シナリオ詳細
Re:暗殺者をお見舞い申し上げます
オープニング
●幻想貴族の優雅なる寒中見舞い
真っ赤な一人がけソファに腰をうずめ、栗色の毛皮をした獣種の男は鼻を鳴らした。
美しい刺繍模様の入った上着と、見るからに上等と分かる布地のシャツ。
天使のような模様が描かれたガラスのデキャンタを手に取ると、グラスへ僅かに注ぎ込んだ。
デキャンタにもグラスにも、そして彼の上着にも、統一されたある紋章が描かれている。
薔薇と獣をかたどった紋章だ。
その紋章は、見る者が見れば家名を言い当てられるほどに知れた、幻想貴族の家紋であった。
グラスを持ち上げ、スンともう一度鼻を鳴らす。
「……だめだな」
「だめでございますか」
黒い毛皮をもこもことさせた羊の獣種男性が口を曲げた。
服装から言動から全てがそれらしい彼は、やっぱりというべきか執事である。
獣の貴族はグラスを執事に突き出すと小さく首を振った。
「かすかに毒の臭いがする」
「よくお気づきで」
「季節柄、多いからな」
「さすが……」
はあとため息をついて、栗毛の髭をふるわせた。
一方執事は表情一つ変えず。
「スティーブン様は貴族心がおわかりでいらっしゃる」
世の中、お金さえ出せば人を殺してくれる者は少なくない。
それはお金を出してでも殺したい人が居るという事実に平行して、死ねばそれだけの利益が流れる人間が存在することも意味していた。
幻想貴族スティーブン氏は、『死ぬと誰かの利益になる人間』の一人である。
●雪と嵐は暗殺日和
王都のどっかにあるギルド・ローレット……からやや北に離れた酒場。
窓の縁に積もる雪を横目にウェイトレスが無数のビアジョッキを運び、肉を山盛りにした皿を運ぶ。
年季の入った木製テーブルに肘をついて、『黒猫の』ショウ(p3n000005)はパフェのチェリーをつまみあげた。
「知ってるかい? この季節になると暗殺が流行るんだ。
外に雪が積もると運動が苦手な貴族は外に出たがらない。馬車だって動きづらいし、服だって濡れるしね。
だから政治的なやりとりを手紙とそれを運ぶ配達人に任せてお家に籠もることが多いのさ。
いつも顔見せだ会談だってあちこちを行き来する貴族が高確率で家にいる。そんなチャンスはそうそうないよね。だから暗殺ギルドもここぞとばかりに営業をかけるのさ。
『コンコン、暗殺はいりませんか? 自宅に居ながらにして邪魔者をパッと消してご覧に入れましょう!』」
くるっと結んだチェリーの茎を舌に乗せ、ショウは悪戯っぽく笑った。
「すると必然、暗殺者から守る仕事も増えるってわけさ。今回は、『そっち側』だよ」
運ばれてくる肉料理。
アスパラをベーコンで巻いたものが俵積みになっている。
「依頼人は幻想貴族のスティーブン氏。内容は暗殺からの護衛さ。
彼は可哀想な身の上でね。アーベントロート領とバルツァーレク領の間に領地を持っていて、商業ルートのひとつを管理しているんだ。
もし彼が死んで管理が止まれば得をする連中は沢山居るし、そのポストを奪えれば得をする人も沢山いる。必然、暗殺のターゲットになりやすいってわけだね。
護衛期間は雪で家から出られない3日間のみ。
けれど、あちこちから暗殺者が差し向けられているから本当に注意してね。もしかしたら激務になるかも」
ショウはコインをテーブルに置いて、スッと席を立った。これで好きなものでも食べなよと言わんばかりに。
「細かいところは皆で相談してね。それじゃ!」
手をぱたぱたと振って、ショウは店を出て行った。
外は雪と風で大変そうだ。
- Re:暗殺者をお見舞い申し上げます完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月26日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●雪降る日にはよく売れる
コーヒーカップを手に、ロマンスグレーが椅子の背もたれによりかかる。
「運命とはどう転ぶかわからぬものだな……」
『智の魔王』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)のふとした呟きは誰に聞こえることもない。大衆酒場の喧噪が全てをさらっていくからだ。
窓の縁には雪が積もり、その先は雪だらけだ。銀世界なんて言葉があるが、常夜灯のない街路を埋めた雪景色は灰色で、どこか焦土を思わせる。
「リブステーキにポテトサラダ。イチゴパフェでごぜーます!」
『影女』えーこ(p3p002219)が複数の大皿とトレーを器用に持ってやってきた。
格好も振る舞いも給仕そのものだが、彼女の部分だけ世界が明度をつけわすれたかのごとく黒く陰っている。
酒場の店主は彼女の容姿に一度だけぎょっとしたが旅人多き幻想の地のこと、『そういう人もいるよね』ですぐに流された。むしろ店員でもないのに積極的に料理を運び始めるさまにこそぎょっとしている。
「こんどはイチゴのぱふぇでありますか! 綺麗な盛りつけでありますね……!」
どこか表情をぱっと明るくした『ナイトウォーカー』クロウディア・アリッサム(p3p002844)がパフェを受け取り、隣の『銀翼の歌姫』ファリス・リーン(p3p002532)にも渡していく。
ファリスは随分とご機嫌がナナメだ。おそるおそる理由を尋ねれば、どうやら肉料理が苦手らしい。特に匂いがだめで、食肉文化そのものに否定的な雰囲気だ。
どうやらこのテーブルではパフェが人気のようで、『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)も同じくパフェをつついている。
「今回の依頼は暗殺警護ですか。得意分野ではありませんが、できる限りのことはさせていただきます」
「警護って、メイドさんの格好してもいいんだよね? 用意してきたよ、ほら!」
『忘却の少女』リィズ(p3p000168)がハンガーにかかったメイド服を二着両手に翳して見せた。
方やリィズにぴったりあいそうなあちこち豊かな丈だが、もう一方は小柄向け。なぜ二つも……と思ってみれば、リィズはとなりの『魔法騎士』セララ(p3p000273)に服を当てて見せた。
「うん、似合う似合う♪ がんばろうね!」
「うん! 正義の魔法騎士として、スティーブンさんをしっかり守ってあげないとね」
ガッツポーズのセララである。
そんな様子を眺めながら小さく笑う『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)。
「しかしプリンスやプリンセスも大変だが、貴族も中々大変なのだねえ。毒林檎ではなく毒のワインを贈られるなんて」
雪積もる季節には、差出人不明の毒ワインがよく届く。
依頼人に毒のワインを飲ませぬために、凶刃に刺されぬように。
そばについて警護する三日の仕事が始まろうとしている。
●凶手
陽光を浴びる金色の髪。片目を覆う花の眼帯。
ラクリマは広い庭をゆっくりと歩きながら、手帳にちらちらと何かを書き付けていた。
「ラクリマ様。執務に入りますが、いかがしましょうか」
黒羊のマッカランが屋敷から呼びかけてくる。
ラクリマは今行きますと言って手帳を閉じた。
ラクリマはマッカランと共に手紙のチェック。その他には家具類に危険が無いことを一通り点検する仕事にかかっていた。
仕事は分担制だ。細々した点検がラクリマの仕事なら、依頼期間中に増える八人分の料理や料理関連の防衛はグレイシアとえーこの仕事だった。
「ンアー、すばらしいんだなァ。僕と同じくらい料理が上手なんだなァ」
ピンク色をした豚獣種マクレーン。依頼主であるスティーブン家つきのコックである。好きな料理は豚骨スープのワンタンメン。
「喫茶店での仕事が役に立ったようだ」
グレイシアは涼しい顔で昼下がりの軽食を作り上げていく。
三食寝床つきの依頼とはいえ24時間仕事である。厳密には一日五食体制だ。おかげでキッチンは大忙しになるのだが、グレイシアの手際で随分と助かっているようだ。
更に言えば、えーこが厨房を綺麗に整えてくれるおかげでグチャグチャになりがちな厨房は今やピカピカだった。
「勿論料理もわーちにお任せ! でごぜーます。メイドですから!」
誇らしげに胸を張るえーこ。
「小麦粉がきれてしまったようだが」
「とってくるでごぜーます。場所は?」
「地下室なんだなァ。そこの小さい扉から行けるんだなァ」
マクレーンの言うとおりに、腰を曲げて通るような木戸がある。そこから地下へもぐりこもうとした途端、向こう側からがちゃりと扉が開いた。
ニット帽を深く被りローブを纏った子供……に見えたが、ローブの中に畳んだ手足はいびつなほど長く、立ち上がった段階でえーこが見上げるほどの背丈があった。
懐中時計のように歯車があちこちについた鉄騎種の男だ。
「コック以外がいるとは聞いませんが……まあいいでしょう。所詮は召使い……まとめて殺すとしましょうか」
歯車のようなモノクル越しにえーこを見つめ、ぐっと手を伸ばしてくる鉄騎種。
えーこはゆらり――と実像をゆがめると滑るように大きく後退。追いかける鉄騎種を誘い込むように虚空をざくざくとひっかくように切り裂いた。伸ばした鉄騎種の腕が切り裂かれ、さび付いた血が吹き出す。
いつのまに刃物を? と思ったときにはえーこの手には影でできた包丁が握られている。
「『メイドゆえに』と侮ったのが運の尽きでごぜーます」
「この世はパン屋ですら一介の戦士だ。それに――」
無数のフォークとナイフが飛び、テーブルを乗り越えようとした鉄騎種の服を壁に縫い付けていく。
両手に無数のフォークを握ったグレイシアが、涼しい顔で言った。
「厨房はコックの領域。不利なのは――」
『貴様のほうだ』とグレイシアが禍々しい声で言ったような気がした。
彼から感じる底知れない雰囲気にいきをのむ鉄騎種。
水の入った瓶を握ったえーことテーブルを軽やかに飛び越えるグレイシア。
鉄騎種が慌てて武器を取り出すが、手遅れであることを自覚したのだろう。手首ごとグレイシアに蹴り上げられ、ナイフが天井へと突き刺さる。
それ以上何か言おうとした所で、えーこの瓶が鉄騎種の頭部を直撃した。
がしゃんと音がなり、崩れ落ちる鉄騎種。
「も、もう終わったんだなァ?」
フライパンを握って物陰から顔を見せるマクレーン。
グレイシアとえーこは横目で違いを見合い、肩をすくめあい、血と割れた瓶と壁に刺さったナイフとフォークを指さした。
「片付けがまだ途中でごぜーます」
「料理も作り直す必要がありそうだ」
ラクリマが手帳片手に屋敷の廊下を歩いていると、不機嫌そうなファリスとすれ違った。
どうやらどこにいってもお肉食べる人ばっかりで嫌になっている……という態度を隠さずに出しているらしい。
ラクリマは『なぜそんなことを?』と尋ねたが、ファリスは表情を変えずに『今夜あたりに分かるはずです』と謎めいた答えを返してきた。
なにか考えがあるのかもしれない。忘れぬようにメモしておこうと手帳にさらさら書き足すと、そのそばをメイド服をきたリィズがはたきを片手にてってこ走って行く。
お屋敷で借りられる服ではない。リィズの自前である。スカートの丈は短いしあちこちにフリルがついているしカチューシャは可愛らしいしで(リィズのポテンシャルも相まって)なかなかセクシーだ。もとより屋敷の服はリィズの体型にあわないものばかりだったので、『じゃあそういうことなら』とマッカランが鼻を押さえて言ったのが記憶に新しい。
さておき。
「おや、どちらへ?」
「お片付けがいるらしいから、厨房のお手伝いに♪ あっ、怪しい人とか見ました?」
ウィンクしながら尋ねるリィズに、ラクリマは『まだそれらしいものは』と首を振った。
そんな彼とすれ違って厨房へと走るリィズ。
一足先に到着していたセララが可愛らしいメイド服をひらひらさせながらモップがけをしていた。
「セララちゃん似合う似合うー」
「あっ、リィズさん! それさっきも言ったばっかり――じゃなくて、お片付けとは別にやっておきたいことがあるんだ。ちょっといいかな」
セララに案内される形で地下倉庫へ入っていくリィズ。
地下倉庫はひんやりとした煉瓦造りの部屋だ。小さな換気窓が壊されていて、そこから暗殺者が侵入したらしい。
「ここの食材に毒が盛られてるかもしれないから、毒味をしないとね」
むき出しになったリンゴを手にとってみるセララ。
リィズはなるほどぉと言いながら、マッカランから借りた薬を手に取った。
「もし調子がおかしくなったらすぐに言ってね。これ飲ませるから!」
「よろしくね! それじゃあ……もふもふ、おいしい!」
どうやら倉庫の食材は無事なようだ……ということが、セララが一通りの食材を毒味(試食)してから分かった。お腹いっぱいになって苦しそうだったので、胃薬を呑ませておいた。
さて再びのラクリマ視点である。
夜も更け門前に出てみると、グリムペインが腕組みをしながら立っていた。
「見張りですか?」
そう尋ねてみると、グリムペインは苦笑した。
今日は正面から来るような暗殺者はいないようだ。
「しかしこうも何も起こらないと暇だねえ。もう少しトラブルが起きそうな所へ立候補すべきだったかな?」
そんな風に話していると、奥の部屋でガシャンという激しい音が鳴った。
クロウディアが仲間を呼ぶ声が続けて聞こえる。
ラクリマとグリムペインは顔を見合わせ、奥の部屋へと駆け込んだ。
扉を開ければ一目瞭然。
割れた窓と吹き込む雪。
はためくカーテンとナイフだらけの男。
彼がにらむはクロウディアに守られたスティーブン氏である。
「ふむ……『切り裂きJ』か。暗殺者のようだ」
グリムペインはさも前から知っているかのように呟くと、扉の前に立ち塞がるように両手を振った。銀色の斧が手元に現われ、ぎらりと光を帯びる。
ラクリマはスティーブン氏を安全そうな部屋の端まで連れて行くと、彼を守るように両手を広げた。
「そちらは任せるであります」
クロウディアはラクリマにそう告げると両腕を振り下ろした。それぞれの袖から隠しナイフが滑り出し、露出状態でガチンと固定される。
「――」
切り裂きJは両手にナイフを握ると、クロウディアめがけて滑るように突っ込んでくる。
首を狙った斬撃をのけぞるように回避。流れるように腕を蹴り上げ、追撃のナイフを袖ナイフで弾き上げる。
それでも乱れることなく切り裂きJは連続斬撃を叩き込んでくるが、クロウディアはそれをたくみな戦闘術でがしがしと弾いていく。そのたびに火花が散り、両者の動きが複雑化を進めていく。
余人が立ち入りをためらうほどの嵐が二人に生まれた丁度その頃。グリムペインが鋭く遠術を放った。クロウディアに集中していた切り裂きJに見事命中。大きく体勢が崩れたところへ近づき、斧を叩き込む。
ナイフが吹き飛んでいき、隙を突くかのようにクロウディアは切り裂きJにとどめの一撃を加えた。
かくしてスティーブン氏が暗殺者の直接襲撃から守られた……かに見えたその一方。
ファリスが暗い裏庭で何者かとぶつかり合っていた。
黒羽根をもつスカイウェザーの男だ。
「どいてくれ! 余計な人は殺したくないんだ! ターゲットさえ暗殺できれば帰るから!」
笑えない冗談だ。ファリスは彼の繰り出す長柄の槍を打ち払うと、ハルバートによる激しいスイングで足を狩りにいった。
なぜこんなことになっているのかを説明するには数十秒前へと遡らねばならない。
屋敷にはそれなりの数だけ召使いがおり、一人一人の顔や名前を覚えるのはそう簡単なことではなかった。
だがファリスはそれを逆手にとり、きわめて覚えやすい特徴を振りまいて回ることにした。
逆にそれを認識していない者は初見の相手。紛れ込んだ暗殺者の可能性が高いとしたのだ。
「私の肉嫌いは館の全員が知っていた筈だ」
「そんなの知らないし!」
飛んでかわす黒羽根。
流れるように繰り出した第二の打撃を槍で打ち合わせ、黒羽根はファリスの背後へと着地した。
「も、もうやめよう!」
「……いいですよ」
ファリスは見るからに戦闘の構えを解き、数歩後退する。
拍子抜けした相手に、『勝手に逃げろ』とジェスチャーを送る。
黒羽根はファリスが自分の思い通りに振る舞ってくれたと勝手に勘違いして逃げていったが……。
「これで、よし」
ファリスが、そうそう与し易い女であるはずがないのだ。
●陰謀
二日目。近隣貴族のエヴァン氏との昼食会が開かれている。
グリムペインは射撃ポイントを警戒したり危ないところを塞いだりしてまわり、ラクリマも見回りをしていた。
クロウディアはそばについているが、クロウディア自身への敵対心を感知したらしく、なにかしてくるのは確実だろうと話していた。
「とりあえずワインを一旦預かってきたんだけど……」
セララはラクリマと一緒に預かってきたワインを仲間たちの前に翳して見せた。
見たところ普通のワインだ。しかし毒を仕込むのは難しくなさそうでもある。
「出番かな」
「出番だね」
薬箱をサッと掲げるリィズ。
黙々とワインのボトルを開けるグリムペインたち。
グラスに注がれたワインをじっと見つめるセララを前に、グリムペインがすっとグラスを取り上げた。
『毒味とはいえ未成年にワインを飲ませるのはよろしくない』とばかりに自分が飲み干して見せた。
注目する仲間たち。
グリムペインはさっとリィズに手を出した。
「薬を」
「やっぱり毒だった!」
「予想通りと言うべきか」
「当たり前のように来たでごぜーますね」
「あわわわわ、乱暴な暗殺者なんだなァ」
厨房に忍び込もうとした物乞いを縛り上げ、グレイシアとえーこは腕組みをしていた。その後ろで震えるマクレーン。
問いただしてみると、エヴァン氏に金でやとわれて料理に毒を仕込もうとしていたらしい。
そうこうしていると、裏口からファリスが入ってくる。
別の物乞いを縛って引きずっていた。
「それは?」
「泳がせた魚が餌を食べたようで」
ファリスは深く語らなかったが、どうやら何かしていたらしい。
その後昼食会は『表面上』何事も無く終了し、エヴァン氏は苦々しい顔をして帰って行った。
裏でスティーブン氏と相談した所、暗殺者や毒入りワインはエヴァン氏から定期的に送られてきているが、明確な証拠がないので追求できないということらしい。
より深く言うなら『こういうカードは溜めておいていざというときに切るのだ』ということだそうだ。
殺してでも奪いたいポストに居続けるスティーブン氏には、それなりの政治力があるのだろう。
そして迎える三日目の夜。
暗殺を依頼されたが期限が迫り焦った連中が無理矢理押しかけてくる時期だ。
セララはこれを『暗殺バーゲンセール』と名付けた。
「リィズ、あっちだよ!」
「おっけい☆」
棍棒を手に突っ込んでくるモヒカンの暗殺者に『必殺メイドシールドバッシュ』を叩き込んで殴り倒すと、セララは雪に隠れた狙撃手を指さした。
セララの案内に応じてライフルを構えたリィズが魔力弾を連射。雪から暗殺者が転がり出てくる。
その一方では、馬の覆面を被った暗殺者をグリムペインがマーク。拳銃を乱射する相手を前に両手をふると、金と銀の斧を出現させ流れるように殴り倒した。
「おや? 生きているのかい? そうだ、一緒に食事をしていかないかい? いいワインがあるんだ」
ワインを取り出し、相手の顎を無理矢理開かせるグリムペイン。
……といった具合に、表は正面突破派の暗殺者で大賑わいだった。
一方裏側はというと、季節鳥の囀りでもきくようにスティーブン氏が本を読んでいた。
彼に歌を聞かせてリラックスさせていたラクリマは、今は彼の安全圏を守る護衛役だ。
具体的にどうかというと、コーヒーや軽食を用意していたグレイシアやえーこが裏口から飛び込んできた暗殺者を窓からポイし続けるかたわら、奥の部屋を守る係である。
そのまた一方屋上ではクロウディアとファリスが屋上から襲撃しようしていた黒羽根の暗殺者を迎え撃っている。
「私に直接敵対心を持っているということは……」
「まあ、そういうことだな」
「ま、待ってくれ! 二人を殺す気はないんだ。スティーブンだけ殺せればそれで」
「いいわけないであります」
二人を侮ってかかった黒羽根を二人がかりで倒し、屋根からポイする。
三日目はまるで大掃除だ。
忙しい一日を終えた頃には屋敷の裏に暗殺者が積み上げられていた。
「皆、よくやってくれた。おかげで快適に仕事をこなすことができた」
依頼期間を終え、スティーブン氏は八人それぞれを深くねぎらった。
そろそろ雪もとけ、春の花が芽吹く季節だ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
皆様のアイデアが詰まった護衛、お見事でございました。
きっとスティーブン氏は今年もゆっくりと働くことが出来るでしょう。
GMコメント
いらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
今回の相談会場は大衆酒場『大雪山フォール亭』。大盛り料理と安酒、ついでに女子に人気のパフェが自慢でございます。
お席についたら、早速相談を始めましょうか。
【依頼内容】
『3日間、暗殺者から護衛すること(終了時におけるスティーブン氏の生存)』
依頼されたイレギュラーズたちは屋敷への出入りが基本的に自由。
各部屋は召使い同行の上で入ることができます。
メンバーが折角八人いるので色々と手分けして護衛にあたるのをお勧めします。
ちなみに三食寝室つきです。
【スティーブン氏のスケジュール】
護衛対象となるスティーブン氏の三日間のスケジュールを大雑把に説明します。
●基本サイクル
朝早く起きて召し使いたちに挨拶し、
午前中みっちりと仕事をこなした後昼食を食べ、
午後もみっちり働いた後、
夜には趣味の芸術鑑賞に浸り、
寝る前に好きなワインを飲むのが日課です。
鑑賞する芸術は幅広く絵や音楽や演劇。基本的に貴族趣味に寄っています。
ワインは管理している土地で作られたもので、ワイン倉の管理人を気に入っていつも買い付けています。
料理に好き嫌いはありませんが、強いて言うなら遠い地方の発酵食品やゲテモノのたぐいが苦手です。
●1日目:書類仕事
お外に出られないのでたまっている書類仕事を沢山こなします。
スティーブン氏は計算が得意らしく、数字を処理する仕事は自分でこなしています。
というよりお屋敷には羊執事の『マッカラン』以外書類仕事をする人があんまりいません。
医者を呼びづらい時期ですので、高度な暗殺者ならこの日の内に仕掛けるといいます。
●2日目:昼食会
近隣貴族の『エヴァン氏』が従者をつれてやってくる予定になっています。
雪が降ってるというのにこの日がいいと言い張ったようです。渋々ですが昼食会を開くことになりました。
エヴァン氏がスティーブン氏のポストを狙っているともっぱらの噂です。ぜってーなにかするよこいつ。
コック長の『マクレーン』氏(豚獣種)が料理を担当します。マクレーン氏は古くからお屋敷のコック長を務めていますが、少々抜けた性格でおっとりしているせいか、隙を突かれることが多いようです。
●3日目:お休み
雪も溶け始めた頃ですが、とけきるまではお休みです。
日夜仕事に追われていたスティーブン氏が骨休めを行ないます。
基本的にはソファでだらっとするだけなのですが、何かあったら喜ぶでしょう。
お外は通行がしやすくなっているせいで暗殺者が直接突っ込んでくる可能性が大きくなっています。中には安っぽい暗殺者が『しねー!』とか言いながらナイフ片手に正面玄関から突っ込んでくることもあるそうです。
物理的なディフェンスが問われますね。
【お屋敷の構造】
二階建ての豪邸です。
全体的に広々としていて、スティーブン氏の執務室や休憩室や寝室もここにあります。
召使いが沢山おり、彼らは離れの宿舎で寝泊まりしています。
スティーブン氏が人的財産を大事にするタイプなので、召使いや執事たちも大事にされています。そのせいか召使いたちも好意的です。
【おまけ】
幻想貴族あるあるなのかは分かりませんが、少なくともスティーブン氏には『冬の暗殺者見舞い』はよくあることのようです。
そんな日常を『あるあるー』と語り合ってみると、混沌世界にどっぷり浸かれてお勧めです。暗殺についてどう考えているかも語り合ってみると、お互いのキャラが掴みやすくてよりオススメでございます。
依頼相談のついでに、ちょっぴり雑談を交わしてみませんか?
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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