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シナリオ詳細

海の底に咲く花を
海の底に咲く花を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●噤む想いを花に籠め
 青い海の底の底。
 陽の光も届かない、暗くて冷たくて、魚たちもあまり寄りつかない場所にそれは咲く。
 ナゲキハナ、と呼ばれるのは、さる乙女が身分違いの恋をして、叶わぬ想いに耐えられなくなり、船上から身を投げて亡くなったのち、砕けた魂の欠片がこの花となった、という言い伝えによる。
 叶わぬ恋。私の想いは海より深い。貴方の幸福を永遠に願う。
 今の僕に大切なのは、つまりそういう花言葉だ。
 言い伝えに残る、実在も定かではない乙女ではないけれど。
 君に恋して、その想いを伝えられずに、他国の男に嫁ぐ君をただ見ていることしかできない、意気地なしの僕に必要なのは。
 どうかこの花に宿された言葉を、君が知りませんように。

「は? 無理無理。つーかダメ」
「え」
 早朝、海洋のとある辺鄙な村。
 必要な道具を木製の船に積みこんで出発しようとしたトーロは、日課のジョギングに励んでいた友人に捕まった。
 漁に出るにはやや遅い時間になにをしているのかと問う彼に、ナゲキハナをとりに行く、ともごもご応えると、友人は真顔で首を横に振ったのだ。
「え、いや、だって、咲いてるよね?」
「そりゃあな、咲いてるだろうけど」
「泳げる、よ?」
「この村のやつは全員泳げるだろ。じゃなくて、あそこ、ハナクイが出るんだって」
「えぇ……」
「回覧板に書いてあっただろ」
「見てない……」
 友人が呆れたように息をつく。
 すっかり失念していた。
 ナゲキハナが咲く時期に、ハナクイという凶悪な魚が現れることがある。ナゲキハナが咲く場所は限られているので、そこに出現しなければどうにかとりに行けると思っていたのだが、今年は被っているらしい。
 よりによって。
「でもなんでナゲキハナなんだ? そりゃあ、あれ、とるの面倒くさいから、花屋にもねぇけど」
「……それは」
「ルルテに渡すのか?」
 曖昧な笑みを浮かべたまま、トーロが凍りつく。
 友人は納得したように頷いた。
「結婚祝いか。俺もなんか考えてやらねぇとなぁ」
「……うん」
「ま、そういうわけだから、どうしてもとりに行きたいならハナクイ、どうにかしろよ。食われるぞー」
 ひらひらと手を振って友人が走っていく。
 トーロは頭を抱えてうずくまった。
「どうしよう」

●深海に咲く花を求めて
「海洋でお花を摘むお手伝いをしてほしいのです」
 赤い丸印のついた地図を広げ、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は説明する。
「片想いの女性に渡したいそうなのです。報われない恋なのです」
 ほぅ、と息をつくユリーカは恋物語に思いをはせるように、天井を見上げた。
「ユリーカにはまだ早いな」
「そこ、聞こえていますよ! ボクだってもう子どもじゃないのです!」
 揶揄されたユリーカが眉を上げる。ペン先で指示された特異運命座標は知らない顔をした。
「とにかく! 邪魔な魔物を倒して依頼主の手助けをしてあげてほしいのです!」
 頬を膨らませたユリーカが催促するようにぱんぱんと手を叩く。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 告げられぬ想いを花に託して。

●目標
 ナゲキハナの採取。本数は問いません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 皆様が村に到着するのは昼頃です。
 そこから船で現場に向かっていただきます。
 用意したいものがあればトーロに申しつけてください。

 戦場は深海と船上です。
 ハナクイの出没地点、及びナゲキハナが咲いている場所は冷たくて暗い海の底です。
 クイドリが現れる船上は太陽が照りつけ、動けば汗が出る程度に暑いです。

●敵
『ハナクイ』×10
 ナゲキハナが咲くのと同じ時期に、ナゲキハナが咲くあたりに現れるため、村ではこの名前で呼ばれる。
 肉食で鋭い牙を持ち、非常に好戦的で執念深い。獲物を見つけると港まで追いかけてくることもある。
 海中での動きは素早く、回避力にも長け、なにより体力が高い。
 集団で襲ってくるが連携をとるのではなく、むしろ獲物をとりあう可能性もある。
 体長2メートルほどの魚。
 
・食らいつく:物近単【出血】
・突進:物中貫【飛】
・回転:物近範

『クイドリ』×6
 偶然その場に居合わせた鳥。生物の内臓を好んで食べる。
 鷲に似た姿をしているが、くちばしが鋭く長いのが特徴。甲高い声で鳴く。
 数羽ごとに同一の個体を狙う習性がある。

・つつく:物近単【出血】
・暴風:物中範【乱れ】
・鳴き声:物中域【麻痺】
・食べる:戦域に気絶者がいた場合、食べる。【自身のHP全快】

●貸与されるもの(使わなくても構いません)
・練達スーツ×人数分
 海種以外の種族の方であっても、海中で悠々と行動できます。息も苦しくなりません。
 ただし明かりをつける機能は故障しているそうです。修理は間にあいませんでした。

・船×1
 トーロが持っている木製の船です。やや脆いですが、ここで戦えないほど耐久が低いわけではありません。
 操船役としてトーロがついてきます。

●他
『トーロ』
 カワハギのディープシーの男性。23才。依頼主。
 ちょっと気弱。クイドリに襲われた場合、真っ先に悲鳴を上げる。
 ルルテとは同じ村で生まれ育った幼馴染。報われない片想いをしている。

『ルルテ』
 ハナダイのディープシーの女性。21歳。
 一週間後に幻想のとある一般男性に嫁ぐことが決まっており、それに伴い村を出る。
 幸せいっぱいの恋愛結婚。トーロの想いには気づいていない。
 花には詳しくない。

『ナゲキハナ』
 伝承から村ではこの名で呼ばれているが、本来の名前は『ディープシーリリー』。
 鮮やかな青の花弁と暗い青の茎と葉を持つ、大きめの百合に似た花。海の匂いがする。

 魔物を倒したりお花を摘んだりする依頼です。
 以上、皆様のご参加をお待ちしています!

  • 海の底に咲く花を完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月03日 22時30分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
黄昏き蒼の底
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ジェイク・太刀川(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヨハン=レーム(p3p001117)
落陽を望まぬ者
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
守護天鬼
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー

リプレイ


 空は快晴、動けば汗ばむ陽気。
 波は穏やかで風に嵐の気配もない。
「いい天気だぜ、船長!」
「それは、なによりでごぜーます……」
 上機嫌で報告した『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)に、自身の船を操っている『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)がのんびりと返す。
 同じ船に『黄昏き蒼の底』十夜 縁(p3p000099)、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の三名も乗っていた。
 ジェイクは感覚を研ぎ澄ませて索敵に専念している。ゼフィラは腕を組んで、首を傾げた。
「うむ……」
 失恋前提とはいえ、恋の手伝いだ。その手のことに疎いゼフィラは、どうも依頼人に共感できない。
 とはいえ、海底に咲く花には興味があった。この世界はやはり不思議に満ちている。
「楽しみだね」
 にんまり、ゼフィラの口の端が上がった。
 一方で十夜は甲板の、日陰になっているところに腰を下ろしてぼんやりしていた。
 海底――水底。暗くて冷たい――『其処』。
「ナゲキハナ、か」
 そんな花もあったと、細く息を吐き出して目蓋を伏せる。
 マリナの船に並走するのは、トーロが操船を担当する木製の船だった。大きさはあまり変わらないが、こちらの方が低速であるため、マリナの白夜壱号があわせている。
 二艘の距離は大声を出せば届き、しかし接触はしないという絶妙なものだ。マリナとカイトが注意して、これを保っている。
 トーロの船には、緊張気味の彼本人と、『寂滅の剣』ヨハン=レーム、(p3p001117)『揺蕩う老魚』海音寺 潮、(p3p001498)『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)の三名が乗船していた。
「……いたぞ、クイドリだ!」
 ジェイクの声がトーロの船にまで響いた。
「きたか」
 壁に背を預けていたヨハンが剣をとり、臨戦態勢に入る。
「トーロや、この子を預かってくれんかのう。名はポチという」
「へ、ポチ? え、サメ?」
 大げさなほど肩を揺らし、さっと青ざめたトーロに潮は小さな鮫を渡した。
 空中すら泳ぐ鮫と潮を、トーロは素早く瞬きながら見比べる。一瞬のことではあるものの、彼は恐怖を忘れていた。
「では、頼んだぞ」
 大柄な潮はにこにこと笑ってトーロの側から少し離れる。
「すぐにすみますので、何卒そこから動かれませんよう」
「声を出すな。目をつむっていろ」
 浅く頷いた雪之丞もすらりと魔刀を抜く。トーロを守る位置に立ったヨハンが淡泊な声で指示を出した。
「ギャア!」
「ギャアア!」
 二艘の船の真上に、六羽のクイドリが迫っている。
 戦闘に突入する前にマリナが釘を刺した。
「トーロさん、万が一襲われても私たちから離れたり、勝手に海中に逃げたりしないでくだせー……」
「はいっ」
 ぎゅっとポチを抱き締めて、トーロは目を閉じてうずくまる。
 ほとんど同時に敵がジェイクの間合いに入った。
「喰らえ!」
 垂直に降下してこようとした鳥に古銃を向け、ジェイクが叫ぶ。
 直後、砲弾が降り注いでクイドリたちの体や羽に直撃した。
「ギャアア!」
 甲高い声で鳴いたクイドリたちは、数羽ごとに分かれてイレギュラーズを襲撃しようとする。
 緋色の大翼を広げ、カイトが羽根を舞わせる。
「テメエら弱い猛禽類に、俺を捉えられると思うなよ!」
 煽る口調が普段より幾分荒いのは、海の上でありクイドリに対する同族嫌悪があってのことだ。
 四体のクイドリがカイトに殺到する。
 残る二体を引き受けたのは、雪之丞だった。
 柏手をひとつ。鈴に似た音色は戦場に染み入るように響く。
「参ります」
 魔刀が振られ、一体のクイドリのくちばしが半ばですぱりと斬られる。
「ギャア!」
 仰け反るクイドリを尻目に、もう一体が大きく羽ばたいた。
「甘い」
 すかさずヨハンが前に出て潮を庇い、風を裂くように大剣を払う。
「退いてもらおうかのう」
 暴風がやむのを見計らい、潮は手刀からサメの幻影を生み出してクイドリに放つ。
「向こうも順調そうだね」
 横目で隣の船の戦闘を確認し、ゼフィラは余裕の笑みを浮かべ、引き金を引く。
「ギャア!」
 長大な射程と貫通力を誇る魔弾に撃ち抜かれ、カイトを攻撃していたクイドリのうち三体が叫んだ。
「落ちろ落ちろぉ!」
 太陽光を浴びて炎のように赤く輝く緋翼が動く。熱毒を持つ風にクイドリたちは喚いた。
「こちらも手早く片づけましょー……」
「海の中にも敵はいるらしいからな」
 もっとも弱っている個体を狙い、マリナもグレイシャーバレットを放つ。凍てつく魔弾に怪鳥が悶えた。
 立て続けにジェイクの弾丸が命中する。
 クイドリの一体が息を大きく吸いこんだ。雪之丞が耳を塞ぐ。
「アアアア!」
 先ほどまでとは異なる声が、戦域に高く耳障りに広がる。面食らいつつも潮が仲間たちの麻痺を解除していった。
「無事だな」
「ふぇい……」
 ヨハンは肩越しにトーロの安否を確認する。
「上の空のようだな?」
「……ん、ああ、おっさんは大丈夫だ」
 ゼフィラに声をかけられた十夜が肩を竦め、手近なクイドリにブロッキングバッシュを叩きこむ。
「ならいいけどね」
 目を細めたゼフィラはそれ以上、踏みこむことなく牽制攻撃を放つ。クイドリが甲板に伏した。
 仲間の肉を突こうとしたクイドリは、背中からマリナに撃たれて骸を重ねる。

 さすがに無傷とはいかなかったものの、イレギュラーズは六体のクイドリの迎撃に成功していた。
「それ」
 太い針にクイドリの死骸や村で分けてもらった肉を引っかけ、潮は釣り竿を振る。
 村人の話では、釣り竿や釣り糸の耐久度からして吊り上げることは困難でも、これでハナクイをおびき出す程度はできるらしい。
「果報は寝て待つものじゃ」
 クイドリとの戦闘中、さり気なくその死体を集め、海中に血が混じらないよう気を配っていた潮は、とり出した氷菓子を口にして目を細めた。
「アンタは待機だ」
「多少揺れるかもしれません。お気をつけください」
「トーロが怪我をすれば、想い人も案ずるじゃろう」
 練達スーツを身にまとったヨハン、船縁の釣り竿の様子をうかがう雪之丞、氷菓子を半ば食べ終えた潮に言われ、ポチを抱き締めたままのトーロは大きく頷く。
「安心しろ、海の安全は確保してやる」
 同じく練達スーツをまとい、サイバーゴーグルをつけたジェイクが、マリナの船から不安そうなトーロを励ました。
「もー一仕事、ですねー……」
 額に薄く浮いた汗を、マリナは手の甲で拭う。
「あちー」
 暴れ回ったカイトは甲板で大の字になり、潮風を浴びていた。
 壁に背を預けて座り、目を閉じている十夜は眠っているようにも見える。
「もうすぐご対面か」
 深海の花に思いを馳せ、ゼフィラは口元を緩めた。
「ハナクイだ!」
「おおう」
 釣り糸が海中に向かって引っ張られ、設置した釣り竿すべてが大きくしなる。
 そうかと思えば、バキンと音を立てて折れ、エサ諸共引きずり下ろされた。
 覗きこんだイレギュラーズの目に、海面近くに浮上した貪婪な魚の姿が映る。
「船に上がってくることはなさそうだな!」
「好都合だ」
 ジェイクの銃の先が、さらなる餌を求めて泳ぐ魚群に砲弾を見舞う。つい先ほどまで静かだった海面がばちゃばちゃと乱され、ときおりハナクイの鋭い歯や立派なヒレが見えた。
 折を見て飛びこんだヨハンに続き、雪之丞、ジェイク、マリナ、カイトも海に入る。
「きもちいー!」
 羽毛に熱を篭らせていたカイトは海水の冷たさにご満悦だったが、すぐに意識を戦闘に切り替える。
 海に潜り、各々が確認したハナクイの数はあわせて十体。海面近くに五体、下方で釣り竿ごとエサを食べたり、強奪しあったりしているのが五体。
「一体ずつさばいて行こうか!」
 船上のゼフィラの銃から射出された魔力が、海面近くのハナクイの背ビレを裂いた。
 怒りに任せて船に突進しようとした個体が停止する。
「ほれほれ、エサじゃぞ」
「こちらにもございます」
 新たな釣竿を用意した潮が、海中でエサをまいた雪之丞が、それぞれハナクイの気を引いた。

 敵をひきつける雪之丞にハナクイが襲いかかる。
 突進はかわした。しかし間髪いれず、別の個体が小刀のように鋭い牙をむき出しにし、下方から猛然と泳いでくる。
 かわしきれない、と冷静に判断した雪之丞を、ヨハンが庇った。
「ぐ……っ!」
 食いちぎられそうな痛みに耐え、ヨハンは大剣をハナクイの目に突き入れる。
「――――!」
 声なき絶叫を上げ、ハナクイが血の尾を引きながらヨハンから離れた。
「俺は戦うことしかできん」
 なにか言いかけた雪之丞を遮り、海水を赤く濁らせながらヨハンは言う。
 雪之丞は目礼するように目を伏せ、鋭い斬撃をハナクイに見舞った。
「鳥ほど楽にはいかんかのう」
 何本目かの折れた釣竿を甲板に捨て、潮がヨハンの傷を癒す。
「数が多い上に諦めも悪いとは、厄介だな……!」
 海面に顔を出したハナクイの鼻先に魔力弾を叩きこみ、ゼフィラは苦い顔になった。
 船は二艘ともまだ無事だ。ハナクイが船の下などに潜りこまないよう、ゼフィラは常に目を光らせる。
 ゼフィラの攻撃を受けて一度海に沈み、すぐに浮上してきた個体に、十夜が攻撃を加える。その緑の双眸は、かすかに曇っていた。
「雑魚が、捕食者様に勝てると思うなよ!」
 海中と海面を行き来しているハナクイにカイトの爆彩花が炸裂する。
「後ろだ、カイト!」
「おうよ!」
 ジェイクの声にぐるりと一回転したカイトの足元を、ハナクイが走り抜けた。恐らく最も手傷を負っているその個体に、ジェイクが弾幕を叩きこむ。
 ハナクイはヒレも胴体もぼろぼろにしてなお、イレギュラーズを食らわんとした。瀕死のそのハナクイに、マリナが魔弾を撃ちこむ。
「いい加減、撤退してくれませんかねー……」
「交渉に応じるつもりはなさそうだな」
 渦が起こりそうなほど大きく回転したハナクイからマリナとジェイクを守り、ヨハンが眉間にしわを刻んだ。
 敵はまだ、半数以上残っている。
 ゆっくりと海底に沈んでいく個体に、他のハナクイたちは見向きしない。その肉が美味くないと把握しているのか、それとも自分たちに危害を加えてくるイレギュラーズを先に食べると決めているのか。
 一方で雪之丞や潮が囮として使うエサは奪いあって食べていた。
「退く気がないならすべて沈める。それだけだ」
 猛進してくる個体をかわしたヨハンの頬に、浅く傷が入る。すれ違いざまに大剣を振り、尾ヒレを裂いた。
 獰猛な魚であるハナクイは素早いが、機動力を削ぐことはできる。
「終いでございます」
 満身創痍になりながら、なおも戦意を失わず向かってくる敵を雪之丞は見据える。紙一重で噛みつきをかわし、口が閉じられる前に魔刀を差し入れた。
 急にとまれず、そもそもなにをされたのかも分かっていないハナクイが勢いを殺すことなく泳ぎ行こうとする。
 魔刀はハナクイの右の口の端から胴にかけて、柔いものに包丁を入れるように斬って見せた。
「しつけぇ」
 おびただしい量の血を流しながらも足搔こうとしたその個体に、ジェイクがとどめを刺す。 
 ジェイクの足を食おうとしていたハナクイの腹を、カイトが爆破し、
「って、ナゲキハナ大丈夫なのか?」
「まー……、大丈夫なんじゃねーですかねー……」
 二メートルに及ぶ亡骸に押しつぶされないかと案じるカイトに、マリナは首を傾けながら曖昧に応じ、敵を一体、凍結させた。
 同様の疑問が船上でも生じる。
「そこのところ、どうなんだ?」
 一拍遅れてゼフィラに話を振られたと気づき、十夜はハナクイを海に沈めてから応じた。
「背丈のわりに丈夫で、自生の範囲も広かったはずだ」
「ふむ。海底ならば照らさん限りトーロの目にも映らんじゃろう」
 死した魚は見なれているだろうが、ハナクイの大きさと激戦の痕跡は彼に見せるべきではないだろう。
 仲間たちを援護しつつ、残り少なくなってきたエサで敵の気を引いている潮の言葉に、ゼフィラは肩の力を少し抜いた。

 残り三体――マリナが一体を撃ち抜き、残り二体。
 イレギュラーズも消耗していたが、ハナクイも無事ではなかった。
 エサは尽きた。だが勝利は目前に迫っている。
 声なく巨魚が怒号を発し、瞬間の膠着が終わりを告げた。

「え、一緒に行っていいんですか!?」
 戦闘後、驚いた声を上げるトーロに、海に入った潮は頷いた。
「自分自身でとることにも、意味があるはずじゃろう?」
「万が一にも危険な目にはあわせない」
 ヨハンの体の先端が、海中で青白い電光を放つ。
「私も行こう」
 素早く練達スーツを身に着けたゼフィラも、船縁を蹴って海水に飛びこんだ。
「拙は船守を務めましょう」
「ああ、おっさんも残るから、安心して行ってきな」
 服の裾を絞った雪之丞が船上で請け負い、十夜は薄い笑みを虚ろに浮かべて手を振る。
「じゃあ、行ってきます!」
 意を決して、ポチを抱えたままトーロも船から海に移った。
 海種の青年だ、泳ぐのは造作もない。彼を守るように六人のイレギュラーズが深海を目指す。
 カイトの体は緋色に発光し、海に投げ入れられた永遠に消えない炎のようだった。
 電光に包まれるヨハンも仲間たちの視界を確保する。ジェイクは奇襲がないか、しっかりとあたりを警戒していた。

 暗く冷たく寂しい海中に。よりにもよってその底に、咲く花など摘みには行けない。
 は、と吐き出した息は自虐の形さえ保てておらず、十夜は片手で顔を覆った。
「その想いが、報われねぇなら」
 言葉にしても花に託しても、決して振り向いてもらえないなら。
「……なら、最初から諦めちまえば、こんな苦労して花を摘みに行かずにすむのによ……」
 ――なぁ、そうだろう。
 問いかけはトーロにしたものか、それとも。
「拙は」
 応じる声を予想していなかった十夜は、ゆるりと顔を上げる。いつの間にこちらの船に移ってきたのか、雪之丞が海を見つめていた。
「恋焦がれた相手の幸せを想い、それを花に託すことを選んだトーロ様は、お強い方なのだと思います」
 初夏の空気を含んだ潮風が、柔く過ぎていく。
 空青く、波穏やか。
 強張りかけた指から力を抜いて、十夜は船に手のひらを添える。
「……眩しいねぇ」
 彼方を見て目を細めた十夜に、夜叉の少女は「そうですね」といつも通り、表情なく感情もない声で同意した。

 深海の青い花が、カイトの緋色の光を浴びて暗く輝く。
 まるで嘆くほどの情熱を以て咲いたのだといわんばかりに。
「すごいな」
 感心したカイトに、実はこの光景を初めて見るトーロが頷く。
「海音寺も粋なことを思いつく」
 海底の花畑をざっと見て、ヨハンはほんのわずかに口の端を上げた。トーロを連れて行きたいと言ったのは、潮だ。
 ヨハンが泳げば、その一帯は電光の白さで照らされる。
「これなら十分に摘めそうじゃのう」
「ああ。俺ももらおう」
「うーん、興味深いね。研究し甲斐がありそうだ」
「俺も欲しい」
 ジェイクは幻想的で美しいものを好む恋人のため、ゼフィラは研究のため、海の匂いを好むカイトは花を堪能するため、それぞれナゲキハナを摘みとる。
 マリナと潮はヨハンに照らされながら、トーロの花束作りを手伝った。


「押し花やドライフラワーに加工できそうだのう」
 船に戻り、潮はナゲキハナを見て言う。
「幼馴染からのプレゼントじゃ、きっと大切にしてくれるじゃろう」
 ばたばたと翼を動かして乾かしていたカイトと、練達スーツを抜いたヨハンがトーロに視線をやった。
 青年は切なげな笑みを浮かべている。マリナが深く息をついた。
「トーロさん、言っちゃった方がよくねーですか? ずーっと黙ってると、モヤモヤで人生前向きに生きづらくなっちゃうと思うのですが……」
 かすかに眉根を寄せ、少女は言葉を選ぶ。
「僕も好きでした。おめでとう、祝福するよ! って……、好意を向けられて嫌な気持ちになる人は、そういねーと思います」
 たぶん、とマリナは口の中でつけ足した。
「せめて花言葉くらい伝えましょーよ」
 これで終わり、というのは、マリナもモヤモヤするのだ。
「想い人に花を渡すだけで満足なのか? 欲しいものは見ているだけじゃ手に入らねぇ。どうせなら、想いを告げて奪ってこい」
「うばっ……!」
 辛口の援護射撃を行ったジェイクに、トーロは目を白黒させる。ゼフィラが得心が行ったように頷いた。
「これが、あたって砕けろか」
「く、砕ける……」
「どうするかは自分で決めろ」
 助けを求めるような視線を、ヨハンはすっぱりと切り捨てる。カイトはナゲキハナの海の匂いを胸いっぱいに嗅いでいた。
 仕事をこなしつつもどこか上の空だった十夜は、唇を閉ざして虚空を向いている。
「ナゲキハナを贈り物として渡す際には、必ず水滴を拭うこと。水滴がついていると涙――嘆きがあるとして、不吉とされるのでございます。また、根元より十センチ以上切っておくことで、悲しみの根は断たれた、という意味にもなります」
 朗々と雪之丞は言う。
「すべて、村の方に教えていただきました。それをどのように生かすかは、トーロ様次第でございます」
 手元のナゲキハナの束と、借り受けたままのポチをトーロは見下ろす。
「……僕は……」
 青年はしばらく葛藤し、
「ルルテと話しを、してみます」
 決意をこめて、そう言った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

村に戻ったトーロは勇気を振り絞り、形を整えた花束をルルテに渡しました。
花言葉を伝える――ところまではできたようですが、告白に関しては途中で緊張に耐えきれなくなり、「友だちとして」とつけ足してしまいました。

ナゲキハナは押し花の栞とドライフラワーの飾りに加工され、ルルテが大切に持って行ったそうです。
トーロの傷は浅くありませんが、それでもきっと何もしないよりは、悔い少なき終わりとなったことでしょう。

ひとつの恋が終わっても海は変わらず、青く美しく。
ご参加ありがとうございました!

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