PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魔獣ベイオレイドの最期

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●死に損ない
 月夜の鍛錬が日課だった。
 得意の四刀流は研鑽に研鑽を重ね、和弓を用いて射殺す事にも慣れてきた。時を経て、日進月歩で成長するのが好きだった。
 何より、愛刀カズウチが照り返す月光に見惚れていた。
 ゆるゆると滅びへ向かう日々の中で、衰え朽ちていくとしても、俺はそれで構わなかった。

 だが、その滅びから、俺だけが取り残されるとは思わなかった。

 ある夜、鍛錬を終えて帰ってきた俺は、何もかもが奪い去られた集落を見た。
 宝も、武器も、食料も。そして命までも。価値有る物は全て奪われ尽したその場所に、俺は立ち尽くした。
 亡骸を数え、俺以外の全員が横たわっているのを知り、俺は笑う。
「そうか。皆、逝ったのか」
 戦ったのだろう。武器は奪われていたが、亡骸は皆外にあり、一様にズタズタになっていた。
 ああ、気付いていれば、俺も喜んで戦っただろうに。
 ――喜んで、討ち死にしただろうに。


●特異な依頼
「依頼なのです」
 ものすごく不思議そうな顔で、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が首を傾げる。自分で持ってきた依頼書を読みながら自分で首をひねるものだから、集まってきたイレギュラーズもどよめいた。
「最近、盗賊達の動きがおかしいのです。核心になる情報はまだないのですが……この依頼のきっかけも、たぶんそこが関係しているのです」
 そう言って話し出すユリーカは、一つの集落が盗賊によって滅ぼされたのだと語った。
 何もかもを奪われ滅ぼされた集落の唯一の生き残り、それが今回の依頼主だ。
「盗賊への報復か?」
 誰かがそう問うも、ユリーカは首を振る。
「依頼人はこう言うのです。『戦って死ねたのだ。誰を憎み、何を怨むのだ』って」
 傾げた首が直角になったユリーカが「バトル中毒なのです」と言う。イレギュラーズの中にもその手の者は多く、周囲では頷く者も居た。が、ならば依頼とは何なのか。
 問われるとユリーカは首を戻して短く言った。

「依頼人の討伐、なのです」


●望むものは
 魔獣ベイオレイド。
 それは闘争にのみ特化した魔獣。
 それ故に知恵を付け、武器を取り、武芸を極めんと進化を続けた。
 しかしそれ故に死地に飛び込み、種を残そうともしなかった。
 戦いこそが全ての魔獣、故に、行き着く先は滅びしかなかったのだ。
「元々は非常に強力な魔獣だったのですが、代を重ねるごとに弱くなっていったそうなのです。強い者ほどよく死んだ結果らしいのです」
 最後には集落一つ分だけ生き残り、やがて死に絶えるはずだった。盗賊による襲撃はそれを速めたに過ぎない。
「最後の一頭となっては子供は作れないのです。絶滅は決定して、そこで依頼人は思ったそうなのです。戦いたい、と」
 今回の依頼は依頼主の最後の願いだ。
 報復に向かって死ぬ事も考えたらしい。だがそこに依頼主の求める戦いがあるとは思えなかった。だから、と。
「ちなみに依頼書の原文はこれなのです。矢文で届いたのです」
 ユリーカがくしゃくしゃな紙片を取り出して頑張って広げる。そこにはただ一言、「我戦いを求め、汝等の救いを乞う」とだけ書かれていた。
 こんな怪文書を元にユリーカが情報を集め、正式な依頼に纏めたと言う。
「条件は変わらないのです。最高の戦いを。ただ日時と場所、細かな条件も取り決めてあるのです。……全部、皆さんが有利になる条件なのです」
 依頼書に纏められた条件は読めば読むほど異様だった。不意打ち闇討ちご自由に、生かすも殺すもご自由に、ただし依頼主は正々堂々迎え討つ、と。
 条件下部には依頼主が用いる武器や技まで羅列されている。
 これでは戦いではなく、死に場所を求めているようだ。
「どうするかは皆さんに任せるのです」
 ユリーカは言う。
「望み通り戦って死なせてあげるのも、あるいは死にたがりに説教して殴り倒すのも、自由なのです。ただ、弱り果てたとはいえ戦闘種族は伊達じゃないのです。戦いは必至、なので、どんな戦い方をするにしても全力で挑んだ方が良いのです」
 油断や手加減して勝てる相手ではない。下手に同情すれば返り討ちに遭うだろう。
 それを覚悟した上で挑んで欲しいと、ユリーカは小さく頭を下げた。

GMコメント

純戦です。
以下詳細となります。

●魔獣ベイオレイド
 四本の腕を持つ二足歩行の魔獣。
 辺境の集落で文化的な生活をしており、人を襲った事は過去数世代に渡って確認されていません。
 子孫を残す事より強敵に挑むことを優先し、滅びの一途を辿りました。
 魔獣でなければ鉄帝辺りに移り住んでいた事でしょう。

●グアルガフ
 ベイオレイド最後の生き残りです。
 四本の肉厚な長剣を操り、強靭な肉体をも武器として振り回します。
 長大な弓を持ち、奥の手でもある超巨大な刀『ムメイカズウチ』を持っています。
 身長は350cm前後。その巨体を軽々と操る異形の戦士です。
 性格は温厚にして冷静沈着。淡々としており、戦いだけが胸を熱くするものでした。
 今回依頼を受けたイレギュラーズにも礼を尽くします。どんな事をしても。

●グアルガフ戦闘データ
四方斬:物至単…四方向からの回避困難な同時攻撃
車輪断:物至列…縦や横に回転し連続で斬り付ける
一本矢:物超単…限界まで引き絞った弓から矢を放つ
三本矢:物遠列…四本腕をもって弓を引き矢を放つ
数多斬:物至単…ムメイカズウチによる一撃
・武器の持ち替えには副行動を使います
・機動力が並よりは高いです
・マークやブロックには二人以上必要です
・数多斬は構えてから放つまで1ターン以上掛かります
・数多斬は非常に強力です
・知能は高く、より効果的な行動を取ります
・逃走はしません
・退いて距離を取ろうともしません
・全体的に能力が高いです
・強敵です
・戦って死ねた同胞を羨んでいます
・盗賊に対しては何とも思っていません(心の底から)

●戦場
 ある森の広場です。戦闘には十分な広さです。
 物陰は多く、木陰は薄暗いです。
 広場は明るく、地面は平らです。
 グアルガフは広場の中央に立ち、一方向を睨み待っています。

●依頼成功条件
・グアルガフと戦い、勝つ

●依頼失敗条件
・グアルガフに負ける
・グアルガフと戦わない

  • 魔獣ベイオレイドの最期Lv:2以上完了
  • GM名天逆神(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月02日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フィンスター・ナハト(p3p000325)
幻眼
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
トート・T・セクト(p3p001270)
幻獣の魔物
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
恵禍(p3p002069)
逆焔
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
妖樹(p3p004184)
彷徨う銀狐

リプレイ

●報いを
 その森は静かだった。
 降り注ぐ木洩れ日、音も無くそよぐ風、清澄なる闘志の波動。
 幻想的なまでに美しい森の中、あらゆる生命がただ見守っている。静けさに満ちた、そんな不思議な光景だった。
「戦いに全てを賭ける魔獣か」
 陽光を銀の毛並みに反射させ、真っ直ぐに歩く『彷徨う銀狐』妖樹(p3p004184)が考え込む様に呟く。
「うん、その気持ちは元の世界にいた時も感じた事はあるかな。その心意気は嫌いじゃないよ」
 七つの尾を靡かせながら妖樹が頷く。そのすぐ隣を歩く『幻獣の魔物』トート・T・セクト(p3p001270)も同じ様にうんうんと首を振る。
「自分を残して仲間が居なくなった、か。ちょっと、寂しいかもな。独りだけ残って、子孫も残すのは無理、なんかちょっとだけ戦って死にたいって気持ちは俺分かるかな」
 命が尽きるその時まで、仲間と共に戦えるって言うのはある意味ではきっと幸せだから。そこに孤独はない。灯火が消えるその時も、心は共と共にあるのだから。
「無益な死を望むわけではないけれど、結末に意味を求める気持ちは理解するね」
 トートと同じくウォーカーである『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)だが、彼女は彼女なりに別の視点から理解を示す。
 しかし、その答えが出るのは最期の時だけ。
「その時には迷わぬように私が送らないとね」
 リンネはそう言って既に死に絶えたベイオレイド達を想う。
 逆に目を伏せ首を横に振るのは『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)だ。
「復讐するわけでもなく、戦いによって死にたいという……正直私にはわかりません」
 それは至極真っ当な反応だ。戦って死にたいだけならば復讐でも良いのではないか、復讐はしないのになぜ戦って死にたいなどと思うのか。
 ――戦いではなく、死に場所を求めているようだ。
 依頼の説明を受けながら抱いた印象通りなら、彼の依頼人は、何故依頼を出したのだろう。
 そんな事を考えている内に、イレギュラーズは目的地へと辿り着いた。
 急に開けた視界の先、森の中に出来た広場の中央で、依頼人が待っていた。
 陽光を浴びてなお闇色の巨体は繋ぎ合わせて猛獣の毛皮に覆われ、その上に縫い付けられた鱗や金属片から見るに、それは鎧を纏っているようだ。
 情報通り、二脚四腕の異形。手にはそれぞれ一本ずつの剣を持ち、腰には弓と異様に巨大な刀を提げている。鋭い牙を持つ竜虎の如き相貌は穏やかながら、鬼気迫るほどの殺意が漲っている。
「来てくれたか」
 異形の依頼人はグルルと唸る。それは威嚇にしか聞こえないが、崩れないバベルは間違い無く言語であると認識し、イレギュラーズにその意味を伝えていた。
「俺が依頼人のグアルガフだ」
 名乗り、異形はぎこちなく頭を下げる。おそらくは仕入れたばかりの人間の礼儀に準じる姿は、滑稽だが、真剣そのものだ。
 礼、というのは、よく分からない。そう思いながらも、グアルガフの姿を見た『逆焔』恵禍(p3p002069)は敬意を覚えていた。只管己を鍛え続け、戦いに生きる姿勢に。
 だから、 グアルガフの望みを叶える為に全力を尽くす。それを礼として返そうと誓う。
 だがその前に、「なあ」と呼び掛けて『幻眼』フィンスター・ナハト(p3p000325)が前に出る。
「俺達は其方が満足行くような戦闘は出来ないかもしれない。だが、この世界にはもっと強い存在がいる筈。望むなら相応しい場所で死ぬこともできるし其方が許すなら背中を預けて共闘できる喜びも味わえるぞ」
 投げた言葉は、説得だった。
 グアルガフは数舜動きを止めたが、イレギュラーズの顔を見回して「成程」と頷く。
「それを言う為に、わざわざ真正面から現れたのか。闇討ちも不意打ちもせず、この魔獣ベイオレイドの前に、のこのこと」
 グアルガフは顔を伏せ、低く、低く唸った。
 手にした剣が震え、ガチャガチャと音を立てる。
「分かっているのか? 君達は有利を捨てたのではない、不利に陥ったのだと言う事に」
 声までが震えていた。
 だが、誰も言い返さない。
 代わりに返したのは質問だ。
「本当に今、ここでいいんですか?」
 葵がフィンスターに並んで呼び掛ける。
「 死ぬために戦うより生きるために戦った方が強いんじゃないですかね。それに私達やローレットの皆さんはこの先もっと強くなりますよ?」
 生きていればもっと戦えるのにここで死のうとするなんて、あー残念だなーもったいないなー、などとわざとらしく煽り始める。最後には「依頼内容変えてくれていいですからね!」などと言いだす始末だ。
「前言は撤回しない」
 にべも無くグアルガフは返す。
「そもそも俺は、死にたいわけではないのだ」
 言いながら顔を上げたグアルガフの顔からはすっかり殺気が失せていた。
 イレギュラーズをもう一度一人一人見詰めたグアルガフのその顔は、目を細め、口の端を歪めていた。
 魔獣の表情は読み難い。それでもそれは、笑っている様に見えた。
「報いとは何だ」
 そして問う。
「ベイオレイドを滅ぼした盗賊は報いを受けてしかるべきだと思うか? それより、戦にかまけ種を蔑ろにしたベイオレイドが攻め滅ぼされる事こそ当然の報いだとは思わないか? そもそも生存競争の果てに片や栄え、片や滅ぶ事が、何に仇為す行為だと言うのだ?」
 その問いは自虐のようで、しかし紛れもない本心だと察する事が出来る。
 復讐など逆恨みに過ぎない。生きる為に戦い死んだ仲間は羨ましいが、死ぬ為に戦うのはベイオレイドとして絶対にあってはならない。敗北を是とする事など、戦闘種族として決してあってはならないのだと。
「ならばなぜ戦いたいと言ったんだ」
 それまで黙って成り行きを見守っていた『特異運命座標』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が問い返す。
 死にたいわけではない。
 それでも命のやり取りを望んだわけは何だ、と。
「『報い』だ」
 グアルガフはゲオルグへと向き直り、真っ直ぐにその眼を見詰める。
「俺はただ、俺と、ベイオレイドをここまで支え続けてくれた『武』に報いたかった。例えベイオレイドが滅びようとも、例えこの身が朽ちようとも、それに何の意味や価値が無かったとしても、『武』だけは残したかったのだ」
 それが、報いると言う事。
 最後に選んだ生き方にして死に方。
 奇しくもそれは、ゲオルグが内に秘めていたものと同じであった。
 ベイオレイドという種族が滅びること、グアルガフという武人の命がいずれ果てること。それはきっと避けられない。だが、せめて磨き上げてきたその武だけは残したい。
 この戦いを通じてゲオルグもまた、グアルガフの『武』を刻み、受け継ぐつもりでいた。
「そうか」
 短く返したゲオルグもまた、笑っている様に見えた。
 リンネの思う様に、最後に求めた意味や価値。それを全て、自らが――いや、種としてベイオレイドが積み重ねて来た『武』に託した。
 死にたくはない、だが生きるだけでは報えない。
 命を賭して、彼はここに武を示す。
「俺たちが勝ったら、あんたの命を預かるってのはどう?  勝者が全部決めるんだ」
 トートの言葉にグアルガフは頷く。
「ああ良いとも。生かすも殺すも君達の自由だ」
 返す返すも真っ直ぐに。
 そうだ、初めから求めていたのはこれだった。
 最高の戦いを。
 武とは、その中でだけ輝くものだから。
「言いたいことはあれど、それは勝利の先に」
 手にした刀の鯉口を切り、添える様に柄を抑えた『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)が前に出る。
「幾重、言の葉を並べるより、刃を交え、剣で語る方が、お好きでしょう」
 傍目に華奢で小柄な彼女が更に前へと歩み出で、並んでフィンスターも前へ。
 事ここに至って尚、真正面から、真っ直ぐに。
「これから行われるのは殺し合いじゃない。剣による対話だ」
「貴方が逝く時には、迷わぬように送ることだけは約束するよ」
「あなたが依頼人でそれが依頼だと言うなら、誠心誠意務めさせていただきます」
「私達にその技を使うことは出来ないかもしれないが、しっかりとこの瞳に、この体に刻み込もう」
「グアルガフ、貴方の望みを叶える為に全力を尽くす、それをケイカなりの礼とさせて貰います」
「戦いを望むと言うのなら、お望み通り最高の戦いにしてあげたいと思うよ」
「いざ尋常に、参りましょう」
 イレギュラーズが構える。
 誰も彼もが、グアルガフを思う様に。
 ……なんて不器用で優しい愚か者達だろうか。
 いっそ愛おしい程に。
 だから、彼等にも報いよう。
 己が死力の武を以って。

「魔獣ベイオレイドが最後の一頭、グアルガフ。――参る!!」



●武は戦を成し
 機先を制したのはフィンスターだった。
 極限まで高めた反応速度はグアルガフが一歩踏み出すより早く懐へ潜り込み、その動きを封じに掛かる。
 しかしその巨体を活かし、グアルガフは強引にフィンスターを押し退けて走る。
「速いですね……!」
 フィンスターと並び足止めに向かおうとした雪之丞の隣を漆黒が駆け抜ける。僅か刹那の遅れ、ただそれだけの隙を、しかし魔獣は逃さない。
 飛び込んだのは後衛組の直中、突進の加速力を切っ先に伝えた回転斬りがゲオルグと妖樹を薙ぎ払い、かわし損ねて肩を打たれたリンネまでが衝撃に骨を軋ませる。もはや暴風に等しい猛攻はただの一撃でこの戦いの過酷さを示していた。
「洒落にならん……!」
「麻痺させて足を止めます!」
「合わせるよ!」
 ゲオルグは血の尾を引きながら退き、体勢を整える。一手遅れながらも雪之丞がグアルガフに張り付けば、その後ろから葵と妖樹がマジックロープを放つ。
 挟み込むように別方向から放たれた二本の縄がグアルガフを打つも、絡み付き縛り付けるより速く振るわれた四刀がオーラの縄をズタズタに引き裂き払い除ける。
「まったく埒外かよ!」
 兎にも角にも速い。否、強い。
 一度の攻防で歴然とした実力差を目の当たりにし、それでもイレギュラーズは動く。
 トートは距離を測り、魔獣に気圧されまいと勇壮のマーチを奏でる。
「頼もしき我が仲間たちに! この地を駆けるその足に祝福と勇気を!」
 萎縮しかねない空気を打ち払うように響く声がイレギュラーズに力を与え、グアルガフが構え直す前に再度仕掛ける。
「少しでも足を止めないとねー」
「こちらも合わせるぞ」
 ゲオルグの放つ銃弾とリンネが組み上げた遠距離術式がグアルガフへ迫り、かわされ、弾かれながらも、体勢を揺さぶり回避力を奪っていく。
 その好機を待っていた恵禍が大きな皮膜の翼を広げ、纏った炎を燃え盛らせる。
「ここだ!」
 放たれた炎は弧を描いてグアルガフへ襲い掛かり、その身を僅かに、だが確かに燃やしていく。
 それでも苦悶の声一つ漏らさず、淡々と剣を構え体制を整えるグアルガフ。
 その双眸には殺意が満ち、その口元には笑みが張り付いていた。


●戦は武を高める
「もう抜かせない!」
 勇壮のマーチによる支援も受け更に加速したフィンスターがグアルガフに張り付く。
「はあっ!」
 今度は先手を打った雪之丞もグアルガフの動きを喰い止めながら、牽制の斬撃を放ち、その身を浅く裂く。
 ゲオルグとリンネはグアルガフの足を止めるべく攻撃を重ね、僅かにでも足を止めた所を恵禍の炎が、葵と妖樹のマジックロープが畳み掛ける。
 トートはバラードを奏で、支援のみならず攻撃にも打って出る。
 足を止め、固まらず、攻撃を畳み掛けていく。
「良い連携だ」
 笑う魔獣が振るう剣戟の威力は凄まじく、避け切れず掠るだけで重く、直撃すれば血を吐き膝をつく程に鋭い。
 常に張り付く。それはすなわち、グアルガフが目の前に並ぶ敵に攻撃を集中出来ると言う事でもあった。
「求める以上の戦を見せねば失礼でしょう。拙の全身全霊を持って、貴方を斬ります!」
 裂かれ赤色に染まりながらも雪之丞は返す刃で魔獣の胸を斬り裂く。笑うグアルガフは返す刃に刃を返し、更に雪之丞を追い込むが、その傷をリンネやゲオルグが癒す。
 前衛が戦線を支え、後衛が前衛を支え、そして全員が攻撃へと繋いで行く。
「素晴らしいな……!」
 十秒、
 二十秒、
 三十秒と、
 短い時間を、しかし夥しいほど濃密な攻防を重ね、魔獣は笑う。
「おおおおお!」
 咆哮のような哄笑。
 四方斬がフィンスターを捕らえ、一度は血の海に沈みながらも彼は立つ。
 車輪断が前衛を薙ぎ払い、雪之丞と恵禍も倒れながら諦めずに立ち上がる。
 時折連続して放たれる矢は回復役であるゲオルグとリンネを幾度も穿つが、二人もまた、這ってでも立ち上がって見せた。
 やられるだけではない。
 葵と妖樹が重ねた縄はグアルガフの動きを縛り、トートの放つ魔力が魔獣の膨大な体力を抉り取る。
 倒れ、立ち上がり、幾度となく、何度となく攻撃を浴びせ続け、グアルガフもまた血を吐き、赤黒く染まる。

 そして、遂に魔獣は手にした剣を全て地に落とした。


●願い
 武に報いよう。
 そう思った時、ギルド・ローレットの噂を思い出した。
 俺の武が彼等の経験となり、やがて世界を救う事となるのなら、それはどんなに素晴らしいだろうか、と。
 それは決して無意味でも無価値でもない。最後に見付けた希望だったのだ。
 だが彼等はそんな事より、ただ俺の行く末だけを案じてくれていた。
 世界ではなく、意味も無く価値も無い、ただ滅びゆくだけの俺を。
 そんな彼等に報いたいと思ったのは本当だ。
 誰もがこの戦いを軽んじる事無く、真正面から挑んでくれていた。
 倒れ伏そうと怯まず、また立ち上がってなお退かず。
 そうして戦ううちに、気が付いた。
 報いを。
 武に。戦いに。彼らに。
 そして、俺自身に。

 俺は、本当は報われたかったのだ。
 この無意味で無価値な生の中でたった一つ積み重ねてきた武を以って。
 生まれて良かったと、そう言える様になりたかった。


●抜刀
「……」
 剣を取りこぼし、とめどなく血を流し、それでも魔獣は倒れない。
 最後に、最後の最後に、腰に提げた刀を抜く。
「抜刀、ムメイカズウチ」
 それは魔獣の身の丈をも越す超弩級の太刀。
 その、槍の如く長い柄を、右手、左手、右手、左手と添えて、握り込む。
 四腕を以って一刀を振るう。
 グアルガフの生涯を費やして鍛え上げた武の極致。

「いざ――!」

 言葉が先が、斬撃か先か。
 大上段に刀を構え腰を落としたグアルガフに、瀕死のフィンスターと雪之丞が斬り掛かる。
 鮮血が舞い、続く葵、トート、恵禍の攻撃に晒される。揺らぐ体に妖樹のオーラが追い打ちをかけ、その間にゲオルグとリンネが前衛の傷を癒して備える。
 だが、それでも、
「奥義、数多斬――!」
 渾身。
 ただ真っ直ぐに、天から地までを一直線に切り結ぶ。
 命を懸けた、ただの縦斬り。
 それが、グアルガフの武の全て。
 振るわれた一刀はフィンスターごと地面を叩き割る。
 大量の血がぶちまけられ、仲間が沈んでなお、イレギュラーズは止まらない。
 一層果敢に、一層苛烈に、攻撃に攻撃を重ね、そしてその足を喰い止めんと前に出る。
 もはやその一撃の前には多少の回復など意味を成すまい。
 それでも戦列は乱さず。
 再度振るわれた一刀は雪之丞を庇った恵禍を切り捨て、亀裂を入れた地を揺るがす。
 替わる葵はマジックロープで引き止める様に抗い、その間にも魔獣は構え、そして傷付けられていく。
 魔獣は何故死なぬ。
 それは、死にたくないからなのだろう。
 イレギュラーズはこの化物に正面から挑んだ事を悔やむだろうか。
 それとも、覚悟の上だったろうか。
 魔獣は笑っていた。
 骨も肉も断たれ意識も千切れかけ、それでも振るった一刀は葵の意識を刈り取った。
 ゲオルグが前へ。
 トートが撃ち、リンネが癒し、妖樹が呪う。
 それでも止まらぬ魔獣の一刀は、しかし、倒れた葵のオーラによって縛り止められた。
 身を蝕む痺れが、ムメイカズウチを振るおうとする四腕から力を奪う。
「お膳立てされてようやく、並ぶのです」
 雪之丞が、ゆるりと下りるカズウチの刀身を弾き飛ばす。
「今できる全てをこの刃に――」
 振るった刃は魔獣の胴を深く深く切り開く。
 一刀一刀丁寧に、数多に重ねて一頭を。
 魔獣は笑っていた。
 最後まで。
 数多斬に数多斬り伏せられ、それでも立ち向かった彼等を見ながら。

 魔獣ベイオレイドが最後の一頭、グアルガフ。
 彼は遂に、イレギュラーズの猛攻の前に倒れたのだった。



●最期の時
「言いたいことは全部言ったかな」
「死ぬかと思った……」
「なんで生きてるんですかね……」
 イレギュラーズは呟く。
 幸い死者も無く、傷は深くとも数日で治るものばかりだ。
 それでも魔獣と正面切って渡り合った代償は大きく、帰る気力が回復するまで待たねばならないほどだった。
 陽はまだ高い。
 あの激戦は、時間にして五分も無かっただろう。
 その戦いには、紛れも無く、命懸けの武があった。
「刻めただろうか」
 ゲオルグは確かめる様に拳を握る。彼の武を受け継ぎ、己のものに出来たか。それはこれから確かめていくしかないだろう。
「あー、村の場所聞いてねぇな」
 トートは言うが、しかしベイオレイドは鎮魂歌なんて要らなそうだとも思う。
「私の仕事も無かったねー」
 リンネも同じ事を思いながら言う。

 結局、グアルガフは生きることを望んだ。
 イレギュラーズが示した可能性の上で、己が武を示し続ける生き方を。

 血塗れで瀕死のくせに悠然と立ち去った彼の魔獣は、どこか幸せそうだった。
「約束は、守ります」
「いつか共闘できれば良いな」
 再戦の誓いと、共闘の可能性。思い出し雪之丞とフィンスターはほんの少し笑う。

 最高の戦いを。

 その願いに応えたイレギュラーズは、確信していた。
 ベイオレイド最期の時は、今この時ではないのだと。






成否

成功

MVP

なし

状態異常

フィンスター・ナハト(p3p000325)[重傷]
幻眼
那木口・葵(p3p000514)[重傷]
布合わせ
恵禍(p3p002069)[重傷]
逆焔

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 グアルガフは今後何を為すかは不明です。
 ですが、歴代ベイオレイドと同じ結末は辿ら無いでしょう。
 彼は残す事を望みました。そして皆さんから多くを受け取りました。
 これからもきっと武を積み、武を示し、武を残していくでしょう。
 その武の道の先に再びイレギュラーズと再会する日が来ることを祈っております。

 ……それはそれとして、
 無茶も無謀も貫き通した皆さんに賛辞を。
 マジでやるとは。感服です。

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