PandoraPartyProject

シナリオ詳細

もりのくまさん

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある晴れた昼下がり
 市場でなく森へ続く道を、村の男衆が並んで歩いていた。背中には手製のリュック。これから森へキノコ狩りに出かけるのだ。この村の森にはちょっと変わったキノコが生える。マンドラトリュフというキノコで、地面から直接生えるタイプのものだ。味も食感も良く、これから冬を迎える村人たちの楽しみの一つになっていた。
 と、前方から男がひとり、目を見張りすごい勢いで手を振り回しながらこちらへ駆けてきた。事情を知らない人が見たら気が触れたかと思うかもしれない。だが、村の男衆は彼のジェスチャーを正確に把握した。
 男は「クマがでたぞ」と全身で叫んでいるのだった。
 数十分後、彼らは村の長老の家に集まっていた。クマの詳細を聞いた長老はぷるぷる震えながら首を振った。
「森のヌシさまが出られたか……今年はまたずいぶんと早いお出ましじゃ。残念じゃがマンドラトリュフは諦めるしかないのう」
「そうですね。森の全てはヌシさまのもの。ヌシさまがお出でになった以上は、人間はひっこむしかありません」
「うむ、そのとおりじゃ。ちと早いが、例年通り入林禁止を……」
「あのー、長老」
 ひとりの男がぺろりと手紙を差し出した。
「タッチの差でただいま入林許可願いが来てるのですが」
「事情を添えて送り返すのじゃ。ヌシさまの出る森はあまりに危険すぎる」
「でもローレットからなんです」
「ローレットか」
「はい」
「……まあイレギュラーズなら、大丈夫じゃろ」
「そっすね」


「やあやあ、集まってくれてありがとう。今日はたってのお願いがあるんだぁ」
 森の入口で、【楽園の悪魔】ジェイル・エヴァーグリーンはひとつのキノコを弄びながらあなたたちへ笑みを見せた。
「改めて自己紹介しておくねぇ。僕はジェイル、ただの果物専門農家だよぉ。ありがたくもジュエリー・フルーツ・シリーズというブランドで生計を立ててる者だよぉ」
 ジュエリー・フルーツ! あの一口食べればもう他の果物では満足できなくなるという果物の王様のブランドではないか。四季折々の果物で作るジュエリー・フルーツ・コレクションというスイーツを心待ちにしている人も多い。そう、じつはジェイル、けっこうすごいやつなのである。そのジェイルの願いとはなんだろうか。あなたは無理難題を予想してつばを飲んだ。
「この森にマンドラトリュフというキノコが生えるんだけど、これが肥料に最高なんだぁ。15本、んー、まあできれば30本とってきてほしいねぇ」
 というと、ジェイルは手の中のキノコをみんなに見せた。しいたけみたいなかさに子豚の上半身がくっついている。ジェイルが子豚を押すと「ぷぎー」と鳴いた。
「マンドラトリュフを探すのはそんなに大変じゃないよぉ。大地の気が満ちた場所、つまり大木の根元によく生えるんだぁ。だいたい2~3本まとまって生えてるんだけど、たまに十本以上密集して生えている時があるよぉ」
 おお、ならすぐ集まりそうじゃないか?
 意外と簡単な依頼内容に気が軽くなる一同。
「ただねぇ、この森、クマが出るんだよぉ。マンドラトリュフはクマの大好物なんだぁ。クマから隠れながらマンドラトリュフを探すことになるねぇ」
 なんだなんだ、話が物騒になってきたぞ。
「それにマンドラトリュフは、抜く時に大声を出すんだぁ。こんな具合さぁ」
 ジェイルは手元のキノコの子豚部分を強めに押した。
「ぷぎーーーー!!」
 大声があたりへ響く。ジェイルはすぐさま藪へ飛び込んだ。そのままおいでおいでをする。
「ほらみんなも隠れて。じゃないと、とんでもないことになるよぉ」
 あなたたちが藪へ隠れると……。

 ぬる、ずちゃ。ぬる、ずちゃ。
 重い足音が聞こえてきた。

 森の中から姿を表したのは、おお、それは病んだ月のごとく青ざめた病的な甲殻に身を包み、気持ち悪い四つの赤い目玉がきろきろと周りを見渡して、見たものを狂気へ誘うような、うんちゃらかんちゃら。つまり、青白い甲殻に身を包んだスライムのようななにかだった。どろりと溶けた足元がスタンプを押すみたいに不定形な足跡をつけている。

 ぬる、ずちゃ。ぬる、ずちゃ。
 それはしばらくふんふんとあたりを嗅ぎ回っていたが、また森の奥へ帰っていった。

「あれがクマね」
 と、ジェイルが言った。
 ウソつけ! どう見ても星辰の彼方から来たなんかだったじゃねえか!
「四ツ足で歩くんだからクマだよぉ」
 仕事しろ「崩れないバベル」!!
「夜の森は危ないからね、夕方にはきりあげて帰っておいでねぇ。それじゃ、僕は麓の村でお茶を飲んでるからぁ」
 ジェイルはにこやかに笑ってあなた達を見送った。

GMコメント

みどりです、こんばんは。スニークミッションになるか戦闘になるかは皆さん次第。

今回の目標。夕暮れまでに
a)マンドラトリュフを15本入手する
b)マンドラトリュフを30本入手する
c)クマさんを倒す

どこを目標とするかは話し合って決めてください。

マンドラトリュフ
抜く時に「ぷぎー!」と大声で鳴くキノコ。かなりの希少種で麓の村でしか知られていません。
キノコなのに肉の味がして旨いと麓の村では評判です。

森のくまさん(ヌシさま)
 パンチ 物単至 飛
 ぶちかまし 物単R1 必殺・防無
 咆哮 デバフ&HP回復大

クマさんの攻撃方法は近づいて殴るというシンプルなものです。
しかしながら非常に攻撃力が高く、HPも多いためタフです。長期戦を強いられることでしょう。クマさんは倒しても30分後には森のどこかにリポップします。逆に言えば30分は安全です。

クマさんの視力・聴力・嗅覚は人間程度です。簡単な偽装で見つかるのを防ぐことができるでしょう。
また、クマさんが通ったあとには足跡が残ります。
クマさんは森の中をランダムに歩き回っており、好物のマンドラトリュフを探しています。マンドラトリュフを抜く音を聞くと近寄ってくるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • もりのくまさん完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月12日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
リナリナ(p3p006258)

リプレイ


 子供の頃習ったなつかしい童謡を口ずさみながら、 『皆の翼』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)は森の中を進んでいた。昼なお暗い鬱蒼とした森だ。木々が密集するように生え、ぐにゃぐにゃと曲がりくねった獣道を歩くしかない。下草がほとんど生えていないのは助かったが、ときおり藪が行手を塞ぐ。
「幼い頃の童謡……当時は特に意味を解せず歌っていたが、今あらためて考えると森の中でクマと出くわすのはなかなか怖いと思うんだ……。」
「そうよね、しかもそのクマってのが”アレ”なんだから」
 おぞましい姿を思い出し、寒気がしたのか、『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は自分の体を抱きしめた。思い出したくもない。あの不吉な赤い四つの目、どろどろと今にも崩壊しそうな体をかろうじて青白い甲殻でつなぎとめたような姿、その身体から唐突に突き出した四足が奏でる粘着質な水音。どう見ても怪物。それも相当に手強い相手。なるべくなら出くわしたくはない。それが一同の総意だった。
 しきりに首元を触りながら焦げ茶のフードで身を包んだ『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が長く息を吐いた。
「残暑のせいでしょうか、この森の中、空気がこもっているようでなんだか息苦しい」
「ヒヒ……アークライトの旦那も感じるかい。大地の気があふれかえっているのさ、一種のパワースポットだね。変わったキノコくらい生えてもおかしくはない」
「まあ戦いには支障がなさそうですけれど、居心地の悪い森ですね。気が滅入ります」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)の答えにリゲルは深呼吸をした。ありえないほどの濃度で大地の気が漂い、薄暗くなよなよと下草が生えるこの場所は、たしかに彼が言う通りヒトにとって居心地が悪い。
 そんな空気を吹き飛ばすように『やせいばくだん』リナリナ(p3p006258)は勇んで先頭を行く。
「おー、森でキノコ探し! どんどろトリュリュ、リぷ? ……??……どんどろとりぷ!」
「マンドラトリュフ、な」
「うー、豚キノコ! 豚キノコ探す! いっぱい回収! リナリナも食べる!」
「豚キノコ、言い得て妙だな」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はリナリナの発言に吹き出した。ジェイルが見せてくれた、しいたけに豚の上半身がついた姿を思い浮かべる。
「しかも食べると肉の味がするという噂じゃないですか。最高じゃないですか。肉は最高なのです。肉は最高!」
『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)が会話に加わってきた。
「そうだな。味の確認はぜひともしてみたい。目標より多めに採ることができればジェイルのお目溢しがもらえるかな? ところでキミはさっきから何をしてるんだ?」
「あ、これですか?」
 と、ラクリマはゼフィラに返事をした。
「マンドラトリュフは肉の味がするというので、こうして干し肉を木の隙間に仕掛けておけば撹乱できないかなって」
「ん、シンプルだが、いい仕掛けだ」
『夢終わらせる者』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が無表情のままそう言った。だが長い金髪はリズムよく波打っている。期待している証拠だ。
「止まれ」
 エクスマリアが静止の声を上げる。彼女の足元には黒インクをこぼしたような痕があった。クマの足跡だ。足跡は左へ折れ、荒れた藪の向こうへ続いていた。エクスマリアはしゃがんで足跡に顔を近づける。彼女のハイセンスがいやらしい残り香をかぎとった。
「……これがくまの匂い。くまと皆呼ぶのなら、くまなのだろう、が。あまり深く、関わりたくも、ない。必要なものだけ得て、疾く終わらせよう」
「そうですね。気を引き締めていきます!」
 ラクリマが拳を握りしめた。一行はさらに深く森の奥へ入っていく……。


 似たような景色が延々と続く。時折鳥がぎゃあぎゃあと耳障りな叫びをあげ、一行の訪れに驚いた小動物が藪へ逃げ込んだ。何度目かの行き当たりに足を止め、リナリナはぷっと頬をふくらませた。
「おー、リナリナ飽きてきたぞ! 豚キノコないない! ないない!」
「そうだな…。…まさかこんなに入り組んでるとは…まるで迷宮を歩いているかのようだ…。」
「ヒヒヒ、怖気づいたかい、かわいい小鳥」
「…そういうわけではない…。…ただ、地図もないのに闇雲に足で探して歩くのは非効率ではないかと思ったんだ……。」
 武器商人の言葉にヨタカは首をすくめた。
「ヨタカのいうことも、もっともだ。かといって分かれて歩くのもクマ遭遇時のことを考えると危険にすぎる」
 ゼフィラがいらいらとこめかみを揉んだ。
「そういえば今森へ入ってどのくらい経ったのでしょう?」
「二十分」
「二十分!?」
 ラクリマはエクスマリアの返事についすっとんきょうな声を出した。
「二十分か……。それなのにマンドラトリュフのマの字も見当たらないというのは心もとない」
 リゲルも困ったように柳眉を寄せる。
「そうだ。私が上空から大木を探して位置を知らせるよ。あなたたちはその方向へ歩いていってくれない?」
「ほぅ、冴えてるね。たしかに目星をつけるには空から見たほうが都合がいい」
 ミニュイは武器商人の言葉に気を良くし、翼を広げた。たしかにいい方法だ。ミニュイは空へ舞い上がった。梢が一時的に彼女の姿を隠すが、ヨタカが聞き耳を立てるだけで十分彼女の気配を察知することができた。もちろん、ミニュイの指示も。
 空へ上がるとミニュイの視界は一気に広がった。緑の森にはぽこぽこと大木が突き出している。上空の風は気持ちよく、ミニュイは、はつらつとした声を上げた。
「みんなから見て2時方向、大木があるよ!」
「…よし、2時方向だな…」
「にじ! 虹か? 虹がでてるか?」
「…いや、そういう意味ではなくて、あっちの方向にマンドラトリュフがあるかもしれない、という話だ…。」
「おー! 豚キノコあるか! リナリナ食べる!」
「食べるのは、余ったら。まあマリアも、食べてはみたいが」
 元気のいいリナリナに、エクスマリアの髪が苦笑するかのようにゆらめく。
 ミニュイの指し示した方向へ歩きだすと、しばらくして藪にぶち当たった。武器商人が袖からブッシュナイフを取り出すと、ばっさばっさと藪を切り開いていく。
「あ、いいですねそれ」
「こんなこともあろうかとね、役に立ってよかったよ」
 ぱっと顔を輝かせたラクリマに武器商人はヒヒと笑って返した。藪は頑固ではあったが、遠回りをするよりはよっぽどいい。ミニュイからは皆の姿が見えないのだし、探索時間のことも考えるとなるべく直線距離を歩く必要があった。
 やがて藪を抜けて、またも獣道。細々としたそこを進んだ先にミニュイの言う通り一回り大きな木があった。むせかえるような大地の気、もし色がついているのだとしたら前も見えなくなっていただろう。そんな場所にちょこんと場違いなキノコがあった。ずんぐりとした丸い笠、そこから顔を出している子豚は風呂につかっているかのように機嫌良さげにぷぎぷぎ鳴いている。そんなキノコが3つ、身を寄せ合うようにして大木の根元から生えていた。
「うーん、これだけ大地の気が濃い場所からは離れたくないでしょうねえ。植物にとっては楽園のようなものです。周りの植物たちの反応もだいたいそんな感じですし」
 ラクリマが腕を組む。たしかに大木の周囲は特に草木が繁茂していた。
「なにとまどってる? リナリナ、豚キノコ抜くぞ?」
「待って待って、マンドラトリュフの大声でクマがやってくるかもしれない」
 ゼフィラがリナリナを止めた。さて、どうしよう。うかつに引っこ抜くとあの大声が響き渡ること間違いなし。
「やはり、口を塞ぐのが、一番ではないか?」
 エクスマリアが髪を伸ばし、豚に猿ぐつわを仕掛ける。さらに……。
「ふふふ、こんな時はこれです!」
 リゲルが懐からミニスコップを取り出した。超視力に透視を活用して地面の中まで見通す。そして慎重に周りの土ごとキノコを掘り起こし始めた。エクスマリアに猿ぐつわをされたマンドラトリュフがいやいやと首をふる。
「よーしよし、いい子だ。静かにしてくれるかい?」
 地面に埋まった部分に気をつけ、リゲルは作業を終えた。掘り起こしたマンドラトリュフを土を崩さぬよう持ち上げる。武器商人がそれを受け取り、専用の容器へ入れた。エクスマリアの髪がするりと離れたが、マンドラトリュフはぷぎぃと小さく鳴いただけだった。武器商人はそのまま容器を堅く密封する。
「調子はどう? 目的のものはあった?」
 ミニュイが空から降りてきた。
「上々だよ。マンドラトリュフ、ひとまず3つ入手だ」
 武器商人が容器をかかげると、ミニュイも安心したのか、ほっとした笑みを見せた。
「目標は30だよね。道案内がんばるよ」
「ええ、よろしく頼みます。どうしても迂回しなきゃいけない時は、俺が周りの植物に道を聞いてみます。ヒントくらいにはなるでしょう」
「…ルートをはずれる時は、ミニュイにも知らせる…」
「頼んだよ、ラクリマ、ヨタカ」
 そう言うとミニュイは再び翼をはためかせた。
「待て」
 エクスマリアが片手を突き出し、止まれの仕草をした。彼女のハイセンスが何かを感じ取ったようだ。
「あの足音、それにこの匂い、クマだ。近づいてきている」
 ラクリマがあからさまに「げっ」という顔をした。
「飛べる者は、上空まで行き、一時的に森を出たほうが、いいだろう。それ以外の者は、速やかに、身を隠せ」
「了解」
 低い声で意思を交わしあうと、イレギュラーズたちは姿を隠した。ヨタカ、ミニュイ、エクスマリアは森の上空へ。武器商人は三対六枚の翼でもって梢の中へ。ゼフィラとリナリナ、リゲルとラクリマは藪の中へ。なるべく音をたてないよう気をつけながら潜り込む。息を殺して待っていると、はたして森のヌシと恐れられるクマが姿をあらわした。
 ゼフィラは落ち着かない様子で前のめりになっていた。隣のリナリナと小声でささやきあう。
(貴重なクマ! ああ、追跡調査をして生態を確かめたい! できるなら練達あたりの動物園へ放り込んでしまいたいな。うう、記録道具を持ってくればよかった、せめてスケッチくらいはしたかった……!)
(クマー? クマー!? あれ、リナリナの知ってるクマと違う? クマーは前足六本、空中に浮いて森さまよい、獲物を見つけると残像つき高速移動で襲いかかる危険生物!)
(なにっ! そんなクマもいるのか?)
(たぶん)
 リナリナもクマを知らなかった。
 さて、クマのほうはゆっくりと大木の根元へ行き、掘り返された痕をふしぎそうに眺めていた。マンドラトリュフの匂いが残っているのだろうか。大木のまわりをぐるりと巡り、そこにお目当てのキノコがないことを確認すると、まだ諦めきれないのかふらふらと歩き出した。
 木の上の武器商人は袖の中の容器をそれとなく遠ざけた。
(匂いはしないはずなんだけどねぇ……)
 クマは武器商人が隠れた木を離れ、藪に近づいていく。
(わー! こっち来た! こっち来た! 来んな来んな!)
(落ち着くんだ、まだ見つかったわけじゃない。いざとなったら俺が出る)
 ラクリマの両肩を押さえつけ、リゲルは真剣な目でそう語った。クマは藪に近づいたが、気が変わったのかくるりと反転し、来た道を戻っていった。
 エクスマリアが上空から降りてきた。
「もう大丈夫だ」
 それを聞いて皆は長いため息を吐いた。
「……ちゃっちゃとマンドラトリュフを集めちゃいましょう」
 ラクリマの一言に、一同うなずく。
 そしてミニュイの案内をもとに、時間をかけつつも着実にマンドラトリュフを手に入れていった。


 夕暮れが近づいてきた。そろそろタイムアップだ。
「武器商人、いまキノコはいくつある?」
「21個だねぇ」
 ミニュイの問いに、武器商人はそう答えた。21。なんとも半端な数字だ。最低限の目標は達成しているが、当初の目標からは少々遠い。
「無理する必要もない思うゾッ!?」
「…だけどやっぱり30個はほしい…。」
 リナリナの言葉にヨタカが本音を漏らす。だが時間的にはあと一箇所の探索が限度と言ったところか。
「思ったんだけどね、大木の根元にマンドラトリュフは生えるんだよね? だったら、一番太い大木を攻めるのはどうかな?」
「そうですね、そこなら大地の気も格段に濃いでしょうし、マンドラトリュフが生えている可能性は高いです」
 ラクリマがミニュイに同意した。「じゃあそれで」と、ミニュイは空へ飛び上がり、森の奥、もっとも背の高い木を探し当てた。一行はそこへ急ぐ、が、エクスマリアが足を止めた。困惑したように髪が萎れる。
「これは、この先は、クマがいるぞ」
「えっ、ここまで来て?」
 ラクリマが疲れた声を上げた。
「とりあえず行くだけ行ってみよう」
 リゲルがそう言い、一行は獣道を進んだ。目的地、藪の向こうに、たしかにクマがいる。お食事中だ。両手にマンドラトリュフを持って豪快に食べている。
(見ろ、あれ。マンドラトリュフが群生している!)
 ゼフィラが指差したのはクマが座る大木の根元。何本ものマンドラトリュフが密集して生えている。クマに食われた分を除いてもかなりの量だ。
「もう時間もない。行きましょう! ミニュイさん、ゼフィラさん、トリュフは任せました!」
 リゲルがすらりと銀の剣を抜き、藪を飛び出した。クマが気づき、顔を向ける。互い違いに動いていた四つの赤い目がリゲルを映した。リゲルは恐れを知らぬかのように双剣をかまえたままクマへ走り寄る。
「やあ森のヌシさん、トリュフと…そして君をね。煮込んで食べに来たよ。被捕食者になるのは初めてかい? この森に棲みついたのが、運の尽きだったな!」
 リゲルの言葉がどれだけ届いたかはわからないが、その行動から敵意があると伝わったようだ。クマは食べかけのマンドラトリュフを放り出し、四足を地につけると低く唸った。その顔面へリゲルは遠慮なく一撃を食らわせた。絶対零度の星の煌き。季節外れの冷気がクマの傷口へまとわりつき、粘液を凍らせる。
 バン!
 クマがリゲルへ強靭な前足を叩きつけた。吹き飛ぶリゲル。木へ叩きつけられるところだった彼をリナリナが受け止めた。
「おー! クマつよいな! さすがクマだなっ!」
 リナリナは目をキラキラさせながら、殴る真似をした。何故かクマがよろめく。謎撃だ。
「リゲルさん、しっかり!」
 ラクリマが回復を施し、その身に加護を授ける。リゲルは礼を言うとすぐに立ち上がり、クマのもとへ戻って体を張る。
「くまさん…くまさん…良ければ…一緒に…踊ろうじゃないか……。」
 ヨタカの召喚した悪霊がクマへ取り憑きその背筋へかぶりつく。クマはシャアとうっとおしげに吠え、地団駄を踏んだ。その足が落とし穴へでもはまったのか、クマはバランスを崩した。
「見た目は嫌いではないけれど、邪魔をしてくるのは困るんだよねぇ。クマさん?」
 否、落とし穴ではない。武器商人が足元へ貼った陣だ。クマは陣から足を抜き、今度こそ怒りの吠え声をあげた。だが、クマを目に見えない圧倒的重量が襲った。その背骨がみしりと鳴り、クマはギリギリと牙を鳴らす。エクスマリアの鉄血・魂鋼だ。
「これで、怯んでくれればいいが」
 一同は持てる大火力を次々とクマへぶちこんでクマの気を引く。その一方で。ミニュイとゼフィラはこっそりとマンドラトリュフの山にたどりついていた。
「えーと、スコップスコップ」
「もういい抜いてしまえ、どうせクマはそこに居るんだ!」
 ミニュイにそう言うとゼフィラはトリュフの軸をつかんでぶちぶちもぎ取った。ミニュイもそれに倣い、採ったトリュフをバッグへ詰め込んでいく。ほどなくしてふたりはトリュフを取り終えた。
「撤収! 撤収ー!」
「もういいよ、飛べるヒトは空から逃げよう!」
 一行は転がるようにクマから逃げ出した。クマが異様な足音を響かせながら追ってくる。ふとその足音が止まり、イレギュラーズは走りながら後ろを振り返った。
「やった! 俺の仕掛けた罠に気を取られてます! って、木ごと食ってるー! 怖っ!」
 ラクリマが走るスピードをあげた。走って、走って、森の入口へ辿りつく頃には、クマの姿は見えなくなっていた。


「やあ、おかえりぃ~。で、どうだった? 収穫の方は」
 満面の笑顔で皆を出迎えたジェイルは期待を隠しきれずそう聞いた。武器商人とミニュイがぷぎぷぎと鳴くキノコを取り出して数を数え始める。
「いち、にい、(中略)、32!」
「32かぃ!? すばらしい、よくがんばったねぇ。頼んだかいがあったよぉ。じゃあ、約束通り30本いただくねぇ。残りはみんなで分けて食べるといいよぉ」
「お土産は、なしか。まあいいか」
 エクスマリアが無表情にそう言った。髪はしょぼんと垂れていた。
 皆でさっそくトリュフを裂き、火に通す。肉厚で汁気がたっぷり。いい感じにとろーりと汁が垂れてきた。
「「いただきます」」
 あ、おいしい。上質な赤身肉みたいですね。なんてみんなで寸評し合うなか、ミニュイだけはマンドラトリュフに手を付けなかった。イヤな想像が頭をよぎる。
(アレは本当にクマで、変わったトリュフを食べ続けたからあんな姿になった、みたいな)
 黙っておこう。彼女はそう決意した。

成否

成功

MVP

ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼

状態異常

なし

あとがき

ぷぎー。おつかれさまでした。マンドラトリュフはジェイルくんがほくほくしながら持って帰ったそうです。どうやって肥料にするかはあまり考えないほうがいいかもしれない。

さて、MVPは探索へ大きく貢献したミニュイさんへ。ご査収ください。

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