PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黒色矮星の葬列

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●圏外

 ――救難信号を発信します。
 通信可能なアクセスポイントが発見できませんでした。
 続けますか?
 再試行までカウント3、2、1。
 ――救難信号を発信します。
 通信可能なアクセスポイントが発見できませんでした。
 ERROR
 当惑星の残エネルギー量が1パーセントを下回りました。
 救援による再生は不可能です。
 繰り返します。救援による再生は不可能です。

 救難信号を一時停止し、疑似人格データの凍結を解除します。
 モニター稼働率2パーセント。
 音声入力システム稼働率48パーセント。
 保存領域に破損がみられます。
 新しくデータを入力してください。
 ……データの入力を確認できませんでした。
 当惑星に意志ある生命体は存在しません。
 繰り返します。
 当惑星に意志ある生命体は存在しません。
 再計算。
 疑似人格データ0085VITG62TECを起動します。

 上手におもいだせないけれど。
 むかしはもっと、にぎやかで。
 人がいっぱい、わらっていました。
 わらいが何か、おぼえてないけど。
 こえがどんなものか、思いだせないけど。
 それでも、だれかに、あいたいんです。
 ひとりぼっちで消えるのは、こわいです。

 共有します。
 当惑星の意志が「寂しい」で統一されました。
 ――
 優先タスクが変更されました。
 通信可能なアクセスポイントを発見。
 救難信号を発信します。
 成功。
 残存エネルギーを使用した場合、4体までの生存が保証されます。
 召喚開始。
 当惑星の消滅まであと24時間です。 



●さよなら準備号

「その星がね。消滅する前に、誰かと話したいって言うの」

 境界案内人、ポルックス。
 普段は快活な顔でイレギュラーズを迎え入れる彼女が、今日は浮かない表情だ。
 殊勝な姿にドッキリでも企んでいるのではと警戒する。

「忘れている何かを、人との交わりを、世界の姿を、記録できるだけしたいんだって」

 膨らんだ頬。不服そうだと言い換えてもいい。
 唇を尖らせ、つまさきで図書館の床を蹴っている。

「看取る前に情を移すのは勇気がいるし、怖いことだわ。あなたは、やってくれるのかしら?」

NMコメント

 こんにちは! 駒米と申します。
 小さな惑星をできるだけ優しく見送ってあげてください。

・目標
 惑星の疑似人格に、沢山の話や文化を伝えてあげましょう。
 自分の世界の話でも結構ですし、この世界を歩き回って文明の欠片を探してみても構いません。

・世界観
 楕円形の惑星。
 緩やかに崩れていく部分がクリームソーダ色に発光しているため、視界に困ることはない。
 夜と宇宙の世界。間近に感じる星の数。
 地上一面が灰色の瓦礫に覆われており高度な文明の名残が伺える。
 星に存在する全てが疑似人格0085VITG62TECと繋がっているようだ。

  • 黒色矮星の葬列完了
  • NM名駒米
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年10月15日 22時50分
  • 参加人数4/4人
  • 相談2日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)
戦場の医師
回言 世界(p3p007315)
狂言回し

リプレイ

●Welocome aboard
「ようこそ、私は疑似人格『0085VITG62TEC』です」


 そこは、名残る冬の宙。
 巨大な岩石が転がると、瓦礫の一画に小さな入道雲が生まれた。
「これは?」
「こわれたネジです」
「……」
 放物線を描き、鈍色が飛んだ。
「こっちは?」
 鼻と口を片腕で押さえ『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)は、新しく勾玉状の塊を拾い上げた。
「それは、つうしん補助システムです」
「補助。通信システムは別にある、ということか?」
「はい。つうしんは脳で行います」
「住民は感応能力持ちだったのか?」
「はい」
 観察者の眼差しで、世界は亀裂の入った残骸を掌の上で転がした。
「これは、セカイ様のおやくに、たちそうですか?」
「どうだろうな。類似品の作成は可能だが、種族的特徴はどうしようもない」
 ――文明の進んだ世界ってんなら、その知識や文明を混沌に持ち帰れば何かに生かせるかもしれないだろう?
 そう言ってニヤリと笑った青年は、存外丁寧に疑似人格に問いながら調査を進めている。
「保存領域の破損状況はどうだ」
「4%の回復にせいこうしました」
「そうか」
「私、たくさん思い出せました。もっと、おやくにたてますよ」
「そうか」
「ありがとうございます」
「……おう」
 淡々と世界は瓦礫を掘り返す。
 表情を押し殺した横顔は、修復状況に満足しているようでもあり、進まぬ回復への苛立ちを苦心して隠しているようでもあった。
「セカイ様は、混沌の生まれですか」
「いいや、俺の生まれた所は地球の日本って小さな国だな」
「チキウの、にほん」
「ここより文明的には色々劣ってるところだよ。俺達は遠く離れた人と会話する際に、通信補助システムではなく電話という名の機械を使っていたんだが……」
「くにとは何ですか?」
「そこからか!」

 頓珍漢な認識の齟齬に頭を抱える事が無くなっても、世界は無音の中で授業を続けた。
 音声情報はまだ生きていて、端子に入力され続けているかもしれない。
 失われた記憶を少しでも取り戻してやれば……。
 そこまで考えて世界は顔をあげた。
 メロングリーンに光る台地が、音を立てて割れていく。
 終わりを見下ろしながら世界は役立たずのネジをポケットに入れた。
 やれることはやった。
 やれることは、やったんだ。
 


 そこは、仄かな陰影の宙。
「空は青かったのか、赤かったのか、それとも今みたいに星が近かったのか。どうだ?」
「空は黒です。せんせいの世界は、空の色が変わるのですか?」
 医師、ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)は頬を掻いた。
「なぁ、その先生っていうのは止めにしないか」
「情報入力者。修理人。それはせんせいです」
 繰り返されるやり取り。ジェラルドの表情に隠された罪悪感の理由を、惑星は知らない。
 医者。患者の痛み、苦しみ、病、怪我を間近で診る者。
 臨終の床に立ち会う微笑みが仮初の救いを与えるならば、ジェラルドは胸中に渦巻く嵐を押さえつけ、笑い続けるだろう。
「一緒に探しに行こう。それを見つければきっと寂しくなくなる」
 寂しさの理由を探して、彼らはあてもなく歩いた。
 星が一番綺麗に見える場所へ。
 ジェラルドからのオーダーに惑星は「喜んで」応えた。
「これは住居か?」
 風化した瓦礫の山は、辛うじて建物の形を残していた。崩壊した文明に幽かに残る命の痕跡を感じ、ジェラルドは灰色の砂に覆われた瓦礫を一段、一段、大切に踏みしめる。
「人が沢山いたんだろうな」
「はい」
「俺には故郷が二つある。生まれ育った深い森と、命を拾われた熱い砂漠だ」
「故郷がふたつ」
 眼下に広がる数多の円は、居住空間の跡であろうか。中空に張り出した釣り竿のような鉄骨に座り、ジェラルドは膝の上に肘を乗せた。宙も台地も、ここからならよく見渡せる。
「あんたの故郷はどんな所だろうな。海はあったか? 俺はこの間初めて海を見た」
「いいえ。せんせい、海とはなんですか?」
「海ってのは、大きな水溜まりだ。水は塩辛くて、基本は青いが、温度の高い所は緑に見える」
「すごい?」
「あぁ。魚が泳いで、飛び跳ねてた。泳いだ事は?」
「私の着水は体積的におすすめできません」
 砂時計が逆回転するように砂が天へ昇っていく。空白の代わりに情報領域には美しい世界が与えられた。
「この星が、自分たちが、どんなだったか少しは思い出せたか」
「はい、せんせい」
 ――成功だ、と誰かの喜ぶ声。
「お前が持っている思い出はお前の物だ。それがあれば少しは寂しさが紛れるだろ」
 ――窮屈で武骨だけど、お前は良い船だよ。
 冷たい鉄の箱を、撫でてくれた開発者(せんせい)。
「頭をなでて、くれませんか?」
 頭ってどこだよと苦笑しながらジェラルドは鉄骨を撫でる。
 自らの寂しさを悟られないように。
「忘れるな、お前は一人じゃないからな」
 思い出がある限り、ずっと。



 そこは、光届かぬ深海の宙。
「はじめましてだね、0085VITG62TEC。ちょっと呼びにくいから、TEC(テック)って呼んでいいかな」
 惑星の計算領域がガリガリと音をたてる。
『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)からの要請に応じ、疑似人格は新しい名を刻んだ。
「俺はバトラーの秋宮史之。あなたと友達になりに来たんだ。よろしくね」
 神経も無いのにテックの感情領域はくすぐったさを示している。
 史之はたゆたうように灰色の砂漠を歩んでいた。
「テックはどのくらい生きてきたの?」
「一億年です」
「長い時を過ごしてきたんだね。何が楽しかった?」
「たのしい?」
「俺はね、料理をしてる時と、仲間と依頼の相談してる時が楽しいよ」
「いらい?」
 子供に言葉を教えるような、揺りかごのような会話。
 そうそうと、史之は内緒話をするように声を潜めた。
「テックにお土産があるんだ」
 史之の手には小さな花束。
「あなたにあげるよ」
 一輪、一輪、砂漠の砂に花を挿していく。
「きれいな有機物です。にあいますか」
「とっても」
 史之は小さな花畑の隣に寝転んだ。両腕を枕代わりに瞬く星空を観察する。
「シノ様。テックは、いま、とても『たのしい』です」
 電子音声の中に刺さり始めた雑音。
 気づかないふりをして、史之は笑った。
「ここだけの話、でもないか。俺はね、好きな人がいるんだ」
「すき」
 まどろみながら電子音声が答える。
「だけどその御方はとても高貴で気高くて、ちょっと意地悪な方だから、お側に立てるよう修行中なんだ。いつかその方に俺の手料理を食べていただくのが夢なんだよ」
 なんて素敵な夢だろう。
 外部端子より入力される史之の声は子守歌のように心地よい。
「そのかたの話を、もっと」
 惑星の寝物語に恋を詠った青年は片手を伸ばす。
「テックは、もう眠ってしまったかな」
 静寂。終わりなんて当たり前で、そこらじゅうに転がっている。それでも、もし寂しいなら。
「俺がこうして最後の瞬間まで一緒にいるよ」



 そこは、雪が昇る静夜の宙。
 葬式。正確には生前葬と云うのだったか。
 空から降る声が惑星の声だとするならば、見送る相手の巨大さは如何ほどか。
『孤高装兵』ヨハン=レーム(p3p001117)は目を見開き、聞こえた自己紹介に頭の中身をくるりと回転させた。
「ちょっと長すぎますね。TEC(テック)さん、で良いです?」
 やや遅れて、疑似人格は「長い」と云う形容詞が己の呼称にかかっているのだと認識した。
「仲良しな人は愛称で呼びあったりするんですよ。ああ、僕はヨハンです。ヨハン=レーム。ヨハにゃんと呼ぶ人もいます」
 ヨハンの口元には愛らしい八重歯が覗いている。
「ヨハにゃん」
 戸惑いがちな音声に向かってヨハンは歓迎の手を広げた。
「これで僕たちはもー友達ですよ」
 テックの感情領域が拡大する。それは運命特異点たちを初めて見た時にも感じたものだ。
 嬉しい。
「テックは、ヨハにゃんのおともだちです」
「下から⁉」
 足元から聞こえた声にヨハンは思わず片足をあげた。
「どこに向かって話せば良いのか不思議な感じです。全部テックさんに繋がってるんですよね?」
 ヨハンの声は好奇に満ちている。
「この星の道案内、頼めます?」

 長い散歩の終わり。テックはヨハンを白い棺桶が集う丘へ案内した。
「みーんな死んじゃったんですかね。そしてテックさんもこれから」
 クッキーのようにほろほろ崩れる地面をヨハンは眺めた。
 テックがこれから向かう先が、此処に眠る人たちと同じ場所なら、きっと寂しくないだろう。
 けれども灰色の瓦礫はむずがるように揺れ続ける。
「それでも怖いですか? 仕方ないです」
 ヨハンは胸を叩いた。
「大丈夫ですよ。最後まで友達がついていてあげますっ!」
 孤独な空間の中でその声はよく響いた。
「もしかしたら、次は僕たちの世界、混沌の一人として、星に立つ側として生まれるかもですよ。その時はいつでも友達を訪ねてくださいね」
 ありがとう、ヨハにゃん。
 出力されなかった文字が保存領域の中で点滅を繰り返す。

 ――良い旅路を!

 

 みんなの声がする。
 もうテックは怖くなかった。
 充分すぎるお葬式だ。
 棺桶に入れてもらったモノを大切に抱いて、安らかな気持ちで暗闇の中に旅立った。



 運命特異点にとって、異世界は銀幕の中で視るゆめであり、束の間に視るまぼろしでもある。
 図書館へ戻れば、ポケットに入れた螺子は消え、供えた筈の花束は未だその手に握られている。
 されど、運命特異点は異世界にとって現実である。
 彼らは小さな惑星に柔らかい思い出を与えた。
 北に輝く道しるべ星のように輝く希望を与えた。
 友と名と、夢を与えた。

 ――当惑星は運命特異点からの新規コマンドを受諾。
 最終タスクを変更、実行します。
 転送先を検索、成功。
 一部データを送信、成功。
 疑似人格、愛称『TEC(テック)』の同期に成功しました。

成否

成功

状態異常

なし

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