PandoraPartyProject

シナリオ詳細

木の葉を隠すなら森の中

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●逃げる男
 夜の森を、ひとりの男が駆けていく。
 地図等の道しるべは持っていないらしい。
 好き放題に木々が生え伸びた道なき道を、ただがむしゃらに走り過ぎる。
 何度も何度も後ろを振り返りながら、けれど決して立ちどまろうとはしない。
 葉影を抜け、月明かりに時おり浮かぶ姿は、どう見ても森歩きには向かない格好だ。
 貴族の侍従が身に着けるモノトーンの上下に、艶のある革靴。
 おそらくはホコリひとつ、シワひとつなかったであろうその礼服は、今や跳ねた泥があちこちにこびりつき、木や棘が布を引き裂き、ほころびだらけになっている。
 木の根に足をとられ、息きらし、何度転ぼうとも。
 荒い息をつきながらも、男は進むことをやめない。
 その腕に抱いた一冊の書物――革張りの本を、決して手放すまいと、歯を食いしばりながら。

●追う貴族
「ふふ、ご機嫌はいかが? 私はそうね、サロメ・ピンクな気持ちだわ」
 幻想種の美人情報屋プルー・ビビットカラーがそう告げ、ローレットを訪れたイレギュラーズ達に会釈する。
「さっそくだけど、どなたか手はあいているかしら? 先ほどさる貴族から、人探しの依頼があったの。探しているのは、その貴族の元で使用人として働いていた男」
 男の名は、ジュベール。
 もう何年も屋敷で働いていた、真面目で実直な男だったという。
 しかし。
「数日前に、お屋敷にある貴重な書物を盗んで逃げたらしいわ。すぐに追っ手を出したけれど、森に入ってしまい追いきれないと判断して、ローレットに話を持ってきたというわけ」

 最優先事項は、『盗まれた書物をとりかえす』こと。
 そして依頼人は、『逃げた男を始末する』か『生け捕りにする』ことを希望している。
「始末って……。盗みを働いただけだろう?」
「それなのに、殺してしまうっていうの?」
 ええ、そうよと、プルーが口の端をもたげる。
「私が調べたところ、その一族は最近たて続けに代替わりしたそうだから、内輪でひと悶着あったのかもしれないわね? おおよそ、対立している貴族やゴシップ屋に、情報を持ちこまれたくない事情でもあるんじゃないかしら」
 男が盗みを働いた動機は不明。
 だが理由はどうあれ、屋敷の内情をよく知る者を、野放しにするわけにはいかないのだろう。
「依頼人の貴族は、鉄面皮のような男だったわ。あの調子だと、男を生かして引き渡したところで、自分で何かしらの処断をくだすんじゃないかしら」
 ――盗みを働いた男は咎められて当然ではあるが、命までとるのはどうなのか。
 場がざわつくも、依頼を受けるも受けないも、すべてはイレギュラーズ達しだいだとブルーは口の端をもたげる。
「男はたいして腕っぷしが強いわけでも、特殊な能力を持っているわけでもないそうよ。森での捜索さえうまくいけば、特に難しい依頼ではないと思うわ」
 「さあ、だれが引き受けてくれるのかしら?」と、美しき情報屋は笑みをたたえながら、一同を見渡した。

GMコメント

こんにちは、西方稔(にしかた・みのる)です。

夜の森にて。
逃走中の男を追う依頼です。
シナリオの描写時間帯は、すべて夜間となります。

●依頼達成条件
・盗まれた書物をとりかえす

●逃げた男
貴族の屋敷で、長年使用人として働いていた男性。
『革張りの書物』を盗み、夜の森を逃走中。
依頼人からは、殺す or 生け捕りにして引き渡して欲しいと希望されています。
(どう対応するかで、貴族からの評価が変わります)

●森
貴族の屋敷ちかくにある広大な森。
道などの整備がされていない、手つかずの自然が残る土地です。
夜には、獰猛な狼も徘徊しています。


『どうやって男を探し出すか』『男の扱いをどうするか』が鍵になります。
その他、やってみたいこと、使いたいセリフ等がある方はプレイングにご記載ください。

それでは、よろしくお願いします。

  • 木の葉を隠すなら森の中完了
  • GM名西方稔
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月24日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
クルシェンヌ・セーヌ(p3p000049)
魔女っ娘
ソフィーヤ・ノヴァ(p3p000158)
完全食品精製工場
ジェニー・ジェイミー(p3p000828)
謡う翼
神宿 水卯(p3p002002)
ヴィクター・ランバート(p3p002402)
殲機
ライナス・ヴァン・アルベリッヒ(p3p002498)
紅玉の縁
ミリアム(p3p004121)
迷子の迷子の錬金術師

リプレイ

●無い袖は振れない
「さて、初仕事になりますが」
 『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)は『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)に向き直り、借りたい物があると、単刀直入。
「でも、用意で出発が遅れるぐらいなら、諦めるわ」
 続く『謡う翼』ジェニー・ジェイミー(p3p000828)の言葉に、『紅玉の縁』ライナス・ヴァン・アルベリッヒ(p3p002498)も、任務の不利になるのは本意ではないと同意する。
 プルーはくすりと笑みを浮かべ、懐事情があるものねと、頷いて。
「準備不足で任務失敗とあっては、ギルド・ローレットの評判に関わるわ。今回は特別に、ローレットから必要なものを貸与しましょう」
 『たいまつ』『カンテラ』『ランプ』等の光源。
 多彩な用途が期待できる『ロープ』。
 連絡手段に便利な『のろし』。
「必要なのは、これで全部かな」
 『迷子の迷子の錬金術師』ミリアム(p3p004121)が安堵の表情を浮かべる傍では、
「『鍋』が、必要です」
「作戦で使うんだ」
 『完全食品精製工場』ソフィーヤ・ノヴァ(p3p000158)と神宿 水卯(p3p002002)の二人が、声をあげていた。
 他にも、スープ用の具材や野営道具、変装用の衣装が欲しいという。
 プルーは「ずいぶん物入りね」と驚いたものの、希望の品を用意してくれた。
 今回は特別よと、プルーは念を押す。
「貸与したものは、どれもGOLDと引き換えに『ショップ』で購入できるわ。今後は依頼をこなして、装備を整えていくことね」
 最後に、依頼人が用意していた森と森の周辺地図が配られ、準備万端。
「暗いけど、頑張って探そうね!」
「さあ。ミッション、スタートだ」
 『魔女っ娘』クルシェンヌ・セーヌ(p3p000049)と『殲機』ヴィクター・ランバート(p3p002402)の言葉に、頷きあい。
 8人は急ぎ、夜の森へと向かった。

●闇夜行
 事前の相談により、8人は2人1組の4班に分かれ、それぞれ別の場所から森へ入る手はずとなっている。
 町を抜け、貴族の屋敷を横目に森へ向かえば、そこには「漆黒」と称するにふさわしい空間が広がる。
 ところどころ月明かりは降りそそぐものの、なにしろ、道などの整備がされていない、手つかずの自然が残る森だ。
 明かり無しに足裏の感覚だけで歩こうものなら、伸びる枝葉が身体や頭を引き裂き、往く者をはばむ。
 血の臭いは、飢えた狼を呼ぶ。
 一匹に察知されようものなら、あっという間に群れを呼ばれ、肉片ひとつ残さず喰らい尽くされるだろう。
 ――相応の手練れでなければ、夜の森には入れまい。
 逃げた男は、それゆえに森に入ることを選び。
 追う貴族は、それゆえにローレットに後を託した。

 光源を手に、最も早く捜索を開始したのはシェリー&ミリアム班だった。
 貴族の屋敷から見て森の左翼側に入り、『無音』のギフト――非戦闘時に限り自身の出すすべての音を意図的に消す事ができる――を使用したシェリーが先行。
 音の反響で周囲の状況を把握する『エコーロケーション』と、僅かな物音も聴き逃さなくなる『超聴力』の非戦闘スキルを併用し、効率的に偵察を進める。
 異変があれば仲間の位置に戻り、危険の共有と戦闘態勢に入る手はずだ。
 ミリアムは後衛としてシェリーの後を歩き、捜索済みの場所の木の枝を折ったり、木の幹に×印をつけていった。
(もう、ここは探さないってわけじゃないけど)
 明らかにひとの手によってつけられたとわかる印は、自分たちはもちろん、他班の仲間が通った際にも目印となるはずだ。
 ふいに、先行していたシェリーの気配が間近に戻り、告げる。
「前方、超遠距離位置に2体。狼が接近中です。備えてください」
 警告を受けたミリアムが素早く杖を掲げ、遠距離術式の発動準備に入る。
 引き続き警戒するシェリーが間合いを測り、
「3、2、1……今です!」
 声にあわせミリアムが術をはなてば、射程圏内に入った狼1体に命中。
 シェリーは一足飛びに間合いを詰め、はね飛ばされた狼にとどめを刺すべく、突剣で刺し貫く。
「シェリーさん!」
 声に跳躍すれば、残る1体の爪が背中をかすった。
 ミリアムのはなった魔力により狼の半身が爆ぜるも、貪欲に牙をむき襲いかかってくる。
「――あなたに、捉えられますか」
 挑発するような呟きは、血濡れの獣に理解できたかどうか。
 シェリーは軽快なステップで攻撃を回避した後、血のしたたる剣を構え、目にもとまらぬ速さで狼の首を掻っ斬った。

●餌食
 一方、ソフィーヤ&水卯班は。
「準備も無しに逃げ出したのなら、まず街に行くだろうしね」
 との見解から、逃げた男が向かいそうな町に目星をつけ、町の方角から森へと入っていた。
 この際、二人は『旅人』へと変装している。
 非戦闘スキル『変装』で巧妙に装った水卯に比べ、借りもののマントを羽織っただけのソフィーヤの姿はやや完成度に劣るが、人の多い場所に行くわけではない。
 この際、逃げた男が引っかかってくれればそれで良かった。
「ついに初仕事だね。あんまり後味のいい仕事とは思えないけど、仕方ないか」
 『超聴力』を使い、水卯が周囲を警戒しながら進む。
 しかし、狼の気配も、逃げた男の気配も、一向に感じられない。
 たいまつを掲げ闇をきりひらき、森の中央手前まで進んだところで、二人して荷をおろす。
 『ショップ』で借り受けた大荷物は、この時のために用意していた。
 疲労と空腹が蓄積しているであろう男を、あたたかい野営地と料理とで誘き出す作戦なのだ。
「私はスープ作りにとりかかります。水卯様は、テントの準備をお願いします」
 ソフィーヤは『調理用具』を。
 水卯は『テントセット』を使い、着々と準備を進める。
 『料理』スキルを使用したおかげで、スープは手早く、そして美味しくできあがった。
 狼が寄ってこぬよう肉を使うのは避けたが、スープの匂いが男にもわかるようにと、香り良く仕上げる。
 あとは、男が来るのを待つだけ。
「私は『演技』スキルとギフトを重ねて、新人冒険者のフリをしていくよ☆」
 これだけ準備をすればばっちりと意気ごむ水卯に、ソフィーヤがスープを手渡す。
「私は『ママ適正』を使い、男の警戒心を解く事を試みます」

 普段の口調を封じ、柔らかい口調で。
 ――そんなにボロボロになってどうしたの? 他に誰も居ないから話してごらん?
 男が気を許したところで、水卯が続ける。
 ――実は、さる貴族にこの地の内偵を頼まれたんだ。詳細は知らされていないけど、複数のチームが動いてるみたい!
 スープを飲ませて、テントへと導いて。
 依頼人が求めている『書物』の存在を確かめ、確保したなら、後は一撃で安らかに――。

 作戦の成功を確信していた水卯とソフィーヤは、テント前に座りこみ、スープを味わいながら他愛ない会話を交わす。
「ねえ、ソフィーヤの居た異世界はどんなところだったの?」
「元居た世界は戦争で荒廃しており、食糧難でしたので。今は、落ち着いてできる食事を、満喫しましょう」
 だが。
 男が見つけるより早く、2人のもとにたどり着いたのは。
 ――グルルルルルルル。
 スープと二人の臭いを嗅ぎつけて集まった、飢えた狼の群れだった。

●察知
 貴族の屋敷から見て森の右翼側に入ったのは、ヴィクター&クルシェンヌ班。
 ヴィクターのギフト『不安定なレーダーマップ』は、己の脳裏に周囲の存在と地形を見られるレーダーマップを展開する能力だ。
 事前に仲間たちをマーキングしておいたため、脳内マップには移動し続けるイレギュラーズの様子が、刻一刻と更新されていく。
 ヴィクターはペアを組んだクルシェンヌと位置情報を共有しながら、他班と捜索範囲が重複しないよう進むことに努めた。
 脳内マップはあれども、夜の森では視界はゼロに等しい。
 光源を手に、足場に注意を払いながら、用心に用心を重ね進んでいく。
「この音……あっちかな!」
 スキル『超聴力』を使用していたクルシェンヌが、跳ねるように駆けだす。
 ヴィクターも急ぎ後を追ったが、
「あ、これは……動物の……」
 地面に光源を向けたクルシェンヌが、がっくり肩を落としている。
 小動物の足跡が残っているところを見ると、逃げた男ではなかったらしい。
 光により視認できる範囲に目を凝らすも、ひとや獣の気配は感じられない。
「こんな調子じゃ、朝になっちゃうかもー」
 嘆息し、ふたたび耳を澄ます同行者のそばで、ヴィクターは思考を巡らせる。
(そもそも、だ。夜闇に沈んだこの森は、私たちイレギュラーズでさえ手を焼くような環境下だ。長年屋敷に仕えていたなら、この森が夜歩きに向かないこと、狼が徘徊していることは、知っていたものと推察できる)
 もし一般人が容易に踏破できる森であれば、依頼人はローレットになど依頼を出さず、自分たちで捜索していただろう。
 ――しかし、貴族はそれを成そうとせず。
 ――男は、危険を承知で森に入った。
(なぜだ?)
 脳内マップの仲間たちは淡々と移動を続けるばかりで、男を見つけたというような様子は見られない。
 しかし、その時だった。
 森の中央付近で停止していた2つのマーカーが、これまでにない速度で動きはじめた。
 その軌道は、まるででたらめで。
 不規則な軌跡を描きながら、ヴィクターとクルシェンヌのいる場所めがけ、接近してくる。
「あれ。これって、戦闘音?」
「狼の群れだ。こちらへ来る」
 様々な要素からいちはやく状況を察したヴィクターが、ものものしい重火器を構える。
「うん? って、ええー!?」
 明確な状況はわからないものの、しだいに近づく戦闘音と、獲物を追いたて駆る狼の咆哮は、いまやスキルに頼らずともクルシェンヌの耳にもはっきり届いていた。
 ――この暗闇だ。
 ――同士討ちだけは避けたい。
「こちらヴィクター。正面より牽制射撃を行う」
「散開! 左右に散開してー!」
 銃が火を噴くのと、クルシェンヌが警告を発したのは同時だった。
 真正面から攻撃を受けた狼が穴だらけになり、吹き飛ばされて。
「もう一発!」
 短杖を掲げたクルシェンヌの呪術が追い撃ちをかけ、さらに1体がギャン!と悲鳴をあげ、弾け飛ぶ。
 ゆらり立ちあがろうとした狼の眉間に、穴があいた。
 ライフルによる、狙撃だ。
 迫ろうと続いていた狼も、横あいから現れた影が蹴り飛ばす。
 こと切れた獣の身体は、森の木に叩きつけられ、地面へと落ちた。
「ごめん、数が多くて」
「援護に感謝します」
 続々と迫る狼たちへ牽制攻撃をしかけながら、現れた水卯とソフィーヤが礼を述べる。
 気配は、すでに10近い。
「すべて排除すれば、問題ない」
「大丈夫! こっちは4人いるからね!」
 ――どのみち、この騒ぎでは逃げた男も近寄りはしまい。
 イレギュラーズは覚悟を決めると、それぞれの武器を手に、狼の殲滅戦へと移った。

●発見
 激しい戦闘音は、森の一定範囲に響き渡っており。
 翼もつジェニーは、それを、森の上空で聞いていた。
 遠吠えと銃声の入り混じる方角へ灰の瞳を向け、嘆息する。
「酷い仕事ね。月夜で、まだ良かったのか……。それとも、悪かったのか」
 森の上では月は煌々と照っているものの、森の中に入れば、その恩恵はほとんど届かない。
 ライナスとペアを組んだジェニーは持ち前の翼を生かし、足場の悪い場所や上空からの偵察を行うことで、捜索を進めていた。
 木々の切れ間を見やれば、ライナスが手を振るのが見えた。
 ふわり舞い降りれば、安心したように駆け寄ってくる。
「ジュベールではなかったわ。仲間たちの誰かが、狼の群れと戦っている」
「応援に行った方が、良いでしょうか?」
 問われ、ジェニーは間を置いて、答えた。
「応戦している様子から、危機的状況とは考えにくい。わたしたちは、捜索を続けよう」
 逃げた男の処断は、見つけた班の意思に一任されると決まった。
 ジェニーもライナスも、できることなら男を殺めることなく、連れ戻したい。
「しかし、一体、どこにいるんでしょう……」
「ジュベールに先の展望がなく、警戒心が高ければ、ひと気の多い場所は目指さない。急いで逃げる意識が強ければ、走りにくいルートは自然に避ける」
 危険な森であることは、承知の上だったはず。
 しかし、もしも。
 ――追っ手も容易に手を出せないと踏んで、確実に森を抜ける選択をするとしたら。
 ――男に、「逃げ切れる」算段があったとしたら。
「男性には、ほとんど戦闘能力がないんですよね」
「そう。でも、力のないジュベールがどうやって狼から逃げきろうとしているのが――」
 そこで、気づく。
(木の上、だ)
 ジェニーはランタンを手に、再び翼を広げ、羽ばたく準備をする。
「ライナス、わたしは飛びたつ鳥を探す。この灯りを追い、木の下を歩く者、木に登る者が居ないかを見てくれ」
 森には今、狼の遠吠えが響いている。
 仲間たちの戦闘が、それを引き寄せている。
 気配を消し、やり過ごしながら、遅々とでも進むというのなら。
(今は、ジュベールにとってまたとない好機……!)
 息をつめ森の上に飛びあがると、すぐに、夜空を舞う鳥の群れが見えた。
 ギャアギャアと声をあげ、空を旋回する様は、ナワバリを侵した者を糾弾しているかのよう。
 滑空する。
 冷えた夜気が肌を撫でる。
 木々の切れ間から、ライナスが駆け寄るのが見える。
 その視線の先にあるのは、走る男の背中。
 モノトーンの上下に、艶のある革靴。
 ――見つけた。
 ジェニーは広げた翼で空を打ち、急降下。
 枝葉の合間をぬい男の前に着地すると、驚き、へたりこんだ男を見おろして、言った。
「わたしは森育ちだ。きっともう、逃げられないわ」

●末路
 その場で『のろし』をあげれば、森の中に散っていた仲間たちは、すぐに集まった。
 狼の群れと戦闘をしていた4人には負傷もあったが、致命傷ではない。
 ジュベールは現れたイレギュラーズ8人に怯えながらも、腕に抱えた書物はしっかりと抱え、離そうとしなかった。
「私たちは、貴方を助けるためにローレットから派遣されたの。もう大丈夫だよ!」
 狼に襲われていなくて良かったと安堵するクルシェンヌのそばで、ジェニーはあえて詳細を語らぬまま、続ける。
「この分だと、いつまでも逃げ切るのは厳しい。そして死ぬ」
 「死」という言葉を突きつけられ、男の肩が震えた。
 しかし、
「だめだ! 俺は、こんなところで死ぬわけにはいかない!」
 立ちあがり、駆けだそうとしたところを、シェリーが背中から抑えこむ。
 やむなくロープで縛りつけ、抱えていた『革張りの書物』を確保。
 これで、一応の任務完了だ。
「返せ! その本には!」
「何が書いてあるの?」
 男の声に言葉を被せたのは、ミリアムだ。
 長年使用人として働いていたのだ。
 盗んだのも、何か理由があるのでは?と尋ねると、男は唇を噛みしめ、苦渋を吐くように語り始めた。
 ――幼いころ、先々代の当主に拾われ、それ以来、使用人として働いてきたこと。
 ――先々代は穏健派貴族だったが、フィッツバルディ派貴族の陰謀により、引退に追い込まれたこと。
 ――その後、当主の座に就いた先代もろとも、武闘派アーベントロート貴族の手によって暗殺されたこと。
「その本は先々代の日記なんだ。あの方はご自分が暗殺されることを知って、『真実』を記したこの本を俺に託した。頼む。俺はそれを、白日のもとにさらさなければならない。そうでなければ、先々代に申し訳がたたない……!」
 本が貴族の手に渡れば、暗殺の事実は『無かったこと』にされるだろう。
 自分はどうなっても良い。
 だが、本だけは外へ持ち出してくれと、男は懸命に懇願した。
 しかし。
「手段を間違えたな。逃げるような事をするならば、もっと用意周到に行動すべきだったぞ」
「そうですね、あえて申し上げるのであれば。貴方は運がなかった、としか」
 すげなく告げるヴィクターとシェリーに、確保した本に眼を通していたソフィーヤが、頷く。
「男の言葉に虚偽はありません。これは、貴族の日々の所感が綴られた『日記』です。暗殺、陰謀に関する記述も見受けられます」
「でも、お仕事はお仕事だからね」
 水卯の言葉に、男の顔が青ざめる。
 ギルド・ローレットで交わした約束を反故にすることは、ギルドそのものの信用を落とすことに他ならない。
「それじゃあお前たちは、このまま悪徳貴族をのさばらせて良いって言うのか!」
 男の叫びに、クルシェンヌは小首を傾げた。
「うん? 世界が残酷なのは『当たり前』だよ?」
 もといた世界については何も覚えていないものの、それだけは忘れていない。
「ジュベール。考えてほしい。死んで、なにを遺すのかを」
 ジェニーがぽつり語りかけるも、男は涙して、答えない。
「わたしはいつか、それを謡うかもしれないけど。それは、今日のクソみたいな仕事の範疇じゃない。吟遊詩人の、仕事だ」
 男はうなだれ、何度も何度も、「ちくしょう」と地面を殴り続け。
 やがてぷつりと、糸が切れた人形のように、動くのをやめた。

 心身ともに傷だらけの男を連れ、屋敷の門を叩く。
 出迎えたのは、氷のような態度の長身の男で。
 黒い手袋をはめた手で『書物』と『男』を受け取ると、
「ご苦労」
 短く告げ、8人の鼻先で門を閉ざした。
 残されたイレギュラーズたちの手には。
 契約通りの報酬だけが、残った。


 目立たぬように。
 悟られぬように。
 そう。
 ――木の葉を隠すならば、森の中に捨てると良い。
 屋敷に戻った、あの男も。
 きっと、いまごろ。
 森駆ける狼の、はらのなか。

 『真実』はいつも。
 くらいくらい、闇のなか。
 
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

任務遂行、おつかれさまでした。

『謡う翼』へ。
彼の男、ジュベールの遺した想いを、託します。

――【断章の死音(しおん)】。

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