PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<R>サファリング・オルタナティブ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●複製された『増悪』
「ハッ、どいつもこいつも使えねえな。戦場ひとつかき乱すこともできねえのかよ」
 大きなテントの中。テーブルの上。
 スニーカーをはいた少年があぐらをかいて座っていた。
 ブルーのラインがはいった黒いジャケットを羽織り、資料が閉じられたA4サイズのファイルボードを眺め、青いリンゴを囓る。
 資料の中身はこうだ。

・『魔物使い計画』――失敗。
 幻想鉄帝両軍に打撃を与え続け憎しみを増大させる計画は、ローレットの介入により破綻。
 戦意を喪失した魔物使いを洗脳処理しようとしたところ、脱走され行方不明。計画の続行は不可能。

・『偽神計画』――失敗。
 笑って死ねる兵士を量産する訓練プランを売り込み両軍を効率的に死滅させる計画は、兵士たちの自意識が混濁を起こすため要調整。
 調整係の『詐欺師』は魔物使いの処理に追われ計画の続行は困難。

「やっぱ……俺しかいねえよなあ。何もかもメチャクチャにできるのは」
 少年は地面に資料を投げ捨てると、リンゴの芯をゆびでつまんで高くぶら下げた。
 そのまま大きくあけた口の中に放り込み、彼は一息に飲み込んでしまった。
 すると。
「やあサファー、やってる?」
 イカれた眼鏡をかけた黒人男性がテントの幕をくぐって入ってきた。
「いやあ、助かるね。君みたいな才能が欲しかったんだ。
 持ち主を誘惑し他者を憎ませ、力を与えて破壊させ、その代償として一方的に大切なものを奪い……憎しみだけを増大させ、殺す。
 こんなに自虐的な武器は滅多にないよ。一見ただのカースド装備だってのも魅力的だよねえ」
 陽気に喋る男に、少年サファーはあくびをしながら応えた。
「で、なんだよ。そんなおべっか使うためだけに来たんじゃないだろ? 俺がサボってないか監視でもしに来たか?」
「嫌だなあ。本心なのに。まーでも、様子を見に来たって辺りはその通りかな。どう? 次の納入までにあと百本は欲しいんだけど」
「ああ……」
 サファーは両手をジャケットのポケットに突っ込むと、自分の後ろを振り返る。
「『サファリング・オルタナティブ』――100本キッチリ仕上げたぜ」
 そこには、黒い刀身に青いラインの入った魔剣が透明なケースに入って大量に積み上げられていた。
 ぺろりと、唇を舐めるサファー。
「また、いい憎しみが食えそうだぜ……」

●永久戦場を破壊せよ
「人知れぬ戦場……『R財団』が裏から操る戦場。
 幻想と鉄帝による争いを情報操作や物資補給によって意図的に引き延ばし、過剰に死だけを積み重ねるいわば死の工場。
 これらを維持するためにいくつもの計画が実行されてきましたが、その要となる計画を我々はことごとく破壊、突破してきました。
 奴らによる世界人口を激減させることで混沌環境を守ろうという狂気の人口最適化運動のひとつを、ようやく潰せる段階までやってきたのです」
 サラリーマン風の男がする説明を、シグ・ローデッド (p3p000483)は腕組みをして聞いていた。
「その最終段階というのが、『魔剣流通ルートの破壊』……なのだな?」
「いかにも」
 幻想の豊かな土地が欲しい鉄帝と、それをのらりくらりと交わし続ける幻想。
 この二国間の戦いは滑稽なほど冗長化し、一部に至ってはズブズブの出来レースをしながら戦争のフリを続けているというのに、ごくごく一部の……いやたった一箇所だけが、まるで互いが末代まで滅び去るまで止まらないような深刻な戦争状態に陥っているのは不自然だった。
「R財団は武器商企業Rインダストリとして幻想鉄帝両軍に『魔剣サファリング・オルタナティブ』を格安で納入。
 この魔剣は母体である魔剣サファリングのかけらから生み出されたいわばもう一つのサファリング。ほぼ同等の性質と性格をもつ、魔剣なのです。
 どのような性質をもつかは……彼に説明して頂きましょう」
「まさか……奴が戦争そのものを引き起こしていたとは、な」
 話をふられたシグは足を組みなおした。
「魔剣サファリングは強力な武器だ。闇市に流れるサファリング・レプリカの性能からも推察できる通り優秀な能力を持つが……それは表向きの顔でしかない。
 ただの魔剣。ただの武器。しかし所有者は無意識に特定対象への憎しみを増幅させられ、復讐や暴力にとりつかれる。
 そのたびに剣は力を増し、所有者を助けるが……知らぬうちに、代償として所有者は大切なものを奪われるのだ。
 恋人、家族、誇り、居場所、思い出……人によって様々だが、最も大切なものを喪った所有者はその原因が魔剣にあると知り、憎み、怒り、そして命までもを奪われる。
 『奴』はその憎しみを食らい、生き続けている。
 同等の性質を持つということは、つまり……鉄帝幻想両軍がこの状態に陥っているということを意味するのだろう、な」
「ええ、恐らく。ですがそれほど大量に生産することはできない筈です。
 そして生産には施設が必要だ。
 ゆえに、生産工場を破壊しルートを絶つことで、負の連鎖を終わらせることができる」
「ああ、分かっている……」
 シグは立ち上がり、己の権能を僅かに開放した。
「奴の憎しみも、それを増大させ続ける工場も……私の知識として食らうまでだ」

GMコメント

■成功条件
・魔剣生産工場の破壊
 サファリング・オルタナティブを生産するための工場を襲撃し、破壊します。
 工場にはサファー・オルタ(略称)を装備した職員たちが勤務しており、全職員が敵です。
 とはいえ、R財団の兵士やサファー本体やその護衛戦力がいる状態ではまずもって戦力不足であるため、これらが留守の間を狙います。
 つまり、工場職員全員を倒し、工場を爆破解体処理するまでが任務となります。

■職員
 サファー・オルタを装備し、憎しみにとらわれた職員たち。
 寝る暇すら惜しんで魔剣の鍛造に従事しています。
 装備している魔剣の形状は様々で、直刀タイプや短剣タイプ、かわった所ではワイヤーや鎌やパグナウタイプまであります。
 職員は一人につきひとつまでこの魔剣を装備し、侵入者を撃退しようとします。

 数はおよそ20人程度とされ、この全員を倒さねば魔剣や重要なデータが持ち去られてしまう危険があります。
 なので、工場を東西南北の四箇所から同時に襲撃し、一人も逃がすことなく殲滅を行なってください。
 (事前にチーム分けを行なってもいいですし、アドリブでの振り分けに任せても構いません)

■工場
 隠蔽魔術によって森の中に隠された巨大ガレージです。
 金属を溶かすカマや研ぎ機といったいかにもな機材をはじめ、鉱石に特殊な魔力処理を施すベルトコンベアや粉砕器といった様々な機材が並んでいます。
 また土地自体にもサファーを複製するにあたって重要な呪力があるらしく、この工場を破壊し封鎖されたらサファーは複製を簡単には作れなくなってしまうでしょう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • <R>サファリング・オルタナティブ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長

リプレイ

●大義に剣を穿て
「『知られざる戦場』、ね……」
 走る馬車の中。資料をめくりながら、『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は色の薄いほうの目を閉じた。
「戦争に価値がないとまではいわないけど、ただいたずらに死者を増やすことが目的の計画なら、見過ごせないね」
 これまで様々な方法で維持が成されてきたこの『知られざる戦場』。
 幻想と鉄帝の間でわけもわからぬ殺し合いを永遠とさせるという、一見不可能にも見える計画の要には、所有者を憎しみで支配し絶望と憎悪の中で殺すという最悪の魔剣が絡んでいるらしかった。
「つまりはその生産工場を破壊すれば、この無意味な戦争を終わらせることもできる……ってことよだね」
 『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)は大きな責任をまえに呼吸を整えた。
「正義の海賊としては放っておけない。もう海も何も無いけど……」
「いいえ。あなたは立派な『正義の海賊』です。海をわたるばかりが海賊ではありません」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は眼鏡のレンズに知性をうつし、卵丸の横顔を見た。
「その言葉に込められた意味を、今実行しようとしているのですから」
「うん……そうだね」
 資料を閉じ、顔をあげるメートヒェン。頷く卵丸。
 寛治は眼鏡のフレームサイドをトントンと指で叩くと、深く落ち着いた声で言った。
「Rインダストリーの魔剣製造。……これより事業清算といたしましょう」

 別の馬車にて、『イルミナティ』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は壁によりかかって何かを考えている様子だった。
「魔剣工場とはおもしろい。是非とも調査したいが今回のオーダーではそれを出来そうもないな……」
「確かに、実に残念だが……後で土地の特製を調べることはできるのではないか?」
 分野こそ違えどラルフと同類ともいえる『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。
 反対側の壁によりかかり、手を翳して見せる。
「しかし、魔剣も量産できては夢が無いな。危険を承知で手に入れたいと思うほど魅力もない。どう思う、シグ」
 ゼフィラとラルフの視線が、じっと本を読んでいた『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)へと集まった。
 死の舞踏というタイトルの本をパタンと閉じ、眼鏡の位置を直すシグ。
「『アレ』が関わるとろくなことは起きん。敵にも味方にも、な」
 一番なのは触れないことだが。
 それを許してくれるほど世界も敵も甘くは無い、ということなのだろうか。
 話を聞いていた『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が深く嘆息した。
「勝手に憎みあって適当に戦火を拡大させてくれればぐらいの感覚だろうけど、悪用される側からすればたまったものじゃないよね?」
 しかもその目的が混沌人口の大幅減少と最適化だというのだから、タチの悪い話である。
 ルーキスは中折れ式単発銃に宝石弾を込めると、手首の動きだけでパキンと装填作業を終えた。
「従業員は全員始末。工場は残らず解体。あわよくば爆破処理。……で、いいんだよね?」
「ええ……お金をかけて動かしている以上、破壊されれば相応のダメージとなるでしょう」
 『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)が膝に置いた黒鞘の刀を撫で、深く物思いに沈む。
「蠱毒のような、呪術のたぐいといいましょうか……なんとも気分の悪い魔剣です」
 この場にいる全員が、おそらくは同じ気持ちだ。
 それらを総括するように、雪之丞はあえて強く声に出して述べた。
「徹底的に、破壊しましょう。
 思惑通りにはさせません」

 結界を通り抜けると、結界によって隠されていた魔剣工場が露わとなる。
 肝心のサファリングオリジナルと護衛戦力は外に出ており、邪魔になるのは中で働いている従業員たちのみ。
 魔剣が一人ひとつずつ配給されていることを考えれば油断できない戦力だが、はたして……。

●突入作戦
 近代的な箱形建造物に骨組み豊かな高い煙突。
 製鉄所に併設されるコークス炉設備にそれは似ていたが、その説明で理解できたのは新田をはじめ三人いるかどうかといった所だった。
 そのうちの理解できる一人というのが、ラルフである。
「鍛冶技術、呪術、そしてこれは錬金術か。ホムンクルス精製の技術が応用されているとは……」
 ラルフはコンクリート舗装された道を進みつつ、腰から魔導拳銃を抜いた。
「貴様、どこから――ぐお!?」
 真っ黒な剣を手に飛び出してきた職員めがけて先制発砲。
 肩に直撃したが、職員は憎しみに目を光らせてラルフめがけて突撃してくる。
 剣にはしった青いラインが、まるで持ち主の精神力を吸い上げるかのようにいきいきと光った。
「死ね、侵入者――!」
 振り上がる剣。
 が、それが下ろされることは無かった。
 シグの不意打ちを受けた職員はそのまま壁に縫い付けられるようにしてぶつかり、剣もまた壁にめり込んで止まる。
「『アレ』の複製と聞いていたが、所詮は量産品か」
 憎しみを引き出す力こそ本物並だが、戦闘力やいざとなったときの魔力圧はシグの相手にすらならないといった様子だった。
 この世界においてシグが強くなりすぎたのか、それともサファリング・オルタナティブの性能が低いだけなのか……。
「だが数がそろえば厄介になる。敵の動きはどうだ?」
「ふむ……」
 剣状態から人状態へ変化したシグは透視能力を発動させ、工場内の様子を探り始める。

 無数の研磨機械が並ぶ広い作業場を、メートヒェンが駆け抜けていく。
 分厚い鉄板で補強された地面を、まるで金槌を打つように足音を鳴らす。
 ハンマーやナイフ、斧をもった職員たちが飛びかかるが――。
「強力な魔剣を作っていると聞いていたけど、君たちが持っているそれかい?」
 攻撃を受けるよりも早く、鋭い踵が職員の腹をうつ。
 片足立ちの姿勢から、繰り出されたナイフをつま先の払いと踵打ちによって払っていく。まるで鞭でも操っているかのような素早さと柔軟さで繰り出される変幻自在の蹴り技が、メートヒェンへ一撃たりとも有効打を許さない。
「そんなナマクラしか持っていないなんて、これはもしかして場所を間違えたかな?」
「貴様……!」
 挑発するように指で手招きをしてみせると、職員たちは磁石と砂鉄のようにメートヒェンへと群がっていく。
 ルーキスは拳銃をぶら下げた状態で、その様子を余裕層に眺めていた。
「実力差があるとはいえ、効果が露骨だね。やっぱり、魔剣の影響で精神が不安定になっているのかな?」
「それよりも、アレはまだかな?」
 挑発と防御に集中していたメートヒェンが、職員を首狩り鎌のような踵蹴りで倒すと、大きく身体と首をひねるようにして振り返った。
「そろそろ随分な数が集まったと思うんだけど」
「そうだね」
 ルーキスは拳銃をくるくると回すと、正面――ではなく頭上めがけて発射した。
 発射された宝石弾は粉とはじけ、広がった魔術的粒子が敵の職員だけを判別して電流を流していく。
「うん……」
 全ての職員が倒れたことを確認して、ルーキスは『先へ行こうか?』のジェスチャーをした。

 曲がり角から小さなミラーをそっとのぞかせるゼフィラ。
 その直後、ミラーが投げナイフによって破壊された。
 急いで壁へ引っ込むゼフィラを追い詰めるように、白衣に眼鏡という職員がゆっくりと角の先から近づいてくる。
 両手には黒刀身に青いラインが入ったサファリング・オルタナティブ・ダガー。
 先程投げられたダガーは数秒してから煙のように消えていた。
「憎しみを糧にして、投げるたびに増殖するダガー……か。便利なのか、不便なのか」
「尽きることの無い人の憎しみを発散し続けるという意味では……いや、それを煽り立てる時点で根本から崩れているのでしたね」
 新田はステッキ傘を広げると、ゼフィラを庇う形で通路へと飛び出した。
 一方的に相手側をすかし見るフィールドディスプレイにはダガーを投擲する敵職員の姿。
 傘の弾力ある防御シートで攻撃を受けると、新田は柄に出現したトリガーをひいて内蔵サブマシンガンを発砲。
 かがむ姿勢で射撃しながら距離を一気に詰めると、畳んだ傘を返して相手の手首を柄のフックでとった。
「お先へどうぞ」
「ああ」
 新田後ろに身を隠していたゼフィラが相手の後ろに回り込み、仕込んでいた暗器を職員の首へと突き立てた。
 更に通路の先から現われた別の職員めがけ、もう一本の暗器を投擲。
 回転して飛んでいった手裏剣めいた暗器が、職員の腕へと突き刺さる。
「この先は恐らく広い作業場だ。他の連中と合流するかもしれんな」

 熱気をはなつ釜のせいか、部屋はひどく蒸し暑い。
 従業員の健康状態など知ったことでは無いといった作りの設備環境に、雪之丞は小さく嘆息した。
「これでは憎しみも絶えないでしょうに。いや、だからこそ、でしょうか」
 四方八方から襲いかかる職員たち。
 一人にひとつずつ支給されているサファリング・オルタナティブ。
 ここに配属された職員はみな日本刀タイプのものを装備していた。
 刀身と柄にまっすぐ走る青いラインと黒いボディがそれを象徴している。
「おいでませおいでませ。憎き敵は此処に。憎き刃は此方へ――」
 対する雪之丞は地面にとんと突き立てた黒さやから、あえて垂直に刀を抜いた。
 鞘と刀によって生まれた柱に、正面からの斬撃が止められる。
 黒鞘に黒刀身。しかし雪之丞の心をすかしたように美しく澄んだ濡烏の黒色をしていた。
 相手の力が緩んだタイミングで刀を開放し、背後へ反転。長髪の美女が振り返るかのように。さらりと流れた刀身が敵の斬撃をあらぬ方向へとはじき飛ばす。
「拙の守りは、生半可な剣では打ち抜けませぬ」
 例えば棒きれひとつとっても、その握り方や振り方で戦力は圧倒的に異なる。
 職員たちは刀をただの『持つところの少ない重い棒』程度にしか扱えないが、雪之丞はこれを自己身体の部位ほど自在にあつかうことができた。
 まるみのある打撃で直線的な打撃を受け流すことも、一瞬触れただけで対象を切断することも、雪之丞には容易なことである。
 そして更に。
「お前達に恨みは無いけど、そいつを拡散させるわけには行かないから」
 天井上のダクトを通って侵入していた卵丸が飛び降り、職員に奇襲を仕掛けた。
 リング状の暗器が職員の腕を殴るように切り裂いていく。
 さらには投げた暗器が円運動をおこし職員を切りつけ、付属したワイヤーと卵丸の腕を支点にしてさらなる斬撃。
 彼の攻撃に混乱した職員たちが、むやみやたらに刀を振り回し同士討ちを始めた。
 卵丸はそれらを置き去りにして、雪之丞に合図を出しつつ更に先へ。
「ダクトは暑かったでしょう」
「まあ、うん。かなりね……」
 あとでシャワーでも浴びれたらいいんだけど、と。卵丸は苦笑しながら戻ってきた暗器をキャッチした。

 鉄の扉を文字通り蹴破るメートヒェン。
 それぞれ追加の武器を手に取り二刀状態となった職員たちが、メートヒェンめがけて飛びかかる。
 が、そんな彼らの中心に回転しながら紛れ込む銀色のジッポライター。
 ライターの発火ポイントが赤く三度点滅した――その途端。職員たちを巻き込んで大爆発を起こした。
 飛んできた剣だけをガツンと蹴り飛ばすメートヒェン。
 振り返ると、新田とゼフィラが別の通路から同じ部屋へと到達していた。
「どうやらここが合流地点のようだ」
「つまりは、うまく追い詰められたということかな」
 ゼフィラが暗器に反発の魔力をセットして投擲。別の通路から逃げようとした職員に直撃し、職員はそのまま壁に叩き付けられた。
「元一般人かもしれないけど、手抜きはしないよ?」
 何とか起き上がって逃げ出そうとする職員に、ルーキスが宝石弾丸を撃ち込んでいく。
 射撃によって生成されたカーバンクルが職員に食らいつき、肉体をたちまちに崩壊させた。
「く、くそっ! なんでこの施設に護衛がないんだ!」
「逃げろ、こっちだ!」
 別の通路へ何とか逃げ延びた職員たち――とみせかけて。
「逃がしはしないよ、海賊殺法・音速疾風斬!」
 物陰に隠れていた卵丸が飛び出し、小さな竜巻のように回転して職員を切り裂き、更に飛びこんだ雪之丞が一瞬で首をはねた。
「装備は悪くないし、様々な種類もあるが素人ではね、折角の武器が泣いているよ」
 そこへ合流したラルフ。
 もう一人の職員に貫手を打ち込むと、腹をえぐった。
「さて、新開発した錬成散弾の連射の制圧力は如何だろうか?」
 別の職員めがけて魔導拳銃によるゴム弾を連射。
 足や腕を打たれた職員たちがその場に転がり、痛みにうめいた。
「ふむ、殺さずにとっておく、か」
「ああ、シグ君。尋問に使えるだろう?」
 いい考えだ。シグはそう呟くと、銀のワイヤーめいた物体を作り出して職員を縛り上げていく。
「だが、ここまで守りが手薄な施設……残された職員が有益な情報を握っているとは考えづらいな」
 破れかぶれに斬りかかってくる職員に、シグは新規生成した仮想剣ファントム・ローデッドを炎に包んで振り込んだ。
 すぱん、と上下二分割される職員。
「一人いれば充分だ。お前さんも生きていたいだろう? 情報を述べ続ける限り、生かしてはやろう」

●崩落と破棄。かくして舞台の幕は上がる。
「オーダーは工場の破壊だ、遠慮なくぶっ壊してしまおうか」
 鍛造施設に宝石弾を何発も打ち込み、きびすを返して去るルーキス。
 背後で巻き起こる連続爆破が、施設を粉々に破壊していく。
 その一方ではメートヒェンが複雑な魔術錬成機械を、格闘ゲームのボーナスステージの如く旋風脚と連続キックでボコボコに破壊している。
「ろくな設備じゃないからね。二度と使えないようにしておこう」
「でも、壊してもまた作れるんじゃ?」
 爆破処理を手伝っていた卵丸が顔を上げると、爆破手順を設計していたゼフィラが小さく笑った。
「確かに。人間は土からでも城を築く。けれどそれには膨大な人為を要する。
 更に言えば、環境もな」
 ゼフィラたちが調べたところに寄れば、この土地には古代から続く憎しみの連鎖が宿っており、それを油田のごとく吸い上げることで工場を効率的に稼働させていたらしい。
 一度制圧された土地を取り返すのは、同じような土地を手に入れるのと同じくらいに困難だろう。さらにはこの工場につぎ込んだ資金も回収されぬまま空中分解したことになる。
 出資者は大損。飛び火を恐れて協力者も離脱。利益目当てで隠蔽に荷担していた連中もこぞって彼らを売るだろう。
 工場ひとつ爆破しただけで、戦争が終わるのだ。

 一方。
 暗い部屋にスタンドライトが一つ。
 椅子に縛り付けられた男は、工場の職員だった人物だ。襲撃時唯一の生き残りといってもいい。
 そんな彼を、左右から押さえつけ顔を覗き込む雪之丞とラルフ。
 瞳式催眠術とラルフの言霊術によってファンタジーなほどの自白剤効果が職員に生まれている。
 氏名年齢性別住所、初体験の記憶に至るまで早口で何でも話す有様である。
 『サファー』の写真を翳すシグ。
「ふむ。具体的にお前さんたちに指示を出したのは、この少年だったのかね?」
「間違いない。名前もしらないが間違いなくここのボスだ。俺たちは言われたとおり働いただけで給料だって出てない。けどやらないと行けないんだ。やらないと死ぬんだ」
「とんだブラックだな……」
「ふむ」
 シグは深く、そしてどこか冷笑的に考えた。
(サファリング本来の支配力ではない、な。能力を限定的に分け与えたか、性質の部分的なコピーに成功したか……どちらにしても、新たに生産するには莫大なコストを要するだろう)

 シグの予想は大きな意味で正しかった。
 混沌のある国、ある場所、ある部屋の中で、サファーはパイプ椅子に腰掛け得ていた。
 テーブルにはハンバーガーとフライドポテト。
 向かいには誰かが座っている。
 だが薄暗いせいでサファーの顔すらよく見えない有様であった。
「――てなワケで、工場は爆発。職員は全滅。製造中の剣は押収。土地にはアーベントロート系の幻想騎士が常駐。死んだな、あの工場は。どうする、他に手ぇ打つか?」
「ダメダメ、魔物使いも偽神も失敗して魔剣工場もダメになったんじゃこれ以上まわりを抱き込めないよ。おしまい。あそこの戦場はもうおしまい」
 ハンバーガーを頬張りながら喋る声に、サファーは舌打ちで応えた。
「チッ……まあいいか、だいぶ『食えた』しな。てめぇも満足だろ、ホラ」
 サファーがテーブルに放り出したのはマンダリン観光で発行された雑誌であった。ニューストピックスのページに、タカジという記者名で『知られざる戦場、その実態と終焉』という記事が載っている。
 なんてことのない記事だが、同ページに掲載されたグラビア写真には。

 ――Produced by PPP, Ltd

「うすら汚え顔してるぜ、R」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 『知られざる戦場』は解体され、一定の平和が戻りました。
 この地で無益な死が量産されることはもうありません。

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