PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>シークレットハート

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●黒陽炎
 敵陣直中において敵を翻弄し舞い揺れる黒い陽炎のごとき姿をさして、天義の騎士たちの間でついた通り名、それが黒陽炎である。
「通り名持ちならば仕事を任せられると思ったが……」
 大きな魔鹿の角を背景に、白髪の老人オーギュスト・ダンドレイクは椅子に腰掛けていた。
 齢は七十前後になろうかという外見だが、背筋はぴんと伸び眼光は鷹のように鋭い。
 背後の魔鹿をはじめ数々の武勲をあげたことで爵位を得たダンドレイク家は首都でも名家である。
 そんな名家のホール。大きなテーブルの向かいに、アンナ・シャルロット・ミルフィールは小さく座っていた。その左右には計八名のイレギュラーズたち。
 オギューストは鋭い眼光でアンナをただ黙って見つめ、アンナはただテーブルの表面だけを見つめていた。
 沈黙だけを交わす二人の様子に、仲間たちは……。
「依頼内容は『月光人形』の破壊、でよかったんですよね?」
 と、切り出した。

●月光人形とクリミナル・オファー
 黄泉がえり事件が転義首都を騒がせている。
 死んだはずの人間がありし日の姿で現われるというもので、理性でわかっていても感情では割り切れないといった狂いがあちこちで生じた。
 だが死亡不可逆は神と世界の理。イレギュラーズたちの調査によって、これが魔種の生み出した偽りの人形であることが判明した。
 在りし日の姿とそれらしい行動情報、そしていくらかの感情をインプットされた泥人形。
 名を――『月光人形』。

 月光人形が魔種によって作られた人形であり、クリミナル・オファーの感染源になっていることは今や明らかだった。
 現在、魔種が集めているとされる『滅びのアーク』が急激な高まりを見せ、人々はあちこちで狂気的事件を多発させている。まるで幻想蜂起の再来であった。
 もしローレットがあちこちの事件を解決していなければ、水面下でより多くの事件が引き起こされていたことだろう。
 そして今……。

●選択せよ
「これが標的の月光人形だ」
 オギューストが提示した写真は金色の鎧を纏った騎士だった。
 資料にはヘイゲルという名と共に『黄金』という通り名が書かれている。
「かつて私と武勲を争った騎士だったが、戦いの中で命を落とした。私の目の前でな。それが在りし日の姿で帰還したという情報が入った。月光人形で間違いはないだろう。直ちに断罪を――」
 と、その時。
 ホールが爆発によってひっくり返った。

 テーブルがどこかへ吹き飛び、魔鹿の角が大きく傾いている。
 乱れる銃声や戦いの声。剣がぶつかり合う音が灰と煙の向こうから聞こえた。
 爆発の衝撃で数秒気を失っていたのだろうか、それともわずか一瞬の間にホールが崩壊したのだろうか、判別はつかなかったが、つける必要もない。
「お逃げください。『黄金』が……騎士団をつれて襲撃を……!」
 執事の服を着た男が駆け込んできたが、すぐに背後からの銃撃によって倒れた。
 マジックライフルを装備した軽装騎士がホールへ駆け込み、銃口をあなたへ向ける。
 だが引き金がひかれるより早く、しゃらんという鋼のはしる音がした。
 オギューストが杖に仕込んだ刀を抜き、騎士の指を切り落としたためである。
 銃を取り落とし慌てる騎士をホールから蹴り出し、オギューストは振り返った。
 彼の額からは血が流れ、片目を瞑っている。これだけの戦闘能力があれば先程の爆破からも回避できたはずだが……?
「襲撃を知られたか。ここはもういい。依頼は中止だ。家から出て行け」
 オギューストはそう言い捨てると、落ちたマジックライフルを拾ってホールの外へと駆けだしていった。

 ダンドレイク家からの依頼は中止されたが、狂気のアンテナである月光人形を倒すことは世界滅亡を避けるというイレギュラーズの使命でもある。
 月光人形である『黄金』の騎士を倒すことはもう決まっている。
 決まっているが。
 それ以外は?
 今すぐに決断しなければならない。
 関わるか、無視して通り過ぎるか。
 そして関わるのならば、どう関わるべきなのか。
 迷っている時間は、どうやらないらしい。

GMコメント

・成功条件:月光人形『黄金』の破壊
・オプションA:オギューストを見殺しにする
・オプションB:オギューストを助ける
・オプションC:月光人形以外も皆殺しにする
・オプションD:月光人形以外の大多数を不殺属性を用いて倒す
・オプションE:??????と???が??する

■■■概要と現状■■■
 月光人形は死者をもして作られた偽物です。
 ですが在りし日の姿や振る舞いがインプットされており周囲の者を惑わしてきました。
 今回は『黄金』の騎士が月光人形となり、後輩の騎士団を狂気に染め上げました。
 イレギュラーズを使った襲撃を察知した騎士団の若者たちはダンドレイク家へ襲撃を敢行。
 あなたは今、その襲撃に巻き込まれた状態にあります。
 依頼主になるはずだったオギュースト氏は自ら断罪を行なうべく戦闘へ参加。
 しかし(基礎能力が高いとはいえ)戦いを退いて長い彼が、騎士団を相手に戦いきれるとは思えません。
 月光人形を倒すことはイレギュラーズ及びローレット構成員である以上決まった使命ではありますが、『それ以外のこと』は今この場で決めなければなりません。

●メンバー構成と現状
 アンナさん及び参加PCは、大規模かつ突発的に集められたローレット・イレギュラーズとしてこの場にいます。(アンナさんが依頼に参加していない場合は途中で離脱したものとします)
 今居る場所はダンドレイク家の食堂。擲弾投入による爆破が行なわれ、無残な有様になっています。テーブルはひっくり返り、あちこちで火があがっているようです。全員咄嗟に回避行動をとれたためダメージはありません。

 オギューストは既に食堂を出て、屋敷内に入り込んだ敵騎士と戦闘に入っています。
 皆さんは今すぐ窓から離脱し、野外にいるであろう『黄金』へ直行し、周辺の戦力を沈黙させながら『黄金』のみを撃破しそのまま帰るという選択をとることができます。
 逆にオギューストを追って屋敷内の騎士たちと戦うこともできます。
 その際、騎士たちと戦う不利なオギューストを見殺しにすることもできますし、助けることもできるでしょう。

■■■敵戦力■■■
・騎士は若い新米騎士が殆どで、戦闘能力は皆低めです。
 そのかわり20人ほどが屋内外に散っており、ばらばらに戦っています。彼らは統率がとれておらず、かつ感情的で、見つけた戦闘員らしき人間を片っ端から攻撃するでしょう。
 これらは『黄金』の発する狂気に深く侵された者たちが突発的に蜂起したことと、その統率基板を『黄金』に委ねてしまったことに起因します。
 武装は主にサーベルかマジックライフルです。
 遠距離型と近距離型に分かれ、中には範囲攻撃持ちもちょこちょこ混じっています。(判別はまあまあ出来るものとします)

・『黄金』は在りし日の姿を模しているだけあってそれなりの個体戦闘力を持ちます。武装は両手剣のみ。CTの高さが強みです。
 確実に倒すためには、何人かで協力してぶつかった方がよいでしょう。

■■■オギュースト・ダンドレイクについて■■■
 これは恐らく蛇足になるかも知れませんので、読み飛ばしても構いません。
 テキスト量が膨大になるためOPから省かれた内容をいくつか書き記しておきます。
・オギューストはアンナの養父ですが、直接的な関わりはありませんでした。
 厳密には娘夫婦の子(つまり孫)という関係にあたりますが、その娘夫婦は国の命令によって断罪されました。他国から見れば行きすぎた断罪であったようです。
・オギューストは孫のアンナを養子として引き取ったが、薄情で忠国的という側面と『断罪した娘夫婦の子を特別に見逃して引き取る』という行動が矛盾しています。
・オギューストは信仰深くイレギュラーズ(神に選ばれた人々)に一定の敬意を持っており、先の常夜事件や『黒陽炎』の噂も聞いていました。この事実とアンナが担当についたことに落胆するようなリアクションが矛盾しています。
・オギューストはアンナやその仲間たちと同等程度の戦闘能力を持っています。しかし皆さんは最初の爆破を回避できたにもかかわらず彼だけがダメージを負った理由はなぜでしょうか。
・別れ際、オギューストは依頼の中止を宣言しました。信仰深く国家に忠実な人間であれば、迎撃を命じるほうが自然かもしれません。


■■■アドリブ度(やや高め)■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>シークレットハート完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月27日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

江野 樹里(p3p000692)
ジュリエット
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
セフィラ=クリフォート(p3p007107)
千年令嬢

リプレイ

●前に進むために選択はいらない。ただし選択をしたならば必ず前に進む。
 奴らはよほど上手な奇襲を仕掛けたのだろう。
 ぐらつく頭に手を当てて、『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は身体を起こした。
「全く、私としたことが咄嗟の事とはいえ自分の身を守るので精一杯とは。
 この調子では使えるべき主人が出来た時に守り切れないね、もっと精進しないと」
 ふと見れば『千年令嬢』セフィラ=クリフォート(p3p007107)が既に車いすに腰掛け、膝のほこりをはたいている。
「折角頂いていた美味しいお茶が台無しになってしまったわ。全く、お行儀の悪い人達ね」
「それには同感」
 部屋の外ではマジックライフル特有の銃声がひっきりなしに鳴り響き、敵味方の声が混じり合ってさながら戦場のようだった。
 否、戦場そのものである。
 静かでお行儀の良い屋敷は今や、天義で武勲をたてた貴族家と過去の英雄を祭り上げるニュービーな騎士団による紛争地帯と化していた。
「それにしても、あのオギューストさん……」
 『暗躍する義賊さん』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)は銃のコッキングを行なうと、新たな敵が部屋に侵入しないように扉の横に背をつけて外をうかがい見た。
「薄情で国が一番というタイプの人だと思っていましたけど……どうも、何か知らない心情がありそうですね」
 ちらりと振り返るルルリア。
 『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)が立ち上がって胸を張り、鞄からダネルマシングレネードランチャーカスタムのパーツと弾薬を一個一個取り出しては手早く組み立て始めた。平たく言うと爆弾を連射可能な銃である。弾倉部分のパーツが鞄の口より大きいため細長く改造したものを使用している。
 さておき。
「何にしても、おねーちゃんの家族にゃし……。見殺しは寝ざめが悪いの」
 皆はどう?
 ミアはそんな目を仲間たちに向けた。
 ここに集まったイレギュラーズたちの表面的な仕事は終わり、月光人形の退治という別の役目だけが残っている。
 つまりは『それ以外』の選択を、今すぐに求められている状態だった。
「依頼は破棄されましたが、私達は私達の思うままにできるということ。
 この屋敷の方達も。そして黄金以外の騎士達も救いましょう」
 提案に乗ります、という旨を宣誓するような仕草で述べる『ジュリエット』江野 樹里(p3p000692)。
 マルク・シリング(p3p001309)も自らの胸に手を当て、小さく頭を下げる。
「ええ。アンナさんのために、最上の結果を」
「仮にこの場にアンナがいなくても、僕はそうしたはずだよ」
 槍を担ぎ直し、『駆け出し』コラバポス 夏子(p3p000808)は仲間たちと、そしてアンナの顔を見た。
「人が生きていれば色々あるよ。蟠りとか諍いとかそういう画数の多い漢字の出来事がね。
 けど僕の方針はいつも一つだ。キープスマイル。笑顔のために頑張りたい。
 僕の、皆の、そして仲間の」
 仲間を指さし、部屋の外を……それもオギューストの出て行った方角を指さす。
「僕らは行く。アンナはどうする?」
「私は……行くわ」
 水晶剣を腰にさげ、新しくあつらえた不滅の黒布を腕に巻いて、『黒陽炎』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は立ち上がる。
「今なら分かる。この屋敷にいた頃の私は、ただ世界を嘆いて無気力に生きているだけだった。誰にどうなって欲しいとか、考えてなかった。
 だから周りが私どうなって欲しいって……期待をかけなくなったのが分かる」
「けど」
「そう」
 誰がきっかけだったろうか。
 何が始まりだったのだろうか。
 オリジンがどこにあったのかは、まだ分からない。
 けれどここがアンナのビギニング。
 踏み越えるべき、過去である。
「今なら分かる。分かるわ」
 布を強く握りしめる。八人は、走り出した。
 夏子はぱちんとウィンクをした。
「行こっか。ワガママを叶えに。力尽くで」
 世界はきっと、いつもそんな風に回っているのだろうから。

●世界にはいつだって血が流れていた
 通路を走るオギュースト。皺の深い目尻を開き、鷹のような眼光で剣を投げると騎士の腕へと突き刺した。
 壁を蹴って三角軌道で飛び相手の顔面を蹴りつけると、後続の騎士たちめがけてマジックライフルを三連射した。
 銀の盾をかまえ銃撃をはじき、曲がり角の向こうへと引き返す騎士たち。
「おのれ……安物か」
 血の流れる右腕をだらりと下げたまま左手だけでライフルの金属レバーを操作。コッキングを行なうと、角から再び飛び出そうとする騎士たちに牽制の射撃を放った。壁紙が焦げ付いて数センチほど削れていく。
 背後で物音。窓を突き破って侵入してきた騎士がオギューストめがけてマジックライフルを構えた。狙いは振り返ったオギューストの側頭部だ。
 オギューストは剣をとろうとして腕の痛みに顔をしかめた。
 一瞬の遅れ。鳴り響く銃声。
 死を覚悟したオギューストの視界には、高く蹴り上げたメートヒェンの脚があった。
 彼女のつま先はライフルの銃口をピンポイントで上に蹴り上げ、腰をひねった回し蹴りの動作で振り上げたもう一方の脚が騎士の顔面を蹴り飛ばしていく。
「貴様なぜ――」
「前方、来るよ」
 宙返りをかけてオギューストを飛び越えると、曲がり角から飛び出した騎士たちの銃撃に対して両腕を広げることで防御した。
 銃撃をまともに受けはしたが致命傷にはならないようにポイントをずらしている。
「依頼は中止したようですが、捨て置ける自体ではありません。共闘させていただきます」
 駆け寄ってきたマルクがオギューストの右腕に手を当て、ハイ・ヒールの術式を詠唱。力の戻った腕を上げ、手を開閉するオギュースト。
「頼んでいない」
「来るなとも言われていませんから」
 マルクは微笑み、そして振り返りざま手を翳して聖光を乱射した。
 窓から突入をしかけようとした騎士が警戒して引き下がる。
 その隙にアンナが通路を駆け抜け、窓際に伏せた騎士の首に布を巻き付けていく。窓越しに引っ張ることで相手を締め付け、水晶剣で切りつける。
 騎士を窓の外に放り出すと、アンナは振り返った。
 オギューストの顔を、目を、しっかりと見る。
 もしかしたら、これが初めて目を合わせた瞬間だったのではないかと思うほど、お互いの目の色がはっきりと見えた。
「――」
「――」
 驚きに目を見開くオギュースト。
 まだ何も言葉にしていないのに、何かが伝わったのがわかった。
 どたどたと靴を鳴らし駆け寄ってくるミア。
「いいたいことは、いっぱいあるけど」
 鞄に手を突っ込んで猫耳のついた球体を取り出すと、安全ピンを引っこ抜いて曲がり角めがけて投げ込んだ。
 爆発した催涙弾が広がり、突撃をしかけようとしていた騎士たちがむせかえる。
「おねーちゃんは、おじーちゃんに庇われるほど……弱くない、の!」
「アンナと縁深い貴方を死なせるわけにはいかないのです。一段落ついたら色々と聞かせてもらいますよ!」
 むせかえる騎士たちが奥へ引っ込むより早く、黒い魔法拳銃を連射するルルリア。
 騎士たちは銃撃に倒れるが、その足下にゴム弾がころころと転がった。
「非殺傷弾……?」
「そういうことです。彼らは『黄金』と言う人に騙されて狂っただけ。なら命を取るのは義理じゃないですよね」
「フン……獣風情が偉そうに」
 オギューストは嫌味っぽく言うと、口の端だけで笑った。
「ついてくるなら勝手にするがいい。遅れはとるなよ」

 正面玄関ではオギューストに使えている衛兵と黄金騎士団の騎士たちがぶつかり合っていた。
 そこへ車いすを猛烈に転がして突撃していくセフィラ。車体を傾けて急速にターンをかけると、非殺傷弾を込めた魔法銃を零距離姿勢で射撃していく。
「テロリズムなんて、騎士として恥ずかしくないのかしら」
 銃をターンさせて自分の胸に押し当てると、防御魔術を直接自身へと打ち込んで防御を固める。
 騎士たちがセフィラめがけて剣を振りかざす――が、吹き抜け階段の二階部分。手すりを越えるようにして飛び降りてきた夏子が槍を用いて剣を打ち下ろした。
 追って階段を駆け下りてきた樹里が真魔砲杖をくるりと回すようにコッキング。
 騎士の腹に突きさすかのように突撃し壁へと叩き付けると――。
「祈りなさい」
 至近距離で破邪の術式を打ち込んだ。圧倒的な魔術閃光がおき、騎士が白目を剥いて崩れ落ちる。
 そうして開いた玄関口めがけ、夏子は自らの槍を思い切り投擲した。
 着弾地点で激しい炸裂を引き起こし、駆け込もうとした騎士たちが隊列を乱して吹き飛んでいく。
「叔父上殿。僕みたいなのに言われても癪だと思いますが……後悔のない生き方ってのは、そんなに難しいですかね?」
「若造が分かったようなことを言うな」
 オギューストはこきりと首を鳴らすと、宝石のはまったたいそうな剣を持ち出してきた。
 鞘から抜いた刀身の色は黄金。
 表情を険しくしたまま夏子たちの顔を見る。
「まだやれるだろうな」
「少なくとも死んでは居ませんね?」
 長銃のベルトを肩にかけ、小首を傾げてみせる樹里。
 集まった九人が外に出てみると、黄金の鎧を纏った騎士が立っていた。
 鞘から抜いた剣の刀身は、黄金。顔は不自然なほど笑顔のままだ。
「亡霊めが。今更になって武勲が惜しいか」
「ひどいなオギュースト。友達じゃないか」
「友は墓の下だ。偽物」
 剣を突きつけ合う二人。
 駆けつけた騎士とイレギュラーズたちがにらみ合うように並んだ。
「貴族になると面倒ごとばかりが増える。国から降る武勲への期待。家柄の維持。政治ゲームもうんざりするほどだ。貴様も生きていれば似た目にあったことだろう。だが……今の貴様に言うべきことは一つだ」
 オギューストはイレギュラーズたちの顔を、アンナの顔を一瞥ずつすると、『黄金』をにらみ付けた。
「聖義のための犠牲となれ」

●思い出よりも優先されるもの。夢よりも正しいもの。
 隊列を組んでマジックライフルを一斉発射する騎士たち。
 飛来する銃弾を、夏子は槍の回転によってはじき飛ばした。
 激しく散る火花の中で、相手をぎらりとにらみ付ける。
「お前らぁ! 家族や国家に恥じない行動! してんだろうなあ!?」
 突撃、跳躍、跳び蹴りからのマウントをとる。
 槍で相手の首を押しつけ、至近距離で打ち込まれる銃撃を歯を食いしばって耐えた。
「アンナさん。頼みます」
 マルクは聖光とハイ・ヒールを交互に打ちながらアンナへと合図を送った。
 こっくりと頷くアンナ。
 イモータルクロスを大きく広げると、舞い踊るように閃かせた。
「この動き――『黒陽炎』か!?」
 意識を強制的に誘引された騎士たちが剣をとり、アンナめがけて斬りかかっていく。
 斬撃を紙一重にかわし、布を腕に巻き付けて相手を引き倒すアンナ。
 さらなる突きを跳躍によってかわすと、剣の上を走って騎士の頭上を飛び越えた。
 四方八方から突き出される剣。
 振り回した布と水晶剣が相手の切っ先を打ち下ろし、軽快な打楽器のようにリズミカルに打ち鳴らした。
 セフィラがヒールオーダーを開始。
「ふふふ、お茶の代償は高くついたわね?」
 くいくいと夏子に手招きをすると、『まるごと撃ってかまわないわよ』と合図した。
「んんんんん……わかった!」
 槍を投擲する夏子。
「私は……もう、家族を奪ってくる理不尽には屈しないわ」
 アンナは騎士たちを充分に引きつけてから、インパクトの直前にその場から飛び退いた。
 激しい爆発が起き、騎士たちが吹き飛ばされていく

 黄金の剣がぶつかり合う。
 そこへメートヒェンの跳び膝蹴りが繰り出され、『黄金』は派手に蹴り飛ばされた。
 重い鎧を纏っているにもかかわらず器用に転がって立ち上がり、片膝立ち姿勢のまま聖なる光を発射してきた。
 割り込み、布で払うようにかわすアンナ。
「お前は下がっていろ!」
「そんなにアンナ殿が心配かい?」
 反射的に叫んだオギューストに、メートヒェンが頬にかかった髪をかきあげながら振り返った。
「彼女はそんなに弱い子じゃないよ」
 再び突撃をかけ、立ち上がったばかりの『黄金』にまっすぐな蹴りを叩き込む。
 剣の腹でうけた『黄金』だが、それこそがチャンスであった。
 ハッと気づいて横を向けば、樹里とミアとルルリアが銃の狙いをぴったりと『黄金』につけている。
「金より光輝くこの一閃。太陽万歳――もとい『樹里の魔法』!」
 砲撃が発射され、思わず『黄金』が衝撃に吹き飛ばされる。
「邪魔です。貴方の出る幕はありません。退場してください!」
 側面へ駆け込み、飛び込むように跳躍するルルリア。相手の隙をつくように魔法銃を連射。
 多段ヒットした銃撃にトドメをさすように、ミアがグレネードランチャーをぽんぽん発射していった。
 ほぼ無防備な状態で爆発に巻き込まれる『黄金』。
 炎の中から手が上がったが、すぐに手は泥となって崩れて消えた。

●性善説が嘘つきなら、性悪説は偽善者だ。
「彼らの処遇は……まあ、国に任せておきましょう」
「そこまで手を加える義理もありませんし、ね」
 一人も殺さずに倒した騎士たちを拘束し、ついでに手当までしたマルクとセフィラたち。
「オギューストさん。僕、リーディングを――」
 最後にオギューストの手当をしたマルクは何かを言おうとして、夏子に肩を叩かれた。
 小さく首を振る夏子。
 苦笑し、オギューストから離れていく。
 代わりにミアがやってきて、えっへんと胸をはって見せた。
 目をそらすオギュースト。
「オギューストさん、こちらアンナちゃんです。そしてこちらはオギューストお祖父ちゃんです。両者見合って、はっけよ――」
 ギアが入り始めた樹里の首筋に手刀を入れ、口を押さえて引きずっていくメートヒェン。
「アンナ殿」
 とだけ言って、ウィンクをして去って行く。
 アンナとオギューストは顔を見合わせ、そして再び目をそらしあった。
「……」
 ルルリアがアンナの背をそっと押した。
「お祖父様」
 アンナは呼吸を整えて、そしてオギューストの目を見た。
「私は何が相手でも、大切な人を理不尽から守ると誓いました」
「何が相手でも、か」
「はい」
「そうか……」
 オギューストは立ち上がり、そしてアンナに背を向ける。
「さっさと帰れ。この家にお前の部屋など残っていないぞ」
 反射的に腕まくりをして身を乗り出そうとした夏子とミアを、マルクとルルリアが肩を掴んで止めた。
 マイクを手に身を乗り出した樹里はメートヒェンが羽交い締めにした。
「はい。もう、私にあの部屋はいりません」
 正義執行によって武勲を立てたダンドレイク家には必然的に正義への忠誠が求められる。期待は重圧となり、それが民の平穏と安心になる。
 逸れることも止まることも許されない正義のレールが、ダンドレイク家の宿命である。
 そのレールに乗ることを免れた少女が、アンナ・シャルロット・ミルフィールであった。
「私を頼ってくださっても、いいんですよ」
「見くびるな」
 オギューストは振り返り、そしてどこか嬉しそうに笑った。
「わしを誰だと思っている。お前の助けなどいらん。むしろ……」
 むしろ、から先は言わなかった。
 だがルルリアたちには分かっていた。
 むしろ頼れと、言いたかったであろうことくらい。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――beautiful end

PAGETOPPAGEBOTTOM