シナリオ詳細
夏だ、海だ、黒い想い出探検だ!
オープニング
●ある暑い日
「その日、海洋ことネオ・フロンティア海洋王国は酷く暑かった。
──夏はまだだと言うのに、これでは真夏の最中ではないか!
嘆くローレットの面々。
しかし、その顔はどこか嬉しそうでもあった。
何故ならこの日、彼らは海洋のサン・ストリア海岸を貸し切って浜遊びを楽しむ予定だったのだ。
サン・ストリア海岸は小さいが美しい入り江として有名な観光地である。
以前、かの地の危機を救って以来、その土地を管理する人々はローレットになにかと便宜を図ってくれていた。
さて、準備万端、浜辺に着いたローレットたちであったが、その時思わぬ悲劇が起こったのだった……」
ランタンの光を絞って顔の下から不気味に自分を照らしていたリーナ・シーナ(p3n000029)が、にこっと笑ってランタンを下ろした。
「あれ、つまらなかったですかー?」
つまらないも何も、単なる状況説明である。
リーナ・シーナは依頼の斡旋もする流しの商人だ。
ローレットに現れたシーナは『ちょっとお仕事しながらの浜遊びツアー』という依頼で参加するイレギュラーズたちを募ったのだ。そこで参加したイレギュラーズたちは海洋のサン・ストリア海岸まで彼女の馬車に乗って暑い日差しの下をガタゴトと揺られてやって来たのだ。
だが、しかし。
──浜辺に着いた途端、突然の豪雨。
浜遊びのためにシーナが持って来た道具を幌のついた馬車に乗せたまま、彼らは岩壁にあいた手頃な洞窟で雨宿りをする羽目になっていた。
「いやー、見事に降っちゃいましたねー! さっきまでとっても浜遊び日和だったんですけどねー」
雨に濡れたふわふわの髪がしぼんで来たのに気づいた彼女はスポンジのようにギュッと絞る。二度目だ。
「馬車にはサーフボードとか、バーベキューの用意とかバッチリだったのですが。あ、御存じないですか? 旅人の方に教わって面白そうだったから作ってみたのですが、どちらもえらいイケてる遊びです(たぶん)」
冷えた身体を温めて服を乾かすためにおこした焚火の前で、シーナは自分の着ている薄着が完全に乾いたのを確かめる。
「皆様も乾いた頃合でしょうかー? この様子じゃ浜遊びはできそうにないので『ちょっとした依頼』の方を先に終えてしまいましょう!」
ランタンの灯りが洞窟の奥を照らした。
「はい、この奥にこの浜辺に雨を降らすモンスターが居るという情報です。討伐お願いしますねー!
あっ、騙して連れて来たわけではないですよー。このモンスター、居る時と居ない時があるみたいで居なかったら現地調査と浜遊びだけにしようって思っていたんですよ。でも、今日は偶然居たようですね! よかったよかった!!」
ゴロゴロと引きずっていた革製の大きな車輪付きトランクケースを開けると、シーナは全員に頭や手足に巻けるベルトの付いたライトとしっかりとしたサンダルを渡した。
「無料レンタルですー。ワタクシは戦えないので一番後ろをコッソリついていきますねー!」
暗かった洞窟が一気に明るくなった。
入り口はそうではなかったが、少し進んだ先は白な岩が多く混じっており、ライトの灯りを明るく反射した。
「ここを管理する海女さんたちによると、奥までニキロくらいですが途中で道が三本に別れます。
どの道も最奥のモンスターのねぐらに繋がっているそうなので、ワタクシたちの侵入に気付いて逃げられないように、一旦別れて全部の道を塞ぎつつ奥へ進んだ方がいいですね。
あと、ここで気をつけることは二つほどありますー!
一つは足下。尖った岩が突き出していたり、濡れた岩や苔があるので気をつけてくださいねー。さっきのサンダルも活用してください。
もう一つは、敵! そんなに強くないモンスターですが、特殊能力があります」
シーナ曰く。
敵の名前は通称、サン河童。
動きは素早く、手足の吸盤でヤモリのように洞窟の中を縦横無尽に走り回り、鋭い爪で攻撃する。
特殊能力があり、相手の『尻子玉』を抜く──。
「心配しないでくださいね! サン河童の抜く尻子玉というのはモノではなくて。
サン河童の『尻子玉粉砕攻撃』を受けると催眠状態になって『自分の黒歴史を大声で暴露……懺悔しつつ、のたうち回る』っていうモノなので、物理的ダメージはないですー」
メンタル的なダメージはあります。
- 夏だ、海だ、黒い想い出探検だ!完了
- GM名依
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年06月21日 20時50分
- 参加人数9/9人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 9 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(9人)
リプレイ
●河童なんて怖くない!
「雨に降られたのも不運だが……なんだろうね……」
『天京の志士』鞍馬 征斗(p3p006903)へシーナはニッコリと笑う。『黄昏き蒼の底』十夜 縁(p3p000099)は肩を竦めた。
「随分楽な依頼だと思ってはいたが、こういうことかい。……やれやれ、どうやら嬢ちゃんに体よく駆り出されちまったらしいなぁ」
「そうなりますかねー?」
「だがまぁ、このまま雨が降り続くのも困りモンなわけで。面倒だが仕方ねぇ、行くとするかね」
「面倒なのは嫌いなんだけど………まぁきっと何かの巡りあわせなんだろう……」
十夜と征斗は顔を見合わせた。
「洞窟探検か。おもしろそうじゃん」
『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は楽しそうだ。
「ゴーグルアレば暗いのも安心、海の中でも大丈夫だぜ!」
「イーグルゴーグルだー」
『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)が勢い良く掲げたソレを『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は円らな瞳を輝かせた。
(アクセル様は大丈夫なのでしょうか)
『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)はおっとりと首を傾げたが口に出すことはなかった。
「黒歴史って……恥ずかしかった記憶とかトラウマな記憶って事ですよね……? 何がありましたっけ……小さい頃、パパと結婚するって言ってた事とか……」
「微笑ましい話だな。アンタはまだ黒歴史があるほどの年じゃないだろう」
『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)が唸ると『今はただの氷精』アルク・テンペリオン(p3p007030) が指摘した。
「私にとっては黒歴史なのです。六歳くらいになる頃には言わなくなりましたが……十歳くらいになるまでそれでいじってくる父親はちょっとうざかったです」
切ない。
「じゃあ、オイラも無敵だな! おっしゃー! サン河童退治がんばるぞー!」
『とっかり』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)が勢いよくフラグを立てた。
●ゴースト イズ ひぃあ!
別れ道にはすぐに着いた。
「十夜さん、征斗さん、シーナさん、よろしく。シーナさんは初めましてだね」
「今後ともよろしくご贔屓にー」
右の道を進む史之は興味深げに照らす。罠の類を警戒する征斗。十夜はシーナと共にゆっくりと後ろを歩く。
外に繋がっているのかヒンヤリとした風が吹き抜けた。
「この海岸には伝説がありまして」
徐にシーナが話し始めた。
マーフォークに殺された姫君が霊となって生者を海底へ引きずり込むらしい。
「白塗り悪魔メイクの女性と恐怖メイクの男の娘の幽霊で……あれ、違ったかな?」
「……どこかで聞いたような話だねぇ」
実際に見た十夜はぼんやりと思い出す。
(あの時のあれが、また妙な感じで伝説になってるとはなぁ……何が起こるかわからんモンだ。しかも……あいつらのことだろ、なんて名前だったか、ほら……一連の記憶が強烈すぎて、伝説の話が頭に入ってこねぇな)
元気に先行していた史之の足が止まっている。
「は……はは、俺、幽霊とかそういうの、じつはめっちゃ苦手で……」
ギギギと固い動きで振り返る史之。
「ほう?」
「少し嬉しそうにしないでっ」
その時だった。
──あぁあああ……!
細く高い女の悲鳴が聞こえた。
「ぎゃあああっ!」
「!」
「おお」
飛び上がる史之。征斗はさっと身構え、十夜は空気を読んで驚くふりをした。
「……幽霊……? 視認さえできれば……でも、洞窟が崩れてもいけないし……抜ける方が先……かな」
俯いたシーナが肩を震わせた。
「ぷっ、はは、す、すみません!」
爆笑するシーナに唖然とする征斗と史之。
「……なんだ。冗談、ってわけだね」
「あれは風の音ですねー」
「な、なんだ風の音か。以前、肝試しで驚いて猛ダッシュしたことあるんだよね」
「今は恐怖が足りなかったというわけですねー」
「シーナさん笑いすぎ。──あ、追加の怪談はやめて、勘弁して」
「もう。敵がいるんだからもう少し慎重に……どうかした?」
尋ねる征斗に十夜は軽く手を振った。
「なんでもない」
ゆるりと歩き出しながら十夜は思い出していた。
(そういや、本物も『出た』んだったな、ここ)
●スライディングでgo
真ん中の道を覆う苔を踏みながら、アルクは改めて周囲を見回す。
(洞窟は別に珍しくも何ともないが……海はこんなに違うんだな。……匂いとか精霊の顔ぶれとか)
勇ましいアザラシ、ワモンと大柄な緋色の鷹人カイトが前を歩く。
「へっへー、オイラが一番乗りとってやるぜー!」
「行くぞ! 涼しいのはありがたい」
羽毛的な問題で。
「足場が悪いな……少し飛びつつ移動するか」
カイトがそう言った途端にアルクがバランスを崩した。
「おおっと滑りそうだ……いっそ滑ってしまうか」
地面は苔に覆われ傾斜が続いている。
「滑る? そうだな、一気に滑り降りちまえってな!」
すぐさまワモンは勇ましく苔の上を滑り出した。
「オイラのアザラシスライドっぷりに見惚れるんじゃねーぜ──ぇぇっ!」
ざっぽーん!
ドップラー効果を起こしながらアザラシの姿は水音と共に消えた。
「……天井が低いと飛ぶのが辛いな。だが慎重に」
「あ」
アルク指摘する前に羽ばたくカイト。低くなった天井に気付いて下降したその脚が苔に触れる。
「爪でしっかりと掴みながらなら滑ることは──うわっ!」
つるん、バサバサバサ!
緋色の羽毛は遠ざかり水音共に闇に消えた。たぶん、あの闇は水溜まりなのだろう。ばしゃばしゃしてる。
「……飛ぶのはマナー違反だって精霊も言ってるから大変なことになりそうだ、たぶん」
届かなかった助言を呟いて、アルクはギフト「氷精の収集癖」によって浮き輪を取り出した。
「あと、『こんなこともあろうかと!』」
ポケットサイズの小さな木片をサンダルの底に付けた。これでより『滑りやすく』なるだろう。
「滑るなら 滑ってしまえ ホトトギス──」
踏み出せばぐんぐんとスピードが乗って──ばっしゃん!
「我慢! でも痛いものは痛いぞ!」
「甲殻類の癖に俺を狙うな! 俺が捕食者だろ、痛い痛いッ!!」
浮き輪でぷかーっと浮いたアルクのライトに、鼻先と体のあちこちに小蟹を付けて涙目のワモンと翼をはためかせて必死に小蟹を追い払うカイトが照らし出された。
「予想外だな」
全身を這うこそばゆい感覚にアルクも覚悟を決めた。
●暗闇に光る目
左の道を進むアクセルとマリナと弥恵たち。
「ちょっと暗くなったよね!」
アクセルの言う通り、灯りはあるが尖った岩が突然視界に現れるので歩みは遅くなる。
「借りた灯りがあってよかったのです。松明も持って来た気がするのですが……海辺の洞窟は海水が溜まっている場合もあるので気を付けるのです」
「私もカンテラがあります。エコーロケーションも使っているので危なかったら教えますね。気を付けないと……変なハプニング起こったら嫌ですし」
荷物を探るマリナ。弥恵もカンテラを取り上げた。失敗すら引き寄せるギフト「天爛乙女」を持つ彼女は準備万端、慎重だ。
「? あら光が……」
カンテラの光を弾いたのか、それとも終着点か。
いや、そうではなかった。それは眼であった。
「巨大カニだ!」
完全に照らし出されたソレを見てアクセルが叫んだ。
大きな鋏を振り上げて巨大カニは物凄いスピードで迫ってくる。
「今宵のBBQは焼きガニなのです」
グレイシャーバレットを狙ったマリナ。その視界にアクセルの翼。
「回避を提案します」
弥恵にアクセルも同意する。
「うん、二人とも逃げよう! だってあの殻とか明らかに危ないじゃん!」
しかも、洞窟内は暗く狭く突き出た岩もあって射線が通らない。
「うーん、バシバシいきたかったのですが、これはダッシュで避難したほーがよさそーですね」
走り出した三人と迫り来るカニ。
巨大な鋏が突き出した岩を砕く!
「後ろでしゃきしゃきいってるよー」
障害物の多い中を飛んだり走ったりしながらアクセルが叫ぶ。
「オイラの尾羽はニボシじゃない!」
アクセルが撃ち出した魔力放出がカニを直撃する。
だが、カニはまだ生きていた。むしろ、眼光が鋭くなった気さえする。
「ここは私に任せて先へ!」
何のフラグかと思いきや、弥恵は艶やかな舞を踊りだした。急の段・月華繚乱だ。
「戻ったら一緒にBBQをするのです!」
「弥恵君の勇気、忘れないよー」
「だ、大丈夫です! かかりました!」
効果を確信した弥恵も補完されたフラグを振り切って二人を追った。
●蘇る記憶
先ず辿り着いたのはアクセルたちだった。彼らがぜいぜいと息を整えているとのんびりと史之たちが、最後にびしょ濡れのアルクたちが疲れ果てた顔で現れた。
「カニ?」
アルクたちがぽろぽろと落とす小蟹に怪訝な顔をした征斗だったが、すぐに新たな気配を察知する。
「あとはお願いしますよー」
シーナが引っ込むのと同時に岩陰から現われたのは二本足の青くのっぺりとした尻尾の無いトカゲだ。
「やいやい! おめーがサン河童ってやつだな! オイラ達がやっつけてやるぜ!」
すかさず、ワモンが勇壮のマーチで味方を鼓舞する。
「僭越ながら私が」
すかさず『名乗り口上』をあげる弥恵へ、間髪入れずにサン河童が襲いかかる。
サン河童の尻子玉粉砕攻撃はその名に反して通常攻撃と違いは無く場所も尻とは限らない。
「ああっ!」
河童の一撃。だが、よろめいたのはダメージのせいではない。
弥恵は胸を抑えて絶叫した。
「……ええ、黒歴史なんてっ──パンツの呪いでお色気ハプニングにあってますけど、そんな物は無いですから!」
即座に仲間たちは彼女が件の特殊攻撃を受けたことを察した。
「はっ、何を!? さ、さっさと倒しましょう! ええ、別に銀河系歌姫シンデレラとか名乗って可愛いポーズして魔法少女みたいになってたとかそんな事ありません!! ふぐぅっ」
口を抑えても言葉は止まらない!
「……黄昏の月エクリプスとかそんな戦うヒロイン考えたりとかぁああ、何を!? や、違うんです、私は清楚で凛々しく規律正しい……ぁぁぁ、期待されてポールダンスしたとかそんな……まって、ちょっと、この態勢から戻ったら見え──いやああ!!」
顔色を赤く染めたり青ざめたりしながらもだえる弥恵。
新たな黒歴史を刻んでいる彼女を見て十夜はス……と静かに後退して気配を消した。
(こりゃ、死ぬ気で避けるしかないな……)
結構な一撃が入ったはずなのに弥恵にはダメージは無いように見えた。しかし、河童が彼女から離れないのを見て追撃を危惧したカイトが翼を広げた。
「よ、よし、緋色の大翼で囮になろう。青よりも赤だよな! 弥恵、後退しろ!」
攻撃を再開するマリナ。アクセルも距離を取った遠距離攻撃に務める。
「同じ水辺の生物でも容赦はしねーですよー!」
アルクはショウ・ザ・インパクトで素早い敵を狙い撃ち、キャッスルオーダーをかけた史之が仲間を守るように立ち塞がる。時折、放たれる飛燕天舞は十夜か。
弥恵を安全地帯へ引っ張って治癒符で癒す征斗は、半泣き状態の彼女を見ながら複雑な想いを抱く。
(中二病ってのが今一判んないんだけど……)
「自分なら……色んな術技を経験してたのもあって……銃器と魔術を複合しつつ騎乗戦闘ができる騎士を目指してた過去があること……かな。ぅーん、極端に現実主義である意味打算的に行動するのは黒歴史とも……ん!?」
横道から顔を出したシーナと回復した弥恵が頬を染めてジッと征斗を見ている。どうやら口に出ていたらしい。
「へー」
「……そういう、設定ですか?」
「ち、違、事実で純然たる本当の経歴だよ!? 違うよ!?」
また、新たな悲鳴が聞こえた。
「カイト君!」
上空から叫ぶアクセル。緋色の朋輩は片目を抑えた。
「くっ──蘇る、蘇るぞ……鳥頭の記憶の奥底から、忘れてたけど蘇ってしまうのなら仕方ないッ!
親父の眼帯を勝手に借りて邪気眼ごっこをしたとか。うぐ……俺の眼が、鷹の目が疼く……ッ、眼を開ければ金色に輝く猛禽類の眼。そのまま飛びかかる禽眼の俺……あれ、普段から邪気眼じゃね? とか言っちゃいけない、やめるんだァアアッ!」
それはまだ遠い昔ではないだけにカイトの心を抉った。彼はまだ十八の繊細なお年頃である。
「なんという悪魔の所業なんだっ」
アクセルは憤然としかしちょっぴり上空へと距離を取った。
一方、果敢に攻撃を続けるワモン。
「へっへー、近づかなけりゃ尻子玉取られる心配もねーぜ!」
そう、十二歳の彼にはまだ黒歴史が無い。
ばしん。
「ぐわああ! お、おねしょの記憶がーー!」
……訳では無かった。
無事フラグ回収した少年を周囲はほっこりとした気持ちで見守った。
「だが、かなり素早い」
史之が冷や汗を拭う。
河童が特殊技を連発するがゆえに仲間への肉体的なダメージは無いが悲鳴が心を抉る。
(いっそ、普通に戦って欲しい!)
うまく間合いを取れば斥力発生も使えるのだが混沌とした現状では難しい。
河童にしてみれば九対一の圧倒的不利な状況だが特殊技を使えば高確率で一人は戦闘不能、征斗は回復やフォローに手を取られ惨状を見た他の仲間は腰が引ける。
「むしろ普通に戦う気がないのでは」
シーナの呟きがやけにクリアに響いた。
「あっ」
油断してしまった。眼前に現れた河童の拳が史之を捕らえる。
「うわああん、すいませんごめんなさい! 小学校の頃、小腹がすいてついついお墓のお供え物をくすねて食べちゃったこと反省してます! だからもう枕元に立たないでええ!」
「あ、だから幽霊が」
「悪いことはできませんねー」
ワモンを介抱していた征斗とそれを覗き込んでいたシーナが膝を打つ。
前衛を失ったマリナが顔を引きつらせた。
一体何を口走るんだろう、彼女の脳裏に走馬灯の如く半生が過った。
(海賊にとっ捕まって貴族に売られて飼われた、ってこれはトラウマですね)
しかし、口走ったのは違う事だった。
「一人でノリノリで船長ごっこしてる所を本人見られたとか……だってしょーがないじゃないですか、海の男に憧れる年頃なんですよ。まぁまぁこれくらいなら別に……旅の恥はかき捨てっていうじゃねーですか?」
ねえ──同意が無くて頬が熱い。
だがその隙に回り込んだアルクのアースハンマーが河童に止めを刺す。
見下ろすアルク、その顎先に力を振り絞った河童の頭突きが決まった。
「……力が……欲しいか……」
●大団円
打って変わっての快晴で雨の水はほぼ引いていた。
「あー、太陽の光ってステキ、不安とか恐怖とかぜんぶ浄化される感じだよね」
そういう史之は真っ白に燃え尽きて、日向ぼっこの名目でまだ少しひんやりとしている砂浜に身を投げ出した。
(あの河童って食えたのかな。もしそうなら仕返しにBBQにしてやったのに)
「……お肉とお野菜もりもり食べて元気だすぞ!」
素早く起き上がると彼はBBQのテントへ向かった。
氷の精霊種であるアルクはパラソルの下でもくもくと食べながら牛串や焼トウモロコシ等をタッパーならぬギフトに詰めていた。
「そんなに気を落とすなよー、別におかしーことでもねーだろ?」
ワモンの一言に一瞬手が止まるアルク。
彼の黒歴史は雪山の遭難者への魔王ごっこだった。ちなみに回答如何に関わらず、その問答は「そうか……がんばれ……」で終わった模様。
「オイラもハートがブレイクだぜぇ……こうなったらイカ食いまくってやなこと忘れるしかねー!」
「カニもたくさんありますよー」
シーナが出したカニの脚に一瞬手が止まるアルク、ワモン、カイト。
「喰って喰って喰いまくりだ!」
自棄食いするカイト。大丈夫、一晩寝れば忌まわしい邪気眼は再封印だ。鳥頭万歳。
アクセルは蛸足を見ながら、かつて海賊に憧れる知人から教わった『海洋の挨拶』を思い出していた。
(お控えなすって! 手前生国と発しますは幻想、種はスカイウェザー、名をアクセル、以後面体お見知りおきの上……)
「うわああー!」
「ど、どうしたんだ!?」
身を屈めて片手を出すその挨拶が、海洋ではなく海洋に来たウォーカーの挨拶『仁義を切る』であったと知ったのは実践した後であった
ひと泳ぎをした弥恵はシーナに押し付けられたパレオをベールのように使いながら浜辺で踊る。
艶姿に反してその目は虚ろだ。
(あはは……流石にもうハプニングなんて起きないでしょうし……)
乙女に惹かれたイルカにカモメたちに揶揄われる事を彼女はまだ知らない。
一方、征斗は黄昏ていた。
尻子玉攻撃を受けたわけでは無いのに心が痛い。
「やれやれ……慌ただしい一日だったぜ」
同じく木陰でのんびりとくつろいでいた十夜に気付いて、つい恨みがましい目を向ける。
「十夜さん、絶対近付きませんでしたね」
「おっさんにもそう簡単にバラされたくねぇ後ろ暗いことの一つや二つ、あるんでな」
文句を言おうとして、その横顔が翳っていたように感じて征斗は口を噤んだ。
「……自分も喰らったわけじゃないんだけど」
皿を抱えた仲間たちが手招きをしている。
釣った魚の入ったバケツに下げてマリナもテントへ向かう。
「皆落ち込んでますからね。美味しい焼き魚をお渡ししましょう……塩味が効いて美味しいですよ……?」
満腹感はささくれた彼らの心をちょっと癒した。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様に(良い意味での)新たな黒歴史を刻めたことを祈って!
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
目的:敵を倒して、無事浜遊びをしよう!
(黒歴史を暴露し合ってのたうちまわろう)
●敵
敵:サン河童
河童と呼ばれているが、頭の皿はない
青いのっぺりとした身体の二足歩行の尻尾無しトカゲ
知力は獣並みで意思の疎通は難しい
動きは素早く腕力もそこそこあります
特殊能力ばかりに気を取られていると大怪我をする可能性があります
技:尻子玉粉砕攻撃
通常攻撃と見た目の違いはないが物理的ダメージはない
喰らうと黒歴史が蘇り反射的に大声でそれを語っている
※この場合の黒歴史はいわゆる中二病的な本人が非常に恥ずかしい歴史限定です
●ステージ:海岸の洞窟
※必ず三組に別れて下さい。別れない場合、失敗する恐れがあります
分岐1――(※1)
入口 ― 分岐2――(※2)──サン河童戦
分岐3──(※3)
※1:どこからかお化けの声がする→風の音だった!
※2:突然足下に穴、海水にドボン!→這い出して行く
※3:巨大カニに追いかけられる→サン河童の部屋の入り口にはサイズ的に入れない
シーナは分岐1に付いていきます
分岐した道はどれも白い石が全くないのでとても暗い
・分岐1
分岐1に入るとシーナが話し始めます(リプレイでは詳細は省略される場合があります)
「そう言えば、この海岸には伝説がありましたねー」
以前、この海岸はマーフォークたちに占拠されたことがあった。
それ以降、陽が沈むとマーフォークに殺された貴族の姫君の霊が現れて、生者を海底へ引きずり込むらしい。
「で、その幽霊が白塗りの悪魔メイクの女性と恐怖メイクの男の娘なんだそうですー。あれ、違ったかな?」
(その後に『幽霊の声』が聞こえる)
・分岐2
やたらと苔が多く滑りやすい道
どんどん涼しくなってきて、途中で坂になり足が滑って止まらなくなる
スライダーのように海中へドボン
小さいカニにハサミで鼻や指を挟まれる
・分岐3
真っ暗だ……
尖った岩が所々突き出ていてあぶない
光が見えた。仲間か奥の部屋か
巨大ガニの目玉だ!
狭くて暗くて戦いにくい!このまま逃げるか、戦うか
●浜遊び
討伐の後、だいたいの傷はシーナがアイテム等を使って治療するので浜遊びが楽しめます
水遊び以外にBBQなどが楽しめますが、文字数についてはご了承ください
以前、この場所で出て来た海女などは呼ぶことはできません
お久しぶりです。
黒歴史楽しみにしていますので、宜しくお願い致します。
ちろりるら様にリーナ・シーナの素敵なイラストを描いて頂きました。ありがとうございます。
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