シナリオ詳細
<冥刻のエクリプス>FEVER‐フィーバー!!
オープニング
●清廉なる……
慌ただしくも不穏な空気に包まれた聖都の空気を、民衆は嫌でも意識してしまうだろう。
無垢なる民は不正義や魔種の陰謀など皆目見当がつく筈も無く。
彼等にとっては、ただそれまで在った秩序が失われつつある事が何よりも重圧(ストレス)を抱える原因ともなっていた。
――もしも狂えるならば狂いたいとさえ思う者が出る程に。
「どうかお聞き下さい神父様――」
「嗚呼、私達はどうすれば良いのですか神父様――」
「この騒めく心に安らぎをもたらすには――」
「魔種が暗躍しているという噂は本当なのでしょうか――」
「背丈が十尺ある美少女が夢に出てきます――」
日増しに数が多くなっていく、迷える子羊。
聖ジャスコーン教会の神父『ディスコーJr.』はそういった人々を前に朗らかな笑みを浮かべた。
そして彼はとってつけた風に、聖職者らしい事を述べながら最後にはこう言うのだ。
「もし貴方が幸福の一時を望むなら、夜が深まった頃に再びこの教会を訪れるのです。
――さすれば神が与えし祝福を分かち合い……あらゆる苦悩から解き放たれる事をお約束しましょう」
大仰に両腕を広げてディスコーJr.は民衆の中にその身を投げる。
彼等はディスコーJr.を胴上げしながら礼拝堂を駆け回り始めるのだった。
●どう見てもあやっしいわアレ
天義騎士団が一人、騎士ミラー・ボールは陰からディスコーJr.の動向を監視する中で確信とも言える手応えを覚えていた。
「あれは……間違いなく魔種だ」
騎士ミラーはゴツゴツした重鎧の中でごくりと喉を鳴らした。
間違いない。
去年亡くなった筈のディスコー神父の倅が帰って来たと聞き、自ら調査に乗り出して来てみれば先程の光景である。
およそ見てくれだけは天義に相応しい絵に描いた様な神父、聖職者であるディスコーJr.だが。好青年に垣間見える赤髪に紫のメッシュが怪しい。
きっとあれだ。実は人の良い神父と見せかけて裏でとんでもない悪事に手を染めていたり、服の下はムキムキだったり、見かけ通りイイ人だったりするに違いない。
「今の聖都で起きている争乱を想えば、決して無視できる存在ではない! 必ずその尻尾を掴んでやるぞ……!」
猛牛を模したフルフェイスヘルムの下で騎士ミラーは正義の炎を揺らす。
先の演説が真実なら今夜教会を見張ればわかる事である。そうとくれば話は早い、騎士ミラーは最近気になっていた天義聖銃士が蹴散らされた公園にあるクレープ屋へ走るのだった。
「げへぁぁひゃひゃひゃひゃぁああ!!」
「もうだめだ……おしまいだぁ!」
「おっとスマン!」
走り寄って来た暴徒らしき男をうっかりスーサイドアタックしながら錯乱し蹲っている住民をシュートする騎士ミラー。
(物騒な時代になったな……やれやれ)
───
─────
深夜、教会のトイレの小窓を物理的に(壁も)破壊して騎士ミラーは忍び込んだ。
私有地不法侵入に加え器物損壊。一瞬で不正義(犯罪)が積み重なるが、非常時ゆえに致し方なしと勝手に割り切る。
さて、今宵は静かな夜。
騎士ミラーは忍び込んだくせに堂々と教会内を闊歩し、やがて如何にも怪しい空気が漂う礼拝堂奥の隠し扉を発見する。
「ほほう、これはこれは」
超高価な壺や絵画を破壊して回って来た騎士ミラーはようやく当たりを引き当てた事に心が躍った。
耳を澄ませば隠し扉の向こうから呪文の様な音と、妖しい音楽が重低音と共に聴こえて来る。
これはもう間違いなく黒である。
ウッキウキで騎士ミラーは鎧袖から出したポラロイドカメラで満足行くまで記念自撮り。ファミリアーのバブルテングダケにハートのシールまみれの文書と写真の束を持たせ、何処かへ行かせる。
ここまで忍び込んでから二時間。騎士ミラーは満足したのか重鎧の厳つい拳を打ち合わせコンガさながらに乗り込んで行くのだった。
(ムゥ、薄暗い……いや違う。なんだこのネオン光は……まさか妖しげな呪術でも……)
パープル色強めの照明。暗く狭い階段を下る先から漏れている赤い光の明滅。
騎士ミラーは臨戦態勢で臨むべく、拳に騎士団長のアイキャッチシールを貼りつけた。
そして。
地下に辿り着いた先に広がっていた光景は────
「──Fоooooooohhhhhhhhhhhh!!!!
いぇえええい!! 新たなお客さんだぜベイベ! みんな酒持って歓迎してやんなァ!! フォォオオオ!!!」
「「イェェェェィ!!!!」」
────そこに広がっていたのは、秩序と信仰を重んじる天義の民達の宴。
しかしながら、些かその様相は異常だと騎士ミラーには映る。なんだって半裸同然のはしたない恰好で踊り狂っているのだ。
広大な地下空間を見渡す限りどこも同じく、よく分からない淫靡な音色に合わせて何か揺れているだけではないか。
かと思えば、見るからに元凶くさいディスコーJr.は銀のラメ入り衣装を着てアフロ姿という激しいミスマッチ。なんだここは階段下り過ぎて地獄に来ちゃったのか。
何故か床を移動するポールにしがみついて誘って来る踊り子達を振り払い、鎧を剥がそうとして来る民衆を騎士ミラーはどうにか引き離そうとする。
だが数が多い。なにより……
「くっ……なんだ!? 身体に力が……」
「それなるは息子の開発していた魔術にございます。騎士様」
「っ!! 貴様はディスコー神父か! どうなっている、これは……ぐぅ! 何の真似だ!」
階段上から背後を取る形で現れた老神父。
その老神父はアフロ姿でイケイケダンスしている男の父だった。
「どうかお許しを……ですが騎士様、あなたもどうやらお疲れのようだ」
「わかってくれるか」
「わかりますよ……力が抜けて行くのでしょう、ならそのまま身を委ねてはどうですかな。
息子が蘇ってからというもの、この教会は心弱き者の最後の砦となっていた。疲れ果てた者も抑圧された者も、皆々……ああして堕落に身を任せるのです。
私も教会での日々に心を病んでいましたが、ここで毎日踊って暮らすうちに愛人ができました。あ、向こうで踊ってるのが妻で貴方に組み付いてるのが愛人です」
「思いっきり不正義じゃないか!!」
「さぁ……貴方もアットホームな世界に心癒されてみませんか……」
ついに鎧を剥がされ兜を脱がされ、哀れ女騎士ミラー・ボール伯爵はその鍛え上げられた筋肉美を晒しながら不正義の群れに取り込まれるのだった。
●『三日後』
聖都フォン・ルーベルグへ走る馬車の中。
情報屋、『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)はイレギュラーズに告げる。ネメシスでいよいよ良くない事が起きつつあると。
「かの天義の探偵とイレギュラーズの皆様の調査の結果。一連の事件が強力な魔種によるものだった事が明らかにされたお話は記憶に新しいかと思います。
未だかつてない軍団が迫るフォン・ルーベルグですが……今回皆様にはその真っ只中へ突入して頂きます。
敵勢力の扇動、もとい月光人形による被害やそれが及ぼす物はご存知でしょう。いま内乱状態となった争乱の都では暴徒化した民衆や、『原罪の呼び声』に狂った人々が町を更なる混乱に陥れているのが現状です。
このままでは何が引き金となって天義が魔種の手に落ちる原因となるか、予測は不可能です。
現場へ赴き、指定した地区で発生している混乱を収めてください」
この時、ミリタリアは意地でもイレギュラーズと目を合わせていなかった事に何人が気付いたのだろうか。
- <冥刻のエクリプス>FEVER‐フィーバー!!完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年07月13日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●しあわせのネメシスハート
争乱に包まれた聖都を往く一行。
先行する『今日から観光客』ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)は辿り着いた区画内の様相に深刻な物を覚えながら、やがて混沌とした空気漂う聖ジャスコーン教会に彼等は着くのだった。
で。
「……聞いていいかな、その花瓶をどうするんだい?」
「え? 割っていけば隠し扉が出て来るって資料に書いてあったんだけど」
「罠ですらない怪文書に惑わされてないかなそれ!?」
潜入に同行する『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は振り被っていた花瓶を既の所で下ろす。
彼女は情報屋に貰った資料文書に、要約すると要約するまでもないくらいにその辺の物をぶっ壊してウロウロしてたら隠し階段を見つけたという内容が書かれていた事を思い出して首を傾げる。
そうこうしている間にも町から聴こえて来る喧騒は、民衆の心の均衡が崩れつつあることを示唆している。
彼女達は誰もいない礼拝堂を探索し、そして。
「見つけた」
礼拝堂奥に聳えるハンマーを抱いた女神像の後ろに隠し階段がある事を彼女達は発見する。
ラナーダは教会入口の陰に隠れていた仲間へハンドサインを出して「先に行く」とだけ伝えて階段を下りて行こうとする。
「……あ、見つけた」
その時、秋奈が呟いた言葉にラナーダが踏み出しかけた足を宙で止めた。
「何か罠が?」
「ううん。あの手紙に書いてあったんだけど、ミラーさんとかいう人が壁に貼ったハートのシール。これ3枚貯めるとクレープが無料になるらしいわ」
ラナーダは階段を転げ落ちていった。
●とりあえず踊ればアガる心理
無駄に広大な地下空間に並ぶ光景は等しく"狂宴"の名が相応しい有り様であった。
「なに、あの踊り……。クラクラ、する」
「ああ、煩くてかなわない! そも教会は清貧とやらが本分だろうに嘆かわしい事この上ないな。天罰が下っても知らないぞ」
『迷子の雪娘』霜凍 沙雪(p3p007209)は眩暈を、『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)は地下に降りる前に見た女神像を思い出して天を仰いだ。
ネオンの照明以外にも、無秩序に焚かれた炎やストロボがあちこちで目を潰しそうな勢いの雑多さを見せており、その周辺に見える人集りは目を逸らしたくなる様な有様である。
ともすれば、非常に楽しそうにも見えるのだが。
そんなデンジャラス空間でも一際異彩を放つ中央舞台周辺のアフロ集団。それを見た『悪の秘密結社『XXX』総統』ダークネス クイーン(p3p002874)は雷が落ちたように「むう!」と唸る。
「あれなるは『土曜深夜絶頂』(さたでえないとふぃいばあ)! よもやこの目で見る事があろうとは!」
「知っているのか総統!」
背後からついて来たディスコ―神父がツッコミを入れた。
「うむ。恐らくあそこでダンスしているのがキングだろう。愛と青春の果てに待ち受ける挫折を乗り越えし王、
この教会の元締め的な存在であり、きっとあれが月光人形のディスコ―Jrに違いあるまい」
「月光人形、のう。儂は相手にするのは初めてじゃが、どれぐらいのものかのう……」
あんなふざけた姿でも、相応に強力なのだろうと『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)は思案する。もっとも、実力はどうあれ負けるつもりは無いのだが。
ここからどう動くか。未だ敵は気づいていないが──等と考える前にまず、やる事があるだろう。
「ディスコ―神父発見!!」
「ノーギルティ!!!」
「ぶべらぁぁっ!!?」
早速敵を発見したダークネスのタイキックと『猫鮫姫』燕黒 姫喬(p3p000406)の拳が共に老神父を錐揉みさせて階段横のバーに吹っ飛んで行った。
しかし非戦闘員にしては逞しい事に神父は腫れた頬を押さえて起き上がる。
HPバーが真っ赤な神父は両手を上げてぷんすかと抗議してきた。
「うぐ、いきなり殴るなんてひどい……私が何をしたと!」
「肌がチリつく香りで分かるのよ。この教会に充満している『原罪の呼び声』が彼等を踊らせているのがね」
「クリミナルオファー?! な、何を言ってるのですか……!?」
『毎夜の蝶』十六女 綾女(p3p003203)はディスコ―神父と、神父の身を案じながらこちらへ迫って来る民衆を一瞥して小さく首を振る。
そう、楽しそうで賑やかなのは構わない。百歩譲って半裸同然の姿なのも構わない。
司祭が裏でなんかやってるとかキナ臭いのはよくある話。それが他者に迷惑を振り撒く行為でない以上は赦されて然るべき自由があるとも思う。
だが【月光人形】が放つ呼び声は魔種のそれと同質、人々が踊り交わりながら歌い狂っているのも全ては狂気に侵されているが故なのだ。
綾女はそれが気に喰わない。
「のう神父殿よ、貴殿も理解しておるんじゃろ? あれは息子の外見をしておるだけの傀儡じゃと」
クラウジアがそっと諭しに向かう。
「そ、そんな……私の息子は、蘇ったのです! 生前と何も変わっちゃいませんよ! 息子の親しき友人達100人が聞けばきっと頷く筈です、ノリで色々と魔の力に飲まれてますが!」
「あんた何やってんの! ノリで呼び声まみれんじゃないあーもー頭痛いわー」
確か月光人形は親しき者達や記録に基づいて形成される特性がある。
つまりあのディスコーJrは100人が保証する本物に限りなく近いハジけたイカレ神父なのだ。
聞く耳を持たないディスコー神父にこめかみを押さえながら姫喬が迫る。
「あたしらとやり合う気ないなら上いってなさい! 救うべき人がどんだけいると思ってん!? 邪魔しないで!」
「そんな……息子だってこうして迷える子羊たちを狼に変えて救っておりまする! どうかお慈悲を、一発キメれば最高に天義に昇れるクスリとかありますよイレギュラーズの方!」
「狼に変えちゃダメであろう」
ダークネスと姫喬が神父をトドメの一撃の下に沈めておく。
「はぁ……まだなんか話あるならあたし聞くから。あとでちゃんとさ」
気絶させた神父を引き摺り、階段の側に転がして。さて、と手を打ち合わせた姫喬は周りを見渡した。
既に今の間に少しずつ騒ぎが広がり、こちらを不穏な気配漂わせ近付いて来る者達が見える。
試しに神父を優先的にノシてみたが変化は無し。
絡んで来ていた男達に綾女がそれとなく正常に戻るように手解きを試みるも、どうにも効果が無いようだ。
「駄目ね。やっぱり月光人形が呼び声と催眠術的な魔術を用いていると見る方が早いかもしれないわ」
「よ~~~し全員ぶん殴って正気に戻すぞ~~~!!」
姫喬は半ばやけくそ気味に肩を回して、眼が痛くなりそうな地下クラブに突撃して行く。
一方で。早速駆け付けたイレギュラーズが起こした騒ぎを見たラナーダは舞台上で軽快なダンスと音楽を披露しているディスコ―Jrに秋奈と共に忍び寄っていた。
愛と涙と青春、そしてロマンスを語るその歌は狂気に侵された観客たる民衆を更なる熱狂で支配している。
「オォォ~~~イェッ!! 妙な乱入者も今宵のスパイスだ!
おっとお嬢さん、ここはダンスキングのテリトリーだ。早く降りないとあっちのムキムキな彼女みたいになっちまうぜ!」
ピタリとダンスを止めたディスコ―Jrが変装したラナーダを真っ直ぐに指差す。
暫しの間にへらと笑ってごまかしてみたが、反応が薄い。バレていると見切りをつけたラナーダが正体を露わにした。
「ボク達にそのおかしな術は効かないよ、月光人形」
「強がりを! 本当は身体の疲れがピークに来ているハズさ、いますぐその堅苦しい服装を脱ぎ捨てて踊りたいだろう! ほら脱いで! 魅惑のボディ晒してゲッッッダァン!!」
腰を鋭角にスイングしながら近寄って来るディスコーJr。彼がタピオカを喉に詰まらせて死んだのは間違いなく神の意志だなこれ、と秋奈は確信する。
「これはないわー……」
とりあえず、みたいな渋々とした抜刀。
「ボク達が見た限り、この地下に囚われた人達は一種の催眠状態にある。
視覚か、聴覚か。一見このデタラメな空間構成が内部の人間に負荷を掛けて、催眠に陥り易くした上で『原罪の呼び声』によって都合良く堕としてるんだ」
「つまり、あんたをぶっ倒せば解決するわけよ。
戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
舞台装置兼魔術の主動源である事を暴き、ディスコ―Jrに秋奈が距離を詰めていくのをラナーダが魔弾で援護する。
しかしアフロキング神父は壇上から眼下を指して腰を振る。
「フハハハハ油断したな! 実はその辺で踊っている彼等のダンスパワーが私に溢れんばかりの力を注ぎ、実は何かスゲェ耐久力と膂力を実現する事に成功したのダァアッ!!!」
スポットライトの中で魔弾によって弾け飛ぶスーツ。露わになる筋肉。そして足元に広がる白薔薇の紋章。
「……え? なにこれ」
それがマッスルアフロの遺言となった。
白薔薇の紋章がカチリと揺れた瞬間、聖なる光がディスコ―Jrを包み弾き飛ばしたのだ。
「国の一大事だってんのに何やってんだー! あんたら、自分の大切な人どうしてん……邪魔ー!!」
近付いて来る者から順に片っ端から強烈な左ストレートで沈めていく姫喬の足下に舞台上から秋奈に追撃を受けたディスコ―Jrが転がり込んで来た直後、ヤクザキックがアフロをシュートした。
既にボロボロと化しているその姿に、沙雪が思わず追撃しようか戸惑う。
というよりアフロがもう泥になって溶け始めてる。
「ふむ、浄潔の光。エンピレオの薔薇が奴に反応したのか……さて、不道徳には神罰を下すのが流儀だったか?」
姫喬が引きつけた一般ピーポー達を狼の息吹で吹き散らしたダカタールが見下ろして片眉を上げて見せる。
そこへ突如荒々しいミュージックが流れていた会場のスピーカーからノイズが奔る。
「我が名は悪の秘密結社『XXX』が総統! ダークネスクイーンである! 我が名を知る者は聞くが良い!知らぬものも聞け!」
地下空間にいるあらゆる視線が天上のスピーカーに向かう中、DJセットを適当に弄繰り回すダークネスはアンプから割れた音を炸裂させたまま一喝。
一瞬沈黙する地下空間に息を深く吸い込む音がスピーカーから響く。
「フィーバーしたければフィーバーすればよい! だがそのフィーバーは自分からフィーバーするべきであって他者によってフィーバーさせられるのは断じてフィーバーなどではない! フィーバーとは心の内から湧き出るフィーバーを解放する事でフィーバーし、そしてフィーバーに身を任せ全身でフィーバーを表現する事で心身ともにフィーバーするのだ! 悪しきフィーバーより目を覚ませ! そしてフィーバーせよ!!」
怒涛のフィーバーがエコー5倍増しで木霊する。
「「「フィーバー!! フィーバー!! フィーバー!!」」」
新たなフィーバーキングが爆誕。会場の心が一つになった(洗脳が解けたわけではない)事で地下空間に轟く歓喜のフィーバー。
そしてアフロが泥に還った瞬間に鳴り響く洗脳魔術が解除された破砕音。
この後めちゃくちゃフィーバータイムした。
●
可及的速やかに聖ジャスコーン教会を根城にしていた月光人形一派を撃破したイレギュラーズ。
彼等はすぐさま教会を後にすると、周辺地域に広がっていた混乱を収めるべく奔走を始める。
「――あー、聴こえておるかの。
儂らはイレギュラーズじゃ。天義に蔓延る悪と混乱を排除しに来たのじゃ、もう大丈夫じゃぞ――」
教会から調達したダンスキングの椅子に座したまま飛行するクラウジアが町の上空から声を高らかに響かせる。
広域に響くその報せを区画内の民衆は確かに耳に入れた。だが……イレギュラーズの到来に歓喜の声は上がらない。
「ひぃいっ!? き、来たぁ! 悪魔の御使いだぁ!!」
「誰か、だれかたすけてぇ!」
眼下に散見する逃げ惑う民衆。
中にはクラウジアの姿を見て魔種の襲撃と勘違いしている者さえいるように見えた。
「むぅ……狂気の供給を断つだけでは収まらぬか」
どうにも、混乱の元凶が原罪の呼び声だったせいか。後一歩の押しが足りない。
地下空間でのフィーバーとは違い、町に蔓延る混乱の衆はいずれも洗脳の類ではなく恐怖に油を注がれた事で招いた錯乱が主な要因となっているようだ。
言って解らない以上。此処に必要なのは恐らく、希望そのものを示す事。
「聞け人よ! 正義は成された!!
此処に悪は誅滅し、我等が神の正しさがまさに証明されたのだ!! 何が我等を脅かすのか、何が我等を害するものか!
我々は知っている筈だ! 我々が、隣人が! 等しく正しく祈った事を!
何も恐れる事は無い! 何故なら私が此処に居る! 恐怖する事は何もない!」
クラウジアの声が響いた後に続いた、ダカタールの大仰な演説が人々の背中を叩く。
その物言い。言葉はハッキリとした意味を示し、民衆を振り向かせる。
中には先の錯乱した者達も含まれている。ゆえに振り向き様にダカタールに向かって詐術師め、等と罵声を浴びせる者も少なくなかった。
そこで彼等の目を釘付けにしたのは。ここ数ヵ月不穏な空気が漂い始めてより信頼を失っていた聖ジャスコーン教会の神父と、聖騎士の紋を背負う白騎士の姿であった。
「皆様……どうか落ち着いて下さい。彼等の言う事は本当です。 私も危ない天義のクスリに手を染めたり、不正義にも妻を5人に増やしてしまいましたが、
彼等ローレットは……イレギュラーズの御方々は私の罪を許した上で悪しき魔種の洗脳から全てを解き放って下さった、奇跡を起こしたのです!」
「私は聖騎士ミラー!! 彼の特異運命座標達に月光人形たる狂気を振り撒く悪鬼に絶対絶命の窮地に陥っていた所を救われた最高の騎士である!!!!
まぢホント凄いから! ……あの、なんだっけ綾女姐さん」
「天義の奇跡、エンピレオの薔薇よ騎士さん」
「そうそれ!! 彼等は伝説の、天義が正義を象徴せし白亜の薔薇を起動し。この動乱を収めるが為に全ての不義を浄化しているのだ!!
これらは……えーと、あれだ。神の祝福とイレギュラーズが我等を御守りして下さるのだ!!!!」
勢いが臨界値を突破した騎士の言葉の裏で、綾女が微笑む。
教会の地下で完全に堕落しきっていた騎士ミラーを見つけ出した綾女は、秋奈に説得(激しい肉体言語)してもらう事で事態収拾に協力させていた。一役買って貰う作戦である。
また、これに加えて。ディスコー神父が協力している理由が、良い方向に向かわせようとしていた。
「あたしは燕黒姫喬! あたしらと一緒に、目の前の混乱と戦おう!」
「怪我人がいるなら手当てするよ! ボク達はローレットから来たんだ、聖都の外では他の仲間達も戦ってくれてるんだ!」
逃げ惑う民衆の中には暴徒に襲われて誰も信じられなくなった者もいる。
彼等に寄り添うように。怯える者に姫喬が手を差し伸べ、忙しなく奔走するラナーダの姿が神父の心を動かした。
「「――大丈夫、あたし(ワタシ)達がいるからね!」」
歯を剥き出しにして不敵に笑い、或いは自身に出来る事を精一杯果たそうとする姿が映る。
(なんと痛快な。『黄泉帰り』の噂が立ち込めてより、この天義であれほどの笑顔を見せる者が他にいただろうか。
……息子が目指していたのは、まやかしなどではない。真に求めていたのはきっと彼女の様な……それに、あれは)
ディスコー神父はイレギュラーズと共に駆けながら涙を流す。
いつしか視線を向ければ混乱の渦は、彼等の登場によってその波紋を掻き乱し、鎮まろうとしていた。
「イレギュラーズ……様?」
「うむ! 我はローレットに身を置く、悪の秘密結社『XXX』が総統! ダークネスクイーンである!」
「信じてくれて何よりじゃ。ささ、怪我をしておるではないか、仲間が手当てをしておるでのう。こちらへ来るのじゃ」
微かに灯る光。僅かに落ち着きを取り戻した民衆はダークネスやクラウジアの胸に秘めた小さな光を、蝋燭の様に火移りする。
「さてと……不安がもとで騒ぐのは判るけれど、今は少しだけ大人しくしてもらえないかしら?」
道標は、決まった。
しかし。点々と紡がれ行く希望の光には、聖都の何処かにいた魔種達の狂気に飲まれた暴徒が近付いて来る。
「いい子にしてれば後で遊んであげるわよ、何の憂いも無く騒げる方がもっと楽しいでしょう? それでも騒ぎ足りないなら……
――付き合ってあげてもいいわ。どこか適当な宿でも取って、続きはベッドでね」
ひらり、ひらりと。綾女が夜蝶の如く撫でる度に暴徒達が地に伏せる。
まだまだこんなものではない。時には武装した者も出て来るだろう。
「……みんなの邪魔は、させない」
粉雪が散る後ろで緋色の刃が揮われ、幾重にも連なる狂気の連鎖を断ち切って行く。
「でーあーふたーでーしーんぐあーろーりのー」
遠く、暗雲が渦巻く聖都の片隅で彼等は走り続ける。
僅か10人程度。駆け回り、奔走した所で町の騒乱を全て解決するには至らないだろう。
だがそう遠くない期。暗雲が消え、彼等が勝利した報せと共に御伽噺のそれが人々の元へ届けられる時まで……彼等が分け与えた光は必ず意味を成すだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
聖ジャスコーン教会周辺の混乱収拾、成功。
当方のスケジュール調整のミスにより全体依頼における足並みを揃えられなかった事、参加者様方に深くお詫び申し上げます。
元々の想定されていた内容が内容だったために、
一見何も考えずに判定されたのでは、と皆様にご心配をおかけする事を想定して少し補足させて頂きます。
騒乱の聖都においてふざけきった神父共が相手だったにも関わらず、早期解決・民衆を安心させたいという一点を視野に入れた皆様のプレイングはとても素敵で素晴らしく、見事でした。
本件の裏(大聖堂)にて起動された奇跡による月光人形弱体化を含めても。皆様の集中的、全力的進行を鑑みて教会地下での戦闘は僅かながらカットされていますが、実際の判定でもかなりボコされていたので地下空間での結果は成功にプラスとなっています。
MVPは舞台裏で密かに舞っていた貴女に。
決戦その他お疲れ様でした。
どうか決戦を終えての一時の休息を。
GMコメント
状況が状況なので非戦闘員の活躍も必要になるでしょう。
OPでの内容は大体そんな感じで皆様に伝わっているものとします。
ちくわブレードです。
以下情報。
●依頼成功条件
聖ジャスコーン教会周辺の混乱を収める
●情報精度B
情報屋に嘘はありませんが、一部不明な情報があります。
●狂気と混乱の渦
聖都に迫る大規模な脅威に対し、民衆の懐く不安は頂点に達しています。
また、聖都各地で動き出した魔種達の『原罪の呼び声』が皆様の担当する地区にも影響しており、
『月光人形がいるのでは』と調査に当たった天義騎士が一名行方不明にもなっている、聖ジャスコーン教会を中心に不穏な環境になっています。
依頼達成を目指すなら、まずはこの周辺地域に少なからず影響を与えていると思しき教会を攻略する事が求められるでしょう。
どう動くかは自由ですがポイントは『混乱の広がりを止める事』です。
『周辺地域』
狂気に侵された市民、混乱に惑う人々など。パニック状態となっている者達を救済するべく奔走します。
癒すも手荒にするも、手段は皆様に一任されています。
大切なのは。皆様イレギュラーズが善良な市民にとって救世主に等しい存在である事です。
『教会』
騎士ミラーが最後に残した(地下までの経緯等OP通り)資料が本物ならば、未だ帰らぬ彼女は地下に囚われているのでしょう。
『原罪の呼び声』とはいっても魔種のそれに比べれば”薄い”事から、月光人形が潜伏していると予測されています。
戦闘、またはある程度のプランを携えて事に当たることが望まれます。
●聖騎士ミラー・ボール
本来は戦場に行かないといけない人。
でも頭は筋肉と正義とお花畑でできてるので、あっさり捕まってどこかの地下でマイクを握らされている様だ。
以上。
雰囲気を柔らかくしていますが、放置するとやばい系のロケーションなので皆様の励みが結果になります。
皆様のご参加をお待ちしております。
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