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シナリオ詳細

こちらローレット航海便

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある商人の航海
 ことことと音を立てる金属ポットの口から湯気がのぼる。
 茶色い髭をたくわえた男は火を止め、マグカップに湯を注いだ。
 カップを手にしたまま立ち上がれば、まるで世界が開けたように周囲の音が耳に入った。
 海鳥の声と波の音。大空をゆく風とそれをうける船の帆。
 あたり一面海、海、海。
 ずっと遠くに見えるは幻想(レガド・イルシオン)の灯台だ。
 男は――商人オリバー氏は揺れる船の上で固定していた舵に手をかけた。
「やっとついた。これでなんとか島の皆に薬を……」
 ごふ、と大きく咳き込み、マグカップを取り落とす。
 コーヒーが甲板にぶちまけられ、オリバー氏は膝を突いて苦しげに咳き込んだ。
 しかし膝をついてばかりはいられない。オリバー氏は舵にしがみつくように立ち上がると、幽鬼のような形相で灯台を……港をにらみ付けた。
 自分に言い聞かせるように、呪文のように唱える。
「島の皆に薬を届けねばならん。それができるのは私だけだ。私が行かねば……行かねば……」
 その後、港で衰弱した状態で保護されたオリバー氏は近くの宿屋へ運び込まれ、まる一日眠り込んだという。

●商人の願い
「ほーいうはへへ、もふもも、もっふもふ」
 ハンバーガーを限界まで頬張った『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がなんか言っていた。
 いかんという顔で飲み込もうとして、胸につかえて目を白黒させながらどすどす叩き、しゅわしゅわドリンクを一気のみしてけっふーと至福の顔をした所で……お話再開である。「そういうわけで、ローレットに配達の依頼が舞い込んだのです。こちらは依頼人のオリバーさんです」
「このたびは、急に申し訳ない」
 帽子を脱いで頭を下げる茶髭の男。顔はやつれ、今にも倒れそうな有様だ。
「オリバーさんはここから海路を南にいった小さな島で商店を開いているのです。
 島の商店はここだけで、仕入れや管理もオリバーさんひとりでやっていたそうなのですが……」
「この通りのていたらくでして」
 自分を責めるように言うオリバーに、ユリーカは申し訳なさそうに眉をくにゃっとさせた。
「そんなことないのです。島の子がお風邪をひいたからって、無理に船を出して薬の豊富な幻想までやってきたのです。立派なことなのです」
「しかし……」
 オリバー氏は沈みがちだ。疲れのたまった身体で無理をして単独航海をした結果、幻想の港へたどり着いた段階で倒れてしまったのだ。
 体調を崩してネガティブになっているのもあるのだろうが、それ以上に成し遂げられなかったことへの無念が強いようだ。
 ユリーカはフライドポテトをぴっと指揮棒のように振ると、気持ちを切り替えるように立ち上がった。
「大丈夫なのです! 依頼されたからには、ローレットはやり遂げるのです! 具体的には、イレギュラーズさんたちが!」

「依頼内容はオリバーさんの引き継ぎなのです。
 最低限の内容で言えば、今かオリバーさんのお船で海に出て、航海ののち目的の島へたどり着くことです。
 けれどそれだけでは商店に生活物資を頼っていた島の皆さんが困ってしまうので、できればフィッツバルディ領で『商品の売りつけ』をして『生活物資の買い付け』もして、それらの物資を積み込んで島へ向かって欲しいのです。
 でも酒場の情報では帰りの船を狙った海賊の出現も噂されてるのです。
 くれぐれも気をつけて、もし遭遇しちゃったら撃退して欲しいのです!」

 そこまで話すと、オリバー氏は懐からコインを出してテーブルに置いた。
 めまいでも起こしたのか、今にも倒れそうな顔で席を立つ。
「済みませんが、後は頼みました。心ばかりですがこれで好きなものを食べてください。それでは」
「あっ、お手伝いするのですっ」
 ユーリかはオリバー氏に肩を貸すと、彼が停まっている宿の部屋まで送ると言った。
 そして去り際、振り返る。
「海の運び屋仕事は色んな苦労があるのです。けど皆さんで力を合わせれば、きっとやり遂げられるのです!」

GMコメント

 いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
 こちらは幻想フィッツバルディ領港町にありますハンバーガーショップ『グランゼ』。
 お代は頂いておりますので、追加のご注文をどうぞ?

【依頼内容】
●メイン
・ディケンズ島へ薬を運ぶこと
●サブ
・運んできた商品を売りつけること。
・市場で生活物資を買い付けること。
・途中で遭遇する海賊を撃退すること。

※メイン内容が達成された段階で依頼は成功となります。


【商品の売りつけ】
 ディケンズ島で生産された商品を売りさばき、お金にかえます。
 市場におろす、個人を捕まえて売りつける、貴族に投げつける、その他様々な方法がございます。
 商才があればよい売りさばき方ができますが、それ以外にもあんな技能やこんな技能が使い方次第でイイ結果をもたらすでしょう。

 これには約1日以上かけて構いません。『時間をかけて高く売る』のも『手早く売って早く島へ行く』のも同じくらい価値があるので、皆さんの技術や趣味や性格をみつつ(そしてハンバーガー食べつつ)決めてください。
 商品は大雑把にわけて以下の通り。どれも島で生産されたものです。
・アッチストーン葡萄酒
・羊チーズをはじめとする羊系乳製品
・船に用いる帆布
・トマト、キュウリ、ニンニクといった作物


【生活物資の買い付け】
 市場などで生活物資を買い付けます。
 買い付けるものの内容はメモされているので、その通りにこなしましょう。
 大雑把にいうと食料品、衣類、その他生活消耗品、一部嗜好品です。
 大体は市場で買いそろえることができます。
 このとき値切ったり(同額で)質の良いものを手に入れたりできるととっても喜ばれます。
 後述する航海中の食料などもここで買い付けられるとよいでしょう。


【海賊との遭遇】
 航海中、海賊と遭遇することがあります。
 少数で移動する商人を狙ったもので小規模だと言われています。
 情報確度C。
 撃退経験のある者の情報をまとめると『1隻構成で4~6人』『前衛型が半数』『フックのついた縄などを用いて船に飛び移ってくる』『刃物や銃で武装』といった感じです。
 無事に撃退できればよいですが、最悪生活物資やお金を渡すことで見逃してもらうこともできます。戦闘を行なって敗北した場合も同様の状態となります。


【数日間の船旅】
 海の上を3~7日ほど航海することになります。
 航海術やそれに準じた技能をもっているキャラクターがいるとそれだけ日数を縮めることが可能です。勿論、はやくつけばつくほど偉いです。
 ご飯もいるし眠る必要もある。海賊が出た時に備えて見張りもいる。暇になったりしてストレスもたまる。
 そんなあれこれを解消する必要があります。
 基本『ごはん』『睡眠』『ストレス解消』は守りましょう。これが低下すると色々なペナルティがかかります。
 逆にこれらが満足状態にあると色々とボーナスがつきます。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • こちらローレット航海便完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月01日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフト・シフター・シフティング(p3p000418)
白亜の抑圧
ルクスリア・アスモデウス(p3p000518)
大罪七柱
ブルーノ・ベルトラム・バッハ(p3p000597)
涅槃寂静
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ワーブ・シートン(p3p001966)
とんでも田舎系灰色熊
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
両極 優樹(p3p004629)
天邪鬼七変化
サンズイ(p3p004752)
水心

リプレイ

●さざなみの便りにのせて
 木製トレーにのったハンバーガー。腕を組む白虎の獣種。
 遠いさざなみと海鳥の声をよそに、『白朧牙虎』ブルーノ・ベルトラム・バッハ(p3p000597)は少し遠い目をした。
「海か……あんまり縁がなかったが……」
 彼の隣では『水心』サンズイ(p3p004752)が目を瞑ったままスムーズにハンバーガーをかじっている。
 ブルーノの様子に何か気づいて一度手を止めたが、すぐにハンバーガーへと戻っていった。
 さいごの一口を飲み込んで、親指をぺろりと舐める『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)。
「薬だけじゃなく想いも託されたみたい。頑張らないとね」
「島で待つ子のためにも、薬は絶対に届けないとだね! がんばろー!」
 おー、と拳を掲げてみせる『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)。
 彼らの目の前には薬の瓶が置いてある。これをディケンズ島まで運ぶことが依頼内容だ。
 それに加えて依頼人の商人オリバー氏が行なうはずだった商品の売りつけや買い付けが出来れば上々。道中遭遇するであろう海賊からも身を守れれば更によし、である。
「まずは商品の売りつけや買い付けをしないとね。僕は商売のことなら分かるから、売りつけを担当するね」
 そう言って横目に見たのは『とんでも田舎系灰色熊』ワーブ・シートン(p3p001966)だ。一般的(?)なグリズリーベアだが、鞄やベルトを装着して普通に食事をしていた。
「まぁ、おいらはぁ、野性のクマですからねぇ。大道芸でも覚えてれば違ってくるんですけどねぇ。船で見張ってますよぅ」
「んー……せやなぁ」
 『天邪鬼七変化』両極 優樹(p3p004629)も一通り食事を終えて、周りの顔ぶれを一通り見てから手を止めた。
「野菜の売りつけやら向かうかいなぁ」
「本機は帆布の販売を担当する。である」
 横にいた『白亜の抑圧』シフト・シフター・シフティング(p3p000418)も流れるように会話に乗じた。
 白く光る鎧の光沢に混じって、青い目元のシールドがきらりと光った。
 ならば、と胸をはってみせる『大罪七柱』ルクスリア・アスモデウス(p3p000518)。
「余は葡萄酒とチーズを担当しよう」
 どこからか取り出した眼鏡をちゃきっと開いてかけてみせる。
「役割は決まりだね。それじゃあ――」
 彼らは立ち上がり、店を出る。
 オリバー氏の船がすぐ目の前に停泊していた。
 青空のなか、海鳥が輪を描いて飛んでいる。

●奥の手マーチャント
 帆布を抱え、船着き場を歩くシフトとブルーノ。
 長身で尚且つ陽光を照り返すシフトの姿はよく目立つようで、漁師や船着き番たちの注目を浴びていた。
 港には多くの商人が集まり、沿いの市場には様々な商品が並んでいる。
 その中には船の素材を扱う店も少なくなく、帆布の販売もまた例外ではない。修理業者に売りつけるのが確実ではあるが、彼らはあえて船乗りへの個人販売に打って出た。
「なあ、例のデータはとれたのかい」
 振り返るブルーノに、シフトは小さく頷いてメモを渡した。
 造船や修理を請け負う業者を回って帆布の価格を数件ほど調べてきたのだ。
「こいつぁいい。ただ売りつけるより、数字があると断然違うだろうぜ」
 二人は船着き場にやってきたいくつかの船に直接交渉を持ちかけ、やや普通の市場価格で売りつけることに成功した。もっとも卸値よりずっと高い値がついているので充分な儲けだ。
 これで買い付ける分にも回せるだろうと、二人は満足げに頷き合った。

 スカーフと鞄のかけひもを引っ張り、帽子の位置を直す。
 アクセルはぴんと胸を張って港町を見回した。
 身なりのよい通行人を探すためだ。市場で嗜好品を買いに来る人であれば尚良い。
 誰かに頼んでお金持ちさんの所へ行かなかったのは、アクセル自身の目が、経験が、優れた商売知識やセンスこそがよりよい結果をもたらせるからだ。
 あの人だ。アクセルはそう呟くと、傍らに立ったルクスリアに合図を送った。
 ルクスリアはキッチリとしたスーツとインテリジェンスな眼鏡でクールな様相に仕上げていた。髪だって綺麗にまとめて、今から貴族とお仕事をしに行くのかと思うほど整っている。これもまた、ルクスリアがもつセンスのなせるわざだ。
「もしもし、ワインやチーズをお探しですか?」
 アクセルは商売人の口調でそう述べると、身なりのいい紳士を呼び止めた。
 紳士の視線はアクセルにとまり、そのあとすぐルクスリアへ釘付けになった。
 ルクスリアの整った容姿から醸し出される上品な色香と、きりりとした目の力だ。
 『本当の色欲は眼で堕とす』とはルクスリアの弁である。
 二人は捕まえた紳士に早速セールストークを始めた。
 商談は始まる前に八割が決まるというが、商品はもはや売れたも同然であった。
 その後も何度か捕まえた人々に商談を持ちかけた。持ち込んだワインやチーズがそれなりに良いものであったこともあって、売値もまた上々であったという。

 仲間たちがあちこちで商品を売っているさなか、優樹は女性になって市場の野菜を見て回っていた。
 今現在の市場価格を調べるためだ。『足下みられて買い叩かれてもしゃくやろし』とは優樹の言い方だが、弱みを知ることは同時に強みをしるということ。優樹は必要な買い出しのついでに、あちこちで必要な情報を集めていた。
 そういった情報がどこで使われるかと言えば、飲食店への売りつけである。
 男性になった優樹はオリバー氏が持ち込んだ野菜類を飲食店に持ち込み、それなりの価格でまとめ売りすることに成功した。
 充分に野菜を売り、箱を抱えて船へと戻ってくる。
 すると、船の見張りをしていたワーブが出迎えてくれた。
 オリバー氏の船には船番という見張りを代行する人がついていたが、その代金を浮かせた形である。
 船をちらりと見やるワープ。
「まぁ、おいらの体重で沈むほどじゃあ無いと思うんですけどねぇ。体重の重いおいらですからねぇ」

 サンズイがリンゴを手に取り、色や形をかぎ取っていく。
「お、良いもん揃えてんじゃねぇか。オリバーの野郎も安心だぁな」
「オリバーさんってのは誰だい。たまに来る商人さんかい」
 まあそんな所だ。サンズイはぶっきらぼうに切り出すと、オリバーの事情を話してやった。
 どうやら大変なことらしいと察した店の主人はリンゴをおまけしてくれた。
 紙袋に詰め市場を歩くサンズイ。
 ふと見ると、ルチアーノが野菜を手にとって満面の笑みを晒していた。
「これいいね! 美味しそう!」
 ルチアーノがあんまり嬉しそうに振る舞うもので、店に客足が集まっている。店の主人もそれに気をよくして、ルチアーノにいくらかオマケをしてくれた。
 ふと振り返り、サンズイと目(?)があった。
 オマケしてもらっちゃった、と紙袋を掲げてみせるルチアーノ。
 人の世に、情の深きを知ることよ。

 こうして、オリバー氏のするはずだった売り買いを一通り終えた一行は海へと繰り出した。
 向かうは一路、ディケンズ島。

●船旅
 どこまでも続く波。水平線と空。
 鳥も飛ばぬほどの海原を、一隻の船が進んでいく。
 舵をとるのはシフトだ。
 長い腕で舵を握り、上手に船を動かしていく。
 使うのは近道ができてちょっとキケンな海路だ。
 隣ではルチアーノがコンパスと地図を手に行く先を示していく。
 優れた航海術をもってはいないが、適切な道具があればそれなりの航海はできるもの。そこにシフトの操縦技術が合わさって、彼らの船は上手に海路を進んでいた。
「雲が出てきたね」
「……」
 ちらり、と空を見やる二人。
 シフトの目元を覆ったシールドに暗雲の影がかかり、ルチアーノもまた目を細める。
 このまま荒れたりしなければよいが……。

 一方で、ルクスリアはエプロンをつけて倉庫の野菜を右から左へチェックしてまわっていた。
 広げたメモには乗員(今回参加した八人のメンバー)のもつ食べ物への好みが書かれていて、苦手なものや体質的にダメそうなものは取り除く工夫がなされていた。
 色欲の化身ことルクスリアが言うには『料理とは即ち、心を虜にするための色欲の必須科目である!』だそうである。
 料理はルチアーノと交代で行ない、船旅中はそれほど食事に飽きること無く続いていた。
 特に助かったのは途中の食材調達である。
「暇な時間は釣りをするに限る……」
「確かにな……」
 ブルーノとサンズイは船の端から釣り糸をたらし、魚釣りに興じていた。
 釣りはストレスの解消にはよいという。釣果はなくてもよいのだ。なぜなら……。
「まぁ、こんなところでぇ、川の鮭取りが役に立つとは思ってなかったですよぅ、うん」
 ワーブが漁業技術を使って上手に魚をとってきてくれるからだ。
 安定した供給源があるのは、なかなかに心が落ち着くものである。
 ワープがカゴに入れた魚を、ブルーノとサンズイは頷き合って運んでいく。
 今日もまた、魚料理が食べられそうだ。

 夜になればまた別の楽しみも生まれてくるもの。
 優樹は持ち込んだカードゲームで仲間たちと遊び、時にはリュートを奏でて見せた。
 そういうことならとアクセルが穏やかに歌い出し、船内はまったりとした空気に包まれるのだ。
 だがそれも、永遠の安息ではない。
 この海域に現われるという海賊たち。その情報を知らぬ彼らではないのだ。

●海賊
「あ、なんかぁ、こっちに近づいてるですよぅ……まずいですよぅ」
 ワープが船の端から遠くを眺めていた。
 明かりをつけた船がこちらに近づいてくるのだ。
「灯りは消していたはずだけど、近すぎて気づかれちゃったかな?」
 ルチアーノは夜目をきかせて船の情報を探っていく。
 襲いかかってみてそれがよその商船だったら大変だ。
 だが海賊船なら、身なりや振る舞いで分かるはず。
「ビンゴ。ここは任せるね」
 ルチアーノは縄ばしごをするすると上り、高所をとった。
 飛行し、同じ位置をとるアクセル。
 ワープの呼びかけで起きてきた仲間たちがそれぞれ武装し、船の甲板へと集まった。
「これより戦闘を開始する。である」
 大きな揺れに注意せよ。シフトは舵をおおきくきると、自分たちから海賊船へと襲撃を仕掛けた。

 誰よりも早く先手を打ったのはルチアーノだ。
 相手がこちらとの距離をはかりあぐねている間に船ごと近づき、ぱっと明かりをともす。
「折角だから全員こっちに来なよ?」
 などと挑発しながら、海賊船めがけてマスケット銃を撃ち込んだのだ。
 同じくマジックライフルで射撃を行なうアクセル。
 彼らの攻撃に操舵手や船番たちは身を隠し、襲撃チームがこちらの船にフックを飛ばしてくる。
 優樹やワーブが迎え撃つように飛びかかり、本格的な戦闘へと発展していく。
 相手の船からもライフルで銃撃してくる敵がおり、アクセルやルチアーノたちは軽く身をかわしながら応戦を始めた。
「船長っぽいひとを狙おうよ」
「……攻めるね。いいよ、乗った」
 ルチアーノは漆黒のマスケット銃をさらりと撫で、引き金へと指を当てた。二人の撃鉄が音をたてる。

 ワープや優樹たちのいる甲板でははやくも混戦状態に入っていた。
 相手に飛びかかるワープや、組み付く優樹。
 底へ混じるように、エプロンを後方へ放り投げたルクスリアが杖をとる。
 そばではブルーノがファイティングポーズをとって敵の配分を見極めようとしていた。
「船から撃ってくる連中が邪魔だな」
「防御を気にせず突っ込めばよい。任せておけ」
 手をぐーぱーさせるルクスリア。青白い魔力の光があふれている。
 よし、と低くなって走り出すブルーノ。
 船から浴びせられる銃撃に構わず突っ込んでいく彼へ、ルクスリアは回復魔術を光線のようにしてブルーノへ注ぎ込んでいった。
 銃撃をうけるそばから回復し、敵の最前衛にパンチを叩き込むブルーノ。
 彼の拳が顔面にめり込み、流れるように繰り出された腹へのパンチが相手を吹き飛ばした。手すりを超え、海へと落ちていく。
 一方で、剣で武装した海賊とサンズイが激しく打ち合っている。
 連続で繰り出される剣をサンズイが刀で次々と払い、逆にサンズイが隙をつくように打ち込む斬撃を海賊もまた必死に打ち払うという構図だ。暗がりにばちばちと火花が散り、そのたびに目を閉じたサンズイの顔が照らされる。
「獲物が見つかったかとおもったかぁ? はっ、喰われんのはてめぇの方だ、覚悟はいらねぇから情けなく泣いて死ね」
 そんな現場で猛威を振るったのはシフトの豪腕である。
 長い腕を豪快に振り回し、海賊たちを次々に撥ね飛ばしていくのだ。
 まるでコマに弾かれる小石のごとくだ。
 やがて相手を追い詰めたサンズイがトドメをさす寸前で止め、シフトもまた相手の首を掴んで高く持ち上げる。
「殺害処分を推奨。安全性と拿捕した際の生命維持のコスト面で問題が発生する恐れアリ、である」
 高所から声をかけるアクセルとルチアーノ。
「こんな感じだけど、どうする?」
「逃げた方がいいと思うな、オイラは」
「……チッ」
 相手の船長らしき男が舌打ちし、声を上げた。
「割に合わねえ、ズラかるぞ!」
 海賊たちは船に置き去りにされまいと必死に逃げ、海賊船もまた明かりを消して夜の海へと消えていった。
 積荷を逆に奪えりゃよかったのにとサンズイが呟いたが、それはそれ。オリバー氏の船や買い付けた品やお金、そして仲間たちが無事であることがなによりの成果だった。

●ディケンズ島に待つ人々は
「もうじき到着、である」
 何回目かの夜が明け、遠くに見える島にアクセルは顔を明るくした。
 交代制で操縦をしていたシフトも、朝日に照らされて少し誇らしげに見える。
「皆、島が見えてきたよ!」
 アクセルに呼ばれてサンズイやルクスリア、そして優樹たちが寝所から出てきた。
「さてぇ、あとはぁ、届けるだけですよぅ」
「僕は届けたあとで手伝いもしたいな。文字通り、乗りかかった船だしね」
「ま、それはともかく……しばらく島でゆっくりしたいもんだ」
 ワープやルチアーノ、ブルーノたちもどこか表情が明るそうだ。
 船はやがて港へとつき、待ちわびた人々へ『オリバー氏の代行だ』といって薬や物資をおろしていった。
 彼らは感謝とともに歓迎され、暫くゆっくりした後に、また船を出したという。
 今度はゆっくりと、帰りの船旅を楽しむように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 皆様のおかげで多くの人々が救われたことでしょう。
 商売の工夫や船旅の工夫、戦いの勇士……たいへん立派でございました。
 またのお越しを、心よりお待ち申し上げております。

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