PandoraPartyProject

シナリオ詳細

チューチューチュー

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 泉のほとりでキスを交わし、二人で汲んだ水をオリーブの木に与えれば、永遠の愛が約束される。

 噂を聞きつけてやってきたカップルたちで、連日賑わうオアシスがある。真ん中に湧く青く透明な泉が、完ぺきなハート型をしているのだ。空を飛べなくったって、泉を抱く高波のような砂丘に登りさえすれば、誰でも砂漠のハートを見ることができる。
 この砂漠のハートだけでも恋愛のパワースポットとして申し分ないのだが、さらにもう一つ、このオアシスを聖地化させるアイテムがあった。それが泉のほとりに生えるオリーブの木だ。どういうワケかこのオリーブの木の葉はすべて、二枚の葉っぱがくっついて寄り添いあっている。それが愛らしいハートの形に見えるのだ。
 泉のほとりでキスを交わし、二人で汲んだ泉の水をオリーブの木に与えれば、二人は生死を超えて愛は永遠(とわ)に続く……というエピソードは、商魂たくましいオアシスの街人たちがこれらを組み合わせて考え、広めたものだが、それを知ったところで恋する老若男たちの気持ちが冷えることはなかった。
 オアシスの街は、恋人たちが落とすお金で大いに潤い、発展していた。
 つい先日までは。


 ハート型の泉が砂丘に沈む夕日を写して金紅色に輝いている。
 空はオレンジ色からライラック色に変わりつつあり、泉のほとりに立つオリーブ大木はシルエットになってひっそりと愛を確かめ合う二人を見守っていた。
 カズキはおずおずと、愛しい人の胸へ腕を伸ばした。
 こうして一緒にいることがまだ信じられない。
 触れた瞬間に彼が消えてしまいそうで、ためらう指先が目に見えて震えている。
「あっ……」
 いきなり手首をつかまれて、強引に引き寄せられた。
 互いの吐息を感じる距離で見つめ合う。
 青く輝く瞳の熱にとらわれたまま、カズキも彼を見つめ返した。
 熱い血がドクドクと脈打ち、体り中を暴れ駆けめぐる。
 カズキは思い切って空ているほうの手を伸ばすと、彼の顔に触れ、頬から形のいい顎へ指を滑らせた。
 彼がこらえ切れなくなったかのように、切ない声でつぶやく。
「カズキ、お前だけだ。永遠に……カズキ、お前だけを愛す」
 たまらず漏れ出た溜息を吸い取るみたいに、気づいたら唇が重なっていた。

 チュ……。
 ……ズ。

 二度、三度と触れ合うように軽く唇を押し当てる。

 チュ、チュウ……。
 ……ドド、ドド。

 口づけの音を奇妙な音が追いかけてくることに気づき、カズキは彼から唇を離した。
「ねえ、いまの……聞えた?」

 チュウ、チュウ……。

「この音か? 俺たちの他にも愛を誓い合う恋人がいるんだろう。それよりも――!?」

 ズドドドドトドドド!!

 二人は同時に砂丘へ顔を向けた。
 砂丘がふもとから崩れ、砂の波が押し寄せてくる。
 いや、砂の波ではない。あれは砂――。
 悲鳴をあげる間もなく、二人はビックジャービルの群れに飲みこまれ、あっという間に白骨化した。


「魔物のせいで商売あがったり、どうにかしてくれと街の人たちから頼まれた。このままではせっかく大きくなった街が廃れてしまう。イレギュラーズたちに退治してほしいそうだ」
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)はどかりと椅子に座りこむと、丸眼鏡を外し、両手で顔をこすった。
「魔物はビックジャービルという、まあいえばデカいスナネズミだ。普通のスナネズミの大きさを1とした場合、ビックジャービルは50倍……だいたい小熊ぐらいだな」
 ビックジャービルの大きさを示すため、クルールは胸の前で手を広げた。手のひらと手のひらの間は、だいたい50~60センチといったところだ。
「コイツらが集団で、恋人の聖地でいちゃつくカップルを襲い、食い殺している。おびき出して一匹残らず退治してくれ」

GMコメント

●依頼内容
 ・ビックジャービル24体の撃破。

●魔物・ビックジャービル
 スナネズミが何かの影響で魔物化したものです。
 雑食。
 体長50~60センチ。
 見た目は可愛らしいのですが、とても凶暴です。

 【噛みつき】近単・出血……鋭い歯でなんでも噛みちぎります。
 【チューチューチュー】近列・恍惚……。

 活動時間は明け方、または夕方。
 キスの音に反応して、砂丘からやってきます。
 男女、男男、女女、どの組み合わせのカップルでもOK。
 泉の傍で『イチャイチャ・チュー』すれば、ビックジャービルをおびき出すことができるでしょう。
 クルールの調査では、ビックジャービルは2グループ(12体ずつ)に分かれているようです。

●砂漠のハート
 ビックジャービルたちが現れる少し前までは、恋人たちの聖地でした。
 現在、泉を訪れる恋人たちはいません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • チューチューチュー完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月08日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
回言 世界(p3p007315)
狂言回し

リプレイ


 冷たく真っ暗な世界が少しすづつ、熱と色を取り戻していく。黒からオレンジ、そして青へ。
 眠い目をこすりながらイレギュラーズたちは宿を出た。
「恋人かー」
 『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)は驚くほどにサラサラな砂を踏みながら、まだ蒼い影に沈む砂丘のふもとを見つめた。
「アウローラちゃんにはそういう人はいないからあんまり想像できないけど、幸せになれるのならロマンチックだよね」
 恋人たちの聖地。オアシスにて口づけをかわすと、永遠に愛が続く。地元の商人たちが、観光客誘致のためにハートの形をしたオアシスに与えた名称と言い伝えだ。
 白い息を吐きながら、 アウローラがこぶしをつよく握る。
「人の恋路を邪魔する悪いネズミは、しっかり退治しないとね!」
 『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が、そうですね、と冷めた声で相槌を打つ。
「何ともトンチキな性質の魔物が出たものですが、被害が出ているのでしたら呑気なことは言っておられませんね」
 人々の脅威が現れれば、それを速やかに排除する。ただそれだけのことだ。
 混迷を極めるこの世界で、ヘイゼルはいつしか、軍学校を出たばかりの新兵から立派な軍人になっていた。魔物にいかなる事情があろうとも、任務を受けた以上は粛々と遂行するのみ。
 ただ、興味はある。魔物はなぜ、急にオアシスに徒党を組んで現れ、人を食い殺し始めたのか……。 
 ヘイゼルは倒した魔物を持ち帰れるものなら持ち帰ろうと思った。何かわかるかもしれない。
 砂丘に埋もれつつある細い月を赤い髪の向こうに置いて、『斜陽』ルチア・アフラニア(p3p006865)は息を落とした。
「いずれ素敵な殿方と懇意になった日にでも、訪れる機会もあるだろうし、このまま鼠たちに潰させるわけにもいかないわね。それにしても、恋人たちの聖地ねえ……。ローマにも、いずれそのような場所ができるって話は聞いたけれど」
 ベスビオという火山が大噴火を起こした年に生まれたルチアは、混沌世界に召喚されたことで、生まれた世界で起こる遥か先の出来事まで知ることになった。ローマにできる恋人たちの聖地のことも、同世界からきたウォーカーから聞いたのだ。
「それって、トレヴィの泉のことか?」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は被っていたフードを降ろし、肩を捻った。
「あれだろ、泉に背を向けてコインを二枚投げ入れたり、水を飲むと恋人と永遠に結ばれるとかなんとか。たしかに似てるよな。そのトレヴィの泉ならもうあるぜ。てか、ルチアってオレと同じ世界から来てたんだ?」
 同じ世界かどうかは解らない。似たような並列世界は無数にあり、混沌に召喚されてきた者同士で話をすれば、どこかで少しずつ時と場所が重なることはままある。
 二人が同じ世界の出であったとしても、一悟が生まれたのはルチアが生きていた時代から千五百年以上も後のことだ。異世界とたいして変わらない。
「同じっていうなら、むしろ俺や蛍とじゃないかな?」
 砂に足跡を刻みながら、『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)が前を向いたままいう。
「日本人だし」
 次元、国籍……そればかりでなく、当人たちは知らないことだが、一悟も世界も『混沌とはまた別の異世界に飛ばされたことがある』という妙な共通項があった。片や能天気、片や不機嫌、とずいぶん対照的ではあるが。
「そうだった、蛍も……って、あれ、珠緒は違うのか?」
 一悟は足を止め、肩を並べて歩いてくる『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)と『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426) を見た。
 話を聞こうとしたが、やめた。二人はすでに自分たちの世界に入っている。少しでも邪魔すれば、どこからともなく現れた馬に蹴られてしまいそうだ。
 一悟は前を向いて歩きだし、話題を魔物に戻した。
「まあ、あれだ。リア充爆発しろ……って思うことオレもある。あるけど食い殺すはやり過ぎじゃね? てか、魔物のくせに嫉妬なんかすんなよ。なあ?」
 横を歩く『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)に同意を求める。
「魔物でもいろいろと思うところがあるんやないの? それより俺はどうして待ってよね。合コンのノリで独り者相手に【占い】でもしてあげよか」
 果てしなく続く早朝の砂漠に目をやっているうちに、ブーケはここにきた目的をふと考えた。魔物退治……ではあるが、さて。
 細めた萌黄の瞳を柔らかく曲げて、ふふ、と笑い声を軽く漏らす。つややかな黒髪が揺れ、なんともいえぬ色香が広がった。
「一悟ちゃん、一番最初にみてあげよっか。そや、世界さんも一緒にどうです?」
 世界は首を横に振った。指で頭のカチューシャに触れ、軽く抑える。『決して取れない呪い』がかけられているので、ずれ落ちることはない。無意識にとった行動だ。
「仲良きことは美しきことかな……俺は残念ながら天涯孤独なんで、奴らをおびき出す時まで罠を可能な限り仕掛けようと思う」
 はやくも青く燃えはじめた空の下、イレギュラーズたちは砂丘に抱かれたティールブルーのオアシスにたどり着いた。
 まもなく朝日がハート型の水面を照らす。
「俺達で早く終わらせて、恋人たちの聖地ってやつを取り戻してやるか……面倒だが」


 朝の光の中、蛍は珠緒と泉のほとりで向き合っていた。
「た、珠緒さん。イヤって感じたら、止めてくれていいからね?」
 自ら志願したおとり役割とはいえ、やはり緊張する。
 それは珠緒も同じらしく、微笑を交えた吐息をつき、おずおずと手を伸ばしてきた。
「お手柔らかに、お願いしますね」
 蛍は伸ばされた珠緒の手を取ってぎこちなく指を絡めた。
 その指を珠緒が握り返し、胸元に引き寄せる。
 ああ、こんなふうにされたら胸の高鳴りが珠緒に伝わってしまう。自分が感じていることが伝わってしまう。
 しっとりと濡れる珠緒の瞳で溺れそうになり、蛍はすっと目をそらした。
「お、思い出話でもしながら……少し歩きましょうか。ほら、ネズミたちのことも警戒しなきゃいけないし……」
 言ってしまった後で自分を殴りたくなった。仕事だということをわざわざ強調してムードを壊す必要はなかったのに、と。
「はい。桜咲も少し、蛍さんとお話がしたいと思っていました」
 花開くような微笑みに、心がとろかされる。先ほどの野暮な言葉を許されたような気がして、蛍はほっとした。
 対岸にあるオリーブの木へ向かって歩き出した。
 泉のほとりでキスを交わし、二人で汲んだ泉の水をオリーブの木に与えれば、二人は生死を超えて愛は永遠(とわ)に続く……。
 手順としてはまず口づけをかわすべきなのだが、それではあまりに味気ない。その前に、この胸にある百あるうちの一つでも、思いを言葉にして伝えたよう。珠緒はだれよりも大切な人だから――。
「ありがとうございます」
「え?」
「こうしていつも手を引いてくださり、様々な景色や催しを見せてくださったこと。召喚されてから、なかなか友人も増やせなかった桜咲に、声をかけてくださったこと。ほんとうに感謝しております。蛍さん……出会えてよかった。これからも桜咲と仲良くしてくださいませね」
 足を止め、見つめ合う。
 名前で同じ日本人だと思い込んで声を掛けたこと。この混沌世界のあちこちを二人で楽しんだこと。どんなに困難な依頼でも、一緒なら頑張れたこと……。
 あふるる思いが体中で渦を巻いている。自分の思いを外に吐きだそうとして叫んでいる。
 愛おしくて、愛おしくて。
「たしかにこれはお役目なんだけど……ボクの素直な気持ちだから」
 思わず抱きしめてしまった珠緒の顔を上から覗き込んだ。色の違う珠緒の目がさらに潤み、頬に朱がさしている。
 自分の気持ちに抗いきれず、唇を奪った。
 蛍は初めて、理性のきかない衝動的な感情がある事を知った。


 一悟はちょっとドキドキ、クラクラしていた。
 重ねられたブーケの手が熱い。低く歌うような、まるで呪文のような占い結果が、耳の左から右へ心地よく抜けていく。全てを見透かしたような微笑に、どうしようもなく心がくすぐられてしまう。
(「え、なにこれヤバい……マジか、ブーケさんって男だよな?」)
 恋愛に免疫がないことは自覚しているが、まさか男相手にときめくとは。
 一悟はブーケの笑みから無理やり視線を引きはがし、朝の光に煌めく泉へと目を向けた。
「あっ!」
 イスから腰を浮かせた拍子に、願掛けにつかうハートの葉っぱがテーブルの下に落ちた。急な音と動きに驚いた砂トカゲが砂漠へ逃げていく。
「一悟ちゃん、しっ。声が大きい」
 タロットカードを集めながら、ブーケが一悟をたしなめる。
「でも、あれ……なんや、あの二人めちゃくちゃドラマチックにチューしたね。本気で付き合ってるみたいに」
 蛍と珠緒のファーストキスは、まさに映画のワンシーンのようだった。
 唇を離したあとも熱く視線を絡ませ合う二人に、一悟は嫉妬の炎を燃やす。
「むぎぎ……世の中にはオレたちのようなイイ男がたくさん溢れているというのに……どーしてカワイイ女の子どうしでチューする!?」
 ブーケは手を振って、砂丘の手前で手製のマキビシを撒く世界の注意を引いた。
「うわー、めっちゃ迷惑やわ。『オレたち』でひとくくりにせんといて」
 自分の場合は異性にモテないのではない。その気になればいくらでも……実際、熱い視線を感じたことが何度かある。優しくしてくれるのなら相手が男でも女でも構わない。自分のことを棚に上げ、なんだかんだと相手に条件をつけない分だけチャンスは多いのだ。
 まあ、そんなことをいま一悟に言ってもしかたがない。
 ブーケは占い用の小さなテーブルを畳むと、オリーブの木の幹に立てかけた。
「ほら、いくで」
 泉にハートの葉っぱを投げ入れ、未練がましく手を合わせる一悟の襟首をむんずと掴んで立たせる。
 もう一度、今度は控えめに、優しいキスの音が甘く響いた。
「現れました! ビックジャービル、来ます!」
 上からきりっとした声が降ってきた。ヘイゼルだ。
 魔方陣を足の下にして浮かぶ姿がオリーブの葉の上にあった。
「そんなところにいたんだ。まさか――」
「別に覗いていたわけでは無いのですよ?」
 怪しい。めちゃくちゃ怪しい。上から男二人に向ける謎の視線がむちゃくちゃ怪しい。
 ヘイゼルに対して意味不明の言いわけを始めた一悟から手を離し、ブーケはハートの下の方へ顔を向けた。
 ルチアとアウローラの疑似カップル――こちらは本当のお友だち、ネズミの目をくらますためのカップリング――が泉のほとりを仲良く駆けてくる。
 距離からして二人にキスの音が聞こえたとは思えない。蛍と珠緒のラブシーンをじっと見ていたか、ネズミの出現に気づいたアウローラがルチアに教えたかしたのだろう。
「ってもう! 鼠出てくるの早すぎよ!」
 怒る蛍の後で、珠緒が顔を赤くする。
「……ええ。どう聞きつけているのか、早い出現なのです」
 珠緒の声には魔物の出現を残念がる響きがあった。
 二人で顔を見合わせ、耳まで赤くする。
 そんな二人を見て、一悟が低く唸る。
 駆けつけて来たルチアが、ちょっといいかしら、と一悟の肩を叩いた。
「恋愛なんて機会と神様の思し召しよ。今は一人だったとしても、いずれ、きっとお相手も見つかるわよ。多分」
 私は相手になれないけどね、と付け加え、さっと傍から離れる。
「多分? 多分ってナニ。それよりオレ、対象外なの?」
「一悟ちゃん、なんやったら俺とホンマにいい仲になる?」
 ブーケのささやきに、えっ、と声を詰まらせて、今度は一悟が顔を赤くした。
 そこへ世界がゆっくりと、しかし大きな歩幅で戻って来た。
「ドンピシャだ」
 背後であがった甲高い鳴き声を聞いて、ニヤリと笑う。
 マキビシを踏んだビックジャービルが数体、砂の上で踊るように飛び跳ねていた。
「俺の分析と一悟の情報で、全員が揃う時間を稼げたな。ん……どうした一悟。熱でもあるのか?」
 一悟にいぶかしげな視線を送る世界を見て、くつくつとブーケが笑う。
 アウローラとルチア、それに蛍と珠緒が、場に流れる微妙な雰囲気に戸惑い、男三人の顔を交互に見た。
「え、なに? 私たち、何か面白いもの見逃した?」
 一人冷静に、上空からヘイゼルが状況を報告をする。
「敵の総数二十四! トラップを抜けた第一陣、十二体来ます。全員直ちに戦闘態勢に入ってください」
 世界は砂から、一悟は砂トカゲから、それぞれ魔物が現れるおよその位置を割り出していた。出てくる方角がわかれば見張りやすい。ヘイゼルが砂ほこりの立つ前に、ビックジャービルたちの姿を見つけ出すことができたのもそのためだ。
「一度に? 二十四体、全部?」
 世界が片眉を持ち上げる。
 トラップを仕掛けてよかった。この人数で二十四体の魔物を一度に相手どるのは危険だ。それにしても、クルールの話では朝と夕の二回、十二体ずつに分かれて出るということだったが……。
 世界の疑問に答えたのは、腕をぐるぐる回して迎撃の準備をするアウローラだった。
「遠くから見てても激アツチューだったからねー。悪いネズミたちも一回で嫉妬したんだよ。そのあとのチューも甘々で、アウローラちゃんまで蕩けちゃいそうだったからねー。三回目のチューを聞いてしまったら、砂の下で悶え死んでしまうって思ったんだよ。きっと」
 明るく朗らかな声で、アウローラがさらりと言う。
 蛍と珠緒は砂の上にしゃがみ、両手で真っ赤な頬を包んだ。
 どどど、と砂塵をあげながら、ビックジャービルの群れがイレギュラーズたちに迫る。
 アウローラは高々と腕をあげ、蒼天より連なる雷を降ろした。
「まとめて片付けるぞー。昼はゆっくり街で休んで、夕方は観光! さあ、ネズミ退治がんばるよー!」
 元気よく振り下ろした指先から、砂漠の乾いた空気を討ち震わせる電撃を放ち、ぽんぽんぽんっとデカいネズミをはねあげた。


 うなり声を上げる風にあおられた砂は、息つまるような砂つぶてとなって舞い上がり、入り乱れる魔物とイレギュラーズの双方に襲い掛かった。
 戦いの音が風に吹き飛ばされ、一瞬、双方の動きが止まる。
 機を捉えた世界は、大いなる恐れに彩られた黙示録を口ずさみ、仲間たちに敵をすくませる破滅のオーラを纏わせた。さらに己の命を絞り上げて言葉を紡ぎ、与えたオーラに相応しい力を授ける。
「おー、元気もりもり。ありがとう、世界!」
 世界は、どういたしまして、という代わりに、口の端を軽く持ち上げた。
「来たな! 潰れちゃえー!」
 アウローラは砂の下深くから掘り起こした土塊を巨大な拳に変えると、飛び掛かってきたビックジャービルのでかい鼻に叩きつけた。
 ぶしゃ、と音をたてて巨大スナネズミの胴が四分の一に縮む。へしゃげた魔物は砂に沈んだ。
「セット完了。散布します」
 ヘイゼルは『四悪趣の酒』と呼ばれる化学兵器を放出した。
 風の直下にいたビックジャービルが『四悪趣の酒』をまともに浴びて倒れ、砂の上を転がり回る。転げ跡が血で赤く塗られていく。砂つぶてによって体毛を削られ、細かく傷つけられた皮膚に酸性の強い毒が吹きつけられたのだ。その身を焼く苦しみは想像に絶する。
「損傷が激しくて、ぬいぐるみにするのは不適合ですね。情報も得られそうにないし」
 肢体を痙攣させる魔物を見下ろしながら、ヘイゼルが極めて冷静に呟く。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。あなただって似たようなものよ」
 最初の十二体を片付け終える前に、マキビシを踏んで足止めを食っていたのこりの十二体が襲い掛かって来た。ヘイゼルは空を飛んでいたが、ピンチに陥った仲間を助けるため、たびたび砂の上に降りねばならず、その都度魔物たちに囲まれて全身至るところを噛まれていた。
 ルチアは意識を体の中心に向けると、全身を流れる命の煌めきを霊的な手ですくいあげた。
「命の光、我が手に集え! 我、ルチア・アフラニアが求める。戦士の傷を癒し、健やかなる身体と為せ、と」
 目を開き、両手にあふれる黄金の輝きをヘイゼルに分け与えた。
 凜と声を乾いた砂地に響かせ、仲間を鼓舞する。
「さあ、もう一頑張りよ!」
「ほい、ほい、ほいっと」
 得物の思いがけない抵抗に恐れをなし、逃げ出そうとしたビックジャービルの背を捉え、ブーケはその上で軽やかに三回跳んで三つの火種を落とした。
 たちまち不吉な炎が魔物を包み込む。
「なあなあ、ねずっちゅー。暑いのん嫌いなんやろ? ちゃうか?」
 ブーケは、とん、と砂の上に降りたつと、チューチューとか細く鳴く魔物に向き直った。 
「だからお熱いカップル攻撃してはったんやろ?」
 それはあかんな、と顔に張りつけた笑みを落とし、長い脚を鋭く蹴りあげてとどめを刺した。
 珠緒を後ろ手でかばいつつ、蛍は向かってきたビックジャービルたちを一喝した。
(「好きな人も守れないで、恋人なんていえないわよね……!」)
 ちらりと珠緒を見る。
 珠緒は信頼と愛情のこもった眼差しを返し、蛍にさらなる活力を与えた。
「くそ! 後ろでイチャイチャ、イチャイチャ……嫉妬の炎でこんがり丸焼きにしてやるぜ!」
 蛍に一喝されて身をすくませている魔物に向けて、一悟は爆弾を走らせた。
 ドーン、 ドーン、 ドーンっと砂柱が続けて高く立つ。
「終わったらここで散った恋人たちの供養でもしておこうか……。作った墓にまた新たなエピソードが……なんてな」
 世界はふっとニヒルな笑いをこぼすと、呼び出したサンドワームに一体だけ生き残っていたビックジャービルを食わせた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

成功です。
イレギュラーズたちの手によって、恋人たちの敵・ビックジャービルは一体残らず駆逐されました。
遠からず、恋人たちの聖地に賑わいが戻るでしょう。
さて、恋人たちといえば……。

ご参加ありがとうございました。
みなさんとまたお会いできる日を楽しみにしております。

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