シナリオ詳細
愛しい貴女に祝福を
オープニング
●
「イレギュラーズの皆さんへ
こんにちは。はじめまして。
わたしはサノワの村のプリエメといいます。
皆さんは、いろんなお願いを叶えてくれるって、お姉ちゃんに聞きました。
だから、お手紙を出します。
今度、お姉ちゃんがおよめさんに行くことになりました。
わたしの村では、けっこんするとき、たくさんのお花でおいわいします。
お花が多ければ多いほど、きれいならきれいなほど、しあわせになれるっていいます。
でも、村の近くでは、もうお花が見つからないんです。
へいたいさんが、全部ふみつぶしてしまったからです。
お花が一本もないなんて、お姉ちゃんがかわいそうです。
それに、わたしは、お姉ちゃんにしあわせになってほしいです。
お金は、かならずはらいます。
お願いします。いっしょに花を探してください。」
●
何かが国に侵入した話、悪い噂のある団体がやってくるという噂。
今日も様々な情報飛び交うギルド『ローレット』の酒場の一角。その机の上には、一枚の真っ白な紙が広げられていた。
拙い字で書かれた手紙に、全員が目を通したことを確認して、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は情報を補足する。
「まぁ、村に伝わる風習らしいんだけど、サノワ村では、結婚式のときに大量の花で新郎新婦の門出を祝うそうなんだ。昔は、それは美しい結婚式だったそうだよ」
――『昔は』。それが意味する言葉は、手紙からも読み取れるだろう。ショウは、目深に被ったフードの奥、影に光る青い目を僅かに伏せる。
「ただ、今の季節は花が少ないってこともあるし……、あの辺りは国境が近いこともあって、軍隊の行き来が年々増えているんだよね。村はどんどん貧しくなる一方さ」
食料、物資、それだけではない。度重なる軍隊の往来で、村の周辺にあった花畑はほぼ全滅状態だ。木々も、交通や燃料に使うために伐採され、今では村から離れた場所に少しの森が残るだけだ。村の近辺にモンスターが確認されたことはないが、少女一人で探しに行くのはやはり心もとない。
なら、せめて花咲く季節まで待てないのかと、誰かが聞いた。
ショウは短く息を吐く。手紙の端を、トントンと、指で叩いた。
「……彼女、プリエメのお姉さんが結婚する男性は、先日、兵として出るようにと、お達しが下ったらしい」
今でなければ、駄目なのだ。
「そりゃ、少しでも花を見つけてあげたくなるよね」
姉の幸せを願うのならば――
一瞬、遠くへ飛ばした視線をイレギュラーズに戻して、情報屋は続ける。
「そうそう。村の古い言い伝えでは、森には『妖精の花園』があるそうだよ。年中、光る花が咲き乱れる神秘の場所らしい。余程の幸運の持ち主でなけりゃ立ち入ることはできないってさ」
行ったことがある者は村にはおらず、本当に、ただの言い伝えだが、案外、村の結婚式の風習は、そこから来ているのかも知れないねと、男は言って。
「ま、本当にあるかは眉唾物だけど、妖精の花なんて、メルヘンでいいよね。オレには似合わないだろうけど、幸運とかアップしそうでテンション上がるな」
冗談めかして笑いながら、見た目よりもずっと繊細な黒衣の青年はひらりと手を振り、場を後にする。
去り際に、キミたちにも幸運を。なんて付け足しながら。
- 愛しい貴女に祝福をLv:2以下完了
- GM名次波木夜一(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月26日 20時55分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●サノワ村にて
その少女の顔は、頑なだった。
強張った眉と口、肩から下げたバッグの紐を、ぎゅっと握りしめ。
挨拶をして頭を下げる間も、子供らしい明るさは見せない。
そんな少女に、落ち着いた声が掛けられる。
「プリエメちゃんは宜しくね、私はヴィエラ。頑張ってお姉さんの為の花を探しましょ」
『特異運命座標』ヴィエラ・オルスタンツ(p3p004222)は、気品を感じさせる優雅な微笑みを浮かべて、少女……プリエメに語り掛けた。
プリエメがその言葉に控えめに頷くのを見て、改めて彼女の祖父母と母から今回の依頼についての説明がなされた。
『常若なる器』ネスト・フェステル(p3p002748)は、祖父母に村の風習の詳細や好まれる花等、必要な情報を訪ねる。
必要な者が一通り質問や確認をし終えると、少女は口を開いた。
重たい声だった。
「お姉ちゃんにも……ルフレッドお兄ちゃんにも、幸せになってほしいんです」
姉の結婚相手だと、母が補足する。そして、彼女が懐いている兄代わりの存在であることも。
戦争によって齎される苦しみは想像に難くない。
だからこそ、誰もが少女の気持ちを察し、できる限りの協力したいと思うのだった。
「……話を聞いていると、何が何でも成功させたくなってきました。うん、本気で依頼に臨むとします」
『夢幻』ジオ=トー=ロウ(p3p001618)は、いつもは絶やさぬ笑みを引き締めて。
煙草も今回は依頼が終わるまでは封印。ポケットにねじ込んだ。
『キングダム・セーラーハート』カタリナ・チェインハート(p3p001073)が一歩進み出る。
印象的なピンク色の髪の毛をふわりと掻きあげ、高らかに名乗り上げる。
「君の願いは、この魔法少女カタリナが聞き届けた! 大船に乗った気持ちでいたまえ!」
異世界の勇者王は、髪と同じ色の目を片方閉じる。
彼のテンションにつられ声をあげる者がもう一人……いや、もう一羽。
「女の子のこういうお願いはきゅんきゅんするわ! さあ、頑張るわよ! こけー!」
気合十分な様子の『聖なるトリ』トリーネ=セイントバード(p3p000957)は、再び一声高らかに鳴いた。
皆が家の中で説明を受けている間、入口の脇に寄りかかり、一人外にいたのは『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)だ。
「……まったくロクでもねぇな、戦争ってやつは」
流石に煙管を中で吹かすわけにもいくまいと外から中の声に耳を傾ける。今はこの場にいないプリエメの姉にとっては、事情がどうであれ晴れ舞台だ。未来が明るいものという確証がないからこそ盛大に祝い、幸福な記憶を残してやりたい。
(幸福な記憶が一つでもありゃぁ、そいつを糧に人は生きていけるからな)
中では話が纏まったらしい。男は、灰を携帯灰皿に落として仕舞う。
棚引く煙はすぐに薄れ、彼の本心もまた、誰に見せることもなく。
一向は村を出て、森へと向かう。その道すがら、元々の顔見知りであったカタリナと『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)は親しげに言葉を交わす。
「ミア君も一緒とはね!」
「びっくりした……けど、知ってる人と一緒……嬉しい……の♪」
メンバーはそれぞれ、どこを探すか、どんな風に探すかを相談している。どこに身を置いていいのか分からず、プリエメはバッグを握る手に力を込めた――と、そんな少女に、白く嫋やかな手が差し伸べられる。
「おいで、プリエメ。良かったら、ぼくと手を繋いでくれるかい?」
翡翠のような、若葉のような、不思議な瞳を持つその人――『杜乃守の錬金術師』杜乃守 エンジュ(p3p004595)は、手を差し伸べたまま、微笑む。
恐る恐るその手に自分の手を乗せたプリエメに歩調を合わせながら、彼は自分のギフトの事をゆるりと語る。草花を集めたり、成長させたりできる力があるなんて……
「森の神様みたい……ね」
少女がぽつりと呟いた言葉に、とある地で神の寵愛を受けて生まれた旅人は、笑みを深めた。
●森の中で
森は、冬にも関わらず小鳥の鳴き声が響いていた。
イレギュラーズは、広い範囲を捜索できるよう、それぞれに方角を決め一時解散する。
ヴィエラは、植物に詳しい者からの情報を元に、雪にまぎれた花や妖精の花園の手がかりはないかと丁寧に目を凝らす。探しながらもつい、もし自分がプリエメの姉の立場ならと考えずにはいられなくて。
(……私なら付いていってしまいそうだわ。待つだけ、って凄く辛いと思う)
元は貴族の世界に身を置いていた彼女だ。貴族の行いで好き合う二人が引き裂かれると思うと、胸が痛む。
(ううん。だからこそ、私の出来る事をやってみるべきよね)
横顔を隠す様に落ちて来た金色の髪を、暗くなりそうな気持ちと一緒に振り払い、ヴィエラはまた懸命に妖精の花園を探し始めた。
十夜は、積もっている雪を、繊細な仕草で払いのける。白の下、ひっそりと生き延びる生命力に仄かに口元を緩めた。花を摘み、続けて隣に見えた黄色い色にも手を伸ばしかけ――まだ花開き始めて間もない花と見るや、手を止める。
「おっと、お前さんはまだ若ぇな。もうちっとすりゃぁ更に別嬪になるってのに、今摘んじまうのは野暮ってモンだ」
代わりに、周りの雪を少し余計に払ってやって、ふらりとまた別の場所へ。男は花と花園を探す。
一風異なった探し方をしているのは、ロウだ。
彼女は自分の持つ優れた≪色彩感覚≫を活かして雪の色に紛れる花を探す。
武器を、煙草を、自らの大事なものを二つも我慢している彼女は、煙草を控えたために震え始めた手をぎゅっと握りしめた。
「少女のお願いの為です。が、我慢……我慢っ」
自分に言い聞かせ、雑念を外に追い出そうと、花の色を見分けることに意識を集中させた。
園芸道具にスノーブーツと、万端の装備で森に入ったネストは、森の声に耳澄ませる。
少しでも元気な花を……そして、森の状態を、《植物疎通》で草花たちに問いかける。
「ふむ、あちらか……」
鳥の鳴き声に紛れて聞こえる幽かな声を拾い上げ、時折樹に手をついて、調子はどうだと問いかけながら進んで行く。
草木の声は小さいからこそ、その声が集まっている場所とそうでない場所の差はよく分かる。目的の場所に到着し、雪を払ってみると、その下にはまだ寝ぼけ半分の花々が、身を寄せ合っているのが見つかった。
「エンジュを呼んでくるか……」
ネストは、方向を確かめながら、その人物を探しに向かった。
「妖精の花なんて……ほんとにあるのか……にゃ?」
ゆらりゆらりと長い尻尾を揺らし、ミアは首を傾げた。
ミアは、貴重な品や綺麗なものが大好きだ。もちろん、妖精の花園も例外ではない。
けれど、その付加価値を除いても、自然が失われるのは惜しく、持ってきた植木鉢に花を移し替える。
花を集めながら、妖精の花園に続く道を探して、木の洞等を覗き込む。中にいた寝ぼけたリスと目が合って、ミアは首を引っ込めた。
「……なかなか見つからないの。プリエメの様子はどうか……にゃ?」
軽やかな足取りで、ミアは近くで花を集めているプリエメたちの方へと向かう。
ちょうどその頃、プリエメやエンジュと共にいたトリーネが、《ファミリアー》で小型犬を召喚し、送り出しているところだった。聖なる雌鶏は、目を丸くする少女を振り返り、
「ふふふ、世界広しと言えど犬を従える鶏は私ぐらいのものかしら!」
ドヤ顔。
「尊敬しても良いのよ、プリエメちゃん!」
畳みかけるような連続ドヤ顔。
少女は暫くぽかんとしていたものの、思い出したように慌てて頷く。
「うん、す、すごい……」
「そうでしょう、そうでしょう!」
バサバサと翼を広げ胸を反らすと、トリーネは周囲を見渡し今度は自分の仕事に取り掛かる。
近くにいた野ウサギに《動物疎通》で、花の咲いてる場所を尋ねる。野ウサギは返事代わりに二度跳ねて、その場を離れた。
鳥とウサギのやり取りに気を取られ、プリエメは不用意に薄桃色の花へと手を伸ばす。
「プリエメ、その花には触れちゃいけないよ」
それをエンジュが止める。
「その花は触ると痒みが出る。他の花を探そう」
少女は幾度か花とエンジュを交互に見て、小さく頷いた。
「うん、いい子だね。ほら、此方の花は摘んでも平気だよ、見ておいで」
エンジュは《緑神の号令》を使い、開きかけの蕾を満開まで成長させる。ゆっくりと開いていく花は、まるで魔法だ。プリエメはエンジュを見上げる。森の寵児は少女の目を見つめ返した。
「お前の姉のための花だよ。お前が摘んでおあげ」
「……ありがとう」
薄っすらと緑がかった白い花を摘んでいる間に、ミアが樹の後ろからひょいと顔を覗かせた。
「プリエメの……お花、入れるといい……にゃ♪ ミアの不思議なバッグ……貸してあげる……にゃ」
ミアは≪ミアの宝物≫で異空間へと繋がるバッグを出現させる。今日はすごいものを見てばかりなのに一々驚いてしまう少女は、それでも歳が近いという気安さと、不思議なバッグに物を入れてみたい、という好奇心から厚意に甘えて。
トリーネがコッコッと喉を鳴らし、犬と野ウサギが戻って来たことを知らせる。
しかし、戻って来たウサギはどうしたことか、プリエメの足元まで駆け寄り、彼女の足に体を擦りつけたり、痛くない程度に引っかいたりし始めた。困惑したプリエメは、トリーネに視線を送る。
トリーネは、またコッコッと喉を鳴らした。
「その子、プリエメちゃんに褒めてほしいみたい!」
促され、触れる柔らかな毛の感触。あったかくて、くすぐったくて、思わず微笑んでしまう。和らいだ少女の表情に、トリーネは器用に円らな黒い瞳を片方閉じた。
「真面目な顔ばっかりじゃすぐに疲れちゃうわ。女の子は笑っていた方が可愛い! 人も鶏も一緒よ! さ、それじゃあ、案内してもらいましょ!」
トリーネが場所を移そうと提案したと同時――
「ああ、エンジュ、ここにいたか。ギフトを頼みたいのだが……」
重なったのは、ネストの声だ。
その場にいた者が、千客万来だと誰ともなく笑う。それから、簡単に相談して、トリーネ・ミア・プリエメはウサギとファミリアーの探し当てた場所へ。エンジュはネストの見つけた花の群生地に先に向かい、後で合流しようということになった。
移動する途中、額には汗も滲ませるロウの姿に、プリエメは思わず声を掛ける。
「あの……具合、悪いの?」
「いえ……具合が悪いと言いますか……」
ロウは返事に窮しながら、にかりと何でもないかのように笑って見せる。
「大丈夫。大丈夫ですよ。何てことありませんから」
心配しないで。八重歯を見せて笑うその女性が、何かしらの無理をしてくれていることは分かりながらも、どう声を掛けたらいいのか分からずに、少女はただ頷き返した。
ウサギの見つけてくれた花を摘み、また移動していると、ゆったりとした様子の十夜の後姿があり、そこから更に進むとヴィエラが難しい顔をして立っていた。
「……さすがに、見つかりにくいって言われるだけのことはあるわね」
妖精の花園探しは難航しているらしい。妖精の花園を探しているはずのもう一人の青年の姿が見えないことを思い、
「カタリナ……どこに行っちゃったのか……にゃ」
ミアは心配そうに呟いた。
●心根善キ者達
青年は、焦っていた。
自分と相棒の純粋なハートがあれば、妖精の花園を見つけ出すことができるだろうと思っていた。
しかし、がむしゃらに森の中を駆け回れど、花園どころか妖精の羽の煌めきさえ捉えられない。
カタリナの足が止まる。小さな相棒ジュリーが、その肩に乗ってじゅりりと鳴いた。
「駄目なのか……」
私の、私たちの、純粋な想いでも……。
主人を励まそうと、シマエナガがもう一度囀る。その声に呼応するかのように、小鳥の鳴き声が方々から響いた。それ声すら聞こえない様子で、カタリナは視線を地面に向ける。足元の土には、草一本も生えていない。
小鳥の声は次第に数を増す。
彼方此方から彼を責め立てるように鳴き声が降り注ぐ。
唐突に、ジュリーが肩から飛び立つ。
翼から白い、柔らかな羽が一枚舞い落ちる――途端、
『善シ。汝等、行イ、心、悪シ処無シ』
それは、羽が地面に触れたのと同時に響いた。
羽を起点に、波紋が広がる。続き、突風。
思わず目を閉じ、開いた時には、そこはもう元いたはずの森ではなかった。
足元には輝く無数の花々。
透明な水晶でできた樹々は、その内側に温かく、不思議な光を擁している。
木々の梢に妖精たちが笑い、それぞれの場所にいる来訪者たちを眺めていた。
そう――、この森が、この森全てが『妖精の花園』。
隠された神秘の園。
行き着いた者たちはみな息を飲み、一瞬は言葉を失う。
見事に妖精の花園が見つからないという《フラグ》を打ち破った勇者のピンクの瞳に、輝く花が映る。彼は妖精たちを仰ぎ見た。
「私はカタリナ・チェインハート。魔法少女だ。事情があって、花園の花を分けてもらうため君たちを探していた」
カタリナが事情を説明するのと時を同じくして、ヴィエラも妖精へと心を込めて言葉を紡いでいた。「この子はお姉さんの為に花を集めているの。花園は荒らさないから、花を分けてもらってもいいかしら」
「一輪でいいのさ――プリエメの頭に飾ってやるモンだからよ」
冒険者は、思い思いの言葉、思い思いの方法で、妖精へと願いを口にする。
『良シ。我等、汝等ノ心ヲ認ム。一輪ズツ、花ヲ取ル事、許ス』
妖精は全ての問いに、そう答えた。
たった一輪。だが、掛替えのない特別な一輪だ。
冒険者たちは、丁寧に、慎重に、花を摘む。輝く花は切り取っても尚眩い。
「綺麗にゃ……」
十歳の少女にとって、輝く花は心弾むもので……だからこそ、余計に心配でもある。
「妖精の花……安全な所に植え替えたら……ダメか……にゃ」
『花ハ、妖精無キ場所ニハ根付カ不』
はっきりとした断りに、白猫の少女は耳をしゅんと落とす。その様子を見て、妖精たちは笑った。
『案ズニ及バ不。妖精、自然、脆弱ニ非ズ』
『滅ブ事無シ』
妖精たちは手を繋ぎ、冒険者たちの周囲を踊り飛ぶ。
一頻り遊び終わると、その姿は次第に光に透け始め、輝く花もすぅっと薄れだし――再び、強い風が巻き起こり、その風の中心で声が響いた。
『我等、汝等ヲ祝福ス』
『“良ク生キヨ”。運命ノ収集家達』
その言葉を最後に、小鳥の囀りも、妖精の花園の気配も風に吹き飛ばされ、残らず失せる。だが、それぞれの手には一輪の光溢れる花が残る。妖精の花園があったことの証明にこれ以上の物はあるまい。
気が付くと、ばらばらに散っていた筈の面々は、みな同じ場所……森の中心に集まって立っていた。
「何だか、幻みたいでしたね……」
ロウは目を閉じる。
色とりどりの輝きに満ちた花園の不思議な光が、まだ目に焼き付いている気がした。
●花咲く瞬間
集めた花を数えると、全部で45本あった。
大きさも色もバラバラだが、冬に集めたにしては上々だ。花商人のミアが嬉しそうにアレンジメントを引き受ける。
集めた花を見るプリエメに十夜が歩み寄り、その髪に何かを挿した。飾られたのは、妖精の花――
「綺麗なら綺麗なほど、幸せになれる……なら、お前さん自身が幸運の花になってやりゃぁいいんじゃねぇかね」
「辛い時もあるかもだけど、きっと私達が今を変えてみせるから。プリエメちゃんは安心してお姉さんをお祝いすると良いわ!」
「これでちゃんとお祝いできるわね。これから先、あなた達が幸せで過ごせますように、って私も願ってるわ」
十夜を皮切りに、イレギュラーズは次々に少女へ言葉を掛ける。
「……お姉さんの旦那さん、無事に帰ってこれるといいですねぇ」
ロウが震える手を悟らせないように、少女の頭を撫でたとき、少女の瞳からぼろぼろと涙があふれ出した。
「ごめんなさい……っ。ごめんなさい、私、みんなが、こんなに一生懸命、花を探してくれるなんて、思ってなかった……!」
堰を切ったように、溢れる言葉と涙に震えながら、少女は叫ぶ。
「ありがとう。本当に……っ、本当にうれしい! 私、勇気を出して手紙を出して、本当によかった!」
少女が自分の力で見つけた花は、妖精の花を除けばたったの一輪だ。祝いと呼ぶにはあまりに寂しいそれが、素晴らしい花束になったのは、この場の全員の力によるものだ。
エンジュは、自分の髪から花を一つ摘みとった。彼女の姉の好きな花に最も似た色と形のもの、それを少女の手に握らせて。
「これは、ぼくからの祝い代わりだ。お笑いよ、プリエメ。花が咲き綻ぶことを、笑うと言うんだよ。なら、愛しい姉を想うお前が一番の花になってやらずにどうするのさ」
温かな想いは春の陽に似て……光を一身に受けた少女の顔は、漸く、満開に至った。
「ん……? 雪か……?」
森を出たところで十夜が空を仰ぐ。
「いや、これは……」
それは、雪ではなかった。
全員が、ほぼ同時にそのことに気づき、声を上げる。
空から降り注ぐ銀色の花びら。
日の光を反射しながら、祝福が降り注ぐ。
愛しい貴女に祝福を。
どうか、その道に幸いあれと。
そして、
世界を救う、愛しい彼らにも希望あれ。
皆が空を見上げる中、ネストは妖精の言葉を思い出していた。
――妖精、自然、脆弱ニ非ズ――
花畑や、森を気にかけていた彼の目に映るのは、切り株からしっかりと天に向かって伸びる若木だ。(強いもんだ)
妖精も、自然も、そして人も。
時間はかかるだろう。
だが、花はまた咲くのだ。
大地は、花で満ちていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
イレギュラーズの皆さん、お待たせしました。
『愛しい貴女に祝福を』リプレイになります。
相変わらず皆さん、大変プレイングが上手くて、もっといろいろ捻じ込んだり描写したかったなぁと思うところもありますが、今回もとても楽しく執筆することができました。
毎回、何人かはこの依頼に適任すぎないか?と思う人が参加されるのですが、あれはどういった運命の仕組みなんでしょうね。
今回の巡りあわせもとても面白いなぁと思っております。
参加された皆さんは、かなりダイスの出目が良い方が多く、お陰様で花は十分に集まったようです。
皆さんの意気込みや心情がダイスに反映されたのだと思います。
なお、妖精の花園へ続く番号は、<7>と<19>でした。
番号はダイスで決めていますが、皆さん色々と考えてくださっていて、参考になりました。
そして、この数字を見事に当てたのも本当に素晴らしかったと思います!
ご参加くださった皆さん、またご縁がありましたらどうぞよろしくお願いします。
また参加したいと思っていただけるようでしたら、GMとしては大変うれしく思います。
そうであることを願って。
そして、それ以上に皆さんの冒険が希望溢れるものであることを願っております。
改めて、ご参加ありがとうございました!
GMコメント
※ 本シナリオには専用の特殊ルールがあります。
特殊ルールの使用は任意です。希望される方はご確認ください。
【特殊ルール】
1.花探し
GMが各キャラクター事に1D6で採取量を決定します。
ギフトやスキルの使用、工夫などでプラス補正がつくことがあります。
探索する森は、小さな湖のある至って普通の森です。
雪解け前で、森の中はあちこち白く染まっています。
危険度の低い小動物も見かけることができます。
2.『妖精の花園』を探す
プレイングに、妖精の花園を探す旨を記載することで、妖精の花園を探すことができます。
参加した方は各人任意で《1~20》までの数字の内、1つを選択し、GMに選んだ番号が分かるように記載してください。
20の内、2つが妖精の花園へと通じています。(数字は既に決定済みです)
ただし、妖精の花園は言い伝えのとおり非常に見つけにくく、通じにくい神秘の場所です。
通常の花探しと並行して探すことができますが、その場合、通常の花の採集量は半分に減ってしまいます。(端数切り上げ)
また、妖精たちは純粋な願いに応じ、人々を招き入れてくれますが、自分たちの花園を無闇に乱されることは決して好みません。
得られる妖精の花は、お祝い用の必要最低限のみです。
花を持ち帰ることはできませんのでご了承ください。
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【人物補足】
●プリエメ
生真面目な8歳の少女。
祖父母と母、姉と五人暮らし。
父は彼女が幼い頃に徴兵されたきり、消息不明です。
どこにでもいるような普通の少女ですが、最近は村の雰囲気もあり、めっきり笑うことが少なくなっています。
花探しに同行しますが、基本的には花探しに専念します。
特殊な能力などは持っていません。
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こんにちは、次波木夜一です。
コメディ系が続いたので、綺麗系のシナリオを一つ。
戦闘が発生する可能性はありません。
キャラクターの皆様の心情等を重視していただけると良いかと思います。
皆様の個性あふれるプレイングを楽しみにしております。
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