シナリオ詳細
死のエクリチュール
オープニング
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とあるダンジョンにある薄暗い隠し小部屋の中で、5人の男女が寄り添いながらじっと息を潜めている。
年齢は30代から50歳くらいの、比較的年齢層の高いパーティのようだ。
屈強な体躯をした金髪の盾を装備したナイトだろう男は、深い傷を負っているらしく、荒い息を吐いている。
一刻も早く傷の手当てが必要だろうが、ろうそくの僅かな灯りだけが頼りのその小部屋の前には、たくさんのモンスターが徘徊しており、手負いかつ消耗している今の彼らには逃げ切る術がなかった。
「悪ぃな」
傷ついたナイトが謝罪すると、壮年の盗賊系の男が豪快に笑った。
「よせや、あんたらしくない! 元はと言えば、俺の準備不足と判断ミスなんだ」
「何言ってんだい、あたしが急かしたからさ!」
赤い髪のそばかすの女が言うと、メンバーは互いにかばい合った。
年齢は様々だったが、皆が強い信頼関係を築いている良いパーティだった。
水も食料もない今、彼らの頼みの綱は、一人だけ外へ脱出させた一番年若いメンバーだけだった。
決して確実な話ではなかったが、たとえ最終的に助けが来なかったとしても、彼を恨むことはない。
願わくば、もし自分たちがここで死んだとしても、彼にもっと良いパーティメンバーが見つかることを彼らはただ祈っていた。
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『蛍火』ソルト・ラブクラフト(p3n000022)は、目の前の問題に直面して、顔を引きつらせた。
「我らだけでは、無理なのだよ」
一緒にやって来ていた冒険者の青年が、ソルトの言葉に悲痛な声を上げる。
「そんなぁああ!」
涙目でしがみ付いてくる青年を嫌そうに引き離しながら、落ち着け、とソルトは続けた。
さかのぼること今から5時間前、ソルトの所へと駆け込んできたのは、ジニーと言う、この冒険者の青年だった。
なんでも、仲間数人と一緒に鉄帝のダンジョンに潜ったそうだが、思っていたよりも住み着いていたモンスターが強力だった上、ぜんまい仕掛けの特殊な構造から上手く立ち回ることが出来ず、最前線の盾となるべきナイトが戦闘不能になった事でパーティが瓦解。
あわや全滅かと言う事態になってしまったらしい。
だが、それでも幸運な事に、ダンジョンの仕掛けが作動した結果、パーティメンバーは外界から遮断された小部屋に逃げ込むことが出来たそうだ。
しかし、周りのモンスターは一向にその場所から離れておらず、脱出も出来ない状況となってしまった。
「落ち着けませんー! 食料も水も仲間はもう持ってないんですぅ~!」
人間の男性が水も食料もなしで生きられる期間は、およそ3日間と言われている。
水があれば一週間は生き残れるのだが、一滴の水もなく、その上怪我人ともなれば危険な状態だ。
準備をし、このダンジョンの層まで来るのに5時間かかっている事から考えて、一刻も早く救出が必要だろう。
今日一緒に来てくれた冒険者の友人たちは、決して弱くはないのだがかといって強いわけでもない。
最近は実戦もあまり行えていない環境だったと聞いていたので、中に居るパーティメンバーとこの青年を守りながら敵を撃破し、なおかつ脱出するという事は難しい。
無理をすれば可能性はあるが、そんな無茶をさせるわけにはいかない
――そうなれば、やはり頼るべきなのはイレギュラーズたちしかいない。
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「本当に申し訳ないのだが、依頼を頼みたい」
ダンジョン近くの街に、イレギュラーズである貴方たちを呼び寄せ、ソルトが苦い顔で謝罪した。
隣には、冒険者の青年が酷い顔色で項垂れていた。
訝し気な貴方たちに対して、ソルトは大きなため息を吐きながらも説明をはじめる。
「依頼人は、コレ。というか、彼らと言った方が正しいな。実は、こいつは昨日、鉄帝にある、とあるダンジョンへ、パーティメンバーと潜ったらしいんだが、出現したモンスターが強力だった上に、ダンジョンの仕掛けがちょっと変わっていたらしくてな。盾を担当するナイトが戦闘不能になった結果、そのまま崩壊したのだよ。と言っても、まだ皆生きてはいるのだが……」
ダンジョンのマップを広げながら、ソルトが中について説明をはじめた。
「運よくダンジョンの仕掛けが働いて、パーティはこの小部屋に逃げこむことができたそうだ。一度中に人が入ると、外部からは開けられないようになっているらしいので、この部屋に居れば戦闘で死ぬ事は無さそうだ。間違いないな?」
一つの空間を指さしながら、ソルトが確認を取ると、青年は静かに頷いた。
「ぐすっ……! ただ、ナイトの怪我が結構酷いのとモンスターが周囲から離れないんです。回復スキルを持っているメンバーも居ないし、それに水と食料ももう無くて……! 今日で2日経過してるんです!」
その言葉に、貴方たちの表情は曇った。
食料や水なしでの活動には限界がある。
それにダンジョンに潜るのに、回復役が居ないと言うのもすごい話だった。
その疑問を素直にぶつけると、青年は突然大きな声で泣き出す。
「びえぇええ!」
とてつもない大きな声に顔を顰めながらソルトを見ると、ソルトがこめかみを抑えながら、肩を落とした。
「……回復役がコレなのだよ」
その言葉に、思わず驚愕の言葉を上げる貴方たちに、ソルトは引きつった表情で説明する。
「コレは吟遊詩人らしいのだが、普段は回復メンバーとしてパーティに居るそうだ。ああ、汝らの言いたいことは分かるのだよ。なんで怪我人を置いてきたのだと、回復メンバーなら残れと言いたいのだろう。……我もそう思ったのだがな、事情があるのだよ。先も言ったがモンスターが離れなくてな。しかし籠城するには水と食料もない。そうなると助けを求める必要があるが、普通に考えてモンスターをかわして逃げるのは無理だ。ただ、コレのギフトがな」
ソルトの言葉に、青年が続ける。
「僕のギフトは、戦闘を一切行わない状況下で一定時間の間、透明になれるんですっ……! それに、幸運にも部屋付近以外は、モンスターが殆ど居なくてなんとか脱出できたんです」
「つまり、コレじゃないと脱出は難しかったので、回復よりも助けを呼ぶ方にメンバーはかけたという事だ。……残っていても、もうスキルはあまり使用できなかったのもあるだろうが、まぁ本音は別だろうな」
そこで言葉を止めたソルトは、真剣な目でイレギュラーズを見つめた。
ソルトが青年から聞いたパーティメンバーの情報が書かれた紙を見て、貴方は一つの事に気づいただろう。
どこからどう見てもまだ20歳にも届いていない目の前の青年と比べて、他のメンバーがかなり年上だという事に。
青年を除くと一番若いナイトでさえ、30代の後半だ。
――おそらく、若い青年を死なせたくなかったのだろう。
つまり、パーティメンバーは、可能であれば助けを呼んで欲しかったのは確かだが、たとえ助けが来なかったとしても受け入れるつもりだったのだ。
青年は気づいていない様子だった。
「まだ、このパーティメンバーも人生の折り返し地点に届くか届かないかだ。助けてやってほしいのだよ」
ソルトの言葉に、貴方たちは力強く頷いた。
「頼んだのだよ、イレギュラーズ!」
- 死のエクリチュール完了
- GM名ましゅまろさん
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年08月04日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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ぜんまい仕掛けのダンジョンの中をジニーに案内され、イレギュラーズはダンジョンを攻略する。
「こちらの世界に来てからの最初のお仕事…気合入れていきますっ!」
今回の依頼が初仕事である『大剣メイド』シュラ・シルバー(p3p007302)は気合も一番にそう拳を握りしめた。
時間があまり残されていない為、迅速な行動が求められる戦場だが、シュラは立派に任務を遂行していく。
『墓守のラミアー』レミア・イーリアス(p3p007219)は中にいる冒険者たちを責めるつもりは微塵も無いのだが、正直な所、とても疑問に思っていた事を口にする。
「どうしてみんな………遺跡に入りたがるのかしら」
「あ、それは勿論浪漫です!!」
ジニーは涙目だったのを即座に引っ込めて、レミアへと力強く返答した。
浪漫の一言に、レミアは何とも言えない表情で短く、急ぐわ、とだけ答えた。
価値観の相違である。
ダンジョンの中は、ジニーが逃げる途中、モンスターに遭遇しにくかったのが本当に幸運であったと言えるくらいの結構な敵が出現し、それを払いのけながらどんどん奥へと進み、冒険者たちが逃げ込んだ部屋まであと少しの距離となっていた。
「死に瀕してなお仲間を思いやれるなんて…そんな人たちをみすみす見殺すわけにはいかないよね。ボク達で絶対に助けるんだ」
『必殺の上目遣い』ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)は、冒険者たちの心情を考え、最大限の敬意を払った。
勝手な人間が多い中で、彼らの心根は立派なものだとそう思ったからだ。
そして、彼らとジニーの居場所を失わせてはいけないのだとそう思った。
『戦バカ』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は、向かってくる雑魚モンスターを倒しながら、思考を巡らせる。
(ギミックのあるダンジョンに強力なモンスターか。ま、どれほどのものか楽しみではあるが…こういうのは得てして期待外れなんだよなぁ)
実際、ダンジョン突入後に出会うモンスターは弱く、ジニーがもし脱出時に襲われていればおそらくそこでジ・エンドではあったが、イレギュラーズたちにとっては負ける理由のない相手ばかりだ。
戦に秀でているエレンシアにとっては正直物足りない。
(とはいえ……助けを求められて放っておくことも出来ないしな。まあ、やるかねぇ)
とりあえず見捨てる選択肢はあり得ない。
「事前の情報収集が甘かった、というところでしょうか。これを教訓に、次は良い結果を残せると良いですね」
『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は、冒険者たちの現状を冷静に分析していた。
後ろでは彼らの為の弁当と水を用意した雪之丞の荷物をソルトがえっちらおっちら運んでいる。
飛び道具なに襲われるジニーや両手が塞がっているソルトを盾として先頭に立ちまわってくれる雪之丞がいるからこそ、手荷物もジニーも無傷だった
『闇之雲』武器商人(p3p001107) (よみ:ぶきしょうにん) は薄く笑いながら、床へと転がったモンスターたちを見下ろす。
「ヒヒヒ……スケルトンに腐乱死体、ゴーレムに死霊。いいね、ここのダンジョンメイカーとは仲良くなれそうだ」
死の匂いを感じ取り、武器商人のテンションは上がった。
「さ、さ、遊ぼうじゃないか」
その様子に、ジニーが少しだけ引いていたのは致し方ないだろう。
『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)が、群れている雑魚のスケトルトンをチェインライトニングで一掃すると、ジニーが大きな声で「あそこです!」と指をさす。
おそらく小部屋の入り口がある前に、たくさんのモンスターが群がっているのが見えた。
「死の匂いが強いな」
『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)は良く利く鼻で感じ取ったらしい。
そう呟いた言葉に、ジニーが僅かに慌てる。
「そ、そんな……!」
ジニーに、ニヒルにククッと笑いつつ笑いつつ、カナタは、まぁ落ち着けと視線を匂いのする小部屋の方角へとやる。
「……人間は意外としぶとかったりするぞ? それに意外と諦めてなかったりしてな」
死の匂いは、お前の仲間じゃないとその言葉で理解したジニーは、力強く頷くとはっきりと言った。
「皆さん、とっても心の強い人なんです!」
「そうか。なら、助けてやらないとな」
手練れであるイレギュラーズたちの気配を感じ取ったモンスターたちの視線が一斉に、小部屋からイレギュラーズたちへと移ると、8人は己の獲物を構える。
カナタがモンスターたちを前に咆哮を上げると同時、その場へと殺気が広がった。
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開戦一番に、カナタとシュラが高速の動きで先陣を切った。
死霊を狙う予定だったが、真っ先に立ちはだかったのはスケルトンと腐った死体たちだ。
「邪魔だな……っ!」
まずはこれらを何とかする必要がある。
「しかし、ある意味では好都合だ。こんな簡単に群れてくれるならな……っ!」
手近なスケルトンを薙ぎ払いつつ、カナタがシュラへと叫んだ。
「シュラ!」
シュラはカナタの言葉に力強く頷いた。
「数で押そうというのならば、全力でいきますっ!」
得物の大剣を構えると、大きく旋回させた。
その威力は目を見張る者であり、まるで暴風雨のような風がダンジョンへと吹き抜けた。
当初、立ち回りでは使いにくいと思い可能ならばと思ったのだが、まさか初手で使用できる機会が来るとは思っていなかった。
可憐な真紅のメイド服を纏ながらのその所作は、まさに豪快だ。
スケルトンたちの多くは無残に粉々にされ、壁に激突して木っ端みじんになり、巻き込まれた死体たちの身体も大きく傷つき体勢を崩した。
そして、残った死体たちの中で傷が深そうな相手を見たカナタは、迷わずにそのまま突っ込むと彼らを豪快に薙ぎ払った。
順調な滑り出し。
しかし、そこに遠距離から不気味な呪文と共に雷が二人へと放たれると、二人は僅かにふらついた。
慌てて素早くラナーダが癒しの魔法をかける。
――通路の先に、不気味な死霊たちが強大な魔力を放ちながら、イレギュラーズたちを睨んでいた。
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ジニーは、死霊たちの怨嗟の声に身体をびくりと震わせる。
すると、武器商人がジニーを庇うかのように前に出た。
ジニーは思わず武器商人を僅かに不安そうに見つめた。
純粋な恐怖と、武器商人が屈強なタイプではないように見える事もあってだろうが、しかし武器商人は不敵に笑う。
「我(アタシ)はね、キミのお仲間の騎士よりはか弱いが、しぶといぜ?」
贅力だけが、強さではない。
死霊とゴーレムを狙う武器商人は、ひらりを身をかわしながら前線へと突き進む。
手にした青の炎を灯すカンテラから、美しい蝶が舞い死霊たちの周りを舞う。
彼らを殲滅するための力ある破滅の呼び声が武器商人によって紡がれると、死霊たちの動きは徐々に狂わされて行く。
雪之丞は、武器商人に合わせるように死霊へと刀で斬りかかつつ、ジニーへと声をかける。
「拙がジニー様の盾となりましょう。そうそう簡単に抜けるほど、拙は優しくありませんので」
淡々とした口調は、ジニーからすれば頼もしく映る。
感情の起伏の少なさが、動揺しやすいジニーの不安を拭っていく。
死霊の攻撃を刀で捌き、流しつつ、ジニーが通る道を作っていく雪之丞の技巧は、加えて残った僅かな腐った死体たちをも合わせて牽制していた。
幾度となく経験を積んだ熟練の刀士である彼女の一撃は、完全に防ぎきるのは困難だろう。
エレンシアは、死霊の動きに注意を払いつつも、腐った死体たちを狙い、立ち回っていた。
エレンシアは、雪之丞が削りつつあった腐った死体に狙いを定め、激しく切り結ぶと、その翼で一度大きく後ろへと飛び己が鞘へと刀を戻す。
「ざくっと切り払うぜ。まとめて消し飛びな!!」
その言葉と共に丁度、エレンシアの射程に入り込んだ腐った死体たちに、放たれた居合の一閃は、閃光のような速さで死体を大きく薙ぎ払う。
腐った死体の胴体がずるりと鈍い音を立てて、床へと転がった。
気づけば死体たちはすべて物言わぬ完全な躯へと姿を変えている。
「ジニーさん! 行って!」
ラナーダが、呪言を纏った負怨の魔弾であるインフェルノを死霊へと打ち込みながら、叫ぶ。
当然ジニーは守り切りたいが、敵も手練れである以上はジニーも上手く立ち回る必要がある。
小柄だが強力なゴーレムの一撃を受け止めながら、エレンシアは戦況を分析した。
冒険者たちは大分危険な状態のため、可能であれば早めの治療が望まれるはずだ。
ジニーには悪いが、ジニーを守りつつの戦闘はやや厄介なのが事実だ。
(ゆっくりしていられるのなら、良いんだけどな)
そう思いながらゴーレムの追撃を生み出した死骸の盾で防ぎつつ、刀で大きく切りつける。
「へっ、たまにゃあこういう手も使わねぇとな! あんま使いたくはないがな」
切り結びながら、エレンシアは決断した。
「ジニー! アンタは小部屋に逃げ込んでくれ」
「え!」
エレンシアの言葉にジニーが驚くが、近くに居た雪之丞もまた頷いた。
「拙も賛成です。守り切る決意は変わりませぬが、時間があまり残されてはいない事、思ったよりも苦戦している事から、ジニー様が小部屋に先には入られるのが良いかと」
フロウが雷の範囲攻撃で牽制しながら頷くと、他のイレギュラーズも同意の意を示した。
「仲間の傷の手当てを先にしてあげて」
戸惑っていたジニーだったが、ラナーダがそう最後に優しく言うと、ジニーは少し間を空けて頷いた。
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「さぁ……こっちへ……私のもとへおいで………」
今回の作戦は、死霊を中心とした作戦となっていたが、特にレミナの立ち位置は重要だった。
下手に死霊を逃せば、回復手段のある奴らは間違いなく厄介な存在だ。
実力が拮抗しているのだから余計に。
残ったスケルトンの集団は、格闘で打ち払う。
スケトルオンはジニーでも一体であれば何とかなる事が分かったため、ジニーも微力ではあるが戦いつつ、小部屋へとじりじりと近づく。
既にスケルトンは残り三体となっており、そのうちの二体を今レミナが倒しきった。
ジニーはほっとした様子で息を吐くと、扉へと手をかけ、中へと声をかける。
「俺です! ジニーです! 援軍を連れて助けにきました。開けてください!」
「……ジニー!? 帰ってこれたんだね!」
少しの間の後、女性の声と共に扉の仕掛けがゆっくりと回りだし、ジニーは中に居る仲間と再会できる喜びで笑顔になった。
「あ……!」
しかし、小部屋へたどり着く寸前、ジニーに死角からスケルトンが襲いかかかった。
僅かに動揺したジニーの反応が遅れる。
しかし、次の瞬間、スケルトンはジニーを通り過ぎて、手前の方に走り出した。
その先には、魔眼を発動させたレミナが居た。
「あなたに死なれると………面倒なのよね……」
その言葉に自身が助けられたことを知りつつも、礼はあとで出来ると、ジニーは食料を持ったソルトと共に急いで小部屋の中へと無事に入ることに成功した。
それを見届けた8人は互いに顔を見合わせて、にやりと笑った。
――ここからは本当に全力の戦いができる、と。
「さぁ、さっさとこいつらを片付けて、中の奴らを介抱しないとな」
「そうだね!」
エレンシアの言葉に、ラナーダが同意するとゴーレムの一体へと向き直る。
何度か切り結びながら、ラナーダは感心した様子で息を吐いた。
「さすがゴーレム、堅さだけは一級品だね」
耐久力に優れたゴーレムは中々、押し切ることが難しい。
「だけどそれだけで通用するほどボクたちは甘くないよ。サクッと倒してジャーキーにしちゃうからね。覚悟してもらおうか」
その言葉に、エレンシアも不敵に笑う。
「硬かろうが知ったことか!力で押し通るのみ!」
しぶとく戦うゴーレムだったが、守る相手であるジニーがいなくなり、更に本来すべてのモンスターが揃っていて互角だったこともあり、次第に二人の攻撃でゴーレムの身体はボロボロになっていた。
「終わりだっ!」
その言葉と共に、インフェルノの魔弾で蝕まれた身体は、最後にセレンシアの刀によって一刀両断にされ、大きな音を立てて崩れ去った。
仲間が死んだ事実を知ってか、もう一体のゴーレムが逃げようとする。
しかし、そこで逃がすことなどあり得はしない。
「逃がしません!」
シュラのフレイムバスターが、ゴーレムの最後の一体を炎の柱で包み込むと、ゴーレムの動きが止まった。
痛覚などありはしないが、かなりのダメージを追っている様子だ。
足掻くゴーレムだったが、既に遅く。
ハイド・ウルフォビアによって理性を無くしたカナタが、咆哮と共に凄まじい速度でゴーレムへと襲い掛かり、その鋭い牙を突き立てた。
燃え盛っていた炎は、カナタの牙がゴーレムを粉砕すると同時、完全に鎮火し、ゴーレムの身体はまるで炭化したかのように崩れ落ちていった。
最後に残った死霊と対峙していたメンバーは、ゴーレムたちが崩れた事を確認すると、ほっとした様子で息を吐いた。
あえて巻き込まれない位置に死霊たちを誘導させたレミアが小さく呟くように言った。
「これで終りね」
「ええ、そうですね」
雪之丞もまた、今まで追い詰めていた死霊たちからあえて距離を取って、頷く。
傷ついた死霊たちは、その言葉をきっと疑問に思った筈だ。
何せ傷ついたとはいえ、死霊たちの体力はまだ残っていたからだ。
だが、この時には既に勝負は決まっていたのだ。
奥の手を残していた武器商人が、絶望を冠する呪いの歌を奏でると同時、カンテラから生み出された美しい蝶が死霊たちを包み込み、強力な威力でそのあたり一帯を舞う。
その威力に居合わせた面々が顔を顰めるが、その力の奔流は消えることは無く。
――やっと蝶たちが消えるころには、そこに居た死霊たちは完全に消滅していたのだった。
●
小部屋の中で再会した仲間たちは、泣きながら抱き合っていた。
イレギュラーズの紹介を受けた後、傷を癒してもらい、食料まで貰った冒険者たちは、床に頭をこすりつける勢いで感謝の言葉を伝える。
ゴーレム肉のジャーキーを薦めたラナーダだったが、さすがにそれは断られていたようだ。
「動けない奴は俺がおぶってやろう。これでも紳士だ」
疲れ果てた女性が、カナタの言葉に嬉しそうに微笑んだ。
楽しそうにもふもふしている女性を見て、ジニーはアニマルテラピーですねと失礼な事を言って、仲間に叱られていた。
「お金も……いいけど……あなた、ちょっと味見して……いいかしら……」
しかし、調子に乗っていたジニーは、レミアにそんな事を言われて、涙目になり大人しくなり、それを皆が豪快に笑う。
「帰る前に、ちょっと喉乾きません?」
そう言いながら帰る間際になって、持ってきていたティーセットで紅茶を人数分用意したシュラに、ナイトの男性が申し訳なさそうに断るのを見て、今ここで!?やどこから持ってきたのだろう、と他の面々がざわついたのは言うまでもない。
賑やかな交流の後。
宿まで送られた際に、ナイトが最後にイレギュラーズたちへと言った。
「貴方たちが居なければ、私たちはきっと二度と会う事は叶わなかったでしょう。私たちが死んだら、ジニーにはもう帰るところはありませんでした。けれど、それでも生きていて欲しかった。貴方たちに出会えたことは、私たちの人生の中で何よりの幸運です」
イレギュラーズのおかげで、彼らの人生は今後も続いていく。
大切な仲間と共に、ずっと。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
(`・ω・´)皆さま、お疲れ様でした!
無事に冒険者たちは助け出されました!
彼らの人生は、皆様のおかげで今後も続いていくのです。
GMコメント
よろしくお願いします!
舞台は、鉄帝にあるとあるダンジョンです。
スチームパンク風の仕掛けのあるダンジョンですが、仕掛けについては同行する青年がある程度は把握しており、最低限の警戒さえしていれば大丈夫です。
道案内は、青年に任せて大丈夫です。
速やかに小部屋にたどり着き、モンスターを掃討後、脱出をしてください。
●救出対象
小部屋に籠城しているのは、5人の男女です。
それぞれナイト、盗賊、ウィッチ、カラミティ、ラファールの職業。
ただしナイトは戦闘不能で、他4人は自立は出来ますし何とかしのぐことは出来ますが、疲弊している事、加えて皆さんと比べると実力は劣りますので、戦力換算はしない方が賢明です。
●モンスター
【弱いスケトルトンのモンスター】
20体(設定上居ますが、雑魚のMOBで簡単に粉砕できます)
手にしたボロボロの剣で切りつける攻撃のみ。
【ちょっと強めのアンデッド(腐った死体系)】
4体。
毒の爪と、噛みつき攻撃。
【小さなゴーレム】
3体。
2メートルないくらいの小型ゴーレム。
近接戦オンリーですが、固く防御力が高いです。
殴る攻撃と、打ち払う攻撃があり、後者は吹き飛ばし効果があります。
【死霊系モンスター】
2体。
遠距離攻撃のみ。
範囲攻撃はありませんが、単体回復術を所有しています。
上記の全部のモンスターを合わせて、イレギュラーズ8名とおよそ互角。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●プレイングについて
戦闘メインとなります。
決め台詞などがあれば、ぜひ!
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