PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Xenophobia
Xenophobia

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●傷だらけの訪問者
 真夜中。即席の担架に載せられた一人の男が、慌ただしく広場に運ばれてくる。叩き起こされた医師が、眠い目を擦りながらやって来た。
「夜は誰も診ないって言っているのに……一体どうしたんだ」
「仕方ないだろ。これ見てくれよ!」
 担架を担いできた青年は、石畳に寝せられた男を指差す。服は全身ズタボロ、全身に何かに噛まれたような痕。それがどれもこれも黒ずみ腫れ上がっていた。
「おいおい、こいつはひどいな……俺の持ち合わせの薬で何とか出来たか……?」
 医師は唸りながら男の様子を窺う。既に彼は虚ろな目をしており、時折咳を繰り返していた。そんな男を取り囲んで恐々見つめる街の住人達。気付いた医師は、振り返って手を振り回した。
「離れろ。病気を伝染されかねんぞ」
 医者の剣幕に脅されて、人々は渋々後退りする。

 しかし、もう既に手遅れであった。

 数日後、街に響き渡る悲鳴で医師は飛び起きた。慌てて外に飛び出してみると、既にそこは地獄だ。全身の皮膚がずる剥けになった異形の人間が、鎌を片手にのろのろと動き回っている。
 異形は医師に気付くなり、悲鳴のような叫び声を上げながら手にした巨大な鎌を医師に向かって振り下ろしてきた。医師も一声叫んで飛び退き、慌ただしく路地を駆け巡る。
「これが……最近噂になっている、奇病か」
 青褪めたまま呟くと、医師は慌ただしく郵便局へ飛び込む。飛脚はとっくに逃げ出してしまったのか、籠に閉じ込められた伝書鳩だけがくるくると鳴いている。医師は入口の方を窺いながら、慌ただしくペンを走らせ、鳩の脚に手紙を括りつけた。
「行け、急げ」
 丁度外から喚き声が響く。慌てて医師は物置の中へと飛び込んだ。

●跋扈する怪物
「……と、いうことのようです」
 ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は何枚もの依頼書を手にしてイレギュラーズに説明を繰り広げる。どれもこれも、同じ街からすっ飛んできた伝書鳩が携えていたらしい。
「背中から翼が生えているような怪物、全身ぼろぼろの怪物……とにかく色々な証言があるのです。この証言が本当なら、今から街に行っても間に合わないような気がするのですが、状況を確認するためにも、まずは向かって、退治を試みて欲しいのです。あまりに危険な状態なら、一度帰ってきてください。それから……」
 少女はカウンターの奥から大きな木箱を抱えてくる。蓋を開くと、器械仕掛けの精巧な霧吹きが8本納められていた。
「近頃その周辺では『マニアック』と名付けられた奇病が動物の間ではやっていたのです。これは最近ようやく完成した治療薬の試作品なのです。万一の事を考えて支給しますから、必要に応じて、自分や他の人に使ってくださいね」

「くれぐれも気を付けてくださいなのです!」

GMコメント

●目標
 街の怪物を退治せよ?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、事件解決の為には慎重な調査が求められます。

●ロケーション
 夜間の市街地が舞台となります。大通りには松明が掲げられていますが、路地には照明が行き届いていません。街の区画は無造作で、大通り以外は一人二人が並んで通るのが精一杯です。武器を振り回すなんてもってのほかです。

●敵
・怪物×???
 人間サイズの異形です。
 依頼書によってその姿の証言はまちまちですが、恐ろしい姿であるという事だけは共通しています。
 鎌や爪のようなものを振り下ろしたりして攻撃してくるようです。

●アイテム
・抗マニアック薬
 『マニアック』と名付けられた病原に侵された生物を治療するための薬。鎮静剤も混ぜられており、寛解するまで落ち着かせることが出来る。霧吹きなどで吸わせて使う。一人あたり一つ配られている。

●TIPS(PL情報)
☆化け物が大勢いるという触れ込みですが、PC達はそんな化け物の姿を一人見つける事すら難儀するでしょう。



影絵企我です。少しはこちらにも慣れてきたはず……と思うので少し変則的なシナリオを。というと大体真相わかりそうな気もしますが、そこは御愛嬌ということでよろしくお願いします。

  • Xenophobia完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月25日 20時45分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
円 ヒカゲ(p3p002515)
マッドガッサー
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
リナリナ(p3p006258)
おにくにくにく
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
未知の語り部
霜凍 沙雪(p3p007209)
迷子の雪娘

リプレイ

●バケモノの街へ
 ユリーカ・ユリカ(p3n000003)による依頼説明が終わった頃、丸焼きの肉をむしゃむしゃと齧っていたリナリナ(p3p006258)が急に立ち上がった。骨をカウンター裏のくず箱に放り投げ、ずかずかと迫っていく。
「おー、大変! 大変! 街がカイブツに占拠! 占拠されたのか!? で、リナリナ達は街の様子を確認!」
「そうなのです」
 リナリナが声を張り上げると、ユリーカはこくりと頷く。刹那、リナリナは眼を光らせてカウンターを叩いた。
「……ん? でもさっき、『間に合わないかも』って言った! 言ったな! これ大変な事態! でもさっきから全然慌ててない!」
「そ、そう見えるのですか?」
 鼻息荒くしながら、リナリナはさらに詰め寄る。直感は鋭いのだ。食欲第一の単細胞なのは否めないのだが。
「白状する! 全部言う! 秘密却下!」
「えーと、秘密というか……風の噂のようなものなのですけど……」
 そこでユリーカは語った。依頼書を目にしたギルドの人間の中には、怪物など存在せず、騒ぎはマニアックに罹った者達が見ている幻覚なのではないかと唱える者もいる事を。
「おー、リナリナ難しくてよく分からないけど、つまり街の人、存在しないカイブツが見えちゃう、まいっちんぐ不思議病なんだなっ」
「その可能性はある、というだけの話なのです。それを当て込んで行動するのは危険なのですよ。本当に怪物が暴れていたら、取り返しのつかない事になってしまうのです」
 すっかり納得顔のリナリナに、ユリーカは釘を刺す。
「ですから、怪物が本物である可能性は最初から頭に入れて取り組んでくださいね」

 そんなわけで、乗合馬車の中、エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は羊皮紙の束をぱらぱらと捲っていた。そこに記されているのは、『マニアック』と称される、この地域の獣の間で流行を続ける奇妙な病についての報告書。
「流行病か、獣か。いずれにせよ、厄介なものには、変わりないのだろう、が……」
 読むほどに何かが引っ掛かる。これまでの病は、錯乱などの精神的症状が主であった。身体的な変異も多少あるようだが、それでも原型をとどめないほどの変異ではない。隣では、霜凍 沙雪(p3p007209)も何枚か届いたという依頼書の写しに目を通していた。一つは両腕が鎌になった悍ましい怪物、一つは異様に巨大な拳を持つ怪物、或いは屍がそのまま飛び出してきたような怪物。それぞれ報告書の中身が一致しない。沙雪は首を傾げた。
「やっぱり、おかしい、ね。見た怪物の姿がばらばら、なんて」
 少女二人は顔を見合わせる。黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は二人に目配せする。
「そのギルドの人間が言っていたことももっともだな。合理的に考えれば、怪物などいないと捉える方が自然だ」
 ゼフィラは両手両足を見つめつつ、タブレットで出力を確認する。今日の義手義足は予備のそれだ。普段つけている戦闘用の義肢は、先日の損傷から修理が間に合わなかったのである。
 そんなやり取りを横で聞いていた狼男――グリムペイン・ダカタール(p3p002887)はくつくつと笑い出す。白紙や破れたページばかりの本をぱらぱらと捲りながら、彼はにやりと牙を剥き出した。
「だが、木を隠すなら森の中、だぞ。おおよそは幻覚であったとしても、その中に紛れて、一人くらいは本物が紛れていてもおかしくはないな!」
『真相はどうあれ、今回の依頼がやばそうなのは間違いないね』
 円 ヒカゲ(p3p002515)は頷き、フリップに文字を書いて差し出す。見た目はガスマスクにパーカーのアヤシイお姉さん、しかして中身はどこかの地球の単なる一大学生。怪物が居ないなら、それに越したことはなかった。再びフリップに文字を書き込み始めたヒカゲを眺めつつ、ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)はほう、と溜め息をついた。
「どちらにせよ、病は本当だよね。困ったことになったな……」
 噛み痕と聞けば、どうしてもウィリアムは最近関わってきた事件を思い出してしまう。エクスマリア達が眺めている報告書の内容のいくつかは、まさに彼が実感として記憶しているものだった。未だ同じと決まったわけではないにせよ、今度は何が怖いのかと、思わず思いを巡らせてしまう。
「とにかく今のままだと分からない事だらけだし、この仕事で詳しい事が分かると良いね」
 アクセル・オーストレーム(p3p004765)は水筒に入れたコーヒーを啜る。闇医者とはいえ1人の医者としての矜持はある。彼はじっと意識を研ぎ澄ませていた。
「町中が集団ヒステリーのような錯乱状態に陥っているのは間違いない。少なからずは身構えておかねばな」
『ここで止めないと更なる被害が出そうだからね! なんとしてでも原因を突き止めよう!』
 ようやくヒカゲはフリップに文字を書き上げ、仲間達の前に差し出すのだった。

●Xeno=異質な
 街が目前というところで、突然乗合馬車の馬がむずがり始めた。御者が鞭を入れても、馬は脚をすっかり止めてしまった。手の打ちようもない。イレギュラーズは顔を見合わせ、次々と馬車を降り始めた。
「仕方ない、ね。行かないと」
 盛夏の温い風を冷ましながら、沙雪は呟く。階段を抜かしてぴょんと飛び降り、エクスマリアがそっとその切れ長の眼を覗き込んだ。無表情だが、髪の毛はふわりと愛想良く波打っている。
「さて、共に参るとしようぞ」
「……うん」
 その後からのしのし降りてきたグリムペインは、白紙の本をぱたりと畳んで全身の毛を逆立たせた。
「フハッ! それじゃあ、箱の中身が生きているのか死んでいるのか、開けてみるとしようじゃあないか!」
 言うなり、彼は悠々と走り出す。その背中に引っ張られるように、残りの仲間も街へと駆けだした。街の門は全開に開け放たれたまま、その中は妙に騒がしい。ウィリアムは眉を顰めると、掌に指先で魔法陣を描き、小さなハツカネズミを一匹呼び出す。そのまま指先を鼠の額に当て、そっと念じる。
(家の中に入ってくれ)
 ネズミはちゅうと鳴くと、ウィリアムの手元を飛び降り、芝生の上を軽快に跳ね、真っ先に街の中へと飛び込んでいった。その後を追うように、グリムが街の石畳へと足を踏み入れた。
「さてさて……まず我々がすべき事は、何かな……」
 言いながら、ひとまず聞き耳と透視を始める。人々が走り回っているのか、いくつもの足音が響いている。庶民の家の薄っぺらいレンガの壁を透視して、屋内も見つめる。耳を覆い、目を閉ざして部屋の隅っこで縮こまっている子供や大人の姿が見える。
「ふむ? 噂通り、怪物とのファーストコンタクトは無し、か?」
 グリムペインは首を傾げると、街の奥へと足を踏み入れていく。その後を追ったゼフィラは、ゴーグルを掛けて周囲をじっと見渡す。
(さてさて、またこれは奇妙な事件だな……)
 少なくとも街の人々は混沌に脅かされている状況だというのに、今日も今日とて心が躍る。未知の現象に対面できる事がどうしても悦びなのだ。己を度し難い人間と自嘲しつつ、彼女はグリムペインが進んだのとは別の方角へと歩き出す。息を潜め、どんな手がかりも見過ごすまいと慎重に。
 刹那、目の前で悲鳴を上げながら誰かがすっ飛んできた。木桶や看板を蹴飛ばしながら、真っ青な顔で青年が一人走ってくる。ゼフィラは首を傾げつつ、手を伸ばして彼を呼び止めようとする。
「すまない、少し――」
「ぎゃあああっ!」
 しかし、彼女の言葉は青年の悲鳴に掻き消された。青年は踵を返し、元来た道を引き返そうとする。
「バケモノ……?」
(今日の義肢は擬装タイプなのだが……)
 四肢が機械丸出しの時はいざ知らず、今日に限ってバケモノと言われてしまうのは納得いかない。思わず追いかけようとしたとき、突然通りの向こうからまた別の男が姿を現した。
「バケモノめぇっ!」
 革エプロンを腰に巻いた男は、両手に握った肉切り包丁を振り回す。青年は悲鳴を上げてひっくり返った。
「……これは、リーディングを掛けるまでもないか」
 顔を顰め、咄嗟にゼフィラは男の前に身を投げ出す。振り下ろされた肉切り包丁は義手の人工皮膚を引き裂き、フレームにも亀裂を入れた。やはり非戦闘用の義肢ではまともに戦えない。ゼフィラは脇腹に突き出された包丁の切っ先を何とか躱す。
「くっ……」
「やめよ!」
 空からエクスマリアが降ってきた。小さな足で男の顎を蹴飛ばし、石畳の上に叩きつける。男は呻き、その場に伸びてしまった。吹っ飛んだ肉切り包丁が、からんと音を立てる。
「まさか……我らに襲い掛かってくるとはな」
 眉間に皺寄せ、エクスマリアは溜め息をつく。男は白目を剥いたまま動かない。二人の背後では、青年が再び声を震わせ逃げ出そうとしていた。
「ひ、ひぃ、誰か……!」
 だがその正面には、既に沙雪が立っていた。すっかり腰を抜かした青年は、腕だけ動かし床を無様に這い回る事しか出来ない。切れ長の眼を伏せ、沙雪は呟く。
「……間違いない、ね。……みんな、他人の事が、怪物に見えてる……みたい」
 青年が逃げ出さないよう、沙雪は一歩一歩間合いを詰めていく。そのうちに青年は泡を吹き、その場にごろんとひっくり返ってしまった。
「確かに、私達は、怪物みたいなもの……かもしれないけど」
 ぴくりとも動かない青年を見つめて、沙雪はそっと肩を落とす。
「そんなに怖がられたら、やっぱり寂しい……な」

 一方、ここは街の診療所。グリムペインとヒカゲ、それからリナリナが一人の男――依頼主の医者を取り囲んでいた。彼もまたナイフを片手に、唇を震わせながら壁にもたれ掛かっていた。
「こ、これはメスだぞ。人間だろうが怪物だろうが、肉ならあっさり切り裂くぞ。近寄るなバケモノ!」
「おやおや、これはこれは。確かに私はバケモノかもしれないが、このようなお嬢様二人までバケモノ扱いするのは頂けないね!」
 言いつつ、グリムペインはヒカゲとリナリナを見遣る。片やパーカーガスマスク、片や原始人。怪しさ満点だ。
「いや、バケモノかも分からんな。クハハハッ!」
 ヒカゲは黙々とスケッチブックにペンを走らせる。中身は男だから、狼男の言を否定する気にもなれなかった。
『落ち着いて。助けに来たんだからさ』
「助けに来た? ふざけるな!」
 医者は眼を剥くと、メスを構えて突っ込んできた。ヒカゲの構えたメスが突き刺さり、スケッチブックに穴が空く。ヒカゲはガスマスクの向こうでシューと声を洩らした。医者はスケッチブックを脇に投げつけ、更にヒカゲへ斬りかかろうとする。
「おー、リナリナ、病気に強いゾッ! とりあえずここは任せろっ!」
 しかし、そこに飛び出したリナリナ、患者の股間に向かって素早く左足を振り上げた。どす、という音と共に医者は呻いてその場に蹲った。
「うぐっ」
 崩れ落ちた医者の白髪を掴むと、無理矢理顔を上げさせる。救助対象とは思えない扱いである。隣では、治療薬の入った霧吹きをヒカゲが構えていた。
「……ごめんよ」
 仕方なしに囁くと、ヒカゲは霧吹きを絞って薬液を吹きかけた。医者は一瞬胡乱な顔をしたかと思うと、どさりとその場に崩れ落ちた。

 一方、ウィリアムとアクセルは2人で数人の群れの間へと飛び込んでいた。草刈り鎌や桶で武装した彼らは、互いに歯を剥き出しに、バケモノのような叫びを上げながら殴り合っている。
「待て、止まれ!」
 アクセルは鎌を振り回す女の背中に組み付いた。そのまま足払いを仕掛けて地面へ引き倒す。彼の表情を捉えた女は金切り声を上げた。腕と膝で何とか女の肩口を押さえつけ、バタバタ暴れる女の顔に向かってどうにか薬液を浴びせた。しばらく叫んでいた女だったが、そのうちに薬液中の鎮静剤が回り、茫然とした顔で空を見つめる。アクセルはほっと息を吐きかけたが、そんな暇は無い。桶を担いだ男がアクセルの頭にその角をぶつけようとしていた。
「むっ……!」
 しかし、桶が振り下ろされるよりも早く、ウィリアムが男へ間合いを詰めた。咄嗟に男の鳩尾に肘打ちを叩き込み、そのまま肩で体当たりを見舞って地面に押し倒した。ひっくり返った男。入れ替わるように、物干し竿を構えた男が突っ込んできた。身を捻ってどうにか一撃を躱し、足払いをかけてすっ転ばせる。起き上がろうとする彼らを何とか押さえ込み、二人纏めて薬液をその顔面に吹きかけた。
「やれやれ、バケモノ扱いされて襲われる時がくるとはね……」
「目の届かないところで殺し合いになってしまうのは厄介だな。収拾は一刻の猶予も無さそうだ」
 アクセルはそっと手を掲げる。彼の周囲に光が浮かび、周囲5mを素早く囲い込む。街の澱んだ空気が追い出され、石畳の汚れも拭い去られた。アクセルのギフト、リュブヤベルグの能力である。倒れた男をその空間へと引き込むと、治療バッグを取り出し、腕の切り傷を素早く縫い合わせていく。
「他のメンバーからも今のところ怪物を見たという報告は入っていないが……これもこの地で流行しているマニアックとかいう感染症の一症状というわけか」
 ウィリアムはアクセルの施術を見つめながら、ちらりと周囲を見遣る。立ち並ぶ民家の窓から吊り下げられている植木鉢。そこに咲いている小さな花を見つめて、ウィリアムは心の奥で問いかける。
(この街の中で、バケモノを見つけなかったかい?)
 僅かな沈黙のあと、ふっと微かな意思が伝わってくる。帰ってきたのは、ボロボロの、バケモノのような、何かを1つ見たという返事。
「……けど、どうやら、これが本当に単なる集団幻覚の筈は無いんだ」
「ああ。……そもそも、感染症であるなら、どこかに感染源があるはずだ。……一体それは何だ?」
 丁度その時、ちょろちょろと駆け回った鼠が、脚を引きずるようにして一匹の影を捉えた。包帯塗れの身体を引きずって、ボロボロの外套を纏い、当てもなく歩く一人の男を。
「あの人か」
 空を舞うエクスマリアが、ちょうど滑るように飛んできた。ウィリアムは彼女を見上げ、北の方角を指差す。
「あっちだよ。あっちに重病人がいる」
「うむ」
 髪の毛をピンと張り詰めさせたまま、エクスマリアは宙を飛び抜けた。家と家の狭間を見下ろすと、確かに、杖を片手に、よろめきながら歩く人影が見える。彼女は南瓜ランタンを明滅させると、素早く舞い降り男の正面へ回り込んだ。
「待たれよ」
 顔も体も包帯でぐるぐる巻きになった男は、まさに怪物のような外見だ。思わず彼女は髪の毛を縮れさせる。男は獣のように唸ると、よろめきながら杖を振り回した。エクスマリアは仏頂面のまま、一歩一歩男へと歩み寄っていく。
「落ち着け、マリア達に、お前を傷つけるような、意図はない」
 男は深く咳き込み、血痰を吐く。それでも男は歯を剥き出し、杖を構えてその先端をエクスマリアに突き立てようとする。
「……やめて」
 彼の背後に歩み寄った沙雪が、そっと男の背中に手を伸ばした。強烈な冷気が男を襲い、思わずぴんと仰け反った。その場に倒れて息を荒げる男を見つめ、沙雪は自らの白い手を見つめる。
「熱い。……苦しい、よね」
 男は呻きながら、沙雪に向かって爪を突き立てようとする。沙雪は目を伏せると、懐からそっと霧吹きを取り出した。
「今、治してあげる……から」
 1度、2度と薬液を吹きかける。男はしばらく蠢いていたが、やがて静かに目を閉じるのだった。

●人獣共通感染症
 1日後、ベッドの中で眠りこけていた医者がむっくり起き上がった。隣に座っていたヒカゲは、新調したスケッチブックを医者の目の前に突き出した。
『ヘイヘイ、お医者さんダイジョーブ?』
「……あ、ああ。大丈夫だ。……そうか、君達が助けに来てくれたイレギュラーだな。今回は本当に助かった」
 眼を何度も擦る医者。怪物ではなくても、目の前の女は怪しさ満点だ。
『質問OK? 結局みんな病気をあの怪我人に感染されちゃったってことでOK?』
「病気……?」
「ああ、君達は幻覚を見ていたんだよ。怪物なんて、この街には1体もいなかった」
 ウィリアムがヒカゲの隣にやってくる。怪訝な顔をしていた医者だったが、やがて得心して顔を顰める。
「となると……やはりあの時か」

 一方、隣の部屋では包帯を丁寧に巻き直された男が、目だけを開いて隣のアクセルを見つめていた。
「まだ安静にしていろ。あちこちの傷が腐りかけていた。今は動くな」
 エクスマリアと沙雪は並んで彼を見つめる。男はかすれた声を発した。
「君達が助けてくれたのか? ……ありがとう」
「君の身に、一体、何があった」
「きっと、重大な手がかりになる、から……」
 男は顔を顰める。
「襲われたんだ。真っ黒な、狼に……」

 外では、男の話を横聞きしていたリナリナが相変わらずマンモスの肉をむさぼっていた。
「おー、狼が、人噛んで、病気?」
「どうやらそうらしいな。すなわち『マニアック』は、人獣に共通する感染症というわけだ!」
 グリムペインは豪放に笑う。開いたページには、今回の彼の歩みが記されていた。
「ふうむ。この地でそんな病気が流行っていたとは。この世界も分からないことだらけのようだな」
 ゼフィラはタブレットに映した報告書を眺め、彼女は自信に満ちた笑みを浮かべるのだった。

 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

今回はご参加ありがとうございました。
皆さん2通りの予測を立てられておりましたが、今回はそのうちの1つ、同じ市民が化け物に見える幻覚を見ているというのが正解でした。
もう少し上手い情報の出し方は無かったかな、など反省している部分は幾つかありますが、これからもご縁がありましたら参加していただけますと幸いです。

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