シナリオ詳細
<クレール・ドゥ・リュヌ>男女の逢瀬を見つめる狼
オープニング
●狂気に侵された者達
天義首都フォン・ルーベルグの黄泉帰りはなかなか解決の目を見ない。
聖騎士達や、依頼を受けたローレットも一つずつその事件を解決してはいるのだが、どうやら氷山の一角にすぎない状況らしい。
「ここにきて、天義首都フォン・ルーベルグを中心に狂気に侵された人による事件が表沙汰になってきているようです」
ローレットで、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が集まるイレギュラーズ達へと説明を行う。
フォン・ルーベルグ市民は非常に規律正しい人間が多い。だから、普段はそう言った事態が起こるはずはない。
それを考えれば、天義首都で生じているこの状況は、かつて<嘘吐きサーカス>が居た頃のメフ・メフィートでの事件を思わせる。
「レオンさんがざんげさんにこの状況について確認したところ、<滅びのアーク>の急激な高まりがあの事件を思い出されるのだそうです」
『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』が強く生じ、フォン・ルーベルグがおかしくなっているのはほぼ間違いない。
ただ、以前の事件のように、表立って感染を拡大させている動きは見られない。
「レオンさんは、誰かが『アンテナ』になっていると推測しています」
つまり、黄泉帰り人……『月光人形(クレール・ドゥ・リュヌ)』がそれを請け負っており、関係者を狂気に陥れている……と。
月光人形……自分と関わりある死者が生前の記憶、記録、人間性や知性を残して動き出したもの。
ただ、これらは魔種の操り人形であるのは間違いない。
「ひどい話です。月光人形は自分が魔種に操られていることを認識しながら、大切な人を狂気に落とそうとしているのですから」
未解決の黄泉帰り事件がここにきて表面化しているのは、関係者が狂気に侵されてきているためだろう。
ただ、ローレットが動いていなければ、これらの数は表面化した数では済まなかったはずだ。
●黄泉帰り事件を楽しむ狂気の狼
さて、ここからが今回の事件の本題だが、アクアベルが解決してほしい事件はやはり黄泉帰り事件と同様の1件ではある。
「ただ、状況はかなり良くありません」
黄泉帰り……月光人形となり果てたのは、戦いで命を落とした聖騎士の青年だ。
それを庇護しているのは、近場の教会のシスターの女性。
2人は元々恋仲であったことが知られている。
「表面化していなかったのは、このシスターの意向もあってですが……、それが逆に彼女を狂気に蝕み、危険な状況にしてしまっています」
さらに面倒なことに、魔種となり果てた獣種の男がこの状況を楽しんでおり、邪魔者を排除しようとしている。
どうやら、介入してきた聖騎士が2人ほど返り討ちに煽っており、未だ意識を取り戻さないのだという。
魔種は苦しむ両者を見て、楽しんでいる。むしろ、シスターが早く魔種に堕ちれば、自分の物になどと企てている。強欲の魔種の配下らしい考え方だ。
「能力はわかる範囲で纏めておきましたので、別途確認を願います」
解決すべきことはいくつかあって頭が痛いが、まず、月光人形となった聖騎士の討伐。彼は生前の力を持っているので気を付けたい。
次に、シスターの保護。このまま狂気に晒されていると、魔種に堕ちてしまいかねない。ただ、聖騎士と離れようとしない為、説得も必要となる。
最後に、強欲の魔種の討伐。こちらは戦うだけならすぐ可能だが、聖騎士やシスター方面に茶々を入れる可能性があるので、うまく抑えたい。
「以上ですね。……皆さんもくれぐれもお気をつけて」
狂気に堕ちるのはシスターだけではない。
旅人以外、混沌の住人であれば、『原罪の呼び声』の影響を受けて反転する危険は十分にあるのだから。
- <クレール・ドゥ・リュヌ>男女の逢瀬を見つめる狼完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年05月27日 21時00分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●月光人形と魔種
天義首都フォン・ルーベルグ。
イレギュラーズ達は現場へと急行しながら、今回の事態について語り合う。
「やれ、月光人形と言うのだったか、奴らは?」
『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)は表に出た一連の事件に呆れていた様子。
「一度は別れた男女の縁。再度紡がれるとは、ああ物語ではよくあるがね」
「ああ、なんともよくある話」
そこで、『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)がライハに同意する。
「騎士を黄泉帰らせて、その恋人であるシスターの行く末を楽しもうなんざ、この上なく趣味が悪いな」
「苦しむ2人を見て楽しむ……うん、この上なく邪悪だね」
「黄泉返りに、それを狂気への揺さぶりに使う魔種。輪をかけて不快ですね」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)の言葉に、『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488)や『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が顔を引きつらせた。
「反転……純種が感情に魂を売り、魔種に成り果てると?」
そんな真似は許すわけにはいかないと、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が声を荒げる。
「魔種か……。相変わらず悪趣味な事をする」
こっちは1人を守るのも命がけと、『寂滅の剣』ヨハン=レーム(p3p001117)は首を振った。
「大切な人が戻ってきたら……人は心動かさずに居られるのかしら……?」
「例え偽物でも、会いたいよ、縋りたいよ」
『レストおばさん』レスト・リゾート(p3p003959)の問いに、『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)が亡くした子供や孫のことを思い出し、すぐにその答えを示す。
「卑怯だよ、人の心を弄んで。絶対に許さない。想い合う気持ちを弄ぶなんて許せない」
「ムカつくよね、本当。死を冒涜して残された者の気持ちを踏みにじる。まるであいつらみたいで」
ソア(p3p007025)も眉を吊り上げて腹を立てると、リンネは元居た世界を思い出しつつ、きっちりツケを払わせようと仲間達に促す。
「狼さん? そんな悪い狼さんは首を狩られても仕方ないよね?」
ただ、リンネの事情を知らない沙愛那は、今回の魔種のことだと思って同意する。
「魔種の糸繰であるのならば、断ち切らねばなるまいよ」
「その観劇、精々邪魔をさせて頂きませうか」
とても、その物語はハッピーエンドでは終わらないだろうと、ヘイゼルもライハも疑わない。
イレギュラーズ一行はこの不快な劇に幕を下ろすべく、動き出すのである。
●寄り添う男女に真実を
住宅地裏手の森の中。
そこに寄り添うように、1組の男女がいた。
「どうか、見逃してくださいませんか……?」
シスターがメンバー達へとこの状況を放置してほしいと願う。
ムスティスラーフが魔種の出現に警戒する中、レストが近づいていく。
「死者が戻って来る……そんな出来事が多発しているのは、もうご存知よね?」
レストはシスターシンシアを優しく諭す。
「体が勝手に……!」
すると突然、イレギュラーズへと刃を突き付けてくる聖騎士アルバート。
彼の前に利香とヘイゼルが立ち塞がり、抑えに当たる。
「私達は敵ではありません! あなたを救いたいんです!」
両手長剣で切りかかってくる聖騎士の攻撃を防ぐ利香はギフト効果で甘い香りの瘴気を発しつつ、2人へと呼びかけた。
ヘイゼルは黙って様子見し、他メンバーを傷つけぬよう聖騎士のの抑えに当たる。
リンネやライハは状況を見つつ、彼らの為にと魔神黙示録を紡ぐ。
自らの体力気力を犠牲とするが、その分仲間達の気力を徐々に回復することができる。
一方で、シスターへの説得を続けるメンバーも。
「その男はアルバートじゃない。アルバートは既に死んでいるんだ」
「正体は、天義を混乱させる為に送り込まれた偽者のお人形……。近しい子を狂気に誘う為のね」
ジェイク、レストも事実を突きつけるが、シスターは頭を振る。
「シンシアちゃん、僕は君を責めないよ」
ムスティスラーフはシスターの目をしっかりと見て、語り掛ける。きっと、自分も同じようにするだろう、と。
「ただ、このままだと君は魔種になる」
そうなれば、彼が愛した君ではなくなるとムスティスラーフはシスターを諭す。
「……でも」
だからと言って、聖騎士と離れるなどシスターには考えもできないようだ。
(まずはシスターに我に帰ってほしいが)
それを、魔種の出現に備えるソアが見守る。
「人を辞めた先に愛など無い」
今のうちにと、声をかけたヨハンが示唆するのは、魔種に堕ちた時の事。
だが……。
「けっ、邪魔が入ってんな……」
面白くなさそうに、イレギュラーズの介入を見つめる狼の獣種らしき者の姿。
反転し、魔種となり果てたこの劇の傍観者、ブラッドなる男だ。
そこで、沙愛那が魔法と格闘の合わせ技で奇襲を仕掛けていくが、魔種も軽やかに身を翻して避けてしまう。
「魔種め……、邪魔者はすっこんでてください!」
聖騎士を抑える利香が告げると、その前へと、ジェイクが不機嫌そうに前に出て。
「気分悪いんだよ。てめえなんざ狼の風上にもおけねえ」
「シスターは守る、貴様は殺す」
さらに、ヨハンも笑い話にもならぬと強欲の魔種の進路を妨げる。
「想い合って傷ついてる二人の為にも……、この魔種だけは絶対に倒すよ」
首狩り白兎の名にかけ、沙愛那もその討伐に乗り出す。
●魔種ブラッド
1組の男女の様子を楽しむ魔種ブラッド。
「面白いんだから、黙ってみてろ」
半数余りがこの悪趣味な魔種討伐を優先し、その対処へと当たる。
「黙れ、お前なんかが汚して良いものじゃない」
敵が喋った隙を突き、ムスティスラーフは武器を一閃させた。
さらに、ライハは仲間達をエスプリ『英雄作成』の効果範囲に収めることを考える。
この戦いにおいて、ライハは縁の下の力持ちといった立ち位置だ。
その上で彼は飛躍的に力を高め、精神力の弾丸で魔種を撃ち貫く。
対するブラッドは攻撃を食らってもにやにや笑いながら、手近なメンバーへと飛びかかってくる。
「どれだけの力か見せてもらうぞ」
ヨハンは莫大な雷エネルギーを放電して盾を張り、対話しつつ相手の興味を引きつける。
とはいえ、ヨハンも引きつけだけで精一杯。
防御しつつ長く戦えるよう意識していたようだ。
「てめぇらより、奴ら見ている方が楽しいんだよ」
「強欲の魔種だか知らないけど、随分と下劣な品性の狼さんだね」
相手を煽って誘導するのが目的ではあるが、沙愛那はやや本心交じりで告げ、巨大な包丁で相手の首を狙う。
だが、相手は元々獣種。俊敏な動きで致命傷を避け、拳を叩きこんでくる。
沙愛那も行かせまいと身を張るが、魔種の力は強力だ。気を抜かずとも、意識を持っていかれかねない。
「余所見をする暇なんて、やらないからな」
ソアはシンプルに全身のばねを活かし、回し蹴りを叩きこんでいく。
合間を見て、彼女はリーディングを試みる。
魔種がシスターに対して、何か企んでいないかとみていたのだが……。
(俺の物にしてえなぁ。堕として俺の色に染めてやんぜ……)
そんな薄暗い考えをソアは読み取って。
「好きなんだろ。ずっとそばにいるといいさ」
「シスター、耳を貸したらダメだ!」
明らかに舌打ちした敵はソアへと接近して、毒爪を突き入れていた。
身を引くソアと入れ替わるように、ヘイゼルが他メンバーと接触せぬよう力で押そうとしていく。
「申し訳ありませんが、貴方様が最後に踊る相手は私なのですよ」
ヘイゼルは赤い糸を使い、自らと魔種を結びつける。
そうして、さらに魔種をこの場の2人から大きく離しにかかる。
ジェイクはそれを追って弾幕を張りつつ、後方のシスターへと呼びかける。
「そいつは魔種が操る、アルバートに似せた人形に過ぎない!」
「…………」
ジェイクの言葉に、シスターは戦おうとする聖騎士を見上げ、どうしたらいいのかと俯くばかり。
しかし、イレギュラーズ達は聖騎士を傷つけてはいない。
それは、シスターが狂気に当てられ、魔種となる可能性を考えての策だ。
「僕はシンシアのそばにいたいだけなんだ……!」
月光人形とされた聖騎士は生前の面影、思考のままにいるものの、体だけは勝手に操られているといったところだろうか。
利香はイレギュラーズを追い返そうとする聖騎士の斬撃を食い止める。
反撃は行わず、彼女はただ、シスターに呼びかけを続ける。
「本当にこれが彼の望みだったのですか?」
利香はとにかく、強欲に類する感情を煽らないよう最重要視し、言葉を選んで呼びかける。
「偽物の救いに魂を、愛を売り渡しちゃダメなんです!」
「アルバートちゃんは確かに戦死したはず……お墓参りもしたのではないかしら?」
レストも召喚したリボンで相手を束縛しつつ、シスターに声をかけ続ける。
こちら、聖騎士担当班もまた、魔種から離すよう誘導する。
「聖騎士アルバート……シンシアの為、引くわけにはいかない……!」
名乗りを上げる聖騎士は、布陣を大きく乱す危険がある。それを考慮し、両者の担当をできる限り離すよう動いていたのだ。
そして、その中央にいたリンネ。
やはり、聖騎士の名乗り口上の影響を受けぬよう、つかず離れずの位置をキープしつつ、仲間達が魔種から毒や狂気を、聖騎士から怒りや封印をもらってしまった場合のケアに動く。
「蘇ったとはいえ、魔種に手を貸すのは本当にアルバートの望む事かな?」
その上で、なかなか説得が進まぬシスター側へ、リンネも呼びかける。
「誇りある聖騎士の有り方を全うさせてあげられなくても、復活させたいのは彼の望みなのかな?」
「そ、それは……」
生前のままの姿でいる聖騎士。そして、生前の彼の思い。
シスター、シンシアの心が揺れ動く。
「ちっ、どきやがれ!」
それを遠目で見る魔種ブラッドは時折、面倒くさそうにイレギュラーズ達を払いのけようと大きく身を動かすのである。
●愛する2人に現実を
メンバー達によって、シスターと聖騎士、魔種の関係性の認識に齟齬があるが、少なくとも魔種が一方的に関与している状況らしい。
だから、シスターが魔種を助けることはないようだが……、それは彼女が人間種であり続ければ、の話だろう。
そんなシスターを魔種に落とそうと画策する魔種ブラッド。
数人がかりで魔種へと攻撃を繰り返し、沙愛那、ヨハン。
聖騎士、シスターの説得が難航する間、彼らの体力も徐々に厳しくなっていく。
「どきやがれ!」
荒ぶる魔種ブラッド。
抑えに当たる沙愛那、ヨハンの体力をみるみるうちに削ぐ。
狂ったように叫ぶ敵は、沙愛那、ヨハンを薙ぎ倒し、一度は地を這わせてしまう。
「絶対、倒すと言ったよ」
「無様に倒れようとも、諦めずに立ち上がる事だけが俺の取り柄だ!」
殴り倒されても起き上がり、戦線を持たせようとする2人。
彼らの為にとリンネが天使の歌を響かせ、レストが調和の力を賦活の力に転化し、ムスティスラーフが自身の宝石の角から蒼碧の光を放ち、メンバー達の癒しに当たる。
さらに、直接攻め込むソアもまた近距離で繰り出されたブラッドの拳に沈んでしまう。
ブラッドの持つ致死毒は脅威ではあるが、敵の攻撃はそれがなくとも恐ろしいまでの威力を見せる。
毒対策があれどもシンプルすぎた戦略が災いしたらしく、一度は倒れるソアもパンドラに頼ってその身を起こしていた。
魔種と交戦するメンバーが目に見えて疲弊していく傍ら、困惑するシスターの説得にも熱が入る。
「彼も、シンシアさんも本当に相手の事を愛していたはずです……偽物の救いに魂を、愛を売り渡しちゃダメなんです!」
聖騎士を抑える利香も徐々に、シスターの心を揺らがしているのは間違いないと確信する。
「こんなこと、ボクは望んでいないのに……!」
月光人形である聖騎士は自らがどういう状態にあるのか、わかっていないらしい。
「うおおおおおおお!!」
そこで、魔種が発する幻惑の咆哮。
「ううっ……」
ムスティスラーフがそれに侵されてしまう……と見せかけ、だまし討ちを行い、武器を一閃させつつシスター側へと呼びかける。
「魔種になってしまえば、彼が愛した君で無くなってしまうよ。本当にいいのかい?」
「君が本当に戦うべきは相手は、我々ではなく死んだ恋人を冒涜している魔種だ!」
叫ぶジェイクも時に、毒爪を躱せずにいた
強力な毒はエメラルドで身を守るものの、身体深くまで食い込む爪に命を削られ、ジェイクは運命の力で踏みとどまっていた。
その直後、魔種へと弾丸を掃射してから、ジェイクはシスター側を振り返って。
「君が本当に戦うべきは相手は、我々ではなく死んだ恋人を冒涜している魔種だ!」
「アルバートさん本人かどうかはひとまず置いといて、意にそぐわず戦いに駆り立てられているこの状況を許して良いのでせうか?」
ジェイクに続き、ヘイゼルが問いかける。
間違いなく、聖騎士が魔種にいいようにされているのは間違いない。
「彼には、貴女にそうなって欲しくないと言う自由もないのですよ」
「そう……ですね……」
シスターはヘイゼルの言葉に頷き、メンバー達にどうすればいいか求めていた。
そこで、レストが聖騎士へと問いかける。
「あなたはシンシアちゃんの様子を見ても……、まだ自分が死んでいないとお思い?」
「!? そんなはずは……!」
自らの状態については、聖騎士はやはり把握していない様子。
だから、レストは優しく諭す。
だが、それを許さぬ者が1人。
「好き勝手できると思うなよ……!」
己の欲のまま、荒ぶる魔種ブラッド。
そいつに立ち向かう仲間達の為にと、ライハはさらに己の身を削って詩を紡ぎ、もうひと踏ん張りさせるべく仲間達を鼓舞するのである。
●我欲の狼に裁きを
シスターを説得しても、聖騎士と魔種が荒ぶる状況は変わらない。
「うおおおおおおおっ!!」
追い込まれてきていた事を悟り、ブラッドはなおも狂気の力を解放していく。
「うりゃあっ!」
そこで、沙愛那が再び我流の魔術格闘混合技を浴びせかけ、魔種は大きくその身を煽られる。
続けざまにヨハンが仕掛け、大剣で光の十字を刻むが……。
毒爪を煌めかせた敵はヨハンの体を深くまで引き裂いて。
「力が見たかったんだろ。良かったな」
「さすがは魔種……か」
今度こそ地面へと沈められたヨハン。
だが、時間稼ぎはできたと感じつつ、彼は意識を落としてしまう。
油断などしてはいない。それなのに、力で一点突破してくる敵の力を強く実感しながらも、残るメンバーの支援を続けていく。
「ちっ……」
ブラッドも2人の状況を楽しむはずが、登場からずっとイレギュラーズ達より集中攻撃を食らい、全身傷んできてはいる。
前に進めぬ状況であればと、大きく身を引く魔種。
「目の前の成果を投げ捨てるんだ! 凄い! 太っ腹! 気前がいいね!」
そこで、リンネが強欲の衝動を刺激するよう叫ぶと、魔種はその身を硬直させる。
「逃がさぬよ獣が――」
そこで、ライハが前進して敵の行く手を遮ると、沙愛那が巨大包丁のような刀を振り上げて。
「じゃあね、悪い狼さん」
振り下ろした首は干し首にと、沙愛那は思いっきり切り落としてみせた。
だが、彼女もまた傷が深く、意識はあれども地面に倒れ込んでしまっていた。
●愛する2人の顛末
その間、聖騎士も刃を振るい続け、ヘイゼルが一時意識が途絶えかけ、パンドラの力に縋っていた。
自らの存在を疑問視する聖騎士は戸惑いながらも、月光人形たるその体は止まらず、メンバー達へと切りかかり続けていたのだ。
魔種との戦いもあり、ボロボロになるメンバー達だったが、気力を振り絞って。
「シスターを愛する気持ちがあるのなら、これ以上ここで戦う必要はねえだろ! 消えてなくなれ!」
ジェイクは呼びかけながらも、聖騎士へと銃弾を発射していく。
シスターは説得し、魔種が倒れた状態だ。もう聖騎士の姿をしたモノをこの場に留める理由などない。
利香はその身を刃で裂かれ、パンドラの力を使いつつも仲間に攻撃を任せ、前線で耐え続ける。
「誰でもない貴男でも。貴男としての、最後を」
ヘイゼルの言葉に、聖騎士は自らを操る力に抗い、シスターへと何か言葉を口にした。
「せっかく蘇った人を殺し直すなんて、僕だって辛い」
――だから、『告死』、安らかに眠ってください。
ムスティスラーフは武器を一閃させ、その人形を泥へと化していった。
聖騎士でなくなる瞬間。確かに、彼はさよならとシスターへと告げて。
「……お別れの言葉、よくできました」
「こんなことしかしてやれなくて、ゴメンな」
レストが一言褒めると、ソアも傷つく身体を起こして一言謝っていた。
全てが終わり、この場に1人取り残されたシスター。
「どうか、気を落とさずに」
利香がそっと、彼女を気遣う。
辛くて悲しいのは、シスターが本当に聖騎士を好きだったから。
「その気持ちを、どうか大切にしてあげて、ね?」
レストもまた優しく慰める。
シスターはしばらく、泥となった彼へとしばらく寄り添っていた。
――どうかこの2人が……来世で結ばれます様に。
沙愛那はそんな彼女達へと祈りを捧げるのである。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPはシスターの心を最も動かしたあなたへ。
厳しい戦いの中、一番彼女の状況を考えた言葉だったかと思います。
今回は本当にお疲れさまでした。
ごゆっくりお休みくださいませ。
GMコメント
イレギュラーズの皆様、こんにちは。なちゅいです。
クレール・ドゥ・リュヌのシナリオをお届けします。
こちらでは、補足のみ行います。
●注意
この依頼に参加する純種は『原罪の呼び声』の影響を受け、反転する危険性があります。
●敵
◎月光人形……聖騎士アルバート(元・人間種)
全身鎧に、両手長剣というスタイルで顕現しています。
黄泉帰り事件によって、蘇らされた死者です。
ベアトリーチェの自衛の命令の為、
本人の意思に反して抵抗します。
・セイクリッドスラッシュ……(A)神超貫・必殺・ブレイク
・名乗り口上……(A)物特特・怒り・自身中心レンジ2以内の敵のみ
・ピューピルシール……(A)神遠単・封印
・ノーギルティ……(A)物至単・不殺
◎魔種……ブラッド
獣種ベース、ベアトリーチェ配下、強欲の魔種。
15,6歳くらいのオオカミ少年を思わせる容姿です。
異常な身体能力を持ち、体術で攻撃を仕掛けてきます。
・毒爪……(A)物近単・致死毒
・飛び掛かり……(A)物中単・連
・幻惑の咆哮……(A)神超遠域・狂気・万能
・バーサーカー……(P)物攻+・BS無効
●NPC
◎シスター……シンシア(人間種)
恋人だった聖騎士が月光人形とされており、その庇護者となり果てております。
狂気に堕ちる危険が十分にあります。堕ちた場合は確実に強敵となることでしょう。
現場到着時、人間種としての彼女は回復の力のみ使うことができます。
・ハイ・ヒール……(A)神中単・HP回復・治癒
・シェルピア……(A)神自範・HP回復・BS回復・治癒
●状況
現場は人気のない住宅街の裏手の森の中です。
普段から、彼らはそこで会っており、
この状況になっても月光人形はこの場を選んでシスターと接触していたようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
Tweet