた家猫と言えば誰もが納得してしまうような、愛らしい大人猫。それが今の彼女の姿だ。
(全身がふわふわで、手足の肉球がぷにぷにしてます!
 尻尾は元から尾羽がありましたが、猫の尻尾はこんなにも動くのですね。不思議です!)
 ハーモニアとして鳥の姿で過ごす日々も楽しいけれど、猫の姿で好きに過ごすだけのお仕事が存在するにゃんて!
 尾をゆらぁと緩やかに揺らし、満足がいくと畳の上へと飛び降りる。
(とりあえず体を動かしまくりたいですねっ。こんな機会は滅多にないでしょうし、
 エネルギー使い切るくらいの気持ちで臨みます!)
 すると彼女の決意を知ってか知らずか、目の前をモーター音を立てて大きな玩具が通り過ぎる。
 屋敷の中では猫らしさを体感できるよう、いろんな猫用品が設置されていた。キャットツリーに猫用ベッド。いろんな味のキャットフード――。
 どれも境界案内人が遊ぶ気満々で用意したものだったが、その中でもこいつは特別だ。
 円盤状の洗練されたフォルムと、中央から生える猫釣り竿。床掃除までこなしてしまう家電とペット用品のハイブリット。練達の新商品『お掃除ロボット ルンパ君』!
「みゃ~~っ! にゃあ、にゃんにゃ!」
 てしっ。
 まずはジャブからと言わんばかりに、目の前で埃を吸うルンパ君へ、彼女は猫パンチを繰り出した。
 チリン!
(――!?)
 まるでセンサーがあるかのように、躱す掃除ロボ。釣り糸の先の大きな鈴が、誘うように音を立てた。狐につままれたような顔でぽかーんと見ていた白猫は、すぐその眼を輝かせる。
(面白い! 捕まえたい!)
 追い掛け回して部屋の隅へと誘導し、最後はお尻を持ち上げてから狙いをつけて飛び掛かる!
 ルンパ君の縁にのっかるのは、ぴんくいろのやぁらかい肉きゅうだ。
 前足で乗りかかられ本体の動きが鈍っても、鈴はリンリン音を鳴らして跳ねまわる。
「みゃああ!」
 ぱんち! ぱんち!
 きゃーーっち! ……できない!
(猫の手で物を掴むのって難しいですね……)
 ひとしきり玩具あそびを堪能した後に、ノースポールは同行者達を思い出す。
 猫になれずに寂しがっていた、境界案内人は何してるだろう?
 乱れた毛並みを顔を洗って整え、彼女は屋敷の奥へと戻っていく。

「まったく派手にやったもんだ」
 その頃、噂の主は屋敷の外でゴミを出していた。捨てているのは空になったキャットフードの袋達と、割れたお皿が入ったゴミ袋だ。悪戯した犯人のリナリナは、恐らくまだ台所で眠っているだろう。満腹でスヤスヤ眠る姿を見ると、どうにも叱れなくなってしまう。
 帰路につこうと踵を返した蒼矢の足元で、トラ縞2匹と白黒のブチ猫が通り過ぎる。
「おわっ、危ね! 踏むところだった」
「ナァゴ」
 気をつけろよとひと鳴きして、ブチ猫――世界は庭木をつたい、屋根の上へと消えていった。

 路地裏でこっそり魚をくれる魚屋の店主や、キャットミントの生える庭。
 猫達はいろんな場所に案内し、世界にほんの一握りの望郷と、自由な暮らしを教えてくれる。誰も彼もが人情あって、どこへ行っても許される。他人の家でもこの通り、ぬくぬく日向ぼっこが出来るのだ。
(毎日こんなダラダラ出来たらいいんだけどな……もういっそこのまま猫としてこの世界に居つきたいくらいだ)
「にゃーん?」
"世界、明日はどこに行く?"
 丸まってうとうとする世界に寄り添いながら、猫達が語りかけてくる。

 彼はただ静かに笑んで、ゆるりと尻尾を揺らすだけ――。

●微睡みの日だまり
「たでぇまー」
 ゴミ出しから帰ってきた蒼矢を出迎えたのは、綺麗な毛並みの白猫だった。
 口にくわえていたボールを床に置き、額でツンと前の方へ転がす。
「ノースポールか。遊んでくれるのかい?」
――じゃあ早速、いくぞ?
 ぽーんと放物線を描いたボールを追って、ノースポールは廊下をダッシュした。畳の部屋で蒼矢があぐらをかく頃には、てててと愛らしい足音を立てて、獲物をくわえて戻って来る。
 畳に落ちてバウンドしたり、アンダースローでころころ転がったり。投げられるたび軌道の変わるボールに、彼女はすっかりご機嫌だ。
「そら、次だ」
 しゅばばっ!
「ナイスキャッチ! ……でもこれ、なんか犬と遊んでるみたいだな」
「みゃあ、にゃーん!」
「なに、犬みたいな猫もいるって? はは。そりゃ面白い発想だ」
 お次はどんな変化球でノースポールを楽しませよう。蒼矢は座ったまま振りかぶり、そして――。
 膝の上に感じた重みに驚いた。寝場所を探していたシェルマだ。
「もしかして、触ってもいいのか?」
 問われようが鳴き声ひとつ返さずに、気まぐれな猫はそのままくるんと丸くなる。
 上からそっと掌を下ろすと、ふーかふかの柔らかい感触が温もりと共に蒼矢の手へと伝わった。
「みゃー」
 シェルマにつられてノースポールもまた、欠伸をしてうとうとしはじめる。
(この姿で元の世界に戻れたら、婚約者に甘えまくってみたいなぁ)
 微睡みの中、願った彼女の寝顔はとても幸せそうだった。

 猫も人もお屋敷も、優しい日の光の下で
 穏やかな時間に癒されて――。

成否

成功

状態異常

なし

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