PandoraPartyProject

シナリオ詳細

小さな勇者と魅惑の銀色

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●そこ往く者は
「おぉあ?」
 ゴトゴトと街道を往く荷馬車。年老いた御者はしかし手綱を緩める事も無く、街道脇の草原をスルスルと進む影を見た。
「あーりゃスライムか。はぁー、また湧いて出たんだねぇー」
 春も近いかねぇ、などと風物詩を見るかのように言うが、御者が見つけたのはスライム、つまりはモンスターだ。
 人に仇為すはずのそれをほのぼのと見送りながら荷馬車は往く。
 まあ、街に着いたらどこぞに報告すりゃ―いいかねぇー、と呟きながら。


●赤髪と青髪
「皆さん! 依頼な」
「依頼だぞ!!!」
 ……遮られた。
 何とも言えない笑顔と驚愕のブレンドされた表情を浮かべた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が傍らに立つ少女を見る。
 火の様に紅い髪を靡かせた少女は、鼻息荒く目を輝かせている。
「近隣の洞窟にスラ」
「スライムが出たんだ!!!」
 また遮られた。
 ユリーカの目尻にジワリと涙が浮かぶ。
「依ら」
「依頼の内容はな! スライム退治だ! 簡単だろ!!?」
「セリフとらないで欲しいのです!」
「数はとにかくいっぱいだ! 殲滅だ! 片っ端からやっつけるぞ!!!」
「セリフとらないで欲しいのですう!!」
 イレギュラーズは困惑して黙り込む。
 今にも泣き出しそうなユリーカに身体を揺さぶられながらもはきはきと元気よく話す謎の少女。取り敢えずはその少女が何者なのか、そこから聞く必要が有りそうだ。
「依頼人なのです」
「依頼人のベリィ・L・ブレイブ! 12歳だ! よろしくな!!!」
 ぶすっとした顔で紹介するユリーカに、紹介された赤髪の少女が笑う。
 振り撒かれた満点の笑顔にイレギュラーズの何人かが笑い返す。
 ずいぶんとまた幼い依頼人もいたもんだと、呆れたり喜んだり憂いたりと反応はまちまちだ。
 そんなイレギュラーズのリアクションに欠片も動じず、依頼人のベリィはぱぁん!と勢いよく依頼書を叩き付ける。
「良いか! 良く聞いてくれ! 依頼の目的は二つ! ある洞窟に湧くスライムの殲滅! そして! その洞窟に稀に湧く『銀色のスライム』の討伐だ!!!」
「お掃除クエストなのです。スライムは触手も溶解液も顔面張り付きからの窒息攻撃もしてこない、体当たりオンリーの下級スライムなのです」
「そう! メチャクチャ弱いぞ! ヒノキの棒で殴れば子供でも倒せる!!!」
 つまりお前でも倒せるのか、という弄りにも「そうだ!!!」と必要以上に声を張り上げて返すベリィ。
「ちなみに銀色のスライムは突然変異種でな! 普通の固体よりさらに弱っちいぞ!!!」
「弱いのかよ」
「ああ弱い!!! だが速い!!! 回避! 反応! 機動力! 全てが君達を圧倒していると言っていいだろう!!!」
「あの、それってメタルスラ」
「ちなみに!!! こいつは倒すと凝固する! 金属塊へと変貌するんだ!!!」
 ベリィは拳を振り上げて「面白いだろう!」と騒ぎ出す。
 ユリーカは「そっすねなのです」などと雑に返しながらミルクをあおってぶはー。
 イレギュラーズも段々と慣れて来た。
「ちなみに! この金属塊を売っ払った金から君達への報酬が捻出される! ので! 銀色が一体も倒せなかった場合は依頼失敗とさせて貰うぞ!!!」
「……はあ!?」
 訂正。
 慣れるにはもうちょっと掛かりそう。

 いつになく騒がしいギルド・ローレットの中、依頼の説明が終わったのは、それから実に二時間後の話であった――



GMコメント

お掃除依頼です。
コミカル調です。
以下詳細です。

●依頼主について
名前:ベリィ・リトル・ブレイブ
年齢:12
性別:女性
種族:カオスシード
備考:勇者に憧れる女の子。イレギュラーズの活躍を聞き、自分も世界を救う冒険がしたいと奔走している炎の弾丸娘。燃える様な真っ赤な長髪がトレードマーク。

●スライム
 今回の目標となるスライムは球体に近い、液状と言うよりゼリー状の様なモンスターです。
 攻撃手段は体当たりのみ。ごはんは水と光と魔力とか。
 ほとんど害は有りませんが、増え過ぎると発生減の洞窟から出て来て悪さをします。

●銀色のスライム
 反応100、回避100、機動力30を誇るHP1のスライムです。
 必殺技は助走を付けて体当たり。機動力×10の追加物理ダメージを誇ります。
 種族スキル(?)『スライムボディー』により全ての攻撃に【非殺】が付与されています。
 柔らかさは他のスライムと同じ。ぽよんぽよんと弾み、ぱいーんっと跳躍します。
 倒すと柔らかさが消え失せ、銀色の金属塊に成り果てます。
 取り逃がすと洞窟内を逃げ回りますが、何度も逃がし過ぎると洞窟からも逃げ出し、依頼が失敗に終わります。

●洞窟
 定期的にスライムが湧く小さな洞窟です。
 ごくまれに銀色のスライムが湧きます。このスライムから取れる金属塊目当てに、洞窟は破壊されずに放置されています。
 洞窟は道や天井こそ広くなっているものの全体としては狭く、また踏破されているので特に迷うこともなく歩き回れます。普段スライムが這い回っているせいか、足場も滑らかで歩き易いです。

●依頼詳細
目標1・洞窟内のスライムの殲滅
目標2・銀色のスライムを討伐
備考:ベリィが同行します。勇者を目指す駆け出し冒険者のベリィは、同じく駆け出しのイレギュラーズを見て勉強したいと思っており、今回の依頼もなるべく経験の浅いイレギュラーズにお願いしたいと言ってきました。放っておいても好き勝手動き回ってはヒノキの棒でスライムを叩くだけで死んだり邪魔したりはしません。

  • 小さな勇者と魅惑の銀色Lv:1以下完了
  • GM名天逆神(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月08日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マッド・ラインナー(p3p000615)
ガンマン
ロウサ・ロージングレイヴ(p3p000929)
狼探しは誰が為に
ランディス・キャトス(p3p001767)
風雲猫
ザッハニーア・ザウト(p3p002054)
UNKNOWN
アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)
傍らへ共に
ノーラ(p3p002582)
方向音痴
気象衛星 ひまわり 30XX(p3p002661)
お天気システム
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー

リプレイ

●いざ、はじめてのどうくつへ
「あそこだぞ!」
 ぶんぶんとヒノキの棒を振り回しながら依頼人兼案内人兼同行人のベリィ・リトル・ブレイブが騒ぐ。彼女が示した先にはゆるゆると地下に潜っていくタイプの小さな洞窟があった。
「……やっと着いたか」
 安堵と疲労が混ざった溜息を吐きつつ『UNKNOWN』ザッハニーア・ザウト(p3p002054) が言う。賑やかなのは好まないザッハニーアにとって、絶え間無く話し続けるベリィとの道中は過酷そのものだった。もう帰りたい。
 それは『お天気システム』気象衛星 ひまわり 30XX(p3p002661)も似たようなもので、愛らしい笑顔に疲労と苛立ちの影が差している。彼女の場合は洞窟に入ると衛星からの受信が悪くなるような気がするとかで、しきりにめんどくさいのです!とぼやいている。衛星が混沌の空に飛んでいるのかは誰も知らないが、ひまわりがそう言うのならそうなのだろう。
「この依頼人のテンション、ひまわりにはしんどいのです。一発だけなら誤射にならないですかね!」
 あとわりと怖い事も呟いてる。
「くっそー買わせられなかった!」
 逆に到着を悔しがるのは『狼探しは誰が為に』ロウサ・ロージングレイヴ(p3p000929)だ。ベリィに言葉巧みに売りつけようとしていた「勇者になれるセット」は他の仲間の妨害にあい、ついでにベリィに持ち合わせがないとのことで、お買い上げとはならなかったらしい。どさくさに紛れて何してんだ。
「初依頼っ、レアなスライム! 倒したら金属になるって、どんなだろ。楽しみだな!」
「初依頼がスライム退治か~。ファンタジー世界で良くありそうだね~」
「ゲーム序盤のレベル上げの定番ですね!  新米な私達にはぴったりのお仕事なのです!」
 むしろここからだと張り切りだすのは『風雲猫』ランディス・キャトス(p3p001767)と『年中腹ペコ少女』アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)と『二刀流バニー』美音部 絵里(p3p004291)の三人。ウォーカーであるアイリスと絵里の表現がベリィには新鮮で、ランディスと一緒にゲームってなんだ、ファンタジーってなんだー!と騒いでいる。
「気楽に行こうとは思っていたが」
 これほどとは、と、騒がしい仲間達を眺めながら『ガンマン』マッド・ラインナー(p3p000615)が肩をすくめる。やれやれ。ついでに迷子になってる子も連れてこようと、周囲を見渡す。
 どうやったらガイド付きで迷子になれるのか、やや遅れて『方向音痴』ノーラ(p3p002582)がやってくる。抱いてる白猫のファミリア―に「迷子になったら連れ戻してって言ったのに―」とか言っているが、抱かれたままではどうしようもないと白猫もお手上げにゃん。
「さーて、力み過ぎない程度に行くとしよう」
 ようやくそろったイレギュラーズを見渡しながらマッドが言う。
「スライムいっぱい倒して、銀色スライムも倒すぞー!」
 おー!
 ノーラの声に元気良く返すベリィ達。
 一部は疲労の色を濃くしながらも、一行は洞窟へと歩を進めるのであった。


●幕間
「良いですか、ドシロートの視聴者様」
「うん!」
「芸能界、じゃなかった冒険者はしっかり先輩の言うことを聞かないといけないのですよ」
「うん!」
「さもないと路地裏でひっそり冷たくなるので」
「うんうん!」
「ひまわりは詳し」
「うんうんうん!」
「スライムを駆」
「うんうんうんうーーーん!!!」
 ふわわーい、ぜんっぜん聞いてないのです!と、ひまわりがキレた。
 にっこにっこしながら相槌を打っていたベリィは「わー!」などと楽しげだが、つまり余計なことすんなと釘を刺されている最中である。
「英雄譚のお気に入りの台詞、ひと~つ! 『勇者は共に在る仲間あればこそ!』  独りじゃ届かない物でも、連携次第で軽々飛び越えられるっ!」
「おおー! そうだな! 飛び越えられるぞ!」
 ランディスの遠回しの「連携してね」という説得も分かっているのかいないのか、ランディスお気に入りの本は嬉しそうに聞いていた。
「勇者は体力・腕力だけではなく、忍耐力と集中力も重要だ」
「任せろー! 勇者に弱点なんかないからな! 私も鍛えてるぞ!」
「ベリィちゃんは色んな勉強がしたいんですよね? じゃあ、色んな人の傍でその戦い方を見ると良いと思いますよ」
「だよな! すぐそばで見させてもらうぞっ!」
 ザッハニーアの忠告と絵里の助言にも言われずともと応じるベリィ。返事は元気にハキハキしているのだが、どうにも不安はぬぐえない。
「勇者に憧れてるベリィちゃんは可愛いね〜。怪我しないようにだよ〜」
「うんっ!」
 最終的に通じたかどうかが分からないまま、アイリスの言葉で締めた。
 もうこうなっては実際に始めて見るしかないだろう。
「やれやれ……」
 苦笑しながら、マッドが先を歩いていく。
 洞窟は情報通りに歩きやすく、アイリスが持ち込んだランプで周囲も問題無く見渡せる。ざっと見渡すだけでもスライムらしき蠢く影がたくさんみえた。
「少しばかり骨が折れそうだ」
「大丈夫だ! 私がついてる!!」
 どーんっとぺったんこな胸を張るベリィに、いやアンタの面倒見るのも含めての話だぞ、とは言わずに乾いた笑いを漏らすマッドは大人である。
「銀色が出た時は打ち合わせ通りに」
「それ以外のスライム出たら、近くにいるのからどんどん倒して行くぞ!」
「おおー!!」
 わーっと走っていくノーラとベリィ、一歩遅れてランディスも付いて行き、目についたスライムを端からぽこぽこ叩いき始めたのだった。

●スライム天国
 ぱい~ん☆
 小気味良い音を立てて飛んでいくスライム。
 壁に叩き付けられたそれはさながら水風船のようにパシャッ!と破裂する。
「弱いのをどんどん倒してくのって楽しいよねー。僕にやられる弱さを呪えーって! へへっ! へへへへへ!」
「狩るぜー。めっちゃスライム狩るぜー。メタスラちゃんも倒せば経験値がっぽりですよ。くふふふ……」
 悦に入って剣を振り回すロウサと絵里。目がヤバい。
 その後ろをついていくひまわりは二人の影で地味に手を抜いている。
「僕でも叩けば倒せるって凄いなー」
 こっちも楽し気にスライムをぽこぽこしているノーラ。ときおりふらりと居なくなりそうなのをファミリア―の必死なブロックで阻止されている。たまにお菓子を取り出しては配ったり食べたりしているが、そんな事をしていても特には危険ではないらしい。
「 得物に持っていかれねーように、しっかり持つ! 腰で振るう! 突っ込んで来たら突く! これぞ親父直伝の技だ!!」
「おう! こうか! こうだな! このやらぁーーー!!」
「すぴーどあんどぱわー!」
「ぴーすあんどらばー!」
 ランディスはベリィに父親譲りの剣術を教え込んでいた。さすがに両手剣とヒノキの棒では勝手が違いすぎるが、ベリィは楽しそうに根性でついていっている。
「そういえばスライムって美味しいのかな〜?」
 皆の快進撃(?)の後に続きながらアイリスが言うと、ベリィからは「無味無臭! でもマズい!」なんて言葉が返ってくる。くわしく聞くと、どうも『ぬるぬるした常温の水』といった感じらしい。
 物は試しと手のひらからスライムを捕食したアイリスがすごく微妙な顔をした。ちょっと積極的に食べたくはないらしい。
「にしても弱いなあ」
 ラッドも周囲のスライムを攻撃しながら呟く。
 数は異常に多いが、イレギュラーズなら蹴っ飛ばすだけでも倒せそうだ。
 ぽこーん、ぱこーん、ぽんよぽんよ、などと平和な攻撃音が耳に心地よい。
 ベリィも離れ過ぎない程度にうろちょろしている。というか、イレギュラーズと比べてスライム一体にかかる時間が長いせいか、そんなに離れて行ったりは出来ないようだ。
 ときおり誰も攻撃していないはずのスライムが、ぱすっ、バアン!と弾けるのは、身を隠したザッハニーアが暗殺しているからだろう。

 作業は順調だ。
 ほどなくスライムは掃討される。
 そんなおり、
 アイリスの掲げたランプの光を、遠くの何かが反射した。


●一筋の光
 剣技の中に、一閃と呼ばれるものが有る。
 これは剣を振るうのがあまりにも速すぎて刀身が反射した光しか見えない事に由来すると言う。
 一閃一条、まさに光の軌跡、見た時には斬られている。
 奥義に値する剣技にこそふさわしいその名を、まさかスライムが体現しようとは。

「ぐっはぁ!!!!」
 何かが瞬いた、と思った瞬間、ベリィがクソデカ悲鳴を上げてぶっ飛んでった。
 ええ!?と思いその姿を追うと滑らかな洞窟の床を転がり滑り壁に激突して目を回している。
「なっ、なんだ? 何が起きた?」
「銀色のスライムです! ……たぶん!」
 混乱するマッドに絵里が言うも自信がない。見えたのはキラッと光った何かだけだ。
「あ! いた! たぶんあれだ!」
「囲みます~」
「そいじゃあ僕が引き付けておくよ!」
 20mほど先にキラッと光るぷるぷるを見付け、急に慎重に動き出すイレギュラーズ。
 出口方面を固めるように、ぐるりと囲んだ後は、合図で一斉に叩く。シンプルだが有効、なはず。
 囲み終わるまでは一歩前に出たロウサが注意を引く手筈だ。
「♪~♪~~♪~~~」
 ロウサはスライム風のウィッグ(なんかぷるっとした半透明なの。たまごの白身っぽい)を被り、口笛を洞窟内に反響させながら少しずつ銀色に近付いていく。
 そして、
「私はスライムすら。人間がいっぱい来て大変すらー!」
 銀色に向かって明らかな人語で助けを求めた。
 この完璧な演技で油断させたところに【奇襲攻撃】! 完璧すぎるぜ!
 と思っていたロウサが逆に奇襲攻撃の一閃(体当たり)を受け、声も出せずにぶっ飛んだ。
 ごろんごろんずべーっとベリィの横まで転がって来たロウサが「な、なぜだぁ」と呻く。なぜ、彼女は通じると思ったのだろうか。
「今だ!」
 それはそれとして、ロウサを弾き飛ばした直後の銀色スライムを目掛け、マッドの号令でイレギュラーズが一斉に攻撃を仕掛ける。
 ものっすごいぷるんぷるんしながら銀色が動き回り、なんかよく分からんが攻撃がかわされているのだけは分かった。
「まったく当たらん」
「ここまで速いとは~」
「ブロックブロック! 逃がさなければいつか当たる!」
「ひゃあ!?」
 しゅばばばばっ!と神回避を続ける銀色を囲むと、今度は真上に跳ね、天井に跳ね返って包囲網を抜け出して行った。
「意外に手強い……!」
「なるほど、確かにすばしっこいな、これは骨が折れる」
「めんどくさいのです!」
 銀色が弾むたびに包囲は崩れ、その都度イレギュラーズが右往左往する。
 ブロックを試みる者は勿論、射程外から出て行った銀色を追い駆けねばならないのは遠距離攻撃担当も一緒だ。
 そもそもの機動力が違いすぎて追い付くのも大変だった。
「まずいッ!」
 そんなこんなでバタバタしている間に、ついに出口方面へと抜けられそうになる。
 が、ザッハニーアが投げたサプレッサーが甲高い音を立て、驚いた銀色が進行方向を変えた。
「ナイス、ザッハニーア!」
 仲間から称賛が飛ぶ。
 しかし直後に打撃音と共に洞窟奥からザッハニーアが転がって来た。
「ザッハニーアぁぁあああ!!?」
「そんなとこにいたのですか」
 闇に紛れていたザッハニーアがやられたのはサプレッサーを投げたせいか、そもそも目の無いスライム的に隠れてても関係無かったのか。
 とかく、三人目の犠牲者が出てしまった。
「死んでないけどな!」
 ベリィが叫ぶ。
 その後ろにはロウサも居る。しばらくするとザッハニーアも立ち上がった。
 スライムボディーのおかげで致命傷にはならないがとにかくものすごく痛い。ロウサとザッハニーアの底をついたローテンションを見て、他のイレギュラーズは息を呑むのだった。
「まだチャンスはあります。もう一度初めからやりましょう」
「他のスライム倒しながらまた探すぞー!」
「おおー!!!」
 絵里とノーラが気合を入れ直すように言って、皆が頷き、一人うるさい。
「早速見つけた。もう細かい事は言わないぞ。囲んで叩く、それだけだ」
 今だ今だと連呼し続けたマッドにも疲労が見え始めていた。作戦も繰り返すうちに連携がスムーズになってきている。今度こそ、今度こそと思いながら、イレギュラーズは再度銀色に挑む。
「囲め囲めぇ!」
「今だ! そこだ、叩け!」
「………!」
「くそ、このっ!」
「逃がさないよ~」
「どっかーん!」
「ベリィ! 跳躍したとこ狙って!」
「今跳躍したのか!? どこいった!!?」
「ワンチャン狙うのです!」
「今度こそ狩るぜー!」
 わあわあ騒ぎながら囲んで叩く! 叩く! 叩きまくる!
 パッと見リンチでしかないが、銀色は徹底的に飛んで避けて躱して逃げる。
 時々とんでもない反撃で囲んでいた仲間が吹っ飛んでいくの尻目に、実はこいつとんでもない強敵なんじゃないかと思い始めた頃、遂に運がイレギュラーズに味方した。
 絵里の剣の腹が逃げようとした銀色にぶつかり、喰い止めたのだ。
 ぽてんっとイレギュラーズの囲いの中に戻ってくる銀色。一瞬の間を置いて、全員が一気に攻撃を仕掛けた。が、

 ガキィィィィィィィイン!!!

「ッ!?」
「かたっ!」
 全員の攻撃があっさりと跳ね返されたのだ。
「こ、これは……!」
「間違いない、凝固だ」
「別名死後硬直」
「つまり?」
「……しっ、死んでる……!」
 あの程度で死ぬのか……。
 もはや討伐と言うより事故死に近い結末にぐったりする。
「とにかく、倒せたな」
「あとはスライムを排除するだけ~」
「その前にお菓子食べよう」
 ふぃーっと息をつくイレギュラーズ。
 ニコニコと銀色の遺体を回収するベリィは、そんな彼らに言うのだ。
「その前に、向こうにもう一体いるからがんばろうな!!!」
「――……」
 彼方に煌めく魅惑の銀色。
 お金にも経験にもなるお宝的モンスターであるそれをなぜあまり積極的に退治する人がいないのか。
 その理由を噛み締めながら、イレギュラーズはのろのろと動き出したのだった。


●また会う日には
「外なのです! バリ3最高なのです!」
 洞窟からふらふらと出て来たひまわりが歓喜の声を上げる。
 続いてぞろぞろふらふらと出て来た面々も安堵の表情で一息ついた。
 ザッハニーアに至ってはそのままふらふらと立ち去ってしまった。終始一歩離れて行動していた不思議なイレギュラーだが、それでもしっかり連携し仕事をこなしたのは流石である。ベリィの騒々しさに耐えきったのも含めて。
「しかしこんだけ面倒な敵、いつもはどうやって倒してるんだ?」
 ふと、ランディスがベリィに聞いてみる。
 ベリィはランディスにせがまれていた銀色の破片を渡しながら「うーん」と首を傾げつつ答える。
「聞いた話だと、まず入り口に釘とか画鋲を撒いといて! ハエ叩きとか布団叩きとかスピードと攻撃範囲を兼ね揃えた武器を使う! 逃げる奴には小石を集めてぶちまけるとか何とか!」
「………そんなんで良いの?」
「ああ! 画鋲踏んだら死ぬし! ハエ叩きでべしってされても死ぬし! 小石がぶつかっても死ぬからな!」
 元気に言い放つベリィ。反対に、疲労の色が濃くなるイレギュラーズ。
 そんな面々を見て、ベリィは一層眩しい笑顔を見せる。
「私はさ、君達と仕事できて良かったよ!」
 言いながら、ランディスや絵里に教わった戦い方や皆の立ち回りの真似っ子を披露する。
 そういえば、この依頼にはそんな側面があったなと思えば、真正面から挑んだのは正解だったのだろう。
「ベリィちゃんは怪我してない~?」
「ああ! おかげさまでな! 内臓破裂したかと思ったけどそんなことなかったぞ!」
 つられて笑顔になるアイリスにも人懐っこい笑みを返す。
「勉強になりましたか? 私の方が一歳お姉さんですから、もっと頼ってもいいんですよ? ふふーん」
「ホントか!? ならまたよろしくな! 今度はもっとわくわくするような仕事を探すぞ!」
「僕の用意したぬいぐるみも可愛い子がいるよ作戦も効かなかったなー」
「残念だったなー! 自然発生タイプだからオスもメスもないし、興味無かったのかもなー!」
「だからそういうの先に言って!?」
 お姉さんぶる絵里にも素直に喜び、納得いかなそうなロウサに激白して突っ込まれる。
 騒がしい小さな依頼人は本当に心の底から満足しているようだ。
 そんな様子を見て、マッドも小さく笑う。苦労した甲斐はあったかな、と。
「そうだ、ベリィ」
 ふと、帰り支度を整えたランディスがベリィを呼び止める。
 ここで解散、報酬は後日。だから別れる前にと、ランディスはベリィに向かって親指を突き立てた。
「オレも鍛練続けてたらイレギュラーズになれたからさっ、ベリィもいつかなれたら、一緒に冒険しようぜっ!」
 にっと笑うランディス。
 その笑顔に、ベリィも溢れんばかりの笑顔で「おう!!!」と返すのだった。

 そしてその直後にベリィが消え失せ、空中庭園に招かれマジで特異運命座標になったのだが、
 ――それはまだ、これからのお話である。




成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れ様でした!

 最後まで騒がしい依頼人との依頼はいかがでしたでしょうか。
 ぱららぱっぱっぱー♪
 と言うと雰囲気出るでしょうか。

 「これからのお話」はベリィに限らず、皆様方全員に言える事だと思います。
 すでに十分魅力的な皆様が今後どんな活躍を紡いでいくのか、陰ながら応援させて頂きます。

 それでは、ご依頼参加有難うございました。

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