シナリオ詳細
密猟団と猫をめぐる冒険
オープニング
●宵闇の予告状
街から猫が消えている。宵闇の狼が猫を攫って行ったんだ。
こんな噂が流れ始めたのは、今月に入ってからのこと。
まず、消えたのは野良猫。まぁ、街中を隈なく探せば一匹や二匹は残っては居そうだが、目立つ動きをしていた猫は全て姿を消してしまっただろうか。
次には地域で飼っている猫が消え、最近では、家で飼われている猫も忽然と姿を消し始めているという。
猫とすり替わって置かれているのは、宵闇に吠える狼のカード。
その裏にはいつも、こう記されていた。
『あなたの猫をいただきました』
宵闇の色のカードはその日、アイルーロス家の玄関にも落ちていた。
この家には猫が100匹住んでおり、街でも有名な家だ。
そのカードを拾い上げたのは、学校に登校しようこの家を出た娘・フィオ。
小首をかしげて宵闇を眺め、ふと裏返せば、乱雑な文字が彼女の顔を一気に青ざめさせた。
「……大変だわ……!」
その裏には、こう記されていた。
『今夜、あなたの家の愛猫を、全ていただきに参ります』
宵闇の狼がご丁寧に予告を残していくなんて、今迄に前例がない。
これは、この家の猫を根こそぎ攫うという自信の表れでもあった。
●猫をめぐる冒険
「はわわー、皆さん依頼なのですっ。用心棒の依頼なのですよ!」
青白い翼をパタパタ揺らして、ユリーカ・ユリカ(p3n00002)がギルド・ローレットに集まっていた冒険者の前に現れた。
彼女は片手に資料を抱き、もう片方の手で、清楚そうな少女の手を繋いでいた。
少女は半泣きになりながら、宵闇色のポストカードを握りしめている。
「今回みなさんにお願いしたいお仕事はですね、こちらのフィオさんのお家である、愛猫家の富豪・アイルーロス家の猫100匹を、密猟団から守るお仕事なのです」
と、近くのテーブルに羊皮紙の資料を広げだしたユーリカ。冒険者が集まってくるのを確認して、えーっとですねと説明を始めた。
アイルーロス家には100匹の猫がいる。皆、この家の主人や奥方が保護、飼育している猫だ。
この猫たちを狙っているのが『宵闇の狼』と名乗る密猟団。規模はたいして大きくない。故に自分たちの規模を拡大させるため、猫を攫っているらしい。
「この件についてボクが調べたところによるとですね、彼らの目的は猫を攫って売り払うことではありません。猫を殺して『お腹の皮』だけを必要としている人に横流しをして、お金を稼いでいるのです」
ユーリカによれば、猫の皮を使って作る楽器があり、その音色は聴く人の心を魅了する力があるらしい。勿論、猫の皮を使わずに作ることもできるが音の質が落ちるため、猫の皮を求める声が多いらしい。
ということは、猫皮を買い付けるためなら、チャリンチャリンもはずみますよ。と言う者もいるわけで……。
「みなさんにお願いしたいのは、さっきも言いましたアイルーロスさんのお家の猫たちを、密猟団から守ること」
と、資料であるアイルーロス家の見取り図を指差した。
玄関を入ると、広々としたエントランス。目の前に階段を見、右手には応接間とダイニングとキッチン、左手には浴室やお手洗いなどがある。階段を上がると、部屋が6つ。夫婦の寝室と、子ども部屋2部屋。残りは客室だ。
「入り口は、玄関とキッチンのドアだけですけど、窓から飛び込んでくるってこともあるでしょうか……。入ってきてほしくないドアや窓を固く締めるっていうのもありでしょうね。まぁ、そこは皆さんに任せるのです」
と周りを見回したユーリカは、
「いくら金欲しさとは言え、人の家の猫を攫うなんてダメダメなのですよ」
と、ぷっくりと頬を膨らませた。
その隣で黙って話を聞いていたフィオは、お願いします! と声を張るなり深々と頭を下げた。
「どうか、うちの猫たちを守ってください。皆大切な家族なんです……。みなさんだけが頼りなんです……!」
- 密猟団と猫をめぐる冒険完了
- GM名朝日奈万理
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年03月03日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●日中から夕方のこと
イレギュラーズたちはギルド・ローレットで説明を受けてすぐに、依頼人のフィオと共にアイルーロス家に向かった。
「みなさん、お忙しい所を我が家にお越しくださってありがとうございます」
イレギュラーズを出迎えたこの家の主人の声は暗い。密猟団『宵闇の狼』からの予告状を受け、猫たちのことが心配で心配で今日の仕事を休んだ。彼の隣にはフィオの他に二人の子どもが、やはり不安そうにしていた。夫人はあの予告状を見て倒れ、床に臥せっているという。
そんな主人達の心配もどこ吹く風。猫たちは自由気ままに家の中を闊歩し、走り回り、昼寝をし、日向ぼっこに興じ。自由気ままにしていた。
「はじめまして、スティリカなのですよ。こっちはケットとシーですよ。皆さんのお名前も教えてくださいです」
動物疎通を使い、『ねこ』スティリカ=フォルクロール(p3p004676)は猫にぺこりと挨拶。
猫たちは次々に自己紹介を始める。その力がないものが聞くとにゃーにゃー鳴いているようにしか聞こえないが、一匹一匹が名を告げているらしく、スティリカはうんうん頷いて聞いていた。
猫全員の名を覚える気満々でいるスティリカはではあるが、一度に100匹もの猫の名前を覚えられるかはさておき。
「本当に、よろしくお願いいたしますっ」
と不安げにしていたフィオが頭を下げた。
彼女の手はあの予告状がまだ握られている。この状が、確実にこの家の猫を攫うという『宵闇の狼』の自信の現れ。
なぜ奴らが今まで予告を成功させたのか。単純に警備が希薄だった点以外に、もしかしたら内部からの手引きも考えられる。
そう考えたリジア(p3p002864)が主人に問う。
「この家には、あなた方家族と猫、だけなのか?」
「あぁ。私と妻、3人の子供だけだ」
家族だけで住んでいるとなれば、内部の人間を買収することは不可能。
だとすると『宵闇の狼』は相当のやり手か、ただの無鉄砲か――。
「今日はこれから訪れる客人にも注意しておきましょう。事前の斥候の可能性もございますから」
宅配便辺りが最有力でございましょうか。 と、メイド姿の『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)が主人に告げた。
間取りを確認するために一通り家の中を見て回り、キッチンの扉から侵入させる作戦を取るイレギュラーズたち。
再びエントランスに戻り、『宵闇の狼』をキッチンで迎え撃つことを決定した。
心配顔の主人に声をかけたのは、『LV3:ワイト』スリー・トライザード(p3p000987)。
「このキッチンから侵入させ、迎え撃つ策を取りたいのですが」
「あぁ、構わない。うちの大切な家族を守ってくれるなら……」
『翼の無い暴食の竜』ヨルムンガンド(p3p002370)は主人の言葉を聞き、足元にじゃれてきた猫の額を指先で撫でた。
「皆大切な家族………か。種が違うのにそう言ってもらえるなんて羨ましいなぁ……!」
ヨルムンガルドの指先に安らぎを感じ、今度はころんとお腹をみせて寝転ぶ猫。半竜の彼女にも心を許すのは、この家の人たちにたくさんの愛情を注いでもらったからだろう。
「……そんな関係を壊そうとする奴等……私は許さないぞ。主人、この子たちは絶対に守って見せるからな」
主人に依頼の成功を約束するヨルムンガルドの手が猫のお腹にいってしまっているのは、仕方のないことであった。
その後、イレギュラーズと主人はキッチンに最低限戦闘できるスペースを作り上げる。
「お犬様やお猫様は、古来より人間の良き友人であったと言います。その絆を破壊せしめんとするとは、『宵闇の狼』、万死に値する悪党でございますね」
メイド服に身と包んだエリザベスが、キッチンの調度品を移動させながら苛々とつぶやいた。
「自分も動物を商売の出汁にする卑怯な輩は、絶対に許さないでありますっ!!」
ぷっくりと頬を膨らませて『銀翼は蒼天に舞う』エルヴィール・ツィルニトラ(p3p002885)も、椅子を運び出す。
この中で一番怒りを露わにしているのは、『月夜の仔狼』クロ・ナイトムーン(p3p003462)であろう。
「猫を狩る。許せない。それ以上に、狼を名乗ってるのが。すごく、腹立つ。狼の狩りを気取ってるのかもしれないけど、こんなの借りじゃない。金の為、殺しているだけ」
狩人であり狼の特徴も有するクロ。故に、狼を名乗り卑怯な手を使って猫を攫い食い物にしている『宵闇の狼』に憤りを禁じ得ないでいた。
『通称アオイ』A01(p3p000990)もテーブルや作業台を移動させながら、思う。
お腹が空くから牛や豚を殺して食べる。
楽器に使うといい音が出るから、猫を殺して皮を剥ぐ。
この違いがA01にはわからなかった。
(「猫も他の家畜のように養殖して使えば良かったんじゃないかな。人のものを使うからいけないことなんでしょ?」)
だけど、『マインドサーチ』が教えてくれる。
仲間たちの怒りや悲しみ。この家の人たちの不安。
(「それだけないものがあったりするのかな……分からない」)
A01が目を落とす先では、若い猫たちが思い思いに過ごしていた。
キッチンの外に移動させられる家具や調理道具などは極力エントランスに。出せない大物は戦闘の邪魔にならないように部屋の隅に寄せた。
キッチンに広いスペースを取った後は、この家の窓という窓に板を打ち付ける。侵入場所を制限して狙い通りの場所――キッチンに密猟団を集めるためだ。
夫婦の寝室にはショックを受けた夫人が寝ているため、フィオが夫人に状況を説明し、板を打ち付けるための許可をもらう。
その他の部屋の窓にも板を打ち付けていくが、その間にもイレギュラーズの足元では猫が遊び、ソファーやベッドなどのファニチャーでは猫が気ままに昼寝をしていた。
板の打ち付けを手伝うリジアの周りでも猫が遊ぶ。
彼らはリジアのまわりをウロチョロするが、リジアはまるで相手にしていない。
懐かれてしまったら、どうしたらいいのかわからなくなるから困る。と思っているから。
それでも横目でちらと見ると、もふもふの毛玉が自分を見上げて鳴いている。
「……毛が、多い……。も、ふ……?」
触れてみたいという感情は小さく頭を振って振り払う。
「……い、依頼だ。……か、関係ない。……密猟団というのを何とかすればいいのだろう……」
最後に煙突の屋根にも蓋をして、この家で人が出入りできる場所は玄関とキッチンの扉のみとなった。
「夕方前には、戻ります」
キッチンの扉からスリーが向かう先は、猫を攫われた近所の家。
攫われた猫への彼等の想いを、受け止めたいと思ったからだ。
この家のメイドに扮したエリザベスが彼を見送ったところで、少し早い猫のエサの時間となった。
「それにしても、襲撃前に予告を出すなんて相当自信家だよな」
猫のご飯タイムに混じるヨルムンガルド。たくさんの猫と信頼関係を築くべく、一緒に食事。
カーペット敷きの床に座わる今の私は竜ではない、猫だ。と暗示を掛けつつ、動物疎通で猫達に話しかける。
「主人たちの様子で察してる仔もいると思うけど、今夜怖い人たちが来る。お腹の皮を剥がされるから危ないんだ」
すると、猫たちからは様々な反応が返って来る。
怖がる仔もいれば自分たちも戦うと意気込む仔、やけに楽観視している仔もいて。
「一緒に戦ってくれるって気持ちだけ受け取るよ。で、自分は大丈夫ーって気楽に考えちゃダメ。外の猫はみんな連れてかれちゃってて、私たちは君たちのご主人にお願いされて来たんだ」
ご主人という言葉を聞いて、ばらばらだった猫たちの反応がひとつになる。この家の人たちが猫を愛するように、猫たちもまたご主人を慕っているのだ。
ヨルムンガルドは、猫が食べられそうなものを分け与え、
「私たちは君たちの仲間だ、君たちを守りに来たんだ」
「お前達、最近、猫達が居なくなってるの。知ってる?」
クロも動物疎通を使い猫に話しかける。
首をかしげる仔もいれば、おれ知ってるよーとお話ししてくれる仔もいる。
その話にじっくり耳を傾けた後、クロは真実を猫たちに告げる。
「今夜、猫をさらってる奴らが、お前達をさらいに来る。お腹の皮、剥がれる」
剥がされたらどうなるのかななどと話し合う猫たちは、彼等なりの結論に至りひぃっと縮みあがる。
「こわがらせてごめん。でも、オレ達が、守る。狼は、オレ達が狩る。だから、協力して欲しい」
動物とコミュニケーションが取れる仲間がいることに安心するエルヴィール。自分も猫との絆を深めるべく、食後の運動をしたい仔の相手を買って出た。
「ほら、ネズミでありますよー」
ひも付きのネズミのおもちゃで猫を誘えば、元気な子たちは一斉にそれに跳びかかる。
「わわ、そんなにいっぱいで追いかけられたら……動きが間に合わないでありますー」
スティリカも猫じゃらしをふさふさ揺らして猫と遊ぶ。
「夜までにはお友達になれるといいですねー」
スリーの帰還後、キッチンの扉の内側に小さな鈴をつけたのはヨルムンガルド。
これが鳴った時が、始まりの合図――。
●夕方になって夜になる
この日は親子が別々の部屋で過ごすことは危険と判断したイレギュラーズたちは、事件解決までの間、家族5人は夫妻の寝室で過ごしてもらうことにした。
施錠の音も確認して一階に降り仲間と合流したA01は、マインドサーチを使い『宵闇の狼』の気配を探る。
入れ違いに階段を上がるのは、腕に少しだけでっぷりとした猫を抱いているスリー。猫を避難させている部屋をノックし、
「失礼します、一階に居りましたので」
と猫を離せば、目の前のエルヴィールが30匹ほどの猫に囲まれていた。聞けば、自分にマタタビの粉を振りかけて自分に興味を持たせ、猫がこの部屋から出て行かれない作戦を取っているという。
「気紛れなのに、ふとした瞬間に甘える仕草……簡単には懐かない気高さ……はぁ~素敵であります……。ではなくて! 連行、感謝であります」
と、スリーを見、礼を言ったエルヴィールは、まるで歩く猫の好物だ。
この様子ならこの部屋の猫はどこかへ行くことはあるまい。スリーは小さく頷いて自分の持ち場に戻った。
後の60匹余りは、クロとスティリカが別々の部屋に避難させていた。
いつも通りにリラックスし、思い思い動くクロの部屋の猫。そんな彼等を見守りながら『月に魅入られしケモノ』で外の音に耳を澄ますクロ。日中には赤かった瞳はいつの間にか金に輝いていた。
「わたしを含めた8人は、皆さんを守るために来たですよ」
スティリカの説明に、勇猛な数匹が自分たちも闘うと言う。
「じゃぁここで守ってもらうために動かないのです。一緒にみんなを守るですよ」
そう言うスティリカはにっこりと笑んだ。
いつもであれば、アイルーロス家の消灯は夜10時。
そこから一家が寝静まり、全員が深い眠りに付くのがその30分後と仮定すれば、もうそろそろドアが開いてもおかしくはない。
なのに今、エントランスの時計が午前0時のベルを鳴らし終えても、狼たちの気配を察知することができずにいた。
日中に窓に打ち付けた板によって、キッチン以外の部屋の明かりがつかなかったことを『宵闇の狼』が不審に思い警戒している可能性は十分にあり得たが、今となっては後の祭り。彼等を捕まえることがこの依頼の目的である以上、彼等が突入してくることを信じて待つほかない。
それから一時間が経っただろうか。
キッチンで気配遮断を纏い『マインドサーチ』を巡らせていたA01がはっと頭を上げ、囁く。
「……集団の感情を捉えたよ」
その言葉は仲間たちに届き、場の緊張はさらに増す。
A01が知っている感情は少ない。現に今察知している感情の名前をA01は知らない。だけど彼の表情は語る。この感情の群れは『嫌』だ。
「熱源も感知できましたわ」
エリザベスの温度感覚も敵の集団を捉える。壁の周りをぐるりと回る黄緑色の影が10。影はしばらく建物の周囲をまわり、キッチンの扉から侵入できることに気が付いた。
リジアもいつでも迎撃できるように武器を構える。
チリリンと鈴が鳴る。ドアが開いた音だ。
だけど『宵闇の狼』はその音を猫の首輪の鈴だと思っているらしく続々と入ってくる。
……7、8……。窃盗団の人数を心で数えるA01。最後の一人が扉を閉めたその時、
「……10。これで全員」
声を上げた。
その声に驚きし怒鳴り声を上げた『宵闇の狼』を映し出したのは、スリーとリジアの灯したカンテラだ。
「猫を狙う狼がいるのでしたら、それを猟師が狩るべきでございましょう。参りましょうか」
エリザベスは、自分に一番近い男に衝撃を与え吹き飛ばした。飛ばされた男は壁に体を打ち付け、痛みにうなり声を上げる。
「チッ、やっぱりそういうことだったのかっ!」
やはり、いつもと違う家の様子にそれなりに警戒はしていたらしい『宵闇の狼』の面々。だが、金に目がくらんで突入を決意したのだ。悔しさと焦りで歯を軋ませる者もいれば大声を上げるも者もいる。
だが、飛んで火にいる夏の虫。覆水盆に返らず。
「しょうがねぇ、やっちまえ!! 一匹でも猫を捕まえろ!」
頭と思われる男の合図に、一斉に武器を振りかざす男たち。イレギュラーズたちはその攻撃を次々とかわし。
「猫を、いただく? ……貴方方は、勘違いをしている」
スリーの切れのある蹴りは一番近い男の腹に入る。
「貴方方が奪っているのは、掛け替えのない家族、そのものです」
ロングボウのトリガーを引き、後ろの男を射抜くA01の目に飛び込んだのは、猫。
「猫だ……!」
叫んだ密猟団の男よりも先に手を伸ばすと、「ここにいて」と咄嗟に自分の懐に収める。
仕事だから身体が動いたのだと思った。だけど、猫に恐い思いをしてほしくないとも思ったのだ。
「ナイスっ!」
彼の動きを誉めたヨルムンガルド。目の前の男をシールドで思い切り殴りつけると、男が落とした武器を後ろに蹴った。あとで『ワールドイーター』――食べるためだ。
男は途端に震えだす。もう身を守る武器がなくなったからだ。
「……や、やべぇよ……」
と声を上げ、逃げ出そうとする男をリジアは見逃さなかった。
「……逃がさない」
と魔力を放出し、扉に手を掛けた男を気絶させる。
一階で行われている闘いの音は、もちろん二階にも響ており、エルヴィール、クロ、スティリカもそれぞれの部屋で猫を見守りながら、万が一の時にすぐ動けるように得物には手をかけていた。
『宵闇の狼』にこの扉を開けられて、猫たちが部屋から出てしまったら、すなわちそれは敗北を意味しているから――。
「この階に猫はいねぇ、二階だ!!」
頭の一声に、強行突破を図る男たち。
「あら、突破できると思っておいでですか?」
妖艶に目を細めたエリザベスは威嚇して男をひとり床に沈めると、リジアも同じく威嚇して男の動きを止める。
スリーも華麗な蹴撃で男を倒すと、組技で男を薙ぎ倒したのはA01。
「……こんな簡単にやられやがって……!」
最後にひとり残された頭の男が倒れる仲間を見てギリギリ歯を軋ませるが、最後の足掻きとばかりに突っ込んできた。
「この悪行を大いに反省するんだねっ!」
タイミングを見計らったヨルムンガルドの蹴りは見事に頭の男の鳩尾を抉り出し。
頭の男は悶えながら崩れ落ちた。
猫の護衛の三人の合流し、イレギュラーズは手負いの『宵闇の狼』を縛り上げ、後はお説教タイム。
今までの被害者の声を聞き回っていたスリーは、彼らの声を想いを伝え。
「兄弟姉妹のように、子供のように、パートナーのように想われてきた存在を、奪い、殺し、皮を剥ぐ。このような事を、まだ続けるのですか……?」
スリーの言葉に『宵闇の狼』達はふるふると頭を横に振る。彼の姿でこの言葉にこの口調は、今の彼等にとっては恐怖でしかなかった。そんな彼らをさらにすくみ上らせたのは、怒りに揺れるクロの金の瞳。
「月を見る度、思い出せ」
本物のケモノが、いつでも、お前達に牙を剥くぞ……。……腹を裂かれる気分を、味わわせてやるから。
そう呟けば、男たちは今度は頭を小刻みに縦に振った。
「人に限らず……大切な相手が居なくなるのはお前達も辛いだろう……?」
ヨルムンガルドの言葉は恐怖におびえる男たちの心にじんわりと沁みていく。
田舎の母ちゃんを思い出す者や昔飼っていた動物を思い出す者もいて、密猟から足を洗うという声も上がった。
「そう、清い心を思い出してまっとうに戻れ。それに猫は……可愛いぞ」
『宵闇の狼』を追い返して、感謝を述べたアイルーロスの人々と窓の打ち付けた板も撤去。
猫たちも続々と自分のお気に入りの場所や寝床に散っていく中。
A01の服の間から顔を出して猫が鳴く。戦闘中に身を呈して守った仔だ。
(「猫、無事で嬉しい……かも……」)
エリザベスもしゃがみ、寄ってきたべこの頭をなでながら、思わず微笑む。
「お猫様の温かさは胸の奥まで温かくなる不思議なものでございますわね」
『猫幻想』持ちのスリティカが鼻をくんくんさせた先は、エルヴィール。
「なんか、マタタビの匂いがするですよ」
とスリティカ、まさかの仲間に絡みだしたのだった。
猫は嫌いじゃないが、自分も『狼』。
怖がらせないうちにここを出ようと踵を返したクロの足元にすり寄ったのは、紛れもない猫だった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
PPPでも初シナリオのご参加くださいまして、ありがとうございました。
楽しんで執筆させていただきました。
『宵闇の狼』撃破、猫が一匹も捕まらずに済んだのは、皆様の奮闘の賜物です。
この街の野良猫も地域猫も、そのうちに増えていくでしょう。
本当にお疲れさまでした。
GMコメント
はじめまして、朝日奈万理と申します。
よろしくお願いいたします。
●成功条件
密猟団の撃退。
●情報確度
【A】予定外の事態は起こりません。
●密猟者
10人程度の人間。
接近武器を持つものが大半ですが、遠距離武器を扱う者もいます。
そんなに強くはないので、半殺しにして追い返すなり、諭して改心させるなりはお好みで。
●猫
猫たちは自分たちが攫われるだなんてみじんも知りませんので、ものすごいフリーダム。
戦闘になってる現場にひょっこり現れるかもしれませんし、密猟団にすり寄る超絶人懐っこい猫もいるでしょう。
もしかしてこいつら、密猟団より厄介かも……。
こいつらを何とかすることも、成功につながるカギになると思います。
それでは、ご参加とプレイングをお待ちいたしております。
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