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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>鬼母騎士

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


「天義を騒がせている一連事件だが、探偵サントノーレとお前たちの調査で魔種ベアトリーチェによる仕業であることがわかった」
 事件の黒幕がわかったというのに、『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025の顔は晴れない。声を沈ませたまま、話を続ける。
「一枚岩が割れた天義首脳部の隙と混乱をついて、無数の死者や雑霊を従えたベアトリーチェの勢力、軍団が、フォン・ルーベルグを制圧せんと動き出すのは確実だ。天義が魔種の支配下に置かれれば、『滅びのアーク』が増加し、混沌世界が崩壊しかねない。かなり厳しい戦いになることがそうされるが、イレギュラーズよ……行ってくれるか?」
 極めで深刻な危機的状況は、天義一国のみならず、更なる切迫感を伴って混沌世界を崩さんとしている。
 いま、月光事件に惑わされた民衆はローレットの活躍により幾らかの希望を抱き、国是である魔種に立ち向かう気持ちを高めているが、全快・平静とは言えない状態だ。応援はあってもあてにはできない。そんな状況下で魔種とその手下を相手に戦場に立っことが、いかに危険であるか解るだろう。
 それでも、天義の人々、いや混沌世界はイレギュラーズの助けを求めている。
 クルールはもう一度、集まった面々に覚悟を問うた。
「ただ行って戦えばいい、というもんじゃないぞ。必ず勝たなくてはならない。……戦って、勝てるか?」
 重々しくうなずく面々を見て、クルールは細く息を吹いた。
「ありがとう」
 ぼそりとつぶやき、肩から力を抜くと、とりあえず座ってくれとイレギュラーズたちに椅子を勧めた。
 ローレットのあちらこちらで飛ばされる情報屋の檄に混じり、ガタガタと椅子が引かれる音が響く。全員が腰を落ち着けたところで、おもむろに切り出した。
「天義中枢には魔種に与する、或いは魔種を利用して我欲を叶えんとする強い勢力が存在している。フォン・ルーベルグ内部には大教会に籠城するアストリア枢機卿の戦力がネメシス王宮を牽制する動きを見せているし、城壁外からは王宮執政官エルベルト側と思われる戦力が彼女を救援する構えを見せている。獅子身中の虫が非常に邪魔だ」
 とはいえイレギュラーズの強烈過ぎる活躍により、アストリアの私兵『天義聖銃士(セイクリッド・マスケティア)』は半壊状態。彼女が、拠点である『サン・サヴァラン大聖堂』にて籠城を余儀なくされているのはその辺りに起因する。
「ベアトリーチェは月光人形で滅茶苦茶にした聖都を陥落させる心算だ。その上、魔種アストリアと悪徳政治家エルベルトがこれ幸いと自分達が法王や宰相になる為に動き出している。お前たちには是非ともこの事態を打破して欲しい」
 具体的に何をするのか、と問う声がテーブルの対面から上がる。
「クリミナル・オファーに応じて魔種化した女聖騎士とその配下の者を倒してくれ」
 女聖騎士には幼い一人娘がいた。いま、天義を揺るがしている一連の事件が起こる三年前に胸を患い、二年半後……つまり事件の起こる半年前に死亡した。
 夫は娘を出産した直後、異端者討伐に赴いた先で赴き、戦死している。女手一つで大事に育てて来た娘を、原因不明の病で失った女聖騎士の悲しみは深かく世の中に絶望する。
 半年後。娘は女聖騎士の元に帰ってきた。月光人形となって。
「その娘は依頼を受けたローレットが討ち取っている。その時、女聖騎士――エリザベート・シフォントは、所属している団の長から呼び出しを受けて屋敷にいなかった」
 エリザベートは有能かつ優秀な聖騎士だった。死んだ娘を匿っていたのは、悲しみによって引き起こされた一時的な錯乱ゆえこと。頭では教えに背く黄泉がえりを認めていないはずだ。よって、月光人形さえ討ち取ってしまえば、正気に戻るはず……。
「団のお偉いさんたちはそう考えたらしい」
 だが、エリザベートは娘の二度目の死を知るや否や、姿を消してしまった。
「で、いま、狂気を纏って再登場だ。黒と灰色の骸の騎士を従え、白銀の鎧を赤く染めて天義を滅ぼさんと剣を振るっている」
 輝く金髪は色を失って白くなり、美しかった顔は肉が削げ落ちまるで髑髏のよう。頭には天の神を突かんばかりに長く伸びた角が生えているという。
「エリザベート率いるベアトリーチェ麾下部隊の数は31騎、フォン・ルーベルグ目指して進撃すると予想される。お前たちは天義騎士団と力を合わせ、祈りの門前の街道でこれらを撃破。市内への侵攻を食い止めてもらう」
 祈りの門から市街の外へ出る大通りは、幅が24メートル。大通りの両サイドは緑地になっており、ここで大規模な戦闘が始まっても市民に被害が出ることはない。だが、祈りの門の内に一歩でも入り込めば、そこはもう天義市民の家々が立ち並ぶ下町だ。
「天義騎士団から騎士15名と軍馬15体が応援としてでる。お前たちと合わせても、敵の数の方が多い。お前たちが倒れれば、市民に被害が及ぶ。心して戦ってくれ」
 事態は戦争であり、内乱じみた状態だ。本当の本当に、この戦いに敗れれば世界が危ない。
「頼んだぜ、イレギュラーズ」


「娘は、マリーは、二度も『神』と『神を信ずる者たち』に殺された! それなのに……それなのに……やつらは私に信仰を強いたのだ! 存在しないものに縋れと! ありも犯しもしない罪を認め、神に許しを乞えと!」
 祈りの門を打つ声の主は、髑髏に皮を被せたような顔をした、目が異様に大きな女だった。こめかみから天へ捻じれながら伸びる赤黒い角が2本――。
 門の上で誰かがおののきながら呟く。あれは鬼だ、鬼に違いない、と。
「娘を殺したものたちを私は許さない! ひとり残らずこの手で引き裂いてやる。いけ、いって殺せ! この国のすべてを破壊し、我が娘の魂に捧げよ!」
 血まみれの長剣が突き上げられた。
 エリザベートの檄に応え、骸の騎士たちが咢を開いて黒いイナゴのような息をあたりにまき散らす。死した馬が馬蹄を地面にめり込ませ、祈りの門めがけて駆けだした。

GMコメント

純戦、ハードです。宜しければご参加ください。

●依頼内容
 ・エリザベート率いるベアトリーチェ麾下部隊31騎の殲滅。

●魔種、エリザベート・シフォント
 元は天義聖騎士団の聖騎士、ロイヤルナイトでした。
 月光人形となってよみがえった娘が討たれ、逃亡。魔種となって戻って来たようです。
 人であった時は、一時の母とは思えぬほどの若さと美貌を持ったひとでしたが、魔種化して鬼のような人相に変わり果てています。
 魔物・青ざめた馬に騎乗しています。

●骸の騎士と死した馬……30騎
 戦で命を落とした騎士の成れの果て。すべてダークナイトです。
 剣とロングボウで武装しています。
 魔物、死した馬に騎乗しています。

●敵、隊列
 三角陣形で門に向かってきます。
 前に6騎、中に10騎、後に14騎とエリザベートとなっています。

●NP・天義騎士と軍馬……15騎
 全員クロスイージスです。持っている武器はメイスと斧が半々。
 ローレットメンバーの指示に従います。

●その他。
 戦場となる祈りの門前は、幅が24メートル。大通りの両サイドは緑地になっており、ここで大規模な戦闘が始まっても門を突破されない限り、市民に被害が出ることはありません。
 また、戦いに必要な明かりは十分あるものとして考えてください。
 リプレイは、市内から門を出るところから始まります。
 ちなみに祈りの門は、高さ15メートル、幅16メートルです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <冥刻のエクリプス>鬼母騎士完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年07月08日 22時51分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す

リプレイ


 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は白く輝く巨大な門を見上げた。
「ここが最終防衛ラインになるワケっスか……」
 すでに門前には、天義の聖騎士たちが緊張した面持ちで騎乗のまま整列し、開門を待っていた。整然として微動だにしない騎馬は、それだけで他を圧する迫力がある。
「けど、敵の方が数で勝っているっスからね。オレたちも気合いを入れて臨まないと、っス」
 堕落者エリザベート率いるベアトリーチェ麾下部隊たちは、聖都の南五百メートルにまで迫ってきている。戦いは間もなくだ。
 『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が、怒ったように呟いた。
「こんな時に個人的な気晴らしはやめて欲しいですね」
 実際、怒っていた。叫びに耳を貸し、魔種と化して人々を襲う……エリザベートにはエリザベートの言い分があるのだろうが、それがどんな理由があれ許されるものではない。
 馬上の『見敵必殺』美咲・マクスウェル(p3p005192)もヘイゼルと同じ考えだ。
「お悔みは申し上げるけど、『よそ様の子を殺していい理由』にはならないね」
 鞍から、あるいは手綱から、乗り手の緊張を感じとったのか、軍馬が落ち着きを無くして低くいなないた。魔人の指輪をつけた手で、馬の首を優しく叩いてなだめる。
 『Jaeger Maid』シルヴィア・テスタメント(p3p000058)はHMKLB-PM――ハイパーメカニカル子ロリババアの片腹を足で打って、大聖堂へメカ驢馬の首を回した。
「憂いの都、永遠の痛み、滅びる民ってか?」
 聖都の中央北端に天義の心臓とも呼ぶべき大聖堂があった。祈りの門から大聖堂までは広い行列道路が敷かれ、遮るものがない。葵が言ったように、この門を抜けられてしまえば、大聖堂に籠る敵と合流されてしまう。
「はっ、まさに地獄みたいな展開になってきたじゃないか。一切の希望を捨てよ、って感じで」
「そんなことにはならないよ。ここは通さない……それに、大聖堂前にもローレットの仲間たちがいる」
 だから大丈夫、と『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は強い光を宿した目を細めた。
「……とはいえ、念のためだ。ソラスを飛ばせておくよ」
 ルーキスは呼び出したカラスを空へ放った。視覚を共有し、空から戦場を見下ろす。すでに戦いは始まっており、あちらこちらで上がる煙が見えた。
 開門の声と同時に鉄のかんぬきが抜かれた。分厚い銅の扉がゆっくりと、きしみをあげながら内へ開いていく。
「この国を守りたい。この国に住む人々の苦しみや悲しみを、一つでも減らしてあげたい」
 『銀の腕』一条 佐里(p3p007118)がソア(p3p007025)の横で祈りに似たつぶやきを放った直後、イレギュラーズたちの前に並んだ軍馬が一斉に駆けだした。
 蹄が地を踏みしだき、土くれが舞い上がった。
「……辛いな。でも、だからといって街を襲うのを見過ごせるはずもない。ここで終わらせてやるぞ」
 ソアは母子の悲劇に胸を痛めながら、聖騎士が駆る軍馬の尻に飛び乗った。天義騎士に混じって最前線で戦い、エリザベートが背負ってしまった業を降ろしてやるのだ。
「ここから先は通せない。私と同じ目に合う人なんて、いなくていい!」
 佐里も走り出す。
「おう! 守り抜こうぜ」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は軍馬の太腹を蹴った。
 門前で、罠を張るため止まった佐里を追い越す。
「すぐに追いつきますから!」
 蹄の音が宙で鳴って聞こえるほど、一悟を乗せた軍馬が早く、早く駆けていく。後姿はあっという間に、土煙のむこうに消えた。


 異臭が漂う大路で、敵の最前列と味方の最前列が音を響かせて激突する。衝撃で人馬が宙に舞った。腕や脚が引きちぎれて飛んでいく。
 鮮血を飛ばしたのは味方の聖騎士たちだった。骸の騎士も何体かは腕や足を落としているが、もとが腐敗した皮膚を骨格に申し訳程度に貼りつけた、朽ちかけた骸だったことを考えれば、味方が受けたダメージの方が大きいといえよう。
「ひるむな。前へー、前へー!」
 それでも聖騎士たちは馬を引かず、その場で踏ん張った。アンデットが振るった剣によって視力を奪われた者も、隊列に穴を空けぬために必死に踏みとどまっている。
 阻まれてなお突撃の勢いを緩めない敵勢を苦々しく思いながら、イレギュラーズの前列隊は左右に分かれ、道横の緑地に回り込んだ。
 剣やメイス、甲冑の金属音、人馬の肉が潰れる音、苦痛に満ちた悲鳴、怒号と罵声、あらゆる戦場の音が集まる中を、青い風が駆け抜ける。
 葵は大声で叫んで、味方の士気を鼓舞した。
「っしゃ、ここが抜かれちまったら天義が滅茶苦茶になるの待ったなしだ! 気合入れていくっスよ!」
 マークしてきた骸の騎馬を、突然のスピードアップで置き去りにする。葵は死した馬と馬の間の狭いアングルから、右足でシュートを打った。
 銀のサッカーボールが足のすぐ先で割れ、青いコウモリの大群となって飛んでいく。敵が密集しているところに襲い掛かり、凍夜の羽ばたきで凍らせた。
 前で聖騎士たちとみ合っていた敵の動きが鈍る。
 その機を捉え、ヘイゼルは左側から低空で戦場に突入した。
 混乱のさなか、死した馬の脚を避け、振り下ろされた剣の下をかいくぐって声を張る。
「ローレットのヘイゼル・ゴルトブーツです。申し訳ありませんが今聖都は取り込み中ですので、早々にお引き取り願います」
 ローレットという単語が気を引いたのか、それとも傲岸な態度が癪に障ったのか。アンデットの騎馬が数騎、身をひるがえし、緑地へ戻るヘイゼルを追いかける。
 敵の前列が総崩れになり、ロングボウを構えた中列が空白を埋めるべく前進を開始した。
 戦場の右側面に展開していた美咲には、兵の流れが容易に見てとれた。テレパスで遠方の味方へ指示を送ると同時に、声にだして叫ぶ。
「矢、来るよ。即応よろしく!」
 直後、聖騎士たち最前列は正確で間断ない矢の嵐に曝されたが、美咲の指示が的確だったおかげで矢の大部分を盾で受けとめた。
 わずかに逸れた矢が地に突き刺さり、軍馬が前脚を僅かに浮かせる。
 第二波が撃ち込まれる前に、とシルヴィアは聖騎士たちの後ろから敵中列隊に向けて弓を引いた。
「アタシは一人で矢の雨を降らせることができるんだ。絶対に撃ち逃がさない」
 一瞬、雨雲に覆われたかのように、空の一部が黒く塗りつぶされた。文字通り、矢の雨がアンデットの弓兵たちを襲う。魔的な勘を持っていたとしても、逃れることはできないだろう。事実、次々と落馬していく。
 前線では聖騎士たちが数を半分に減らしながら、長剣を振り回す骸の騎士を次々と潰していた。が、騎手を失って尚、暴れる死馬に苦戦を強いられている。
「骸になってまで聖都に仇しようとする信念がなんなのか、私にはよく分らないが……」
 純白のローブを纏ったルーキスの指が、空に紅くルーンを描く。
 ロングボウを構える骸の騎士の胸に、赤い薔薇が咲いた。その身を動かす妖気を容赦なく吸い上げ、どんどん花弁を黒くする。
 花が散ると同時に骸の騎士も枯れて、しゃれこうべを首から落とした。
「さあ派手にいこう!」
 ルーキスが腕を掲げると、雷鳴がとどろいた。
 闇雲に放たれた矢を、雷蛇が周りの骸もろとも飲み込む。
 首なしを乗せた死馬が暴走し、祈りの門へ向かった。味方の撤退に備え、門扉は締められていない。
 左側の緑地で雷を帯びた寅の爪を鋭く振り続けていたソアが、暴走する死馬に気づいた。
「死角から飛びついて馬の上から蹴り落してやるぞ」
 走ってきた屍馬に横から全力で駆け寄ると、死角から首なしに飛びつく。そのまま反対側へ、骸の騎士を抱きかかえたまま落ちた。
「さあ、お前もおやすみだ。もう起きてきちゃダメだぞ」
 先に立ちあがり、がむしゃら腕を振り回す首なしの胸を踏み砕く。
「――て、なんで止まらないんだ?!」
 死した馬は騎手を失って尚、止まらなかった。
 他の死した馬たちもつられて、一緒に門の中に小さく見える純白の大聖堂へ突き進んでいく。
 門はもうすぐそこだ。
「門を閉めろっ」
 一悟が自走式爆弾を地に放ちながら怒鳴った。
 走ってきた死馬の一頭の前に立ちはだかり、分厚い胸に拳を叩き込んで爆破する。横を通り過ぎる死馬の首にロープを投げかけて引き倒そうとしたが、かからなかった。
「早く閉めるんだ!」
 じれったくなるほどゆっくりと、門が内から外へ閉じられていく。とても間に合いそうにない。
 抜けられる、と誰もが思った瞬間、死した馬たちが前足を折ってつんのめり、なだれを打って倒れた。
 佐里が門前に作った罠に引っ掛かったのだ。
 ロープを張っただけの単純なものだったが、効果はてきめんだった。倒れた死馬が体をくねらせ、緩慢な、狂乱の舞いを路上で披露する。濃密な腐敗臭が門戦に広がった。
「門はくぐらせません!」
 佐里が右側の緑地から、いち早く立ちあがりかけた死馬の頭を光の柱で押し潰した。
 美咲は取った骸の騎士の腕を捻って体勢を崩させると、素早く離れ、馬体を北へ反転させた。背後には構わず、底冷えするような目を門前へ向けてルーン文字を綴る。
「もう、余計な手間かけさせないでよね」
 にわかに湧きでた雲からたたきっけるように、大粒の雹が門前に転がる死馬たちに降り注いだ。
 美咲の背に骸の騎士の鈍く光る剣が振り下される。
 ヘイゼルの疾風の指輪が瞬間的に光を帯び、握られていた短剣が長剣の刃を受け止めた。そのまま飛んで肩からぶつかり、馬の背からつき落とす。
「もらった!」
 ソアは振り向きざまに右の蹴りを放った。超人的な後ろ回し蹴りだ。一発の蹴りで、頭から落ちる骸の騎士の背骨を砕き、吹き飛ばす。
 間髪を入れず葵がシュート体勢に入る。馬を失った骸の騎士数体がディフェンスに入るが間に合わず、葵が放ったボールは流星のごとく締麗な弧を描いて死した馬に叩き込まれた。


「相手はまだ後列がマルっと残っているっス。このまま一体一体、相手をしていたらキリがないっスよ」
「ンなこと、わかっているぜ! でもな――」
 一悟は足が潰れて動けなくなっている聖騎士に駆け寄よった。骸の騎士が振り下す刃の下を横に交わし、馬上から皮と肉が落ちてむき出しになった頭蓋骨にトンファーを叩き込む。
 吹きだした炎が頭から腐臭を放つ体を包み、焼いた。
 死した馬はぶつかる、噛む、蹴るぐらいの事しかできないが、それでも魔物である。落馬した骸の騎士もトドメを刺されるまで、手足はおろか首がもげようとも戦うことをやめない。
 盾となって防衛ラインを構築していた聖騎士たちも、いまや三分の一になっていた。残っている者たちも怪我を負い、満足に戦えない状態だ。
「ここはオレたちに任せろ。一度うしろに下がって立て直せ」
 額から血を流す禿頭の聖騎士が、足の潰れた聖騎士に肩を貸して退却する。
 黒い風が吹いた。
 禍々しく、ねじまがった、どこか暗い場所から押し寄せてきたように不吉な風が、濁りを宿した禍々しい声をのせて戦場に吹き渡った。
「戻ってどうする? また、使い捨ての駒にされるのが落ちだぞ。私の元へ来い。誰からも不条理を強いられることのない自由を約束しよう」
 エリザベートの言葉が聖騎士たちの心を侵食し、カビさせていく。
 ふらり、と南へ足を踏み出した聖騎士の頬を、ルーキスが張った。
「躊躇うな! キミ達も天義の騎士なら使命を果たせ!」
 白銀の角を持つ美しき幻獣馬を駆って、黒い風を断ち切る。
 ヘイゼルも檄を飛ばす。
「死んだ子の年を数える様な後ろ向きな欲など、聴くものでは無いのです。守った後もやる事は山積みなのですから、前と先を見ませんと」
 寸前で我を取り戻した聖騎士たちが退却を始めた。
「ふん、まあいいわ……どうせすぐに落ちるのだし」
 エリザベートの号令とともに、十四騎の麾下部隊が雄叫びを上げながら突撃してきた。ただ突っ込んできているだけでない、行く手に落ちている屍を血が染み込んだ土とともに巻きあげてアンデットの壁を築きながら来る。
「死骸盾を連ねやがったか。マジ、面倒くせえな」
 シルヴィアは小さく舌うちをくれると、HMKLB-PMを走らせた。蠢き動く骸の壁に向けて自走式爆弾を放つ。
 けむりとともに爆発が起こり、腐った肉や骨が飛び散った。
 佐里が崩し損ねた壁に光の柱をあてて潰していく。しかし――。
「潰しても、潰しても、また……」
「ふうやれやれ、死体は疲れ知らずで羨ましいな」
 ルーキスが毒づく。
 アンデットの壁は消滅するどころか、近づくにつれ高さを増した。一斉に放つ攻撃も、壁に遮られてその後ろにいるエリザベートと騎馬に届かない。
「で、でも、こんなところで負けられません」
 佐里は歯を食いしばると、しっかりと目を開けて迫りくるアンデットの壁を睨んだ。耐えてみせる、と気負ったが、膝がしらが細かく震えだす。
 骸の騎士たちは壁をぶつけた後、すぐさま切りかかってくだろう。しかも、魔種が無傷で控えている。状況は絶望的だ。
 そこへ冷たく乾ききった笑い声が響いた。
「似非神に命を捧げる愚か者どもよ、無様に散るがよいわ!」
 壁が赤黒い光の飛沫と轟音をあげて崩れ、イレギュラーズたちを飲み込み――。

 光あれ。
 
 アンデットの壁とイレギュラーズたちの間、翳りを帯びた大地に光る薔薇の蕾が忽然と現れた。大きい。アンデットの壁を遥かに超えて、高さは数十メートルに達している。
「これは、もしかして――」
 ヘイゼルは振り返ると、細く開かれた祈りの門の奥を見た。
「『エンピレオの薔薇』でしょうか!?」
 まさしく、エンピレオの薔薇だった。いまはまだ知る由もないが、サン・サヴァラン大聖堂を攻略していた仲間たちが、伝説級アーティファクトを奪取、起動したのだ。
 太陽から薄く削り出されたような、純白の光を放つ花弁がゆっくりと解けていく。花弁に触れたところから、アンデッドの壁が塩に変わり崩れた。
 完全に開き切った光の薔薇は壁の後ろにいた骸の騎士にもおよんだ。魔力を奪い、乗っていた死馬を浄化して塩の塊に変えた。
「お、おのれ!」
 エリザベートは怒りに震える腕を降ろし、木偶同然となった骸の騎士に突撃を命じた。
 葵が血に飢えた赤い蝙蝠――エネルギー弾を解き放つ。
「悪く思うな、こっちは天義の人間の命を背負ってんスよ!」
 爆発は横に広がり、それぞれが重なって骸の騎士の半数を吹き飛ばした。
「遠慮なく行かせてもらうよ」
 妖刀が発する青白い妖気をたなびかせつつ、シルヴィアがHMKLB-PMを走らせる。爆音を轟かせ、すれ違いざまに骸の騎士を三体切り捨てた。
 ソアが虎の爪を大振りして、塩と化した死せる馬を右から左へ連続してぶち壊していく。
「これですっきりした。あとはもうお前たちだけだぞ!」
 美咲は扱い慣れぬ軍馬から降りた。傷だらけになった軍馬を逃がしてやると、愛くるしい乳飲み人形を取りだしてエリザベートに見せつけた。
「貴女、あと何回『母の愛した娘』を殺せば満足?」
「なに?」
「もう止めなさいって言ってるのよ」
 指先から稲妻を迸らせて敵を貫く。
 佐里は、なおも剣を振り回す骸の騎士に光の柱を落とした。
「私たちはあなたと同じ痛みを、他の誰にも知ってもらいたくないんです」
 聞く耳持たず。エリザベートは血走らせた目から憎悪の炎を吹きだし、突撃した。ブロックに入ったヘイゼルとソアの体を、馬上から繰り出した剣で切り裂く。
「言って分からないなら体に教えるしかないな」
 ルーキスは幽艶なるイグニスの引き金を引いた。銃口が幽界の花かとおもわれる青白い燐光を放ち、一条の稲妻が飛び出した。
 稲妻は空を裂くようにジグザグに飛び、エリザベートと魔種につき従っていた三体の骸の騎士もろとも感電させた。
「目を覚ませ! いまのママの姿を子供が見たら絶対悲しむぜ!」
「黙れ! お前に何が解るというのだ!」
 エリザベートが青ざめた馬の腹を蹴る。
「頼むぜ、相棒!」
 一悟は叫んで、軍馬の腹を蹴り、手綱で鞭をくれた。魔種と魔物を目指して突き進む。
 馬と馬の胸が激しくぶつかった。
 押し負けた一悟の馬がもんどりうって倒れる。落馬の刹那、一悟は青ざめた馬の首に手を振れて吹き飛ばした。
 首から青い血を吹きあげる馬体ごと、エリザベートが一悟の上に倒れる。
 ヘイゼルが急いで飛んで一悟の腕を取り、押しつぶされる直前に引き離した。
 ゆらり、立ちあがったエリザベートが剣を構えた。
「もう止めろよ……」
 ソアが拳を握る。きっと独りぼっちになっても戦うことを止めたりしないだろう。そう予想はしていが、実際に目にする姿はあまりにも痛々しい。
 終わらせる。ソアは太い虎の尾を振り、全力でエリザベートを回し蹴った。
 よろめき、体を折った鬼母に、佐里の涙ぐむ声が降り注ぐ。
「ボロボロになった心に、呼び声が付け込んだ。あなたは被害者です、何も悪くない。けれど――」
 顔を上げたエリザベートの前に、ヘイゼルが降り立った。すっと腕を伸ばして魔種の胸に触れる。
「娘と月光人形の同一視は、貴女にとっても裏切りですよ」
 ふたりの間に結ばれた赤い魔力糸が震える。
 崩れる鬼母の体とともに、さよならの言葉も風に飛ばされていった。

成否

成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
ソア(p3p007025)[重傷]
愛しき雷陣

あとがき

激戦を耐え抜き、魔種を討ちました。
それぞれエリザベートにかける言葉がおありでしょうが……聖都をめぐる戦いはまだ終わっていません。
エリザベートが残した剣に乳飲み人形を添えて、さあ、次の戦場へ。

みなさんが無事、ローレットに戻ってくることを願っております。

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