シナリオ詳細
私の推しが尊いんだが
オープニング
●推しの顔があまりにもいい
「ウオオオオオオオオオアアアアアアアアッ!!!!!」
雄叫びが魔王城に響き渡った。
いかにも切羽詰まった野太い声であるが、別に勇者との決戦の最中だとかそういうシリアスな場面ではない。
待ちに待った最新刊に描かれた推しの顔があまりにも良かったのだ。
魔王コリドラスは、歴代魔王の中でも特に優秀な魔王である。勇者の討伐経験だってある。しかし、体中の細胞が瞬時に蒸発するが如き衝撃はいまだかつて受けたことがなかった。それほどまでに推しの顔はつよい。魔王特攻もってる聖剣よりもやばたんを感じる。
しかしながら、コリドラスも歴戦の魔王。ピンチの時ほど攻めの姿勢で乗り越えてきたのだ。
息を整えながらそーっと机の上に置いた推しのイラストの目線に合わせていく。
目が合った。
「あふん……」
魔王コリドラスの心臓は静かに鼓動を止めた。
推し(キミ)の視線の先に私がいて、私の視線の先に推し(キミ)がいるって素敵だね。ハッピーハッピー、ハッピーバースデー世界。世に幸福のあらんことを。
キラキラしたエフェクトを纏いながら、何もかも満足したような笑みを浮かべ今代の魔王は消滅した――蘇生呪文自動発動――かに見えたがギリギリ耐えた。
「あっぶね、また本編読む前に召されるところだったし。表紙にレオナルドたん持ってくるとか編集グッショブすぎんだけど魔王キラーすぎんよぉ。はぁー、君、私のキルマークいくつ持ってるか知ってる?ふふふ、両手で数えられなくなってからは数えてない」
表紙の推しにニチャア……とした微笑みを投げかけるコリドラス。千年の忠誠心も枯れ果てるような光景であるが、幸いながら魔王の私室には強力な結界が張られているためどれだけ奇行に及んだところで部下に知れることはない。
そもそも、魔王が人間の書物を嗜むどころか熱烈なファンであるなど知られてはならないのだ。ライトノベル一冊買うだけでもどれだけ労力を払ったかわからない。しかし、もはや新刊が出ているのに読まずにいるということは、選択肢になかった。
「あーやっぱ、パンストパンツァープロージットは最高だなぁ」
コリドラスは胸に読み終わったパンストパンツァープロージット(略称:ぱんつぁーぷ)の新刊を抱きしめながら呟いた。
酷いタイトルであるが名作なのだ。たくさんのキャラクターが織りなす群像劇で、枝葉の部分はコメディテイストなのに本筋はピリッとスパイスの効いたストーリーなのがたまらない。
どのキャラクターも気に入っているが、コリドラスがドハマりしているのは『レオナルド・ナートゥ・バルテルミー』だ。軽薄な性格ながらも高い実力と偶に見せる影のある表情がたまらないらしい。
「レオナルドたんの事語りてぇな……。いやでも魔族相手に語って「魔王様、そういう男性が好みなんです?」とか言われたら秒で殺さない自信ないな……」
椅子の背もたれに体重をかけながら足をプラプラさせ考える。
「いつも通りSNSに感想上げるのもいいけど、分かってる人と言葉で語りたいよね。マウス・トゥー・マウス、テーブルトークKANSOUウォー的な。人のぬくもりが大事。レオナルドたんをだれか暖めてあげてという私の気持ちは画面越しではつながらない。私というスタンドアロン端末に直接接続して妄想を啜ってほしいっていうかなんていうかさぁ!」
「そうだ。オフ会しよう」
●限界魔王のファミレスオフ会
「皆、オフ会に行かない?」
ポルックスは集まったイレギュラーズに微笑みかけた。
「なんだかね、オフ会で好きなことを語り合いたい魔王さんがいるんだって。
語ることは自由らしいけど、とにかく「自分の好きなこと」を語るのがルールといえばルールかな」
食べ物や飲み物は全部魔王さんがおごってくれるから楽しんでね、とポルックスは付け加える。
「好きなことって、聞くのも話すのも楽しいよね。
熱が入ってついつい変な言い回しになっちゃう事もあるけど……それだけ好きってことだもん!」
- 私の推しが尊いんだが完了
- NM名七志野言子
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年11月04日 22時30分
- 参加人数4/4人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●いやぁ、ぱんつぁーぷって面白いですよね!
「パンストパンツァープロージット、読ませて頂きました!」
賑わうファミレスの中で『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は声を上げた。本の虫である彼女に異世界の書物を読む機会を逃す手はない。
「興味深い世界(ラノベ)があるのですね。私にもレオナルド様のお話を聞かせていただけますでしょうか? 」
『白い稲妻』シエラ・バレスティ(p3p000604)は、むしろコリドラスの妄言に興味がある様子で机に身を乗り出す。
その横で『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)現在進行形でパンストパンツァープロージットを開き読み進めて……違う! 球猫(もっちりまんまるボディのにゃんこ)の描かれた挿絵を熱心に見つめているだけだ!
「お、推しについて語る…?
推し…好きな事…えっと…その、尊敬してる方の…事とか…」
『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)はドリンクバーの紅茶で掌を温めながらぽつりと呟き……。
「い、いえ! な、なんでも!!」
コリドラスの微笑ましそうな(効果音:ニチャア……)視線に気づき慌てて顔を横に振ったのだった。
●天帝編はドラマティックエモストリーム
「私の一推しは天帝決戦編での主人公とも言えるリューゲル・アークトゥルスでしょうか?」
最初に口火を切ったのはドラマだった。その手には初夏に発売された天帝編の最終巻がある。
清廉潔白であるはずの天帝で発覚する腐敗。そこから死者が復活するという事件を経て、存在が囁かれていた七業の一人が姿を現すという壮大なストーリー。しかし、それは多くの親子の絆と別れの物語も内包している。ドラマが挙げたリューゲルは正しくそれを体現したキャラクターだ。
「敵同士として剣を交え、リューゲルの身内への甘さを「教えたはずだ」と叱咤し、しかしここまでの成長を「強くなった」と激励しつつも、斬り捨て去るシリュース……」
ドラマが語る場面にぱんつぁーぷを読んだ面々は該当の場面に思いを馳せる。コリドラスに至っては、ヤバエモ……とか鳴き声を上げながら死にかけの虫みたいに震えていた。
「現れた巨悪を前にして、共に戦うことになる二人。この天帝決戦編は正しく『ドラマ』であったと思いました」
そう締めれば、天帝編の感想にも花が咲く。
死別以外ないと思ってたのにいざそうなったら辛いだとか、リューゲルの誕生に合わせての発刊は鬼畜だとか。
しかし、推し語りとは不思議なもので話は色々な場面に飛び火しながらも、最終的には「リューゲルは父の姿を胸に刻み、これからさらなる成長を遂げることでしょう」という事しか話していなかったりする。
●キャラ萌えができる人は沼の住民だってお母さんが言ってた
「私はジョージ=レオンハルトという人物の連れている球猫という生物がもう、なんというか凄い好きだな。」
みてくれ。とゲオルグが開いたページをのぞき込むと、筋骨隆々とした銀髪のイケオジに絡みつくまんまるボディのにゃんこのイラストがあった。否、まんまるボディというか、もう毛玉にちょこんとあんよがついてるだけなんじゃない? あら、この真ん丸なきらきらした可愛いのはなぁに? 宝石? まぁ、おめめなのぉ! かわいいわねぇ~!
「このやわらかまんまるフォルムでわがままふわもこモッチリマシュマロボディは反則だと思う。球猫のことを言い換えるなら、穢れなき天より舞い降りた無垢にして聖なる存在……。
そう、即ち天使!」
一点の曇りもない瞳であった。同席していた少女達が思わず「成程」と頷ずいてしまいそうになるような圧もあった。
「いや、実は私も球猫に似たにゃんたまというふわもこアニマルと生活しているわけだが、こうやって改めて見ると可愛さを思い知らされるな」
いそいそと座りなおしながら顔をほころばせるゲオルグ。頭の中ではきっと球猫とのらぶらぶな日々を描いているに違いない。
「球猫イラストで特にイチオシしたいのはやはりあれだろう」
ゲオルグは再びぱんつぁーぷをすごい勢いで捲る。これ絶対開くページを指が覚えてるやつだ。
「この挿絵を見てもらいたいのだが」
そこに描かれているのはジョージの腕に前足をのっけてる球猫だ。ちょうど読み手を見上げるようになる構図になっている。
「うっかり引っ掻いてしまわないようにという優しさで爪の仕舞われている生まれたての赤ちゃんの肌のようにぷにっぷにの肉球のついた、それはそれは可愛らしいお手手オンザ腕をしながらつぶらでまんまるなお目目で見つめてくる球猫の仕草の可愛いこと!
勿論、普通に見つめてくるだけでも可愛い! だが、この仕草が加わることによって可愛いポイントが爆発的に跳ね上がるのだ!」
強面のおじ様が少女たちに囲まれて猫萌えを力強く語っているヤベー空間であるがそれを突っ込む野暮な人間はここにはいない。優しい世界(ライブノベル)である。
●他人の恋は最高のエンタメ
Erstineはどことなく上の空であった。
推し、好きなこと、それを考えると一人の男の名が出てきて他の事を考えられなくなってしまうのだ。まして、その名を口にしようとすると震えてしまいそうなほど恥ずかしくなってしまうし、なにより他の仲間ほど上手く語れる自信もない。
「皆さんには皆さんの推し……があるのね。
私は……その、物とか事ではなくて……人、なのだけれど……」
たどたどしく告げる様子に、各々語っていたのを止めて皆がErstineへと向き直る。それだけで今のErstineの精神は爆発寸前まで乱され、白い肌に朱が差す。
「っ、物や事についても考えたのよ!
……でもね、その方以外思い浮かばなくて……それくらい尊敬してるの。そう、尊敬なの!」
『尊敬』。そう言い換えればErstineの心に少しばかりの安堵が生まれた。
「今思えば最初から尊敬していたと言うか。初めて見た時からオーラ? を感じてたかもしれないわ」
チリチリと胸を焦がす感情の中に『尊敬』も含まれている、間違って居ない。居ないが。
「ど、どうしてそんな……笑ってるの?」
「だって、それって恋だよぉ」
そんな顔で尊敬してるだけの人を話したりしないよ、とからかうように告げるコリドラス。
「恋?そんなわけないわ……だって経験がないもの。
尊敬してるけれど……そんな感情……。そんな感情……あの方に向けられるわけないわ……」
(だって私は……私は……)
愛される資格なんてない。思いを声に出さないのには慣れてしまった。
尊敬であれば一方的でも成り立つ、もし恋なら。それを失ってしまったら、私は。
「ありゃ、なんかごめんね。うんうん、やっぱ私の勘違いだったかも」
「……ハッ!だ、だからね、尊敬なの、尊敬なのよ、ええ。暗くなっちゃってごめんなさいね?」
乙女はまだ安穏の中に居たいのだ。
●推しは宗教
「私の推し……それはハムスター」
シエラがそう告げた瞬間、テーブルは「なんて?」って雰囲気に包まれた。なまじギフトで快活な人格から美しく落ち着いた姿に変化しているので落差がヤバイ。
「ハムスター様は神なんです。
何故なら可愛いから。
可愛いって事はそれだけで愛ではありませんか?
そこにいるだけで幸せを生む。
可愛い人じゃ駄目なのかって?
駄目ですよ、人は欲深くて足元を見る。純粋なハムスターで無ければ駄目なんです」
ギフトを使用したシエラは神々しいまでに美しく、清らかに落ち着いて、それ故に説得力があった。シエラの頭の上でぴぃーって鳴いてるハムスターにも後光がさして見えるレベルの神秘性である。頭がやられてに入信しますと口走りかけたコリドラスの口を隣に座っていたドラマの手がそっと止めた。
「それは置いておいて!」
ウィンク一つでギフトを解除するとシエラはいつもの調子に戻ってテーブルに身を乗り出す。
「私は特にひたむきな明るさに惹かれますね! どんな逆境でもワクワクして来るような雰囲気のキャラ!
普段も飄々としていて自然体な感じの。私もそういうキャラを目指しています!」
そこまでテンション高く語り倒したシエラだったが、そっと銀の首輪のプレートを撫でて「まあ」と意見を翻す。
「やっぱりキャラも中身です。気配り出来る子は全世界共通でモテます。
特にツンデレで弄られて反応の良い人が気配り出来ると魅力的ですよね!」
なるほど一理ある。
「それって私の恋人なんですけどー、わはー!!」
その直後、推しの語りじゃなくってノロケやんけ!!!とキレたコリドラスがテーブルをひっくり返した。
●家に帰るまでがオフ会
「じゃあねー!またねー!」
最後がしっちゃかめっちゃかになったものの、大いに満足したコリドラスが手を振って帰っていく。また思い通りに推しを語れない日常に帰るのだろうが、今日の事はいいガス抜きになった様子だ。
「ふぅ……このような、本について語るコトなんて初めてでした。中々、面白い経験でしたね」
本を読むことはあっても感想を語り合う事のなかったドラマは今日の体験を思い出していた。
(そういえば、魔王さんがとても熱く語っていらっしゃった彼って……)
ふと思い出したのは、登場人物ではないあの人の名前。そういえば、ぱんつぁーぷのキャラクターとは違い彼自身の事はよく知らない気がする。
「帰ってお話しする機会があったら、聞いてみたりしましょうか」
頭の中で彼が言いそうな言葉を想像して小さく笑うと、非日常(ライブノベル)から日常(混沌)へと帰還した。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
やったー!お初にお目にかかります!七志野言子です!
はじめてのライブノベルでドキドキしてます!よろしくおねがいします!
■成功条件
推し(好きなこと)を語って気持ちよくなる。
■世界観
魔法も魔王も勇者もいる現代日本の様な世界です。
■登場NPC
魔王コリドラス
ちょっぴりナマズ顔の女の子
人間の街で流行ってるラノベを馬鹿にするために読んだらドハマりした
どうしても推しを語りたいたいのでSNSを利用してこっそりオフ会を開く
ぱんつぁーぷの最押しは「レオナルド・ナートゥ・バルテルミー」
■用語
パンストパンツァープロージット
略称ぱんつぁーぷ。異世界で流行っているラノベ
たくさんのキャラクターによる群像劇で、主人公と言えるキャラクターが読者によって違うのが魅力
もしかしたら無辜なる混沌の人物に似たキャラクターも存在するかも……?
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