PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バレンタインおっらぁぁあああ!!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「すぅぱぁああ! カップル滅べキイィィッックゥ!!」
 ドゴォ!
 街の往来ど真ん中でキスをしようとしていたバカップル(の男のほう)が、腹にとび蹴りを食らい吹き飛ばされた。
「きゃぁぁ、男くーん! ちょっとアンタ、何すんのよ!」
 眉を歪ませた少女の視線の先で、黄髪ツンツン頭の男は清々しささえ覚える晴れかさでこう吼えた。
「人前でいちゃつくクソカップルどもに憤怒の鉄槌を下す!」
『憤怒! 憤怒! 憤怒!』
 リーダー格と思わしきツンツン頭を囲むように10人の男達が並び憤怒コールする。
「意味わかんない……」そうつぶやきだけを残して逃げていく少女を視界の隅に置き、男達はガッツポーズで喝采を上げる。
「よっしゃああ! カップル粉砕!!」

「リーダー! あそこのカップルがいちゃいちゃジュース飲んでます!」
 取り巻きの一人が指をさす。その先では、ひとつのカップルストロー使って「照れちゃうね」とかまんざらでもない顔しちゃってる男女の姿。
「でんじゃらすぅぅ! 良縁引き裂きチョォォップウウゥ!」
 グシャァ!
 グラスをテーブルごと叩き割った。
「なんなんだアンタ達!」
「ヴァレンタインは良くない文化!」
『良くない! 良くない! 良くない!』
「……、向こうへ行こう」関わらぬことが最善と判断したカップルの選択に間違いはあるまい。だが、男が女性の手を引いたことが失着であった。
「俺達の前で女の子と手を繋ぐなぁぁ!」
 ドゴォ!
 リーダーと呼ばれた男は助走をつけてドロップキック。カップル(男のほう)は放物線描いて吹っ飛んだ。
「いやぁぁ! 彼氏くーん!」
「いよっしゃぁああ!! カップル爆砕!」

「リーダー! あそこのご老人達が仲良く手を繋いでいます!」
 ばぁさんいつもありがとうな。いえいえこちらこそおじいさん。年季の入った幸せ感がただよってる老夫婦。
「あれは、……。
 ほのぼのとするから、良しッ!」
 あ、それはいいんですね。
「でっけぇ! 器でっけぇよリーダー!」
「よっしゃあああ!!!」


「潤いは大切だわ。鮮やかな極彩色でさえ、見るものの心が枯れていては毒々しく映るもの」
 集まったイレギュラーズを前にしてプルー・ビビットカラー(p3n000004)は切り出した。
「今回はそんな、チャコール・グレイのように干からびた心に水を与える依頼。
 に、なるのかしら?
 ふふ、そうね。額面通りに依頼内容を読み上げるなら……『バレンタインイベントの妨害』ですって」
 クスクス、と。要領を得ないといった面々を楽しげに観察しながら、プルーは言葉を続ける。
「依頼主は、とある貴族。その溺愛する息子が、カップル達のバレンタインイベントを邪魔するために、憤怒のバレンタインという事件を計画しているの。
 ことが大きくなりすぎる前に止めてくれ、という主旨の依頼だわ」

 ユリウス。それが貴族の息子であり、憤怒のバレンタイン事件の首謀者でもある男の名前であった。
 彼はこれまで女性とお付き合いした経験がなく、自身に好意を寄せてくれる女性などありえないと卑屈になっている。
 ユリウスをとりまくのは10人の男達。いずれも女性と手をつないだ経験すらなく、バレンタインを楽しむカップルを呪っている。

「憤怒のバレンタイン、の計画の中身だけれど。街でデートを楽しむカップル達の邪魔をしよう、というものね。
 方法は主に物理攻撃。けれど、彼らの行動は時間の経過と共にエスカレートしていくわ」
「つまり、連中の迷惑行為を止めればいいんだな?」
「優秀な回答ね。ただ、今回の依頼に限っては最初に起こすアクションとしては相応しくないわ。少し、毛色が違うのよ」
 この依頼主はユリウスの父親であり、ローレット以上にユリウスという人物像を把握している。
 その人物から、イレギュラーズによる『バレンタインイベントの妨害』こそスタート時の行動として最適解であると、依頼をしてきたわけだ。
「いちゃつくカップルに水を差せってか」
「一般人の安全性という観点から見ても、イレギュラーズが暴れる演技をしたほうが被害を抑えられると思わ。
 ユリウスはともかく、そのとりまきに対しては説得も有効という情報もあるのよ」
 カップルを憎む(演技をした)イレギュラーズが迷惑騒動を起こせば、一般人は自主的に避難を開始するだろう。
 また、それがユリウス以上にインパクトのあるものであれば、とりまきの一部は心変わりをするなどして、ユリウスから離反していく可能性が非常に高いのだという。
「カップルの避難が終わるとどうなる?」
「つぎの獲物を探しに行こうとするわね。止めれば癇癪を起こして戦闘になる。
 その時点でユリウスに従っているとりまきも敵に回るから、それまでに数を減らしておくことをお勧めするわ」
「他には?」
「現場への到着時間はイレギュラーズのほうが早いわね。一般人にまぎれて、カップルを演じる事もできると思うわ。
 戦闘に適した場所も資料にあるから、目を通しておいて頂戴。
 それから。ユリウスついてはお灸を据えてほしいそうよ」
 まったく、頭の痛くなるような依頼ではある。
「そうそう。街の広場には、ホットチョコが販売されているらしいわ。当日限定なんて、マンゴー・スパイスよね」
 もうどっちが商品名かわかんない。

GMコメント


 こんにちは。とだか露樹(つゆき)です。
 チョコがもらえる予定はありません。
 何卒よろしくお願いいたします。

●成功条件
・イレギュラーズによるバレンタインイベントの妨害行動(一定基準でクリア。周囲の一般人が逃げ出すくらいで大丈夫です。参加者全員が行う必要はありません)
・一般人の被害、及び街の損害を一定以下に抑える。


●情報確度
 Aです。

●戦場
 街の商店街から少し離れた場所に広場があります。
 敵は大通りから広場へ向かってきます。簡単な事前準備、囮役としてカップル参加することは可能です。
 広場にはホットチョコを売っている屋台もあります。カップルストローもついてくる。
 囮役がいなくても一般人カップル20組くらいいます。
 他の戦場選択は推奨しません。

●敵
・ユリウス=グラン
 黄髪ツンツン頭の男。戦闘力はかなり高く強敵です。
 順調な時は優秀な男ですが、ハプニングに弱く、思い通りに事が運ばなければ癇癪を起こし、だんだんと見境がなくなるタイプです。
 今回の行動原理はカップル憎い。と、とりまき達の前でかっこいいリーダー演じたいが6:4くらいの割合です。
 依頼主の息子であるため、生かしたほうが無難です。もともとタフなので、普通に倒しても死ぬことはありません。
 よく見るとイケメン。とりまきには自分が貴族の息子であることを隠しています。

・とりまき10人
 いずれも男性。もてたことない。自信もない。
 戦闘力は大した事はなくイレギュラーズが1vs1で遅れを取ることはまずないです。
 今回の騒動への参加理由はさまざま。説得は有効ですが、同じ内容でも対象によって反応が変わります。アプローチの種類は多いといいかもしれません。
 場にいる中で最もいらっとするカップルに意地悪をしようと、ユリウスをそそのかします。
 ユリウスとは知り合って最長で1週間くらいで、絆とかは薄いです。
 新しいリーダー格が現れれば、どちらについていくか迷います。印象や、ユリウスとのインパクト勝負になるでしょう。
 とりまきがイレギュラーズ認めれば避難勧告にしたがい退場します。戦闘で味方になることはありません。
 とりまきが0になればユリウスのほうから戦闘を仕掛けてきます。

それでは皆様の素敵なプレイング、おまちしております。

  • バレンタインおっらぁぁあああ!!完了
  • GM名とだか露樹
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月05日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュスラス・O・リエルヴァ(p3p000022)
川越エルフ
模蛭 冠度(p3p000870)
モヒカン
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
カレン=エマ=コンスタンティナ(p3p001996)
妖艶なる半妖
忌名 ベイン(p3p002514)
狂気の磔台
7号 C型(p3p004475)
シーナ

リプレイ


 グラオ・クローネでいちゃつくカップルなど爆発してしまえ。
 略してグラ爆。
 言葉自体が檻となり、男達は自縄自縛へと陥ったのかもしれない。
「言霊」
達観めいた響きを声に乗せたのは『川越エルフ』リュスラス・O・リエルヴァ(p3p000022)
「魂が言ノ葉に引きずられる現象なのやもしれん」
「行き着いた先が、憎しみの感情か」
『シーナ』7号 C型(p3p004475)は視線をおろすと、思案する風に一息置く。
 再び顔を上げた時、声には「なんともいえない」といった色が滲んでいた。
「彼らには、止まって貰うとしよう」

 俺の名前は『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)
 召還された時に首から下が妹の体になってしまった。
 俺は一般人の自主避難をフォローしよう。違和感を与えないよう化粧をして女顔にしておくか。
 よし、メイクはばっちりだ。これでスムーズな避難誘導が――
「いまひとつなメイクじゃのぅ」
 え?
「妾に任せるのじゃ」
『妖艶なる半妖』カレン=エマ=コンスタンティナ(p3p001996)の指先に一滴の血がつたう。
 血液は意思を持つように空中へと浮かぶと、やがて極薄の紙を形作った。
『蒼血継手繰り』の名称をもつ、カレンの血液から日用品を精製するギフトである。
 それを手に取りみつきの顔を拭えば、厚い化粧の下に瑞々しい素肌が表れた。
「おお」 
 ギフトで化粧落としの効果をもつ紙を産み出したのだろう。
 同じ要領でメイクを続ける。
 指先に乗せた血液でルージュをひけば、鏡で自身の姿を確認したみつきから感嘆の声がもれた。
「俺、自分じゃ大丈夫のつもりだったが、経験が足りないと厳しいわなぁ」
 みつきの頬が僅かに赤味が帯びていたのは、カレンが息のかかるほどに接近していたことへの気恥ずかしさからだろう。
「素材が良いからのぅ。妾も楽しかったのじゃ」
 みつきが礼を伝えると、カレンは愉快そうに微笑んだ。
 その様子を観察していた『魔剣少女』琴葉・結(p3p001166)へ、不意打ちじみた言葉が投げられた。
「結も女らしさに磨きをかけろよ」
「ちょ! よけいなお世話よっ」
 からかうような語調の声は結と融合した剣、魔剣ズィーガーから。
 恐らくは無意識からだろう。結は後ずさると逃れるように用意した箱を隠した。
「ずいぶんと慣れないことをしたじゃないか」
「う」
 その中身はチョコレートである。魔剣が示すのは、結の手作り。という点だろう。

 イレギュラーズには策があった。
 此度の敵はカップルを憎む男たち。
 リーダー格であるユリウスが実はリア充だった、となれば求心力を失い「憤怒のグラオ・クローネ」は瓦解するだろう。

「私もチョコの用意をしたほうがよかっただろうか」
 外見年齢12歳ほどの少女は呟いた。
『狂気の磔台』忌名 ベイン(p3p002514)のギフト『Second・I』により産み出された、少女の姿を持つ分身体だった。
 声にはあくまで作戦の一貫として色が滲んでおり、少女らしさといった感情は伺えない。
「気にしなくて良いんじゃないかな《Second・I》の人ー。むしろ悩むのは避難誘導ー」
『Esper Gift』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)にとって気がかりなのは、パニックから身動きがとれなくなる一般人の存在だろう。
「彼らが恐怖に身を竦ませる可能性は否定できない。そちらのフォローは私が行おう」
 抑揚のない『Second・I』の声に、クロジンデは「よろー」と軽やかな信頼で返した。


「グラオ・クローネおっらぁあああ!」
 ドゴォ!
「よっしゃあああ! ハートマークの看板粉砕!」
 大通りを我が物顔で歩く集団。先導するのは黄髪つんつん頭の男、ユリウスであった。
 それに続くのは10人のとりまきたち。
『リーダー! リーダー!』
「へへっ」
 心を覆う闇に一筋の光が差し込むような晴れやかさだった。
 悪くない。リーダーともてはやされることは心地が良い。
 上機嫌で大通りから広場へと歩を進める。
 だが、そこでの光景は予想していないものであった。

「オラオラー! 俺様の前でイチャつくカップルはぶっ殺しちまうぞぉ~!」
 ハンマーを盛大に振り回し、広場の中心で大気を震わせている『モヒカン』模蛭 冠度(p3p000870)
 はだけたジャケットからは鍛え抜かれた筋肉が顔をのぞかせている。
「ひぃぃ」
 近くにいたカップルが恐怖にへたりこんだ。
 一本の木を背にするような形となり、頭上を横切るハンマーが木にぶち当たる。
 ズゥン、と。盛大な音を立てて木が倒れた。
 もとよりカップルを狙ったものではなかったが、持ち前の正義感から背筋に嫌な冷たさが走る。だが、それには構わず雄雄しく吼えた。
「ヒャッハー! イチャつく奴らは消毒だぁー!」
 冠度は今、依頼主から指定された『グラオ・クローネイベントの妨害』のために暴れ役を買っていた。
 視界の隅にユリウスと、そのとりまきがいることを認める。
 依頼主から『最初は暴れることが最適解』と指定されれば、それを遂行するのみだ。
 広場から恐慌に陥ったような悲鳴があがる。目の前のカップルは言葉をなくしたように震えていた。
「見ろぉ! この筋肉! このボディ! これこそが真の漢の象徴よ!」
 早く逃げろ、といわんばかりにマッスルポーズをとり時間を稼ぐ。
 結がカップルに駆け寄り「もう大丈夫よ」と、ひょいとカップルを抱えてその場から離れる。
 去り際に冠度へ睨みをきかせた。魔剣ズィーガーも作戦に合わせ黙っていた。

「これは……」
 その様子をユリウスは呆然と眺めていた。
 あんな男は計画にない。グラオ・クローネを破壊するのは俺であるべきだ。
 絡まる雑念の海から意識を引き上げたのはとりまきの声。
「他にも同士がいたんすね。こりゃ負けてられませんぜ、リーダー」
「お、おう」
 だが、そんなユリウスにイレギュラーズが生む試練の波が次々と押し寄せていく。

「あんた。いいねぇ」
 冠度に声をかけたのはユリウスに従っていたとりまきのひとり。
「見ていて清々しいっていうか……、俺、あんたみたいな自由な漢(おとこ)になりてぇ」
 まるで憑き物が落ちたように晴れやかな表情をする男。
「なんだか目が覚めたよ」そう言い残し広場から去っていく。
 その背中に言葉を投げた。
「おい! 真の漢を学びたかったら、いつでも俺様の所へ来い!」
 冠度の声に男は手を上げることで応えていた。

「おい、貴様ッ!」
 胸中の葛藤を飲み込みユリウスは決意の表情で冠度の前に立つ。
「ア~~ン?」
 顎を斜めに上げて舌をべろーんと横に伸ばす。
「憤怒の天の下、真の漢は2人といらんだろう」
 動揺をとりまきに悟らせるわけにはいかない。ユリウスが選んだのは強硬に貫禄を示す道だった。
「どちらがグラオ・クローネの破壊者として相応しいか! この俺と戦え!」
 カップル達のイチャイチャをめちゃめちゃにすることこそユリウスの示す戦いである。
「よっしゃああああ! 盛り上がってきたああぁ」
 歓喜に沸くとりまき達。
 だが、ユリウスにとって更なる誤算だったのは、覇を競う漢がもう一人いたことだろう。

「――ギ」
 否。
「ギ……ギ」
 真のグラ爆、その者に叶わず――

 不穏を察知したようにカラスがギャーギャー飛び立つ。
「ギギギ……」
 日の光を反射して禍々しく輝くのはベインの銀色の髪だった。
「ギァァァァァァァァ!」
 軋んだ咆哮を張り上げ、ベインは重く猛り狂う。
 ドゴォ!
「ハッピーグラオ・クローネ」といたずら書きのされたベンチを粉砕することで参戦表明とした。

 ちなみに「ギギギ」の内容をバベル的に翻訳すれば「やり過ぎて被害を大きくしないように気を付けようか」と言ってる優しい人だった。


 首尾よく暴れ役が注目を集め、あとは誘導役が一般人を安全な場所まで避難させるだけ。
 その矢先に、一組のカップルが耳目を集めた。
「まって! つまずいて足が」震える女性の声。彼氏と思われる背中に静止を求めている。
 だが男は振り返りもせず広場の外へ逃げていく。うちひしがれた様子の女性にみつきは声をかけた。
「大丈夫か? 見せてみろ」
 福音を紡ぎ癒しの力を女性の足におくる。
 治療の間、女性はメイクアップされたみつきの顔へと熱い視線をおくっていた。
「ありがとう。男なんて頼りにならないわね」
 礼を伝えてくる女性に、みつきは苦い笑みを返すことしかできなかった。

 かわいらしいお嬢さんですねおじいさん。そうじゃのうおばあさん。
『Second・I』が老人夫婦の手をうんしょうんしょと引っ張っている。
 ユリウスは困惑した。
(どうしよう。あれってカップル扱いでいいの? あそこだけ別空間じゃん)
 大見得を切った手前、引くに引けなくなったユリウス。
 イレギュラーズの避難誘導の成果か、広場に残るカップルの数は僅かであった。
 とりまきへのアピールのために覚悟を決めるか、別の場所に移動するか決めきれずにいるユリウスへ4人の影が伸びた。

「暴れっぷりを遠目から見てたのじゃ。中々強くて格好良かったのぅ」
「!?」
 それは偽の告白を行いユリウスの信頼を落とすことで、とりまきたちの離反を狙うイレギュラーズの作戦だった。
 4人の美少女から話しかけられるというシチュエーション自体、男たちにとってたまらないものがあるだろう。
「リーダーいいなぁ」とりまきのひとりが漏らす。
 ユリウスは自戒した。
 こんなことで鼻の下を伸ばしてどうする。俺が迷っては誰がこのとりまき達を導くのか。
「色恋沙汰に興味はない」
 かろうじて取り繕った言葉を、だがイレギュラーズは虚勢の類だと看破した。
「あ、あのユリウス様……! わたくしです!」
「ずっとお慕いしておりました、ユリウス様!」
 免疫のない男はこういうタイプが好みだろうとばかりに猫をかぶるリュスラスとクロジンデ。
 それぞれ名前を呼ぶことで親密性をアピールした。

『!? !? !?』

 疑惑の念にかられる男達。視線でユリウスに説明を求める。
「――……」
 だが、言い開きすべき男は空白の中にいた。
 パニックによる一時的な思考停止である。

 ユリウスが固まっている間に偽告白作戦に参加する面々を紹介しておこう。

 カレン=エマ=コンスタンティナ:
 妖艶お姉さん。独自の感性を持っていてマイペース。用意した手作りチョコに激辛を仕込んでいるから気をつけろ。
「妾はカレンじゃ。汝が妾の遊び相手かえ?」

 クロジンデ・エーベルヴァイン:
 愛され系ゆるふわヒャッハーガール。あなた様のことをお慕いしています。みたいなキャラをノリノリで演じている。
「お前もリア充にしてやろうかー」

 琴葉・結:
 素直になれない女の子。力の入りすぎたダークマターなチョコを作ってきた。食べるのを断ると凹んじゃう。だって女の子だもん。時々キャッチコピーが魔剣ズィーガーさんに乗っ取られる。
『甘い依頼が多いが食い過ぎには気をつけろよ』

 リュスラス・O・リエルヴァ:
 とても腕力。
「真っ向から穿伐し、心折りて首もぐべし」

「っは! 夢か!」
 ユリウスの意識が目覚めた。 
 しかし夢オチのはずがなく、反駁のない時間が長すぎた。
 その沈黙が意味するところは男達にとっては一種の肯定だったのだろう。
「よくもだましてくれたな。えぇ? 貴族さんよ」
 貴族の子弟であることはイレギュラーズにより白日の下にさらされていた。
 視線を巡らせば、憤り。泣き崩れといった反応を見せる男達。
 よく見れば「クロジンデとユリウス様のラブラブデートプラン(ハート)」と書かれた高級用紙まで回し読みされている。

 畳み掛けるのなら今が好機だろう。
 偽告白組みは各々チョコを取り出した。

「良ければ受け取ってくれるかのぅ?」
「ユリウス様! どうか受け取ってください!」
「こ、これチョコよ。頑張って作ったんだから、う、受け取ってよ」
「い、いっぱいしゅき///」
『うわぁああああ!!』
 とりまきたちは絶叫した。

 混乱を極める男達へ悠然と歩を進める7号 C型。
 恐らく、とりまき達に必要なのは自身を変えるきっかけだったのだろう。
 ついていく相手を違え、道を踏み外したとあらば哀れを誘う。
「付き合うために誰かを愛する、ではなく」
 とりまきの行く末は40cm程の機械兵士の双肩にかかっていた。
 何事かと瞠目する男達を前にして、静かに息を吐く。
「付き合いたいほど愛する人、が現れる事を願うよ」

 鋭利な鎌を空に滑らせる。
 疾風を巻いて馳せる迅雷が如き鎌さばき。

 死の気配が首筋に迫ったように、とりまき達に汗が浮かぶ。
 言葉を無くしたように立ち尽くす男達に、7号 C型は問いかけた。
「その男の為に、死ぬ覚悟はあるか?」
『お、お助けーーっ』
 蜘蛛の子を散らしたように、多くのとりまき達が逃げ出した。

 追い詰められたユリウス。
 起死回生の一手があるとすれば、やはり暴力に物を言わせたインパクト勝負だろう。
 獲物を求めるように視線を回す。果たしてカップルの姿は、
「!!」
 ――いた。

 ベインと記憶を共有するギフトの少女体『Second・I』は、現在より前に交わした仲間との話を回想していた。

「世の中には、幼女を恋人にしたい大きいお友達ってやつがいるようだぞ。詳しく知らんが」
「なるほど。籠絡も選択肢に入るということか」

 そして今、とりまきに策を実行する。
「お兄ちゃん、今日だけ……わたしのお兄ちゃんになって……?」
 上目遣いでお願いしてみた。
「お兄ちゃんになりましゅううう」

 カップルの定義とは実にいい加減なものである。
 本人にその気はなくとも、どちらかの目がハートマークにでもなっていれば、それを見ている側からはカップル認定されることもあるのだろう。
 例えば――血走った目をして向かってくるユリウスのように。

「バレンタインでチョコもらえないならグラオ・クローネでチョコもらえばいいじゃない開き直りキィィックウウウッ!!」
 ドゴォ!
『Second・I』の手を握ろうとしていたお兄ちゃんとりまきは広場の外まで吹っ飛んだ。

「どいつもこいつもぉおお」
『この裏切りものがぁああ』
 とりまき達もキレていた。
 突如、とりまきの頭に天啓めいたひらめきが走る。
(あいつでもカップルになれるなら、俺らにもチャンスあるんじゃね?)
 ばっと『Second・I』のいた方に向き直る。そこでは、

 ベインが『Second・I』を踏んでいた。

 ん。んー……?
 何かの間違いだと思うから目をゴシゴシしてもう一回見直した。

 ベインが『Second・I』を、


 踏み潰した。


『うわぁあああああああ』

『Second・I』は一定の圧力がかかった時点で消滅しており、スプラッタなことにはなっていない。
 5分のインターバルを挟めば再生成も可能なギフトである。
 だが、それを知るのはイレギュラーズのみだろう。
 とりまきのひとりは少女を悼んで泣きながら帰った。
 7号 C型は心に備えはあったのかもしれないが、体が勝手に動く感じで涅槃寂滅(ニルヴァーナ)していた。
 そしてユリウスと最後に1人残ったとりまきは、

「女の子に何してんだコラァアアア!!」
 激高して襲い掛かってきた。


「どうだぁ! これが『元帝王』の力よぉ!!」
 武器など不要とばかりに剛腕の一撃を放ち、冠度はとりまきを地に沈めた。
「ちくしょう。やっぱり俺なんかじゃ」そう頬を涙で濡らす男。
「テメーも中々に漢だったぜ。なんせ臆せずにこの俺様に挑んできたんだからよぉ!」
 それは傲慢にも似せた冠度なりのねぎらいだった。

 最後のとりまきを倒した時点で、勝敗の天秤はイレギュラーズへと傾いたのだろう。
「まだやるつもりか? 諦めの悪い男はモテないぞ?」
 だが言葉とは裏腹に、みつきはその胸中で舌打ちをした。
 憤怒に身を任せたような無謀な攻めを行うユリウス。
 その目に凄愴な色を映らせて自殺行為とも言える攻勢に出ていた。
「ギ……」
 戦術も何もない。せめてこの者だけでも道連れに。そんな激情が見て取れた。
「ユリウスよ、気持ちは分かる……」
 みつきはスタッフを握る腕に力を込めて青白い光を束ねていく。
 それは癒しの力を持つ祝福の輝きだ。
「分かるんだが、それを実際にぶつけちまうのはウマくねぇなぁ」
 青の光が空中に軌跡を残してベインへ向かう。
「ギ!」
 軋む声に油を差したかのような快活なものとなった。
「守ってください、ユリウス様!」
 戦いの幕が上ると同時に、クロジンデは「きゃー、暴漢が襲ってきますわ」とユリウスにしがみついていた。
 振り払う素振りはない。
 それどころかイレギュラーズの攻撃の軌道が乱れ、あわやクロジンデに命中しそうとなれば、攻撃の手を休めて盾となる場面すらあった。
「孤独を知ること。それは愛を知ることへとも通じるだろう。
 真に守るべき者が見つかると良いな」
 7号 C型もまた自身の安全を省みない大振りによる鎌の一撃を放つ。
「うむ。妾も帰ったら恋人とイチャイチャするとするかのぅ」
 カレンの周囲に血液が浮かぶ。それは体を蝕む猛毒となり、ユリウスへ向かい空を疾走する。
「貴方の事嫌いでもないけど、これも仕事なのよね」
 結は魔剣ズィーガーを構えると渾身の力を込めて振り払った。
 体力の一部を持っていかれるにも似た反動を感じたが、それに構うそぶりは見せない。

「今日、情動(パトス)の祭事なれば、情赴くまま闘争も一興」
 淑女を思わせる心化粧はすでに落とした。
 リュスラスは胸の前で拳を形作り構えをとる。
「殴り合い! 合いは愛に通ず!」
 ユリウスから怨念めいた咆哮が上がる。リュスラスの双眸に光が宿る。
 ふたつの拳が交差した。

 立っていたのはリュスラスの姿だった。
「楽しかったぞ、ユリウス。
 貴殿の腕力に訴える行動、実のところ嫌いではない」

成否

成功

MVP

忌名 ベイン(p3p002514)
狂気の磔台

状態異常

忌名 ベイン(p3p002514)[重傷]
狂気の磔台

あとがき

 とだか露樹です。

 その後は皆さんで友チョコを渡しあったりと、グラオ・クローネを楽しまれたのではないでしょうか。
 依頼主であるユリウスの父親は息子が鎮まるのなら多少の被害も仕方ない。と街への損害賠償に充てるお金の用意があったみたいです。
 皆さんの働きでそちらが浮いたので、一部を追加報酬に回してくれたようですよ。

 MVPはかなり迷いました。
 シナリオカラーでもあったおバカ系インパクトならこの人。
 自由すぎてこいつやべぇ賞ならこの人。みたいな感じです。
 ベインさんはそれらに加えて、ギフトをどこまで活用できるか、を丁寧に考えられていたのが良かったですね。
 OPの通りユリウスは「かっこいいリーダー演じたい」の心理が難易度を上げていたので、とりまきを誘惑したのはファインプレーだったと思います。

 遊びの部分やキャラクターさんらしさをたくさん盛り込んでいただけたので、執筆楽しかったです。
 ご参加ありがとうございました。

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