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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>彷徨う騎士団に慈悲の手を
<冥刻のエクリプス>彷徨う騎士団に慈悲の手を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天義の街角で神を乞う
「クリミナル・オファーの被害者を発見! 確保します!」
「行け行け行け、皆々、神の御加護を信じよ!」
 老婆を血まみれになるまで殴りつけていた男が聖騎士団に取り押さえられる。男は人とは思えぬ力強さで騎士団の手を振り払う。騎士たちは必死の思いで老婆から男を引き離し、路面に叩きつける。二度、三度、常人ならば重症を負うだろう力で叩きつけられ、男はやっとおとなしくなった。なおも唸り続ける男を前に、騎士たちを率いる団長はすみやかに捕縛の許可を出し、男を鋼鉄の鎖で縛につける。だが、男の近くに居た騎士がびくんと大きく震えた。
「ひ、ぐ、ああああああ!」
「クリミナル・オファー拡大! 拡大!」
「攻撃せよ! 死しても構わん!」
「了解! りょうか、い、いいいいいい゛いいいいいいい!」
 びくん! びくん!
 なんたることだろうか。市民たちを守るべき騎士の合間をおぞましき気配がすり抜けていく。それは最後に騎士団長の胸に飛び込み、彼をくの字に折り曲げた。
「か、かみよ、みなを、まもりたま、たま、たま、ま、おげえええええええええ!」
 騎士団長が嘔吐した。彼を待つ妻の作ったシチューが胃の腑から吐き出され、路面を汚した。すさまじい腐敗臭が彼の口から臭う。
「かかか、かみ、かみ、かみよよよ、かみかみかみかかっかかか」
「かみの、なのもと、に、にぃぃにぃにぃ」
 ぞろりと騎士団が立ち上がる。そして思い思いに刃を振り上げ、本来彼らが守るべき市民を追い始めた。
「かみ、のもとへ、ええ、ええっ、ええええ。か、かみが、のぞまれ。るうううぃぅぅうぅ」
 団長が両手剣を家屋へ叩きつけた。轟音と共に一階部分が崩れ、二階に避難していた家族が家具の下敷きになって悲鳴をあげる。
 白目を剥き、口元を笑みの形に引きつらせながら、騎士団は民衆を追いかけ回す。

●ローレットにて
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は依頼書を手に柳眉を寄せた。
「天義のある騎士団がクリミナル・オファーに侵され、民衆を害している。君達は速やかに騎士団を無力化して民衆を救ってくれ。最悪、騎士団が全滅してもいい」
 そうはいうものも、騎士団も魔種の被害者だ。できれば生かしてこの騒動を乗り越えてほしいというのが正直なところだろう。
「騎士団は団長を含めて15名。近くの民衆を片っ端から傷つけて回っている。今の所、重傷者は出ていても死亡者は出ていない。すぐに現場へ向かって適切な処置をすれば死亡者をゼロにすることができるだろう」
 そう言いながらショウは地図を広げた。天義らしい四角四面の地図だ。正方形に整備された地区とその間をまっすぐに交差するストリート。建物の影に隠れていれば死界から騎士団を狙い撃ちすることだって可能だろう。
「騎士団の状態は問わない。とにかく民衆の被害を最低限に食い止めてくれ」
 ショウは祈るようにあなたを見つめた。

GMコメント


みどりです。こんばんは。天義って怖いところですね。

>民衆
今回、一番の被害者。
騎士団を恐れて家に引きこもっていますが、騎士団長の膂力によって次々と引きずり出され、重症を負って街角へ放り出されています。
戦場(騎士団長から100m)外へ連れ出さない限り、騎士団の驚異を逃れることはできないでしょう。

>騎士団員 14名
クリミナル・オファーの被害を止めに来ましたが、返り討ちにあってしまいました。
速やかに無力化してください。
ステータスは凡庸ですが、集団で一人に襲いかかる特性を持っています。
 ダッシュ斬り 物理 R2 単体【移】【足止】
 唐竹割り 物理 至近 単体【恍惚】

>騎士団長 1名 反応、神秘攻撃力およびクリティカルが高く、やっかいな相手です。動きを止めるには、二人以上のマークあるいは一人以上のブロックが必要です。
 ハラワタ突き 物理 R3 単体【移】【防無】
 神意光明 神秘 扇 R1 【飛】【連】【HP吸収50】

  • <冥刻のエクリプス>彷徨う騎士団に慈悲の手を完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月08日 22時51分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
死力の聖剣
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マルク・シリング(p3p001309)
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
暗躍する義賊さん
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
慈愛の紫
София・Ф・Юрьева(p3p006503)
おっとりお嬢様ソフィーヤ
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
戦神
ひつぎ(p3p007249)
ラブアンドピース

リプレイ

●彷徨う魂はどこへ行くのだろう
 両手剣が高く振り上げられた。地に伏した男は観念して目を閉じた。
「やめろおおおおおおおおおおおおお!」
 裂帛の気合が宙を裂いた。同時に銀色の燐光をまとった騎士が男と騎士団長の合間に滑り込み、振り下ろされた剣を、銀の剣で弾いた。それは『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の心からの叫びだった。騎士団長が目を光らせる。一合、二合、何度も剣と剣がぶつかりあい、火花が飛び散る。
(なんという重い一撃だ、さすがは騎士団長といったところか!)
 リゲルが騎士団長のパワーに押され、半歩退いた。だがそれゆえに、騎士団長の剣先がぶれ、リゲルは両手剣による斬撃を受け流すことができた。わずかな、戦場においては生死を分ける、余裕がリゲルに生まれる。
「はあああ!」
 全力で銀の剣と不知火を真一文字に振り抜く。その軌跡が衝撃波となって騎士団長を吹き飛ばした。しかし敵もさるもの、空中で一回転し、即座に体勢を整えて反撃に転じようとする。だがリゲルのほうが速かった。騎士団長を壁へ押さえつけるようにブロック。その動きを封じてみせた。
「ぐがあああ!」
 邪魔な相手をどうにかせんと騎士団長が両手剣を振り回す。剣はリゲルの鎧に跳ね返されるも、衝撃は身体へしみとおる。苦痛を耐え忍びながら、リゲルは騎士団長へ声をかけ続ける。彼の中に残った一欠片の矜持を信じて。
「騎士団長! 名を名乗れ! 貴方の大切な者は誰だ! 護りたい者は誰だ! 気を確り保て! 俺達はローレットだ! 貴方達を! 救いに来た!」
 地面に転がっていた男は嗚呼と息をこぼした。神は慈悲をたれ給うた。勇者がきた。我等を助けに。安心と安堵が胸へ広がり、男は意識を失った。一方で。
「団長はまかせたー。団員はまかせろー。なーに不殺で戦うのはちょっと苦手だから覚悟しろ!」
 『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が四ツ辻へ躍り出る。騎士団員たちは団長を中心に不格好な円を描くように布陣して……いや、そんな大層なものではない。それぞれがそれぞれに獲物を探してうろついた結果だ。間近に見える騎士団員は七人。囲まれたら防御面でやや不安の残る秋奈には危険かもしれない。だが血まみれのまま地に伏している民たちをちらりと眺め、秋奈はかすかに眉を寄せた。酸鼻な異臭が鼻を突く。ここは既に地獄の釜の底。広がっていく血潮の海が命の残り火の儚さを知らせている。もはや一刻の猶予もない。秋奈はがりがりと頭をかいた。
(探偵のお仕事から戻ったら、なーんでこんなことになってるのかしらね……。まあいいわ、体を温める位にはなると思うし!)
 秋奈は両の刀をスラリと抜いた。戦神制式装備第九四号緋月および戦神特式装備第弐四参号緋憑。秋奈の狂神としての力を十全に導き発揮する呪われし姉妹刀。ぬらりと映える刃紋の輝きはレプリカとは思えない迫力。両の刀を勢いよく下段に構えると、あるかなきかの風にゆられていた赤いマフラーが尻尾のように跳ねた。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 堂々と上げる名乗り口上、かかった。七人全員へ。
 ぐりりと首をまわした彼らは、よだれを垂らしながら秋奈へ殺到する。さながら生肉を前にした猛犬のごとく。
「わっ、とっと、あだっ! あだだだ! さすがいちおー騎士団員!」
 前後、左右、背後、正面、あらゆる方向から放たれる攻撃が秋奈の体へ赤い筋を付ける。剣の先が肉をえぐり、勢いで飛んだ飛沫が秋奈の頬を汚した。生ぬるい感触。溶け落ちていく理性。
「ザッケンナコラー! スッゾコラー!」
 異界の呪文を唱えて気合を入れ直すと、秋奈は作戦通りストリートの中央へ駆け出した。もうひとつ、反対側の四つ辻目指して。そこにはひそやかに立つ男とも女とも知れない”ソレ”が居た。
 じわじわと自分を囲んで迫り来る騎士団員どもに、『闇之雲』武器商人(p3p001107)は顎をつまみ、小首をかしげてみせた。
「おや、まァ。人間を生きたままゾンビにでもしてるのかね。永遠の淑女のネクロマンシーというよりは、ブードゥーの気配を感じるが……まァ、些事か。ヒヒ」
 独り言を続ける武器商人へ、騎士団員は近づいていく。その動きは民衆を足蹴にしていた時の乱暴で無軌道なそれとは違い、恐れと懐疑が入り混じったまるで理性あるかのような動きだった。否、理性のとんだいまだからこそ、団員たちは肌で感じているのかも知れない。”アレ”を存在させてはいけない、と。
 不自然に長く伸びた影から嗚咽とも悲鳴ともつかない音波が発せられる。それは鼓膜を通り越し、脳内で反響した。
「だぁらああああ!」
 僅かに残っていた思考力を奪われ、破滅への呼び声の直撃を受けた団員が四人、武器商人へ襲いかかる。一分一秒でも早くこの存在を消滅させなければ、そんな義務感にかられて。残った三人が一歩遅れてダッシュから斬りかかる。勢いを乗せた刃が武器商人の体へ深々と突き刺さった。「キャハハ」「キャハッ」幼子の声がする。どこからだろう、ただあまりにこの場へ不釣り合いで、不気味で……。武器商人の体から刃を引き抜くと同時に血があふれる。血? それは血なのだろうか。闇の色を乗せた臙脂がたらたらと武器商人の肢体を彩っている。異国風の装束が黒に近い色に染め上げられたが、武器商人は我関せずといった風に歩き出した。その背を追いかける血に濡れた剣の群れ、武器商人はすこしだけ振り向いて薄い笑みを唇へ乗せた。
「おいでおいで。腕を落としたいのだろう。足を切り取りたいのだろう。はらわたをかきまわしたいのだろう。命を奪いたいのだろう。死体を蹂躙して、優越感に狂いたいのだろう? かまわないよ、できるのならやってごらん。できるのなら、ね」
 ずるりずるりと影を引き連れて、武器商人は秋奈と合流した。
「うひい~、ちょっとあなた、任せちゃって大丈夫なの? 傷だらけじゃない! ホラーよ、ホラー!」
「かまうことはない。これが我(アタシ)のやり方だからね」
 無粋にもその左目へ突き刺された剣を、武器商人は三日月形の笑みを口へ浮かべたまま、顔に似合わぬ膂力で引き抜いてみせる。常人ならば即死だろう一撃も、武器商人にとっては蚊に刺されたほどのことでしかないのだと、秋奈は悟った。
「お、オッケー。ほんとに不死なのねあなた。こうして間近で見るまでは信じられなかったけど。ふふ、いつかあなたの首を落としてみたいものだわ」
 両眼に獰猛な光を宿らせ、秋奈は武器商人とすり抜けるように交差した。同時に武器商人が手を広げる。
「さァ、さァ。こちらにおいで可愛いコたち。いくらでも遊んであげるとも。死なないことが如何に暴力であるか、よくよく学ぶといい。ヒヒヒヒヒ……!」
 破滅の呼び声が騎士団員たちを捕まえた。秋奈を追っていた七人の団員が武器商人へ刃を向ける。
「キャハッ!」「キャハハハハ」「キャハハハッ!」
 血に汚れた剣が武器商人を切り刻めば切り刻むほど、気狂いじみた幼子の声が広がった。武器商人の影がうぞうぞと動き、そこから手足がはみだしてはあわてて影へ隠れる。
 固まって身動きが取れなくなった騎士団員へ向けて、攻撃が飛ぶ。
「これぞまさにミイラ取りがミイラになったというヤツなのです……!」
「これがまさしくミイラ取りがミイラってやつなの、よ?」
「「かぶったー、イエーイ」」
『暗躍する義賊さん』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)と『ピオニー・パープルの魔女』リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)はハイタッチをした。悲劇に対抗できるのは笑顔のみ。戦場においてもそれは変わらない。ふたりはお互いの心の強さを確認し合うと、それぞれの武器をかまえた。
「義賊は弱き民衆の味方です。これ以上原罪の呼び声を拡大させないためにも、騎士団を無力化してみせましょう! ふふんっ、義賊VS騎士団ちょっと燃えてくるのです。……でも、助けられたら騎士団の皆も助けてあげます。あの人たちも悪い人たちではないのです」
「まあ正気に戻っても一般人を殺しました、なんてなってたら可哀想だしね。ここは偉大な魔女かっこ予定かっことじのリーゼロッテが! まるごとどどんと助けてやるのよ!」
 この狂気の宴に負けぬよう、何より民衆が希望を投げ捨てないよう、二人はあえて笑みを浮かべる。
 建物の影へ潜んでいたルルリアが、射線を確保し漆黒魔銃テンペスタを掲げた。その名の通り、彩のある黒でいろどられた銃身がみるみるうちに青く染まっていく。それは銃身へ集まる魔力の反動だ。その銃口が輝くほどに収束し、圧縮された魔力の弾丸が、花火のように騎士団員たちの頭上へ打ち上げられる。花が開き、咲き乱れるように複雑な魔法陣が空中へ描かれる。
「悪しきを滅ぼせ、聖浄の槍!」
 トリガーボイスが魔法陣を発動させる。数多の白碧の槍が空から地上へ降り注ぎ、団員たちを痛めつける。押し殺した悲鳴が上がったが、まだ浅い。そうルルリアは感じ取った。騎士団員たちの体力はまだまだ残っている。
「続けて行くわよ!」
 リーゼロッテが利き手に煌めきの羽ペンを、反対の手に『旧き蛇』の林檎を持ち、神魔の陣を描き出す。宙に描いた一筋の線が踊るように二股、三股に分かれ、蔦のように絡み合って和合と破壊、対象的な力の動線を生み出す。
「女神エウメニデスの名を持って命ず。輝きを持って罪深き者を導け──ホーリーフェザー!」
 白き羽が雪のように降り注ぐ。武器商人すら巻き込んで、圧倒的な魔力が触れたものの肌を焼き、音を立てて蒸発させる。しかしその慈悲の権化たる魔法がけして命を取ることはない。これこそが今回の作戦の要、慈愛神の聖羽だった。
「ふふん、できる魔女は手加減も自由自在ってね! どんどん行くわよー!」
 今の所作戦は順調に進んでいる。騎士団長はリゲルに捕らえられたまま。団員たちは死角にいるルルリアとリーゼロッテを見つけられず、武器商人を攻撃するしかない。あとは聖騎士団の体力を削っていくのみ。
 だが。
(……救護班はうまくやってるのかしら)
 リーゼロッテはちらりと振り向き、心配を踏みけした。彼女の視線の先には隠されるように一台の馬車があった。

●命はまるで赤子のように
 救い手は神の慈悲のみにあらず。その手はあきらかにぬくもりと血潮の息吹を持つイレギュラーズのものなのだ。からっぽの四つ辻にマルク・シリング(p3p001309)が走り込んだ。そこかしこで血の海に沈んでいる人々が見える。
「なんてことだ。まるで災害現場だな……魔種が引き起こした『人災』って意味では、これも立派な災害だけど」
 強大なる魔種はときに桁外れな被害を巻き起こす。いま、強欲を司る原初の大魔種が姿を表したとあっては、ここ天義に厳密な意味で安全地帯はない。だが、目の前の脅威から人々の命を守ることは可能なはずだ。無辜の民にふるわれた暴力への怒りにふるえ、マルクは拳を握り深呼吸をする。怒る気持ちがあるからこそ、冷静に、最大効率で、救助活動を。
 一時避難場所へ馬車と味方を残し、マルクは今回の相棒と拳を打ち合わせる。
「頼りにしてる」
「任せて」
 ひつぎ(p3p007249)はまぶたをとじて人助けセンサーを起動した。脳裏に緑色の描線で町の立体図が描かれていく。その地図の中でぽつんぽつんと光る点を見つけ出し場所を頭に叩き込む。今にも消えそうな光は命の残り火そのものだ。大きく息を吐いてひつぎはまぶたを開いた。
「最短距離を走るよ、ついてきてねマルク」
「了解」
 短く意思を交わし合い、ふたりは地を蹴った。まずは通りに倒れている人々へ声をかけ意識レベルの判断。一通りまわり終わったら、その後は建物の中など救助が困難な人々を。
(誰を優先、とかはあんまり考えたくないけど……。ごめんね)
 天義らしい直線の道はわかりやすい路地裏などない。すべて都市計画に基づき、四角四面に構成されていた。どこへ向かい、どこに助けを呼ぶ人が居るか、順路の計画を立てるにはひつぎの人助けセンサーが欠かせない。
 ひつぎは手近な老人へ飛びつくように近寄った。喉を鳴らして末期の呼吸をしている老人を、ライトヒールの鮮やかな光が癒やす。老人は一命をとりとめ、どうにか顔を上げた。
「おお、勇者様……。神よ、感謝します」
「お祈りにはまだ早いよ。あそこ、馬車があるのが見える?」
 ひつぎが指示す先を老人の瞳が捉える。自分たちを安全地帯へ送ってくれる希望の馬車だと、説明せずとも老人は理解した。
「歩ける? 無茶はダメだよ、表面を取り繕ったに過ぎないからね」
「いいえ、大丈夫です。ぐふっ、ゲホッゲホッ。大丈夫です。わしは五〇年もの間、一日も欠かさず礼拝へ行ったのです。きっと神がお守りくださる」
「ほんとに無理はしないでね、動けなくなったら壁沿いにしゃがんで。少し時間はかかるかもしれないけれど、必ず助けに行くから」
 老人はしわだらけの顔に笑みを浮かべ、ゆっくりと足を引きずり出した。
 後ろ髪を引かれながらもひつぎは次の負傷者へ向けて走り出す。
 マルクは壁際で一塊になっている一家を見つけ出し、両親とふたりの幼い子どもの一家だった。二人の子どもは無傷だったが、怯えて歩けない様子だった。父親は妻と子どもをかばい、内臓がこぼれるほど背中を切り裂かれている。マルクは躊躇せず天使の歌を歌った。涼やかなテノールが一家の傷を癒やしていく。
「助けに来たよ。もう大丈夫だ」
「いや、いやああ、いやっ! パパ! ママァー!」
 恐慌に駆られた子どもたちがマルクの手から少しでも逃れようとあとずさる。もはやその背後には壁しかないのだが。
「……勇者、さまよ。たすかったの、よ。わたし、たち、は」
 浅い呼吸をくりかえし、母親が慈愛の笑みを浮かべる。少しばかり照れくさかったが、マルクはここは大見得を切るところだと考えて、緑のローブをふわさと広げた。
「君達を助けに来たんだ。落ち着いて、僕についてきてね」
 ローブの裾でほろほろと天使の歌の残り香が燐光と化して舞い踊る。その緑の光は神秘的にマルクを彩った。二人の子どもはそれに見とれ、さっきまでの恐慌が嘘のようにおとなしくなった。
 骨が折れまともに歩けない父親に肩を貸し、母親に二人の子どもを任せてマルクは来た道をもどる。
 さて、馬車は乗せられるだけの避難民を乗せて、安全地帯と一時避難所を往復していた。天義の民はものわかりがよく、この混乱のさなかにあってさえ、ゆずりあいの精神を忘れてはいなかった。まず子どもが。そして老人が馬車へ乗せられた。
『おっとりお嬢様ソフィーヤ』София・Ф・Юрьева(p3p006503)は手綱を握りながら、荷台から聞こえるうめき声へめがけ、ハイ・ヒールを飛ばす。
 彼女の微笑みが人々の心を癒やし、希望の火を灯す。強欲の大魔種の攻撃下において、それはあまりにも儚いものであったが、確かに人々の心へ根付き、勢いを増していく。それはソフィーヤを中心に燃え上がりつつあった。
「同じ天義の民として、神託の戦士として。我らが来た事こそ神の導き。神は皆様の無事を望まれますの。私達が必ずや救いますわ。故に心を奮い立たせ、参りましょう!」
「はい!」
 荷台の人々が背筋を伸ばし返事をする。この様子ならば、どんな怪我であろうと、心が負けてしまうことはないだろう。ソフィーヤはひつぎとマルクに感謝しながら馬車を走らせた。

●暖かい雨
 最後の要救助者を送り届けた頃、ストリートでは聖騎士団との決着がつきつつあった。団員はすべて不殺で気絶し、残るはリゲルと騎士団長の一騎打ち。団長のハラワタ突きがリゲルに炸裂する。深く剣を押し込まれ、リゲルが苦悶に眉をひそめた。そこへソフィーヤのハイヒールが飛ぶ。
「流星剣!」
 トドメの一撃が放たれ、団長が壁へぶつかる。失神した団長にリゲルは活を入れて目覚めさせた。
「これは……私は、私達は……」
 再び開かれた瞳に狂気はなかった。団長は自分たちの行いを察したようだった。団員たちも次々と目覚め、その顔が深い悔恨に染まる。
「民衆を傷つけたことは事実。ですが神は貴方達の生を望まれた。原罪の呼び声を前に恐れず立ち向かった献身を、私は称えますわ」
 ソフィーヤが騎士の肩へ手を置く。
「えへー、天義の騎士団さんに貸しひとつですね! 今度天義のどこかでルルがやらかしたときは大目にみてください! それでチャラですっ」
「逃げ遅れた人がいないかもう少し探してみましょう。……元凶を倒さないとどうしようもないわね。やれやれだわ」
 ルルリアが元気に笑い、ねんのためとリーゼロッテが歩き出した。
「俺達が、天義に巣食う魔の者を倒してきます。今は自分を責めず、休まれてください。そしてその後は……心が癒えて、騎士の矜持を取り戻すことが出来たなら。共に人々の為に働きましょう。貴方達も、俺も……天義の騎士なのですから!」
 団長の頬をほろりと涙が伝った。
「罪を雪いだ暁には、あなたたちのように胸を張って、戦場へ飛び込む勇者になりたい」
 リゲルと団長は固く握手を交わした。
「でーあーふたーでー。しーんぐあーろーりのー」
 秋奈の鼻歌が四つ辻に響いた。

成否

成功

MVP

リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
慈愛の紫

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでした。民のみならず聖騎士たちへも心を砕く様は感動的でした。

MVPは不殺の魔女リーゼロッテさんへ。
称号、「命を愛する」をひつぎさんへお送りしております。

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