シナリオ詳細
とある地方のお話
オープニング
⚫喪失は人を殺す
少年は、少女を連れて逃げ惑う。
村を襲う怪物から逃げるため、大切な人を助けるため、道なき道を進む。
後ろではゴウゴウと盛り立つ炎が、人の生きていた痕跡を消していた。
「キャアアアア!」
「グアアアアッ」
あちこちから聞こえる悲鳴は、誰のものだろうか。
野菜を笑顔で売ってくれた店主さんだろうか、少し怖い職人気質のおじさんだろうか。
頭をちらり、ちらりと過る、自分に笑顔を向けてくれていた人達の顔を、頭を振って掻き消す少年は、草群に飛び込んで少女と身を隠す。
「はぁ、はぁ……うぅ、おかぁさん……」
ぐすぐすと小声で泣く少女に、掛ける言葉を見つけられない彼は、逃げてきた道を振り返る。
見えるのは、村を荒らし回った怪物達。
剣、斧、槍……様々な武器を手に、無抵抗で許しを乞うしか出来ない人達から、笑顔で命を奪っていく。
その怪物達の正体は、盗賊だった。
火の光に赤く照らされたそいつらは、獲った首を手に笑い合う。
……これが、同じ人間であるものか!
少年はそう思う。
それほどまでに酷い光景だった。
けれど、憤ってばかりいられないのも事実だ。
早く、ここから離れるのだ。
手の届かない所へ行き、少女と生き延びなければ、逃してくれた親兄弟に顔向けなどできない。
だから、早くーー
「ヒッ……!?」
そう思う最中、隣からの声が遠い事に気づいた。
「へへっ、ここに居たのかよおじょーうちゃーん」
居たはずの少女が、大男の手に摘ままれて浮いていた。
歯を剥き出しに笑う男は、少女を値踏みする様に眺めて背を向ける。
(気づいていない……?)
チャンスだ。
後ろから体当たりでもして、少女の手を引いて逃げるのだ。そう思えば思うほど、死んでいった村人の姿を彼は思い出す。
「おい、何を遊んでる。さっさとしろ」
「あぁ?いいだろ別に。これからお楽しみなんだよ、なァ~おじょうちゃん?」
迷っている内に二人に増えてしまった。これでは、助ける所ではない。
(くそっ、くそぅ……!)
行けない。二人を相手には、行けない。なにより、行けない理由が出来たと安堵を得た事が、少年は憎い。助けを求める少女の瞳から目を背ける弱さが、悔しかった。
「ダメだ。早くしないとギルドの連中に気づかれる」
「あぁ?あー、それもそうだな。じゃ、コイツはもういいや」
ゴキリ、ドサッ。
と、ゴミを捨てる様に放られた亡骸が、少年の前に落ちた。
「あ、あぁ……」
どうして。
「くそ、くそ、くそ!」
去っていく盗賊を、涙で霞む視界に収めながら、少年は行った。
「ギルドの人なら、あいつらを……!」
道なき道を進み、背中に張り付く悲鳴や、少女の瞳を振り払うように走る。
「ローレットへ……!」
⚫報いを、どうか。と、少年は言った
「近頃、盗賊達がイレギュラーズに警戒したのか、動きが掴みにくくなっている」
そう切り出した『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、深い溜め息を吐いた。
痕跡を少なくし、後を追われないような工夫をしているのだ、と。
「しかも、バラバラだった小規模な連中も纏まりだしている」
野放しに出来ないが、場所が解らなければ手の出しようが無い。
しかし。
「昨日、村を襲われたと少年が駆け込んできた。去っていった方向と人相等から、奴等の隠れ家を掴む事ができたよ」
体力よりも精神の消耗が大きい少年は、その後深く眠っているという。
「奴等は、森の洞窟に作ったアジトに隠れ住んでいる。君達にはそこを強襲してもらい、撃破をお願いしたい」
洞窟は、狭い入り口を抜けた先に、大きな空間があるという。
襲撃を終えて休んでいる今ならば、奇襲という形で先手を取った突入が可能だろう。
「数は10人。剣や斧等の武器を扱い、炎の魔術を行使出来るようだ。要は、近・中距離を適正とする集団といえる」
特に中距離の炎魔術には注意した方がいいだろう、と続けたショウは言葉を切り、イレギュラーズの顔を一度見回した。
「盗賊達の生死は問わない。現場の皆に、判断は任せよう」
よろしく頼む。そう告げて、ショウは送り出した。
- とある地方のお話完了
- GM名ユズキ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月08日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●その戦果は
薄暗く湿っぽい空間があった。
ジメっとした、梅雨の空気にも似る嫌な風と、不衛生をそのまま蒸発させた様な悪臭が蔓延する、そんな空間だ。
およそ人が暮らすには不向きなその場所では、しかし、生物の気配がある。それも一つだけではなく、複数のもの。
声だ。
最悪な環境でもどこか弾みを持つそれは、会話を楽しむ男達のやり取りで、
「最近なんだよ、調子いいじゃん俺ら、なぁ?」
「ま、当然しょ。貴族なんて障らなきゃ害もねーし、ギルドの奴等は逃げてりゃ出くわさねーし?」
「やっべーな、生きるの簡単過ぎるだろ」
端的に言えば、クソ野郎の集まりだった。
笑い合う2人は対面するように座っていて、他に居る4人の男はバラバラの場所で思い思いに過ごしている。
「っつーか、なんか少なくね?今日仕事あった?」
「残りはあれよ、奥に仕舞ってたアレ、お楽しみ中さ」
アレ、という含みのある言葉に、あぁ……と納得の吐息を一つと、次いで短く吐き出すような笑いを付け加えた。
「旺盛だなみんな。散々マワしたろ?さすがに飽きてもう処理したかと思ってたよ」
「調子に乗ってんのさァ、じゃなきゃ拐った女生かしとくもんかよ」
どうやら、アレとは襲った村の生き残りを指す言葉の様だ。
「まァ、もう処理しただろうけどな。狭いし邪魔だったろ?」
「ならもっと広いとこいって好きなだけ囲えばいいじゃんかよ……なぁ!う思うだろアンタらもさ!」
そう言いながら広げた会話の輪に答えたのは、静かな「それはダメだ」の言葉だった。
「手を広げれば、それだけギルドの連中に見つかる可能性を高め、首を絞める事になる。いつも言っているだろう」
冷静で合理的な考えに、しかし反論は起こる。
それは話していた二人とは違う、離れて胡座をかいていた男の発言だ。
「ギルド、ギルド、ギルド。そんな奴等はよ~、囲って殴って殺しちまえばい~んだよ、な?」
「そーそー! いいこと言うじゃん!」
「歯向かう奴は~?」
「ぶちころ!」
イェーイ! と勢いの良い、意気投合した二人の男は、意気揚々と自身の得物を取り出し打ち合わせて、甲高い金属音を響き渡らせた。
そんな様子を呆れた男が諌めの言葉を作り、発する、その時。
「あのなぁ――」
一人の男の身体が消えた。
⚫かつての戦禍より
時は遡って、少し前の事。
凶刃を逃げ延び、盗賊を追い詰めた少年の想いを受けた8人のイレギュラーズは、狭い洞窟の入り口に足を踏み入れた。
老若男女、様々な容姿の彼らは、一切乱れず、足音や物音も立てること無く、目的のために歩を進める。
盗賊の撃破。求める結論は同じだが、それを成す理由は様々だ。
曰く、茶葉を買う為だとか、ただ戦うためだとか。少年の想いに応えるためだとか、そういうのだ。
だから、イレギュラーズは乱れない。
成人男性が二人並んでギリギリという道を、詰まる事無く進む。
(あの男の子、目が覚めた後の心のケアや住む所とか……ギルドは何とかしてくれるのかなぁ)
小さな体の少女、『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は、未だ眠っている少年を心中で心配する。
優しさが浮かぶ様な雰囲気のその隣、小ささの分空いた空間を埋めた大柄の『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリーは、逆にどこか冷淡さを感じさせる雰囲気の人物だった。
何せ、興味があるか、楽しいかが基準の男だ。そこに少年の意志や盗賊のどうこう等、関係ないのだろう。
逆に、少年に感化されたものも当然いる。
左目を斜めに走る傷と、胸に垂れる逆十字のペンダントが目立つ『通り魔』シュバルツ・リッケンハルト(p3p000837)はその一人だ。
報いを。
そんな頼まれ方までされたのだ。だから、
……相応の報いは受けて貰うぜ。
と。そう思うのだ。
そして、ロスヴァイセ(p3p004262)も内に怒りを秘めていた。
彼女の場合、未来ある子供すら手にかけるその所業への怒りだ。
生きて裁かれるか、ここで果てるのか。
それは天に任せるにしても、彼女が手心を加える事は、間違いなく無いだろう。
そうして進む中、彼らに敵の近さを伝えるモノがある。
臭いだ。
不快で汚さを思わせる臭い、それは人間が持つ特有の、生活臭というものだ。
間もない開戦の予感が、一人で道幅の8割を埋める『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)の顔に笑みを浮かばせた。
彼女にとって今回は、手加減の必要のない、全力で暴れ回って良い舞台だ。
自分の力を存分に扱わせてもらえる。そう思うから、彼女は笑う。
そんな獰猛な巨獣の肩に、可愛いものが居る。
『chérie』プティ エ ミニョン(p3p001913)だ。可愛い。
信じられない程小さいサイズでデフォルメされた存在は、少女の見た目でそこに在る。
あまりにも可愛いとしか評せない見た目の彼女は、これでいて攻撃を得意とする戦士だった。
見た目の差異はあれど、ルウとプティはその実、同じである。
そんな偶然が、もう一組あった。
メイド服で肩を並べ、最後尾を歩いていく『クールミント』アンジェリーナ・エフォール(p3p004636)と『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)の二人だ。
問答無用な6人とは一線を引いて、場合に於いて生かす選択肢を視野に入れる観点もあり、比較的落ち着いたメイドと言える。
と、前の方で動きが止まった。
盗賊達のやり取りが、イレギュラーズの元まで聞こえてきたのだ。
道を進む先、曲がり角と、微かな明かりが見える。
位置が近い事が分かれば、なお慎重に彼らは事を運びやすい。
シュバルツは透視を使い、角の先に居るであろう盗賊を視る。
……6人。
仲間を振り返り、指を6本立てて数を伝えた。漏れ聞こえてきた会話で、残りはさらに奥に居ることが解っている。
奇襲するには絶好と言えるだろう。
角から肉眼で覗くと、物や箱が散乱する廊下の先にある広い空間が見えた。飛び出し易いように、素早く箱の裏に身を移す者、角に留まる者、後方に居る者と分かれていく。
そうして観察する、初撃で狙う相手の選別は、呆気なく済むことになる。
会話をする二人の男が打ち合わせようと掲げた得物が、斧と剣だったからだ。
だから、
「イェーイ!」
ぶつかり合う金属音を合図に、彼らは行った。
⚫奇襲
最初の動きは、比較的余裕のある動きだった。
前衛組が突撃しやすい状況にするため、遠距離を扱える者が仕掛ける。そんな段取りだったからだ。
ロープ等で入り口に罠を仕掛けるつもりだったプティはしかし、場の荒さから即座にそれを止め、デフォルメされたバリスタを構え、躊躇い無く射った。
同時に起こる光は、Suviaが打ち込んだ術式弾によるものだ。
その二つが、まず、斧を持った男の体を叩き、吹き飛ばした。
「なに――」
が起きた、と言葉が続くより早く、シュバルツが飛ぶ男を追って飛び込んだ。
「いってぇじゃねえかクソが、ァ?」
「それは悪かったな」
転がって起き上がり、怒声を上げた男の額にコツンと当たる銃口。そこから吹き出た鉛が頭蓋を砕き、二度と起き上がる事はない吹き飛びを与えた。
「てめぇよくも俺のツレを!?」
「そっちだって今まで散々殺ってきたみてぇじゃねえか!」
逆上する剣を持つ男の一振りが、シュバルツの胴に斜めの傷を付ける。
そこから、状況を理解した盗賊達が武器を構え、そこへ、
「斧持ちはお前だな!」
ルウが行く。
剣、槍、斧、槍。
狙うのは斧だと事前に決めていたから、その通りに動くのだ。
「な、なんだコイツ、これ、来るなぁ!?」
駆け足で近づいてくる巨体へ、斧の刃をめり込ませる様に打ち込む。が、それを片腕の筋肉で押し止め、振り払って空間を広げた彼女は、笑みを浮かべる。
「オラァ!」
手に持ったメイスの柄を滑らないよう握り直し、得物を払われ無防備を晒した敵に向けてその鈍器を振り下ろした。
グキャリ。
肩口と首の間にめり込むその音は、およそ人間の体から出る音ではない。
「やめ、しん、しぬ……だろうがァァア!!」
だが、まだ息はある。
攻撃後の無防備を晒すのはルウも同じだ。だから、死なばもろとも、そんな精神での一撃を見舞いに行く。
「あのね」
しかし、それを妨げる者がいる。
「ごめんなさい。て言っても死んじゃった人は戻ってこないの」
ルアナだ。幅広の両刃剣をルウと斧の間に差し込み、押し戻すように横抜きの一閃を見舞う。
「だからあなたたちが殺めた命、あなたたちの命で償ってもらうよ!」
言葉通り、腋を通してアバラの隙間を切り落とされた斧を持つ2人目の男は絶命する。
「ふざけんなクソが、オレらの邪魔した償いをすんのはよぉ!」
「てめぇらだボケァ!」
槍を持つ二人が、二歩遠い間合いからルウとルアナを貫いた。
「っくぅ」
武器で穂先を逸らし、ダメージを軽減させるルアナと違い、良くも悪くも前のめりなルウには刃が通る。
「はっ、いいねぇ!」
褐色の肌を赤く染める鮮血に、しかし彼女は笑う。戦闘に狂うからこそ、攻撃も被弾も、楽しんで笑うのだ。
「狂ってやがる……化けモンかよこのアマ!」
恐れは動きを鈍らせ、隙になる。
だから、
「御機嫌よう、お掃除の依頼がありましたので、お邪魔させていただきますわ」
スカートの裾を摘まんでぺこり。
静かに礼をしたアンジェリーナが、指に挟んだ薬瓶を投擲する。
「そんなトロい瓶なんかに当たるかよ……!?」
「それならこれはどうかしら」
放物線を描いた瓶をサイドステップで避けた男の着地点に向け、一直線に線が飛ぶ。
「裁きの槍をここに、我が穂先に慈悲は無し、貫け」
それは、ロスヴァイセが作り出した槍状の魔力弾だ。
「ヒッ、ぃ」
腹を抉り貫く一撃で、這いずる様に逃げ出す男を見下ろしながら歩いて来るのは、ラルフだった。
「ああ、宴会中だったかい?」
と、言葉のついでとばかりに、左腕へ魔力を集中させてから、見上げる男へ打ち下ろし止めを刺した。
「生憎と手品程度の芸だが、私も混ぜてくれるかな?」
⚫大混戦
騒ぎを聞き付けて、奥から出てきた6人の盗賊達は、仲間と争う八人を目視した。
戦い慣れた動きで大立回りを見せるそいつらには、心当たりがある。
「ギルドか……!」
気取られぬ様動いたはずが、どこで足取りを掴ませてしまったか。そんなことは今は考えている暇は無く、撃退の為に行動を起こす。
火だ。
構えた3人が、燃え盛る魔術の陣を展開させて、暴れまわる敵へと一斉に撃ち放つ。
「うわっ!」
「……盗賊にしておくには少々勿体ないな」
が、協調性もなければ指揮系統も無い彼らの狙いはてんでバラバラだ。シュバルツとラルフに直撃したのはまぐれとしか言いようが無く、また、
「大丈夫、ルアナは平気だよ!」
魔術強化で耐性を付けていたルアナは、剣の腹で炎を受け流していた。
そうして熱風を払い、そのまま彼女は行く。
狙いは、向こうからもやって来る槍持ちの男だ。
行く。
踏み込みを強く、迎え撃つ為に腰を据えて、リーチのある槍の攻撃を待った。
「ああ……ルアナやっぱり」
突き出された穂先を掻い潜り、逆袈裟へと思いきり剣を振り抜きながら、
「召喚前もこうやって戦うお仕事、してたんだ」
鮮血を前に、そんなことを思い出す。
「ひ、ゲホッ、助け――」
「それは聞けないね!」
傷口を押さえ、怯えるように後退する男へ答えたのは、プティだ。
「だって君も略奪楽しんでた系盗賊君だもん」
緩慢な動きの標的にバリスタの照準を合わせ、ニコリと可愛らしく笑う。
「謝罪は聞くけど命乞いは聞かないぜっ!」
そして軽く引かれた引き金によって、ドスリと重たい音を立てながら、矢を撃ち込まれた男は悲鳴も無く息絶える。
「クソが、なんだってんだテメェら!」
「それはもう、わかってらっしゃるかと思いますが」
悪態を吐く台詞に返すSuviaは、負傷の多いルウへとポーションを処方していた。
「いかがでしょう。裏社会の情報とか、素敵な寝物語を聞かせていただけるなら、是非生かしてあげたいと思うのですが……」
「ふざけんなよ……!」
芳しくない返答に、そうですか。とさして残念でも無さそうに言うと、Suviaはにこりと笑って、
「では、どうぞ」
「おうさ……!」
回復を済ませたルウを送り出した。
片手に握る得物を引きずる様にして走り、剣を構えて待ち構える男へ迫る。
ルウの直線的な突撃は、迎撃の格好の的と言えた。だから、上段に構えた剣は、振り下ろされるままに彼女の肉体を一閃する。
「とったぁ!!」
ぐらり。
よろめくルウを見れば、そう叫ぶのは仕方ない事だ。なにせギルドの一員を討ったと思える手応えだったのだから。
が、それで油断したのがいけなかった。
「はは」
血にまみれ、なお笑う。それがルウだ。だから、前に倒れた体をそのまま、さらに前へ進める。
「はっ、はっ、は!」
笑いのついでに呼吸を整え、上半身を踏み込みと同時に捻る。
正面が上を向くようにして行うのは、メイスの振り上げだ。
アッパーをぶちこむ様に、地面を削りながら勢いよくかち上げられる鈍器は、有り余る力で男の顔を砕いて吹き飛ばした。
「アイツの傷も浅くねぇ!囲んで仕留めろ!」
大暴れを目立たせるルウだが、回復以上のダメージはやはり目立つ。故に、そこへ狙いが集中するのも仕方の無いことだろう。
仲間が殺られた事で気が逸り、目の前の獲物に飛び付くのは、彼らが劣勢を知らない勢いだけの集団だからだ。
だから、
「あら、ごめんなさい」
「ギャッ」
視界の外から飛んでくる瓶を顔に受け、焼ける様な痛みに男が一人呻く。
「ふふ、手が滑ってしまいました」
それは、アンジェリーナが放り投げた毒の注がれた瓶だ。
「そう急ぐなよ」
さらに、シュバルツがリボルバーを構えると同時に引き金を引く。
足の甲から膝、太ももへと連続する射撃で別の男を足止めし、その隙に自分は後衛に下がる。
「邪魔を……!」
追い縋れた一人は、重なる妨害に苛立ちを露に行く。
「まあそう言うものではない」
だがそれを、今度はラルフが留めた。
すれ違い様に左手で男の顔を鷲掴み、足を払って地面に叩きつける様に押し倒す。
「君達は手強かったし、このままなら大きな流れに乗れたかもしれないね」
まあ、
「ここで終わるのだがね」
そう言って、ラルフは掴んだ顔に破壊の魔力を流し込んだ。
⚫決着は泥臭く
「スコルピオ絡みの盗賊活発化、村一つを滅ぼして子供まで手にかけるなんて」
許せないわね。
魔槍を手で回し、追い詰められていく盗賊達を見ながら、ロスヴァイセは呟く。
「くそ、くそっ、くそ!なんで、なんだって――」
「なに、おかしいことなどない。不条理に殺し、死ぬ。今は君達の番が来た、それだけさ」
見る先では、ラルフの一撃が敵を吹き飛ばし、大きな隙のある体がある。
だから、彼女は投げた。
オーバースローの形を取ったフォームで、一直線に飛ばす槍は、突き刺さる胴体を引きずって壁に縫い付ける。
「一応聞くけど、今回の襲撃はスコルピオによるテストかしら?」
そうして、かろうじて息の残る男にそう問い掛け、答えを待つ。
「ンなもん、関係ある、かよ……」
吐き捨てる様な返答を最期に、男は脱力する。それを聞いたロスヴァイセは骸に背を向け、「そう」と静かに言いながら、新たな槍を作り出すのだった。
ここまで来ると、盗賊側は総崩れと言っていい。
逃げ惑う背中を両断される者、ヤケクソな突撃を迎撃される者、そして、許しを乞う者。
「処遇ですが、いかがいたしましょう」
そう判断を仰いだのはアンジェリーナだった。彼女の目の前には恐れ怯え、沙汰を待つ盗賊がいる。
「ま、そうだな」
シリンダーの薬莢を抜き、リロードを終えたシュバルツが、銃口を下げた。それは攻撃を止めた動きに似ていて、しかし
「言い訳はあの世で聞いてやる。俺が行くのは当分先だろうが」
撃鉄を起こして突き出されたリボルバーからは、無慈悲な一撃が発射される。
「あばよ」
⚫終わりの後で
12体の遺体が並ぶ洞窟で、Suviaは大忙しだった。
何せ回復が必要なイレギュラーズの数に比べ、その手段を持つのは彼女だけだったからだ。
あちこちに奔走する中、先に治療を終えたルウが洞窟の奥を探索し、盗品や遺品を纏めて持ち帰る用意をしている。
「1つ1つ潰していては、キリがないのでしょうか」
そのアンジェリーナの懸念に答えられるものは無い。
無いが、これで1つ、悪辣な組織は消え、少なくとも1人の少年の心は、救えた事だろう。
今は、それだけだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ユズキです。
討伐依頼、お疲れ様でした。
またの依頼で、お会いできることを楽しみにしています。
GMコメント
『マスターコメント』
ユズキです。
盗賊増えすぎ問題です。
●依頼達成条件
・盗賊の撃破
●情報確度
Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。
●目標敵
盗賊10人:
リーダー等は居らず、全員が戦い慣れた戦闘員。
武器はバラバラですが、簡単な炎魔術は全員扱えると思ってください。
●ポイント
洞窟に侵入したところから始まります。
敵は油断しており、奇襲という形になります。初手の動きが完璧にはまれば、かなり優位に動けると思います。
適正距離も考えつつ動くと面白いかな、と思いますので、よろしくお願いいたします。
Tweet