シナリオ詳細
灼きたて邪飯!
オープニング
●ハツハツのチャーアン!
ラサ傭兵商会連合。
砂漠のオアシス、首都ネフェレストの輝きは冷えた熱砂に煌びやかな熱を映していた。
諸国における首都はいずれも個々の美しさが映えるものだが、ラサのそれは千姿万態である。
商いに不変は無い。当然ながら人々のニーズに応える上で必要なのは如何に人を惹きつけるか、なのだから。
首都ネフェレストの活気たるや、郊外に位置する小さな町の酒場からも伺える程である。
『夢の町』の灯りに当てられる事を嫌う男達。
はぐれの傭兵達が集う名も無きその町の酒場は寡黙ながら、居心地の良い場として誰もが静かに肴を手に緩やかな一時を愉しんでいた。
肌に冷たい風が触れる夜だった。
「いらっしゃい……なんだ、アンタ」
店内に響き渡るベルの音。酒場の店主は手近の客へ泡酒を配ると共に振り返り、思わず凍り付いた。
この寡黙な酒場で油が熱によって爆ぜる音が、鉄と鉄が打ち鳴らされる中で一定のリズムを刻み、奏でられる。
あまりに不釣り合い、不似合。
「アイヤー、ここがこの町の酒場ネ?」
「あ、あぁ……俺の店だ」
「じゃ、今日からココがワタシのお家ネ。根暗どもはとっとと尻まくって帰るが宜し」
「はぁ!?」
紅い中華服を纏い、今こうして会話している間も何故かチャーハンを炒め続けている男は「しっし」と顎で退店を促す。
さすがに黙ってはいられない。寡黙な店を好む傭兵達の中にも元々血の気の多い者は多いのだ、余りの物言いにカッとなった数人が得物を手に詰め寄るのに時間はかからない。
チャーハンの男は丸いサングラス越しに男達を一瞥すると、ザッザッと振る中華鍋を小刻みに揺らして言った。
「怪我したい奴等はキット脳みそも筋肉で出来てるネ。オマエラ頭大丈夫か、しっかりしろヨ」
「言わせておきゃァ……引ん剝いて転がしてやらぁこのクソ飯野郎が!」
「ばいばい」
直後、酒場に超高温のチャーハンが津波の如く迸った。
窓も扉も激熱の炒飯が押し流し、圧倒的圧力を以て破壊する。仄かに香る鼻を衝く様な香辛料の薫りが美味しそうだった。
この夜……名も無き町に名前がついた。
●流れのチャーハン
『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は四度見くらいしたという。
「ラサ、首都ネフェレスト郊外にある町を乗っ取ったギャング団を皆様に討伐して頂きます。
依頼者はギャング団に店を奪われた店主、パイン・ローレライ様──彼曰く敵は相当手強い様です」
真剣な表情で淡々と告げるミリタリアを前にイレギュラーズは頷いた。
対して、彼女は何処からともなく大皿を取り出しテーブルへ置いた。どうやら盛られているのは炒飯の類のようだ。
「何故それを?」
「食べても良いですが、出来立てのそれをよく見ておいてくださいね」
「……?」
「今回、皆様がターゲットとする敵はそのチャーハンを駆使して戦うからです」
意味が解らないといった顔で見上げるイレギュラーズに、ミリタリアはスプーンで一口掬ってみせた。
白い熱気。スプーン裏に薄ら浮き出る結露、一目で熱々だろうと分かった。
ミリタリアはそれをパクンと口に入れて続けた。
「敵構成員は腕利きとも称される者が十六、各武装はフライパンにオタマのみ。
ラサの砂漠を根城としていたギャング団『胸が熱くなる炒飯』の目的は首都に近過ぎず、遠過ぎない町の立地を利用して商人や他の傭兵団を襲うつもりのようです。
既に襲われた町に住む傭兵団の方々からは敵の詳細情報が寄せられています。彼等とも今後仕事の付き合いが増えるでしょう、是非この作戦に参加して下さい」
焦がしネギの香り。
パラパラに炒められたそれは、舌の上を転がって行く。ミリタリアに続いて一口食べた者はそう考え、それから気付いた。
「これを、投げつけて来るとか……?」
「その通り。火傷は必至、不可思議な術式で再装填される中華鍋から放出される炒飯の質量は物理的近距離において範囲攻撃に為り得ます」
それだけではない、とミリタリアはスプーンを炒飯の山に刺した。
「さらに……ギャング団の頭目とされる紅い服の男は、まるで津波の様な質量で炒飯をぶちまけて来たそうです。
依頼人も店をチャーハンまみれにされた以上、店の奪取はしなくていいから敵を討って欲しいようですね」
イレギュラーズは頷いた。
「この炒飯、美味しいっすね……!」
- 灼きたて邪飯!完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年06月21日 20時50分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●豆板醤の薫り
遠くに居ても超イイ香りが嗅覚をくすぐる事に『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)はそろそろ胸焼けを覚えていた。
というかもう、ファミリアーとの五感共有で自分もファミリアーもすっかり胸焼けを起こしていた。
「む、胸が? 熱くなるちゃーはん……? を駆除しないとね……ファミリアーが胸焼けでヘロヘロになるなんて初めてだよ」
「チャーハンタウンの名に一切違わぬ、美味しそうなにおいが返ってキツイね!
もしギャング団の制圧が成功したなら……試しに食べてみるチャンスがあるかな……? ハッ、いやいや。何でできているか分からないしね。きっと危ないに決まっているよね」
『プリンスフル・ワン』クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)も遠方まで香って来るチャーハンには興味が増すばかり。
人知れず、頭を振って否定していても内心はホカホカアッツアツのしっとり系チャーハンの事でいっぱいだった。
(しかし、アツアツのチャーハンか……戦闘が終わった後に食べたなら、さぞ美味しいんだろうな……じゅるり)
「いくらなんでも謎チャーハンは食べる気にならないな……冷凍食品にしたら丁重に捨てさせて貰おう」
((!?))
何気ない『今はただの氷精』アルク・テンペリオン(p3p007030)の一言がクリスティアン師匠を傷付ける。
でも落ちてる炒飯は食べてはいけない、自分でも言ってた。
そんな彼等はチャーハンタウンから少し離れた位置で仲間のファミリアーで偵察してから侵入する算段だった。
軽い胸焼けを覚えて来た頃に小さな文鳥がルフナの元へ戻り、彼の手の中で休憩を挟む。
ここまで町を見た所、どうにも件のギャング団はそうとう好き勝手しているようだが、好き勝手に動いてバラけている分イレギュラーズにとっては都合が良い。
それでも全員は確認できなかった事から一同は警戒しながら向かう事にした。
ただでさえ厄介そうな武装なのだから、油断は出来ない。
『戦バカ』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)に言わせればそもそも食物をぶちまけるなという話であるが。
「しかし連中の武器はなんだ……折角美味そうなのに正直食い物を粗末にするのはどうかと思うぞ」
「そういう勿体無い事するなんてダメー! この魔法少女アイドルのアウローラちゃんが成敗してくれるー!」
駆け出しアイドル『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)のウインクが小さく弾ける。
電子精霊たる彼女の放つ光に微かに照らされた際、不意に浮かび上がるスケッチブック。
ガスマスク被るクール系お姉さん、『マッドガッサー』円 ヒカゲ(p3p002515)がちょいちょいと示すそこには、
『ヒカゲちゃんも天誅を下すよ! と言っても心優しいヒカゲちゃんとしては殺生はなしで極力無力化だけで済ませたいんだけれど……
兎も角、くだらないエゴでみんなが危険になるのもアレだから全力でやるよ!』
と書かれている。
その文面に頷きながらクリスティアンは無理しなくても大丈夫さとフォロー。
「初依頼となるので皆様の足を引っ張らないか不安ですが、精一杯お手伝いをさせていただきますね」
「あ、私も初めてだから色々と迷惑かけるかもだけど、一生懸命頑張るからみんなよろしくね!」
『ヒカゲちゃんも初依頼だよ!』
月明かりを思わせる碧色を覗かせ、純白の甲冑姿で微笑む『月の女神の誓い』ディアナ・リゼ・セレスティア(p3p007163)が町への侵入を前にして改めて会釈する。
今回は彼女達にとって初の依頼仕事となるようだ。
「……まあ、肩の力を抜いていこうか」
その話を聞き、町の動向を遠目に探っていた『寂滅の剣』ヨハン=レーム(p3p001117)は初依頼がチャーハンタウンである彼女達の心境を想いながら装備を検める。
暫くして準備が整った彼等は町へ踏み出す。
本来なら静かだというその町に溢れかえる油音。飯を炒めるジュッワァァ音と共に聴こえて来る下卑た男達の笑い声はさしずめ世紀末か。というか匂い凄い。
果たしてこの町でイレギュラーズは何を食す事になるのだろうか……
●前張りラード! 後追い白胡麻油!
ラサの砂漠に夜が訪れる。
手持ちの光源が不要なほど灯りが点けられたチャーハンタウンの北側から侵入し、イレギュラーズが駆け抜けて行く。
ルフナ曰く、主に飲食店や露店でギャング団は屯している様だ。
しかし町の成り立ちからして建物が密集している為に死角は多い。全てのギャング団員を発見に至らなかった事もそこに起因している程だ。
今もルフナのファミリアーを先行させているが、敵の所在が不明な状況で油断は禁物である。
『よいしょーいっ、上からバッチリ見てるから索敵は任せてネ!』
そこで索敵役を名乗り出た、屋根上へ軽々と登るヒカゲがスケブと共にサムズアップする。
ガスマスク越しに眼下のヨハン達、視線を巡らせ明々とした町の中央に見える丘の上に酒場がある事を確認した。
辺りの警戒と並行し、直近のギャング団員達がいる場所へ進む途中でアルクがふと首を回した。
「火の精霊が多いな……連中に当てられてるのか?」
「あっ、それアウローラちゃんも思った。なんだかチケット7割売れた時の会場っていうか!」
「確かに……いや分かり辛いな、満席じゃないのか」
精霊種同士、町一帯に感じる精霊たちの気配が偏っている事を示唆する。
だが問題無いとも彼は言う。密度が高いという事はそれだけアルクが疎通を図れる程度の知能を持った精霊と出会う確率も上がるという、ツイてるのは違いない。
幾つかの角を曲がり、騒々しい一画が近付いた時。
逸早く敵影を見つけた上で仲間へスケブを一枚落として、ヒカゲが肩に担いでいたライフルを回した。
「シュコー……」
(エイムに自信はある。大丈夫、やれる――)
直後。リアルな金属と火薬が爆ぜる炸裂音を耳元で聞きながら、彼女は肩口に返って来る反動を受ける。
音速で宙を走る弾丸は捉えられずとも、ヒカゲはその眼(超視力)に映る相手が大きく仰け反ったのを確かに見届けた。
「何事アルー!? 敵襲! 出会え! 出会え!」
二本の髭をブルンブルンさせて中華服のギャング団員達が店先を飛び出す。
ヒカゲは遠距離射撃のポイントを変えるべくその場から移動する。
屋根から屋根へ。宿らしき建物に掛かっていた看板札を足場に一っ跳びしたヒカゲが宙返りと共に二発ライフルを撃つ。
「コソコソする時間は終わりか。任せな、あたしが仕留めそこなった奴ぶっ飛ばすから!」
火花が散る中、チャーハンをかき混ぜる男達の眼前にエレンシアが躍り出る。
(……。なるほど、見かけによらず丁寧な対応が必要か)
「そら、こっちだ」
飲食店から飛び出て来たふざけた連中を前に外套の下から大剣を抜くヨハン。
ハイヤー! と飛び掛かって来る中華服の飛び蹴りを受け止め、横でエレンシアが避けたぶちまけチャーハンを外套で払い除ける。
「コイツ、生意気アル!」
「僕はよく炒めた方が好きだよ!」
「チャーハンの話じゃないアル!!」
「邪魔だ――――!!!」
クリスティアンとヨハンがカバーする間を潜り抜け、一直線に突っ込むエレンシアの怒号。
「アイヤァァアアア!?」
一刀両断の如く、壮絶な打撃音に次いで屋台へ吹き飛ぶ中華服の男。
たった今した宣言通り、ヒカゲが最初に狙った敵を一撃の下に沈めたエレンシアがにっと笑って見せた。
「……シュコー」
ガスマスクの下の自分はどんな表情をしていたのか、彼女は一瞬困惑した様にライフルを揺らし。それから。
不思議と込み上げて来る熱い衝動。
鍋の上で波打つ飯のように突き動かされるがまま、ヒカゲは屋根上を駆け始める。
向かう先はエレンシア達が暴れている方向とは別、ルフナのファミリアーが空中で旋回しているその位置へ。
「集まって来たな」
別所から集まり始めるギャング団達を待ち構えるようにアルクが冷気を纏う。
「走りながらちゃーはんを炒めてるんだけど……いい加減に頭を冷やそうか」
ジャカジャカジュワァうるさい団員達がアルクの視界に入った瞬間、冷気が渦巻いて彼の頭上から雨の如く敵に降り注ぐ。
「イヤァァァ!?」
腰まである細長い針である。衣服はおろか中華鍋すら貫かれその場に縫い付けられた男達は零れた炒飯を見て、絶望的な表情を浮かべ崩れ落ちた。
(なんか結構余裕そう……)
まるで炒飯が零れて倒れたかのようだがルフナが奏でる冷たい呪歌によるものだ。
そんな彼の歌に乗ってボルテージが上がって来たのか、クリスティアンが炒飯を浴びながら焔に包まれている姿をバックにアウローラが煌めきを携えて登場する。
「盛り上がって来たー! みーんなまとめて狙い撃っちゃうよー!」
「お前達何者アル! このチャーハンタウンで大盛りを注文しようとはイイ度胸アルよ!」
「注文はしてないかな!」
決めポーズと共に放たれる魔力形成弾による弾幕が団員達を薙ぎ払い、コチュジャンが壁に撒き散らされる。
その隙を狙って細い路地から不意に飛び出す伏兵。アウローラへ無駄に良い動きで殴り付けようとしたおたまが火花を散らして吹っ飛んだ。
視界を巡らせようとする男。そこへ、中華鍋を持つ手から太腿へと瞬く間に二点射撃が射抜いた。
「さっすがー! ありがとヒカゲさん!」
『オーキードーキー』
状況を見てライフルを担ぐ。
培ったゲーム知識を無駄にはしない。周辺の状況把握に適していて仲間と離れない位置取りを考え、彼女は移動する。
「おのれよくも……俺達の団長がこの事を知ったらどうなると……」
「知るか、後でそいつ本人に直接聞いておいてやる」
脳天に叩き付けられる大剣、意識を奪うだけに留めた一撃に団員は倒れ伏した。
(ふん、俺も甘いものだな……悪党の生け捕りなど偽善でしかないというのに……)
外套にこびりついた炒飯を手で払いながら、ヨハンは苛立ち混じりに振り向く。
香る胡麻油。
火傷をディアナに癒して貰っているクリスティアンと目が合う。
「ふふ、シェルピアの光って冷たいんだね。熱々炒飯を受けた所がひんやりして気持ちいいよ。
それにしても……思ったよりも酷い技だねこれは」
「命に関わるダメージを受けないと言っても、お召し物がベタベタになってしまいますものね」
「……髪にへばりつくのも難だ」
前衛ゆえにヨハン達の被害(飯テロ)は地味に大きい。
攻撃にチャーハン、防御に中華鍋と。微妙に実用性のある戦法なだけあって厄介だとヨハンは思う。
しかしそこはそれ。
ここまでに彼等が片付けた敵は既に7人、順調な滑り出しである。
「この付近の敵はあらかた片付けたと見て良いな……頃合いか」
視界の端で索敵に徹している様子のヒカゲをヨハンは見上げる。
視線に気付いた彼女はスケブで『4人見つけた☆』と、四方向を指差して見せた。
「あ、いたいたディアナさん達。あのねー、酒場のある方の……手前?
でね! 困ってる子の声が聞こえたんだ、これって例のこの町に住んでる傭兵さんじゃないかな!」
「僕の方もファミリアーが何か見つけたよ。
町の端からこっちに光でなにか伝えようとしてたみたい……よくわかんなかったけど」
アウローラに続いて集まるルフナ達がそれぞれ報告する。
どうやら町の至る所に散らばってギャング団をやり過ごしている者達がいるようだった。
しかし者によっては負傷しているのか、助けを求める声も。
「傭兵さんも助けれるのであれば助けたいですね、救援を求む方々が無事であればいいのですが」
「……時間が掛かるな」
「それならこちらの成果が役立ちそうだ」
アルクが路地から戻って来たことで全員集合する。
彼の周囲では微かに香ばしい風が吹いているようだった。
「チャーハンの……精霊がな、敵に見つからないルートで傭兵達の所へ誘導してくれるらしい。これで上手く移動できるだろう」
「ちゃーはんの精霊って何だいアルク君」
クリスティアンのその問いにアルクは答えられなかった。
●
―――熱々チャーハンが敷き詰められた酒場に手下が駆け込んだ。
「大変ですボス!」
「何事ネ、これから新メニューの炒飯を考えようって時に」
「尻尾巻いて逃げ出したこの町の傭兵どもが集まって来てます……!」
「おバカネ。数揃えても塊になって来てる、愚の骨頂だヨ」
紅い服の男、ギャング団の長を名乗る彼は上質な中華鍋とおたまを手に構える。
彼が誇る超質量の炒飯の召喚術。これがあればどれだけ敵の数が多かろうと、上空から爆撃されでもしない限り地の利は男にあった。
町の方から野太い男達の怒号や罵声が聞こえて来る。
「他の手下どもはどうしますかい」
「近くに居る奴等だけ店の中に入れなサイ、うろついてるのはほっとくヨ。傭兵どもはアタシが蹴散らすヨ」
外から聞こえて来る罵声。
(ククク……さぁ来るネ、また美味いチャーハンを食わせてヤルヨ)
サングラスの下で団長の男は下卑た笑みを浮かべる。
このまま酒場へ殺到して来た傭兵達は今夜、また地獄を見る事になるだろうと期待して。
……その期待が閃光に消えるとも知れずに。
────────── チュドオォォォォォン!!!!
●パラパラ炒飯
火を放って逃げて来たエレンシアは背後を見た瞬間、思わず八重歯を覗かせ笑ってしまった。
「はははは! 色々と派手にぶっ飛んだじゃねーか! つか威力たけーよ!!」
町の中央に突如発生したドーム状の大爆発を見た他のイレギュラーズも凍り付いている。
きゃっほう、と飛び上がって喜ぶアウローラを除いて。
「すっごーい! これならギャング団も一網打尽だね!」
「というより消し炭になってそうだね」
目を伏せながらルフナは頷く。
というより町ヘの危険が危ない威力である、彼等と並んで口笛を吹いてやり遂げた顔をしている傭兵達はこれでいいのか。
「あの砲弾薬はネフェレストの『エルフェンマーラ砲』んトコに運び込む予定だったんだがな。まぁ奴等に目に物見せてやる料金ってことにしとくぜ」
「あんたらのおかげで精々したわ! ありがとよローレッ……おい見ろ!! 瓦礫の中から何か出て来るぞ!?」
「はぁ!!?」
傭兵達が口々に指さす方を一同は注目する。
風に運ばれて芳ばしい匂いが一気に流れ込んで来る。
「……チャーハンの中に逃れてダメージを軽減したのか」
「そうか、パラパラになる前の炒飯なら確かにそれも出来るかもしれない……!」
アルクとクリスティアンは驚きながらも納得した様子で息を呑む。
目を細めたヨハンは再び大剣を担ぐ。
「……しぶといな」
「良かった、まだ生きていらしたのですね……あんなに大きな爆発だったから心配しました」
「ディアナさんやさしー! でもそうだよね、アウローラちゃんの未来のファンになってくれるかもしれないし?」
そうこう言っている間に粉塵が丘を滑り降りて。
瓦礫の中から這い出て来た複数のギャング団員と、焦げた鍋を抱えた全裸の男がイレギュラーズを指差した。
「お、お前ら……! よくもコノチャーハンをコゲにしてくれたなー!!
お前達! 立て! そして行くネ! まずはあの黒い羽根の女をチャーシューの具材みたいに……ヘヴんッ!!?」
ばたり。
直前にパキュン、と銃声が鳴っていた方向へ視線が集まった。
「……??」
『あれ、今のクリーンヒットした?( ゜Д゜)』
抜き撃ちでの射撃でリーダー格の男が倒れた事で静まり返る空気に、焦るヒカゲがスケブに描いた文字が荒ぶる。
瞬間。この隙を逃すまいと他のメンバーが一斉に動き出した。
(最後まで拍子抜けだな……だが、悪くない)
大剣に淡い光が纏わりつく。
ともすれば鉄塊をも切り裂かんとするその刃は慈悲に覆われ、直後横薙ぎに切り倒した団員を不殺に留める。
ヨハンの背後で土砂が突き上がり、悲鳴が挙がる。それがアルクの使った魔法だと判断した時には今度は別の団員が錐揉みして吹き飛ぶ。
「ああー! だから動かないでねって言ったのにぃー!?」
「当たり所がそんなに悪くなきゃ、大丈夫だと思うぜ……っとなぁ!」
黒翼を一度羽ばたかせ、幾度目かの突撃。エレンシアの拳が錐揉み回転する男の顔面を見事捉え、エグイ角度で地に沈める。
そのまま勢いよく軸足を入れ替え、アウローラへ迫ろうとしていた団員の側頭部をハイキックで薙ぎ倒した。
最早、この夜の彼等はチャーハンを炒める隙も与えぬ猛攻を体現して見せる。
そして元より彼等は勝てる筈も無い。チャーハンは鍋だけでは作れないのだから。
──
───
─────
「大人しくして下さいね。傭兵さん達の後なのでそろそろ魔力が切れそうでして」
「あー……あったかいアル……」
ギャング団の討伐を完了した後。
慈悲深くも敵味方問わず怪我人をディアナが治療している最中。
いよいよ空腹と芳しい香りに抗えなくなったクリスティアンが酒場跡地で壊れた冷蔵庫を発見する。
「……ここにもチャーハンが」
それは精霊の導き。
辛うじて熱々炒飯の体を保っていた一皿のチャーハンを、冷蔵庫から出した。
今なら誰も見ていない。
ここにはクリスティアンと精霊(見えてないよ!)だけである。
「…………じゅるり」
数分後、クリスティアンのパンドラが散った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
依頼成功。
町のあちこちに撒かれたチャーハンは、とても絶品だったという。
だが美味しさは安全の保証にはならないのだった。
GMコメント
この依頼で勝利しなければフライパンから炒飯が零れる呪いがかかります。
以下情報。
●情報精度B
敵のチャーハンの素材は不明です。口にしていいかわかりません。
●依頼成功条件
敵勢力の討伐
●一匹狼達の拠り所にチャーハンタウンとかダサい名前を付けた奴等
許されません(憤怒)。
ギャング団の男達はそれぞれ町の中央、小さな丘の上にある酒場を中心に散らばり、他の店を荒らし回っている様子。
少なくとも未だ拠点として場も人も整ってはおらず、町のあちこちにはギャング団に敗れ隠れている傭兵もいるようです。
敵の体制が整うより前の段階である今こそイレギュラーズが叩くべきでしょう。カンカン、と。
『ギャング団【胸が熱くなる炒飯】』×15
武装:中華鍋&おたま(物至)
能力:炒飯キック・パンチ・ぶっかけ(物/至~中/単~範【火炎】)
『リーダー格の紅服』
武装:AF級中華鍋&AF級おたま(最大射程R1)
能力:チャーハン回蹴・正拳・スプラッシュ(物/至~中/単~範【火炎】)
召喚魔術式「羅王のチャーハン」(神/遠/貫【業炎】)
●ロケーション
町の規模は精々半径300m程度の小さなモノ。
家屋やお店なども高度10mしかない二階建てが密集しているイメージです。酒場も同様のサイズで内部はぎりぎり40m四方あるかどうか。
首都に近いとはいえ壁や警備システムが無いため、モンスター等の襲撃時に備え酒場の屋根上には非常時のスピーカーサイレンが存在します。
余談ですが酒場裏手北側には大量の酒樽と火薬が保管された倉庫が隣接しています。
以上。
ちくブレです、よろしくお願いします。
これだけチャーハンという文字を書いたのは初めてですが、皆様にお楽しみ頂きたいと思います。
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