PandoraPartyProject

シナリオ詳細

預けた背中、その重み

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼女の意思、固く
 ローレットに集められたイレギュラーズは、複雑な表情でその3名の挙動を見守っていた。
 ひとり、語るまでもなく情報屋、『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)。
 ふたり、呼び出されて訪れ、何を言わんとするか迷いに迷った黒猫亭 平助(p3p002229)。
 そして最後、翠香と名乗った少女――平助のひとり娘、なのだという(この点は両者の言葉は是と答えた)。
 久方ぶり、なのかは分からないが。緊迫感溢れる親子の対面は、しかし和やかさを取り戻すまで待てるものでもなく。
「キミ達がイレギュラーズだね。……平助さんと、おなじ」
 翠香は立ち上がって一同を迎えると、静かに頭を下げる。装備は両手用の直剣。身の丈に比すとやや長いだろうか? 手にしていることに違和感がないのは、つまりそれほどの練度ということになろう。
 彼女は軽く自己紹介を(自分の力量のほども含め)説明した後、「キミ達の依頼についていくよ」といい切った。三弦は言いかけていた言葉を咳払いひとつで飲み込み、説明を開始する。
「……彼女はラサに身を置く傭兵のひとりです。『依頼』というのは、詳細は今から説明しますが、奴隷商の拠点襲撃依頼。ラサからの依頼ですので、彼女を寄越したようですね」
 彼女の希望で。三弦はそう口にすることはなかったが、10人見れば8~9人は「だろうなぁ」と思う状況。
「彼女は攻撃寄りの魔法戦士です。本人の前で言うのもなんですがそれなりには戦えます。敵の拠点ですが、完全に粉砕する為に拠点内の2箇所同時襲撃を推奨したく」
 2棟に別れた拠点の同時襲撃。三弦の話によれば、練兵場と武器庫を兼ねるA棟、幻想種を拐かす為の各種道具等を保管するB棟とがあるという。戦力配分は、ややA棟側多めながら、6:4程度で大きな差はないとか。
「とはいえ、重要度で言えばB棟が上です。襲撃タイミングがズレた場合、B棟へ戦力を集中される可能性があります。派手な一芸があるならA棟襲撃に回っていただくのも一案かと」
 敵勢力は多数、各棟にリーダー格がいる為、捕縛できれば上々だろう、と三弦は言う。
「ボクの事は心配しなくてもいいよ。自分のことは自分で守れるから。むしろ平助さんが自分を守れるならいいんだけど」
 ちらりと平助を見た彼女の目に、僅かながら曇りが見えたような気がするが……気の所為だろうか。
 一通りの話の後、一同は改めて依頼書に目を通し始めた。
 なお、三弦が概略を壁面に映し出していたが、見るものはごく少数だったとか。

GMコメント

 ご覧頂きありがとうございます。
 黒猫亭 平助(p3p002229)さんの関係者シナリオとなりますが、参加に特別な制限等はありません。

●成功条件
・敵拠点A棟とB棟の制圧。及び戦闘終了までの翠香の生存

●『猫の脇差』翠香
 友軍です。平助の娘とのことで、外見年齢16歳。実年齢不明。
 平助との間の会話にどこか距離を持っているように感じられるフシがある。
 魔法戦士(攻撃偏重)、エスプリは強化魔術。魔法はおまけ程度に前衛型です。
 メタ情報(心情の含まないプレイングに反映化)ですが、彼女は平助(いない場合は年配orUnknownの幻想種)に対し依存心を覚える傾向にある一方、自滅スレスレの戦い方をします。要注意です。

●敵勢力(A棟)
 武器庫・練兵場を兼ねる。平屋11室+武器庫、裏手に練兵場。敵総数10+『ウォークライ』ベンゼル(巨大棍棒使い。ショックや飛を伴う至近単~扇攻撃を行う)。
 武器が充実しており、一般兵は銃剣突きライフル(攻撃全てに出血、近~遠の攻撃可)と少数の爆薬兵(物遠範・万能・火炎・必殺)に大別される。
 士気高め。

●敵勢力(B棟)
 誘拐・奴隷斡旋用の各種道具が保管されている。平屋6部屋+道具倉庫。戦闘は室内中心になるが、各所にBSを伴う(ダメージ軽微)トラップが配されている。
 敵総数5名+『マッドネス』平目処雨雨(ひらめ・どうめ。敵味方巻き込みありの遠範・万能・猛毒のガス弾を使う。本人はガスマスクで擬似的に毒無効)。
 一般兵はコンバットナイフによる接近戦(不吉などを伴う)。
 なお、室内戦の為ポールウェポンや大型銃器などは判定に不利を被る可能性があります。
 平目は不利と判断すれば味方を巻き込んででも逃げに転じます。

 概ね以上となります。
 不明点等ありますが、『戦闘や作戦を差配する、敵側情報の重大な見落とし』はOP内に存在しません。その点のみご安心頂ければと思います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 預けた背中、その重み完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月11日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

透垣 政宗(p3p000156)
有色透明
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
リチャード・ハルトマン(p3p000851)
再会の鐘
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
黒猫亭 平助(p3p002229)
プリンセスの魔法
リンアーブル・スズキ(p3p005392)
捜し者
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身

リプレイ

●人心複雑なりて
(放任も度を越すと、子供が不幸になるのは分かってる。それでも傍にいる事が怖かった)
「……さん、平助さん?」
「う、ぉっとォ……なんでにゃんスか、翠香?」
 『#お茶っ葉厳選なう』黒猫亭 平助(p3p002229)は過去の自分を思い返し思索にふける余り、血を分けた娘――翠香の声に驚いたように身を仰け反らせた。
 彼女は普通に話しかけただけ、だったはずだ。それを見落とす程度には考え込んでいたということだろう。敵陣の研究棟、B棟側の襲撃に回った彼は、精鋭たる仲間達に思わず見せた無防備な姿を、どこか恥ずかしげに顔をそらす。
「ちょっと、ぼーっとしてたみたいだから声をかけただけだよ。大丈夫? ボクよりも平助さんのほうが危なっかしくない?」
 平助の様子に心配そうな声でまくし立てた翠香に、石動 グヴァラ 凱(p3p001051)はわざとらしく咳払いをひとつ。どこか気もそぞろに身じろぎし、次の動きを待つ彼は傍目にも落ち着きを欠いているように見えた。
 尤も、平助と翠香の関係の複雑さを前にすれば、軽々に声をかけられない分やきもきするのは当然なのだろうが。
「大丈夫だよ、こんなおじさんに出来ることがあるなら、喜んで協力しようじゃないか」
 『捜し者』リンアーブル・スズキ(p3p005392)はそんな空気をものともせず、平助の肩を叩いて安心するよう促す。ここは年の功、といったふうな振る舞いだ。彼と平助、どちらが年上か分かったものではないが。
 リンアーブルにも子供がいる。だからこそ、なのか。ままならない親子関係というやつは実に身に覚えのある分余計に気にかけてしまうのだろう。
「助かりますニャ。どうにも上手くいかないモンでにゃんス」
 平助は恭しく頭を下げると、恥じらうように頬を掻く。翠香は『上手く行っているように』装って、何事もなかったかのように立っている。だが、見る者が見れば違和感は大きいもので。

 一方、敵陣A棟を視認できる位置に陣取った面々はというと。
「親が子供を心配するように、子供も親を気にかけるのか。成程、他の親子を見てると勉強になる」
「翠香さんの気持ちに悪い感情ではないのでしょうが……不安定というか、危なっかしい感じがします」
 『Ring a bell』リチャード・ハルトマン(p3p000851)が出発前の平助と翠香の様子を思い出すように口にすると、『銀の腕』一条 佐里(p3p007118)は内心の懸念を隠さず吐き出した。
 イレギュラーズの共通認識かもしれないが、翠香の平助に対する視線は遠慮と、非情に強い承認欲求とが入り混じっているような気がするのだ。父を慮りつつも、彼を積極的に護ることで『我ここに在り』と言外に叫びたがっている……そんな印象。
 佐里は出発前、二言三言ほど翠香に声をかけたが、果たして彼女は理解してくれているのだろうか、とふと不安がこみ上げた。次の瞬間、リチャードが差し出してきた飴が口の中を跳ね回り、それどころではなくなるのだが。
(境遇は違うけど、2人のギクシャク具合が若干うちに似てる気がする……)
 『有色透明』透垣 政宗(p3p000156)は自らの境遇に翠香と平助を重ねつつ、油断なくA棟を襲撃するタイミングを図っていた。ここにいない2人の心配や思う所は始めれば際限がない。代わりに自分達にできるのは、A棟を確実に制圧し、B棟の面々に危険が及ばぬようにする、それだけだ。
「……やれやれ、拠点攻めと言えば、遺跡探索の時を思い出す。……違いとしては、重要品がなければ破壊してもよい……と言った所か」
 『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)は過去を思い返しつつ、物騒な思考にシフトさせつつあった。目的の達成意識が一際強い彼は、ロジカルでストレートな考えを主とする。同時に、探求者として大小問わず知識を得ようとするきらいがある。人の考え方ひとつとっても、それは彼にとって貴重な知識だ。
「まぁ、不幸を齎すのは俺の仕事だ――ってこった。調子乗ってる奴の足元ひっくり返して現実見せてやらァな」
 『破壊』を『不幸』に言い換えれば、『雨夜の惨劇』カイト(p3p007128)の思考はシグとそう変わらない。相手にとっての不幸は己に幸運を分配する糧となる。
 尤も、彼の場合は「この依頼を蔑ろにしたら『オリジナル』が黙ってないだろうから」という動機づけがあるのだが……それは脇に置こう。
「頃合いだ。私達の襲撃が嚆矢となるなら、精々派手に立ち回ってみせねばな?」
 シグは両腕を武装するとゆっくりと前進し、練兵場へと侵入する。流石に夜半とはいえ兵隊としての練度は高いのか、即座に侵入者への対処のために姿を表す。
「隠密ってガラじゃねえからこのまま突っ込むぜ」
 リチャードが、そして仲間達が得物を携え、現れた面々との戦闘態勢を整えていく。
 特殊な弾丸を打ち込んだシグが、直後に己を剣に変えて爆発的な一撃を放つ。激しい光と轟音は、B棟の襲撃のため待機していたイレギュラーズの元へ響き渡り、激しい戦闘へと彼らを駆り立てた。

●戦場に於いて
「罠の配置は伝えた通りだ。焦らなければ対処は容易だろうが、解除は任せた」
 凱はB棟の外壁に張り付き、内部を透視して手近な罠を一同に伝える。内部の全容を解明するとなれば、透視のみでは不十分だが……それでも、突入直後の対処は出来るし、罠の類推も利く。そして、そのまま勢いで外壁を蹴破ると倉庫に転がり込み、そのまま中の扉をぶち壊す。
「じゃあ、雑務はおじさんが受け持とう。平助君と翠香さんは思い切り暴れてもらえるかな」
 スズキはひと呼吸おいてから凱の後に続き潜入、手近な範囲の罠を解除。突入への糸口を作った。シグが烈陽剣によって発した轟音に紛れ、彼らの動きは早急に行われる。轟音が反響し、B棟の兵士達が慌てて姿を見せた頃には、既にイレギュラーズの潜入は成った後だった。
「お茶がはいりましたニャーーン!」
 平助の、いっそ呑気とすら思える声とともに放たれたのは、味方を鼓舞する赤き彩り。倉庫から扉を破って現れた4人に対し、兵士達の反応は素早い。だが、翠香は彼らが準備を整えるよりも早く、手近な兵士に深々と斬撃を叩き込んでいた。
「平助さんは下がって。ボクが前に出るから」
「気負うな。俺も手伝う」
 翠香は一撃振るった相手に目もくれず、次の対象へと向かおうとする。当然、斬られてなお戦えるそれは背後から彼女を狙おうとするが……そこは凱が拳を叩き込むことで意識を刈り取る。
 攻撃に意識を割いていた相手が、彼の拳を回避できる道理はなかったのだ。
「2人共、前に出過ぎないようにね。罠がまだあるかもしれない……」
 スズキが先行する2人にそう声をかけるか否か、のタイミングだった。通路の奥から飛来した円筒状のなにかは、壁に数回弾かれながら翠香の足元へと転がり落ちた。
 不吉な予感に、平助が警戒の声を上げるより早く。円筒は、奇妙な色の煙を撒き散らし始めた。

「チッ、こう数が多いと狙いをつけるのも苦労するよなァ?」
「それでも、全員前に出てきてくれるなら御しやすいというものです」
 カイトは四方に光弾を撒き散らし、敵陣の動きを制限せんとする。味方との連携による各個撃破を狙えれば重畳であったが、数の利と連携の精度、その差は崩し難い。
 だが、動きが派手な分、敵を引きつける効果は高い。佐里は敵陣の隙を素早く把握し、ベンゼルの懐へと潜り込む。
「一騎打ちを応援する柄じゃないがね、女の子をよってたかって殴りに行かれるのは困る」
 リチャードは、佐里の動きに反応した兵士へと鋭い斬撃を叩き込み、間合いを詰めて逃すまいと迫る。突然湧いて出た厄介な敵。自軍のボスへと迫る、その中の1人。それら目まぐるしく変わる状況の変化は、兵士の思考を順調に削り取っていく。
 だから、政宗が妖しげな動きで両手を持ち上げたその事実にも気付くことは叶わない。呪いを込めた一撃は、常でさえ避け得る相手が皆無に近いものなのだ。意識を割かれた兵士ひとり、対処できるものではない。
「ここが年貢の納め時ってやつだよぉ!」
「馬鹿かテメェら! 惑わされてんじゃねえ!」
 政宗の声、そして仲間が膝をついた事実に、兵士達が僅かな動揺を見せたのも束の間。佐里の一撃を堂々と受け止め、彼女を防具を掠めただけで大きく吹き飛ばした男――ベンゼルは、その2つ名に違わぬ大音声で兵士たちを叱咤する。彼とて、シグや他の面々の攻撃で浅からぬ傷を負っているだろうに、その動きが精彩を欠く様子が微塵も見られない。
「やれやれ、狙いと手数には自信があるつもりだが……ああも平然とされるのは些か自信を失ってしまうな」
 冗談か、否か。シグは呆れ気味に呟くと、次の手とばかりにベンゼルへと視線を向け、異常から逃れる術を制限せんとする。黒い剣が連なった鎖の幻影は、相手を確実に絡め取り、シグの意を正しく反映させた。
「チィッ、チマチマと……だが悪くねえ、喧嘩ふっかけてきたんならそれくらいはしてもらわなきゃなぁ! 気張れテメェ等!」
 ベンゼルの咆哮に合わせ、兵士たちが応と返す。彼らの戦意も無論ながら、統率力もかなりのものと見えた。
「士気が高いのが厄介ですね、結構な人数が実力をきっちり引き出せる状態です」
「ヘッ、調子乗ってる連中が少し気張った所でそれが何だ! 1人づつきっちり沈めりゃ、」
 いいだけだ、と。佐里の言葉に返そうとしたカイトは、伸ばした腕の外骨格が異音を発したことを遅まきながら理解する。こんなところで、不調を来すとは――動揺が顔に張り付いたまま、彼は兵士達が四方の逃げ場を奪い、追い込むような所に放たれた爆薬に気付くのが、少しだけ遅れた。

「お前達に盾であることも矛であることも期待してない。お前達は網だ。やることは分かるだろう?」
 B棟で、煙に紛れて粘着質な声が響き渡る。黒いごつごつとしたマスク、ひょろ長い姿。平目、と呼ばれるリーダー格に相違なかろう。
「翠香さん、ボク達は気にせず敵を倒すんだ。平助君のことは任せて」
「ありがとう、キミも、無茶はしないで」
 スズキは近づいてくる敵兵に魔力の火花を打ち込みながら、翠香へと声をかける。彼女が素で戦えば十分強いのは理解できた。だが、平助が毒で動きが鈍った、などと感じればどうか。まともに戦えなくなる、そんな可能性を考えてしまったらどうする?
 彼は翠香の気持ちも平助の気持ちも分かる。家族との距離感を掴みかねた時の悲劇というやつも。乗り越えられるのは本人同士だけだ。なら、微力でも邪魔にならないよう戦わねば。
 対して、平目の言葉を受けた兵隊達は、降って湧いた幻想種の出現に喜び半分、毒煙に巻き込まれてまで行動を起こさねばならぬ恐怖半分の状態だった。
 だが、それでも彼らは相手の実力を嗅ぎ分け、素早く翠香へと群がろうとする。彼女もひとかどの戦士だ。決して1人ふたりに後れを取る筈がないが、毒煙を排除しようと平目を狙う余り、視野が狭まっているのは確か。現に、彼女の視界の端から敵が迫り……。
「下劣、な!」
 横合いから吐き出された凱の一喝に、数名が弾き飛ばされた。
 『網』として翠香を確実に捕らえようとしたことで、一箇所に固まってしまったが故のミス。そうでなくとも、密集を余儀なくされる隘路の戦闘。さらに毒を物ともしない凱の動き。隊列を乱した兵士数名に向け、翠香は追い打ちをかけるように打ち掛かる。先程までの危機など一顧だにせず。
「翠香! 実力を認められたいニャら、何を大切にして戦うか考えるのニャ! 自分を大切に出来ないニャら、誰も助けられんのニャ!」
 足を止め、手近な兵士と切り結んだ翠香に、平助は思わず強い口調でもって叱責する。一歩踏み出しただけの彼女に、無茶があったとは言うまい。だが、窮地に至ってなお表情を変えずに前進した彼女に、危うさがないと言えるだろうか?
「……っ!」
 びくりと足を止めた翠香の鼻先をコンバットナイフが過る。空振りし、動きが乱れた兵士は、スズキの放った術式で膝を付き、凱の一撃で昏倒する。
「みんニャ、毒くらいわっちが治すニャ! 気にせず蹴散らすニャ!」
 平助は声を張り、仲間達の毒を癒やす。
 スズキと翠香が兵士達の気力を削ぎ、凱は一気に平目へと距離を詰めて拳を振るう。兵隊を使い捨てにする戦術も、毒の煙幕も彼らは物ともしない。彼の戦意はすでにズタズタに切り裂かれ。凱の拳は、平目の思考に入った罅をあっさりと打ち砕いた。

「逃してなんかあげないよ! 逃げる気もなさそうだけど!」
 政宗は爆薬兵に爪を向け、次々と花々を生み出して絡め取らせていく。色とりどりの花は、しかしその華やかさが醸し出す『愛』の形をあまりに歪に映し出す。爆薬兵はその花々の『愛』で昏倒するが、同時に手から放たれた爆薬は、政宗の身を強かに焼き焦がす。決してやられっぱなしで倒れぬところは、流石というべきか。
「幻想種を奪って回ったツケってもんだな。ご自慢の兵隊もボロボロだが、アンタはどうなんだい?」
「馬鹿言え、この程度で勝った気でいるってのか? 今から俺が全員潰しゃ済む話だ」
 リチャードの挑発に、ベンゼルは本気で思っているかのように吠える。足を止め、殴り、吹き飛ばし、戻り、打ち合う。
 両者の動きに一秒として停滞はなく、一瞬も同じものは重ならない。だが、その動きの際、次の攻撃への隙に割り込むように、佐里の攻め手は正確にベンゼルへと打ち込まれていく。
「どうしました。兵士としての優秀さと一緒に切り捨てた人間性に合わせて、冷静さも捨ててきたのですか?」
 佐里の挑発に、ベンゼルが激高しないわけもない。だが、同時に。乱戦となった状況は、少しずつ彼を不利へと追い込んでいく。
 戦力が拮抗し、一瞬の切れ目が致命的な隙を生むというのなら。
 それらの隙を雨と降らせる如くのシグの動きは、士気だけでどうにかなるそれを遥かに越えていた。派手な戦いも、静かな侵食も彼の領分。仲間達が信頼に耐えうるなら、奇策を紡ぐ必要などないのだ。
 果たして、リチャードが生んだ隙に佐里がねじ込んだ攻撃を経て、ベンゼルは膝を付き、完全に動きを止めるに至ったのだった。

「平助さん……ボクはちゃんと『大人』になったよ。大丈夫だから、ちゃんとやれてるから」
 戦闘終了後。負傷したカイトと政宗を後送した一同は、翠香と平助のやり取りを遠巻きに見守っていた。
 翠香はおずおずと平助に語りかけ、何かを躊躇するような表情を見せた。平助はすかさず、彼女の頭へと手をのばす。
「翠香、よくやったニャ。無理をさせたなら悪かったのニャ」
「……大丈夫だけど、もう少しだけ、撫でてくれる?」
 気丈な声音から、どこか甘えるようなソレへ。佐里から戦闘開始前に貰ったアドバイス――胸につっかえた気持ちを、後先考えずに吐き出せ――を実践した形である。それを聞いた平助の表情がいかほどのものかは、想像に任せよう。

 ところで。
「……ベル、なのかい?」
 スズキとリチャードは、そんな平助達をよそに対峙していた。かたや、父と確信した表情。だが、死んだとばかり想っていた相手だ。驚きは隠せない。
 かたや、面影を認めつつも確信が持てぬ表情。名を変えた相手でも、顔と、絆からの嗅覚で理解できるというもので……。
「……まさかこんなところで再会するとはなぁ」
 事実は小説よりも奇なり。彼ら2人の再会が、この場で一番のサプライズであることは言うまでもない。

成否

成功

MVP

一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す

状態異常

透垣 政宗(p3p000156)[重傷]
有色透明
カイト(p3p007128)[重傷]
雨夜の映し身

あとがき

お疲れ様でした。
とりあえず、お互いのプレイングを読むことで今後の糧になると思います。
負傷の有無、パンドラ増減の有無が全てではないですが、描写等で色々ご理解頂ければ幸いです。
MVPは戦闘心情、全体的にそつがないとおもったので貴女へ。
一部称号とかも出ていますです。

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