シナリオ詳細
ガロ
オープニング
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天義首都フォン・ルーベルグで黄泉帰り、死者蘇生の噂が流れている。それは親しい誰かが在りし日の姿のままで、自身の元に戻ってくるというものだ。
黄泉がえりは人に限った話ではなかった。
もちろん、人であろうと家族同様に大事に飼われていたペットであろうと、天義的にこれは一度死んだものが生き返るということ自体が許されない。死者蘇生は大いなる禁忌であった。
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「まったくもう、でございます」
ローレット競技場の管理運営責任者であるダンプPは怒っていた。
自分は情報屋ではない。ましてや、クルールの部下ではない。なのにどうしてクルールの代わりに集めたイレギュラーズたちに依頼の説明やらなんやらをしなくてはならないのか、と。
「依頼主が可愛いネズミさんたちだからって、Pちゃんに話を押し付けるのはどーかと思います!」
丸い卵のような体(実は機械仕掛けの着ぐるみらしい)のどこかから、ピーと音を立てて湯気が吹きだした。
クルールは別の依頼で手が一杯だといって、自分のところへ持ち込まれた話をダンプPに放り投げたらしい。お前は動物と会話できるだろ、と言って。
「もちろんできますとも。でもクルールさんだってその気になれば喋れるはずですよ。いつもホリーとしゃべってるし」
ホリーとは情報屋のクルールが飼っているロバの名前だ。ロリババアという種らしい。
放っておくと際限なく愚痴を垂れ流し続けそうだったので、イレギュラーズは依頼内容の説明を求めた。
「天義で黄泉がえりが問題になっていることはみなさんご存じですよね? 今回はみなさんに、黄泉がえっちゃったワンちゃんの討伐をお願いしたいのです」
よみがえった犬は大型犬で、体長が2メートル、体高も80センチあるらしい。
「浮浪者の少女が飼っていた犬で、名前はガロです。少女は動物好きで、ガロのほかにもたくさん動物を飼っているのだとか。飼っているというか、野良に勝手にエサを与えていたというか……。ネズミさんたちも少女から、ちょくちょくエサを貰っていたそうです。その中でもガロが一番の友人だったみたいですね。野良狩りにあって死んでしまったあと、少女はショックのあまり病気になって寝込むようになってしまったそうです」
それがある日、死んだはずのガロが少女の元に戻ってきた。
少女は友の帰還を喜び、すっかり元気を取り戻したが――。
「このままガロと一緒にいると、黄泉がえりを囲っていたという罪で少女が聖騎士たちに捕まって、殺されるんじゃないかとネズミさんたちは心配しています。とうのガロだって、見つかればひどい目にあってしまうでしょう。聖騎士たちに見つかってしまう前に、なんとかガロを安らかに眠らせてください。わたくしからもお願いいたします」
イレギュラーズからしてみれば、朝飯前の仕事だろう。
ただ、ひとつ障害があった。
少女がガロから片時も離れない。野犬狩りを恐れて、だれかれ構わず近づけば攻撃するのだという。そのため、食べ物を買うお金の恵みが途絶え、少女は餓死寸前になっている。聖騎士たちに見つからずとも、飢えて死ぬ可能性があるわけだ。
「ということで、さっそく向かってください。あ、ちゃんとネズミさんたちから依頼金は頂いております。小銭ばかりですが……。なので、ただ働きにはなりません。その点はご安心くださいませ~」
- ガロ完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年05月03日 23時35分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)は、ローレットの仲間たちとともに王都の中心から西へ足を運んでいた。
(「死んだ者が生きて戻って来るってのは奇妙な話だ。それがかつて、自分が愛していた者ならどうなんだろうな」)
黄泉がえりというが、本当に生き返るわけではない。黄泉がえりたちは、何らかの力によって無理やり、現世と黄泉の縁に危うく立たされているだけなのだ。ただ、愛しい人の傍にいたいと願う気持ちだけを支えに。
そんな黄泉がえりたちを自分たちはもう一度、この手で消そうとしている。
ジェイクは無機的で冷え切った、何もかもが真空に放り出されたような哀しみに、手足が強張っていくのを感じた。
ロリババアのダリアがそっとジェイクに体を寄せてきた。ダリアの温もりが腰から全身にじわりと伝わっていく。いつしか手足のこわばりもほぐれ、心も軽くなっていた。
「しかし、黄泉がえりなんて都合のいい話だな」
『聖女の小鳥』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が、シェイクの心をまるで読んだかのように呟いた。濡れた黒真珠のような瞳はまっすぐ、都の外れに縋りつくように広がる貧民街に向けられている。
歩くうちにだんだんと、王都の中心街であれば景観を理由に取り壊されかねない、貧相な建物が増えてきた。比例するように、建物の壁を背にしてうずくまる物乞いの姿も目立ちだした。ガロが蘇ってくる前までは、ノノもこの辺りに座って日銭を得ていたに違いない。
「絶対、悪意を持った誰かが裏で糸を引いている。フレームの外から一連の事件を面白がって見ているヤツがいるはずだ」
この世の理からはずれた黄泉がえりたちは、意図せずして迎えてくれた人を少しずつ蝕み、狂わせていく。闇を広げながら。やがて彼らは光に溢れた世界に対して、悪意を向け始めるだろう。
『蝶翅』カレン・クルーツォ(p3p002272)は、ため息とともにベルナルドの言葉を引き継いだ。
「優しい少女に対して、世界も優しく扱ってはくれなかった。悪意を向けてきた。そうして、もう一度の邂逅がおわる……。なんて、不幸。けれど、私は、世界のあるべきを求めるわ」
自分が心を痛めるだけで済むならそれでいい、と長いまつげを震わせる。それでノノたちが救われるなら、なんだってやろう。
カレンは決意を新たにした。
ほどなく道を渡りきると、精気を欠いた生け垣沿いに角を曲がり、大通りを外れて奥へと進んだ。
「孤児の浮浪者と野良犬か。同じ境遇だけあってお互いが引き合ったのかもしれないねぇ。でも放っておけば少女まで死んでしまう。やれるだけのことはしましょうか」
幻獣馬アムドゥシアスの背の上で、『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が煙管を吹かせた。たちまち、辺りに強い花の香りが漂う。貧民街特有の、なぜかどの国の貧民街であっても同じ、すえた臭いが掻き消えた。
頬を汚したはだしの子供たちが顔をあげた。路地を行く馬上の貴婦人を見て目を丸くする。
こんなところにまで入ってくる貴族はいない。平民、それどころか憲兵ですら、滅多に足を踏み入れてこないのだ。
珍しさから後を追ってくる子供たちに、ルーキスが笑いかける。
ただそれだけの事で、陰に沈んだ路地がぱぁっと明るくなったような気がした。
「私たちについてくる危ないよ。いい子だから、向こうで遊んでおいで」
子供たちは素直に頷くと、大通りへ駆けていった。
「俺は目的のために積み上げた屍と十字を背負う覚悟だ」
ベルナルドは肩に食い込んだストラップを押しやるようにして、画材が入ったバッグを下ろした。
一行が足を止めたのは、聖都の中心へ向かう大通りから、少し奥へ入ったところにある広場だった。屋根なしの小さな井戸が真ん中にぽつんとあるだけで、他には何もない。
「だが、今回のターゲットは少女だ。俺たち大人が、過去を乗り越えた先にある未来を教える義務がある」
「その通りだぜ。しかし、なんつーか、罪作りな話だよな。喜ばせておいて結局は最後に悲しませることになるんだから」
『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は馬車を広場に入れた。井戸の横につけて、桶杭に手綱を結わえる。それから井戸を覗き込み、縄を手繰って桶を引き上げた。
馬車馬たちに水をやる。
「でも、今回はただ悲しませて終わるだけには絶対にしねえ。悪趣味な誰かさんに地団駄を踏ませてやろうぜ」
一悟は馬車の後ろへ回り込むと、幌の中に頭を突っ込んだ。
「着いたぜ。いい曲ができたか?」
『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)はニッコリ笑った。
「もちろん。物語を紡いで唄(かたち)にするのが、あたしにできる事だから」
『寝湯マイスター』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は静かに本を閉じた。
「最終章がまだだけどね。長く語り継ぐためにも、僕たちの手で必ず幸せな結末にしよう」
リアたちは長旅の間、動物と意思の疎通ができる仲間たちの協力を得て、依頼主でもあるネズミたちからノノとガロにまつわる話を聞き、一つの戯曲に纏めあげていた。
未完であるこの戯曲、初演はガロの説得の場になるだろう。死によって石のように固くなってしまったガロの心を解すのにきっと役立つはずだ。
依頼主であるネズミたちと一緒に、二人は先に馬車を降りた。
馬車の中に残った『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)は、小さな棺を包む布をうやうやしく解いた。
人の魂のサイクルを手動で行う世界よりやってきた死神にとって、棺とは魂を一時休ませておく大切な休憩所だ。棺掛けを四つ折りにして脇に置き、長旅で黒く艶やかな板に傷や汚れがついていないか、隅々まで確認する。
満足がいくまで調べてから馬車を降りた。
「みんなは?」
馬車の外で待っていたウィリアムに問いかける。ほかの仲間たちの姿が広場に見当たらない。依頼主のネズミたちを除いて、ロリババアのダリアもいなくなっていた。
「ノノちゃんとガロ、ノノちゃんの小さな友だちを探しに行ったよ」
ウィリアムは幕を下す手を途中で止めた。何かに引っ張られるようにして、幌の奥に安置された小さな棺を一瞥する。
「……大切なものが帰ってくる。本当に叶ったら、どんなに嬉しい事だろう。そしてそれが幻のように消えてしまったら、どんなに悲しい事だろう」
これからノノが負うであろう心の傷に思いがおよんだとき、突然、激しい情緒の変化に襲われた。不意に涙があふれそうになり、ウィリアムは胸の奥底から飛びだしそうな悲しみと怒りをぐっと抑える。
幕を下ろす手が微かに震えた。
リンネは流れる雲を数えながら、周りにあふれ満ちる悲しみを吸い込むような、ほとんど感情を込めない声で答えた。
「んー、まあやりきれないだろうねー。私の元の世界でもたまにあったことだけどね、死を受け入れられないのは」
死神だけが纏うことを許された外套の前をしっかりと合わせた。
馬車の見張りを依頼主のネズミたちに任せて歩きだす。
「とはいえ、死した魂を輪廻に戻すのは私の仕事。きっちり仕事していこうね、うん」
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まずはノノとガロを探さしださなくては話にならない。ノノの心を解きほぐすための準備も一緒に進める。みながそれぞれ、できることをやった。
カレンは貧民街の痩せたネズミを一匹召喚してノノの探索に向かわせる一方、自身は家々の裏や路地の突き当りを巡った。
「こんにちは」
朽ちた壁に縋りつく女の霊をみつけ、軽く頭を下げた。
霊はカレンに挨拶されたことに驚いているようだ。どのぐらい前からここに縛りつけられているのか分からないが、生きている人間から声をかけられたのは初めてだったらしい。
カレンはきょとんとしている霊に、この辺りで黄泉がえった犬と少女を見かけなかったかと聞いた。
「……昨日、ここを歩いていく姿を見たのね」
どっちへいったか聞くと、霊は透ける指で街はずれを指さした。
ベルナルドはイーゼルとキャンバスを脇に抱え、リアとともに絵の背景となる場所を探していた。依頼主のネズミたちから聞きだした話を羅針盤に、丘を巡る細い道と階段を歩く。
しばらくして二人は、狭い路と坂と古い建物の間に、大聖堂の屋根が小さく見える場所に行き当たった。サビの浮いた手押しポンプと、その下に広がる水たまりに、洗濯物のひるがえる空が写り込んでいる。色あせた赤色の庇の下には、木箱が重なって置かれていた。脇に縁の欠けた皿と空き缶がひとつ。ここはノノお気に入りの場所の一つだ。
指で枠をつくり、構図を決める。
生憎、本人たちは不在だったが、ベルナルドはここで下絵を描き、リアは編曲を始めた。
鴉――ソラスの目を通じ、ルーキスは上空からノノたちを探していた。
街は灰色がかった白い建物がぎゅっと密集し、一つの鉱石のように見える。細い道の両側に立ち並ぶ住居はどれもかなり粗末な外見で、四階を越える建物は一つもない。建物と建物の間に雑然と洗濯物が干され、屋根には旗筆に掲げられた、ぼろ切れのような正体不明の旗がちらほら立てられており、見通しを悪くしている。
ルーキスはため息をついた。上空からの探索は効率が悪いかもしれない。
ちょうど下にベルナルドとリアの姿を見つけ、ルーキスはソラスを地上に降ろすことにした。
その頃。ウィリアムはリンネとともに、一悟と一悟が呼び集めた動物たちと貧民街の外れで合流し、一緒に廃材処理場へ向かっていた。
動物たちの話によれば、半端なサイズの石やひびの入った角材、板などが、手や顔の削げ落ちた石像の間にゴミとともに高く積み上げられているその場所を、ノノはねぐらとしてよく使っているという。
「生ごみも捨てられているみたいだねー。ひどい匂い」
リンネは袖で鼻を隠した。
「おう、いたぜ」
一悟が指で示すと同時に、穴の奥から辺りに漂うよりも濃く饐えた臭いが漂ってきた。積み重ねられた廃材の間にねばりつくような闇が溜まっており、臭いはそこから流れ出してくる。
一緒にいた動物たちが、一斉に逃げ出した。
口で浅く息をしながら闇に目を凝らすと、寄り添いあう二つの影が浮かんで見えた。
ウィリアムは刺激しないよう一歩、一歩、進み出ると、慎重に声をかけた。
「そこにいるのは、ノノちゃんとガロだね?」
いきなり大きな毛の塊が闇の中から飛び出してきて、ウィリアムを押し倒した。前足で片を抑え込まれた上から、鋭い歯が落ちてくる。
リンネは急いで無抵抗なウィリアムに駆け寄ると、毛むくじゃら――ガロの腹の下に腕を入れて引きはがしにかかった。
「うわぁぁぁっ!」
ボロを纏った少女が木の棒を振り上げながら走りだしてきた。
一悟は遠くから事態を見守っている動物たちに他の仲間たちへの伝令を頼み、ノノの前に立った。腰を落として腕を広げ、通せんぼする。
「ガロを離せ!」
「大丈夫だ。ガロは心配ない。オレたちは、ノノーーォォッ!?」
一悟は木の棒に注意を払いつつも、真っ直ぐノノの目を覗き込んでいたため、股間を狙って振り上げられた足に気づかなかった。
やせた野良猫からノノ発見の報を受けて、ジェイクは灰色狼に変身した。
闇夜を照らす月光のようなシルバーグレーの毛並みを持った優美な肉食獣は、ロリババアのダリアと共にノノの元へ向かう。
「急ぐぞ」
ジェイクと走るダリアのカゴの中で、カタカタ音を立てるものがある。ジェイクは、黄泉がえったガロを迎え入れてから何も食べていないノノのために、お弁当を用意していた。食べれば誰もが笑顔になるという、リッツバーグで大人気の、『海鳥の勝手亭』のお弁当だ。
「人間に限らず、腹が減っているとやたらと怒りっぽくなる。説得の言葉も素直に耳に入らないだろうからな」
迷路のように入り組んだ路地を走るうちに、どこへ向かえばいいのか分からなくなってしまった。
ダリアが唇をめくり上げ、歯を向いて、ベェェェとしわがれた声で鳴く。
「ジェイク、こっちよ!」
声に振り返ると、脇道からベルナルドとリアが飛び出してきた。二人はそのままスピードを落とすことなく、右に折れて坂を駆け下っていく。
どうやら鴉を追っているようだ。
「ルーキスだよ。ルーキスがファミリアで呼んだ鴉が、先導してくれているんだ」
ひどい臭いがする廃材処理所の手前でルーキス本人とカレンと落ちあい、開けっ放しにされたゲートから敷地の中へ入った。
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ガロはなかなか鎮まりそうにもなかった。
ウィリアムから引きはがされた後、イレギュラーズたちから少し離れたところで四足の爪を土に食い入るように踏ん張って、しきりにすさまじい唸り声をあげている。
ノノは一悟に金的を食らわせて転がした後、リンネの腕に噛みついた。
未発達の幼いアゴの力では死神の外套に歯を刺しとおせず、さんざん唾液を布に垂らしてしめらせた後で、聞くに堪えない言葉で悪態をつきながら離れた。すぐにガロの後ろへ回り込む。
「まあ、女の子がそんな言葉を使ってはいけないわ」
「うるせえっ」
ノノがツバを吐きながら、駆けつけて来たリアを罵倒する。
いまにも飛びかかってきそうなガロをジェイクが牽制しつつ、ベルナルドは一悟を、ルーキスがウィリアムを助け起こす。
「ちょっと、ノノちゃんの気をそらせないかな? わたしがふたりを引き離すよ」
カレンの意図に気づき、ジェイクがダリアに目配した。
ダリアが体を揺すると、脇に吊ったカゴの中でカタカタと音がなった。
「オレが取ってやるよ」
一悟はカゴの中から海鳥柄の包みを取りだすと、自分のお弁当箱と一緒に蓋を開いた。
「ふむ、まずこの臭いをなんとかしよう」
ルーキスが煙管をふかせると、ユーカリのすっきりとした香りが立ち上り、辺りに満ちていた悪臭が駆逐された。
かわりに広げられたお弁当からおいしそうな匂いが広がった。
ノノは自分が空腹であることに気づいた。口を半開きにして、鳴りだした腹に手を当てる。そんなノノを心配してガロが振り返る。
――いまだ!
カレンは素早くノノに近づくと、魔眼にかけた。
ジェイクがすばやくノノの体の横について、優しくエスコートする。
「向こうで動物たちが待っている。そこへいこう」
ノノは抗うことなくカレンたちに従い、ルーキスと動物たちが待つ場所へ向かう。
状況の変化に戸惑うガロを、リアたちが取り囲んだ。
一悟は牙を見せるガロの前に、お弁当を差し出した。
「そう唸るなって。まずはコレを食えよ」
リンネの後ろから、ウィリアムが優しく微笑みかける。
「毒なんか入っていないよ」
ガロはお弁当箱から鼻先を外すと、艶のないバサバサした毛を逆立てて唸った。
リアはガロに、ノノや友達たちと楽しくの過ごした日々を歌い聞かせた。
母の胎内にいるような、ゆったりとしたメロディーのなかで、リアの歌声がすべてを包み込むように優しくガロの心に語りかける。
「ノノちゃんのことなら心配ないよ。このリアの修道院で、これから小さな友だちと一緒に暮らしてもらおうと考えている。これからは誰にもノノちゃんを傷つけさせない」
「ガロ、ノノちゃんを守りたいお前の気持ちはよくわかる。けど、このままお前がノノちゃんの傍にいたら……自分が死んでいることを受け入れてくれ。ガロだって大好きなノノちゃんにはずっと笑っていて欲しいだろ?」
ガロの首筋で逆立っていた毛が、ゆっくりと倒れていく。
ウィリアムは微笑むと、ガロに見えるように書きかけの物語を開き、幸せな結末に至る最終章をつづり始めた。
「よし、あとは私にまかせて。ちゃんと正しい輪廻に乗せてあげるよー。ああ、心配しないで。それはノノちゃんが新しく暮らす修道院の庭でやるからね」
リンネはなるべくガロの体を損ねないように、魂に絡みつく邪悪なカルマを断って眠らせた。
喪失感と名づけられたものが、日がたつにつれ、様々に形を変え、皮膚をくぐり抜けて肉へ、肉から骨へと染み込んでいく。死によって引き裂かれた孤独は、容易に人と分かち合えるものではない。
絶望の中に垂らされた希望の糸はまやかしに過ぎないと、ただ口で説いて聞かせても無駄なのだ。
ジェイクは座り込んだノノの背に回り、ただ銀色の体で支え、温もりだけを与え続けた。
ベルナルドは静かに筆を走らせる。下書きされた風景の中にノノとガロの姿を書き込んだ。
カレンはノノの前にしゃがみ込み、一言、一言、ノノの心に置くようにして聞かせる。
「黄泉がえりはね、静かに寝てるはずのガロさんを、誰かが無理矢理起こして『あなたの隣に向かわせた』の。それって、ガロさんの本意なのかしら?」
ノノがぴくりと肩を震わせた。
「キミは彼と不本意な別れ方をした」
ルーキスの声は悲しみにかすれていた。スミレの花が香るように、目に見えぬ誠実さがノノの心に忍び込む。
「ガロはきちんとお別れをするために戻ってきたとは考えられない?」
ほんとうはノノだって分かっていた。これは異常なことだと。でも、でも――。
カレンがそっとノノの横にまわり、一緒に涙を流しながら、華奢な肩をやさしく抱いて揺する。
「俺たちとリアの修道院へ行こう。もちろん、ガロも一緒に」
ベルナルドが出来上がった絵を見せると、ノノは顔を涙でくしゃくしゃにした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ノノはリアが暮らす修道院に移ることを承諾してくれました。
動物たちも一緒です。
ガロは修道院の日当たりのいい庭の端に埋められ、無事、魂を輪廻に乗せて旅立っていきました。
ノノの部屋の壁にはガロの絵が掛けられ、机にはガロとの物語が記された本が置かれています。
……修道院の傍を通りがかると、ノノとガロの歌が聞こえてくるかもしれません。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
・『黄泉がえり』ガロの討伐
・少女の保護
●ガロ
野良犬。体長が2メートル、体高も80センチ。
※アフガンハウンドみたいな犬です。
人が近づくと唸り、噛みついてきます。
●浮浪者の少女
ノノと名乗っています。10歳前後。
貧民街で一人で物乞いをしながら暮らしています。
ガロが帰ってきてから、他の動物たちは少女に近づかなくなりました。
少女はそのことをとても悲しがっています。
人が使づくと、棒の切れはしを振り回して威嚇してきます。
●MSより
戦闘よりも心情メインのシナリオです。
よろしければご参加くださいませ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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