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シナリオ詳細

Astraphobia

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●荒れ狂う慈雨
 果ての見えない鼠色の雲。頬を濡らす雨がばらばらと降り注ぐ。森を断つ街道に横たわる馬の亡骸から溢れる血が、砂利の上で小さな小川を作っていた。
「はあ、はあ、はあ」
 一人の青年が、後ろを振り返りながら息を切らせて走る。激しい雨音に紛れて、ぎゃあぎゃあと耳障りな鳴き声が聞こえてくる。恐ろしいカラスだ。人よりちょっと小さいくらいにまで巨大化したそのカラスは、彼の乗っていた馬を突いて突いてすぐダメにしてしまった。ついでに青年まで突こうとしてきたから、慌てて彼は逃げ出したのだ。
 鳴き声の聞こえない方向へ、聞こえない方向へと彼は逃げていく。しかしそのうちに、彼はだんだんと気付き始めていた。
 背後から聞こえてくる。
 右から聞こえてくる。
 左から聞こえてくる。
 その度に逃げ回るが、間違いない。牧羊犬が羊を追い込むかのように、彼は森の中でカラス達に遊ばれていたのだ。耳を澄ましてみれば、だんだんその声がアホウアホウと聞こえてくる。
「くそっ! 何でこんな事に!」
 だんだんカラスの鳴き声が彼を取り囲み始めた。枝をバキバキ折りながら、その巨体をぬっと現わす。太い枝に留まって、ぎらついた眼をカラスは彼に向けている。血塗られた嘴が、ぬらりと光った。
「……来るな。来るな!」
 青年は叫び、近くの枝を振り回す。その時、空がかっと輝き、地を震わす轟音が響き渡った。思わず青年はその場に身を縮める。

「……お?」
 目を開いたとき、青年は目を疑った。周りを取り囲んでいたカラス達が、全身をピンと伸ばして硬直していたのである。蛇に睨まれた蛙のように、カラスはぴくりとも動かない。
「よ、よ……よし」
 彼は息を潜め、急いでその場を駆け去る。カラスは決して青年を追ってこなかった。

●雷を降らせる……?
「……そうです、また怪しい事件が起きたのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼書を君達イレギュラーズの前に突き出した。
「今度はカラスが混沌の影響を受けてしまっているようなのです。最初は取り囲まれて鳴き叫ばれた、という程度の報告でしたが、遂に乗っている馬が殺された、なんてところまで来てしまったのです」
 依頼書によれば、とある街道がカラスの根城となって封鎖されてしまっているらしい。このままでは各地の商業に悪影響が出てしまう。とっとと排除しなければならない。
「襲われた青年の報告によると、雷が鳴った途端、カラスはびくっとなって動けなくなってしまったようなのです。森の中を自在に飛び回る厄介なカラスですが、これを利用できれば討伐にぐっと近づくかもしれないです」
 とは言いつつ、不意にユリーカは顔を曇らせた。
「とはいっても、雲行きを見る限り、しばらく雨は降らなさそうなのですが……」

 雷が苦手な化けガラス。さりとてしばらく雨は降らない。突き出された課題に対して、此度のエージェントはいかに立ち向かうだろうか。

GMコメント

●目標
 化けガラスの討伐。
 以下の規定数を討伐した時点で終了となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 昼間。森の中で戦闘を行います。
 木々の間はやや狭く、槍や大剣などの長物を振り回す場合は細心の注意が必要になるでしょう。
 木の枝は堅く、上に登る事も可能です。
 雲一つない青空です。

●敵
 全部で10体。全て人間の子供並のサイズがあります。当然飛行可能で、爪や嘴の力は脅威です。
 混沌に脅かされてはいるものの、仲間間での意思疎通を可能としています。
 ただし、こちらと会話する事は難しいでしょう。

化烏×10
 何らかの要因によって巨大化し、人を襲い始めたカラスの群れ。人間にも被害を及ぼし始めていた。
 雷の音を聞くと恐怖か何かで硬直する様子。

・攻撃方法
→ついばむ…命中した場合、抵抗に失敗するとしばらく何かが怖くなる。
→飛び掛かり…単純攻撃。

●TIPS
 雷が苦手なようですが、何故苦手なのでしょうか。


初めましての方は初めまして。影絵企鵝と申します。
フォビア依頼の続きです。相変わらずルールの確認しつつといった趣ですが、どうかよろしくお願いします。

  • Astraphobia 完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月11日 22時20分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
特異運命座標
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
愛の吸血鬼
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ヘリオトロープの黄昏
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
マリス・テラ(p3p002737)
Schwert-elf
華懿戸 竜祢(p3p006197)
応竜
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
寝湯マイスター

リプレイ

●雷鳴轟け
 森林に挟まれた街道に踏み込むは、イレギュラーズ一行。レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)はじっと耳を澄ませた。ぎゃっぎゃと、低いカラスの鳴き声が響き渡っている。
「『カラスのせいで街道が封鎖されてる』なんて、何の冗談かって思うっすけど……」
 剣を抜き放ち、その視線を散らす。木々の奥に、深紅の輝きが見える。
「実際にそうっすから困るっす」
 もうカラスはレッド達に気付いている。盾を構えつつ、慎重にティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は光るカラスの眼をじっと見据えた。
「突然変異で襲うようになったのかな?」
『様々要因はあるだろうが、人を襲うのは事実だな』
 十字架に込められた“神様”が呟くと共に、カラス達は枝を鳴らして飛び上がった。陽光の中で旋回し、隊列を整え始める。
「何にせよ、駆除はしないとね」
 ティアは素早く茂みに飛び込んだ。陰から身を乗り出し、空のカラスをちらりと窺う。カラスの群れは、街道に向かって一直線に襲い掛かってきた。ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は帽子を手で押さえながら、素早く身を躱す。
(水恐怖症の犬の次は、雷恐怖症のカラス……この二つは繋がってるのかしらね)
 ジルーシャは先日の戦いを思い出す。どの犬にも、背中や腹に噛み傷が残っていた。また別の良からぬ存在が絡んでいる。その時ジルーシャはそう結論した。
(この子達も誰かから伝染されたのかもしれないし、今回も被害が大きくなる前に解決しちゃいましょ!)
 バイオリンを構えると、器用に旋律を奏でながら街道を走り出す。少しでも群れを刺激し、自らへ引き寄せるためだ。幸いここは森の中、ジルーシャの友はたくさんいる。
「よろしくね、みんな!」
 森に潜む精霊たちに語り掛ける。言葉はなくとも、精霊達は風に乗せてカラスの居場所をジルーシャに伝え続けていた。
 付かず離れずの距離を保って飛び回っていたカラスが、数体まとめて急降下してくる。レッドは炎を纏った剣で迎え撃った。カラスは枝を突き破りながら襲い掛かり、レッドを鋭く啄む。
「イタッ! イタイッ!」
 慌てて頭を庇うレッド。ジルーシャは咄嗟にその身を翻すと、バイオリンを転調させる。
「アタシをスルーして仲間を襲うなんて、イケナイ子ね!」
 どこからともなく、地面を滑るように深紅の炎がカラスへ迫る。彼を慕う炎の精霊、サラマンダーである。精霊はカラスにすり寄ると、カラスの身体を瞬く炎で包み込んだ。カラスはぎゃあぎゃあ騒ぎつつ、再び空へと舞い上がった。
 おどろおどろしい鳴き声に、ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は軽く肩を震わせた。空を蓋わんばかりに飛び回る姿は、ユーリエを言葉もなく威圧する。
(これだけの大きさのカラスが集団で襲ってくるなんて、とっても怖いですね……)
 しかしユーリエは立派なイレギュラーズ。ビビってばかりではない。柄に宝石、刃に彫刻の施された儀礼剣を手に取ると、その刃に雷を纏わせていく。
「ライトニングを使います! 離れてください! 鶫さんもお願いします!」
 カラスはぎゃあぎゃあ鳴き合って次々と森の中へと潜っていく。ユーリエは鋭く闇の中に目を配った。頭に叩き込んだ知識と、眼にしたカラスを素早く照らし合わせていく。
(あれほど大きなカラスなら、簡単に隠れられる場所は無い筈です)
 彼女は暗がりの中に目を凝らすと、儀礼剣を素早く振り抜く。宙を走る雷が、枝の影に潜んだカラスに直撃した。群れはバタバタと一斉に飛び上がる。弓削 鶫(p3p002685)は素早く砲身を構え、引き金を引いた。火薬の爆ぜる音が空気を鈍く震わせる。
「これでも、喰らうっす!」
 鶫の一撃に合わせて、レッドも爆竹を投げつける。閃光と共に、爆音が響き渡った。その光と音は、カラスの――レッドの心臓まで握りつぶした。
「ぎゃーっ!」
 思わずレッドは蹲る。震える少女に、ジルーシャは首を傾げた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「な、何か、わかんないっすけど、怖いっす……」
 レッドが震えている間に、空中で硬直した群れが次々地面に降ってきた。ティアは聖杯を掲げると、一羽に狙いを定める。慎重に手を翳して、内に秘めた悪意を増幅させていく。黒々とした霧が、カラスの身体を包み込んだ。カラスはぎゃあぎゃあ喚いたまま、何もできずに地面へ墜落する。
「困ったね。この恐怖も伝染っちゃうのか」
 ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は、カラスとレッドを交互に見比べた。水と雷という違いはあれど、その恐怖心が伝染する事に違いはないらしい。
「うむ、これ以上広がらないうちに止めないとね」
 森の小鳥達が、木陰に紛れて集まっている。ウィリアムの求めに応じて馳せ参じてきた仲間達だ。心の奥で、ウィリアムは小鳥に呼びかける。
(ありがとう。でも無理は駄目だよ。じっとしていて)
 鶫は、砲を半身で構えたまま、一連の光景を具に観察していた。光が瞬いてから数秒、音が弾けるその時まで。
「はて、音か電気か。或いはその両方か……皆様はどう見えましたか?」
 彼女は仲間達に尋ねる。尋ねつつも、既に彼女の中で答えは出ていた。稲妻が閃いても、カラスはさして動じていない。破裂音まで揃って初めて、カラスは墜落したのだ。
(光の次に音。雷のプロセスに対して、反応しているというところでしょうか)
 翼をばたつかせながら立ち上がり、カラスは再び飛び上がろうとする。懐から小型の擲弾を取り出すと、鋭くカラスの背中に投げつけた。放たれた電気が、2羽のカラスを麻痺させ強引に地面へ叩き落す。しかし、カラスは意識を保ったまま、バタバタと蠢いていた。
(やはり、鍵は音のようですね)
 素早く一矢を番えると、飛び立てないままのカラスに撃ち込んだ。どす黒い華がパッと咲き、カラスはぎゃあぎゃあ喚く。その隙に、暗闇の中から飛び出してきたマリス・テラ(p3p002737)が群れの中へと踏み込んでいく。
(悪さをするくせに雷嫌いの化鳥。……そのメカニズムはさておいて)
 目の前にいるのは人間並みの体躯を持つ巨鳥。これだけの肉を干し肉にしてやれば、しばらく食べるものには困らないに違いない。むしろ、胃袋ブラックホールの彼女でさえ食べきるに苦労しそうだ。
「流石にこのサイズは圧巻……どうせですから、報酬も増えると良いのです……が!」
 拳を固めると、テラは宙をくるりと舞い、カラスの頭に拳を叩きつけた。鈍い衝撃と共に、カラスはぐんにゃりとその場に伸びる。地面にすとんと降り立ち、テラは構えを取り直した。
「要狙いは絶許……こっちにきやがれ、です」

 かくして意気込むイレギュラーズ。そんな彼らの前に立ちつつ、華懿戸 竜祢(p3p006197)は口角を軽く持ち上げた。
(犬の次は鳥か、ただの獣に違いないな。……まあ、今日も今日とて皆の輝きに期待するだけ、いつものように敵を狩るだけさ)
 藪から飛び出してきたカラスが、その爪を竜祢に突き立てようとする。大剣の腹で弾き返した彼女は、柄を両手で握り、槍のように切っ先を突き出し、その翼を貫く。大剣を目一杯に大振りする余裕はない。一体一体確実に、その移動力を削ぐしかなかった。
 地面でもがくカラスを見下ろし、竜祢は爛々とその眼を輝かせる。
(しかし、目の前の脅威を消すだけではラチが明かんな。……まぁ、たまには死体を調べるのも悪くはないか)
 くつくつと、竜祢は小さく愉悦の声を洩らすのだった。

●稲光よ輝け
 空へ再び舞い上がるカラスの群れ。カラスに憑りつく何かのせいか、図体が大きくなったついでに、随分しぶとくなったらしい。ウィリアムはその指で魔法陣を描くと、カラスに向かって手を翳した。
「雷を演出するなら、僕にもお誂え向きの術がある」
 ウィリアムの手に光が集まっていく。そのそばに寄り添い、鶫はキャノン砲を構えた。
「ならば、今度はもっと大きな音を立てて見せましょう」
「わかった。宜しく頼むよ」
 目配せしつつ、ウィリアムは狙いを定める。カラスがバイオリンを構えるジルーシャへ飛び掛かろうとした瞬間、彼は雷光を放った。光は蛇のようにのたうちながら、何羽ものカラスを次々に射抜いていく。
 その後を追うように、鶫は間合いを詰めて砲身を構えた。組み込まれた射出機構がプラズマを溜め込み眩い輝きを放つ。
「この火器のプラズマジェットも、雷音に近い音は出ますが……はてさて」
 引き金を引いた瞬間、2インチの弾頭が放たれる。弾けた轟音がカラスの耳に突き刺さり、石像のようにしてしまう。狙い通りだった。
「雷音は、プラズマによる空気の急激な熱膨張が原因なので。音はよく似ているのです」
「物知りなんだね」
「お褒めの言葉に与かり、光栄です」
 微笑むウィリアムに、鶫は小さくお辞儀した。その背後から身を乗り出し、ユーリエは赤黒い鎖を取り出す。吸血鬼としての矜持を込めて、彼女はチェーンをぶんと振り回した。チェーンは彼女の意志に応えると、するするとうねり一体のカラスをその場に縛り上げる。
「今ですっ! 続いてください!」
「……うう、やっぱりダメっす」
 しかし、雷鳴を聞いたレッドは相変わらず縮こまっている。ティアが見かねて傍に跪いた。
「大丈夫ですか? これで何とかなれば良いのですが……」
 彼女はレッドに向かって治癒の光を当てる。レッドの傷が、見る見るうちに癒えていく。
「……はい、これでどうでしょうか?」
「ありがとうっす。もうどうなる事かと……」
 ティアの光は、レッドの恐怖心をも拭い去っていた。何とか立ち上がると、レッドは目の前の木を駆け登る。
「今度こそ攻勢にでるっす!」
 目の前のカラスの翼を切り裂き、彼方のカラスに向かって尖った石ころを鋭く擲つ。漆黒の羽根が散り、どす黒い血が溢れた。我に返ったカラスは空へ飛び上がろうとするが、ジルーシャはそれを見逃さない。小川のせせらぎのようにバイオリンを弾き奏でた。
「フフ、皆いい子ね♪ おイタが過ぎる子たちに、キツーイお灸を据えてやりなさいな」
 不意に小雨が降り注ぎ、水の精霊が姿を現す。胸元に手を翳し、精霊は朗々と歌い始めた。声は海色の気となってカラスを包み、息の根を締め付けていく。這う這うの体で飛び上がる群れの背中に、ウィリアムは曲刀の切っ先を向ける。
「これ以上暴れるのは無しにしよう」
 刃に魔力を纏わせ、その場で幾度となく振り抜く。右に左に飛び回った見えない刃は、一羽のカラスを容赦なく切り刻んだ。黒い羽根がばらばらと飛び散り、血まみれのカラスは地面にぐったりと倒れた。
 次々と死んでいく仲間には構わず、カラスは喚きながらばらばらに飛び上がろうとする。並んで突っ込んできた姿はどこへやら、すっかり烏合の衆の様相だ。マリスは胸の宝石を輝かせ、黒く染まった両腕を正面へ突き出す。
『手伝ってやるかぁ』
「何時も手伝うべき、です」
 テラは不平を呟きつつ、飛び去ろうとするカラスに組み付いた。その首に手を掛け、一息に筋を切り裂く。断末魔の叫びも聞こえない。カラスは仰け反り、地面にどさりと落ちた。血に塗れた手をぱらぱらと払いつつ、彼女はふと溜め息をつく。一発放つだけで、どっと疲労が溜まっていた。
「うーん、燃費がよろしくない。クールタイムを……」
 与えてくれる暇もなく、カラスはせいぜいの反撃とばかりにテラを突っついてきた。咄嗟に両手を突き出し、彼女はその身を庇う。
「もう一撃です!」
 ユーリエと鶫が息を合わせて放つ、眩い稲光と轟音。テラに群がっていた4体のカラスは再び地面へ墜落する。見た目は悍ましいが、弱みを突けば只のカラスも同然だ。
「全部殺す必要あるんすかね? ボクとしてはここを追い払えるならそれでもいいって気がするっすが……」
 レッドは紅く染まった石ころを拾い上げ、口を尖らす。仕事の肝は街道の開放。悪意のない獣を無理に狩り尽くす必要はないと思っていた。
『いや、放置すればこのカラスを通じて感染がさらに拡大するだろう。ここで確実に仕留めておく以外に選択肢は無いな』
 “神様”は淡々と言い放つ。聖杯を掲げ、既にカラスへ手を掲げていた。闇がカラスを包み込み、その生命力を呪詛で奪い去っていく。カラスはその場でしばらくじたばたしていたが、やがてぴくりとも動かなくなった。
 竜祢も倒れたカラスの正面へと踏み込む。剣を渾身の力で振り下ろし、カラスの頭を真っ二つに断ち割った。体液を驟雨のように浴びながら、彼女は微笑む。
「時には非情な決断を下すのが正解という事も覚えておかねばな。今回も、いっそ私を巻き込んで攻撃をしてくれたって良かったのだぞ」
 冗談交じりに言ってのける竜祢。ユーリエは思わず声を上ずらせた。
「出来ませんよ! ……私も出来れば、懲らしめる程度にこてんぱんにするだけに留めておきたかったですが……ここは先達さんの意見に合わせます!」
 ユーリエは再び鎖を振るうと、一匹を固く縛り上げた。鎖を枝に引っ掛け、きりきり宙へと引きずり上げていく。
「まあ、気の毒と言うべきなのかもしれないが……青い騎士に魅入られた己を恨みたまえ」
 竜祢は淡々と言い放つと、カラスの心臓をあらん限りの力で貫いた。

 ただの肉袋と化したカラスが、どさりと地面に落ちる。指を折って数え上げ、テラは小さく溜め息吐いた。
「確認出来ました。これで全部……でしょう」

●感染源は何処
 静まり返った街道。周りに敵がいない事を確かめると、ティアは仲間達をぐるりと見渡す。
「みんな、怪我は大丈夫ですか? 私が手当てをしますよ」
『雷の度に震え上がっていたいなら話は別だが』
 そんな彼女の前に、テラはずいと進み出る。腕先に嘴で引っ掻かれた痕が残っていた。
「では、お世話になるのです」
「わかりました。ではじっとしていてくださいね」
 ティアは頷くと、辺りをぐるりと見渡す。これでカラスは全部。黒い巨体が積み重ねられている様は、ある種壮観だ。
(……今日のご飯はやはり鶏肉で)
 自ら鳥をシメようと、その食欲には何も変わりがないのだった。

「ふむ……まあ予想通りといったところか」
 竜祢はナイフで死骸の羽毛を刈り取り、鳥肌を剥き出しにする。肉の盛り上がった醜い傷跡が、そこにくっきりと残されていた。竜祢は眉を寄せる。
(肉が癒着しているが……以前に見た傷と同じに見えるか。……しかしまだ二つを紐づける要因は少ないな)
 しばし黙考していたが、そのうちに竜祢は普段の軽薄にも見える表情を取り戻した。
「見るだけは見た。後はお前達が好きにするといい。墓に葬るのも自由だ」
 それだけ言い残すと、彼女はふらりと立ち去った。入れ替わるように駆け寄り、レッドは傷をじっと覗き込む。既に心臓が止まったはずなのに、傷跡だけは今も醜く蠢いていた。
「……何かに噛まれて、こんな化けガラスになっちゃった……って事っすかね?」
「普通に生きているカラスがこんなに大きくなることなんてないですよ。この傷から入り込んだ何かが悪さをしてこんな大きさにまでなっちゃったんだと思います。……苦しかったかも」
 ユーリエは焚火に火を灯す。そのまま埋めたらどうなるかわからない。弔ってやるにしても、ただ捨てるにしても、とにかく焼くしかなかった。
「困ったもんっすね。この傷をつけている奴を探して何とかしない限り、こうしておかしなことになった動物がどんどん出てきちゃうってわけっすか」
 レッドは自らの顎を撫でる。隣で鶫は跪き、亡骸をじっと見つめた。急に巨大化した影響か、翼や脚の爪の骨格がガタガタだ。放っておいても長い命ではなかっただろう。
「もしそれが混沌の影響というなら……死体を持ち帰って、調査して貰うのがよいかもしれませんね。でなければ事件数ばかりが嵩んでいくことになる筈です」
 ウィリアムは墓穴を掘る手を休め、彼らをちらりと振り返った。
「そうだね。一羽くらいは死体を持ち帰って、動物学者に調べてもらう方がいいかもしれない。今の時点では倒す以外に止める方法が無いけど、治せる手段があるなら、それが一番だし」
「なるほどねえ。感染のことも考えたら慎重にならざるを得ないけれど……出来るのならそうしちゃった方がいいかしらね」
 ジルーシャは物言わぬカラスをじっと見下ろし、こっそりと尋ねた。
「みんなの助けになれるなら、それも本望なのかしらね……?」


成否

成功

MVP

弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound

状態異常

なし

あとがき

今回はご参加いただきありがとうございました。
少しはPPPのフォーマットにも慣れてきました……かね。少し簡単すぎたかもしれないので、次回以降はもう少し難易度を上げていきたいと思います。
一応このシリーズはしばらく続く予定なので、興味がありましたら是非ご参加ください。本線の方も頑張って参加したいところではありますが……

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