PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黙示の骨笛

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 十月の午後十五時。蒸気機関車があげる甲高い悲鳴を背に考古学者のロンサム・ニエットはフォールメイ駅から飛び出した。
 目についた二輪馬車の昇降台に駆けのぼり、睨みつけるように御者へと銀貨を押しつける。
「オクトーバレイ七十一番街、教会まで」
 黒い帽子を目深にかぶった御者は承諾の代わりに無言で馬に鞭を与えた。

 街は収穫祭特有の香ばしい空気で満ちていた。
 並ぶプラタナスの街路樹は赤と黄色に葉を染め、その下には屋台の天套が鮮やかな色合いを並べている。
 焼き牡蠣が吐き出す磯の煙と客引きの声。電気飴のキャラキャラとした電飾の下には子供の歓声。流れの民が織る手風琴の物悲しい調べが錬金術のように銅貨へと化けていく。

 街路の賑やかさとは反対にニエット氏は憔悴した顔で馬車に揺られていた。
 草臥れ、雨染みのついた革の旅行鞄の留め具を外し、軋む蝶番が壊れぬように蓋を開ける。
 鞄の中には滑らかな象牙色の小さな骨笛が収められていた。こんな小さな存在に計り知れぬほどの考古学的価値があると誰が信じる?
 ニエット氏は溜息を吐く。
 その上、こんな小さな存在が世界を壊すと誰が本気にする?
 この小さな骨笛が創世神話に登場する聖遺物「世界の終焉を告げる喇叭」であると信じる者などこの世界にはいない。生まれた時からモノの名を視ることが出来る、預言者じみた能力を持った貧乏考古学者すら目を疑ったのだから。

 オブザーバーとして参加した王家墓所の調査で封印が解かれた状態の「それ」を見た時。ニエット氏は自身のしでかした事の重大さに血の気が引いた。
 再度封印を試みるべく、昨晩、骨笛の模造品を置いて盗み出した。今頃、現場は大騒ぎになっているだろう。特に目を金の色に変えていた日雇い調査員などは先を越されたと歯ぎしりしているかもしれない。

 馬車は七十一番街に入ると人気の無い教会の前で緩やかに停まる。
 元は「誕生の伽藍」と呼ばれていた聖地であったが、今は廃墟も同然だ。市の薄い管理費とスズメの涙ばかりの寄付金によって運営されている。
 神話通りであるなら、ここの聖廟で再び骨笛を封印できる。
 ニエット氏は馬車から降りると、ゆっくりとその場に膝をついた。その顔は驚愕で彩られている。ツイードのジャケットに触れた手は血で染まっていた。
 背後の御者が手にした回転式拳銃から一筋の白煙が棚引いている。
「教授、先にあんたが笛を盗んでくれて助かったよ」
 喇叭は終焉を呼び覚ます。発掘現場で何度か聞いた声であると、ニエット氏は白む意識の中で思い至った。
「このまま死体を隠せば、誰も俺が笛を盗んだとは思わないだろう」
 噛み煙草で汚れた歯が三日月を描く。
 時空が歪み、異界と繋がり始める。冬至の夕暮れは終焉と僅かな希望を齎そうとしていた。


「よく言うでしょ。季節の変わり目にはお化けが出るって」
 いや、言わないかとカストルは自分の言葉に首を振った。
「間の悪い強盗がいてね。このままでは、試奏で世界が滅びてしまいそうなんだ。物騒な喇叭を封印してきてよ。早めに終わったら収穫祭も楽しめるしさ」
 お買い物のお駄賃でお菓子買ってもいいよ、くらいの軽さで。カストルは世界の救済者にいってらっしゃいと手を振った。

NMコメント

 こんにちは、駒米と申します。
 強盗から骨笛を取り戻して、世界崩壊を回避して下さい。

・目標
 強盗から「世界の終焉を告げる喇叭」を奪取し、「誕生の伽藍」に封印する。
 古物泥棒は拳銃を所持しています。弱いですが、人質を取る可能性があります。
 ニエット氏はまだ生きています。彼の生存を目標に含む場合は、その旨をプレイングに記載してください。

・世界観
 二十世紀前半のロンドン、によく似たどこか。

  • 黙示の骨笛完了
  • NM名駒米
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月03日 22時40分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
敷島・戒機(p3p007663)
殲術機械兵器

リプレイ


「これで俺達も大金持ちだ!」
 御者姿の強盗は旅行鞄を拾い上げた。男にとっては価値の無い代物でも、好事家にとっては垂涎の的。汚い骨笛が金に変わった未来を夢想し、男はうっそりと笑った。
「や、やめなさ……」
 地に伏せたままのニエット氏は追いすがるように強盗に手を伸ばした。それを見た男の嗜虐的性質が鎌首を擡げる。
「確か、この骨笛を吹けば世界が終わるんだよな」
 男は知らず絞首台への階段を昇った。
「試してみるか」
「やめろ!!」
 それは気まぐれが起こそうとした一吹きの予兆。
 救いを求める絶叫が教会を通じて境界の門を開いた。
 運命特異点。訪問者である彼らの物語は、ここから始まる。


 一煌。教会の鐘塔上に白が駆ける。
 笛に唇が触れた瞬間、男の身体が大きく吹き飛んだ。
「いてぇっ!?」
「何とか間に合いましたか」
 砂を踏みしめる靴裏の音は疾走の余韻か。人ならざる跳躍を見せた『殲術機械兵器』敷島・戒機(p3p007663)の片手には骨笛が握られている。
「無用な人死には望みません。貴殿はこの品が何であるか正確に知るべき――」
「誰だか知らねェが、さっさと笛を返しやがれ! さもなくば蜂の巣にするぞッ」
 頬の横を掠めて行った弾丸を見送り、戒機は困ったように眉を下げた。
「少し灸を据える必要がありそうですね」
「何を言ってやがる。こっちには人質が」
 男の言葉は続かない。石畳の上に存在するのは血溜りだけ。そこに人の姿は無かった。
「現場から離れた場所に転送される事もあるんだね」
「今度は誰だ!」
「答えても信じてくれないと思うから、その質問は省かせてもらうわ」
 異なる世界からの来訪者、世界の読み手、崩壊の前兆を知る者。
 自らに関係の無い世界の行く末を真剣に憂い、止めようとする者達。
 男が銃口を構えるよりも速く薄墨の影が間合いの内へと滑り込む。視界に広がる黒。眼鏡をかけた少女『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)の視線が真っ直ぐに男を撃ち抜いた。
「世界の為に必死に行動した人を死なせたりしない――絶対に!」
 物静かな風貌と接近戦を試みる胆力。幻視するのは絶対なる不動の壁。
 見目の印象と現実との齟齬を上手く処理出来ず、男の脳は混乱した。
「このアマァ……、ふざけやがって!」

 混乱していたのは男だけでは無い。
 ニエット氏もまた、霞がかる視界に現れた桜色に驚愕していた。
「貴女は……いや、それよりも笛を。信じてもらえないかもしれないが、あれは危険な品物なんだ」
 静かに、と立てられた人差し指。
 身体を包みこむ暖かさに身を任せニエット氏は緩慢に頷いた。腹部の痛みが消えていく。死に近づいた所為だろうか。
 神秘的な眼差しは泰然とし、戦況を別の角度から吟味する冷静な色も含まれていた。
「もう、大丈夫です」
「え?」
『吐血の方』桜咲 珠緒(p3p004426)の囁くような声でニエット氏は我に返った。傷口に手を当てるも、あれだけの痛みが嘘のように消えている。
「救世主様?」
 そうでなければこの御業の説明がつかない。
 珠緒は否定しようと唇を開き、はっと言葉を飲みこんだ。
「蛍さん、強盗が人質をとるつもりです」
「分かったところで何が出来るっ」
 騒ぎを聞いた野次馬が無防備な顔を教会の周囲に覗かせつつあった。
 彼らは銃口を向けられ、突然の事に一度静止し……一斉に悲鳴をあげた。一つの悲鳴を呼び水に人が集い始める。その一人一人に銃口を向けながら、強盗は馬車へ向かって後退していった。
「お前達三人ではこれだけの人数を庇いきれまいよ。祭りに乗じて他の二人が馬車に人質を運び込んでいる。計画は失敗したが、こんなところで捕まってたまるか!!」
 何時の間にか、御者台に待機していた仮面の少女を指さし男は血走った目で唾を飛ばす。
 珠緒は御者台に座る仮面の少女を一瞥すると……何故か小さく頷いた。

「馬車を出せっ」
 昇降台に足をかけて男が叫ぶ。しかし馬車は動かない。
「聞こえないのか? 馬車を出せと」
 男は御者台に座る少女を見上げた。見慣れたはずの仲間の姿に違和感がある。
「お前、背が縮んだか?」
「その発言、とっても失礼よ」
 ごく近距離から放たれた魔力波が御者台から男を弾き飛ばした。
「ん、な?」
 フリーズ。
「少しでも動いたら撃つわ」
 外された仮面の下。現れたのは『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の小悪魔じみた笑顔だった。
 仮装、変装、カモフラージュ。
 男に仲間だと信じ込ませるだけの演技力を発揮したメリーは、兎のような軽やかな足取りで御者台から飛び降りる。
「わたしが同業者だと、ちょっと言いくるめたら簡単に信じてくれたわよ、あなたの仲間。少し警戒心が足りてないんじゃない」
 僅かに揺れている馬車の客席をメリーはノックした。閉じた扉の向こうから聞こえるくぐもった声。それが仲間の声であると気づいた強盗が顔色を無くす。
「残念だったわね。実はわたしたち、三人じゃないの」
 足音が近づく。
「ボクたちは四人組。勇敢な一人も足したら五人かな」
「では、覚悟はいいですね」
 強盗は文字に起こせない四文字の悪態を吐いた。


 誕生の伽藍。柔らかい象牙色の周歩廊から地下へと続く螺旋階段をひたすら降りていく。
「しかし本当に宜しいのですか。やはり救世主様方に封印して頂いた方が」
 珠緒に支えられながらニエット氏はおずおずと申し出た。微笑みながら蛍は首を振る。
「世界は、自分の世界に住まう人の手によって救われる事を望んでいると思うの」
「当機(オレ)も、ニエット殿が封印した方が良いと思います。創世神話を研究された方なら儀式の正確性も増すでしょうから」
 階段の終着点、静謐な空気に満ちた石造りの大天井は巨大な天球儀を模っている。
 その中央に仄かな燐光を発する聖廟が佇んでいた。
 鳥獣、蛇や魚、人間のレリーフが刻まれた四角い台座の中央には歪な空白が存在している。
 傍に刻まれた文字列を視線でなぞったニエット氏が頷いた。
「創世神話の通りであるなら、聖句を唱え台座に骨笛をはめ込めば終焉の喇叭は再び深い眠りにつくはずです。しかし儀式には主教と補佐、二名分の聖句が必要なようですね」
 顔色が曇ったニエット氏が言葉を紡ぐ前に先んじて珠緒が声をあげた。
「わたしが手伝いましょう」
「しかし、ここに書かれた聖句は百三十行以上あって」
「心配ご無用なのです、一度で記憶しますので」
 淡々と告げる珠緒の言葉にニエット氏はポカンと口を開けた。


「お祭りのイベントかしら。それとも、無事に封印できたとか?」
 黄、白、桃、黒――。
 夕暮れ。群青に染まり始めた空から数多の花弁が降り注ぐ。
 警邏の到着を待つメリーは冷たい階段に腰かけながら世界に降り積もる花びらの雨を見上げていた。両手の上に顎を乗せ、教会の周囲に続々と集まりつつある歓声に首を傾げる。
「はしゃぎ過ぎじゃない?」
「そそ、そりゃあお嬢ちゃん!」
 興奮した通行人が顔をあげてメリーを見た。
「収穫祭の夕暮れに百種の花雨が降り注ぐのは、伽藍の揺り籠で終焉の喇叭が眠りについた時さ。四種の花雨は神の祝福だと相場が決まってる!」
「その相場は初めて聞いたわね」
「そうかい。とにかく皆、確かめに来たのさ。もしかしたら本物の終焉の喇叭が見つかったんじゃないかって」
 通行人は興奮した様子で拳を振った。
「えぇ、終焉の喇叭は本物ですよ」
「封印は終わったの?」
 メリーが振り返った先には軍服姿の戒機が佇んでいた。はい、と噛み締めるように頷く戒機の姿にメリーは肩の力を抜いた。
 教会から出てきたニエット氏の元には喜色満面の群衆が押し寄せている。血塗れのジャケットも、無傷の身体も、いずれ尾びれ背びれを付けて神話の一部と化すのだろう。
「あなたはどうするの」
「強盗達に自分たちの仕出かそうとした事について噛み締めてもらおうと思ったのですが」
 今にも泡を吹いて気絶しそうな強盗たちを見て、戒機は柔らかく溜息を吐いた。
「この調子なら当機が言うまでも無く、自分の犯した事の重大さを思い知っている様子ですね。ワンフレーズで世界崩壊などと、寝覚めの悪い滅びは誰だってご遠慮願いたいはずです」
「そうね。人を殺そうとしたんだから同情する余地はないけど」
 乾いた言葉でメリーは同意する。
「ところで、あの二人は? 姿が見えないけど」
「収穫祭を楽しんでくるそうです。正面が混雑していたので裏口からこっそりと抜け出していました」
 ふぅんと気の無い返事で少女は頭に積もった花弁を払いのけ、立ち上がる。。
「そう、そうよね。折角のお祭り、折角の世界の救世主だもの。わたしも少しは良い思いをしなくちゃ!」


「これで、この世界にまた未来と希望が溢れてくれたならいいのだけど……ううん、きっと素敵な明日へと続いていくわ!」
 遠くに見え始めた白い星。ぽつぽつと灯され始めた南瓜色の炎。合い間を縫うように花弁と蛍は遊幻の舞を踊る。
「珠緒さん、せっかくだからお祭を見に行きましょ」
 藍を深くしつつある夜空に今にも溶け込んでしまいそうな蛍。差し出された白磁の手を珠緒は握り返した。
「この街のお祭りも趣深そうですね、蛍さん」
 はぐれないように、きゅうと。提燈に照らされた桜貝の爪たちが許し色に染まる。
「どこから見て廻りましょうか」
「さっきから聞こえてたアコーディオン、気になってたのよね!」
 物悲しい調べは、今や神と豊穣を讃える奉納の舞へと転調していた。
 廻るようなアコルディオン。音を織り紡ぐハープ。フィドル奏者とフルート吹きが向いあって踊り、笑い声と手拍子が重なっている。
 そこには確かに希望が満ちていた。
 手をつないだまま駆け出した二人の少女はすぐさま雑踏の中にかき消えた。彼女たちが世界を救ったばかりであると知る者は、いない。


成否

成功

状態異常

なし

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