PandoraPartyProject

シナリオ詳細

死の花嫁

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 ――貴方を愛しているわ

「僕もだよ」

 ――ずっと一緒よ

「ああ」
 街の外れにある、人のあまり来ない寂れた教会の中、二人は向き合っていた。
 白きタキシードに身を包んだ、眼鏡の似合う理知的な男性と、白いウエディングドレスに身を包んだ金髪の花嫁。
 これが通常の話であれば、おめでたい祝い事でしかないが、この二人の事情は違っていた。
 男がどんなに話しかけたとしても、花嫁が応えるはずなどないのだ。
 そう、花嫁は3日前に流行病で死亡してしまっているのだから。
 二人は結婚を約束した間柄で、街でも有名なオシドリカップルとして知られていた。
 その仲は睦まじく、街全体が二人の恋を応援していた。
 互いの両親も結婚には大賛成であり、順風満帆、問題など無かった。

 けれど……。

 パン屋での売り子の仕事中に倒れた花嫁は、病院に運ばれた物の意識が戻ることはなく、そのまま帰らぬ人となったのだった。

「ああ、綺麗だよ。マリアンヌ」

 何も言わぬ花嫁、マリアンヌの頬を、男ジョセフが優しい手つきで撫でる。
 まだ朽ちていない身体は、化粧をしっかりとされており、まだ腐っては居ないが、このまま時間が経てばいずれ朽ちるだろう。

「おかしいんだ。皆、君がもう死んだなんて言うんだ。君は此処にいるのに」

 二人の両親の必死の説得も、ジョセフの心の闇を晴らす事は出来なかった。
 ジョセフは葬式の柩からマリアンヌの身体を盗み出し、この教会で式を挙げるために、花嫁衣装を着せ、まるで彼女がまだ生きているかのように振る舞う。
 それはもはや狂気でしかない。

 ジョセフの哀しい呟きが教会に木霊していた。


●ローレット
「今回の依頼は、死体の奪還です」
 情報屋ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が神妙な顔で面々を見た。
「死体はマリアンヌという女性の死体です。彼女は、流行病で亡くなってしまい、本来であれば今頃はお墓に入っている筈だったのですが……。彼女は結婚を控えていた男性が居たのですが、どうやらその彼が彼女の死体を浚ってしまった様なのです」
 その言葉に眉根を寄せたイレギュラーズに、ユリーカは首を左右にふるりと振る。
「痛ましい話なのです。彼は彼女を本当に愛していた。それは間違いないです。ただ、その愛があまりに大きすぎて、彼は正気を保てなくなってしまったのです」
 深い愛情は嘘偽りはない。たとえ、死体となってしまっていたとしても、彼の愛は変わらない。
「彼が彼女をすぐに帰してくれれば、事を荒立てる気はない、とマリアンヌさんのご家族は仰っています。元々結婚には大賛成するほどでしたから……。ただ、もし彼がこのまま花嫁を帰さないとなると話が変わってきます。彼はごろつきを10人雇った様ですが、皆さんの実力であれば、退けるのは難しくありません。ただ、今回の依頼で、出来ればジョセフさんを助けて上げて欲しいのです。彼の心を。それをマリアンヌさんのご家族も望んでいます」

 きっと、それはマリアンヌも望んでいるだろう。

GMコメント

場所は人の来ない教会。
皆さんが踏み込む時間は選べます。
彼らは1日中、教会に留まり、基本的に出る事はありません。
入り口は表口、裏口の2つあります。

●成功条件
マリアンヌの亡骸の奪還。
ジョセフとごろつきの生存は必須ではありませんが、依頼主の希望ではジョセフを立ち直らせてあげて欲しいとのことです。

●ジョセフ
戦闘能力は低いですが、癒やしの力を持っており、ごろつきの援護をします。

●ごろつき×10名
ジョセフが宿ったごろつきです。
手にはロングソードを持っており、弱くはありませんが、皆さんが1:1で倒せない相手ではありませんが、極悪人というわけではないため、不殺が推奨されています。

  • 死の花嫁完了
  • GM名ましゅまろさん
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月25日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アガル・カルタ(p3p000203)
特異運命座標
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
人生を贈ったのだから
オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
エドガー(p3p004504)
英雄乃残滓
シエラ・クリスフォード(p3p004649)
守護者の末裔

リプレイ

●哀れな男
「ああ、マリアンヌ今日も綺麗だね」
 街外れの寂れた教会。
 祭壇に横たわるマリアンヌの身体を眺めながら、ジョセフが微笑んだ。
 街の人がマリアンヌはもう帰ってこないなどと訳の分からない事を言うけれど、彼女は今もここでこうして生きているのだ。
 そんな様子を遠巻きに、ごろつきたちは苦々しい表情で見つめていた。
 金の払いが良かったので飛びついた話だったが、蓋を開けてみればあまり気持ちの良い内容ではなかった。
 病で命を落とした女性の遺体を誘拐し、家族に返さず愛でるこの異常な男の愛に、ごろつきたちは辟易していた。
 だが、同時にこの男を見て、同情を抱いているのも事実だった。
(もしかすると、正気に戻るかもしれねぇ)
 ジョセフの命令を聞き、教会を守りながら、ごろつきたちは信じてもいない神に初めて祈った。
 それほどまでに、男、ジョセフは哀れだった。


 刻限は昼。相談で決めたこの時間、8人は表口と裏口二手に分かれ行動を開始していた。
 『特異運命座標』アガル・カルタ(p3p000203)、ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)、『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)、『英雄乃残滓』エドガー(p3p004504)、『特異運命座標』シエラ・クリスフォード(p3p004649) が視線で合図をしながら、表口の入り口から中へと入った。
 ゆっくりと扉を開けた先、祭壇の前にはジョセフが見える。
 扉が開いた事で、ごろつきたちが気づき、ぞろぞろと入り口に集まる。
 ごろつきたちは訝しげな目で、面々の顔を見渡す。
「ほう、こんな所に教会があるのだな。しかし、あまり良くない者の溜まり場になっているのは頂けないな。済まないが、彼等に話があってね。話をさせて貰えまいか?」
 首の無いエドガーに、ごろつきたちが驚きで小さな悲鳴を上げた。どこかから聞こえてくるその声は、得体の知れない不気味さがあった。
 ウォーカーと呼ばれる異世界の種族が現れてしばらく経つが、まだ彼らの不思議な存在に慣れては居なかったらしい。
 だが、彼らも金を貰っている。そう易々と場所を譲るわけにはいかない。
「……僕たちの邪魔をしにきたのかい?」
 マリアンヌの横たわる遺体の前、振り向かずにジョセフが冷たく言った。その声音は拒絶の色しかない。今の彼にとって、自身を心配してくれるマリアンヌの家族でさえも、邪魔でしかないのだ。関係の無いイレギュラーズであればなおの事、不快感を隠さない。
「こんにちは。俺はアガル・カルタ。貴方と話をしに来た」
 アガルが一歩踏み出し、努めて優しく声をかける。
「僕にはないよ。帰ってくれるかな」
 だが、ジョセフはそんなアガルの言葉に苛立たしげに舌打ちをする。
「お願いします。マリアンヌさんのご遺体をご家族に返してあげてください」
 遠回しな言い方では、ジョセフには届かない。オフェリアは意を決してそう切り出した。彼を傷つけず、何とか彼女を帰して欲しかった。
 でも、その言葉でさえも、届かないのだ。ジョセフがゆっくりと振り返る。
 優しい男だったはずのその男の目は、暗く淀んだ狂気の色を宿している。その目が言っていた、否、と。
(……現実を受け入れるとは難しいことですね)
 痛ましいジョセフの姿に、オフェリアはそう心の中で呟いた。
「お前たち、そいつらを蹴散らせ!」
 叫ぶジョセフに、ごろつきたちが集まり、ジョセフとマリアンヌの前に阻むように立ちふさがるのを見て、エドガーが大盾を構える。
「まあ、仕方ないか。大凡予想はしていたが、意固地を相手にするのは骨が折れるな」
「エドガー君、ジョセフは……」
「分かってる」
 依頼を受けた8人はいずれもジョセフを傷つける事は良しとしなかった。だから、最初から決めていた。出来る限り、ジョセフには攻撃をしない事を。
(知りたい、ジョセフさん、あなたの心を)
 神秘の魔銃に魔力を籠めながら、ココロは毅然とジョセフへと向き直る。
 戦いは必須だ。
 だが、説得を諦めるつもりはなかった。
「手加減は苦手なんだ、退いてくれないとうっかり殺してしまうかもしれないのだが?」
 けれど、ごろつきたちも引くわけにも行かない。エドガーの言葉に若干恐怖で身体を震わせながらも、ごろつきたちは依頼主たちを守るべく、ロングソードを構える。
 その隙に、と、ジョセフがマリアンヌの遺体を抱えると、裏口へと足を進めようとして。
 裏口から現れた残りの面々を前に、眉間に深く皺を寄せた。
「ずいぶんと大所帯じゃないか」
「そうでもない。だが、逃がす気はない!」
 裏口のメンバーに気付いたごろつきの一人が、『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209)へと切りつけるが、それを受け止めたアカツキが一撃をお見舞いする。
 ごろつきが体勢を崩したのを見たアカツキは、低い声でごろつきを牽制する。
「痛い目を見たくなければ去れ」
 『魔剣少女』琴葉・結(p3p001166)が、アカツキの後ろから飛び出し、ごろつきを蹴りの一撃で地面へと沈める。
「ちょっと手荒いけど、目を覚まさせてあげるわ」
『イヒヒヒ。恋は盲目って言うがコイツは相当だなぁ!』
 結の言葉にズィーガーが叫んだ。
「貴方達、仕事を選ぶのならもっといい仕事選びなさいよ」
 表口と裏口側のメンバーで、ごろつきたちを挟むようにしつつ、意識が散ったごろつきのロングソードを、シエラが魔力放出で吹っ飛ばしながら言った。
 『落ちぶれ吸血鬼』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)は、優雅な動作で一歩前へと歩み出た。
「教会ってのが気が乗らない……」
 吸血鬼である彼女にとって、教会は好ましい場所ではない。向ってくるごろつきの剣をかわしながら、素早い動きで魔力の弾を装填し、彼らの急所をあえて避けつつ撃つ。
 クローネは、ジョセフとマリアンヌの姿を見て、眉に皺を寄せる。
「……しかしまぁ、聖人サマみたいに綺麗な死体なもんで……尤もこのまま外に出しておけばグズグズのボロボロでしょうがね……せっかくなんだ……綺麗なまま、最後を迎えさせてやったらどうです?」
 彼女なりの気遣いではあったが、ジョセフはそうは捉えなかった。クローネの言葉に、憎悪の色を瞳に宿し、ごろつきたちをけしかける。
「その女を倒せ!彼女はこれからもこのままなんだ!生きているんだから!」
 ジョセフは認められないのだ。それはもはや愛というよりは執着に近いのかもしれない。
「もう死んでるのよ!教えて。あなたは今のままで満足なの?自分でも気が付いてる事、あるんじゃないの?」
 海では、死んだ者は海へと帰っていく。ディープシーであるココロにとって、それは当たり前の事だった。海で暮らさぬ者であれば、いつか大地へと帰るものだとそう思っている。
 だからこそ、理解が出来なかった。
「何を言っているんだい?満足さ」
 傷ついたごろつきの傷を癒やしながら、吐き捨てるようにジョセフが言った。
「一方通行の愛こそが望む形なの?」
「彼女も僕を愛してくれている!」
 ココロの言葉に、ジョセフが激しく声を荒げた。
 魔力放出でごろつきを攻撃しつつも、ココロは語りかける。
「貴方は本当にこのままで良いの?私には親しい人の死は分かりません。でも、このまま前に進めない事が、マリアンヌさんへの愛になりえるの?」
「いつまでそんなフリを続けるつもりだ?こんな教会であんな奴らを雇って。
追い掛けて欲しくないのならもっと遠くへ逃げれば良い。しかしお前は、そうしなかった」
 それは止めて欲しいと思ったからではないのか、とアカツキは淡々と尋ねる。
 (誰かを愛する心は美しい。しかしその心も、狂気に彩られてしまっては輝きを失うだろう
こいつの心からその輝きを取り戻せれば良い)
 口にこそ出さなかったが、アカツキもまたジョセフに立ち直って欲しいと思っていた。
 説得の障害であるごろつきたちを、蹴りの一撃で倒しながら、アカツキはジョセフの心の救済を祈る。
「ジョセフ、マリアンヌは病気に侵されてるわ。その事は知ってるでしょう?その証拠にマリアンヌは自分では動けない、もう休ませてあげて」
 シエラの言葉に、ぎり、とジョセフが歯を噛みしめる。その苛立ちは、彼女の言葉に動かされる物を感じたからだ。ココロの言葉も、確かにジョセフには届いている。
 その証拠に、ジョセフの狂気は淡く揺らいでいた。
「……吸血鬼ってね……死んだ人間がなるとも言われてたりするんッスよ……それ以外にも、しっかり埋葬されていない人間がロクな物にならない話は聞いた事がありません?……それとも貴方は彼女を化物にするのをお望みで?」
 今は美しい彼女も、もしかしたらそういう未来が無いとは言い切れない、そう暗に臭わせながらクローネが言った。
 ジョセフの瞳が僅かな恐れに揺れる。それは彼女の尊厳を奪う物だと、ジョセフの中に残った理性が理解していた。

 ――ジョセフ、私たち死んだら天国にいけるかしら

 彼女が冗談の様に言った昔の言葉が、ジョセフの脳裏に浮かんだ。

●戦いは……
 ごろつきを手加減しながら、一人一人KOさせていく面々の力量は、いずれもごろつきたちを上回っていた。実力も違うが、それよりも心が違った。戸惑いの中戦うごろつきたちと、ジョセフを救いたいという強い思いのイレギュラーズたちには、大きな差があったのだ。
 ジョセフの癒やしの力は決して強力ではない。イレギュラーズたちの攻撃で次々気を失っていくごろつきたちを支えきれる程の力は彼には無かった。

 震える手で短刀を構えたジョセフは、それでも戦う姿勢を崩さなかった。
 明らかに戦い慣れていないナイフを無茶苦茶に振り回すが、どれもイレギュラーズたちの脅威にはなり得ない。
「甘えないで!! 人を愛するのなら責任と覚悟を持ちなさい!!」
 大型のスタッフでそのナイフをはたき落としたシエラが、何も装備してない素手でジョセフの頬を張った。
 カラン、とナイフが地面へと落ち、そのナイフをエドガーの足が踏みつけ、ジョセフの届かない所へとはじき飛ばした。
 もう、ジョセフを守るごろつきは一人として立っていなかった。
「う……っ」
 張られた頬を手で押さえ、ジョセフが地面にずるずると座り込む。
「ねぇ、本当はわかっているのだろう?」
 アガルは諭すようにジョセフへと語りかける。
「彼女はもう旅立った。貴方だけを置いてたった1人で逝ってしまった。その身体は暖かい?彼女は目を開けて微笑む?」
 アガルは、そっと力なく項垂れたジョセフの背へと手を置き、反対の手でジョセフの手を握る。
 生きている証である温かい体温を感じ、ジョセフは肩を震わせた。
 温かい体温が、愛した女性の身体にはもう残っていないことは、ジョセフも理解していた。
「……死というのは区切りです。原因は多々あれど、周囲の人は悲しむ。それをしっかり弔い、事実を認めて、記憶にしなければ前に進めないものなのです」
 オフェリアが身体を屈め、ジョセフの反対側の手へとそっと触れた。
「あなたは優しい方なのだと思います。だからこそそこまで狂気に身を染めてしまった。……であればこそ、その優しさを他の方にも向けられませんか。悲しいのはあなただけではないのです。ご両親も、ご友人も、おそらくマリアンヌさんも」
 ジョセフの今の姿を見て、マリアンヌは喜ぶだろうか?
 自身の事を思ってくれている事には勿論喜ぶだろう。だが、未来の道がまだある彼が、歩みを止めてしまう事には、きっと哀しい顔をするはずだ。
「私にはまだ、こ、恋人とかいないけど……もし大切な人が自分の所為でずっと落ち込んでいたら悲しいわ」
 ごろつきたちをロープで縛り上げた結もまた、自身の気持ちを伝える。
 ロープで縛り上げる際、ごろつきたちは一切抵抗しなかった。ただ、気まずそうに視線を伏せているだけだ。それは、彼らにも思う所はあったのだろう。彼らも悪人ではないのだ。金は欲しかったが、だが、この青年を口汚く罵る気にはおそらくなれなかったのだろう。
「貴方が愛した人もそうじゃないの?」
 優しい結のその言葉に、ジョセフがゆるゆると顔を上げる。
 ズィーガーは、あえて言葉を発しない。
アカツキもまた、そんな様子を無言で見守っていた。あえて口に出さないのは、彼らなりの配慮なのかもしれない。
 けれど、何故か、そのアカツキの眼差しからは、ジョセフに対する心が見えた。
 飾る言葉は数あれども、すべてが言葉にすれば良いという物でもない。黙して相手が立ち直るまで待つのもまた、必要な心遣いなのだから。
(ああ、そうか。皆は、俺を見捨てないでいてくれたのだ。この人たちも)
 か細い嗚咽が教会に響く。
 ジョセフの涙腺は決壊し、地面へと多量の染みを作る。
 その涙は、ジョセフが、彼女マリアンヌの死を、初めて心から認めたという証だった。


「彼女を綺麗にしてあげてもいいっスか」
 クローネの心遣いに、ジョセフが深く頷き、お辞儀をした。
 クローネの手によってエンバーミングが施され、その遺体は美しく戻っていく。生前と全く同じという訳には行かなかったが、まるで眠っているかのように見えた。
 彼女が亡くなった理由も理由なので、感染症の予防も怠らない。
「見てあげてください」
 ジョセフが、彼女の遺体を覗き込むと、美しいウエディングドレスに身を包んだ、マリアンヌが居た。
 恐る恐る手を頬へとやり、優しく撫でるその姿を見て、クローネが軽く咳払いをした。
「……あれだけ散々言っておいてなんですけど、この人が怪物になる事は……まぁ、無いと思うッスよ……」
 説得であったとはいえ、言い過ぎたという所もあったのだろう。
 だが、ジョセフはゆっくりと首を縦に振り、微かに笑った。
「可能であれば葬儀に出ると良い、話は通してみよう」
 落ち着きをすっかりと取り戻したジョセフに、エドガーが言った。
「出来る限り、早く遺族の下へと戻らせてやらねば、な」
 (親しい人の死は悲しい。でも新しい出会いもある……私も乗り越えなきゃ)
 喪った同胞を思い、シエラはそう強く思う。ジョセフの傷がすぐに癒えるとは思わない。シエラが彼らの意志を継ぐ事を決めるのに時間がかかったように。
 けれど、それでもきっと乗り越えてくれると、そう信じたかった。
「で、こいつらはどうする?」
 捕まえたごろつきたちを指さし、アカツキが言う。
「ジョセフさんを咎めないのであれば、彼らを罰するのは難しいでしょうね」
 結が苦く笑った。雇い主であるジョセフの罪が許されるのであれば、彼らの罪もまた許されるべきだった。
「厳重注意が関の山というとこね。まぁ、貴方たちもこれに懲りて、真っ当に生きたら?暴れないならロープを切ってあげる」
 シエラの言葉に、ごろつきたちが顔を見合わせた後、ゆっくりと頷いた。
「でも、ジョセフは本当にマリアンヌの事を、あ、愛していたのね」
「……はい、彼女以外は考えられない程に」
 結が照れて言葉を詰まらせる。
 ジョセフはそんな結に儚く微笑むと、教会のステンドグラスを見上げた。
 そこには聖母が天使と共に描かれた美しい姿が描かれている。
『イヒヒヒ!結にはまだ分からねぇだろうなぁ』
「そ、そんな事ない!」
 ズィーガーのからかいに、結は意をとなえる。
 そんな様子を見ていた他のメンバーは、互いの顔を見合わせて笑った。
 結果として誰も死なず、そしてジョセフの心を取り戻すことができた。
 後は、マリアンヌを家族の元に帰してあげれば、この依頼は完了だ。
「お世話になりました」
 深く頭を垂れたジョセフの肩を、アガルが快活な笑顔で叩く。
 ジョセフの心の輝きは戻った。
 これからの人生をどうするかは、あとはジョセフ次第だ。
 時間が傷を癒やし、いつかマリアンヌのことを思い出す日もやって来るだろう。ジョセフが彼女だけを愛し続け、一生誰とも添い遂げないのか、それとも新しい女性を愛するのかは分からなかったが、願うならば彼が再び幸せを得られると良い。
 8人はそう思ったのだった。


 その後、柩は教会から運び出され、マリアンヌは家族の元へと戻った。
 後日開かれた葬儀には、パン屋の娘とは思えないほどたくさんの人が参列し、若くして死んだ彼女は盛大に弔われた。
 その葬儀には、ジョセフも参列が許され、彼は最後の見送りをする事が出来たという。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

こんばんは(`・ω・´)
風邪を拗らせてギリギリの納品となってしまい、大変お待たせいたしました。
皆様の熱い説得のプレイング、しかと受け取りました。
きっともう、ジョセフは大丈夫だと思います!

ありがとうございました!

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