PandoraPartyProject

シナリオ詳細

怪物たちの集う夜なら

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●3日間の魔法
 古い御伽噺(フェアリーテイル)。
 3日間の間、混沌の人間はなりたい姿になれるという。

 たった3日。
 「元の姿」に戻れるのは、1年のうち、たった3日。

●ないはずのパーティー
 幻想の貴族界で、まことしやかにささやかれている噂がある。
 曰く、この時期になると、グロウズコースター卿の「死んだはずの娘」が現れ、ハロウィン・パーティーを主催するのだという。
 グロウズコースターは幻想の地方貴族である。厳格で生真面目な一方、芸術にも理解がある、親バルツァーレク派の貴族だ。
 不幸な火事で一人娘を失って以来、養子をとり、つつましやかに貴族としての務めを果たしてきた。
 グロウズコースターからのパーティーへの招待状はローレットのもとへと届いた。
「いえいえ、まさか。幽霊が主催するパーティーなど、そんなものではございませんよ」
 グロウズコースター家の家令はうわさを否定して控えめに微笑んだ。
「そう格式ばったものではありません。ローレットの皆さんも、ぜひお越しください。エヘン。それと……みなさんがもしも秘密を守れるのであれば……。お手伝いしていただきたいこともあるのですが」
 黒い封筒。招待状とは別の、依頼状だ。
 秘密を守れるものへ。尚、これはそういった難しい類の依頼ではございませんが、と言い添えて。

●どうしても人前に出られないんです
 イレギュラーズたちは屋敷に通されて、客室で待たされていた。すると扉が開き、一人の少女が現れた。
「トリックオアトリート!」
 かすれる声で叫び、そして。緊張のあまり倒れた。

「だ、だから仮面がないとだめなんだ……」
 少女はメイドを呼ぶと、仮面をつけてもらっていた。せわしなくきょろきょろしている。
「あー、ボクがグロウズコースター家のご令嬢で、今回の依頼人。死んだはずのグロウズコースター卿の娘。ハーレィです。あ、一人称がボクなのは気にしないでね」
 曰く、ハーレィは、火事により重度のやけどを負ったものの、噂にあるように「死んで」はいなく(もともと公式に発表されたものではない)一命はとりとめていた。
 実は療養を兼ねて地方で引きこもっていたというわけだ。
 やけどを自分の負った姿を鏡で見て以来、それが恐ろしく、ハーレィはそれ以来、仮面なしにはまともに人と会うことも、喋ることもできないという。家は、とりあえずハーレィが心配なのと、こんな状態を世間に明かせない、という意向のようだ。
「うう、顔を隠せば大丈夫なんだ。顔を隠せば何とかなるんだ……けどね? お外が怖くて怖くてしょうがないんだ。いや、親を恨んではいません。両親を恨んではいません。ボクが今でも不自由なく暮らせているのは両親のおかげ。今も変わらず愛してくれています。養子の弟もちっちゃいわりによくやってるしね。良い感じで家が継げるんじゃないかな。両親は、ボクがなんとかまたお外に出られるようにと」
 ハーレィは長くしゃべりすぎてむせた。
「げほっ、ええと。パーティーを企画してくれていて。そのー。盛り上げるのを、あるいはボクが紛れ込むのを。手伝ってくれないかと……」
 声はだんだん小さくなった。
「努力はしたんだ! おととしはそっと扉の隙間から覗いてみたし、去年は給仕に混じってみた。ちょっとだけは上手くいったよ。でも、いつ倒れるかと思うと本当に怖い。失敗すると思うととっても怖いんだ! もう、足は前みたいに動かない。けど、パパとママは心配して……ローレットに頼んで……。えっと、だからね?」
 ね? とハーレィは機嫌をうかがうような視線をやった。
「最低限ほら、パーティーが失敗しないようにしてくれればいいから。じゃんじゃん盛り上げてね? 私はまた窓からそーーーっと楽しんでるから、ちょっとでも元気づけてくれればいいよ。ね?」

GMコメント

●目標
・パーティーを成功させる
・+α、ハーレィの症状を改善させる。
2つそろって成功です。
症状は完治させる必要はありません。急に完治させるのはほとんど無理でしょう。
今よりも人前に出られるようになるだとか、今の状態(パーティーを覗き込む以上)の行動ができるようになればOKです。

●状況
 グロウズコースター卿のハロウィンパーティーまでには準備に数日ほどの間があります。

 パーティーは比較的小規模なもので、中堅貴族が来る。仮装OK。詳細はイレギュラーズたちに任されています。出し物をするもよし、歓談するもよし。ダンスするもよし。

●登場
グロウズコースター家
・とりあえず怪しいところはない貴族です。娘を大事に思っているのも本当のようです。
・火事にも後ろ暗いところはなく、純粋に不幸な事故だったのでしょう。

ハーレィ・グロウズコースター……10代半ばほどの少女。事故により全身にやけどを負い、とくに顔のやけどは跡が残っている。
 仮面なしで人前に出ることができない。
 本人曰く足がぎこちなくしか動かない、というが、医師によれば身体には問題はないようだ。
 本来は快活な少女であったが、今は自信を失っている。自分では貴族の責務を果たせないと思い、引きこもっている。ただ、ちょっとはなにかしなくてはという意思もあるようだ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 怪物たちの集う夜なら完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年11月13日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール

リプレイ

●ファーストインプレッション
「成程……傷心のご息女の為の依頼と……」
『noblesse oblige』ガーベラ・キルロード(p3p006172)は頷いた。幻想貴族の中でもキルロード男爵家は「善良」であることで名が高い。
「私も力を貸しますわ! 何より私、ハーレイ様の様な方はほっとけませんわ。例え、どんな風になろうとも自分で何かを為す為に動こうとする方を私は尊敬しますわ」
 グロウズコースターは感じ入った。噂にたがわぬ人物のようだ。

「さてと、今回はパーティへの参加か。戦闘する必要が無いから気は楽だな」
 周囲のものは『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)を、人情家であると評価する。
(元は快活だったと聞くし何とかしてやりたいんだが、俺はそういうのに詳しくないからなぁ……。とりあえず、パーティに楽しく参加させることを目標に頑張ってみるか)
 こうしていつのまにか人助けをしているのである。
「依頼を遂行するのはもちろんだが折角だし楽しみたいもんだ」

「オーホッホッホ! 私はガーベラ・キルロード。キルロード家の長女ですわ!」
 ガーベラは「華麗にして魅惑の高笑い」を響かせ、堂々と屋敷へと現れた。圧倒的な存在感。思わず目を引かれているうちに、ずんずんと距離を縮められる。
「早速ですが、ハーレイ様、私とお友達になりましょう! 仲良くしましょう!」
「え、えっと!?」
 いつの間にか握手までしていた。困惑しつつも、なぜか無礼には感じない。
「まだ若いのに、ハーレィは偉いな」
『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は、貴族としての心構えを勉強中の自分と少女を少し重ね合わせてみた。
「ハーレィは前向きで努力家で、いい子じゃないか。前へ歩んでいけるように力になりたい」
『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は微笑んだ。ポテトは頷く。
「大変だと思うけど、ハーレィが一歩踏み出せるように一緒に頑張ろう。まずはパーティを成功させよう」
「ああ、一緒に頑張ろう!」
 温かい歓迎に、ハーレィは思わず目をしばたかせた。

●パーティー計画
「何をするです?」
『もこもこ羊さん』メイ=ルゥ(p3p007582)はきょろきょろと辺りを見回した。
「んー、やっぱりにぎやかにいっちゃおう!」
『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)は意気揚々とプランを立てる。
 現代日本のJKの繰り出す案に、メイと『忌み猫』スー・リソライト(p3p006924)の耳は好奇心で振れた。
「楽しそうなのです」
「年に一度のファントムナイトだしね」
「ね。せっかくだし、楽しいパーティにしたいよね?」

 そして、しばらく話し合いがあって……。
 夕が案を発表する。
「私達から提案するのは仮面×仮装×舞踏会という感じ!」
 ハロウィンの仮面舞踏会。今宵は仮面を被れば人も魔も楽しく踊り、お菓子を求め合う素敵なダンスパーティー。
 給仕や運営側はあらかじめ仮装していることにして、家のものが紛れ込みやすくする、というわけだ。
「ただごちゃまぜ百鬼夜行な舞踏会というのもアリだとは思うのです――がっ! これを一例として、これのほかもアリ! ひとまずこんな感じで! 」
「いいね、仮面で顔と身分を隠せる夜であれば童心に帰っても咎める者はおるまい」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は鷹揚に言った。表情は読めない。長い前髪で視線は遮られている。
「ここが重要なのです! トリックオアトリートですよ!」
 メイの合図とともに、武器商人が世界のポケットから菓子を取り出した。ように見せかける。
「な、おいしそうだろ?」
 世界はハーレィにお菓子を渡した。
「メイドさんとヒツジさんに声をかけて、です」
「で、お菓子を貰えるんだよ」
「もちろん、メイもお仕事するのですよ!」
「グロウズコースターの方、可愛い娘。キミもきっと楽しめるだろうさ」
 容姿にはコンプレックスがある。しかし、武器商人にそう言われると、素直に受け入れられるような気がする。どこか浮世離れしているせいだろうか。

●メイキング・クッキー
「上手ではないですけど、メイも配る用に動物の形のクッキーを作るのですよ!」
 メイはメイドのエプロンを借りた。
「あ、出来ればメイドさん達に作り方教えてもらいたいのですよ……?」
 おずおずと申し出る。メイドたちは笑って頷いた。
「パーティーまで数日あるな。ハーレィもパーティのお菓子の準備を手伝ってみないかい?
不安なら生地を練るといった裏方の準備でもいい。「自分が参加した」という手応えを得られれば、実感と自信に繋がるはず」
「クッキー作りは良いな。材料さえ間違えなければ初めてでも楽しめる」
 ポテトは頷いた。
「デコレーションや飾りつけのセンスはリゲルの方が高いから、私は土台を作ってデコレーションはリゲルたちに任せよう。ハーレィはどっちの作業がいい?」
 準備くらいなら、失敗することもないはずだ。
「皆さんで貰って楽しいお菓子を用意してパーティを盛り上げるのですよ」
 メイはぴょんと跳ねた。

 そして瞬く間に、屋敷には良い匂いが広がる。いつのまにやら、立派な菓子が出来上がっていた。
「クッキーにチョコ、マフィンにミニパイ。ハロウィンらしいお菓子が沢山だな」
 ポテトは満足げだ。焼きあがったものに、リゲルが見事な装飾を施していく。顔を描けばカボチャのお化け。羊のクッキーはメイの作品だ。
「一緒に味見してみるのですよ」
 美味しい、と笑みがこぼれた。

●咲く花
「季節外の花でも、種と環境があればパーティーまでに咲かせるぞ。ハーレィや家族の人が好きな花はあるか?」
 ポテトはもとの世界では女神の住まう聖域に生まれ育った樹精である。植物を育てることは、彼女にとっては自然なことだ。
「あら、ガーデニングは得意でしてよ! 何を育てるんですの?」
 庭でハーレィと歓談していたガーベラが立ち上がる。
「……ガーベラもいいかもな」
「まあ、お上手ですわね」
 嬉しそうな二人の間を精霊が横切る。
「よし、そんな感じだ。ありがとう」
 世界は参加者の精霊を集めていた。
「あちこち飛び回ってもらうだけでもそれなりに華やかになるだろうってことで、手伝ってもらってるんだ」
「楽しそうですわね!」
「あとはパフォーマンスも少々やりたいな……火や水、風を扱える精霊に協力してもらって何か芸を披露したい。そういや仮面舞踏会にするって話だったっけ。仮面もつけなきゃなあ」
「回言の旦那、ご入用かな?」
 武器商人がずらりと仮面を並べてみせた。
「へぇ、こんな短期間で?」
「ツテがあるのでね。此処はまァ、商売人としての手練手管というやつだ」
 商人ギルド・サヨナキドリの力は伊達ではない。
 武器商人は一つの仮面をとった。鳥と羽根を模した夜空色をしている。
「数日では招待客に改めて触れ回っても間に合わないかもしれないからね。こちらで用意するのがよかろ。衣装合わせがあるようだよ」

●衣装合わせ
「わー、これですこれ」
「お気に召したかな」
 夕は武器商人から狐面を受け取る。
「じゃーん、これで完成です!」
 露出の多い巫女服と、狐面と狐耳の和風な格好だ。
「かわいいですよ! ちょっとちがうけど、ちょっとメイとおそろいです」
「いいねー!」
 メイとスーが同じ獣耳仲間に嬉しそうだ。
「メイは羊さんの仮装をしているのですよ」
 メイはいっそうもふもふとした羊の仮装だ。
「あっ、ちなみに私はオバケの仮装だよ! がおー! オバケだぞー!」
 きゃいきゃいと嬉しさが広がる。
「それで、ですね。服装のお召し替えなんかもしたりして、ハーレィさんも出来るだけ輪に混ざってみませんかっ!」
「えっ」
 夕はちょっと照れたように笑う。
「折角ですし、私もエスコートして差し上げたくて」
「ハーレィはどんな仮面がいいかい? 可愛い南瓜の仮面もいいかもしれないな」
 リゲルは武器商人の持ってきた仮面から一つを選んでみせた。
 リゲル自身は、白い仮面に黒いマントで、ファントムの姿を模している。幽霊……というよりは、黒子のように立ち回るという意味を込めてのことだ。
 ポテトの衣装は、ちょうど入れ違いになったのでまだ分からない。楽しみにしていた。

●リズムに乗せて
「ということで、パーティには仮面舞踏会をやってもらうとして! それまでは一緒にダンスの練習をしましょっ?」
 スーは顔を輝かせる。
「ええっ」
「とりあえず、やるかやらないかは別として!」
 スーと夕に連れられ、とりあえずダンスの練習をすることになった。
「仮面もつけてていいし、ダンスは私の得意分野だから、大丈夫! ちゃーんと私がエスコートするから、ねっ?」
 スーは手を引き、広間の真ん中へやっていく。
「ホントは一緒にパーティでダンスできると嬉しいけど……リハビリってやつだと思って、パーティまでの短い間だけでも付き合ってほしいな」
 できるかな、と、ハーレィは不安そうだ。
「大丈夫だよ! 習うより慣れろ!」
 夕が微笑む。
「ちょっとでも踊れるようになって、足が動くんだって分かったら……自信も、少しは持てるでしょっ?」
 ゆったりと音楽が流れ出す。ぎくしゃくとした動きは、ゆっくりと息のあったものになっていく。ところどころつっかえて、足はもつれるけれども。転びそうになったハーレィをスーが受け止める。失敗したと思う前に、なんだかおかしかった。
「私は仮面をつけてたって、本人が笑顔で居られるなら問題無いと思うんだよね! 明けない夜は無いんだよ。たとえそれが楽しいファントムナイトでも……どんなに恐ろしいナイトメアでもね」
 明けない夜はなく、暮れない朝もない。それは、師からの教えだった。夕とハーレィは、スーがどこか大切なものを思い出している様子なのを見た。
「だから私としては、ハーレィちゃんが笑顔でいられるように……夜が明けるまで、俯かずにいられるように。
ちょっとでも、そのお手伝いがしたいな、って。私は不器用だからね、踊る事しかできないけど。
それでも……私はそうやって、救われたから、ね!」
 差し出された手をとって、立ち上がる。
「……な、ななな、なーんちゃって!?ガラになく真面目に喋りすぎちゃった気がするかも…!」
 スーはぱたぱたと顔をあおいだ。ありがとう、と小さく聞こえた。夕が思わず笑みをこぼした。

●舞踏会
 そして、いよいよ本番。
 舞踏会がやってきた。
「少し早いが雪の精霊っぽいだろう?」
 ポテトの格好は、白と水色のドレスに雪模様が付いた仮面だ。裾をつまんでお辞儀する。
「ポテトは雪の精霊か、綺麗だよ」
 リゲルはそっと顔を寄せ、ささやいてキスをした。
「今宵は……その雪を溶かして、俺だけのものにしたい」
「リゲルもファントムの格好が良く似合っている」
 ポテトはくすぐったそうにキスを受け、頬にキスを返す。

「はぇー、都会のファントムナイトはすごいのですよ。メイはこんなに豪華なパーティは初めてなのですよ」
 メイはまぶしい会場を見上げる。
 リゲルが中心となり、部屋中にハロウィンの装飾を模していた。
 ゆったりとした音楽が、貴族的なものに変わる。
「大丈夫ですわ。前を向いて頑張る貴女は十分貴族の責務を果たしてますわ。自信を持って」
 ガーベラが視線を引き受けるように前へと進む。
 高笑いするガーベラは、ゾンビのドレスをまとっていた。継ぎあてをあてた風のドレスは、丁寧なパッチワークで品格を保ちながら動きやすさも兼ね備えている。
 メイが窓から覗き込んでるハーレィを見つけた。
「メイが手を握って一緒に行くのでハーレィさんも一緒にトリックオアトリートするのですよ!」
「えっと」
「カボチャさんの仮面が無くて出てこれないなら被り物もあげるのですよ」
 料理の補充や仮面の受け渡しなどの指示をしていたポテトがゆっくりと傍にやってくる。
「味見はどうだろう。会場に足を踏み入れる理由があれば、入りやすいだろう?」
「入口の近くにちょこっとだけでもいいのですよ。メイが一緒にいるのですよ!」
「王城で行われるような格式ばった場でもないですし、一歩踏み出せれば後は流れでドーンですよー」
 曲調はノリの良いポップミュージックへと変わる。
 夕はハーレィにウィンクした。行くなら、今!
「私もそんなに経験があるわけじゃないですけど、大事なのは経験じゃなくて、一歩を踏み出す気持ちです。一歩踏み出せなくても、手を引っ張って連れていっちゃいますからね」
 二人に誘われるように、紛れ込んでみる。
「隅っこの方でもいいのですよ。お客さんの所に行く自信がなくても、お家の人ならどうですか? メイと一緒にお菓子を貰いに行くのですよ!」
 武器商人はどんな格好だったろうか。羽が浮かんだ。きれいな羽色を探すように、武器商人のもとへとやってきた。
「ちゃんと合言葉を言ってね?」
 せーの、と声を合わせる。
「「トリックオアトリート」なのですよ!」
「はい、どうぞ」
 どこからともなく菓子が現れ、手の平に載せられた。
「仮面はね、小鳥から借りてきたんだ」
 武器商人は語る。
「そう、飼っている小鳥でね。歌が上手で、赤と金のオッドアイが綺麗でとても愛らしいんだよ」
 外を見てみたいと思ってからハーレィは驚いた。そんなこと、最近はめっきり思っていなかったのに。
 メイに連れられ、次々にイレギュラーズたちと話してみる。
 きりりとしたスーツを着ていたが、カチューシャをつけていたので、世界だとわかった。
「できそうか?」
 出し物の手伝いだ。どうしようか、少し迷ったけれど、良いものをくれるという。
 ハーレィは世界の言葉に頷いた。

 管楽器が悲鳴のようなストリングスを奏でた。モンスターチックな、ちょっとおどろおどろしくて、どこかコミカルな曲。それに合わせて、シャンデリアがはじけた。
 炎の精霊がゆっくりと食卓におりてきて、キャンドルに火をともす。歓声が上がった。世界の催し物の一環である。
 ハーレィは、キャンドルを立てる係。会場をぐるりと見渡して、ようやく。周りが見えた。
「あ、良い物か?」
 世界がとりだしたのは、鮮やかなパンプキンタルトやハロウィンパイ。それと、海洋のレストラン、アルタ・マレーアの宝石箱! 世界のポケットには、いつだってお菓子が入っている。
「お菓子ばかりだって? いいじゃないか、ハロウィン・パーティーなんだから。それに俺の大好きなものだ、味は保証するぞ」
 天にも昇るほど美味しかった。

「ハーレイ嬢は私達の友ですわよ」
 ガーベラが言う。
「あの火傷って、実際どうなんですの?」
 声を潜めて、好奇心にあふれる貴族の声。
「ええ、もちろん仮装ですわ。彼女シャイなのに今回のパーティーの為に気合をいれて仮装してくれたの、凄いでしょ」
 納得したように頷いた。好奇の視線は次第に和らいでゆく。
 ハーレィは不意に、話しかけてくれていたガーベラの意図に気が付いた。
「貴族の子女やローレットのイレギュラーズ達と友誼を結んでいる」という実績。そして、何よりも心強さ。仕事をさせて、武器をくれていたのだ。
(背筋だけは伸ばそう……)
 ガーベラのように。
 上手くは喋れなかった。
「ライトアップですよ!」
 リゲルはとっさに遠方のカボチャのランタンを輝かせた。大丈夫。致命的な失敗じゃない。リゲルがハーレィをダンスに誘う。
「軽快じゃなくてもいい。楽しいと思えることが一番大切なんだ」
 スーと一緒に練習したステップ。
 楽しいだろうか?
 いやではない。はじめは場違いな気がしていた。今もしている。けれど最初のように、逃げ出したくはなかった。
 一曲が終わり、ハーレィを見届けると、ポテトがずいと歩み寄った。
「一曲踊っていただけますか? 素敵なファントムさん」
「愛らしい俺だけの美しき雪の精霊。此方こそ宜しく頼むよ」
 リゲルは恭しく紳士的なお辞儀をして、音楽に身を任せた。羨望の視線が集まる。

●パーティーは終わる
 音楽はゆったりしたものに変わり、宴は終わろうとする。
「挨拶は、ハーレィ嬢が行なうべきです」
 夕は言った。
「だって、主催はハーレィ嬢って名目ですよね。大丈夫、できます。気持ちを言葉に出せばいいんです」
 スーが背を優しく押す。
 今が夜明けの始まりなのだと。
「大丈夫です!」
 メイはクッキーを渡した。一緒に作ったクッキー。いける。だろうか? ガーベラに、ハーレィは頷いた。
 勇気が湧いてくるような、あの高笑いが響き渡る。
「お集りの皆様! それでは最後に、私の友人である……ハーレィ嬢からご挨拶がありますわ」
「行ってらっしゃい」
 ハーレィは震えながら立った。世界の読んだ精霊が道を先導する。
「ああ、できる」
「応援しているよ」
 アークライト夫妻が微笑む。
「その仮面は良く似合っているよ」
 武器商人が言う。
 挨拶は、数秒程度のもの。
 声もかすれてみっともなかった。
 けれど少なくとも……変では、なかった!
 それだけでどれほど救われることだろうか。
 ガーベラが拍手を呼び集める。
 彼女にとっては大きな一歩だったのだ。
「今日はお疲れ様。沢山頑張ったな」
 やり遂げたのだ。
 ハーレィは涙を隠すためにうつむいた。祝福するように、ポテトが背をさすってやった。
「良ければ君と友達になりたいな。また遊びに来てもいいかい?」
 ハーレィは、はっきりと頷いた。

成否

成功

MVP

藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽

状態異常

なし

あとがき

こうしてハーレィ嬢は一歩を踏み出し、少しだけ。人が怖くなくなったのでした。
トリックオアトリート! パーティーの開催依頼、お疲れ様でした。
皆様のご助力により、パーティーは十分な成功を収めたようです。
機会があったら、またパーティーいたしましょう。

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